おんハピ♪ 〜Only Happy♪〜   作:赤瀬紅夜

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Lucky.32 だきついて

温泉に行かない?と流さんに誘われ、5人で夕飯前に行くことになった。

話によると、流さんの知り合いがその温泉宿で働いていて、何かと安くその温泉に入れるらしい。

流さんは自分のスマホを取り出して、その知り合いに連絡を入れているようだった。

 

「あーそれで、今から行きたいんだけど大丈夫かな?

「そーそー、この前みたいに……って間に合ってるんだ。

「え?

「客は多いほうがいいって?

「オッケー、わかった。

 

スマホを耳元から離してこちらを向くと、流さんは苦笑いを浮かべて言った。

 

「もしかしたら無料で入れちゃうかも」

 

そんなことを思い出しながらバスに揺られ、その温泉宿に向かう。

 

 

バスが停留所に到着し、私たちはバスから降りようとしたんだけど……。

私以外の4人がバスの座席でもたれ合いながら、眠りこけていた。

どうも静かな訳だと思ったら、全員眠っているとは……。

 

どうにか起こそうと一番近くの席に座っていた恋ヶ窪さんの肩を揺する。

 

「うーん、アレ、ボクってば寝てたんです?」

 

すると、目をこすりながらも恋ヶ窪さんは起きてくれた。

私がほっと胸をなでおろすと、恋ヶ窪さんと二人掛かりで残りの3人を起こすことにした。

恋ヶ窪さんは流さんとひまりさんが座っている席に、私はナノちゃんの座っている席に行くことになった。

 

私は、ナノちゃんの肩を揺さぶりながら呼びかける。

 

「ナノちゃん、温泉宿に着いたよ、そろそろ起きないと」

 

薄っすらと目を開け、欠伸をしながらナノちゃんは席から立つ。

 

「・・・・ごめん彩歌、ワタシ・・・・・寝て・・・た・・」

 

恋ヶ窪さんの方を見ると、他の2人を起こしていた。

 

「彩歌ちゃん、流ちゃんと陽毬ちゃんも起きたみたいです」

 

私たちは5人でバスから降りる。

 

すると、目の前に立派な建物が現れた。

ひまりさんの鳳玉亭に負けず劣らずな豪勢さで、屋根には瓦が敷かれ入り口には立派な引き戸があって、繁盛してるであろう事がわかる。

あまりのきらびやかさに私たちが動けないでいると、流さんが入り口の前に立ち引き戸を開ける。

 

「おっ、もう開店してるみたいだねー、みんなも入って入って」

 

まるで我が家のように振舞っている流さんに連れられて入ると、外観に見合う内装も中々綺麗だった。

 

「おおー! 凄いところですねー!」

「わたし、和のテイストとか好きなんです〜」

 

「でしょでしょー、しーちゃん、ひまりん!」

 

はしゃぐ恋ヶ窪さんにひまりさん、それを受けて流さんも嬉しそうだ。

 

温泉宿に入ってすぐの所に受付があり、私はそこが気になっていた。

受付の場所には大人が立っておらず、中学生か高校生くらいの少女が立っていた。

その子は、青色の混じった黒髪を短くボブカットにしていて、青い瞳で暇そうにボーッとしていた。

 

「流さん、あの子って……」

 

私の言葉と視線で気づいたのか、流さんが笑顔でその子がいる受付に歩いていく。

受付の前まで着くと、流さんが受付にいる子に声をかけた。

 

「いよっ、ひっさしぶりー、後輩ちゃん!」

 

その声に、暇そうにしていた子が流さんに気づき、表情が段々と明るくなっていく。

更に大きく頷くと、嬉しそうに返した。

 

「はい! 久しぶりですっ! オレ寂しかったですよ〜!」

 

……どうやら、流さんと受付にいる子は、旧知の仲らしかった。

 

 

「それじゃっ、紹介するねー、この子は煙山 井荻(けむりやま いおぎ)って言ってアタシが中学生の頃によく水泳のクラブで一緒だった子なんだ」

 

そう言って流さんは受付の子、もとい井荻ちゃんの肩に手を置いてそう紹介した。

井荻ちゃんはペコリとお辞儀をすると、話した。

 

「初めまして、オレはこの宿を経営している煙山 井荻っていいますっ、よろしくですっ!」

 

それから、井荻ちゃんは説明し始めた。

井荻ちゃんが言うには、無料で温泉に入れる代わりにここの手伝いをして欲しいということだった。

それでも、そのお手伝いは温泉に入ってからでも良いということで、私たちには早速温泉に入って欲しいと言った。

ということで、私たちは女湯と書かれた暖簾(のれん)をくぐる。

 

