IS〔ツイン・ソウルズ〕   作:犬吉

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飛び飛びなのは、書きたいところだけをピックアップしたからです。
正直、細かく書いてるとめんd……ではなく、しつこいと思ったので。

あくまでも外伝ですのでね。


外伝 龍妃乱舞/龍皇激昂

 時は五月。アリーナには詰めかけた生徒達の歓声が響き渡る。

「ハァ……凄いなこりゃ。まるでお祭り騒ぎだ」

 アリーナのピットからその様子を窺っていた一夏は感嘆の息を漏らした。

 実際、そうなのだろう。全寮制で学園外への外出が制限されている中、こういったイベントは娯楽の要素も多分に含んでいる。適度な刺激は、モチベーションの維持に最適なのだ。

 そして、各国からの要人も、このアリーナに足を運んでいる。

 

 今日、これから行われるのは〈クラス対抗戦〉。学年別のリーグマッチだ。そしてその栄えあるトップバッターを務めることになったのが、織斑一夏である。

「相手は……よりにもよって鈴か。アイツのIS……何なんだ、これ?」

「IS名は〈封龍〉。両肩の八枚翼が基本武装のようですわね。データ上のスペックはともかく、実際の戦闘力がどれだけのものか……これでは分かりませんわんね」

 モニターを見ていたセシリアが難しい顔をする。ISのデータは基本、開示されることが国際条約で決められている。

 だが、この〈データ〉というのがクセモノだ。機体のスペック。武装の種類。使われている装甲。型番ete……。様々な中に唯一、開示される事のない〈合法的に隠せるデータ〉がある。

 それが〈実働に伴う、想定外の稼働データ〉だ。

 例えば、ブルー・ティアーズのBTが想定した以上の現象を引き起こしたと仮定する。

 ブルー・ティアーズの運用データは報告され無くてはならない。だが、〈想定以上の現象〉に関しては報告義務がないのだ。

 つまり、スペック上のデータで分かることは、参考レベルでしか無い。基本をどう応用させてくるかは、実践で見極めるしか無い。

「どっちにしろ、ここまで来たらやるだけだ。それじゃ、行ってくるぜ」

 カタパルトから勢い良く射出される一夏。太陽の下に躍り出た純白の機体には陽光が美しく映える。 

 そして、一拍遅れて鈴の封龍も姿を現した。

 

 紫を基調としたカラーリング。全身の装甲に紋様のそうな装飾。装甲そのものにはパッチワークのような繋ぎが見える。

 そして一番の異様――それは背に見える〈巨大な翼〉。

 緩やかなS字を描く、大小合わせて十六枚が一対として備えられている。それらを束ねるのは円錐を張り合わせたかのような杭状のユニット。

「そいつが〈封龍(フォンロン)〉か。カッコイイじゃないか」

「ありがと。でも、そんな軽口言えるのは……今だけよ? こいつのスペックは……ハンパじゃ無いんだから」

「知ってるよ。そんな事」

 言われるまでもない。と、一夏は笑う。あれを設計したのが春斗だと知ったその瞬間から、覚悟はしていた。

 天才が生み出した――超越機。その恐ろしは以って知るべし、と。

「だからって、手加減はいらないぜ鈴。本気でやらなきゃ……勝負は面白くねぇ!」

『僕は口出ししないから、好きにやると良いよ』

「分かってるわよ。手加減なしで行くから……喰らいついてみなさい!」

 一夏が雪片弐型を、鈴が巨大な青竜刀〈極天牙月〉を抜き放ち、構える。

 

『それでは両者。試合を開始してください!』

 

 鳴り響くブザー。だが、それは直ぐに掻き消える事になった。

 

 ギャィイイイイイイン!!

