IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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ある意味、この話を書くためにIFを始めたようなもの。


外伝 乙女の矜持と、男子の総意

「……それで、体に異常はないのか? 一年以上検査もなしだ、どこか少しでもおかしいなら言え?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。鈴ちゃんの体、結構頑丈だから」

「そういう意味じゃない。男の精神が女の体に入る……それが何か弊害を産んでいないかと、心配しているんだ」

 ここはIS学園校舎内の一角。人通りもない、死角となる場所だ。そこにいるのは千冬と鈴だ。

 だが、鈴は雰囲気が違う。口調、立ち振舞。まるで別人だ。それは当然だった。今、表に出ているのは鈴ではなく春斗なのだ。

 春斗は千冬の言葉に、少し考える素振りを見せる。

「そうだねぇ………あ、一つだけ」

「何だ?」

「月に一度――体が辛くて」

『やめんか、このバカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

『いや。だって、じゃあ何でそのタイミングで体を明け渡したがるのさ!?』

『ぐっ……。と、とにかくそういう生々しい事じゃないでしょうが!?』

「……つまり異常ないということだな、春斗?」

「そういう事です。姉さん」

 呆れ気味に軽く頭を抱える千冬に、春斗はツインテールを指でいじりながら返した。

「凰。色々苦労をかけるだろうが、もう少し頑張ってくれ」

「――はい、大丈夫です。何だかんだで、もう付き合いも長いですし。扱いにも慣れたものです!」

「そうか。そうだったな」

 薄い胸を自信満々に張る鈴に、千冬は微笑みを浮かべるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 昼休みになり、鈴は廊下を走っていた。長いツインテールが大きく波打ち、それが他の生徒にぶつからないように気を付けるせいで、なかなか早くは走れない。

