IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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外伝 ドイツの決闘/剣聖VS魔女

会場はざわめきと熱気に包まれていた。

IS学園アリーナ。その中央には睨み合う二機のISの姿があった。真打鉄とラファール・リヴァイヴ・エスキィースである。

それぞれロングのブロンドヘアに碧眼の少女と、ハニーブロンドのショートヘアに紅瞳という少女が身に着けている。

『――さぁ! いよいよ始まります、真打鉄VSラファール・リヴァイヴ・エスキィースのエキシビジョンマッチ! アリーナは超満員! VIP席は勿論、外もモニター観覧でごった返しております!』

興奮を隠すこと無くマイクに叩きつけるのは、新聞部の黛薫子である。今回はこれから始まるエキシビジョンの実況を務める。

『両機を纏うのはどちらも三年生。ラファール・リヴァイヴ・エスキィースを操るのは【アリアンナ・バルロッティ】! イタリアの代表候補生で、得意なものは射撃全般。好きなものは狙撃。尊敬する人物は元クレー射撃選手であったお母さんとシモ・ヘイヘという、正に弾丸をぶっ放すために生まれてきたような危険人物です!!』

『マユズミ! あとで風穴だらけにしてやるからな!! 覚悟しとけ!!』

実況席に向けてアリアンナが銃口を向ける。その頭には見事な四つ角が見える。

『お断りします。さて、対する真打鉄を操るのは【キャロリン・ボーウェン】! こちらはアメリカの代表候補生。好きなものは日本刀。好きな映画は仮面の超忍朱影シリーズ。来日の際、日本に侍も忍者もいないと知って絶望するも、今年の新入生に本物の忍者がいると知るやサインを貰いに行こうとして、クラスメート全員に押さえ込まれると事件を起こした……いわゆる【間違った日本観を持った侍&忍者マニア】です!』

『薫子さん。なます切りと短冊切り……どちらがお好みですか?』

実況席の方をチラリと見ながら、キャロリンはクスクスと微笑む。どす黒いオーラが立ち昇っているのは、気のせいではないだろう。

『どちらも遠慮いたします。さて、IS学園始まって以来のビッグイベントにふさわしいゲストを、ここでご紹介いたします!』

未だに届く殺意の激流を受け流しつつ、薫子は隣の実況席の人物を紹介する。

『ご紹介しましょう! 第二回モンド・グロッソ出場し、射撃手部門優勝。総合部門においては当校の教員でもあります織斑千冬先生と激闘を繰り広げた……〈硝煙の魔女〉ことフィリー・ミヤムラさんです!!』

 

――ざわざわっ!

 

会場が一際大きくざわめく。フィリーの名はとても有名だ。それがゲストとしてそこにいるとなれば、この反応も当然であろう。

『はじめまして、フィリー・ミヤムラよ。今日はいい試合を期待するわ』

 

――ォオオオオオオオオオオッ!!

 

会場を揺らす大歓声。そして対峙する二人もまた、高揚する心を抑え切れずにいた。

「フィリー・ミヤムラ……来ていたのは知ってたけど、まさかこの試合を見てくれるなんてね。こりゃ、燃えない訳にはいかないね」

「そうですね。せっかくの晴れ舞台に華を添えていただいたのですから、私の勝利でお礼をしなければなりませんね」

「ふん。今までの戦績は24勝24敗5分……ここで勝つのはあたしだよ」

銃口を真打鉄に向け、安全レバーを解除する。

「いいえ。この場での勝利は私が頂きます」

ガチャリとその手の十字槍を構え、切っ先をR-リヴァイヴ・エスキィースへと向ける。

試合開始を告げる10カウントが始まる。二機は既に闘志満々、臨戦態勢待った無しだ。

睨み合う両者。ざわめきと興奮が臨界点を迎えるその時、ついに薫子が叫んだ。

 

『それでは―――試合開始!!』

 

「はぁああああっ!」

「おらぁああああっ!」

初手から激しく激突する両者。その火花はまるでストロボのように連続して会場を照らす。

(真打鉄とラファール・リヴァイヴ・エスキィース……あれを見ていると、あの時を思い出すわね)

戦う両機の姿に、フィリーはかつての戦いを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ざわめきと緊張とが支配する1000×700の空間。グラウンドには土が敷き詰められ、遮蔽物として大小の岩が転がされている。