 

 真っ向から突っ込み、両者の刃が火花を散らす。極天牙月の重厚な刃は、白式のパワーを持ってしてもそう易々とは崩せない。一夏は小さく舌打ちすると、手数で押し切るべく、連撃を繰り出した。

「おっと。流石に手数は押されるわね……でも!」

 封龍の翼が大きく開き、一気に後退する。空を切る一夏の斬撃。仕切り直しとばかりに鈴は一転、突撃を仕掛ける。

「どりゃああああ!」

「ぐう――っ!」

 速度を付けての一撃は、白式を激しく揺さぶった。バランスを崩した一夏に、鈴は激しく迫る。

「どっせい!!」

 柄を両手で握りしめ、ブロックしたその上から、力任せに刃を叩きつける。並のISならばこれだけで相当の脅威になる。だが、白式は押されながらもそれに耐えてみせる。

「やるわね。封龍のパワーに耐えられるなんて――でも!」

 鈴は極天牙月を大きく振りかぶった。

「くる――!」

 特大の一撃が来る。一夏はそれを捌いて切り返さんと意識を研ぎ澄ます。

「これはどうかしら!?」

 振り下ろされる瞬間、火花が散って――極天牙月の刃が伸びた。刹那、一夏の背に氷の刃が突きつけられた。

「ハァッ!!」

「チイッ!!」

 受けを止め、全力で躱す。鈴の斬撃が顔の正面を撫でる。

 

 ギィ――ン!

 

「……へぇ。受けるのを止めて躱したんだ。おっしぃなぁ。受けてくれてたら、その刀ごとぶった切ってあげてたのに」

 極天牙月の刃はその厚さを半分にし、代わりに長さが倍になっていた。今まで見えていた刃の下に、別の刃が仕込まれていたのだ。

 白煙を吹き、刃がスライドして元の形へと戻る。その動きは、雪片弐型の変形を思わせた。

「掠っただけでショルダーアーマー真っ二つとか……どんな威力だよ、それは」

 一夏は先端を失くした右肩を見やる。近接仕様であり防御力も高い白式の装甲を、紙のように切り裂いたのだ。

「極天牙月〈絶ノ型〉。単発でしか使えない上に、チャージに時間掛かるのが難点なのよねぇ」

「おいおい。そういう情報、相手に教えて良いのか?」

「いいわよ。だって――」

 鈴は左手を持ち上げると、その手の中にもう一振りの極天牙月が現れた。

「まだまだ、手は隠してるもの」

「……さいですか」

 にこやかに笑う鈴に、一夏はうんざりするのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 モニタールームでは試合の様子が記録されており、千冬や真耶、セシリアと箒が二人の試合の様子を見守っていた。