「流ちゃん! ボクこんなところに来たの初めてです!」

 

「そーでしょ、しーちゃんとか誘ってみんなで行きたかったんだよねー。」

 

恋ヶ窪さんと流さんがそう話しながら先頭を行く。

 

「あぅ〜、2人とも待ってくださいよ〜。」

 

そこに、ひまりさんが走ってついていくので、思わず私は注意をした。

 

「ひまりさん、あんまり走んないで……。」

 

すると、脱衣所の方から声が聞こえる。

 

「ええーー! おねーちゃん!?」

「あれーー! なんでりんごが?」

 

私とナノちゃんも慌てて脱衣所に入ると、以前見た恋ヶ窪さんの妹の林檎ちゃんと恋ヶ窪さんが向かい合って叫んでいた。

その光景を見ていたナノちゃんがボソリと呟いた。

 

「・・・・・2人とも・・・うるさいよ。」

 

 

 

「ふぅ……」

 

私は肩まで温泉に浸かって、ゆっくりと息を吐く。

やっぱり、温泉は入ってみると気持ちよくて肌がつるつるになったりと、良いこと尽くめだ。

 

「ひゃっほう! ひまりんの体洗ってあげるよー!」

「遠慮しておきます〜! ひゃっ、変なところ触らないでくださいよ〜!」

 

「りんご、あのさ、どうしてそんなにスタイルが良くなるの?」

「うーん、マッサージをするとか…?」

 

……周囲が騒がしい事を除けばだけれど。

ほぼ開店同時に入れたためか、私たち以外に温泉に入っている人は居ないんだけど、とにかく騒がしい。

 

流さんはひまりさんに抱きついてるし、恋ヶ窪さん達は温泉に入っているものの姉妹間のスタイルの違いに思い悩んでるしで、ゆっくり入れない。

 

「・・・彩歌、隣・・・良い・・かな・・?」

 

ナノちゃんがやってきて、私の隣に座って良いかを尋ねてきた。

私は、頷くことでそれに応える。

 

静かに私の隣に温泉へと使ったナノちゃんは、少し濡れた髪を手で弄りながら口を開いた。

 

「・・・・ありがとう・・彩歌・・・」

 

突然のお礼の言葉に、私は混乱して、ナノちゃんの方を見てしまう。

すると、そこには微笑を浮かべたナノちゃんが優しげな目つきで私を見つめていた。

 

「多分・・・もう1人の・・・ワタシの・・・・ことで・・・お礼・・・・・言いたくて」

 

もう1人のワタシ……か。

あの事はほんの数日前の事なのに、遠い過去のように感じる。

今私が見えているナノちゃんは、ゴールデンウィーク前のナノちゃんと何ら変わりないけど、話を聞く限り、あの時のナノちゃんと今のナノちゃんは1つに成ったらしかった。

どちらかが否定をするのでは無く、どちらかを優遇すことは無く、お互いがお互いを認め合った、ということなのかな。

 

「気にしなくて良いよ、私は何も出来なかったし」

 

今思えば、私はあの場において何も出来なかった。

勝手にナノちゃんが自分の力で解決したことだ。

 

あの時、私は……

 

「ちょっと流ちゃん、ボクの胸を揉まないで欲しいですっ!」

「しーちゃん、大きくするにはマッサージが重要らしいよー!」

 

またもや、流さんが騒がしくしているらしい、全くあの人は……。

 

それからは、林檎ちゃんも加わった6人でいろんなところを見て回った。

夕日が見える露天風呂だったり、炭酸水みたいになっているところだったり、サウナで我慢対決したり。

終始騒がしかったけれど、みんなが楽しそうな表情をしているのを見て、騒がしくても良いかなと思った。

 

 

 

温泉から上がると、脱衣所で井荻ちゃんが待っていた。

腰に手を当てて胸を張り、私たちに自信満々に語った。

 

「みなさんにはこれから、この服を着て売り子をしてもらいますっ!」

 

そうして取り出したのは……メイド服だった。

 

その服を見て、誰も、何も言わない。




ということで、割と短めでしたが温泉回でしたっ!

おんハピ♪を楽しんで頂けるあなたに感謝を。

〜次回予告〜

まさかのメイド服で売り子をする事になった彩歌達。

そこで彩歌達を待ち受けていたものとは……?

次回、Lucky.33 れいせいに

それでは、また来週〜!

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