モンド・グロッソ会場の一つである特設アリーナ。その向かい合うピットにて、出陣を待つ者が二人あった。

その内の片方――日本側ピットでは何人ものスタッフがせわしなく動き回り、ISの最終チェックが行われていた。

灰褐色の装甲を持つIS――第一世代IS【暮桜】。それを纏う黒髪の剣士の名は【織斑千冬】。第一回モンド・グロッソを圧倒的強さで制した、初代ブリュンヒルデである。

「暮桜のエネルギーシャフト異常なし。フレーム機構正常に稼働中。戦闘システムオールグリーン」

「了解。機体反応は正常だ。雪片は?」

「はい。こちらも問題なく。チェックは既に終わっています……どうぞ」

「あぁ」

そう言って差し出されたキャリアーに載せられた大型の刀――雪片太刀(ゆきひらのたち)を掴む。

「織斑、分かっているな。敵は今までの相手とは段違いの相手だ。一瞬でも油断すれば――」

「分かっています。ですが関係ありません」

日本代表チーム監督の言葉に、千冬はそっけなく返す。手にした刀を腰に納めながら、言葉を続ける。

「今の私に……勝利以外は必要ない」

「っ……」

触れただけで全てを斬る妖刀の如き威圧が篭められた言葉に、監督は思わずゴクリと息を呑んだ。

鬼神。剣鬼。様々な言葉があれど、今の彼女に合うものは一つしかない。

今の彼女は神仏正邪問わず全てを斬り捨て、そして斬り伏せる――修羅だ。

『時間です。スタッフはピットを出て、選手は発進スタンバイを行なって下さい』

「よし、全員撤収だ。勝ってこい、織斑」

「はい」

監督、スタッフがピットから引き上げ、其処には千冬だけが残る。

千冬はガシャン、ガシャン。と、一歩ずつカタパルトに向かって進んで行く。

(私は勝つ……。私がしてやれる事は、勝つ姿を見せてあの子を勇気づけてやることだけなのだから……!)

今年の初め。ある事情から意識を失い、そして体も無くしてしまった弟の為に、千冬は貪欲に勝利を狙う。

『試合開始1分前。カタパルト、ロックします。―――発進』

グンッ、と体に強いGが掛かる。そのまま機体は加速して一気に発射される。それと同時に発動したPICが、暮桜をフワリと空へと押し上げた。

そして反対側のピットからも、同じように発進してきた機体があった。

白と緑のツートンカラー。一昨年に発表された第二世代最後発機種【ラファール・リヴァイヴ】。そのフルカスタム仕様機である【ラファール・リヴァイヴ・カスタム】だ。

搭乗者【フィリー・ミヤムラ】は不敵な笑みを浮かべて、千冬を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス側ピットでもスタッフが慌ただしく動いていた。これから始まる一戦は文字通り、フランスの名誉と威信を懸けたものだ。

「さてさて、相手は第一回を無双の強さで勝ち抜いた初代ブリュンヒルデ……チフユ・オリムラ。日本にいた頃から知ってるけど、こうして戦うのは初めてだわ」

『時間です。スタッフはピットを出て、選手は発進スタンバイを行なって下さい』

「フィリー。君は誰よりも強い。君こそが真にブリュンヒルデに相応しいとフランス国民の誰もが思っている。頑張ってくれ」

「了解。とは言え相手が相手だしね……全力は尽くすけど、勝てたら幸運、過度な期待はしないでおいて」

撤収するスタッフにそう返して、フィリーはカタパルトへと進んでいく。

『試合開始1分前。カタパルト、ロックします。』

「さぁて……いっちょ、世界最強に挑んでみますか!」

『―――発進』

脚部を固定する金属音がして、いよいよ発進する。グン、と全身に掛かるGをすぐにISが緩和し、射出された機体をPICが浮かび上がらせる。

そして同じように出てきた、灰桜色の機体――暮桜を見据える。

「赤銅拵えの鞘……宮本武蔵にでも倣ってるの?」

「………」

「無視するこたぁないでしょうに……まったく」

フィリーはアサルトライフルを展開。そして千冬も、腰に差した刀の柄に手を掛ける。

最強の座に君臨する剣神と、今大会で突如台頭してきた魔女。その戦いが普通であろうはずもないと、誰もが思った。

ざわめきが徐々に消え、変わって重苦しいまでの緊張感と張り詰めた空気が、会場全域を支配する。

分厚い雲が固まって流れて行き、この先を暗示するかのように大地に明暗を描いていく。

身じろぐ音さえ響くのではないかという静寂の中、試合開始を告げるカウントダウンが始まる。

『10……9……8……7……6……5……4』

刻々と刻まれる時。もうすぐ、今までにない戦いが開始されてしまうと、その身を固くする。

 

『3……2……1…………0!』

 

「「ッ―――!!」」

開始と同時に千冬が動く。一瞬にして100メートル以上もの間合いを詰めると、そのまま鞘走りから刀を一気に引き抜く。その刃は青白い光に包まれている。一撃必殺の単一仕様能力【零落白夜】が発動しているのだ。

 

キィイイイイィ……ンッ!

 

居合一閃。大気さえも両断する斬撃が走り、零落白夜の残光が飛び散る。

「っ――!?」

だが、そこには何もない。フィリーの姿は一瞬で消え去り、そして――真下に反応を捉える。

「ちっ!」

千冬は舌打ちを残してすぐに横に飛ぶ。フィリーが撃った弾丸がスカートアーマーをこすり、火花を散らせた。暮桜はそのまま、高度を上げつつ射撃を躱していく。

(ちょっとちょっと……どんだけ超反応なのよ!)