「鈴さんのIS……なんというスペックですの」

「あれだけ特訓したというのに……一夏が押されているだと!?」

 セシリアと箒は、対抗戦に向けて、一夏の特訓にずっと付いていた。その結果、代表決定戦とは比較にならないほど腕を上げた一夏のことを知っている。

 だからこそ、ここまで形成が傾くとは思いもしなかったのだ。

「お前ら。これを見てみろ」

 千冬は仮想モニターを二人の前に展開させる。

「これは……スペックデータ?」

「一つは封龍。もう一つはそのベースとなった甲龍のものだ」

 モニターに映る二機のISのデータ。それを見たセシリアの顔色が見る間に青ざめていった。

「な、何ですのこれは? 封龍は甲龍の発展機ではありませんですの? これでは……これではまるで、まるっきり別の機体ですわ!?」

 パワー。スピード。反応。どれもが高水準。元々バランスの良かった甲龍だったが、その全てが大きく数値を上げている。

 それだけでなく、甲龍には搭載されていない機能や装備が、いくつも追加されている。

 それは最早、発展の域を超えている。甲龍タイプの次世代機だ。

「凰鈴音……これ程の才覚を持つ人が、どうして今まで表に出なかったんですの?」

 未だ見えぬ龍の底力に、セシリアはゴクリと固唾を呑んだ。一夏と鈴は互いの刃を激しくぶつけ合っている。

「一夏……負けるな」

 箒はただ、一夏の勝利を願った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「はぁ……はぁ……っ」

 鈴は雪片の切っ先の向こうに一夏を捉えていた。その肩は大きく上下し、息が上がっている。額にも汗が滴り落ちている。

「なかなか粘るじゃない。でも、随分と息上がってるわね? そろそろ体力も限界なんじゃない?」

「冗談言うなよ。ようやく、ウォーミングアップが済んだってのに……本番はこっからだぜ」

「ふぅん。それじゃ、その〈本番〉ってのを……そろそろ初めましょっか!」

 鈴は言うなり、真っ向から突撃してきた。一夏も正面から迎え撃つ。

「うぉおおおおお!」

 先刻まで押し込まれていた一夏の刃が、逆に鈴の刃を押し返してきた。鈴は驚きに目を見張った。

「ッ……!? 白式の出力が上がってる……!? そうか、この戦闘中にISが一夏に合うように適応しているのね」

『それにしたって、封龍のパワーに抗えるとは……倉持技研にこれだけのISを作れる技術力があったかな……?』

 春斗が思わず口に出してしまった。実際、封龍は中国の技術力の大半を春斗がかき集めて造ったスペシャルだ。それと対抗できる機体を倉持技研が造れるのかというと、どうにも疑問が残った。

