IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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遅れに遅れましたw
キャノンボール・ファスト決着回です。


Another Side  決着、最速の王者

 巻き起こる歓声がスラスターの爆音をかき消す中、ISが飛び出す。

 瞬時加速(イグニッションブースト)に似た加速の歪みに一夏は顔をしかめるが、直ぐにセンサーが視界補正を行い、世界が戻る。

「先手、取らせていただきますわ!」

 まずはセシリアが飛び出し、その後を六人が追いかける。第一コーナーに入った処で鈴が飛び出した。

「行くわよ、セシリア!」

 コーナーを抜けると同時に両肩の衝撃砲が前面に向き、セシリアの背後を狙い撃った。

「くっ……!」

 セリシアは砲撃を躱す。その隙を突いて鈴が一気にセリシアを抜きさった。

「甘いぞ、鈴!」

 しかし鈴の背後から黒い影が迫る。ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだ。飛び出した甲龍の背後にピッタリと付いて、一緒に飛び出したのだ。

「ちぃ! 後ろに張り付かないでよ!!」

「付かれる方が悪い。そら、行くぞ!」

 ラウラがワイヤーブレードを飛ばし、鈴の背後を襲う。躱す間もなく攻撃を食らった甲龍はバランスを崩し後退。ラウラが先頭へと進み出た。

「おいおい。いきなり、バカスカやり合うものなのか!?」

「キャノンボール・ファストはタイミングが命だからね。とは言え、最初は様子見するものなんだけど……!」

 驚く一夏にそう答えながら、シャルロットが加速する。

「シャルロット!?」

「先手必勝な流れみたいだからね。僕も行くよ!!」

 リンドブルムが一際輝くと、ラファール・ドラグーンの翼が出力を更に上げた。

「くそ、俺も負けられねぇ!」

 一夏も更に加速して、コースを駆け抜ける。

 順位はラウラ、セシリア、シャルロット、鈴。その後ろに一夏、箒、織羽がほぼ横並び。そのまま地上コースを疾走する。

 一周目が終わり、二周目に入る。

 

 ――pipi!

 

 スクリーン・バイザーに上を示すアイコンが映る。トップのラウラが機首を上げて、空に登る。それに続いてセシリア達も空へと上がった。

『さぁ、一周目を終えてバトルは二周目に突入! ISの本領が発揮されるスカイダンスステージだ!!』

 キャノンボール・ファストは地面スレスレを駆け抜けるグランドステージと、大空のチェックポイントを通過するスカイステージの二層構成となっている。

 このスカイステージは地上とは違い、コースが定まっていないため、ISが機動力を遺憾なく発揮できる仕様となっている。

「行くよセシリア、ラウラ!」

 上空第一チェックポイントを目指し、シャルロットが仕掛ける。リンドブルムが輝けば、輝線を残してあっという間にセシリアとラウラを抜き去る。

「ぬっ……! 流石に空中は分が悪いか……!」

 せめて距離を取られまいと、ラウラも更に速度を上げる。が、その横を飛び抜ける影があった。

「行かせんぞ!」

「お先に失礼!」

 二つの紅――紅椿と舞影だ。

「これ以上行かせるものか! 喰らえ!!」

 ラウラが先に行くメンバーの背中に照準を合わせる。放たれる放火。即座に全員が回避すると、それは外れて空に爆散した。

「ラウラ!」

「いいですわ……ここから、派手に行きますわ!」

 ラウラの砲撃で口火を切られる、IS同士の壮絶な空中戦。

「はぁあああっ!!」

 箒は自立攻撃ユニットを飛ばしてシャルロット達を牽制しながら、隣を飛ぶ舞影に二刀で仕掛ける。

「おっと、危ない」

 織羽が二槍を以ってそれを受け止める。互いの刃が激しく火花を散らす。

「こうしてやり合うのは……初めてか!」

「そういえばそうね……! で、箒はどれだけ腕を上げたのかしら!?」

 二槍をが二刀を弾く。がら空きの懐に向かって、返す槍刃が襲いかかった。が、その突きは紅椿の薄皮一枚を掠めるに留まる。一瞬で反応した箒が半身を逸らして躱したのだ。

「つぇええええい!」

「っ――!?」

 逸らした体をバネにして、箒は空裂を振り上げた。とっさに躱す織羽だったが、空裂の特性である光刃が舞影を直撃した。

「――防いだか。さすがだな、織羽」

「まぁ、これぐらいはね」

 直撃したと思われた一撃だったが、当たる直前に舞影の固有能力で威力を上げた槍で叩き落としていた。

「二人共、隙あり!」

「「っ!?」」

 突如、二人を襲う砲撃。不可視の弾丸が二機を大きく弾いた。

「これは……甲龍の衝撃砲か!」

 箒が舌打ちする。衝撃砲は威力を最低限に抑えてもダメージの反動が大きい。高速戦闘では機体に受ける衝撃がバランスを崩しやすく、それがレースの致命傷になりやすい。

「ほらほら、退きなさい!」

 鈴が一気に加速し、二人を追い抜いていく。そのまま、トップのシャルロットを追いかけた。

「はぁ……何だかとんでもないレースだな」

 一夏は最後尾からその戦いを見送っていた。射撃能力の低い白式では、あの混戦に飛び込むのは無謀だ。なので敢えて後方に陣取り、離されない範囲でチャンスを伺う事を選んだのだ。