フィリーもその行く手を塞ぐように射撃をするが、更にその上を行く千冬の予測回避に舌を巻いた。

(くそっ……! 初撃を躱した動きは恐らく【クロスグリッドターン】。だが、あの踏み込みを躱す速度でなどと……それにこの射撃……なんという正確さだ!)

対する千冬もまた、フィリーの技能の高さに驚きを隠せないでいた。

初手の必殺を外した暮桜は大きく距離を取り、R-リヴァイヴもそれに対する牽制射撃と、お互いの次の一手を窺い合う流れになった。

だが、そんな流れがいつまでも続く筈もない。すぐにでも流れは荒れ狂う。この試合を見ている誰もが確信めいたものを感じていた。

沈黙が再び支配を始めたその中で―――試合は動く。

「何……?」

フィリーがサイトから瞳を外す。千冬は何を思ったか、高度いっぱいまで上昇すると、ピタリと動きを止めたのだ。

そして雪片を両手でしっかりと握ると、両腕を捻って刃を横倒しにした。

来るか。フィリーが、その一瞬さえも見逃すまいと集中した時だった。

「ッ――!?」

ギラリと刃が光る。それは雲の切れ間から覗いた太陽の光が、鏡のように磨かれた雪片の刀身に反射したものだった。

ハイパーセンサーによって強化された視界が一瞬にして白み、そして眩む。

その余りにも致命的な隙を、修羅が逃す筈もない。

千冬は下のフィリー目掛けて瞬時加速(イグニッションブースト)で一気に突撃する。

「くそ……っ!」

有視界を失おうと、ハイパーセンサーによって状況は把握される。フィリーは高速接近する反応に向かってトリガーを引いた。

フルオートの弾幕に、しかし千冬はシールドを全面に押し出して真正面から突っ込む。

「ッ――ォオオオオオオッ!」

裂帛の気合と共に豪剣が唸る。

「なんとぉ!」

唐竹に振り下ろされた一撃を、フィリーは身を捻って躱す。が、千冬はそれを読んでいたかのように、すぐさま刃を返した。

ガキン! と、暮桜の肩部装甲とリヴァイヴの胸部装甲がぶつかる。

肩の一撃はバランスを崩させるためと、刀を振り抜く間合いを広げるためだ。

篠ノ之流奥義【二羽之太刀】。一撃の振り抜きを二撃目の予備動作とすることで斬撃を必中とする技である。

人半分程の間が開く刹那の間、千冬の煌刃が閃いた。

「っ――!」

飛び散る火花。フィリーの顔が苦悶に歪む。そして――千冬の顔も苦々しさに歪んだ。

雪片の能力であるシールド無効化攻撃は、直撃させれば大ダメージを与えることが出来る。だが、そうはならなかった。

胸部から肩部に掛けてを狙った一撃は、しかし胸部装甲の皮一枚を掠めるに留まった。それはフィリーがギリギリで回避したということだ。

だが初撃を躱した時点で、千冬にはそれも予想範囲だ。横薙ぎの一閃。

「っ!?」

しかし空を切る。同時に視界を覆う闇。それが銃口であると気付くよりも早く、千冬は身を反らせていた。

 

バァンッ!!

 

闇が反転して、火花が視界を染め上げる。それがショットガンの一撃だと分かったのは、頭部を激しく揺さぶる衝撃に視界が揺らいだ時だった。

アサルトライフルを持っていた筈の手には、千冬さえ気付かない間にショットガンに変わっていたのだ。

(切り替えが全く見えなかった……これが高速切替(ラピッドスイッチ)か!)

近接戦闘を主とする者にとって、遠距離武装の把握は必須だ。特にライフル系は長尺の重心の取り回しから、弾幕を掻い潜って距離を詰めさえすれば怖くはない。

だが距離を詰めた瞬間、相手が武装を気付かれない間に一瞬で切り替えていたらどうだろうか。

変幻自在の相手の手札。読み切れない動きは踏み込みを躊躇させ、切っ先を鈍らせる。

これがフィリーの戦術【ミラージュ・ロンド】の威力だ。

「うお――っ!」

フィリーの髪先を切っ先が掠める。

近接戦闘殺しの【ミラージュ・ロンド】ではあるが、しかし千冬の踏み込みに迷いはない。

突き出された切っ先が返り、フィリーが身を捻ると同時に振り下ろされる。耳を襲う風圧にゾクリとする。

フィリーは滑るようにして暮桜の背後に回りこんだ。そしてショットガンの銃口をその無防備な背中に向け――

「ふっ!」

その銃身が上に弾き上げられる。千冬が振り向きざまに柄頭で叩いたのだ。

「ととっ……! うひゃっ!」

ビュン、と振り上げられた雪片を躱し、フィリーは一気に後退する。離されまいと間髪置かずに動く千冬に向かって、両手のマシンガンをフルバーストで撃ち放つ。

連続する炸裂音と絶え間なく落ち続ける薬莢。硝煙と弾丸が容赦なく撒き散らされる中、千冬は非固定部位のシールドを全面に押し出し、弾幕を真正面から受け流す。

「そう来ると思った!」

フィリーはマシンガンを一丁に、もう片方をシールドに変えて一転、突撃を仕掛ける。

「っ!?」

「射撃型は接近戦が苦手とでも思った!? 甘いわよ!!」

流線型のシールドを、千冬の障壁の隙間に刺し込むように叩きつけ、暮桜のシールドを弾いてこじ開ける。そのまま一気に千冬目掛けてその先端を押し込む。

だが、こじ開けられた壁の向こうに千冬の姿はない。フィリーはすぐさま跳ねるように身を飛ばす。

 

――ヒュンッ!

