おんハピ♪ 〜Only Happy♪〜   作:赤瀬紅夜

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Lucky.24 はんべつできない

今日は、4月29日の金曜日。

 

普段だったら、平日で学園に向かわないといけない日なのに、あいにくゴールデンウィークという休日に入っていて、私はそれを勘違いして、今現在、天之御船学園の校門前に、2人の教師と対面していた。

 

なんでゴールデンウィークなんて名前にしたんだろう?

祝日の日によって長さが変わってしまうなんて、最も安定している物体である金の名を冠するにふさわしくないと思う。

……まあ、雑談はこの辺にして。

 

「すみません、吾野(あがの)先生。 間違えて登校してしましました。」

私は、頭を下げながらそう発言をする。

2人いるうちの1人は、以前数学を教えていた先生で面識があったけど、隣にいる黒い白衣(黒衣?)を着ている先生は、私は面識がなかった。

 

吾野先生は、めんどくさそうに白銀の髪をかき上げながら、私に尋ねてきた。

 

「なあ、お前は園池 菜野花という生徒を知っているか?」

 

知ってるも何も、ナノちゃんとは幼馴染でもある。

というか、吾野先生は幸福クラスの授業を受け持ったこともあるんだから、生徒の判別くらいはできて欲しいな。

 

私は、吾野先生からの問いかけに頷いて答える。

 

すると、となりにいる先生が沈黙を破る形で口を開いた。

 

「顔馴染みならば、話は早いでしょう。」

 

私の方を見ると、にっこりと微笑んで自己紹介を始めた。

 

「はじめまして、彩歌さん。 ワタクシの名前は伏見(ふしみ)と申します。 天之御船学園では保健室に常務していま……ゴフッ!」

 

初対面である、伏見先生は柔らかに微笑んだまま、口から赤い血を噴き出し、もとい、吐血していた。

 

いきなりの出来事に、私の頭は付いていけずに真っ白になる。

 

「伏見センセ、いつもの事だけど、流石に生徒の前だからさ……まあ、抑えるのが大変なのも分かるけど。」

 

そう言いつつ、慣れた手付きで吾野先生は、伏見先生の吐血した血の処理をしている。

 

問題の伏見先生は、俯いたまま一言も喋らない。

 

「いや、彩歌すまんな。 この先生はよく吐血するんだ。 まあ、そこまで気にしないでやってくれ。」

 

「気にしないで……と言われても。 その、伏見先生は大丈夫何ですか?」

 

あまりの光景に、我を失っていたけど、私もだんだんと落ち着いてきて、吾野先生の言葉になんとか答える。

 

すると、俯いていた伏見先生が顔を上げて、申し訳なさそうな、困ったような笑みを浮かべて、

 

「すみませんね、彩歌さん。 ワタクシの体質みたいなモノなので。」

 

と、言った。

 

吾野先生が、私との間にある天之御船学園の校門の鍵を開けながら、話す。

 

「突然で悪いけどさ、この3人でドライブ行かない? 行かないといけない場所があるけど、1人じゃ伏見センセの面倒見切れないし、菜野花っつう生徒の顔馴染みなら、話は早い。」

 

……ドライブって、いきなり過ぎる気もするけど、ナノちゃんが関係してるならこの人達に付いていく価値はあるかも知れない。

 

「まあ、判りました。 それで、どこに行くんですか?」

 

そう聞くと、吾野先生の代わりに伏見先生が答えた。

 

「いえ、単なる遊園地ですよ。」

 

ナノちゃんと、遊園地の関係って何だろう……?

 

そう疑問を残したまま私は2人に連れられ、遊園地−Continue Games−へと向かったのだった。

 

 

 

遊園地までは、吾野先生の所有物であろう車に乗せてもらったけど、ほんの10分ほどで目的の場所に到着した。

 

駅の近場でもある為、遊園地自体の駐車場は無く、近場のパーキングエリアに車を止め、しばらく歩いた先に、遊園地はそびえ立っていた。

 

遊園地としては珍しく、近くに駅があり駅の改札口を出ると、すぐその遊園地に入れるような作りになっていた。

 

私自身は忘れてたけど、今日からゴールデンウィークに入っているから、遊園地の入り口は混雑を極めてた。

 

「うっし、それじゃあ入るとしますか。 あー、ちなみにだけど、この遊園地は大人料金の2人しかいらないから。」

 

西沢は先に入ってな。

 

そう言われて、18歳以下のお客様という列に並ぶ。

 

移動中の車の中、伏見先生に言われたのが、Continue Gamesという遊園地は18歳以下の入場料金が発生しないのだとか。

というのも、この遊園地は経営難に陥っていた所を、とある財閥が買い取り、一年ほど前に立て直し、及び改装が加えられて、アトラクションの約半分を取り壊して、ゲームコーナーなるものを作り出した。

そのコーナーは、全国ありとあらゆるもののアーケードゲームや筐体ゲームが数多くある遊園地として、世に言うアーケードゲームの宝庫として一気に客の足が集まったそうだった。

 

その買い取った財閥というのが、園池財閥と言って、全国のゲームセンターに機械を置く会社グループの元締めなのだそうだ。

 

その結果、遊園地自体の入場料よりも、遊園地に入ってからのゲームをやるお金に入れてさえくれればいいという事なのだろう。

 

園池財閥とは言っても、ナノちゃん、つまるところの園池菜野花本人との関係はないらしい。

小学校に上がった時に教えてもらったけど、両親がたまたまその会社内で結婚した時に、2人で名字を変えたらしい。

 