 実際、その戦術を取る事は正しい。一般的なレースと異なり、キャノンボール・ファストは”最下位からの逆転が最も多いレース”なのだ。そして白式の最大速度ならば、決して逆転が不可能ではない。

 全機が大きくループする軌道を取る。そのまま一気に切り返して地上へと降りるコースへと移っていった。

 チューブコースターのような配置のコースを降下していく面々。「これは……なかなか! 迫力が……!」

 普段の戦闘は違う、レースによる風景。天地が幾度も翻り、徐々に近づく地上。ここからは、グングンと近付いてくる地面への恐怖との戦いでもある。

 幾度も閃光と爆発が起こり、全機は地上への斜度86度の急直下ストレートコースへと飛び込んでいく。

「ぐぐ……!」

「グギギ……! まだまだ……!」

 鈴はシャルロットの隣にまで付いていた。二機は地面まで真っ逆さまに加速していく。

 地面スレスレ。減速を仕掛けるタイミングが一瞬でも違えば、そのまま差を付けられる。故に二機は牽制し合いながら、地面との距離を測る。

 そしていよいよ、地面が寸前に迫る時、シャルロットが僅かに後退する。

(ドラグーンの加速力は甲龍より上。なら、立ち上がりで仕掛ける……!)

 それに合わせて、鈴も速度を落とす。そして地面ギリギリを掠めるように、地上コースへと戻った。その直ぐ後に続いてシャルロットが地上に降りる。

「今だ!」

 ラファール・ドラグーンが一気にスラスターを開き、速度を上げる。先行する鈴を追いかける。

「フフッ……立ち上がりなら抜けるって思ったでしょ? 甘いわよ! 起動、飛天!!」

 瞬間、甲龍の龍砲が後方に向けられる。そして、一気に力を開放した。

「っ……!」

 高速状態から更に加速し、甲龍は一気にラファール・ドラグーンを突き放した。

「そんな……今のはまるで瞬速超過(オーバーアクセル)……!」

「――こほっ! こんなデタラメなの、よくもまぁ実装したものね」

 飛天とは、瞬時加速(イグニッションブースト)の理論をベースに、最大速度を一瞬だけ超える様、システムを組み上げたものだ。

 衝撃砲の生み出す空間圧を一気に開放し、同時に瞬時加速(イグニッションブースト)を仕掛けることで、最高速度を僅か0,42秒超えることが出来る。しかし、機体や搭乗者に係る負担の問題が解決されておらず、高機動パッケージを装備している今でさえ、機体負荷と操縦者負担の関係上、最大二回までしか使用できないと言われていた。

(でも、向こうはこの事実を知らない。これで向こうは相当プレッシャーを受ける筈……!)

 まさかの隠し球を受けて、大きく遅れたシャルロット。一周目は鈴がトップで通過した。

 

『さぁ! 一周目が終わり、一位はまさかの甲龍! その直ぐ後をラファール・ドラグーン、ブルー・ティアーズ、シュヴァルツェア・レーゲンと続き、紅椿、舞影、白式の一団がそれを追う展開です。』

 眼前で繰り広げられる全くタイプの異なるISによる激走に、観客が絶叫に近い歓声を上げる。

『レースはまだまだ序盤! 甲龍逃げきれるか!? それとも他の機体が逆転するのか! さぁ、二周目に突入だぁあ!!』

 

 ◇ ◇ ◇

 

 アリーナ外の大型モニター前には、会場内に入れなかった観客達がひしめき合っていた。誰もが映像内で繰り広げられる戦いに興奮し、酔いしれている。

 しかしそんな群衆の中、明らかに異質な者達がいた。

 一人はブラウンヘアーの、一見するとビジネスマン風の男。もう一人はブロンドの女性。先刻、弾とぶつかった女性であった。

 二人は並んで立っており、他の客と同じようにモニターを見ている。しかし、その瞳はレースを映していなかった。

「しかしあれだけの騒ぎを起こしておいて、まだこの国にいるとはな……豪胆というか、暗愚というか」

「一応は偽装も施しているし、何よりそちらのような大口相手に、目下の者を送る訳にはいかないでしょう? 私が来たのも、ひとえにビジネスに大事な”信頼”の為よ?」

「信頼などと、どの口でそれを言うか――それで、例のものは?」

「フフッ。急かさないでも大丈夫よ? はい、これ。地下の機密フロアのデータもしっかりと収めされてるわ」

 そう言って、女はメモリーカードを差し出す。

「フン。亡国機業(お前たち)と取引する羽目になろうとはな……」

 男はカードを受け取りながら、忌々しそうに吐き出す。

「何処の誰が入手していようと、情報は情報よ。そんなに邪険にしなくても良いんじゃなくて?」

「……貴様らが”福音”を狙ったことを忘れると思うか?」

 イギリスでサイレント・ゼフィルスが強奪された事件よりしばらく後、某所に厳重保管されていた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を狙って、サイレント・ゼフィルスが襲撃するという事件があった。

