陽気がほんのりと暖かい、ゴールデンウィーク明け最初の月曜日である、5月9日。
私とナノちゃんとひまりさんとの3人での登校風景がゴールデンウィークあたりからの日課になっていた。
ひまりさんがナノちゃんのお弁当を作ってマンションまで迎えに行き、そこから新しく決めた待ち合わせの場所で落ち合って3人並んで歩き出す。
入学式あたりのあの時からは、私も人と接するようになったな、なんて思いながら2人の様子を見る。
私の隣にいるナノちゃんは相変わらず無表情だけど、昨日は夜更かしでもしたのか欠伸を噛み殺しながらトコトコ歩いてくる。
また、ナノちゃんを挟んで歩いているひまりさんは、いつもそうなんだけど今日は特ににこにこしていて、時折立ち止まっては草木を眺めて、よりいっそう楽しそうに笑っている。
誰も喋らないけれど、きっと誰にとっても心地のいい静寂が流れる中、私は2人に尋ねる。
「今日から平常通りの授業だけど、2人とも忘れ物とかして無い?」
何でだろう普段は物静かな2人だけど、どこか抜けていると言うか、うっかりしてそうな印象を受ける。
「ええと、わたしはあらかた持ってきましたけど、何か忘れてても他の方に借りますから大丈夫です〜」
そう言うと、ひまりさんは鞄の中身をちらりと覗いた。
ひまりさんは母性があるというか、なんだか同級生なのにおっとりしたお姉さんみたいな立ち位置だけど、料理以外の事となると忘れぽかったり、ぼんやりとしていて用事を聞きそびれていた事もあった。
「ワタシ・・・昨日・・確・・・認・・した・・・・から・・・・オッケー・・・だよ」
腕組みをしながら、どこか誇らしげにナノちゃんは言った。
昔から無口ながらも思いやりのあるナノちゃんだったけど、普段から大人しすぎて何を考えているのかよく分からないって、色んな人に言われていたけど、私は意思疎通の面ではそこまで苦労しなかった。
それでも、天才肌というか、何でもそつなくこなしちゃって、逆に必要な物以上のものを持っていたりしていたっけ。
校門が少しずつ見えてきたところで、私は2人に話題を振ることにした。
「もうそろそろ学園に到着するし……」
「おっはよーー! 今日から平日とかダルすぎだよねー!」
風のように流さんが現れ、開口一番にやる気があるのか無いのか分からないような挨拶をしてきた。
「・・・おはよう」
「おはようございます、砂川さん」
ナノちゃんとひまりさんの挨拶に続いて、私も挨拶をする。
「うん、おはよう流さん」
やっぱり挨拶は大事だし、ダルすぎと言いながらも明るい口調だったので挨拶しておいて損はないはず。
「うんっ、アヤカ達もおはようって、実はさー、今日の朝に面白い人たち見つけたんだ」
と言っても同じ学校、更には同じクラスだったんだけどね。
流さんはそう言って、今朝あったことを私たちに話し始めた。
「まあ、時間は遡る事今朝6時半ごろ。
「アタシは毎朝6時から起きてランニングに出かけているんだけど、今日は珍しく早起きしたんだ。
「それもなんと、5時15分!
「どう?
「なかなか起きるの早く無い?
「……って、ひまりんは毎日5時に起きて弁当作りとかしてるのか。
「なんだよもー、見栄はって15分くらい早い時間に起きたって言ったのに、それよりも早く起きちゃってたなら意味なかったなー
「まあ、いいか。
「と、話が逸れちゃったから戻すね。
「早めに起きたもんだから、普段行かないところに行こうと思ってスマホも持たずにテキトーにランニングしたんだ。
「普段慣れた道ばっかり走っているからか、どこもおんなじような道に見えちゃうんだけど、違うところもいっぱいあった。
「建ってる家とか、ふと見た先の公園とかは全然見覚えがないんだよ。
「例えば……ひまりんの家みたいなでっかい日本家屋とか、チューリップが綺麗な公園とかあったけど。
「アタシが一番驚いたのは、ある場所の工事現場での事だったんだ。
「そこには、青色の髪を長く伸ばしている……あー、そうそうその人だよアヤカ、その雲雀丘 瑠璃っいう子が、萩生っていう赤色っぽい髪の子をオジギビトの看板の前で通せんぼしていたんだ。
「右に行けば、それに付いて右に動き、左に動けば、またもや合わせて左に動く。
「そんな感じのやり取りを続けるうちに、会話をし出してしばらくした後に、言い合いっぽいのをした後、萩生っていう子が走り出したんだけど、天之御船学園とは全く別の方向に向かっていたんだよね。
「そのとき思わずアタシは笑っちゃたんだけど、あることを思い出したんだ。
「それは、幸福授業のリアルすごろく。
「あたしたちは最初に行ってて知らなかったんだけど、その萩生って子が1人だけスタートの時に真逆のエレベーターの方に走って行ったって噂を聞いてて、その子はよほどの方向音痴なんだねってさ。
「でも、そんな方向音痴でも幸福クラスではあんまり浮かないし、誰もいじめない。
「きっとこのクラスの誰もが不幸を持ってるなのかもしれないからってことかもね。
「まー、何が言いたいかて言うと、普通の授業をサボって幸福授業だけ真面目にやろうかなって。
だって、授業はタイクツだけど、幸福授業は楽しいからね!
そう言って流さんは話し終えた……と同時に、流さんの背後で途中から話を聴いていた恋ヶ窪さんが背伸びしながらチョップとツッコミを入れていた。
「いや、流ちゃんには真面目に授業を受けて欲しいです!」
確かに、流さんはよく授業中に寝ていて怒られたりするからね。
それでも、私は流さんが恋ヶ窪さんにじゃれ合いながら嬉しそうに笑っているところを見ると、思わず許してしまいそうになるくらい、今の流さんは嬉しそうだった。
同じクラス……それもたまたま席が近かっただけなんだけれど、あの時話しかけられて、こうして友達になれて良かったな。
そんな事を思いながら、私は頬を緩めた。
そう私は……笑えることが、出来た。
はい、という事で、割と短めに書いてみました!
今回は、箸休め的にしつつもざっくりと朝に日常をお送りしました〜!
〜次回予告〜
晴れた日のこと。
彩歌、菜野花、陽毬の三人は学園へと向かっていたが、陽毬が忘れ物を連発して……?
次回、Lucky.36 やっぱり
波乱に満ちた展開になります!ひまりん編!
それでは、次回もお楽しみに〜!