それでは、そろそろ始めていきます。
Determination of a human
とある世界に存在する星、地球。この星に住む種族──『ニンゲン』と『モンスター』は、遙かな昔に対等な関係として暮らしていたが、種族間で起きてしまった戦争によって長期に渡って戦いを繰り広げた。そして、その戦争はニンゲンの勝利で幕を下ろし、勝利をしたニンゲン達が地上を支配する一方で、敗北したモンスター達は地底へ追いやられる事となり、ニンゲンが地上と地底を繋ぐ唯一の入口であるイビト山のゲートを魔法のバリアで封印したため、モンスター達は地底に閉じ込められた。それから長い時が経った201X年、ある出来事がきっかけでモンスター達の王である『アズゴア・ドリーマー』は、ニンゲン達に戦争を仕掛けようとしていた。しかし、地下世界に落ちてきたニンゲンの働きでそれは無くなった上、ゲートを封印していた魔法のバリアを壊した事でモンスター達は地上へと戻り、地上では再びニンゲンとモンスターの二種族が、至る所で交友を深めていた。
そんなある日の事、ある場所──イビト山の
「うーん……やっぱりここに戻ってくると何だか家にいるときと同じくらい落ち着く感じがするなぁ……」
「落ち着く感じ……まあ、その気持ちは分かるかな。あの頃、私はここに住んでいた時期があるし、ニンゲン達の事を憎んでいたわけだから、ここが私にとっての故郷みたいな物だからね」
「ふふ、そういえばそうだったね。でも、今のニンゲン達はそんなに悪いとは思わないでしょ? キャラ」
「……まあ、それはそうかもね」
青地に紫色のボーダーの服に青いズボンといった服装の細目のニンゲン──フリスクが隣に立つ緑地に明るいベージュ色のボーダーの服を着たニンゲン──キャラと話す中、赤いマントをつけたスケルトン──パピルスはイビト山を見上げながら不思議そうに小首を傾げた。
「しかし……オレさま達に一体何の用なんだろうな? 地上で少し遊んでいたら、いきなり博士から研究所に来て欲しいと電話で言われ、ちょうど近くにいたお前達とこうして一緒に来たは良いが、博士達は理由すら話してくれなかったぞ」
「それはまだ分からないけど……博士達には色々お世話になってるから、何か手伝える事があるならしっかりと手伝わないといけないね」
「ニェッヘッヘッへ、そうだな。よーし……見てろよ、フリスク、キャラ。このパピルス様の力で、どんな問題でもすぐに解決してやるからな!」
「……一匹の犬のせいで必殺技が使えなくなる事が多い君にどれ程のことが出来るかは予想がつかないけど、とりあえず期待だけはしておいてあげるよ。さて……そろそろ行こうか、フリスク、パピルス」
「うん」
「おう!」
キャラの言葉にフリスクとパピルスはそれぞれ返事をすると、三人は自分達に集まって欲しいと言ってきた博士の研究所へ行くため、地上と地下世界を繋ぐゲートを潜り、地下世界へと入っていった。玉座の間などがあるコアの中を通り、エレベーターを乗り継ぎながらアルフィー博士の研究所へ行く途中、フリスク達は同じように地上へと出ていったモンスター達と出会い、軽く立ち話をした。すると、モンスター達は口を揃えて『自分達はアルフィー博士やメタトンから一度地下世界に来ていて欲しいと言われたから』と語った。
「……つまり、博士達に呼び出されたのは、ボク達だけじゃなかったって事だね」
「そうだね……呼び出されたのが私達だけならまだ分からなくはないけど、モンスターキッド達まで呼ばれたとなると、博士達の目的はまったく予想がつかないね」
「むむむ……お前達でも分からないとなると、このパピルス様にもサッパリだな。博士達は、あの日から大切な友達になったが、友達の頼みだと思って安請け合いしてしまったのを今更になって後悔し始めてしまったぞ……」
「後悔しなくても大丈夫……だと思うけど、少しだけ不安はあるよね」
「まあ、そうだね。ただ……私達が呼ばれていてモンスター達もいるという事は、アズゴア王──父さんやフラウィーもこの地下世界に呼ばれているんだろうね」
「後はトリエルさんやサンズ、それにアンダインさんも呼ばれている可能性は高そうだね」
「む……となると、地下世界に呼ばれているのは、おれサマ達モンスターとフリスク達地下世界に関わるニンゲンだけという事になるのか?」
「恐らくね……まあ、結局の所まだ事情が分からないわけだから、早く博士の研究所に行った方が──」
その時、フリスク達の背後に何者かが現れると、フリスク達はその気配を感じて振り返ろうとしたが、「止まれ、お前達」という彼らにとって聞き馴染みのある声を聞いてその動きを止めた。すると、背後に立った何者かは、少し安心した様子でふうと息をつくと、低い声でフリスクに話し掛けた。
「おい、ニンゲン。ここでの挨拶の仕方を教えてやる。お前だけ振り返って俺と握手をしろ」
「……分かったよ」
フリスクはクスリと笑ってから静かに振り返ると、そこにいたモノ──白のタンクトップの上に青色のパーカーを羽織り短パンを履いたずんぐりとした体型のスケルトンが差しだした手を取った。その瞬間、辺りに何かが抜けるような音が鳴り響くと、フリスクとスケルトンは一度顔を見合わせてから同時に笑い始めた。