「行くぜ、鈴!」

 押し負けないと踏んだ一夏は、一気呵成に攻める。それを捌きながら、鈴は一つの事を考えた。

『なんだかきな臭そうなISってことね。まぁ、そんなことはアタシには関係ないし。それより……()()、使うからね?』

『学園の試合程度で使う代物でもないんだけど……ま、鈴ちゃんがそう決めたなら、それでいいよ』

 やれやれといった風に春斗が答えると、封龍のモニターに『セーフティ解除』の文字が浮かんだ。

 それを見た鈴はニヤリと笑う。

「うりゃああああ!」

 一夏は上段構えから、一気に距離を詰める。鈴が何かを企んでいるのは察していたが、白式が近接戦闘特化型である以上、打てる手は変わらない。

 鈴は先程までと同じように極天牙月を構え、その一撃を受け止めた。

「っ――!?」

「フフ――」

 一夏は驚きに目を見開き、鈴は余裕の笑みを見せた。さっきまで押し混んできていた筈の白式の攻撃を、鈴は微動だにせず受け止めていたのだ。

「何で……! さっきより封龍のパワーが上がってるのか!? ……っ!?」

 驚きながら、一夏は気付く。封龍の腕部装甲が先刻よりも大きくなっているのだ。そして、さっきまでは見えなかった紫色の光のラインが露出している。

「でぇい!」

「くっ!」

 鈴が刃を振り抜けば、白式が大きく弾かれる。その一動だけで封龍のパワーが比較にならない程に上昇している事を示している。

 鈴は攻めに転じる。力任せに刃を振るえば、白式を大きく弾き飛ばした。

「クソ! 何でいきなり……? その変形した装甲に何か関係有るのか……?」

「ふふん。これが封龍の特殊装備〈闘龍紋〉よ。装甲が変化すると、性能も変化するの。面白いでしょ?」

「やり合ってる立場からすれば、面白くもないがな……」

「そう? それじゃ、こっちは気に入ってもらえるかしら!!」

 そう言うと、封龍の翼が大きく開く。そしてその中心――杭状のユニットのに対して白式が警告を発した。

「っ――!?」

 瞬間。一夏を激しい衝撃が襲った。咄嗟に防御するも不意の一撃に耐えられず、一夏はフェンスまで吹き飛んだ。

「痛ぅ……。一体何が……っ!?」

「ふぅん。今のを反射的に防いだ、か。流石にやるわね。この衝撃砲〈雷功〉は不可視なのが売りなのに。でも、今のはまだジャブだからね!」

 再び、雷功ユニットにエネルギーが集まる。一夏はすぐさま横に飛んだ。直後、激しく地面が爆ぜる。

 更に封龍の衝撃砲が地面やフェンスを爆砕していく。一夏はどうにかそれらを躱しながら、全力で飛ぶ。

「いくら躱しても無駄よ!」

 鈴は衝撃砲を放ちながら、白式を追撃する。

「こっちには射撃武装無いってのに、バカスカ撃ってきやがって……! 見てろよ、ぎゃふんと言わせてやる!」

(目が死んでない……ってことは、何かあるのね? この状況を覆す切り札が。でも、打てなきゃ無いのと同じよ!)

 一夏は大きく回るようにして攻撃を躱しながら、一瞬の隙を狙い、鈴は衝撃砲で牽制しつつ、一夏の切り札を警戒する。

 両者の最後の激突は近い。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「今の攻撃……あれが封龍の第三世代武装〈衝撃砲〉ですか。封龍の基となった甲龍に装備されていましたが、それを更に改良したもののようですね。背中の翼〈応天翼〉は独立型PICユニットで、それと中心のユニットを掛け合わせることで、複数の砲身を同時展開、もしくは旧型では不可能だった遠距離用砲身の展開も可能になっていますね」

 真耶の言葉にセシリアが渋い顔をする。

「あの装甲変化……性能を変異させるだなんて、どういう原理ですの? あんなものを独力で設計するだなんて……凰鈴音、恐ろしい相手ですわね」

「だが、それでも一夏は……負けない!」

 箒は必死に言葉を吐き出す。状況は圧倒的不利。それを理解した上で、それでも一夏の勝利を信じているのだ。

 モニター上では、二人の戦いも終局へと近づいていく様子が見えた。

 

 この戦いもいよいよ終わる。誰もがそう思った時――世界が激震した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 鈴と一夏。その決着は空からの乱入者によって消え去る。

 遮断シールドを貫く閃光。アリーナを激震が襲い、それは大地を鳴動させるがごとく降り立った。

 フルスキンの漆黒のIS。大型ビーム発射口を備えた巨大な腕が際立つ、異形の姿。

 それは問答無用とばかりに二人に襲いかかる。

 アリーナはハッキングを受けて生徒達の脱出は不可能という状況の中、一夏と鈴は謎のISを迎え撃つ。

「くそっ、なかなか近づけない!」

 接近を試みる一夏だったが、謎のIS――アンノウンのビーム攻撃に晒され、その足を止められてしまった。

 だが、幾度かの攻防の中、敵が人間ではなく機械的システムにより稼働している無人機であると分かった。

 一夏は最強の攻撃〈零落白夜〉を仕掛けようとするも、確実に当てられるタイミングが掴めないでいた。

「一夏下がって! さっきまでの戦闘でもうSEが殆ど無いんでしょ!?」

「けど、このまま黙ってる訳にも行かないだろ!? 男は女を守るもんだ!」

「そういう台詞はアタシより強くなってから言いなさいよ! ……ッたくもう」

 そう言いながら、鈴の口元がわずかに緩む。

『鈴ちゃん、デレデレじゃないか』

『うっさいわよ! それより、闘龍紋を全開で使って、どれぐらい持つ?』

『機体放熱に因るスペックダウンを最小限に考慮するなら……60秒まで』

「よし……一夏! 今から60秒、アタシが仕掛けるから仕留め切れなかったら、後押しお願い!!」

「お、おい鈴! 一人じゃ――」

「リミッター解除! 闘龍紋全基解放!」

『エネルギーフロー出力最大! カウント準備!!』

 止めようとする一夏に構わず、鈴は全身の装甲を開く。そこから溢れ出す輝きは、宛ら激昂する竜皇の如く。

「行くわよ、モード――〈逆鱗〉!」

 鈴が叫ぶ。それは皇の封印を解き放つ、禁断の言ノ葉。

 

 グォオオオオオオオオオオ――!

