IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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一種のネタ企画。
あの時、あれがこうなっていたら……。ショート3話程度の予定です。


外伝 Boy’s soul Girl’s heart

 忘年初春。

 日本に設立されたIS学園には、インフィニット・ストラトスと呼ばれるマルチフォームスーツの運用に関する学習のために、世界各国から多くの生徒がやって来ていた。

 かつては宇宙開発用として、今は競技用として定着しているISであるが、自由自在に空を舞い、重火器の直撃にすら耐える防御性能。更には粒子分解、再構成展開による装備運用効率の高さ。

 そしてそれらを支える――たった一人の天才によって生み出されたISコア。

 

 ISの研究は人類の科学水準を大きく引き上げ、それによる弊害もまた、世界の流れとなっていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 IS学園入学日。式典を終えた生徒達はそれぞれの教室に入っていた。

 その年は、今までにない厳戒態勢が敷かれていた。それというのも、僅か2ヶ月前。世界にとんでもないニュースが流れたからだ。

 IS。それには唯一にして絶対の欠陥があった。それは『ISは女性にしか扱えない』というものだ。だが、それはたった一人の『男子』によって壊されることとなる。

 織斑一夏。第一回モンド・グロッソ優勝者――〈ブリュンヒルデ〉織斑千冬の弟。

 彼の存在は世界中に衝撃を与え、その身柄は政府の保護下に入った。そして今日、彼はこのIS学園に入学する。

 混乱を避けるために入学式には出席せず、彼はこの後のHRからの登場となる。

 そして、もう一人。彼ほどではないが静かに広まっている者もまた、IS学園にいた。

 第一学年二組。ザワザワとする教室内に、教師が入ってくるとそれも治まる。

 一人ひとりが自己紹介をしていく。そして――その『少女』の番になった。

 ツインテールをなびかせ、小柄な少女は立ち上がる。その仕草一つに、クラス中の視線が集まる。それに若干怖気づきながら、少女は自らの名を名乗った。

「えっと、凰鈴音です。一応、中国の代表候補生やってます」

 自己紹介が終わり、HRも終われば、鈴の周りには黒山――というには彩色豊かな人だかりが出来る。

「やっぱり! あなたがあの凰鈴音博士なんですね!」

「若き天才ISプログラマーにして、僅か一年で代表候補性にもなった、中国の至宝、凰鈴音!」

「まさか、あの凰さんと一緒のクラスになれるだなんて!」

「織斑一夏君とはクラスが違っちゃったけど、これはこれでラッキーよね」

「あ、あはは……そう。そりゃ、良かったわねぇ……はは」

 鈴は周りの興奮の声に、引きつった笑いを浮かべるしかなかった。何故なら、彼女には全くもって身に覚えのない話だからだ。

『いやぁ、やり過ぎちゃったかなぁ?』

『やり過ぎたに決まってるでしょ、このバカ春斗!!』

 

 これは可能性の中に消えたif(もしも)の話。少年の意識が少女の中に宿ったお話。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 すべての始まりはM・S・Sを鈴が最初に使用したことに因る。なんと鈴春斗の意識が適合したのだ。

 結果、春斗は鈴の体で目覚め、混乱の中で言った。

「股が、寂しい」

 直後、鈴の怒号が雷鳴の如く鳴り響いたのは言うまでもない。

 

 その後、鈴は両親の離婚により中国に渡ることになった。春斗の意識も鈴の体から離れられないため共に行くことになった。

 中国に渡った鈴はIS適正試験を受け、訓練生となる。持ち前の才気を遺憾なく発揮した彼女が代表候補生となるまで、そう時間は掛からなかった。

 そして、彼女は中国IS開発部の案内である場所へと連れられた。重厚な扉の向こうに、中国の技術の粋を集めて作り出された、鈴の専用機が眠っている。

 甲龍。イメージインターフェースによる特殊兵器運用を目的とした〈第三世代〉と呼ばれる最新鋭機である。

 その特徴は、両肩に浮かぶ非固定浮遊部位〈龍咆〉。空間に圧力を掛け、不可視の砲身を展開。発生する衝撃波そのものを砲弾に変える、高威力とエネルギーコストのバランスが取れた武装である。