「ふふ……あははっ! やっぱりブーブークッションを仕込んでたんだね」
「くくっ、もちろんだとも。ちょっと古い手だが、まだまだ面白いもんだ。それに……これはお前さん──フリスクと初めて会った時にやった手と同じだからな」
「ふふっ、そうだね。あの時は、まだこの地下世界に来たばかりで、トリエルさんとも別れたばかりだったから、サンズがこうやってくれたのはかなり助かっていたよ」
「へへ、なら良かったぜ。それと……お前達、もう振り向いても良いぜ」
まだ振り向いていなかったキャラ達にサンズが声を掛けると、二人はゆっくりと振り返り、少し呆れた様子でサンズに話し掛けた。
「サンズ……そのブーブークッションを仕込んだ握手が、君達の出会いに関わる大切な思い出の一つなのは分かっているけれど、果たして今それをやる必要はあったのかな?」
「そうだぞ、兄ちゃん! その間、オレさま達はしっかりと待ってやってたんだからな!」
「ああ、悪い悪い。だがな、たまにはこうした楽しみだって必要なんだぜ? オイラみたいに毎日
その瞬間、どこからかともなくツクテーンという音が聞こえたかと思うと、フリスクは再び楽しそうに笑い始めたが、キャラはやれやれといった様子で首を横に振り、パピルスは拳を固く握りながら「サンズ!」と少し怒りが籠もった大声を上げた。しかし、サンズはそれに対して驚く様子やムッとする様子も無く、むしろその反応を楽しむようにニッと笑った。
「そんな元気があるなら、ここから博士の研究所までは、平気で歩いて行けるな」
「それは当然だ! このオレさまともあろうスケルトンが、その程度の距離を歩けないわけが無いだろう!」
「へへ、そうだな。んじゃあ……そろそろ行こうぜ、お前さん達。アズゴア王達は、もう研究所に着いてるからな」
「アズゴア王達は、って事は……」
「ああ、そうだ。他のモンスター達は、この地下世界でぶらぶらしてもらってるが、あの日フリスクと戦ったり絆を深めたりした連中は、全員研究所に集まってるぜ? だから、後はお前さん達だけってわけだ」
「なるほど……」
「それで、私達だけを集めて何を話そうとしているのかな? 私とフリスクのように地下世界に関係するニンゲンと強い力を持つモンスター達を集めてまでしたい話というのは、一体どんな内容なのかな?」
「……ついてくれば分かるさ。ただ一つだけ言うなら、今は他の連中に話せるような内容じゃねぇって事だ」
「……分かった」
「物わかりの良い奴は嫌いじゃねえ。それじゃあ行こうぜ、お前さん達」
「「うん」」
「おう!」
サンズの先導で再び歩き出した後、アルフィー博士の研究所に着くまでフリスク達はサンズも交えて他愛ない話を始めた。楽しそうに話をするフリスク達に対してサンズは微笑みを浮かべながら頷いたり、相槌を打ったりしていたが、どこか深刻そうな雰囲気を漂わせていた。キャラはそのサンズの雰囲気に気付いてはいたが、それを口に出す事はせず、そのままフリスク達と同じようにサンズの後をついていった。そして、それから数分が経った頃、フリスク達は目的地であるアルフィー博士の研究所に着いた。
「ふぅ……ようやく着いたね」
「そうだね。ところで……凄い今更な事を言うけど、集合場所がここでアンダインは大丈夫なのかな? 種族的にアンダインは、このホットランドが苦手だと思うけど……」
「……ああ、それなら──」
「その点については問題ないよ、キャラ。アルフィー博士の研究所内は、空調がしっかりとしているからね。だから、彼女も問題なく元気にしているよ」
突然聞こえてきたその声にフリスク達が辺りを見回す中、キャラだけは少し安心した様子でふうと息をつくと、声の主に声を掛けた。
「フラウィー、隠れてないで出てきたら? 別に隠れている理由は無いんだから」
「……そうだね」
すると、キャラの横に笑顔を浮かべた一輪の金色の花──フラウィーが顔を出し、それを見たフリスクはゆっくりとしゃがみ込んでフラウィーに話し掛けた。
「やっぱり君も呼ばれてたんだね、フラウィー」
「まあね。ああ、それと……父さ──アズゴア王達は、一足先に説明を受けているよ。それで、ボクはサンズのように君達を迎えに来たってわけさ」
「そう。ところで、いつまでフラウィーのままでいるのかな? せっかく、博士達の実験のおかげでその姿から変われるようになったんだから、その姿のままでいるよりアズリエルの姿でいた方が動きやすいんじゃない?」
「……まあ、そうしても良いけど、今のボクがあの姿になるにはかなりの力が必要だからね。だから、地中に潜って色々なところに行ける上、体力の消費も少ないこっちの姿の方が、今はちょうど良いんだよ」
「……そっか」