 

 翼が大きく開き、封龍が烈風の如くアンノウンに襲いかかる。アンノウンも直ぐに反応し、両腕部のビーム砲を撃つが、それよりも早く鈴が飛び込む。

「どりゃああああ!」

 アンノウンのボディに叩きこまれた一撃。腕部小型衝撃砲〈崩山(ほうざん)〉による攻撃だ。その衝波にアリーナの端まで吹き飛んだアンノウンに、鈴はすぐさま追撃を仕掛ける。

 ビームは間に合わないと判断したのか、アンノウンはその巨腕を大きく横薙ぎに振るう。

「ふんっ!」

 鈴は速度を落とさないまま、封龍の出力のみで巨腕を弾き上げる。がら空きの左腹部に狙いをすまし、拳を握りしめる。

 突き刺さる鉄拳。だが、アンノウンはダメージなど無いかのように、その巨拳を振り下ろす。

「ふっ+!」

 それを真っ向から受け止め、力で押し返す。

『残り48!』

「ハァ!!」

 右拳。返して左。ひねり込んでの右回し蹴り。身軽な鈴が封龍のパワーに乗せて怒涛の連続攻撃を繰り出す。

「このまま一気に――っ!?」

 攻め切る――という瞬間。アンノウンがそのブースターを全開にして鈴に突撃してくる。勢いに乗る鈴は躱せず、アリーナの中央まで押し返される。

 それだけではない。アンノウンはそのパワーでギリギリと鈴の体を締め上げ、更に肩部ビーム発射口から攻撃を放った。

「キャアアアアッ!」

「鈴っ!」

「この……いつまで………!」

 押さえ込んでいたアンノウンの腕が、ギリギリと押し広がっていく。

「抱きついてんのよ、コラァアアアアアアアア!!」

 ついに弾き上げた腕を逆に掴み返し、強引に背後を取る。そして羽交い締めの態勢を取ると、鈴はアンノウンをブリッジの態勢からの投げ――ドラゴンスープレックスで地面に叩きつけた。

 後頭部からまともに落ちたアンノウンに対し、鈴はスラスターを全開にして上昇。そこから急降下キックを見舞った。

『残り39!』

「っ!?」

 だが、アンノウンは蹴りを食らいながら――いや、敢えて喰らって鈴の足を捕らえる。

 そのまま、封龍を力尽くで持ち上げると、バーニアの出力に任せて上空に飛び上がる。

「こいつ……やっぱり無人機なの!? ダメージどころか、何の躊躇もないなんて……!」

 今更ながら、敵が無人機であるということの厄介さを思い知る。普通ならダメージを受ければ攻撃に動揺なりの反応する。ダメージそのものに反応も鈍化するだろう。だが、無人機――機械相手ではシステムが生きている限り、止まらないのだ。