 

ギリギリで横薙ぎの一閃を躱す。フィリーの反転に反応し、シールドで有視界を塞ぎながら、サイドへ滑り込んでいたのだ。

だが、それを読んだフィリーは一撃を躱し、上下反転した世界で銃を構える。

「「ッ――!!」」

トリガーを引くと同時に刃が翻る。弾丸が切り裂かれ、凶光がフィリーの眼前を掠める。

刃が振り切られると暮桜のスラスターが火を噴き、そのままぶち当たる。

「ぐぐうぅ……っ!」

「おぉおおおおおっ!」

ごう、と一気に地面に向かって加速する。勢いを止めようとリヴァイヴのスラスターを噴かせるが、既に勢いをつけている暮桜を押さえる事は出来ない。

 

―― 後方 障害物接近 ――

 

「っ……!!」

リヴァイヴが警報を鳴らす。後方には障害物として配置された大岩があった。

千冬はリヴァイヴを叩きつけ、動きを完全に止めて必殺を決めるつもりなのだと、フィリーは即座に判断する。

「何っ!?」

だが、そうそう思い通りにやられる気など無い。フィリーはスラスターとPICを切り返し、岩に当たる直前に体を一瞬で入れ替える。

千冬がハッとした瞬間、岩は眼前にあった。

「グッ!?」

フィリーの腹に蹴り足が突き刺さる。そのまま弾かれ合うようにして、大岩の両側へと機体が滑っていく。

一瞬の視界遮断。それと同時に二機は地を這うように飛ぶ。

フィリーは両手に展開したアサルトライフルとショットガンを構え、トリガーを引く。

フルオートでばら撒かれた弾丸が岩と地面を穿ち、盛大な粉塵が上がる。暮桜は遮蔽物を使いながらギリギリで躱していく。

「ふ――っ!」

岩を蹴り砕き、その反動も利用して千冬が一気に距離を詰める。フィリーは後退しながらショットガンのトリガーを引く。

バァンッ!! という強い衝撃が暮桜の装甲を打つ。それでも千冬は止まらない。

勢いに乗った、防御力の高い暮桜を弾幕で抑え切れないと、フィリーは即座にサイドへと動く。

「なっ!?」

だが、その眼前に突如として千冬が踏み込んでくる。ギョッとするフィリーに向かって、零落白夜の刺突を繰り出す。

 

ガキィイイイインッ!

 

金属の擦れ合う音が響き、火花が散る。リヴァイヴの腕部装甲が欠けて飛んでいく。

「チッ!」

しかし、千冬はまたしても舌打ちする。今の一撃も直撃を確信していたからだ。だというのに皮一枚、装甲の一部を抉るに留まっている。

「のおりゃっ!!」

「っ……!?」

フィリーは勢いのまま逆立ちし、片手を地面に押し付ける。ガリガリと抉りながら身を捻る。勢いに乗った暮桜は通り過ぎ、そのがら空きの背中に向かって、展開したアサルトキャノンを叩き込んだ。

「ぐあ――っ!!」

全身に走る衝撃に千冬は吹き飛ぶ。地面をバウンドしながらも、強引に体勢を戻そうとする。

「よっ……と!」

ヒョイと跳ね起きて着地するリヴァイヴ。暮桜もまた体勢を整え直し、剣を構えた。

 

 

―――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

静寂を破り凄まじい歓声がアリーナ全域を揺るがす。

両者による息する間すらも許さない攻防に、観客の興奮も限界を超えていた。

「いやぁ……さすがに強いわねぇ。ブリュンヒルデの名は伊達じゃないわね」

「………」

フィリーはさも愉快そうに口元を歪める。千冬はその逆で、不快そうに眉を顰めた。

「何よ。こんだけ面白い勝負してるってのに……どうしてそう、不機嫌なのよ」

「……面白いだと? 私に勝負を楽しむつもりなど無い。必要なのは勝利だけだ」

「何のために、そこまで勝利に拘るの? 国の威信……って訳じゃないわよね。そんな愛国心のある人間じゃないだろうし……てことは、誰かのため?」

「貴様には関係ない事だ」

「まぁね。でもさ……しかめっ面で戦われたんじゃ、こっちのやる気が削がれるのよ」

「どうでもいい事だ」

「それに……そんな顔で戦われたら、その”誰かさん”も迷惑じゃないかしら?」

「――ッ!」

フィリーが呆れ気味に言うと、千冬が凄まじい敵意の視線をぶつけてくる。

それを飄々と受け流し、フィリーは笑う。

「おぉ、怖い怖い。だけど事実よ。だってそうでしょう。苦しそうな顔とかキツそうなしかめっ面見て、誰を喜ばせられるってのよ。もっと楽しみなさいよ、今の瞬間をさ。”誰かの為に”ってのと、”自分が楽しむ”ことは、反するものじゃないんだから」