フラウィーの答えを聞いてキャラは納得した様子で微笑みながら頷いたが、その表情はどこか寂しそうな雰囲気を漂わせていた。すると、「……しょうがないな」と目を閉じながらフラウィーが言った直後、フラウィーは光に包まれ、光の中のフラウィーの姿は徐々に変化していった。そして、光が止む頃にはフラウィーの姿は、金色の花からキャラと同じような服装の羊のような姿のモンスターへと変わり、それを見たキャラはその行動に一瞬驚いたもののすぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう、アズリエル」
「どういたしまして。まあ、よくよく考えてみたらこっちの姿でいた方が、研究所内は歩きやすいし、最近フラウィーの姿でいる事が多かったから、たまにはこっちの姿にもなっておいた方が良いからね」
「うん、そうかもしれないね。さて……と、それじゃあ行こうか、皆。これ以上、他の皆を待たせてもいけないからね」
「「うん」」
「おう!」
「おう」
キャラの言葉にそれぞれ返事をした後、フリスク達は研究所の自動ドアを潜って研究所内へと入っていった。研究所内には、エスカレーターやモニターといった様々な機械やそれらに関すると思われる書類や設計図が置かれている机、そしてニンゲン達に人気のアニメに関するグッズなどがあり、それらを眺めながらフリスクはポツリと感想を漏らした。
「ここに来る度にいつも思うんだけど、アルフィー博士って本当に凄いよね」
「まあ、博士と言われるだけあってその頭の良さや発想力なんかは素晴らしいからね」
「後はあの恥ずかしがり屋な性格だけどうにかなれば良いんだが……まあ、こればかりは個性と捉えてやるしか無いかもしれねえな」
「そうだね。それにしても……博士達は、一体どこにいるのかな?」
「む、それもそうだな……研究所内のどこかにはいるのだろうが、それがどこか分からないと話を聞く事が出来ないぞ……」
パピルスが困り顔で言ったその時、突如ピンポーンという音が研究所内に鳴り響き、それと同時に前方にあったガラスの扉が開くと、フリスク達の知り合いである様々なモノ達が次々と姿を現した。そして、それを見たフリスクがニコリと笑いながら近付いていくと、その中にいた青色の魚人型のモンスターがフリスクの姿に気付き、とても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「フリスク、久し振りだな!」
「うん、久し振りだね、アンダインさん。久し振りと言っても、大体一ヶ月くらいなんだけどね」
「ん……そうだったか? まあ、そんな事はどうでも良いか!」
アンダインのその言葉に、フリスクが苦笑を浮かべる中、それを見ていたキャラとアズリエルの元にアズリエルと同じ羊のような姿をしたモンスター達が近付いた。
「キャラ、お疲れ様。ここまで歩いてきて疲れただろう?」
「ううん、大丈夫だよ、父さん。フリスク達が一緒だったし、アズリエルも迎えに来てくれたから、このくらいはへっちゃらだよ」
「ふふっ、それなら良かったわ。アズリエル、キャラのお出迎えをしてくれてありがとうね」
「……うん、どういたしまして」
アズゴア王とキャラが笑い合い、トリエルの言葉にアズリエルが気恥ずかしそうに返事をしていると、魂を持った男性ロボット──メタトンを連れた眼鏡を掛けた白衣姿の恐竜のようなモンスターが、安心したような笑みを浮かべながらフリスク達に近づき、深々とお辞儀をした。
「……み、 皆さん……わざわざ研究所まで来て頂いてありがとうございます……」
「いえ、アルフィーさんには色々とお世話になってますから、このくらい当然ですよ」
「そうですよ、フリスクが色々助けてもらったり、私とアズリエルがこうして皆と一緒にいられるのもアルフィーさん達のおかげですから」
「そ、そう言ってもらえるのは……とても、嬉しい……です」
フリスクとキャラの言葉を聞き、アルフィーは嬉しさと恥ずかしさが入り交じったような笑みを浮かべていると、その隣に立っていた黒スーツ姿のスケルトン似の男性がニコリと笑いながらキャラ達に話し掛けた。
「やあ、キャラ、アズリエル。体の調子はどうかな?」
「はい、バッチリですよ、ガスター博士」
「僕の方も異常はありません。ただ……相変わらず、こっちの姿になる時はかなり疲れますけどね」
「はは、そうかそうか。まあ、何かあった時には遠慮無く言ってくれたまえ。今こそ異常は無いかもしれないが、アズリエル君が変化の際に疲労を感じているように二人の体や『ソウル』はまだ安定しないところが多いからね。その上、前の人格へと戻ってしまう恐れもあるから、何かおかしいと思った事があったら、その時はしっかりと話してくれ」
「「はい」」
キャラとアズリエルが、声を揃えて返事をすると、ガスター博士は満足そうに頷いた。本来、キャラとアズリエルの両名は故人であり、彼らが元々持っていたソウル──ニンゲンやモンスターが持つタマシイのような物は既に失われている。しかし、アルフィーが過去に行っていた
そして、そんなガスター博士の様子をサンズは静かに見ていたが、やがてやれやれといった様子で小さく溜息をついた。
「ガスター、コイツらの事が気になるのは分かるが、例の話は良いのか?」
「……おっと、そうだったね。いやはや、長いこと意識体として過ごしていたせいか、誰かに話をするよりも何かの経過観察の方に意識が向いてしまうようだ。これからは気をつけるようにするよ」