 高貴な色とされる紫を基本としたその機体に、鈴はまんざらでもない笑みを浮かべた。

 だが、ここからだ。全てがしっちゃかめっちゃかになってしまったのは。

「………何これ? OS関係がダメ過ぎじゃない」

 鈴の意識とは裏腹に、口を付いて出てきたのはそんな毒だった。当然、その発言は技術者達からは見逃されること無く、怒りのままに罵詈雑言が浴びせかけられた。

 だが、鈴はそれを鼻先で笑い飛ばした。そして言った。

「一週間。それだけあれば、このOSを基礎から組み直してみせる」と。

 それこそ物を知らぬ子供の発言と、彼らは笑った。

 ISを動かくOSとは言うなれば人間の脳であり、神経組織だ。それを組み上げる事がいかに困難な作業か知る彼らがそういう態度をとってしまうのも仕方ないことであった。

 だが、今度はそれが〈彼女〉の癇に障った。そして約束の一週間後――。

 

 

「な――なんだ、これは!?」

 

 

 彼らが見たのは予告通りに組み上げられたOS。そしてそれを使用するだけのスペックを持った甲龍をベースとした新型ISの設計図であった。

 たった一週間。ベースが既にあったとはいえ、それだけの期間で〈彼女〉は新型まで設計してみせたのだ。これには技術者達もうなだれるしかなかった。

 勿論、これを凰鈴音がなした訳ではない。彼女の中にいる春斗がやったことだ。だが、余人の知らぬこの事情。全ては鈴の功績とされ、何時のまにやら彼女の名前は、『天才ISプログラマー』という冠と共に広まってしまったのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『いやぁ、それにしても大変だったねぇ』

『大変の一言で済ますんじゃないわよ! 技術関係まるっきしなのに毎回毎回相談に来るわ……答えられないから、あんたが出てきて答えるから、また聞きに来る悪循環! ……日本に逃げてきて、ほんと正解だったわ』

 教室の質問攻めを何とか切り抜け、鈴は廊下を歩いていた。

「えっと、一夏の教室は隣よね?」

『確かそうだよ。しかし、ちょっとは成長しているかね、一夏は? 相変わらず、無意識無差別で女の子口説き落としてばっかりじゃないだろうね?』

「……やめてよ。本気で有り得そうだから」

 かつての経験を思い出し、鈴はうんざりとしたように頭を振った。

 一夏の居るであろう教室前まで来た鈴は顔だけ覗かせてみた。だが、そこには一夏らしき人物の姿はなかった。

「あれ、いないわよ?」

『おかしいな。教室はここで合ってるし……女子という羊の群れの中で息を荒らげている狼さんを見逃す訳が無いんだけど……』

「……春斗。一夏が居ないからって無茶苦茶言うわね。とはいえ、居ないんじゃしかたないわね。出直しましょ」

 時間も限られている以上、当てもなく探す訳にも行かない。次の休み時間に改めて来ようと、一組前から戻ろうとした時だった。

「――ちょっと、そこのあなた?」

 突然、教室内から声がかけられた。振り返ってみると、『いかにもお嬢様です!』的な雰囲気を醸し出しているブロンドロールの美少女が立っていた。どうやら、呼び止めたのは彼女のようだ。当然、鈴の知り合いではない

「何か用? 無いなら帰るわよ」

「よその教室に来ておいてその言い草。いささか腹立たしいと思いますが……まぁ、いいですわ。あなた、凰鈴音ですわね?」

「……そだけど? あんた、誰よ?」

 もう、嫌な予感しかしない。鈴はうんざりしながら尋ねた。

「私はセシリア・オルコット。あなたと同じ、代表候補生ですわ。噂に名高い凰鈴音博士のご尊顔、拝せたこと光栄に思いますわ」

『セシリア・オルコット……イギリスの代表候補生。専用機〈ブルー・ティアーズ〉の操縦者だね』

「そりゃどうも。用はもう終わり? だったら帰らせてもらうわ」

「いいえ。もう少しお付き合いくださいませ」

『あぁ、なんだか嫌な予感』

 春斗の言葉を聞くまでもない。さっきからしている嫌な予感が、更にビートを激しくさせている。

 そして、次にセシリアが言う台詞はこうだ。

 