ガシャン。空マガジンを落としてリロード。第二世代機には銃器収納時のオートリロード機能がある。だというのに態々、目の前でマグチェンジする意味は千冬に対する挑発である。

「くだない事をベラベラと……ならば、お前は何のためにISに乗る?」

「勿論、面白いからよ!」

「っ……巫山戯るな!」

千冬が吼え、砂塵を上げながら一気に走る。ズドン! と地面を凶刃が砕き割る。フィリーは滑るようにして後退していた。そのまま、アサルトライフルのスコープに暮桜を捉える。

ドドウッ! と、マズルフラッシュと共に弾丸が飛ぶ。

「ふんっ!」

ヒュヒュンッ! と、刃が奔って火花と共に鉛玉が散った。

「うわぁ~、ライフル弾真っ二つとかありえないでしょ。あなた、本当に人間なの?」

「面白いから乗るだと? そんな巫山戯た考えをする奴が……これを使うか!」

「戯れじゃないもの。面白いからこそ真剣に……楽しいからこそ、全身全霊を懸けて挑むのよ。あたしのやる気は純度100%混じりっ気なし! さぁ、もっともっと上げていくわよ!!」

スラスターウイングが推進力を強く噴出し、リヴァイヴが飛ぶ。加速から一気に弾丸をばら撒きながら、サークルロンドへと移行する。

千冬もすぐに飛ぶ。弾幕を掻い潜りながらリヴァイヴに対する踏み込みのタイミングを窺う。

「女は度胸! 一気に行くわよ!!」

岩陰からリヴァイヴが飛び出す。マシンガンで牽制しつつ、真っ直ぐに突っ込んでくる。

暮桜もすぐに動いた。回避行動と同時に回り込みながら距離を詰める。

「おっと、逃がさないわよ!」

それを追いかけるリヴァイヴ。

「そうか……なら!」

が、すぐさま千冬は反転。同時に瞬時加速(イグニッションブースト)で逆に突撃を仕掛けた。

「甘い!」

一瞬で武装をショットガンに切り替え、トリガーを引く。

「貴様がな!」

千冬は地面を蹴り、弾雨を躱してリヴァイヴの上へと回り込む。その勢いで冗談に構えた雪片を一気に振り下ろした。

「そうでも――ないわ!!」

フィリーは地面に片足を突き立て、前進の勢いを利用してドリフトを掛ける。ガリガリと地面を削りながら、斬撃を外して無防備に背中を晒す千冬に向かって、アサルトキャノンの狙いを定めた。

「はぁっ!」

 

ガキィンッ!  

 

「なっ!?」

銃口に突き刺さる大刀。その刀身は銃身を切り裂き、弾倉にまで届いていた。

だが、それに気付いた時にはトリガーは既に引かれていた。

爆ぜるアサルトキャノン。連鎖的に砲弾が爆発し、紅蓮華が一気に視界を覆い隠す。

「くっ……!」

バラバラと落ちるキャノンの破片。そしてヒュンヒュンと回って飛ぶ雪片太刀。それを空中で掴み取り、剣鬼が襲い掛かる。

「ちっ!」

高速切替でブレッドスライサーを展開。その一撃を受け止める。

 

――ギィンッ!!

 

一撃で斬り落とされるブレッドスライサー。だが、その一瞬でフィリーは反撃の体勢を整えている。

「っ――!?」

腹部を貫く衝撃に、千冬が悶絶する。ほぼゼロ距離からのショットガンが暮桜を撃ち抜く。

更に連続して散弾を叩きこむ。その都度苦痛に歪む千冬の顔だったが、すぐにその銃身を弾く。そして拳を脇腹目掛けて鋭く打ち込んだ。。

「ぐ……っ!?」

くの字に曲がるフィリーの体に、千冬はすぐさま肘を打ち込んで間合いを離す。

そして逆手に握った雪片を振り抜く。

 

ギャインッ!!

 

「痛っ……!!」

斬り散らされる装甲。初めてその顔が苦痛に歪む。千冬は再び零落白夜を発動。その刀身に必殺の力を宿す。

「これで終わりだ!」

「やられ……ないわよ!」

フィリーの高速切替で、視界を阻むようにシールドが出現する。

「そんなものでっ!」

彼女の腕前を持ってすれば、斬鉄など難しいことではない。千冬は構わず、刀を真向から振り下ろす。

「パージッ!!」

刃が当たる瞬間、シールド装甲が炸薬によって弾き飛ぶ。ガガガン! と、雪片と暮桜に激しくぶつかる。

そして、斬鉄必然の一撃は―――鉄杭が受け止めていた。

「貴様……ッ!」

「一発限りの絶対防御……ってね!」

互いに押し合い、ギシギシと刀身と金属の杭が軋む音が鳴る。

斬撃には最も強く力を発揮する一瞬がある。それはイコール、刀が最も速くなる瞬間であり、達人はその一瞬を斬る瞬間に重ねてくる。

フィリーはその一瞬にシールド装甲をパージして刀身にぶつけ、その勢いを鈍らせる。そしてシールドの下に隠されたグレースケールの鉄杭で、刃先中で最も鈍い〈はばき〉の上を押さえ込んだ。

