おんハピ♪ 〜Only Happy♪〜   作:赤瀬紅夜

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Lucky.17 ばらばらにわかれて

「行かなきゃ。」

 

鞄を小脇に抱えて、ローファーのかかとを鳴らして脱げないように確認する。

 

右手に目をやると白と黄色のミサンガが映る。

 

せめて、ナノちゃんが1人で学園に行く前に間に合うように。

 

私は一歩ずつ走り出した。

 

加速を徐々にしていき、しっかりと前を向いて走る。

 

私の中で全速力の速度であの場所に向かう。

 

「はぁ……、はぁ……、待っててね、ナノちゃん。」

 

確かに私が忘れていたのはうっかりしていた。

 

昨日、ナノちゃんが一緒に学校に行こうって言ってくれたのも初めてだったから。

 

それなのに、私は今日は天気がいいからって浮かれて意識の外にナノちゃんを追いやっていた。

 

途中、生徒の何人かとすれ違う。

 

この前に、階段で遭遇した3人が、楽しそうにおしゃべりしながら私の横を通り過ぎていく。

 

「ヒバリちゃん、それでね、それでね……。」

 

今も、私はあんな風にナノちゃんと話していたのかな。

 

いや、ナノちゃんだけじゃない。

 

流さんも、恋ヶ窪さんも、ひまりさんも。

 

天之御船学園に入ってから、少しずつだけど友達ができていったことも確かだ。

でも、だから、だからこそ、あの時にナノちゃんと会えたのは凄い嬉しかった。

 

身体測定の日にナノちゃんと会った時は、私自身驚き過ぎて、あんまり話せなかった。

 

 

幼稚園のある道の通りに出るために、角を曲がる。

自分でも息が切れているのがわかるくらいに、全力で走っていた。

 

 

小学校の時にナノちゃんが引っ越して以来、色んなことがあった。

 

最初はナノちゃんが居なくなったのが寂しくて、むしろ色んな友達と遊ぶようになった。

 

私の不幸を気づいた人はあんまり居なかったけど、わかった途端にみんなして、気まずそうな顔をしていた。

その人たちとの距離は、自然と私から離れていった。

 

その人たちは私自身の否定はしなかった。

 

けれど、何となく不吉なものを見るような目で 私 が観られているのを感じた。

 

 

 

それでも、

 

それでも、

 

私の不幸を知っても、私自身を避けず、肯定してくれたのは

ナノちゃんだけだったから。

 

裏切りたくない。

 

……………いや、違うのかな。

 

ナノちゃんに見限られたくないっていうのが、私の本心なんだろう。

 

 

前方に幼稚園のカラフルな門が見えて来た。

 

私は急ぐためにより一層速度を上げる。

 

 

 

そうして、ついに私はナノちゃんと出会った場所である、きたみふね幼稚園に到着した。

 

「はあー、はぁー……。」

 

膝に手をつき、肩で息をしながら幼稚園の前に止まる。

 

思わず、顔を伏せてしまう。

 

春先とはいえ全力で走ったからか、私の額からは汗が出ていた。

 

ポタッポタッ、と汗が地面へと吸い込まれる。

 

 

……ナノちゃんがいなかったらどうしよう……

 

そんな考えが頭をよぎる。

 

 

 

「彩歌・・・・・? どうした・・・の? そんなに肩で・・・・・息をし・・・て?」

 

顔を上げると、そこにはいつも通りのナノちゃんが立っていた。

 

 

ナノちゃん、待っててくれたんだ。

 

あまりの嬉しさに、気を緩めたら涙が出てきそうだった。

 

「ナノちゃん、ごめんね。来るの、遅れちゃって……。」

 

私は真っ直ぐにナノちゃんの目を見て、そういった。

 

ナノちゃんは、少し眉を困ったように寄せて首を横に振ると、

 

「気にしなくて・・・・・いい・・よ、彩歌。来てくれて・・・・・・ありがとう。」

 

そう言いながら、微かにだけど優しげに笑った。

 

 

 

 

天之御船学園に着いて、靴を履き替えているあたりでチャイムの音が聞こえてきた。

 

「・・・・・彩歌、もしかして・・ワタシ達、遅刻・・・・・?」

 

微妙なところだけど、チャイムが鳴っている最中に校舎の中には入ったから良いのかも?