 そんなに急いでいる理由は、一夏との約束があるからだ。何せ自分からしておいて、遅刻では洒落にならない。

『だからって、そこまで慌てなくても』

『約束は守る――そこだけは絶対に譲れないわ!』

『義理堅いねぇ、本当に』

『女は義理堅く。ってね。ていうか急がないと席埋まっちゃうし!』

 IS学園の食堂は広い。だが、多くの生徒が利用する以上は席の取り合いは必至。僅かな遅れが致命的になるやも知れないのだ。

『いや、一夏が席を確保してくれてるでしょうよ?』

 春斗のツッコミは悲しくも、急く鈴の心には届かないのだった。

 果たして食堂に着けば、やはりそこには行列。仕方なしに並ぶ。しばらく待ち、食券を買い、カウンターからラーメンを受け取ると、鈴は食堂内をうろついた。

「さてと……一夏はどこかしら?」

『まぁ、良くも悪くも目立つ奴だからねぇ。……あ、あそこ。窓際。ちょっと人だかりできてる』

「……本当に分り易いわね」

 人垣を抜けてみれば、やはりそこには一夏の姿があった。そしてもう一人、先刻のポニーテールの少女もだ。睨む視線も先刻のままだ。

 そしてもう一人。見慣れない人物もいる。リボンを見る限り、三年生のようだ。

「…から、私が……」

「――お、やっと来たか。ここだ、ここ!」

 一夏は鈴に気付くと大きく手を振った。上級生はいきなり話をぶった切られて、あからさまに不機嫌な顔を覗かせた。

「そんなに大声出さなくても分かってるわよ」

 席に近づくと一夏が少し動いてスペースを開けてくれたのでそこに腰を下ろす。

「お、やっぱりラーメンか。昔っから変わらないなぁ」

「良いでしょ、別に。好きなんだから。で、此方さんは何?」

 鈴は上級生を指差し、尋ねる。

「いや、なんかISの事教えてくれるって」

「はぁ? そんなのアタシが教えれば済む話じゃない」

「お、マジか!?」

 一夏は鈴の申し出を聞き、渡りに船とばかりに飛びつく。が、それを遮って、上級生が声を上げた。

「ちょっと待って! あなた、いきなり出てきて、何を勝手なことを言っているの!? そもそも、あなたも一年でしょう? 私は三年生なのよ。教えるにしても経験が違うわ」

「――それじゃ、その経験豊富な先輩は……当然、私より詳しいんですよね、IS?」

「当然でしょう。さっきからそう言って――」

「じゃあ勿論、どこかの代表候補生なんですよね? ……アタシと同じで?」

「えっ……?」

 鈴がニヤリと笑いながら上級生に尋ねると、あからさまに顔色が変わった。

「申し遅れました。アタシは凰鈴音。中国の代表候補生やってます。どうぞお見知りおき」

「ふぁ、凰鈴音……!? もしかして、あの……!?」

 鈴の名を聞き、上級生は顔色を更に変えた。流石に〈凰鈴音〉のインパクトは強かったようだ。

「で、先輩はどこの代表候補生ですか? 当然、専用機、持ってるんですよね?」

 これでもかという程の満面の笑みを鈴は見せる。元来、笑顔とは牙を剥く威嚇行為というが、これは正に獰猛なる肉食獣のそれであった。

「あ、え……と……ご、ごめんなさーい!!」

 ジリジリと後退り、そして脱兎のごとく逃げ出した。その様子にぽかんとする一夏と、鈴を尚も睨む少女。

「……驚いたなぁ。鈴、もしかして有名人か?」

「まぁ、不本意ながらね。それよりさぁ……なんか、すっごく睨まれてるんだけど?」

 鈴はうんざりしたように、向かいに座る少女を顎で指す。

『うーん。この、色々言いたい聞きたいけれど、妙なところで意気地が無かったり人見知りしたり意地っ張りだったりするせいで出来ないもどかしさを全て目線でぶつけてしまおうという、この不器用具合……可愛いなぁもう』

『でもって、何であんたの分析は事細かく完璧なのよ!? それと言っとくけど、全っ然、可愛くないわよ!! ていうか、結局誰なのよ!?』

「一夏。一体誰なのだ? さっきから随分と親しそうだが?」

「一夏。こいつ誰なのよ? あんたの知り合いなんでしょ?」

 鈴はまったく届かない答えを急くように、一夏を睨む。そしてもう一人の少女も一夏を一瞥する。二つの視線にやっと、一夏は肝心なことがまだだったと気付いた。

「あぁ、そっか。ちょうど二人は転校で入れ替わり同然なんだったな」

 一夏は向かいに座る少女を見やって言った。

「箒。彼女は凰鈴音。箒が転校した後、5年になった時にウチの学校に転入してきたんだよ。でもって、鈴は知ってるだろ? 何度か話した、俺達の幼なじみ。彼女が篠ノ之箒だ。言うなれば、箒はファースト幼なじみで、鈴はセカンド幼なじみってところだな」

『いや、その発想はおかしい。幼なじみにファーストもセカンドもないから』

 などという春斗のツッコミなど聞こえない一夏は、上手いこと言えたと満足気に頷いている。

「篠ノ之……もしかして、束さんの妹の? ウソ……あの奇人変人の見本市みたいな人の妹なのに……豪くマトモそうなんだけど!?」

「初対面の人間にずいぶんな言い様だな! ……その口ぶり、まるで姉の知り合いみたいに聞こえるが?」

「知り合い……か。まぁ、知り合いではあるわね」

(知り合いだと? あの姉に……一夏や私、千冬さんや先生ぐらいしか認識しないあの姉さんが興味を抱いたというのか……? 凰鈴音。一体、何者なんだ?)

