おんハピ♪ 〜Only Happy♪〜   作:赤瀬紅夜

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Lucky.27 ひっしになって

私は、ナノちゃんを探し当てることが出来ずに、近くの公園で泣きじゃくっていた。

 

しかし、その場にひまりさんが現れて、心配そうな顔でこちらを見て声をかけてくれた。

 

見上げると、ひまりさんはハンカチを差し出して涙を拭くように言ってくれた。

 

「あの〜、彩歌さん、何かあったならお話くらい聴きますよ〜?」

 

ベンチの隣にストンと座ると、私の顔を見て少し笑いながらひまりさんは言った。

 

ひまりさんから貰ったハンカチで涙を拭きながら、私は事情を話す。

 

「じ、実は……」

 

昨日、学園に行ってから何があったのか。

ナノちゃんがどのようになっていたのか。

私を見たナノちゃんはなんて言ったのか。

 

そして、今日ナノちゃんを探そうとしたこと。

見つからずに諦めて、泣きじゃくっていたこと。

 

涙と嗚咽でつっかえながらも、ひまりさんは優しく聴いてくれた。

 

頷いて、背中をさすってくれたりして。

 

……と、いうわけなんだ。」

 

「なるほど、つまりは彩歌さんは今、菜野花さんに会いたくて困っていると。」

 

ひまりさんは、もらい泣きした涙をそっと拭きながらそう言った。

 

私は、肯定の意味で頷くと、ひまりさんはにっこりと微笑んだ。

 

「わかりました。 わたしが菜野花さんの元に連れて行きましょう〜!」

 

「え? 本当に? なんでひまりさんはナノちゃんの家を知って……」

 

私が混乱していると、ひまりさんは私の手を引いてベンチから立ち上がった。

 

「何故かは、移動しながら説明しますね〜。」

 

ここからだとちょっと遠いんです〜、と言いながら、ひまりさんはずんずんと進んでいく。

私は、驚きと嬉しさのあまり、再び溢れそうになる涙を抑えるのに精一杯だった。

 

しばらく歩くと、ひまりさんが話し始めた。

 

「実はですね〜、彩歌さん」

 

「タネを明かせばどうってことないことです〜。」

 

何だろうと思いながら、私はひまりさんの言葉を待つ。

 

「私が菜野花さんのお弁当を作っているのは知っていると思います〜、でも、その過程で何回か菜野花さんが遅刻しそうになったことがあるんですよ〜。」

 

「その時に、菜野花さんに直接聞いて、住んでいるアパートを知りました〜。」

 

「今では、私が菜野花さんを起こしに行っているくらいですよ〜。」

 

「……そうだったんだ。 ひまりさんは、ナノちゃんが二重人格だって知っても驚かないの?」

 

ひまりさんは、くるりと回ってこちらをみると、もちろんと答えた。

 

「わたしも最初に聞いたときは驚きましたけど〜、わたしはどっちの菜野花さんも大好きです〜。」

 

「なので、わたしは気にしません。 また学園が始まれば、これまで通りにお弁当を作って持ってきます〜。」

 

その言葉を受けて、私はひまりさんが羨ましいと思ってしまった。

 

私だってどちらのナノちゃんでも受け入れていきたい。

でも、未だに決心がつかないし、小学生の時まで一緒にいた分だけ割り切ることもできない。

それでも、それでもやっぱり、ナノちゃんと会って話してみたい。

例え、ナノちゃんが自分のことを分かっていなかったとしても、話し合っていきたい。

 

「ひまりさん、私はナノちゃんと話したいと思う。 それで、お願いがあるんだけど、ナノちゃんと話し終わるまでひまりさんはナノちゃんの家の前で待っていて欲しい。」

 

私は立ち止まってひまりさんに呼びかける。

 

ひまりさんは歩みを止めずに、はい、とだけ言った。

 

 

「さて〜、彩歌さん、そろそろ菜野花さんの家に着きますよ〜。」

 

その言葉に反応して、目の前を見ると大きなマンションが建っていた。

 

「もしかして……ナノちゃんってマンションに住んでるの?」

 

ひまりさんは、はいと答えて頷き、私の背中を押した。

 

「それじゃ、あとは彩歌さん次第ですよ〜。」

 

菜野花さんの部屋は707号室です〜、と私を送り出した。

 

私は、マンションのエントランスに入ると中を見渡した。

 

マンション内の見取り図を発見して見てみると、上の方に『ファミリー向けオートロックマンション』と書かれている。

10階建てでナノちゃんが住んでいるという部屋は7階にあるみたいだった。

 

エレベーターを探すと、壁側に二つ付いている。

 