「さぁ、何の事かしら?」

 肩をすくめる女に、男は赤様に眉をひそめた。

「……まぁ良い。もし、次に我が国にちょっかいを掛けるなら、その時は覚悟することだ」

「あら、怖い怖い。か弱いレディを恫喝するなんて、紳士のすることじゃないわ」

 女はクスクスと笑いながら、人混みを抜けて男から離れる。男もその背が消えるのを確認してから、女とは反対の方向に進みだした。

 会場の熱狂を背にして、女は優雅に歩く。その姿にすれ違うものは男女の区別なく、皆一様にして振り返った。

「フフ……」

 何が可笑しいのか。女は口元を歪め、その行く先を少しばかり変えた。アリーナ近くの森林公園。その林の中へと女は進んでいく。

 そうしてしばらく歩き続け、周囲に人の気配が全く無くなると、女は足を止めた。

「そろそろ、出てきたらどうかしら? いい歳をして、かくれんぼの鬼なんて、する気ないのだけれど?」

 女が振り返って、誰も居ないはずの場所に声を掛ける。しばらくすると、サクッ。という、落ち葉を踏む音が響いた。

「既に日本を離れているかと思ったのに、大胆にも程があるんじゃなくて――スコール・ミューゼル?」

「そうでもないわ。だって、あなた達を恐れる必要なんてないもの。ただ、面倒くさいだけでね……更識楯無?」

 ヒュン! 女――スコールの腕が動く。楯無はすぐさま腕を振り上げた。火花が散り、土に刃が落ちる。部分展開されたミスティアス・レイディの蛇腹剣〈ラスティー・ネイル〉で投擲されたナイフを叩き落としたのだ。

「今度は何が狙いなの、スコール?」

「さぁ、教えると思う? 私も忙しい身の上でね……さっさと終わらせてもらうわよ、お嬢ちゃん?」

「奇遇ね。今、私もそう思っていたところよ。だから、手っ取り早く力尽くで聞かせてもらうわ!!」

 楯無はガトリング内蔵ランス〈蒼流旋〉を展開し、射撃を行う。ばら撒かれる弾幕は、スコールは展開した〈黄金月の女神(ルナ・ゴルディオン)〉のエナジースレッドでそれを完璧に防ぐ。

「あら? 出来るつもりなの?」

「やると言ったわ、スコール!」

 ISを完全展開させた楯無は、一気に飛ぶ。防御を解き、エナジースレッドを槍状にして発射する攻撃を、木々の隙間を縫うように、または蹴り飛ぶように躱し、ラスティー・ネイルを突き出した。

しかし、その切っ先はエナジースレッドの壁によって阻まれてしまう。

「無駄よ。防御に特化した〈黄金月の女神(ルナ・ゴルディオン)〉の鉄壁をそんな程度の力では突破することは出来ないわ。唯一、防御を突破できる無効化攻撃の出来るISも……今は忙しいみたいだしね?」

 ISの相性。ナノマシンの特性。操縦者の技量。そのどれもが楯無に不利を示す。加えて、先の戦いで負った傷はそのままだ。万全の状態でない上の悪条件。勝てる要素など一つもない。