いや、もしかしたら教室内に入っていないからダメなのかも……。

 

「ナノちゃん、遅刻かどうかはわからないけど、取り敢えず教室まで急ごうか。」

 

コクリとナノちゃんが頷いた所で、後ろから昇降口に響くような声が聞こえてきた。

 

「せーーーーーっふ!!」

 

私たち2人はその声に驚いて後ろを振り返ると、誰かが走ってきていた。

 

その人物は、徐々に私たちに近づいてくると、ずざざっ と音を立てながら、目の前に止まった。

 

その子は、小さな肩で息を切らしながら、真っ直ぐな紅い瞳で私とナノちゃんを見据えてこう言った。

 

「おはようです。お二人さん。」

 

その顔にはどこか満足げな表情をしていて、とても遅刻をした人の顔には見えなかった。

 

その子は背丈が小さくて、真っ直ぐな黒髪を肩まで伸ばしていて、今朝私が妹さんと一緒にいるところを目撃した、恋ヶ窪さんだった。

 

 

1年7組の教室には、難なく入ることができた。

 

いつもは、朝早くから小平先生がいるのだけれど、私たちが教室に入った時にはまだ来ていなかった。

 

私たちが教室に入ると、教室の入り口側にいた流さんとひまりさんが挨拶をしてきた。

 

「おお、3人揃って珍しいねー、おっはよう!」

 

流さんはそう言いながら、右手をパタパタと振った。

それに続いて、ひまりさんもほんわかとした雰囲気でおはようございます〜と言った。

 

私たちも挨拶を返す所で、小平先生が教室に入ってきた。

 

何気なく教室の前に目を向けると、黒板には4月28日(木)という日付と、日直の名前が書いてある。

 

 

小平先生は入ってくるなり、教室を見渡し、

 

「みなさん、席に座って下さいね。」

 

と、いつも通りな、にこやかな笑顔で言った。

 

みんなが座ったのを確認した所で、朝の連絡事項をいくつか述べていく。

 

いくつかを言った後、小平先生は一呼吸置いて、話し始めた。

 

「それでは、昨日も知らせていた通り、本日する事について、説明しますね。」

 

くるりと背を向け黒板に何やら文字を書き始めた。

 

「本日からいよいよ7組の特別カリキュラム、幸福実技を行います。」

 

そして、書きながら説明もするようだ。

 

「最初の実技は、すごろくをやりますよ。」

 

そう言うと、小平先生が自ら書いた文字が見えるように、体をこちら側に向けた。

 

そこには、『幸福実技 すごろく』と書いてあった。

 

当然、私たちの頭には疑問しか浮かばなかった。

 

「では早速、7組専用課題授業施設に行きましょう。」

 

 

……えっ、まさか専用の施設があるの!?

 

 

驚きを隠せぬまま、私たちは移動を始める事になった。

 

〜〜〜

 

バラバラに向かっていたので、自然といつも一緒にいるメンバーになっていた。

 

ざわざわとしながら私たちが着いた場所は、体育館だった。

 

なぜ体育館なんだろう?

 

何となくだけど、すごろくをやるのだから他の教室に移動するのかと思ったんだけど…………。

 

「えぇ〜、なんで体育館に来たの⁉︎」

 

と、流さんも私と同じ事を考えたのか、驚き、それでいて不思議そうに言った。

 

「う〜ん、何ででしょうかね〜って、『アレ』何ですか……?」

 

受け答えていたひまりさんが、戸惑うように体育館の中央を指差す。

 

指をさした方向を見ると、目を見張るような光景が広がっていた。

 

金属で出来ているのであろう大きな杭の様なものが、ガタガタガタッ とバスケットコートのフリースローラインに、

一列ずつセンターラインを挟むようにして並んだかと思えば、

サイレン音を鳴らしながら床が切り開き、突如大きな四角い穴が出来上がった。

 

それを見た何人かの生徒からは驚きの声が出ている。

 

しかし流さんと、恋ヶ窪さんがキラキラとした目で、その光景を見つめている。

 

「しーちゃん、『アレ』マジでカッコ良くない⁉︎」

 

そう言った流さんの顔を恋ヶ窪さんが見つめながら、

 

「はい!ボクも、こういうのに憧れてるんですよ!」

 

と息巻きながら答えた。

 

ウィーン、ガッチャン!

 

と、さっき空いた穴から、正方形の黒い床が現れたかと思うと、

四方向に私の腰くらいの高さの壁が立った。

 

………?