 鈴の答えに、箒は訝しむ。姉である束が他人を認識するなど、相当の出来事だからだ。

「そういや、鈴。束さんに会ったか?」

「えぇ。半年ぐらい前に。いきなり上海に呼び出されて、何事かと思ったら……屋台でカニ食べてた。しかも支払い押し付けられた。ねぇ、知ってる? カニってさぁ……高いのよ? それをさぁ……うず高くさぁ……何であんなに食ってるのよぉ……!」

「……ドンマイ」

 顔を伏せ、吐き出すような鈴の慟哭を聞き、一夏は優しく肩を叩くのだった。

「……それで、何でISの事教わるなんて話になったの?」

「あ、それがさ――」

 一夏は事のあらましを説明した。

 鈴と別れた後、1組ではクラス代表を選ぶ話になった。それに推薦された一夏だったが、それに異を唱えた人物がいた。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットだ。

 一夏――男が代表などふさわしくないという処から始まり、悪態をついたという。それに怒った一夏が反論し、売り言葉に買い言葉。その結果――。

「――代表候補生に喧嘩を売って、一週間後に決闘する羽目になった、と」

 説明を聞き、鈴は深々と溜め息を吐いた。そして一言。

『バカじゃないの?』「バカじゃないの?」

「容赦無いな!? ……それで、良かったらISの事、教えてくれないか?」

「それはいいけど……」

 と、鈴が続けようとした時、割って入る声があった。

「ISは私が教える。お前は不要だ」

「ほ、箒……?」

「あー、何? 篠ノ之……箒だっけ? いきなり何よ? あんたにISの事、教えられるの?」

「私は篠ノ之束の妹だ。その意味は分かるだろう?」

「分かるわよ。あんたは束さんの妹。……で、それがどうかしたの?」

「っ……!」

「アタシは代表候補生って立場を自分の力で手に入れたわ。アンタは『篠ノ之束の妹』ってのを、自分の力で手に入れたわけ? 誰も彼も『篠ノ之束』の名前を出せば通用するだなんて思ってんの?」

『鈴ちゃん。ちょっと言い過ぎ。少し代わってくれる?』

『………良いけど。別に間違ったこと言ってないわよ。天才博士だの何だのは別だけど』

『うん。分かってるから』

 言うと、深い波の奥から意識が上がってくるのを感じる。そして――鈴の意識が沈んだ。

 

「――まぁ、それはともかく。篠ノ之さんはISに明るくないんでしょう? だったら、詳しい人に心当たりはないの? アタシはあるけど」

 含みのある瞳で箒を見る春斗。その視線に一夏は直ぐに鈴ではないことに気付き、妙なことになる前に止められるようにと構えている。

 箒は、考える素振りを見せ――そして口を開いた。

「そうだ、一夏。春斗ならば何か良い知恵を授けてくれるかもしれん!」

「なら一夏。今晩辺り、連絡取ってみたら? アイツの意見なら……篠ノ之さんも納得するでしょうし?」

「あ、あぁ……そうだな」

 一夏はそう言いながら、春斗の耳にそっと口を寄せる。

「お前……どういうつもりだ?」

「別に。落とし所を用意しただけだよ。だって、このまま鈴ちゃんが押し通しても、色々と面倒が残るでしょ? 正直、ほーちゃんじゃISの事教えられないと思うし……理解しても納得しきれない不完全燃焼で、終始眉間にしわ寄せて、四六時中睨まれている方が良い?」

「……いや、それは勘弁だ」

「でしょ?」

 と言って、春斗は軽くウインクをしてみせる。こういう自然な愛らしさを感じさせる仕草は鈴には出来ないなぁ。と、一夏は苦笑する。

 ともあれ、食堂での一騒動も落ち着いたところで、春斗は若干伸び始めたラーメンに箸を付けるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 あっという間に一週間が過ぎ、クラス代表を賭けた一夏とセシリアの決闘も今日、決着を見た。結果から言えば一夏の負けであった。

 一夏には学園から専用機〈白式〉が与えられ、初期状態のまま決闘は始まった。中、遠距離戦闘タイプであるセシリアのブルー・ティアーズに対し、白式は近接戦闘特化型。苦戦は必至であった。

 だが、素人同然ながら白式の特性を把握していった一夏は、その防御力と突破力。そしてセシリアのクセを見抜き、一気に攻め上げるも、セシリアの切り札ミサイルビットの直撃を喰らってしまう。

 あわやこれまでか。その時、白式は一次移行を終え、その名に恥じない純白の装甲で攻撃を受け切った。そして覚醒した白式の武装〈雪片弐型〉の必殺攻撃がセシリアを一気に追い詰める。