必殺の一撃の筈が、エネルギーを無駄に使わされただけに終わり、千冬の顔が忌々しげに歪む。

「はぁああああっ!」

「っ――!!」

リヴァイヴのスラスターが勢い良く火を噴き、一気に暮桜を押し出す。

フィリーは右手にショットガンをコールし、腹部へ接射。全弾を叩きこむ。

「ぐぅっ!? がはっ!?」

苦痛の吐息を吐きながら弾き飛ばされる千冬。フィリーは更にショットガンからマシンガンに切り替え、全弾を撃ちこむ。

「ぐうっ……ぐぐっ!!」

距離を詰めながら今度は二丁のアサルトライフルをフルオートで発射。バラバラと物凄い量の薬莢が飛び散っていく。

怒涛の攻撃に晒された暮桜がけたたましく警報を鳴らす。SEが危険域に突入したのだ。

「くそ……このままでは……っ!」

シールドも用いて防御しているが、それさえもこの嵐のような攻撃の前には木っ端の一つに過ぎない。

だが、まだだ。必殺の一撃の余力だけあれば、それだけで逆転できる。

その思いだけで、千冬は回避しながら防御を固める。そして一日千秋の思いで待った瞬間が来る。

フィリーが両手のアサルトライフルを投げ捨てたのだ。

今だ。千冬が最後の力で瞬時加速(イグニッションブースト)で飛ぶ。

そして雪片を袈裟懸けに振り上げ―――。

 

ギィイイイイィィ……ン。

 

「っ……!?」

これまでにない衝撃に、刀を握っていた右手が弾かれる。見れば、グレースケールの鉄杭が有った場所から白煙が上がっている。

そして背後の岩に何かが突き刺さる音と、彼方に雪片が突き立つ音がした。

グレースケールを発射するという、千冬の思考を完全に上回った攻撃が彼女の希望を撃ち抜く。

「チェック」

眼前に突きつけられたショットガン。既にエネルギーは無く、この一撃を食らってしまえばその瞬間、彼女の敗北は決まってしまう。

(負ける……私が? こんな……こんなヤツに?)

面白いから乗っているというフィリーと、守るものと勝たなければならない理由を持つ自分と。

背負ったものの重みがこれほど違うのに、何故に自分の刃は届かないのだ?

(嫌だ……! 私は……負けられないのだ!)

トリガーに掛けられたフィリーの指が曲がっていく。フィリーの腕なら、これを外すなどあり得ない。これが最後の一撃になる。

それをただ、千冬は見ているしかなかった。

 

―――カチン。

 