「はいはい……まあ、確かにオイラとフリスクの力や皆のアイデアでどうにか見つけ出すまで本当の意味で一人だったからな」
「ああ。だから、こうしてまた実体を持った状態で皆と会話を交わしながら様々な研究をさせてもらえるのは、本当に嬉しいよ。私の後任となったアルフィーや発明品であるメタトンにも色々と手伝ってもらっているしね」
「は、はい……もっとも、過去の過ちを償うためにその役職は辞めているので、今はガスター博士の助手としてメタトンと一緒にお手伝いさせてもらっているだけですけど……」
「はは、確かにそうだが……君の頭脳や発想力には、いつも助けられているから私にとって君はとても心強い助っ人だよ。もちろん、メタトンやアンダインもね」
「フフ……そう言ってもらえるのは、とても光栄だよ。」
「まあ……私はいつも力仕事くらいしか手伝えてないが、それでも助けになってるって言うならこれからも助けてやるよ」
「ああ、頼りにしているよ。さて……それでは、そろそろ本題に入るとしよう」
そのガスター博士の言葉と同時に、消えていたモニターのスイッチが一斉につき、地下世界の様々な場所に仕掛けられたカメラの映像が映し出された。
「これは……アルフィーさんが過去に仕掛けていた隠しカメラの映像ですよね?」
「その通りだ。元々は、アルフィーがフリスク君の地下世界での様々な行動を見るために仕掛けていた隠しカメラだが、今はこうして地下世界に何かの変化や異常が無いかを見るために使わせてもらっているんだよ。そして……今回、実際にその異常という物が起きてしまっているんだ」
「異常って……おれサマには特に何も無さそうに見えるが……?」
映像を見ながらパピルスが不思議そうな様子で首を傾げていると、ガスター博士は険しい表情で首を横に振った。
「今は確かにそうだが……最近、地下世界のあらゆる場所で
「とある物……?」
「ああ。私達が発見した物、それは
「次元の歪み……?」
「その通りだ。普段、私達はこの世界で何気なく生活を行っている。しかし、私達の世界のすぐ傍では、この私達とは違った別の私達が生活をしている。これを一般的には、平行世界──パラレルワールドと呼んでおり、このパラレルワールドの例を挙げるなら、性格が真逆の私達が住む世界やこの中にいる誰かがいない世界などだな」
「なるほど……それで、その次元の歪みがどんな被害をもたらすんですか?」
「次元の歪みは、発生した世界に様々な影響を及ぼす。本来、その世界に無かった物を別の世界から呼び寄せたり、その逆で別の世界に飛ばしたりする。最悪の場合、歪みは別の世界同士を合わせてしまう事もあるんだよ」
「別の世界同士を合わせてしまう……そうなると、どうなるんですか?」
「簡単に言えば、また別の世界が生まれる事になる。ただし、私達の記憶がその新しい世界用に書き換えられてしまう事になり、今の私達の関係性も崩れる事にもなりえる」
「そんな……」
「私はそれを何とか阻止したいと考えているが、次元の歪みを何とかする手段はまだ分からない。しかし、次元の歪みが観測されているのはこの地下世界だけだった事から、とりあえずモンスター達をこの地下世界に呼び戻し、フリスク君とキャラ君のようにモンスター達と交流が深いニンゲン達にも来てもらったんだ。次元の歪みがまだここにしか発生していないという事は、何か起きるとしたらまずはここだからね」
「それじゃあモンスター達を呼び戻したのって……」
「ああ、モンスター達を向こうに残した状態で、この地下世界に大きな異変が起きてしまったら、最悪彼らの帰る場所も無くなってしまうからね。彼らや君達には悪いんだが、次元の歪みがどうにかなるまでは、以前のようにこの地下世界で暮らしてもら──」
その時、突然地面が大きく揺れ出し、その震動で研究所内に危険を報せるブザーがけたたましく鳴り響いた。
「えっ、え……な、何……!?」
「地震……いや、これは……!」
「ガスター博士、何か知ってるのか!?」
「ええ……まだ仮定にしか過ぎませんが、恐らくこれは……次元の歪みが引き起こした物だと思われます! 今まで発生してきた次元の歪みが、この世界と他の世界を隔てる壁に少しずつヒビを入れていき、それが今になって繋がった事で、この揺れを引き起こした可能性が……!」
「世界を隔てる壁にヒビって……それじゃあこの世界は……!」
「い、いや……! まだ、そうと決まったわけでは──」
ガスター博士の焦りを含んだ声が研究所内に響いたその時、フリスク達の意識が遠退きだし、意識の混濁によって次々とその場に倒れていく友人達の姿にどうにか助けようと手を伸ばしたものの、フリスクの体もグラリと揺れ、視界は暗闇へと包まれていった。
地球によく似たとある星、
そんなある日の事、『スターゲート』と呼ばれる国家に所属するクランの一つ、『リンクジョーカー』のユニットである『
「さぁて……異常な次元の歪みが観測されたのは、確かこの辺りだったはずだけれど、今のところそれらしい何かは見られないな……。まあ、ひとまず依頼者である