……今考えてみれば、結婚してお互いが違う苗字になるなんてことなんてほとんど無いようなケースだけど、その当時の私は、珍しい事もあるんだ、という程度にしか思っていなかった。

 

 

そんなことを思い出しているうちに、遊園地の中に入っていた。

 

しばらく待っていると、先生2人も入ってきて合流した。

 

「そういえば、先生2人の用事ってなんですか?」

 

我ながら、聞くのが遅すぎるような質問の気もするが、一応聞いておく。

 

「あ、それはですね、園池 菜野花さんのバイトの様子を見にきたからですよ。」

 

ナノちゃんって、バイトしてたんだ。

なんか意外な気もする。

 

「それで、そうやってナノちゃんを見つけるんですか?」

 

そう問いかけると、吾野先生が答えてくれた。

 

「ああ、彩歌はナノちゃんって呼ぶんだな。 探すのは簡単だ。 直接仕事場にこちらから向かえばいい。」

 

そう言って、吾野先生が指をさして示した場所は、この遊園地の総合案内所だった。

 

お土産屋の隣に併設されているその施設は、大体は迷子の呼び出しとか、園内の案内をするスタッフが控えているなどの場所だが、その反対側には関係者専用の場所があり、そこの中でナノちゃんが働いているという事だった。

 

まず、その案内所に行くと、先生達が事情を説明して入れるように取り付けてくれた。

 

私の中では先生についてくというよりも、ナノちゃんのバイト姿を見たいという好奇心に変わっていた。

 

そうして、いざ入ってみると、係りの人に案内されて、私たちはある一室の前にいた。

 

吾野先生がノックしてすると、どうぞーという声が返ってきた。

 

入るぞーと言いながら、吾野先生は扉を開ける。

 

私も続いて部屋の中に入ると、その部屋の内装が見えてきた。

 

割と広めの部屋なのに、壁際をほぼ埋め尽くしている本棚のせいで圧迫感があり、その本棚に入っているものもクリアファイルや、紙を纏めたものばかり。

きっと遊園地に関する書類があるのだろう。

 

スチール製のしっかりとした机が真ん中にあり、その卓を囲むようにして人が何人かで作業している。

作業といっても、大きな紙に線を引いたり、書類を見て話し合ったりと大忙しだった。

 

「例の、園池 菜野花さんがどこにいるのか見当がつきませんね。」

 

辺りを見渡すながら、伏見先生が不安げにつぶやく。

 

私もつられて、室内を見渡す……すると、机の端の方で何やら他の人たちと楽しそうに話し合っていた。

 

ただ、髪型とか特徴とかで判断しただけで、私は目の前にいる子が、ナノちゃんだとは判別できなかった。

 

学園では、いつも物静かなナノちゃんだけど、ここでは、明るく社交的に、自分から話しかけているほどだった。

 

(なのか)が思うに、この辺の予算は削るべきだと思うな。」

「それはそうかもだけど、うちにもいろいろあって……。」

 

仕事の話か、職場の人同士で話している。

 

「これはこれは、思ったよりも重症なようですね。」

 

ふと声のする方を向くと、となりに伏見先生が立っていた。

口元をハンカチで抑えているあたり、また吐血したのかも知れない。

 

重症という言葉が気になり、問いかけてみると、

 

「彩歌さんは、目の前にいる園池さんの様子を見て異変を感じませんでしたか?」

 

逆に質問で返された。

 

「まあ、ナノちゃんがまるで人格が変わったみたいに感じましたけど。」

 

……少なくとも、私が知っているナノちゃんとは、一線を課しているようにも感じるほどの変わりっぷりだった。

 

「ええ、全くその通りです。 ワタクシの見解、というよりも医学的に見れば、あそこにいる彼女は解離性同一性障害(かいりせいどういつせいしょうがい)つまりは、二重人格で間違い無いでしょう。」

 

「……え?」

 

伏見先生がスラスラと答えた、言葉の内容に私は驚愕する。

 

二重人格? ナノちゃんが?

 

混乱のあまり、動向が早まり、冷や汗が背中を伝う。

 

いくら、中学生活の3年間に会っていなかったとはいえ、こんなにも人は変わるのだろうか?

 

「そんな事ない、と思います。」

 

何とか息を整えて、伏見先生に応える。

 

 

少し歩いて、ナノちゃんのもとに行く。

 

「ナ、ナノちゃんってバイトしてたんだ。」

 

そう声を掛けてみると、その子は、首を傾げて尋ねてきた。

 

「あのう、どちら様ですか?」

 

目の前が真っ暗になりそうだった。

 

いえ、すみませんと、なんとか声を絞りして言ってから、先生の元に戻る。

 

「言ったでしょ、今話しかけても相手は分からないかも知れないって。」

 

伏見先生の言うことが、頭に入ってこない。

 

それでも、それでも、あの少女は、ナノちゃんではないと証明されてしまった。

 

こんなことが起こるなんて、どうすれば良いのだろうか?

 

この疑問には、誰も答えてくれない。




という事で、少し暗めに今回の話は一旦おしまいです。

〜次回予告〜

次は、何話かぶりにあの人の語りで物語は進行していきます!

園池 菜野花は二重人格なのか……?

次回、Lucky.25 ぎゅうにゅう

次週はお休みするかも知れません!

ではでは〜!
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