「「っ!?」」

軽い音が、ショットガンから響く。弾切れだ。

「――あぁあああああああああっ!」

まさかの弾切れに驚くフィリーに、千冬は雄叫びを上げて襲いかかった。

拳を握り固め、その無防備な顔面に容赦なく叩きこむ。

「がっ!」

貫く衝撃に蹈鞴を踏むフィリー。更に千冬は鉄拳を振りかざす。

が、フィリーは銃身でそれを受け止めて横に弾くと、そのままグリップで千冬の額を打ち据える。

「ぐっ!?」

今度は千冬が蹈鞴を踏む。更に銃を振りかざし、フィリーは追い打ちを仕掛ける。

千冬は両手で防御する。ガツン! という衝撃が装甲を揺らした。

「舐めるなよ……! 組み打ちで私に勝てると思うな!!」

銃身を掴み、引き千切るように奪い取る。それを放り捨てて、鋭い貫手を打つ。

「っ……生憎と、拳法なら自信あるのよね!」

ガッ、とその手を押さえ込み、逆に裏拳を振るう。が、千冬はそれを受け止めた。

「ぬうっ……!」

「ぐぐっ……!」

パワーフローが全開になり、互いのフレームがギシギシと音を立てる。

両者は睨み合いの末、呼吸を合わせて弾かれたように離れる。

そして直ぐ、同時に突撃する。

「「ハッ!」」

ガキィンッ! 激しくぶつかり合う拳と拳。すぐさま千冬が蹴りを放つ。フィリーはそれを防御すると、腕を絡めて足を押さえると、もう一度パンチを打ち込む。

千冬は正面からそれを受け止めて鷲掴みにすると、もう一方の足を思いっ切り振り上げた。

「ふんっ!」

「あぐっ!?」

その脳天に踵を落とし、緩んだ腕から足を引き抜くと同時に全身を捻り込む。

「ハァッ!」

突き出された蹴りが、リヴァイヴを打つ。まともに喰らってしまったフィリーと、間合いが離れる。

今ならば、雪片を取りにいけるかも知れない。だが、千冬は追撃を選ぶ。

ここで刀を握れば、フィリーに永遠に消えない敗北をしてしまう気がしたのだ。

「ふっ!」

加速の勢いから繰り出された千冬の拳を、フィリーは腕部外装で受け流す。

そして腕を掴んで強引に引くと、そのまま自身も前へと踏み込んで膝を叩き込んだ。

「がはっ!?」

カウンターで突き刺さった一撃に、今度は千冬が悶絶する。

「おりゃあっ!」

フィリーはそのまま腕を捻り上げ、千冬を地面に向かって全力で投げ飛ばす。

「くっ!」

身を翻してギリギリで着地する千冬。そこに目掛けてリヴァイヴの急降下キックが突き刺さる。

「おうりゃぁあああああああっ!!」

「おぉおおおおおおっ!!」

ガリガリと地面を削りながら、暮桜が激しく押し込まれる。否、自身で後退しながらその勢いを殺している。

だが、蹴りの衝撃は強くダメージを制し切れない。ブロックした両腕にビリビリと痺れが走っている。

「っ………! はあっ!!」

ブロックを外し、その勢いで足を弾き上げると、そのまま体勢を入れ替える。目標を失ったフィリーは地面に足を突っ込ませ、勢いのままに滑っていく。

「とと……っ!」

フィリーはグルリと反転し、勢いを残したままに後退する。そこに振り抜かれる千冬の蹴り足。フィリーはバク転の要領でそれを蹴り上げる。

「っ……!?」

バランスを崩される千冬。すぐにPICの自動制御で体勢を戻す。

その一瞬を突いて、切り返してきたフィリーの拳が突き刺さる。

「ぐっ……おおおおおっ!!」

腹部に突き立った拳をそのままに、千冬の蹴り足がフィリーの顎を跳ね上げる。

「ぐっ……りゃあっ!!」

「がはっ!」

ギリ、と歯を食い縛ったフィリーの、跳ね上げられた頭が振り下ろされる。

千冬の胸にハンマーの様な衝撃が走り、息が吐き出される。胸部に残る苦痛に歯を食い縛って耐えながら、千冬はその右腕を振るう。

「がはっ!」

肘打ち。そこから更に抉るようなボディーブロー。そしてストレート。

「ぐはっ!?」

カウンターで突き刺さるフィリーの拳。フックからアッパーへと繋げもう一度ストレートで暮桜を吹っ飛ばす。

 

「「ウォオオオオオオオオオッ!!」」

 

けたたましい警報を吹き飛ばすように吠え猛りながら、両者の拳は激しくぶつかり合う。

それを支える意思はたった一つ。目の前の相手に、絶対に負けたくない。

だがしかし、その均衡は崩れる。突き刺さったフィリーの拳が千冬を揺るがしたのだ。

「うぉおおおおおおっ!」

そのまま拳と蹴りを激しく打ち込む。幾度も響くぶつかり合う装甲の轟音。

もはや大勢は決したか。どうにか防御しているものの、もう千冬には押し返す力はない。

「これで――っ!」

止めとばかりに、フィリーが拳を振り上げる。全ての力を込めた全身全霊の一撃が千冬に迫る。

「ッ……!!」

クワッ! と、千冬は目を見開き、それを受け止める。更にギリギリまでSEが削り落ちる。

「うぅうおおおお――」

そのまま腕を取り、体を捻り込む。肘を脇に差し込んで、右足を全力で一気に跳ね上げる。

「――おおおおおおおおおおおおおおっ!!」

「うぉおおおお――っ!?」

一瞬で反転する世界。千冬はそのまま背後の大岩目掛けて、リヴァイヴを全力で投げ飛ばした。

 

ドゴォオオオオオオンッ!!

 

巨大な蜘蛛の巣を走らせ、リヴァイヴは無残にも岩へと減り込む。そして同時に試合終了を告げるアラームが鳴り響いた。

『試合終了! 勝者、チフユ・オリムラ!!』

 

ウォオォォオオオオオオオオオオオオオッ!

 

「うぉぁああああああああああああああっ!!」

大歓声と千冬の咆哮が重なり、会場を全体を地の底から揺るがす。

「たはぁ~……やられたかぁ。惜しいところだったのになぁ~」

逆さ磔のまま、ポリポリと頬を掻く。

「………」

千冬はチラリと暮桜のエネルギー残量を見る。SEは2。ユニットエネルギーに至っては今の攻撃で完全に尽きていた。

本当にギリギリ。正に紙一重での勝利に千冬は全身の力が抜けるのを抑えられなかった。

ガクリと落ちる膝。自分を支えていたものが全て灰になって消えてしまったかのような感覚に、思考が薄霞がかかったようにぼやける。

「よっ……と。それで……どうだった?」

磔から抜けだしたフィリーが千冬に尋ねる。千冬はぼんやりとしたままの視線を向けた。

「どうだった、だと?」

「全力の本気、混じりっ気なしのくっだらない意地の張り合いをやらかした感想よ。どんな訳かは知らないけど、ゴチャゴチャややこしい事考えるより、ずっと良かったんじゃない?」