『真星輝兵 カオスブレイカー・ドラゴン・トーカー』は上空をゆっくりと飛びながらリンクジョーカーや彼自身の事について想起した。『真星輝兵 カオスブレイカー・ドラゴン・トーカー』が所属するリンクジョーカーは、かつて異星から惑星クレイを侵略するために襲来し、
『確かに貴方の話を聞いた時、私は自分の耳を疑った。同胞達からも『道化』と呼ばれ嫌悪されるような存在が、まさか新世代のリンクジョーカー達に与するとは思わなかったからな。だからこそ、その真偽を見定めるために他のクランの代表ユニットと同じように私も貴方との面会をする事にし、もし何か良からぬ企てがあるならば、私の命を賭けてでもその命を絶つつもりだった。だが、あの日に貴方と面会して私の考えが間違っていた事を知った。確かに姿は、あの『星輝兵 カオスブレイカー・ドラゴン』そのものだったが、貴方からはあの悪意に満ちた気配は一切感じられず、自信の気持ちなどを語るその表情や声には偽りが無かった。だから、私は貴方を信じた上で同じ惑星クレイの仲間として認め、一番に貴方の味方であろうとしたのだ。同じ正義と平和を愛する者として』
その言葉に、対話者が強い感動を覚え、友人に対して感謝の言葉を述べた後、これからも共に協力し合うへの誓いの意味を込めてお互いの拳を軽くぶつけ合い、彼らの絆は更に深まったのだった。
「……ふふ、あそこまで信用をしてもらっている以上、これからもそれに報いるために頑張らないといけないな」
懐かしさと心からの嬉しさを感じながら小さく笑った後、対話者はそのまま上空を飛び続けた。そして、それから約数分後、対話者はとある山の麓に一人の人物が立っているのを目にし、その場所へ向かってゆっくりと降下し、静かに着地をした後にその人物に微笑みかけた。
「お疲れ様です、ブラスター・ブレード。……おや、今日は部下の方はいらっしゃらないのですか?」
「ああ、他の皆には待機してもらったり王の警護についてもらったりしている。次元の歪みの影響で何が起きても良いようにな」
「なるほど……それで、私達に調査の手伝いを依頼してきたんですね」
「その通りだ。いざという時には、対話者殿の『呪縛』の力が必要になるかもしれない。その時はよろしく頼む」
「ええ、任せて下さい。依頼を受けた以上、私も精一杯やらせてもらいますよ」
「ああ、頼りにしている。さて……まずは、この山についてなのだが……」
『ブラスター・ブレード』が山の方へ視線を向けると同時に、対話者もそちらへ視線を向けた。件の山は、一見何の変哲も無いように見えたが、彼らは山の中から感じる異様な気配に強い警戒心を示していた。
「……この山は、前からこの地域にあった物では無いんですよね?」
「ああ。今朝、『ロイヤルパラディン』のユニットの一人が次元の歪みと思われる物を観測し、経過の観察をしていたところ、この山が突如出現したのだという。そして、一度『ディメンジョンポリス』にも連絡は取ったのだが、彼らは関与していないという返答があったため、まずは私達だけで調査をする事にしたのだ」
「なるほど……それにしても、結構大きな山ですよね」
「そうだな。先程、軽く周りを歩いてみたところ、一箇所だけ山の中に入れそうな大穴を見つけたのだが……その穴の周囲と奥の方から何やら強い力を感じた」
「強い力……この異様な気配と何か関係があるんでしょうか?」
「恐らくな。だから、今は充分に警戒をし──」
その時、彼らは近くから妙な気配が漂ってくるのを感じ、すぐにそちらへ視線を向けた。視線を向けた先にあったのは、話の中に出てきた大穴だったため、『ブラスター・ブレード』は更に警戒心を強めながら対話者に声を掛けた。
「……対話者殿」
「……ええ、やはり誰かがいるようですが、どうしましょうか……」
「……ここは正々堂々行くしかないだろうな。対話者殿は、いつでも『呪縛』が使えるように心の準備だけはしていてくれ」
「分かりました」
対話者が深く頷きながら答えた後、彼らは気配がした方へと向かった。そして、件の大穴が見えてきたその時、彼らの視界に入ってきたのは、注意深く辺りを見回すサンズの姿だった。
「あれはスケルトンのようだが……もしや『グランブルー』の新たなユニットか?」
「いえ……この前、『グランブルー』のユニットと会う機会がありましたが、そんな話は聞いた事が無いので、たぶん違うかと。しかし……あのスケルトン、どうやら只者では無さそうですね……」
「……ああ、そうだな。よし……とりあえず話しかけてみよう。だが、警戒は解かないようにな」
「……はい」
そして、彼らが再び静かに近付いていくと、サンズは彼らの存在に気付いた様子で、ゆっくりと視線を向けた。サンズは対話者達の姿を見た瞬間、不思議そうに首を傾げたが、すぐにハッとした表情を浮かべると、警戒心を強めながら両手をゆっくりと広げた。その様子を目にし、対話者達はピタリと足を止めると、サンズの姿を視界から外さないようにしながら声を掛けた。
「見慣れぬ方、私の言葉は分かるか?」
「……ああ、不思議な事に全部分かるが、お前さん達はどうだ……?」