その片方のエレベーターの中に入ると、7と書かれたボタンを押す。

 

すると、私を閉じ込めた箱は上昇し、ナノちゃんのいる部屋へと導いてくれる。

 

小気味いい音と共にドアが開いて、7階に到着する。

 

エレベーターから出て見渡すと、東側と西側それぞれに廊下が続いているようだった。

 

壁には、『東:701〜705』『西:706〜710』と書かれている。

 

「西側かな、っとこっちに行こう。」

 

私は進行方向を東側から西側へと変更すると、少し急ぎ足で707号室を目指した。

 

二つ目の部屋が707号室で、表札には「園池」と書かれていた。

 

「……ここが本当にナノちゃんの家なんだ。」

 

ゴクリと喉を鳴らしながら、インターフォンに手をかける。

 

ピンポーンッ……

 

鳴らした音が響いて、いくつかの間があった後、玄関のドアが開いた。

 

「えっと・・・どちら・・・さま?」

 

恐る恐ると行った様子で、ドアの隙間からこちらを伺ったのは、昨日会った私の知らないナノちゃんでは無く、私がよく知るあのナノちゃんだった。

 

「な、ナノちゃん久しぶり。 実はちょっとだけ話があってね。」

 

私は、ナノちゃんに軽く片手を上げる仕草をして、微笑んだ。

 

すると、ナノちゃんは取り敢えず中に入って、というようにスリッパをどこからか出して私を家に招き入れた。

 

部屋の中は、小綺麗に纏められてて、普段から掃除とかをしているんだという事が一目でわかった。

 

シンクやガス台が付いているリビングに通されると、ナノちゃんは突然下を向いて俯いてしまった。

 

そのまま動かないので、心配になって肩を叩くとすぅっと顔を上げてこちらを見つめてきた。

 

いつものナノちゃんではなく、口角が上がって少し楽しそうな雰囲気を醸し出している。

 

そうして、私は察した。

 

これはあの時、()()()()()()()()()()()()、という事に。

 

「やあ、彩歌。よくこの場所がわかったね。 (なのか)はすっかり待ちくたびれちゃったよ。」

 

と、少し芝居掛かった口調でもう1人のナノちゃんが話しはじめた。

 

「ナノちゃん……いや、違うのかな?」

 

二重人格なんだよね、と、私はもう1人のナノちゃんに言う。

 

やれやれをかぶりを振るような仕草をすると、似て非なる者なんだ、と説明を始めた。

 

やはり、芝居掛かった口調でもう1人のナノちゃんは語り始める。

 

ナノちゃんが私と離れ離れになっていた間に何があったかを。

 

「ひとまずは、彩歌に言っておくことがある。

(なのか)はもうそろそろ消滅することになるよ。

「どうしてなのかは、最後に説明することにするよ。

「さて、それでは(なのか)が生まれた経緯について説明しようか。

「昨日、(なのか)は彩歌つまり君に会っているけど、(なのか)と昨日の(なのか)は厳密にいうと違う存在だ。

「概ねは、本来の園池 菜野花の裏の人格の様なもので合ってるんだけど、一旦本来の菜野花の戻ると、(なのか)という存在はリセットされるのさ。

「だから、昨日の(なのか)と多少の差がある事は許して欲しい。

「どう違うのかって?

「うーん、そうだなぁ……。

「君の事を知っている、という事が挙げられるんじゃないかな?

「おっと、無駄話が過ぎたみたいだ。

「時間も少ないことだし、ちゃっちゃと進めようか。

「まず、(なのか)が生まれた経緯について語っておこう。

「君とは、小学生……厳密に言うと小学6年生の卒業式をもってして完全に縁が切れてしまった。

「これは、何も(なのか)達が引っ越した時に連絡をし損ねたとか言う訳じゃ無いんだ。

「園池財閥という組織を聴いたことがあるかい?

「ソノイケ・ゲーム・プロダクションズという会社を経営している財閥なんだけど、そこに菜野花は目を付けられたらしくてね。

「ほぼ無理やり、中高一貫校の有名芸術校に入学させられたんだ。

「絵を描くのがとても上手かった、それだけの理由でイラストレーターとかに育て上げるつもりで財閥は動いたんだろう。

「なんせ、小学生の身にしてそこら辺の賞を総舐めし、全国でプロ顔負けの結果を出しちゃったんだからさ。

「え? 知らなかったって?

「そりゃそうだろう。

「君は菜野花を唯一、絵の才能のみで評価しなかった人間なんだから、菜野花は絵の事を詳しくは君に話さなかったはずだ。

「多分、君に絵の賞を見せたらそっちの事を褒める、絵のことしか評価してくれない、と思っていたんだろう。

「子供ゴゴロにね。

「さて、いやいや君と離されて絵の才能を磨くことになった菜野花は、その中高一貫校で何をしたと思う?