「っ――! …………私はっ!」

千冬はハッとし、そして顔を伏せた。

あの時、銃口を向けられた千冬は逃げようのない敗北を突きつけられた。

そしてそこから、今まで彼女を動かしていた筈の思いは無くなり、彼女の思考はただ”フィリーにだけは負けたくない”という思いだけへと変わっていた。

この圧倒的強者に勝ちたいという意思だけが、彼女を突き動かしていたのだ。

その事実を思い知らされ、千冬は己を激しく嫌悪した。

「ちょっとちょっと、勝った相手がその顔って……。ほら、聞こえない?」

「何を……っ?」

そして千冬は初めて気付く。大歓声と重なって、割れんばかりの拍手が起こっていることに。

今まで何度も試合を行なってきた中で、歓声も拍手も聞き慣れてきた。だが、今回のそれは今までとは何かが違う。

自分も、何処か冷めた思いでそれを聞いていた筈なのに、今回は何故か心に染み入るかのようだった。

「自分の全力を出し切って、死力を尽くして戦った……だからよ。そういった戦いは理屈抜きにして心を激しく揺さぶる……てね。うちのグランパからの受け売りだけどね」

肩を竦めて、フィリーは手を差し出す。千冬はその手を掴み、グイッと引き上げられる。

「改めて……どうだった? 全て出し尽くして得た勝利の気分は?」

フィリーが尋ねると、千冬は少しだけ目を瞬かせ――そして笑った。

「そうだな……存外、悪くはないな」

「素直に嬉しいと言えば良いのに。どんだけの捻くれ者よ、あんたは」

「五月蝿い。放っておけ」

「はぁ~あ、まったく……まぁいいわ。それより、あたしに勝ったんだから、さっさと優勝しなさいよ。油断して負けましたとか言ったら……蜂の巣にするわよ?」

「それは恐ろしいな。精々、油断しないよう心を戒めるとしよう」

「そうしなさい。次やる時はあたしが勝つんだからね……チフユ?」

「お前には悪いが、次も譲るつもりはないさ」

自然と零れた笑みと共にガツン、と拳がぶつかり合う。

 

 

 

こうして、モンド・グロッソ史上最高の試合と称された一戦は終わりを迎えた。

この試合は世界最強のIS操縦者と、それに比肩するパイロットの登場を世界に知らしめた。

銃と剣。近接型と射撃型。相反する場所に立つ、至高の存在同士。

今後の二人がこれからどれだけの名勝負を歴史に刻むのだろうかと、誰もが想像し、興奮を隠し切れなかった。

 

だがしかし、二人の戦いはこの一戦が最初で最後となってしまう。

 

第二回決勝を千冬は辞退し、その後現役引退を表明。

これでモンド・グロッソはフィリー・ミヤムラの独壇場になるかと思われたが、フィリーも事故による片腕損失による現役引退と、一瞬にして最高峰の操者は姿を消してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「本当……あの時を思い出すわ。いやぁ、歳は取りたくないわね」

「……? どうかしましたか?」

「いいえ、なんでもないわ。それにしてもあの二人、結構いい動きするじゃない」

「そりゃあ、学園でも十指に入る人たちですから……おっと、ボーウェン選手、ここで攻めに転じた! フィリーさん、これはどういう意図があるのでしょうか?」

「そうね……打鉄は防御力もそうだけど、やはりパワーがある機体だから、多少無理に攻めを行ってもリスクは少ない。対してリヴァイヴは汎用性が高い分、突出した部分がないせいで、一転を突かれると弱い傾向があるわ。余裕のある序盤に攻めに入るのは悪くない判断ね」

「なるほど! さぁ、バルロッティ選手もこれを真っ向から受けて立つつもりだぁ!!」

興奮の度合いをそのまま言葉に乗せて、薫子の実況は響く。

アリーナの観客も眼前の勝負に興奮の声を上げている。

 

「そらそらぁっ! ゼロ距離から風穴空けてやるぜ!!」

「ふっ! はっ! その下品な口を今日こそ縫いあげて差し上げますわ!!」

 

そして戦う二人もまた、己の力の全てを一点の曇りなくぶつけ合っていた。

 

 

「本っ当……若いわねぇ」

 

 

クスリと笑いながら、フィリーは小さく呟くのだった。

 




この時のフィリーの乗機であるリヴァイヴは、かなりピーキーなチューンがされています。
増設ブースターが各所にあり、通常では不可能な旋回機動や加速、回避行動を取れる仕様になっていて、彼女以外が使うと一瞬で墜落します。
シャルロットのカスタムⅡはブースター系をマイルドにし、精細さを上げた感じですね。

対する暮桜は既にサードシフト済み。雪片太刀や零落白夜はそれぞれセカンド、サードシフトによって発現したものという設定です。
第一世代機は殆どがサードシフトしていて、この時のデータを用いて、各国は第三世代機の開発をしているという流れになっています。
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