 そのまま勝利かと思われた時、試合終了を告げるアラームが鳴り響いた。

 雪片弐型の斬撃は必殺の威力を誇るが、その代償に自身のシールドエネルギーを使うという諸刃の剣でもあった。つまり、一夏は自滅したのだ。

 とはいえ、善戦した一夏に可能性を感じたのか、セシリアは代表を一夏に譲り、問題はようやく収束した。

「だが、そんな事はどうでも良い! そんなことより、お風呂だ!!」

 我らが織斑春斗は拳を握りしめ、声高々に宣言した。その背にはオーラが炎となって燃え上がっている。風呂に対する並々ならぬ決意がそれを幻視させているのだ。

「永かった。姉さんが仕事で寮にいない。アンド鈴ちゃんがこのタイミングで体を明け渡す……この瞬間を待っていたんだぁ!!」

 女風呂。それは男子の本懐。女風呂。それは永遠のユートピア。湯だけに。

「フッふんふふーん。僕は今女の子さー。揺れるツインテールは正義の印ー♪」

 鼻歌交じりというか、歌いながらロビーへと舞いでた春斗は、まだ不慣れな寮内を見取り図で確認する。焦るな、ミッションの成否は情報に掛かっているのだ。

「大浴場の場所の確認……よし。入浴道具も万全。後は踏み込むだけだ!」

 春斗は行く。その小さき双肩に、全人類の夢を背負い。いざ行かん。遙かなるエル・カザドへ。

 

「――ちょっと待て。そこの不審者」

「ぎく」

 