「サボったり脱走したりした?

「いやー、実はその真反対の行動に出たんだ。

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「一刻も早く終わらせて、君に会いたかったんだろうね。

「そうして3年間で終わらそうと必死にもがき続けた結果、(なのか)が生まれた。

「正しくいうと、入った頃からたまに意識が朦朧とする時があったらしい。

「原因は寝不足とストレスからなんだけど。

「無意識に課題をこなした時から、(なのか)のタネは出来上がっていた。

「必死になってやればやるほど、精神は磨耗し、消えて無くなっていく。

「そんな中で取得したのが、(なのか)という第2の人格だったわけだ。

「はっきりと表に出れたのは、今から一年前。

「最後の課題にとある遊園地を立て直す、というものがあってね。

「この課題は、あまりの菜野花の成長ぶりに財閥が一つの仕事を任せてみようという取り組みで案の定、最低でも4年はかかると思われていたとある遊園地の復興も、たった1年でやり遂げてしまった。

「その時、主に(なのか)が遊園地の立て直しを行なっていたのさ。

「そう、それが君と(なのか)が初めて会った、あの遊園地なのさ。

「とまあ、(なのか)が生まれた経緯については語ったと思うけど、細かいところは勝手に判断してくれて構わない。

「あと、今後について。

「最初に、(なのか)が消滅するということを言ったと思うけど、それは君に菜野花が再会したからだ。

(なのか)はね、菜野花にとって安定剤みたいな物なんだよ。

「菜野花の心的傷と不安の権化、ストレスの行き場は、(なのか)となって現れる。

「でも、今は君がいるからそんな存在は無くなるんだ。

「きっとこれから(なのか)は君になんでも話すようになるだろう。

「だからさ、これからも仲良くやってほしい。

 

(なのか)は……いつでも……君たちのこと……見守ってるからさ。」

 

そう言って最後に笑って、ナノちゃんは目を閉じてその場に倒れた。

 

「大丈夫!?」

 

私は慌ててナノちゃんに駆け寄る。

頭の中では、さっきのもう1人のナノちゃんの話をまとめるのに大変だったけど、当のナノちゃんが倒れてしまっては元も子もない。

 

しばらくすると、ナノちゃんは目を覚ました。

 

「えっと・・・アヤカ? さっきは、ごめんね。」

 

こちらを見るなり、ナノちゃんは謝罪した。

目に涙を浮かべて、震えながら、話した。

 

「ワタシ・・・今までの・・事、もう1人の・・・(なのか)の・・・・こと。 ぼん・・やりとだけど・・・・解ってきた・・・。」

 

いままで、迷惑かけたね。と、言いながらナノちゃんは自分の胸に手を当ててニッコリと笑った。

 

 

 

そんな事があった次の日。

 

私とナノちゃん、それからひまりさんに恋ヶ窪さん、流さんも一緒に遊園地に遊びに来ていた。

 

表向きは遊園地に遊びに来たということなんだけど、本当の所はあの後、ナノちゃんが行ってみたいと言ったからだった。

 

みんなで連絡を取り合って、駅に待ち合わせて電車に乗って遊園地に近い駅に5人で降り立つ。

 

それぞれが発言をする。

 

「おおー! ホントに近いじゃんこの遊園地!」

流さんがハイテンションで言いながら歩き出す。

 

「ちょっとは落ち着いて……って、ココはボクが行きたかった、アーケードゲームの聖地!!」

恋ヶ窪さんは、目をキラキラと輝かせて流さんに付いていく。

 

「わたしを置いていかないでくださ〜い。」

ひまりさんがゆっくりと2人を追いかける。

 

私もナノちゃんと一緒に遊園地に入る。

 

すると、ナノちゃんは走り出し、私たち4人を見渡すとこう言った。

 

「ようこそ! (なのか)の創った遊園地、Continue Gamesへ!」

 

その顔は、本当に嬉しそうで、無邪気な笑顔に満たされていた。




はい、まるで最終回のような雰囲気を見せていますけど、これで終わりじゃないですよ〜!

〜次回予告〜
みんなで遊園地で遊んだ次の日に学園での授業があり、受けようとするも登校中に彩歌は、川に流されている少女に出会い……!?

次回、Lucky.28 びんかん

取り敢えず、ナノちゃん編は終わりましたね〜。
本当はゴールデンウィーク一杯使ってやるつもりだったのですけどね。

次の話はどうやらあんハピ♪の方の子たちが出て来るようですよ?

ではでは〜!

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