「「この私と、勝負してくださらない?」」

 

 二人の声がズレること無く重なると、セシリアの顔が紅潮した。リンは呆れ気味にため息を吐いて、肩をすくめた。

「せっかくの申し出のところ悪いけど、お断りするわ」

「あら、逃げますの? 随分と意気地のないことで。それほど、私のブルー・ティアーズが恐ろしいのかしら?」

 先程の事が頭にきているのか、口調が刺々しい。だが、鈴はそんな彼女の言葉を聞いて、首を振った。

「そう思いたいなら思いなさいよ。……せっかくのドレス(IS)をボロに変えられたくなかったらね」

「なっ……! なんですって……!」

「――ブルー・ティアーズ。イギリスで試作された第三世代IS。その基板となる一号機。BTと呼ばれるマルチプル・エネルギーを用いて、思念操作型無線砲台を装備。BT適正が理論最大値を迎えれば、そのエネルギーに指向性を与え、自在にコントロールできるとされている。だが、IS適正に加え、BT適正を有した操縦者が殆どおらず、実験は遅々として進まないのが現状である」

「っ……!?」

 突然、鈴の雰囲気が変わる。まるで別人にでもなったかのような口調。クリっとした満月のような瞳が、陰月のように細まっていく。

「人に勝負を挑む以上……〈偏向射撃《フレキシブル》〉ぐらいは出来るんでしょうね?」

「そ、それは……! そもそも、あれは理論上の……」

「出来る。理論上じゃなくて、それは可能な技術。もし出来ないのなら……出来るようになってから、出直してきてくれる?」

「っ……」

 有無を言わせない、威圧感。そして鈴は言った。

「それぐらい出来てくれなきゃ――『封龍(フォンロン)』の相手にはならないよ」

 

「――あれ、鈴か?」

 

 唐突に掛けられた声。女子のそれとは明らかに違う、聞き慣れた声に鈴は振り返った。

 果たしてそこに居たのは、特注の男子制服に身を包んだ、世界唯一の男子IS操縦者、織斑一夏だった。

「―― 一夏! あんた、何処行ってたのよ!?」

「いや、何で軽く怒ってんだよ? ちょっと野暮用で席外してただけだろう?」

「そのせいで、変なのに絡まれたわよ」

「変なのというのは私のことですの!?」

「……あぁ、なんかわりぃな」

「まぁ、いいわ。もう時間もないし、話は昼休みにでもしましょ?」

 一夏も何となく事情を察したのか、本当にすまなそうにしている。そんな一夏の後ろから艶やかなポニーテールを揺らして、少女が顔を出した。

「一夏。随分と親しげにしているが……誰だ?」

「っ……!!」

 その瞬間、鈴が大きく目を見開いた。反射的に両手が少女へと伸ばされ――。

「――邪魔だ」

 

 ――ゴッ。

 

「いったぁあ……!」

 唐突に衝撃が走った。思わぬダメージに鈴が悶絶する。

「ち、千冬姉!?」

 鈴の頭を襲った衝撃。その正体は織斑千冬であった。現在、学園の教師をしている彼女は、この1ー1の担任である。

「もう授業が始まるというのに、廊下で何時までも遊んでいるな。とっとと自分の教室に帰れ」

「いつつ……アイツめぇ。来ると分かって即行で引っ込んでぇ……! とにかく、昼休みに食堂で! 分かった?」

「分かったよ。じゃ、また後でな」

 そう言い残し、一夏は教室へと入っていった。その足が少し早かったのは、千冬の睨みのせいであろうか。

 連れ立っていた少女は、鈴を睨むような視線で一瞥すると、一夏の後に続いて教室に入った。

 セシリア・オルコットの姿も既に無い。鈴も遅れないようにと踵を返した。

「あぁ、凰鈴音。次の休み……少し顔を出せ」

「っと……了解です、千冬さん!」

「織斑先生だ。まったく……」

 背中越しに聞こえるボヤキに気づかないふりをして、鈴は廊下を走っていった。

 

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