 唯一は、白式や舞影の持つスキル〈シールドエネルギー無効化攻撃〉だ。

 エナジースレッドは防御を構成する際にマルチプルエネルギー以外に若干のSEを消費する。SE無効化攻撃はそのSEを断裂し、エナジースレッドの構成を破壊できるのだ。

 しかし、白式も舞影も今はレースの真っ最中。応援に駆けつけることはない。つまり、楯無に打つ手はない。

「だからどうしたの?」

 しかし、楯無は嗤う。

「『勝てない。倒せない。だから戦わない』っていうのは賢い選択なのかも知れない。だけど……そっちこそ、分かってるのかしら?」

「……何をかしら?」

「I・S・Eとの戦い――圧倒的不利な状況にあって、私達が勝利をもぎ取った一番の理由をよ」

「………」

「諦めなかったから。勝つことを、立ち上がることを諦めなかったからこそ、私達は勝利した。諦めなければ――奇跡だって起こせるのよ!!」

 楯無はランスを構え、壁に向かってゼロ距離斉射を行う。鼓膜を激しく揺さぶる硝音と、腕に走る衝撃が攻撃の激しさを伝える。

「ふふ……アハハハハ。言うに事欠いて、”奇跡”なんて……随分と可愛いことを言うのね! それにあれが”勝利”? 本当に可愛いわ」

「っ……!?」

 楯無は大きく跳躍し、態勢を立て直す。ランスにアクア・クリスタルから水が流れ込み、巨大な渦を生み出した。

「奇跡はある……それを見せてあげるわ!」

 楯無は地を蹴って、真正面から〈黄金月の女神(ルナ・ゴルディオン)〉の障壁に突進する。

「愚かね」

 多層展開された障壁は完璧だ。奇跡にすがり、醜く足掻く楯無をスコールは嘲る。繰り出される水槍の切っ先。瞬間、閃光が奔った。

「っ――!?」

 スコールは目を見開いた。光が、天井から降り注いだ光の刃が金色の壁を貫いたのだ。同時に、金色の糸がまるで空気に融けるように解け、開かれた視界に水の螺旋が飛び込んでくる。

「まさか――これは!?」

 突き刺さる蒼流旋。同時に楯無はその力を一気に開放した。

「スプラッシュ・バースト!!」

 

 ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 ザァァァァ……。と、森林に雨が降り注ぐ。スプラッシュ・バースト――蒼流旋に注ぎ込まれた水をナノマシンのエネルギーと共に一気に開放し、対象を破砕する一種の爆弾を生み出す攻撃――の影響で一気に粒子化した水が天に弾けて、地上へと降り注いだ。

 霧と雨にその身を晒したまま、楯無はヒュンと槍を返す。

『倒しましたか?』

「確かに手応えはあったわ。さすがに無傷ではいられない筈……」

 楯無は深く息を吸い、そして吐く。攻撃の反動に無傷と行かないのは、彼女も同じだ。

 傷も癒えていない体での自爆覚悟の攻撃など、まともな勝算がなければ遣りもしないだろう。

 

 ――フフフ。そう。そういう事だったのね。

 

「っ……!?」

 雨霧を裂いて、金色が煌めく。それは周囲の枝や幹を触れた瞬間にズバズバと寸断していく。

「チッ――!」

 狂気の嵐に楯無は直ぐに右へと滑りこむと、ラスティー・ネイルで金色を弾いた。

「奇跡頼みの特攻と見せかけて……その実は、確実に一撃を決めるための仕込みをしていたとはね」

 霧向こうに、黄金の輝きが揺らめく。

「まさか、あれを喰らってノーダメージ……なんて言わないでしょうね?」

「いいえ。流石にダメージは受けたわ。まぁ、だからと言ってどうということも無いけれど」

 一見すると、〈黄金月の女神(ルナ・ゴルディオン)〉にダメージはなさそうに見える。だが、防御力に絶対の自信を持つ故に抱く無意識の慢心を吐いての一撃は、確実にスコールを捉えていた。ノーダメージである筈がない。

 この場にいる”彼”の力があれば戦えなくはない。しかし、相手の底がどうしても見えない……。と、楯無は逡巡する。

 そんな楯無の内心を察してか、スコールは愉快そうに笑った。

「私に一撃見舞ったご褒美に、一つだけ教えてあげる。奇跡も勝利も……所詮は、”あの方”の掌の上でしかないわ。貴方達は何一つ、勝ち取ってなんていないのよ」

「あの方……? 亡国機業の〈指導者〉の事!?」

「さぁ、どうかしらね? それじゃ、私は失礼するわ。次会うまでに、もうちょっと強くなっていなさい。”対暗部”の更識楯無さん?」

「待ちなさい、スコール!」

 霧の奥へと消えるスコールを追おうとする楯無だったが、その足は直ぐに止まる。現状、スコールを追いかけても勝算がない。先に言った言葉にウソはないが、無謀と見ずに闘いを挑むのは只の愚者だ。

 楯無はもう一人の方――スコールと会っていた男の方を追っている虚に連絡を取った。

『申し訳ありません、会長。尾行を撒かれました』

 しかし、こちらも尻尾を掴む前に逃げられてしまい、結局は彼女らの目的は不明となってしまった。

「ごめんなさい。無理を言ってわざわざ、病院から来てもらったっていうのに……」

『いいですよ。眠るのにも飽きてたところですし。僕自身、やり返してやりたかったですからね。それより、騒ぎを駆けつけて誰か来る前に移動しないと』 

「……そうね。寄りによって、派手な置き土産をしてくれたものね」

 楯無は周囲を見回し、溜息を吐いた。何せ楯無の周囲は彼女が盾になって庇った一角を除いて、見るも無残な状態になっていたのだ。

「後始末は警察と手の者に任せましょう。……さて、一夏くん達はどうしてるかしらね」

 楯無はISを戻し、バシャリと水たまりを撥ねさせた。生き残った木の向こうから、車椅子とそれに乗った青年が現れた。

「キャノンボール・ファストじゃ、今の一夏に勝ち目はないでしょうし……本命と対抗の二強で決まりでしょう?」

「――ふぅん。君の言う二強が誰なのか、ちょっと気になるわね。道すがら、話してもらおうかしら?」

 楯無はハンドルを掴んで、車椅子をゆっくりと押し始めた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 天空を舞い踊る鋼翼の群れは、爆炎の火花を散らせながら、まるで一個の生き物のようにうねり狂う。