「ああ、こちらもしっかりと分かっている」
「そうか……まあ、それならそれで良いが、まず少し訊きたい事がある」
「……何だろうか?」
「『ソウル』、『
「……ソウルはもちろん聞き覚えがあるが、他の二つについては聞いた事は無いな」
「……そうか。んで、お前さん達はオイラと戦うつもりはあるのか? もし、あるって言うのならお前さん達にとって最悪の時間を過ごす事になるぜ……?」
その瞬間、サンズの目の奥が黒く染まり、ただならぬ雰囲気を醸し出し始めると、それに対して対話者は慌てて言葉を返した。
「い、いえ……私達は貴方と戦うつもりは一切ありません……! ただ、次元の歪みが観測された後にこの山が出現したという話を聞いたので、調査のために訪れただけです……!」
「……そうか」
対話者の言葉に少し安心した様子で答えると、サンズの目と雰囲気は元に戻った。そして、大穴の方へチラリと視線を向けたかと思うと、覚悟を決めた様子で対話者達の方へ視線を戻した。
「……なあ、いきなり敵意を剥き出しにしておいてなんだが、一つ協力してもらっても良いか?」
「私達が協力出来る事なら構いませんが……」
「……お前さん達も何となく気付いてる通り、オイラ達はこの世界とは別の世界の住人だ。だが……正直な事を言うならば、何でこんな事が起きちまったのかはサッパリ分からない。今、仲間の博士達が必死になって原因を探ってくれてるとは思うが、それが見つかるのもいつになるかは見当がつかない。そこで、もし可能ならお前さん達に原因を探るための協力を依頼したいんだ。このままこの状況を放置するわけにもいかないからな」
「……なるほど」
「もちろん、ただでとは言わない。その代わり、お前さん達が何か困っている事があれば、その分の協力はするつもりだ。まあ……言わねぇとは思うが、他の奴らがそれを拒むようなら俺だけでもそうするつもりだ。だから、頼む……俺達に協力してくれないか……?」
深々と頭を下げながら頼み込むサンズの姿に対話者達は一度顔を見合わせた後、コクンと頷き合ってからそれに答えた。
「もちろん、協力させてもらいますよ、異世界のスケルトンさん。異世界から迷い込んで困っている方を放ってはおけませんから」
「それに、次元の歪みによって異世界の方がこちらに迷い込んだ以上、こちら側のユニット達も同じように別の世界に迷い込む事になる可能性は大いにあります。なので、こちらとしてもこの現状を放置するわけにもいきません。異世界の方、何か困った事がありましたらいつでも言って下さい」
「……ありがとうな、お前さん達。さて、後は他の奴らにこの事を伝えるだけなんだが──」
サンズが少し心配そうな表情で腕を組んだその時、「おーい、サンズー!」という声が大穴の方から聞こえ、全員がそちらに視線を向けた。すると、そこには小型のモニターを持ってこちらに向かって駆けてくるフリスクとキャラの姿があり、その二人の姿にサンズは「やれやれ……」という溜息を漏らした。
「お前さん達、そのモニターは何なんだ? というか、アズゴア王達やガスター達はどうしたんだ?」
「王様は、モンスター達に今の状況を説明してて、パピルスとトリエルさんとアンダインさんもそれを手伝ってるよ」
「そして、ガスター博士はアルフィー博士とメタトンと一緒に現状の確認と原因の究明中。今はフラウィーになっちゃってるけど、アズリエルもそれを手伝ってるよ」
「そうかい。んで……さっきも訊いたが、そのモニターは一体何なんだ?」
「これは、ガスター博士が研究所のモニターの一つを改造して急いで作ってくれた即席通信機だよ。一見、ただのモニターにしか見えないけど、横に付いてる機械でこっちの音を拾って向こうに届けたり、あっちからの音を届けたりするって言ってたよ」
「へえ……ソイツは結構なもんだが、本当に点くのか?」
「うーん……ガスター博士は大丈夫だって言ってたけど、まだ試してはいな──」
フリスクが困り顔で答えていたその時、持っていたモニター型通信機の画面が独りでに点くと、画面には様々な機械を背にこちらを見つめるガスター達の姿が映った。
『あー……フリスク君、キャラ君、モニター型即席通信機は映っているかね?』
「あ、はい。しっかりと映ってますよ、ガスター博士」
『おお、そうか。理論上は、しっかりと点く事になっていたが、こうしてこの眼で確認できるとやはりホッとするね』
「ところで、そこに父さん達もいるという事は……モンスター達への説明も無事に済んだっていう事ですか?」
『ああ、そうだ。皆、まだまだ不安はあるようだったが、何とか納得してもらったよ』
『ニェッヘッヘ、アズゴア王の演説は実にクールで素晴らしかったぞ! お前達にも見せてやりたかったくらいだ!』
「ふふ、そっか。そこまで言うならそ見てみたかったかも……」
モニター型即席通信機越しに伝わるパピルスの気持ちの高ぶりに対してフリスクが柔らかな笑みを浮かべる中、そのやりとりを対話者達がただ静かに見ていると、その様子を見たサンズが少し申し訳なさそうに頭をポリポリと掻いた。
