おんハピ♪ 〜Only Happy♪〜   作:赤瀬紅夜

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Lucky.13 ぼんやりと

4月19日の火曜日の帰り道に、私は美術室の前にいた。

この日は窓から差し込む日の光がぽかぽかと暖かくて、春先に似つかわしい天気だった。

 

ナノちゃん、つまりこの美術室に先週入部した園池 菜野花の部活が終わるのをぼんやりと待っていたんだけど……。

 

………なかなか、出てこない。

 

すぐに終わるから…と言っていた割にはかれこれ30分以上は待っている。

 

窓の外にいたスズメが、1匹いたのがいつのまにか少しずつ増えていって今では5匹くらいになっていた。

 

待つくらいなら美術室に入れば良いのではないかと思う人もいるだろうけど、入りずらい理由がその美術室から騒々しい音が聞こえ続けているから。

ドッドッドッド、ガタガタ、とまるで工事現場かの様な音を立てていて、私はこの部屋へと続く扉を開けれないままでいた。

 

入ろうかと悩んでいる間に、ガラガラと音を立てて美術室からナノちゃんが出てきた。

 

「彩歌・・・もしかしなくても、待った?」

 

相変わらず無表情気味な顔でそれでも少し、申し訳なさそうにそう私に尋ねた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

それから30分後、とある美術館の展示室にて一枚の絵を2人で眺めていた。

 

ナノちゃんと美術室の前で合流した時に、余ったと言う美術館の鑑賞券を使い、2人で見に行くことになった。

そうして訪れたのだけれど、この部屋に入るなりナノちゃんはこの絵を見つめたまま動かなくなっていた。

 

「ナノちゃん、よほどこの絵が気に入ったんだね。」

 

ちょんちょんと肩を叩きながら言うと、くるりとこちらを見て…うん、と小声で返した。

 

それにしても、かなり大きな絵だった。

 

縦幅3.2m、横幅2.7mくらいの絵で、この部屋に入った際に1番目立つであろう中央に飾ってあった。

まるで見るものを圧倒するこのように鎮座していて、その絵を見たナノちゃんの目線は釘付けにされていた。

 

その絵は凄い不思議な絵で、真ん中に白いドレスを着た少女、左右には同じようなドレスを纏った女がいる。

その少女の左側には絵の具を持ち絵を描こうとしている画家のような風体の者がいて、反対側には犬や使用人のような者たちもいる。

………しかし、この絵には少し奇妙な事があった。

まるで、その絵にいるほぼ全ての人がこちらを見つめているかのように描かれていた。

 

こちら側が見ているはずなのに、まるであっちから鑑賞されているみたいな、そんな不思議な気分になった。

 

確かに、この絵はナノちゃんの興味を引けるのも分かる気がする。

 

思い返してみれば、ナノちゃんと初めて会った時も絵を見ていたように思う。

 

そう、確かあれはまだ私が幼稚園に通っていた頃……。

 

〜〜〜

 

今から思えば他愛のない話なんだろうと思うけど、確かにナノちゃん…いや、菜野花との出会いは強く私の中に残っていた。

 

きたみふね幼稚園に入った頃のことは覚えてないけど、菜野花と出会う前に一度だけ転入生が入ってきた。

その子は、白くて長い綺麗な髪を持っていて、来た瞬間にみんなの注目の的になっていたように思う。

 

その子がみんなにもてはやされ始めてから、数日が経った頃、その子をいつも見ていた赤い髪をツインテールにしていた子と共に朝に遅れて来た日があった。

遅れてきただけならそこまで気にも留めなかっただろうけど、何よりも驚いたのはその2人が両方とも髪をバッサリと切った状態で入ってきていた。

 

赤い髪の子は少々髪が短くなっている程度だった。

でも、転入してきた子の髪は最初腰まであるんじゃないかとくらいあった髪は、すっかりショートヘアになっていた。

 

その様子に、私も含め多くの子が驚いていた。

 

ザワザワとざわめき出す室内の中で、私は部屋の片隅でニコニコと楽しそうに絵本を読んでいる子を見つけた。

 

その子は、紫がかった髪を少し揺らしながらも目をキラキラと輝かせていた。

 

気になりだした私はその子にこう尋ねた。

「ねえ、なんの本読んでるの?」

 

するとその子はこちらに気づいたようで読んでいた本をこちらに向けて広げた。

 

そこには、数々の名画と呼ばれる絵が載っているとても綺麗な絵本だった。

けれどその時の私はそれを見ても何が面白いのかまでは理解できないでいた。

 

「………?」と疑問を浮かべていた私にその子が説明してくれた。

 

「えっとね、こっちの絵は外国の凄い人が描いた絵で、これは日本の人が描いた絵で…」

と言うように。

 

それを聞いた私は、戸惑いながらもその子のお話を聞いた。

 

時々つっかえながら、又は冗談めいて、それでいて本当に楽しそうにお話をしてくれた。

 

そうして、その子が持っていた本に載っていた絵を説明し終わった時に、その子がこう自己紹介をした。

 

「ワタシは、園池 菜野花。これからもお話ししてくれるとうれしい…な。」

 

そう言って私に手を差し出してきてくれた。

それに答えるように私も、

「に、西沢 彩歌です。うん、いっぱいしゃべろうね。」

と言って菜野花の手を取って握手をしたのだった。

 

〜〜〜

 

それが初めてナノちゃんと会った時の話。

 

最初の頃はナノちゃんは、あんまり人見知りじゃなかったんだけど、いつのまにか人前ではあんまり喋らなくなったんだっけ…

 

「彩歌・・?」

 

と、ナノちゃんに声を掛けられてハッと気付く。

 

どうやら、思い出を辿るのに集中しすぎていたみたいだった。

 

「もう、彩歌しっかりしてよ。…次の絵を見に行こう……?」

 

少し不思議そうな顔をしながらも、私の手を握ってくる。

 

「うん、そうだねナノちゃん。」

 

私もその手を握り返して、一歩進む。

 

そうして、私たちはぼんやりする暇もなく歩きながらいろんな絵を見て回った。

 

学校の帰りから来たから、それから二時間ぐらいしかみれなかったけど、とても楽しかった。

 

まあ、その帰り道に例のごとく雨に降られて、びしょ濡れになりながら家に帰ったのは、また別のお話。




彩歌と菜野花の美術館への寄り道…楽しんでいただけましたかね?

幼稚園の頃の菜野花は、今の性格とだいぶ違うのも、不幸が関係したりしていなかったり…。

〜次回予告〜

特に予定してなかったので、息抜き会というか、まあ、ただお喋りし合う話にしようと思っています!

次回、Lucky.14 たあいもなく

それでは、次回もお楽しみに〜。
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