「くう……っ! こういう時ほど、近接仕様が恨めしいぜ……!」

 一夏は前後左右から飛び交う弾幕、光弾を必死に躱す。今の順位はギリギリで最下位を免れている。というよりも、鈴、セシリア、シャルロット、箒の上位陣とラウラ、一夏、織羽の下位陣で固定されている状態のまま、レースが進んでいるのだ。

 

『さぁ、スカイダンスステージもこれがラスト! 現在、トップは甲龍! 中盤で危うく抜かれそうになったシーンが有りましたが、一周目で見せた脅威の加速で、未だにトップを死守しております! しかし、どの機も逆転の射程圏内! レースは最後までわからないぞ!!』

 

「抜けない……おのれ、流石にやるなシャルロット!」

「優勝するのは僕だよ! 誰にも……絶対に譲らない!」

 幾度も仕掛ける箒だが、シャルロットが巧みなブロックを仕掛け、前へと行かせない。シャルロットはそのまま、先行する鈴とセシリアに向かっての牽制射撃を止めない。この辺りの機体運用は、流石は世界最強によって叩き上げられた腕前といった処だろう。

 首位を争う二人は、それを躱しながら互いに攻撃を仕掛け合う。

「鈴さん! いい加減に落ちなさい!!」

「うるさい! そっちこそしつこいわよ、セシリア!」

 衝撃砲とBTマグナムが同時に火を噴き、激突する。弾かれたエネルギーが波紋となって、機体のシールドを激しく揺さぶった。

「おぉー。皆、よくやるわね~」

「辰守、貴様はなぜ仕掛けない? 貴様の腕ならば上位は愚か優勝も難しくはあるまい?」

 隣を飛ぶラウラは、織羽に尋ねる。彼女は今まで後尾に位置したまま、一度もアタックを仕掛けていない。まるでこのレースを特等席にて観戦しているようだった。

「まぁね。あたしはレースの安全を守るために居るだけだからね。遠慮無く行って良いから。あ、でも隙があったらちょっとは上狙うわよ?」

「――そうか。では、遠慮なく仕掛けさせてもらおう!」

「え……おわっ!?」

 ラウラのプラズマブレードが突如、織羽の正面を掠める。

「ちょっと! いきなり何するのよ!?」

「何だと? 決まっているだろう。貴様との決着をここで付けておく心算だ!」

 更に振るわれる光刃を、織羽はランスで防ぐ。

「よりにもよってこのタイミング……って、なるほど。そういう心算なわけね」

 ラウラのニヤリという不敵な笑みに、その真意を見出して、織羽もまた笑った。

 彼女は織羽を、観客から出演者に変えようというのだ。強引に舞台に引き上げてやれば、織羽も本気で戦うと信じているのだ。

 元より、織羽はラウラとの因縁も深い。棚上げになっていたかつての決着を付けようと言われれば、それに乗ることに意義はなかった。

「上等……! あたしをステージに上げたこと、後悔するわよ?」

「面白い! させてみろ!!」

「って、こっちにくるんじゃねー!!」

 後方から上がってくる二人に、一夏は加速して巻き込まれないように動く。が、その結果、先行する箒に追い付き出した。

「一夏、来るか!」

「いや、そんなつもりは無いんだが……ええい!」

 なし崩しで一夏と箒が激突する。その乱戦が更にシャルロットらトップ陣にまで飛び火していく。

「うわっ! 全員仕掛けてくる!?」

「ちょっと!? なんであんたらまで来るのよ!?」

「ここに来て、バトルロイヤル突入ですの!?」

「こうなったら混戦上等だ! 覚悟しろよ、三人とも!」

「全員、ここで蹴散らす!!」

 箒と一夏は同時に刃を繰り出す。それをシャルロット、鈴が武装を展開して受け止め、セシリアは身を捻って躱す。

「もらったぞ、セシリア!」

 そこを突いて、ラウラのレールキャノンが狙い撃たれる。

「ミラージュ・バックラー!」

 セシリアはシールドビットを展開し、それを防ぐ。そして逆に、BTキャノンを後方に構え、反撃する。

「うぐ……っ!」

「チッ!」

 更にキャノンを連射し、セシリアはラウラ達を打ち払う。一夏は雪羅のシールドで防御するも、その一瞬が大きく遅れてしまう。

 その一瞬で、上位陣と下位陣に決定的な差が生まれた。

 

『あぁーっと! 白式、シュヴァルツェア・レーゲン、舞影が大きく引き離された! 優勝争いは上位四名に絞られたか!!』

 

 鈴、シャルロット、セシリア、箒が続いてハイループコーナーに突入。四機はスライドするようにしてコーナーを駆ける。これでスカイダンスステージはラストの急降下ストレートを残すのみだ。四機は矢継ぎ早にコーナーを抜け、ストレートへと飛び込んでいく。