「あー……紹介が遅れたが、これが俺の仲間達だ……。なんかすまないな、急に騒がしくしちまって……」
「……ふふ、別に騒がしいとは思っていませんから気にしないで下さい。それにしても……ここまで出来の良い即席の通信機を作ってしまうとは、貴方──サンズさんのご友人はとても凄い方なんですね」
「……まあ、間違ってはいないが、その分苦労はしてるのも間違いはないな。さて……雑談はここまでにして、まずはお互いの自己紹介でもしようぜ? そうすれば、こんな
サンズの口から溜息と共に出てきたスケルトンジョークを交えた本音に対話者とフリスクから笑い声が上がった後、彼らはお互いに自己紹介を始め、それを終えた後に改めてお互いの目的のために協力し合う事を誓った。そして、安心した事による和やかな雰囲気が流れたその時、サンズは何かを思い出したような表情を浮かべると、傍らにいたフリスクに声を掛けた。
「今更なんだが……フリスク、お前さんの
「あ、それもそうだね」
フリスクは納得した様子で答えた後、体に力を込めながらこれからの先の事について考えた。そして、ケツイが漲ったその時、突如フリスクの両手が大きな輝きを放ち始めた。
「え、え……!?」
「これは……一体……!?」
その輝きに全員が驚きを露わにしていると、輝きは次第に幾つもの小さな紙のような物へと変化を始めた。そして、突如フリスクを原因不明の頭痛が襲い、フリスクの頭の中に一人の少年の姿が浮かぶ中、光を纏った紙のような物は独りでに積み重なりだし、最後の一枚が一番上に乗った瞬間、光は静かに止んだ。
「これは……カード、かな……? それもこんなにたくさん……」
「さっきの現れ方から考えると、それはただのカードではないみたいだけど……フリスク、一番上のカードを捲ってみてもらえるかな?」
「う、うん……」
その言葉に従って一番上のカードを捲ると、そこに描かれていたのは──。
「……え? ボ、ボク……?」
細めで人懐っこそうな笑みを浮かべる青地に紫色のボーダーの服を着た人間──フリスクの姿と何かの数値を表しているであろう幾つかの数字、そして細かな字で書かれた説明文のような物だった。フリスクは驚きを隠しきれない様子で、その下にあった一枚を捲ると、今度はサンズの姿が描かれており、他のカードにもパピルスやアンダインといった地下世界の仲間達の姿が描かれていた。
「ど、どういう事……? もしかして、前に皆のロストソウルをセーブしたのが何か関係してるのかな……?」
「……それもあるかもしれないけど、ナプスタブルークやマフェットのカードもあるみたいだし、理由はそれだけじゃ無いかもしれないね。フリスク、他に何か変化は無いかな?」
「変化……変化とは違うかもしれないけど、さっきカードが光ってる間、頭が痛かったかも……。後は、誰かは分からないんだけど、人間の男の子の姿が浮かんだくらい……かな?」
その言葉を聞いた瞬間、対話者達は「「人間の男の子の姿……」」と何か思い当たった様子で同時に声を上げると、とても真剣な表情でフリスクに話しかけた。
「フリスクさん、その少年の姿の詳細は覚えていますか?」
「え、えっと……ちょっと背丈が低めで短い少し暗めの青色の髪の毛の子で、ぱっと見は少し気弱そうだけど、どこか優しそうな雰囲気でした。それで服装は──」
「いえ、そこまでで大丈夫です。ですが、となると……」
「ああ、もしかしたらそういう事かもしれないな」
フリスクの説明を聞いた対話者達が真剣な表情で話す中、フリスクはわけが分からないといった様子で対話者達に話しかけた。
「あ、あの……話がまったく見えないんですけど……」
「おっと……すみません、確かに説明しないと何が何だか分からないですよね」
そして、対話者はフリスクが口にした人物に心当たりがある理由について話を始めた。
「実は、この惑星クレイは
「地球……え、それって……」
「はい、偶然かもしれませんが、皆さんが住んでいる名前の星と同じ名前なのです。そして、地球にはフリスクさんとキャラさんと同じ人間が住んでいて、地球にはあるゲームが流行っているそうで、それに使うのがフリスクさんが持っているそのカードと同じ物なのだそうです」
「なるほど……でも、どうしてそんな物がここに……」
「……これは聞いた事があるだけなのですが、地球にはある力を持った一族が住んでおり、その力というのは
「惑星クレイへのアクセス……」
「具体的に言うならば、惑星クレイの状況をその場にいながらにして見る事が出来、自らや他者を惑星クレイと地球に移動させる事が出来るというものらしいのですが、何故か先日の星輝大戦などではその姿を見る事は無かったといいます」
「なるほど……つまり、ボクに宿ったのもそういう能力であり、ボクが見たのはこの世界の地球の様子だという事ですね」
「……恐らくは。フリスクさん、貴方自身は何か感じる物などはありますか?」
「そうですね……ちょっと言葉にはしづらいいんですけど、何となくそういう能力が自分の中にあるような感覚はあるかもしれません」