 背後から春斗を留める声が響いた。振り返ると一夏が立っていた。その目は明らかに不審感を露わにしていた。

「あ、あら~一夏。どうしたのよ、いきなり人を不審者呼ばわりだなんて失礼じゃない。さ~て、アタシは大事な用があるから……じゃね?」

 クルリと踵を返して大浴場への道を進もうと――。

「お前、春斗だろ?」

「ぎく」

 思わず、肩が震える。

「……いやねぇ、一夏。アタシが春斗だなんて……女の子に囲まれて鈍ってるんじゃない?」

「………」

 きゃるーん。と、擬音付きのポーズを決めるも、一夏の視線は冷たい。今更ごまかしも利かないかと諦め、春斗は浅く嘆息した。

「―― 一夏。今の僕はね……女の子なんだ。だから、これから何処へ行こうと、誰にも咎められはしないんだ。だってそうだろう? 僕は今、女の子なんだから」

「……で?」

「お湯に濡れても男に戻らない。パーフェクトガールな僕は、全ての男子の願いを……いや、全人類の夢をこの双肩に背負って、伝説の地に降り立つんだ」

 春斗はその両手を大きく掲げ、そして叫んだ。

「そう! 今の僕は人類の総意たる器なんだよ、一夏!!」

「そんなもんに人がなれるか! つーか、なるな!」

「その上、僕はツインテールになったんだ! もはや最強だよ!!」

「元々ツインテールだろうが!? 属性力奪うぞ!!」

「やめてよね! そんなことしたら鈴ちゃんのビジュアルがモノリスになるじゃないか!!」

「どんだけツインテールが占めてるんだよ!? ほぼ全部じゃねーか!!」

「それはほら、ツインテールは最強だって異世界じゃ常識らしいし」

「怖いわ、そんな異世界! ていうか、最強って何が!?」

「いいじゃないか! 女子の入浴シーンを詳細に描くと、PVと感想がガツンと増えるんだよ!?」

「PVってなんだよ!? お前、テンションがおかしいぞ!?」

「――あれ~? おりむ~、なにしているの~?」

 などとワチャワチャしていると、のほほんと言う擬音が形となって現れたかのような少女が、やはりのほほんというSEを伴って声をかけてきた。

「っ!?」

「の、のほほ――じゃなくて、布仏さん!?」

 ついつい、熱が入ったやりとりに夢中でその接近に気づかなかった二人はビクリと肩を震わせた。

 彼女は布仏本音。一夏と同じクラスの生徒だ。本音は春斗の顔をまじまじと見る。

「ん~……ん? あれ~、なにか違う感じ~?」

「ッ――!?」 

「な、何言ってんだよ!? どう見たって鈴じゃないか!? なぁ、鈴!?」

「そ、そそそそうよ! この見事なツインテールをちゃんと見なさい!」

「だから、なんでそうもツインテールを推すんだよ!?」

「今期のダークホースだからよ!」

「今期ってなんだよ!?」

「う~ん……やっぱり変~。まるで別人みたい~」

「おっと! 私には行かなければならない場所があったんだ! それじゃ、一夏! 後はよろしく!!」

 最早、ごまかすのも面倒だと春斗は脱兎のごとく走る。後ろで一夏がなにか言っているが、走りだしたツインテールは止まらない。

 

「――止まれ」

「ゴフッ!?」

 

 首に黒い、まるで靭やかな柳のような腕が絡みついた。そのまま、グイッと引き上げられる。首がしまって、息がまともに吸えなくなる。

 春斗が視線を上げれば、見慣れた黒髪が視界の端に映った。

「凰鈴音……何処に行こうとしている? この先は――大浴場だぞ?」

 淡々とした口ぶりで、千冬は尋ねた。

「ち、ちふゆね……さん? なんで……きょうは……おそいはずでは……?」

「その予定だったのだがな……何やら胸騒ぎがしてな。山田君に後を任せてきた」

「そ・・・それは・・・やまだせんせいが・・・かわいそう・・・では? というか・・し・・しまって・・・・る」

「あぁ、そうだったな」

 パッと、首に掛かっていた圧力が消える。開放された春斗は咳き込みながら、何とか息を吸い込む。

「ところで……お前には許可無く大浴場には立ち入らないようにと、注意しておいた筈だが?」

「ッ――!!」

 再び、呼吸が止まった。冷や汗が背中を伝い落ちる。

「い。いや……。流石に、シャワーばっかりだと……た、たまには湯船に浸かりたいなぁって……ね?」

 テヘペロと、可愛らしさをアピールするも、千冬の視線は寒かった。その口元が薄く、釣り上がった。

「そうか。だったら、寮長室の風呂を貸してやろう。安心しろ。『誰も入れさせん』ように、監視してやる」

「………わぁい。うれしいなぁ」

 首根っこを捕まれ、春斗はズリズリと引きずられていく。

「ち、千冬姉。だったら俺にも風呂、貸してくれよ」

「お前は駄目だ」

「なんで!?」

「少しは考えろ」

 一夏の言に千冬は呆れ気味に嘆息し、そのまま春斗を引きずっていった。

「一夏ぁ。寮長室のお風呂は……山田先生も使うんだよ」

「あ、そういうことか」

 春斗が残した最後の言葉に、謎が氷解する。

 山田先生とは1組副担任の山田真耶。寮長室の風呂は、生徒用の大浴場を使用しない千冬と真耶が共用する物だ。そして真耶は男子に対して免疫がない。

 そんな彼女が一夏の使った、あるいはこれから使う風呂にはいれるだろうか。答えは否だ。

 

 かくして春斗の――否。人類の総意は世界最強の姉によって阻まれてしまったのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「………はっ!?」

 鈴はキョロキョロと辺りを見回した。そこは自分の部屋だった。だが、何かが違う。

「髪が……湿ってる?」

 それが意味する所に気が付き。鈴は叫んだ。

『ちょっと、春斗! あんた、アタシが眠ってる間に…………春斗?』

『………』

『おーい、春斗ー?』

『ごめん。今の僕は抜け殻だ。そっとしておいて』

『……え。あ、うん……』

 春斗が余りにも意気消沈しているので、鈴はそれ以上踏み込めなかった。

 

 この日の出来事を知った鈴が、春斗を精神世界でどつくのは、これより13時間後のことである。

 




無用な過程は吹っ飛ばす。
次回も鈴ちゃん大活躍!!

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