 ここで、トップを走っていた鈴がシャルロット、セシリアに抜かれ遅れをとる。

「くっそ! きばりなさい、甲龍!!」

 ギリギリと歯を食いしばり、鈴がスラスター出力を目一杯まで上げる。

「鈴ぃいいいいん!」

「箒! 抜かせないわよ!!」

 更に、真後ろに付く箒に対し、抜かせまいと行く手を阻む。セシリア達は既に地上に降り、ホームストレートへと突入している。二機も競り合いながら、僅かに遅れてアプローチに入る。

「くっ! やらせるか!」

「退け、邪魔だ!!」

 箒はブロックを躱し、鈴の横へと並んだ。そして、同時に地上へと降りる。

「っ……!?」

 その時、甲龍の胸部装甲がわずかにコースと接触する。突入時のブレーキがわずかに遅れたせいだ。火花が飛び散り、機体が揺らいだ。

「今こそ行くぞ、紅椿!!」

 箒は展開装甲を全開に開き、出力を最大にまで引き上げる。全開となった紅椿はその一瞬を突いて、一気に甲龍を引き放しに掛かった。

「くそっ……! 待ちなさい、箒!!」

 鈴もすぐにスラスター出力を上げるが、勢いに乗った紅椿にグイグイと引き離されていく。

(こうなったら、飛天で一気に追い付くしか無い。でも、飛天は制限分は使っちゃった……だけど!)

 これは学園のイベントレースだ。意地を張る理由はない。だが、それでも鈴はどうしても負けたくない。代表候補として、ライバルとして。意地を張る理由ならそれで充分だった。

「もってよ――飛天!!」

 龍砲が背部へと駆動し、その力を開放する。限界を超える龍の咆哮が、機体をグングンと加速させる。その出力は先行しかける箒のすぐ後ろにまで追い付くほどだった。

 しかし、異変は起きた。

「何……!? まさか……!」

 ビシッ――! という音が聞こえた。鈴はすぐに龍砲をパージする。瞬間――。

 

 ドガァアアアアアン!

 

「きゃあああああ!?」

 限界を超えた出力で劣化したフレームが自壊したのだ。そして空間圧縮に使用されていたエネルギーが暴走し、パージ直後に爆発したのだ。

 

『あぁ~っと、ここでアクシデント! 甲龍がクラッシュだぁあああ!!』

 

 爆風に煽られ、甲龍が大きくバランスを崩す。ガツン! と、コースと接触し、バウンドする。

「何――!?」

 地上へと先行してきたラウラが、バウンドしてくる鈴に驚き、咄嗟に右手を掲げた。

 A・I・C――アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。物質の慣性を強制的にゼロにする停止結界が特攻する甲龍を僅かに鈍らせる。しかし、超高速にあるラウラがその横を一瞬で通り過ぎると、結界が外れた甲龍は再び転がり出した。

「のわっと!」

 続く織羽も、機体を捻り込ませてそれを躱す。そして――。

 

「だぁあああああ!? 来るなぁああああ!!」

 

 最後、何故か鈴は一夏目掛けて転がっていく。避けようとするが、何故かそっちに転がってくる。最早、回避は不可能。クラッシュは避けられない。

 

『一夏! 受け止めた瞬間、脚部スラスター出力最大! 同時に背部スラスター出力を17%落とすんだ!!』

 

「っ――!!」

 突如聞こえた声に、一夏は無意識に反応していた。両腕を差し出し、突っ込んでくる甲龍を受け止める。

 ガシャーン! と、装甲のぶつかり合う音が響き、衝撃が走る。一夏は直ぐ様、背部スラスターの出力を落とし、同時に脚部スラスターの出力を全開にした。

 結果、ぶつかった上半身は後ろに押し流される。しかし脚部スラスター出力が白式を、甲龍を中心として大きく後転させた。

 まるで逆上がりのような軌道を描きながら、一夏は鈴を抱えたまま、地面に足を叩きつける。そしてそのまま、コースを走るようにして数歩跳び、再び飛翔した。

「っ――はぁ! あ、あぶなかったぁ……」

 ドキドキする心臓をどうにか落ち着けながら、一夏は腕に抱えた鈴を見た。

「きゅぅううう……」

 目を回している。そりゃもう、グルグルである。取り敢えず怪我はなさそうだと苦笑しながら、一夏は視線を観客席に向けた。

 聞き慣れた口調の、少しだけ聞き慣れない声。ずっとずっと、一緒だった者の声。一人では何度も挫けただろう困難を、ずっと支えてくれた声。しかし、そこには一夏の探す人物はいなかった。

「居るわけない……よな?」

 気のせいかと、一夏は再び前を向く。レースはまだ終わっていない。優勝できなくても、最後まで飛び続けるのだ。

 

 

「くそっ……! やはりこのままでは追い付けんか。仕方ない……ゴールまで持ってくれ、紅椿!!」

 箒は先行する二機の姿を睨み、クワッと目を見開く。

 