「……分かりました。そして、フリスクさんが見た少年なのですが、私は夢の中でその姿を見た事がありまして、雑談の中でこの事を『ブラスター・ブレード』さんにお話したところ、『ブラスター・ブレード』さんも同じ少年を夢で見た事があるらしく、その際に二人で姿の確認はしたので、二人が見たのか同一人物であるのは間違いはありません。そして、彼は私達の夢の中でそのゲームをしており、使っていたカードの中に私達がいた事から、私達は彼の事を遙か昔に件の一族に味方したとされる人間の呼び名から取って『
「『先導者』……」
「しかし、フリスクさんがその能力で姿を見た事から私達が『先導者』と呼ぶ少年は、地球上に実在するようです。そして、フリスクさんの手にそのカード達があるという事は──」
「……その子が今回の件の鍵を握っている可能性が高い上、このカードデッキを渡す必要があるという事ですよね」
「そうなります。本来ならば、私達も同行するべきなのですが、流石に普通の人間の姿に変化をする手段は知らないので、共に行く事は出来ませんが、フリスクさんが留守の間はこちらはこちらで今回の件について調べようと思っています。申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「いえ、気にしないで下さい。今はそれぞれが出来る事をやるだけですから」
ニコリと笑いながらそう言ったが、フリスクは新たな能力が発現した事とこれから自分が知らない場所へ行くという事への不安は感じており、本当ならばこのまま地下世界の仲間達と一緒に行動をしたいと思っていた。しかし、自分の中にそういった能力が芽生え、鍵を握っているかもしれない存在に会う必要がある事は分かっていたため、フリスクは逃げ出したくなる気持ちを必死に抑え込み、自分の手の中にあるカードデッキをギュッと握り込んだ。そして、仲間達に出発の挨拶をするために口を開こうとしたその時、不意に肩をポンッと叩かれフリスクは「……えっ?」と言いながらそちらに視線を向けた。すると、キャラが微笑みを浮かべながら自分の事を見つめているのが目に入り、フリスクがそのキャラの様子に疑問を覚えた。
「キャラ……どうしたの?」
「フリスク、私もフリスクについていくよ」
「……え?」
「だから、フリスクについていくって言ったんだよ。『先導者』君に会いに地球まで行き、カードデッキを渡すその役目を果たすためにね」
「でも……これから行くのは、ボク達が知らない人達ばかりが行くところで、すぐに『先導者』が見つかるとは限らな──」
「大丈夫だよ」
「え……?」
「フリスクの中で漲っているその『ケツイ』がきっと私達と『先導者』を引き合わせてくれる。だから、大丈夫だよ」
「キャラ……」
「それに、私だって私とアズリエルを復活させてくれた地下世界の仲間達や新しい友達である対話者君達のために何かしたいんだよ。生憎、私にはフリスクが持ってるような特殊な能力は無いみたいだけど、精一杯皆のために頑張りたいと思ってる。だから、私はフリスクについて行く事で、フリスクの力になりたいんだよ」
そう思いを語るキャラの目はとても真剣であり、その決意が簡単に揺らぐ事が無い様子は、フリスクにもしっかりと伝わっていた。
「……うん、分かった。それじゃあよろしくね、キャラ」
「うん、こちらこそよろしくね、フリスク」
フリスクはキャラ固く握手を交わしながら笑い合った後、静かに体に力を入れ、自身に新たに発言した能力を発動する準備を始めた。そして、何となく大丈夫だと感じると、キャラと手を繋ぎながら仲間達に声を掛けた。
「それじゃあ……行ってきます」
「皆、留守の間の事は頼んだよ」
「はい、任せて下さい」
「お二人のご武運を祈っています」
「……まあ、頑張ってきな」
『二人とも、無理はしないように頑張ってきてくれ』
『子供達、どうか気をつけて……』
『フリスク! キャラ! その……が、頑張って来いよ!』
『お前達なら絶対に大丈夫だ!』
『え、えと……ファ、ファイト……です!』
『頑張ってきてくれ! 地下世界のスター達!』
『フリスク、キャラ、頑張ってきてくれ! どんなに辛い事があろうとも決意を抱き続けてくれ!』
『二人とも……行ってらっしゃい』
「「皆……うん、ありがとう! そして、行ってきます!」」
仲間達からの言葉に対してフリスクとキャラは感謝の気持ちを込めて答えた後、繋ぎ合った手から伝わるお互いの温かさを感じながら頷き合った。そして、「……行くよ!」というフリスクの言葉を最後にフリスク達の姿は対話者達の目の前から消えた。
いかがでしたでしょうか。今のところは、この一話で終わりの予定ですが、連載作品として続きを書いていくかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。そして、今作品も皆さんに楽しんで読んで頂けるように様々な配慮をしたつもりですが、もし不快感を持たれた方がいらっしゃいましたら、本当に申し訳ありませんでした。
そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、別作品又は本編で。