 

またもや、恋ヶ窪さんと流さんの目が光っていると、小平先生が出来たモノに向かって歩き、私たちを見渡しながらこう言った。

 

「さあ、施設はこの下です。」

 

小平先生が、笑顔で片手を向けている所で、割り込んだ声が聞こえてきた。

 

「遅くなりましたー!」

 

タタタッと体育館の開け放たれた扉から、2人の生徒が入ってきた。

 

1人は、癖のあるセミロングヘアで、濃い赤色と茶髪の中間のような髪色をしている。

瞳が黄色で、目元に少し力が入っているようなので、負けず嫌いの類いの子かもしれない。

 

もう1人は顔の正面に猫が覆いかぶさっていて……って、今朝私の近くを通り過ぎた子だ。

どこに行くかと思ったら、あのまま遅刻していたんだ……。

 

その2人を見た小平先生が声をかける。

 

「遅刻ですよ、萩生 響さん、江古田 蓮さん。」

 

 

 

「それではみなさん、エレベーターに乗り込んでくださいね。」

 

という、小平先生の指示の元、私たちは黒い床の、大きなエレベーターに乗り込み、地下へと移動していた。

 

このエレベーターが出てきたときの音よりも、かなり静かに稼働しているようで、あまり機械音は聴こえない。

 

40人の生徒を載せてもビクともしない頑丈な造りのようで、私は少しだけ安心していた。

 

それでも、私たちの中に約1名かなり不安がっている子がいた。

 

……………ひまりさん、なんだけども。

 

というのも、エレベーターに乗り込んでから、高度(というよりも地下に潜るから海抜?)が下がってから自然とエレベーター内が暗くなったことで、暗所恐怖症らしいひまりさんが怖がってその場にうずくまってしまっていた。

 

「うぅ〜、暗い所怖いんですよぉ〜、お願いですから、早く着いてぇ……くださいよぉ〜……。」

 

と、今にも泣き出しそうな口調で言っていた。

 

「なーんか面白そうだし、大丈夫だって‼︎」

 

「え、えっ・・・・と大丈・・夫・・?」

 

流さんや、ナノちゃんが元気付けたり、安心させようとして近くに行って一緒に話し込んでいた。

 

そうしているうちに、チンッと音がなり、エレベーターが止まる。

 

そして、前方に自動ドアのような分厚い壁が大きく開け放たれる。

 

……この学園はどうなっているのか、こんなものが地下にあるなんて建設にどれだけの費用がかかったかと思うと想像しただけでも頭がいたい。

 

カッ!!

 

とライトが、点灯し広々しい空間が露わになる。

 

それと同時に、様々な物が部屋の中を動き回り、遂には大きな光る看板が出てきたかと思うと、その看板の正面に1つの小さな影が現れた。

 

「うぇるか〜〜っむ、うっさ〜、チモシーラ〜〜ンド!」

 

と、動くウサギのぬいぐるみのようなロボット、チモシーが叫ぶ。

 

カツカツと靴音を鳴らし、小平先生がチモシーに近づく。

 

そして振り返り、いつも通りの笑顔でこう言った。

 

「等身大のすごろくです。これは、あなた達自身が駒になって行うゲーム。運を鍛えるのにすごろくはピッタリなんですよ。」

 

と、抱えるほどの大きさのサイコロを持ち、説明を続ける。

 

「やっぱり、こんなゲームで授業なんておかしいですよ。」

 

と、確か雲雀丘さんだったろうか。

 

生徒の質問に対して、小平先生は黒いオーラを背後にまといながら、

 

「では、手っ取り早くロシアンルーレットで運試ししますか……?」

 

ガチャリと、多分本物であろう拳銃を持ちながら訊ね返した。

 

生徒全体に恐怖が浸透した。

 

……もちろん、生徒全員の否定によってすごろくをすることになった。

 

それを見た小平先生は満足したのか、それでは始めましょうか。 と言ってゴンドラのようなものに乗って上へと上がっていった。

 

その際に、みなさん2〜3人で1組のグループ作ってください。 と言い残していった。

 

……えっと、つまり私たちは、バラバラに分かれるの?

 

始まろうとしていたすごろくに参加するには、私たちは2つのチームに別れないといけないようだった。




~次回予告~

いよいよ始まる等身大すごろく!

彩歌たちは、二チームに分かれてやることに。

はたして、何番目にゴールするのか……?

次回、Lucky.18 りあるたいむ

誰と誰とがチームを組むかも、お楽しみに!
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