【単一仕様能力 絢爛舞踏】

 

「おぉおおおおおおおおお!」

『なんとぉ! 紅椿が突如、金色に光り輝いた!! そして先行する二機との差がグングンと縮まっていくぅ!!』

 絢爛舞踏によって全開のスペックを発動する紅椿は、見る間にセシリア、シャルロットとの差を詰めていく。

「箒さん!?」

「箒、やっぱり来たね……ドラグーン!」

 シャルロットはリンドブルムの出力を限界まで引き上げ、スラスターを全開にする。山吹色の輝きに包まれたラファール・ドラグーンが、文字通り弾丸となって駆け抜ける。PICに守られたその上からGが伸し掛かるのを、シャルロットは歯を食いしばって耐えた。

 セシリアも、BTガジェットのスラスター出力を最大に引き上げ、それに追随する。

 右に、左にと機体が動き、蛇の如きコースをコントロール出来るギリギリのレベルで押さえ込みながら、三機は熾烈な争いを繰り広げる。

「うぐっ……! 機体が振られる!」

「持ってくださいまし、ブルー・ティアーズ!」

「ドラグーン、頑張って……!」

 最終コーナーに突入し、紅椿に異変が起きる。

『あーっと!ここで紅椿を包んでいた金色の光が消えてしまったぁ!』

 絢爛舞踏の効果が消滅し、紅椿のエネルギーが見る間に減少していく。

「くそっ、もう少しだけ……頑張ってくれ!」

 箒は祈るように叫ぶ。しかし、エネルギー残量は無情にもグングンと下がっていく。これ以上、全開状態で飛ぶことはリタイアしかねない。箒は悔しさを噛み締めながら、展開装甲の出力を切り替えた。

『紅椿がここで失速! これで優勝争いは二機に絞られた!!』

 紅椿が優勝争いから脱落し、最終コーナーを抜けたところでラファール・ドラグーンが一歩前に出る。ラファール・ドラグーンに備えられた背部スラスターは加速力に優れ、最高速に達する早さはブルー・ティアーズよりも僅かに上だ。

 立ち上がりに後れを取ったセシリアは、必死にそれを追う。しかし、超高速飛行において、コンマ秒の遅れは致命的だ。既に最後のホームストレート。下手な攻撃はむしろ自分の首を絞める結果になる。後は純粋な速度での決戦だ。

「くぅ……! 進化したブルー・ティアーズが追いつけないなんて……!」

 既にブルー・ティアーズは最高速に達している。つまり、相手の方が上か、もしくは同速度ということだ。

 勝てない。相手を上回らなければ。もっと、もっと速く。もっと疾く。セシリアは必死に願う。

「応えなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

 

 ――情けない。あの程度に負けるなど、許されない事――

 

 ――使いなさい、与えたアオの力を。あれは只の力ではないわ――

 

 ――あれは私の力。その片鱗。思いを具現化する力。神なる力に最も近き力――

 

 ――超えて見せなさい。自分の限界を。それを疑うことなく。それこそ……――

 

 

「――単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)……〈ルール・オブ・クイーン〉!」

 セシリアはあの戦いで得た力を開放する。瞳が蒼く染まり、BTエネルギーが女王の支配下へと治まる。

 BTの絶対支配。アオき女王からの授かり物。これで一体何ができるのか、セシリアには分からない。

(ですが……”あの声”は言った。これは思い具現化する力だと。神なる力に最も近き力だと)

 神なる力。それは恐らく〈究極単一能力〉の事だろう。それに近いとはどういうことか。

「行きますわよ、ブルー・ティアーズ! 限界を超えて……舞いなさい!!」

 ブルー・ティアーズを蒼い光が包み込む。そして限界を迎えていた筈の機体がさらなる加速を始めた。

「セシリア!? そんな、何でそこから伸びるの!?」

 シャルロットは一瞬だけ振り返り、驚愕した。そしてすぐに前へと向き直った。しかしセシリアは見た。その瞳が焦りに満ちていた事を。

 勝てるかも知れない――いや、勝つのだ。

 その強い思いが、BTに更なる力を呼び起こさせる。収束したBTエネルギーが翼となって、機体を「グン!」と押し上げる。

 

 

『おぉおおおおお! 凄い! 何だ、このすさまじい加速は!? ブルー・ティアーズ、恐るべき追い上げだぁあああ!!』

 

「うぁあああああああああ!」

「アァアアアアアアアアア!」

 残り僅か。ゴールライン寸前。ついに二機が並ぶ。そして――。

 

『ゴール! 今、ラファール・ドラグーンとブルー・ティアーズが同時にゴール!!』

 