「だったら……こいつで!」

 鈴は極天牙月を展開し、敢えて同方向にスラスターを向ける。二機分の出力を得て、真っ直ぐ、遮断シールドの天井まで突き進んでいく。

『残り27!』

「応天翼!」

 ばきん! と背中の翼が稼働し、PICが連動稼働する。ギュルンと体を回し、その勢いでアンノウンを遮断シールドに叩きつける。

「まだまだぁ!」

 鈴は変形させた極天牙月を突き出す。その一撃が右腕を貫いた。そのまま刃を戻し、可動域で腕を押さえ込むと、一気に引っ張った。

「どっせええええええええい!!」

 そして、アリーナ中央目掛けて、アンノウンごと全力で投擲した。

 盛大な音と粉塵を上げてアリーナに墜ちたアンノウン。そこ目掛けて、鈴は両肩の衝撃砲を構える。

「雷功、出力最大! 落ちろぉおおお!!」

 破壊の豪雨がアリーナに降り注いだ。それはアンノウンに離脱を許さないほどに強烈で、余波で巻き上がった土埃がアリーナ全域を覆い隠してしまうほどに苛烈だった。

 すっかり見えなくなった地上にセンサーを送り、鈴はアンノウンの停止を確認した。

『逆鱗停止。タイムアウト3秒前』

「ジャスト一分……とは行かなかったわね」

 封龍を形作る全身の装甲が戻り、冷却のスチームが吐き出される。そのまま地上までゆっくりと降りてくると、何故かボロボロの一夏がやって来た。

「……一夏。何でボロボロなのよ?」

「お前があんなに派手な攻撃するからだろうが! 破片は飛んでくるわ、土煙に巻かれるわでひどい目にあったぞ!?」

「………一夏?」

「なんだよ?」

「……ゴメン♪」

「お前、謝る気ゼロだろ!?」

 テヘペロ♪ と、舌を出して謝る鈴に、一夏が叫んだ。

「やーねー。謝る気なら有るわよ……これぐらいは?」

「髪の毛一本じゃねーか!」

「違う違う。厚さ」

「もっと小さいじゃねーか!! ゼロコンマレベルだよそれ!?」

「いちいち細かいわねー。男のくせに器がちっちゃいわよ?」

「鈴の胸ほどじゃねーよ! ――あ」

 瞬間。空気が凍る。ゴゴゴゴゴ……! とでも音が聞こえそうな

「……一夏? 今、何て言った?」

「あ、いや……何も言ってないぞ?」

「ほほう? そう~?」

 ゴキゴキと指を鳴らし、鈴は素晴らしい笑顔を見せる。何故か一夏は後退った。

「ちょ、待て! 笑顔が怖い!!」

『イチカ死スベシ。慈悲ハナイ』

「おい、ちょっとは止めろよ!?」

「一夏……全力で殴られるのと、全力で斬られるのと、全力で撃たれるの……どれが良い?」

「どれも命に関わるじゃねーか!?」

 一夏の未来終了までのカウント・ダウンがシメヤカに行われようとした。その時――。

 

「「ッ――!」」

 

『一夏!!』

「鈴、下がれ!」

 春斗の声が響き、同時に一夏が鈴を押し退けて、土煙の中に飛び込んだ。

『敵性IS再起動。高エネルギー確認!』

「ウソ!?」

 封龍のハイパーセンサーが警報を鳴らす。鈴が驚きの声を上げたその直後、閃光が走る。そして風が吹き、煙が晴れていく。

 その向こうから現れたのは逆袈裟に斬られたアンノウンと、光刃を振りぬいた一夏の背中だった。

「零落白夜……手向けがわりに持っていけ」

 ヒュン! と、風を切って一夏が光刃を返すと、アンノウンはゆっくりと崩れ落ちた。

 今度こそ、完全停止した事を確認し、一夏は深い溜め息を吐いた。

「一夏……どうして?」

「ん? だってお前が言ったんじゃないか? 『仕留め切れなかったら、後押し頼む』って。ちゃんと自分の目で確認するまで……油断できないからな」

「あ……!」

 鈴は目を見開き驚く。一夏はセンサーではなく、己の目を信じていた。自分の言葉を、約束を守るために。

「で、でも……センサーより早く、何で気付けたの? 春斗もよね?」

「ん? 俺は春斗の声が聞こえたからな。次の瞬間には突っ込んでた」

『僕は何となくかな? 強いて言うなら、アイツが動くって……誰かが教えてくれた感じ?』

「………殆ど勘じゃないのよ」

 呆れ気味に、鈴は嘆息する。とは言え、二人が自分より早く動いて助けてくれたことは事実だ。

「お、ハッキングが解けたみたいだな。シールドが解除されてく」

『やれやれ。この有り様じゃ、リーグマッチは中止だね』

 

 

「……ありがと、二人とも」

 鈴は小さく、そう呟いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ――フランス某所。 

 