 山吹と蒼の光がゴールへと飛び込んだ。二機は機首を挙げる。そしてスピードを殺しながら、上空を旋回して止まった。

『そして紅椿がゴール! 続いては……おおっと! 最終コーナーで舞影がシュヴァルツェア・レーゲンを抜いた! そしてそのまま――ゴール!』

 箒、織羽、ラウラが順にゴールをくぐり、そして最後の一機がホームストレートに帰ってきた。

「だー! 暴れるなって!」

「うっさい! 何で何時も何時もあんたは人のこと抱くのよ!?」

「人聞きの悪い言い方すんな!? それに、こうしているのは、お前のISが飛行ユニットぶっ壊れたからだろうが!」

『そして今、白式と、それに抱えられた甲龍がゴールしました。なにやら痴話喧嘩の様なやりとりが見えますが……それはさておきましょう! 現在、トップ二人の写真判定が行われております!』

 一夏と鈴を後でどうしてやろうかと思いつつ、セシリアはメインスクリーンに視線を向けた。隣ではシャルロットもスクリーンを注視している。

『キャノンボール・ファストに同着はありません! つまりはグレーな判定はきっちり、白と黒とに分かれます! ……どうやら、判定が出たようです。スクリーンを御覧ください!!』

 ざわめいていた会場が一転、水を打ったように静まった。そして映しだされた映像。そこには僅かな差――コンマ数秒の決着が映しだされていた。

 

『これは……ブルー・ティアーズ! ブルー・ティアーズが文字通り、紙一重で勝利!! 優勝はブルー・ティアーズだぁ!!』

 

「ッ――!!」

 セシリアは天に向かって拳を突き上げていた。そしてシャルロットは、しばし呆然とし、そして深く溜め息を吐いた。

「はぁ……やられちゃった。最後……セシリアに一瞬だけ気を取られた……彼処がなければ……あぁ、悔しい! ――おめでとう、セシリア」

「ありがとうございます。シャルロットさんも、流石でしたわ。私も途中までは逆転できないと思っていましたわ」

「すごい加速だったね。もしかして、あれも単一仕様能力の応用?」

「……まぁ、そのようなところですわ」

 正直、セシリアにもわからない。ルール・オブ・クイーンとはBTの絶対支配の筈だ。それは変わらない。だが、今のレースで見えた力――それはもしかしたら、BTの可能性、その片鱗なのではないだろうか。

(だとすれば……私はもっと強くなれる。限界を……今を越えて行けるということですの?)

 セシリアは空を見上げた。気まぐれな無限のアオき女王は、セシリアの問には答えなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 都心のオープンカフェ。そこの奥の席に座る一人の少女。彼女の前には投影スクリーンがあり、それに映し出されていたのはキャノンボール・ファストの中継だった。

「フン……下らない」

 少女は食べきったホットドックの包み紙をクシャリと握り潰し、テーブルに放り投げた。

「何が下らないの、エム?」

「別に。それよりどうだった?」

 エムは振り返ることもなく、モニターを消した。その隣の席に声を掛けてきた女性が座る。

「お仕事は無事終わり。まぁ、若干のトラブルはあったけどね?」

「へぇ……そりゃ珍しい」

 エムはスコールを横目で見た。腕に、真新しい包帯が巻かれている。

「今夜、日本を立つわ。しばらく来ることはないだろうから、やる残しはないようにね」

「……なら、ISを貸してくれ。ちょっと、野暮用がある」

「それは良いけど……何をする気?」

「なに……ちょっと挨拶に行くだけさ」

 エムは口元を歪ませる。その表情に何をする気かを察したスコールだったが、今後の活動に影響も起きないだろうと黙認する。

「これは――リヴァイブか」

「失くすんじゃないわよ? これ一機でも手に入れるのには苦労するんだから。集合は例の地点。時間は予定通りよ。遅れたら自力け追いかけて来なさい」

「分かった。じゃあな」

 エムは受け取ったリヴァイブをポケットに仕舞い、席を立った。スコールはふらりと歩いて行くその背中を見送りながら、嘆息する。

「それにしても……どれだけ食べてるのよ、あの子?」

 その視線は、テーブルに小山を作った紙くずと、厚みを持った明細書に向けられていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「レースも無事に終わりましたね」

「そうね。それにしても、いきなり叫ぶんだもの。おねーさん、ビックリしちゃったわ」

 楯無は笑みを零しながら言う。それを受けて、車椅子の青年は若干恥ずかしげに笑った。

「あの時はつい……いつものクセってヤツでしょうかね?」

「さて、これから自宅に行くんでいいのよね? と、その前に一度病院か」

「無理やり出てきましたからね。先生にも謝らないと」

「そうね。せっかく戻った体なんだもの。大事にしなくちゃ……ね?」

「ですね」

 そうして二人は、夕陽の中へと姿を消した。次に二人が現れるのは―― 一夏がエムと遭遇する、自動販売機の前である。

 




スコールさんは、事件の後にすぐ本部帰還。報告の後にまた日本入り。そして直帰ですw
この人はよく働きます。
幹部自ら来たのは、福音強奪未遂事件があったので取引相手とギスギス状態になっているからです。
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