 薄暗い一室に一つ。煌々と照る明かりがある。光が映し出す影は三つ。

 明かり――大型モニターには、何処から入手したのか、アリーナでの封龍とアンノウンとの戦いが映し出されていた。

「……これが中国の第三世代IS封龍。噂には聞いていたけど……これって」

「間違いない。これは〈可変装甲〉だな。しかも、我々が開発したものよりも完成度は高いようだな」

「てことは……出元は同じ、ですかね?」

 老人の声と、若い女の声が響くなか、もう一人は踵を返した。

「ちょっと、どこ行くの?」

「トレーニングです。もうすぐ、日本に発つ日ですから」

 声は少女のもの。少女はドアを開け、その三つ編みを揺らす。

 

「あの人が作ったドラグーンこそが唯一、最強なんです。そんな偽物、直ぐに化けの皮を剥いでやります」

 

 少女の名はシャルロット・デュノア。フランス代表候補生にして専用機〈ラファール・ドラグーン〉のパイロットでもある。

 

 封龍とR‐ドラグーン。

 同じ人物によって設計され、奇しくも同じく”竜”の名を関することになった姉妹機。

 遭遇する日は――近い。

 




これにて、外伝は終りとなります。

シャルロットさん、敵対心丸出しです。
この世界ではドラグーンはすでに完成しており、シャルロットの専用機となっています。


ぶっちゃけ、封龍とかスペックばかみたいに強くしすぎたなぁとw








おまけ


IS設定

名称:封龍(フォンロン) 和名:封龍(フウリュウ)

型番:皇式・翼【壱】

装備:可変式大型柳葉刀〈極天牙月〉×2
   腕部小型衝撃砲〈崩山〉×2
   肩部大型衝撃砲〈雷功〉×2
   独立連動式PIC〈応天翼〉
   可変装甲〈闘龍紋〉

装甲:硬度可変型ヘヴィー・イグニス装甲(可変装甲対応型)

仕様:空間圧作用兵器〈衝撃砲〉(多重展開仕様)

概要:中国製第三世代IS甲龍をベースにして開発された、凰鈴音専用機。
   甲龍は元々、他国との差をつけるために実用性と効率性を重視して、高いスペックを有していた。
   その甲龍を、織斑春斗がOS及びメインフレームから再設計し直し、その際に武竜(ラファール・ドラグーン)設計時のノウハウを組み込んで作られたスペシャル仕様が本機である。
   基本スペックも大きく向上し、全体で133%のスペック上昇を見せている。
   最も大きな特徴は二つ。
   新型衝撃砲〈雷功〉は、以前の衝撃砲〈龍咆〉では不可能だった多数砲身同時展開。及び遠距離攻撃用砲身の展開を可能としている。また、砲身展開速度も旧型より27%早い。
   特殊装備である〈闘龍紋〉は武竜の装備と同じ可変装甲である。ただし、武竜が性能変異と武装換装を併用していたのに対し、こちらは性能変異に特化した仕様になっている。
   これは武竜とは異なり、リンドブルムによるエネルギー生成能力が無いため、燃費が極端に悪くなるからである。
   性能変異に特化させ、エネルギーロスを徹底的に廃した結果、コスト以上の性能を発揮することが出来る。
   闘龍紋という名称は、装甲可変の際に表面の装飾(防御エネルギーライン)と内側のエナジーラインが形を変えるのを見たとある職員が「まるで竜の刺青だ」と称したことから転じて名付けられた。
   奥の手である〈逆鱗〉は全身の可変装甲を展開させ、スペックを理論最大値まで強制的に引き上げるシステムである。ただし、エネルギーの消耗と発熱に因るスペックダウンが著しく、発動可能時間は限定される。
   また、禁じ手として〈龍咆劫火〉という武装が存在する。零落白夜が必殺ならば、この武装は必滅。文字通り対象を劫火にて葬り去る。

   余談ではあるが、本国では甲龍に封龍用OSを組み込んだ甲式・旋【四】の開発が行われている。
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