Undertale 落とされた人間   作:変わり種

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Prologue

Undertaleってゲームを知っているかい?

 

簡単に言ってしまえば、主人公を操ってモンスターの住まう地下世界を冒険し、地上を目指すゲームさ。よくあるレトロ風のRPGなんだけれども、その独特の世界観がクセになってね。誰も殺さなくてもクリアできるし、みんな殺してしまってもクリアできる。ストーリーの分岐が多彩でとってもおもしろいんだ。

 

僕もそんなUndertaleにハマってしまったうちの一人だった。最初は友達に薦められて暇つぶしにプレイするような感じだったんだけれど、ストーリーを進めるうちにどんどん引き込まれてしまったというわけさ。

 

最初に”Pルート”をクリアしたときはとても感動して、”リセット”なんてできるわけない、とまで思った。素晴らしいハッピーエンドを見せられた上に、フラウィにまであんなことを言われたら、やはり思いとどまっちゃうものだ。

 

それでも、”Gルート”の存在を知ったとき、僕は好奇心ってやつを抑えきれなかった。いまのご時世、動画サイトやネタバレサイトに行けばいくらでも結末は見られる。でも、やっぱり自分でプレイして自分の目で結末を見たいと思うじゃないか。え、思わない?

 

まあ、僕は結局好奇心を抑えきれなくってリセットしてしまった。3日くらい悩んだ挙句に。

 

そして”Gルート”なるものを始めた。虐殺(Genocide)の頭文字を取ったストーリーの分岐。読んで字のごとく、殺戮につぐ殺戮で地下世界のモンスターを大虐殺して、世界を滅ぼすエンドだ。

 

トリエルが一瞬で死んでしまったときは青ざめた。それに、パピルスを手にかけるときは心が痛んだ。でも、あれだけ悩んだのに、ボタンをぽちっと押すとそれでおしまい。あっけないものだった。それからは何かが外れたみたいに、Gルートを完遂していった。獰猛な殺戮者になりきったような気分だった。

 

その後、このゲームの他の展開や結末も見たくなった。時間が単純にあり余っていたというのもある。

 

それで、まあ、数えきれないほどセーブとロードを繰り返しては、いろいろな選択肢を選んで回った。リセットしては誰かを殺し、また誰かと友達になり、最後の電話を聞く、なんてこともしていた。

 

普通に思えば中々イカれたことをしていると思う。前のセーブデータではあんなに仲良くなったのに、今のセーブデータでは何もなかったかのように冷酷に殺すんだから。それも、何度も何度も。ゲームの中での出来事とはいえ、振り返ると自分でもやや恐ろしさを感じる。それでも、プレイしている最中は感覚が麻痺してしまうのだろう。心では可哀想だとは思っていても、それをやめる気にはならなかった。今までとは違う、見たことのない別のセリフ、別の展開を見ることができる。ただそれだけの理由のために、僕はそんなことをひたすら繰り返していたのだ。

 

一通りのルートを試していろいろな結末を見た後、僕は何か隠し要素がないか自分なりに色々試してみた。時空に散ってしまったガスターの手掛かりとかは興味深くて、夢中になって探し回った記憶がある。

 

それでも、まあ、どんなゲームもそのうち飽きるもので。

 

1年近く、ブランクが空いたと思う。

 

 

 

 

 

久々にこのゲームをプレイすることになったのは、近々コンシューマ版が出るっていう話を聞いたのがきっかけだっただろうか。何となく久しぶりにやってみようと思った。1年前にやったゲームを懐かしいと思うのはどこかおかしいのかもしれないけれど、ゲームを起動してオープニングを見たときに感じたのはまさにそんな気持ちだった。

 

(まずはリセット掛けてから、”Nルート”でもやってみるか)

 

そんなことを考えながら、僕は画面を進める。するとあろうことか、普段コンテニューが表示されるはずの画面は真っ暗のままだった。ヘッドホンから聞こえてくるのは、荒んだ風音のみだ。

 

「え、マジか…。バグった?それとも、前って”Gルート”で終わってたっけ?」

 

思わず独り言が大きくなってしまった。安物の扇風機が低く唸りながらファンを回転させ、生ぬるく湿った空気を吹き付けてくる。うだるような暑さだったが、予想外の出来事にTシャツの襟をバタつかせ涼もうとしていた左手の動きが止まった。

 

『やあ!Tsuna久しぶりだね!ぼくはFLOWEY(フラウィ)、お花のFLOWEYさ』

 

心臓がバクバクいって、顔が火照るのが自分でも分かった。ネットの攻略情報でも、こんなイベントは載っていない。1年ぶりにゲームを起動したら、フラウィが自分のことを待ってくれていたなんて。何より名前を呼んでくれるとは。ちなみに、”Tsuna”というのは僕の名前、ではなく、まったく適当につけた名だった。何でそんなことをしたのかというと、さすがにゲーム内で散々身勝手なことをするのに、自分の本名を付ける気にはならなかったからだ。

 

でも、よく考えるとフラウィが主人公の名前を呼ぶことなんてあっただろうか。しかも、プレイヤーがつける名前は確かChara(キャラ)にあたる最初に地下世界に落ちた人間の名で、主人公の名前ではなかったはずだ。何で、フラウィは自分のことをその名前で呼んだのだろう。

 

疑問が湧いてくるものの、フラウィは話を続ける。

 

『しばらく来ない間、何してたの?他のゲーム?まあ、元気そうで何よりだよ』

 

(うわ、ネコの皮を被ったフラウィモードだ。どうせこの後、本性現して無茶苦茶ディスってくるんだろうな。このクソ花)

 

なんてことを考えながら、僕はエンターキーを押した。

 

『きみがいないと始まらないからさ、このゲームは。何よりそれはきみが一番わかっているとは思うけど。でも、これでやっと始められるよ。良かったね、Frisk』

 

(フリスク?)

 

この花は何を言っているのだろう。前回って、Pルートクリアして終わったっけ?

 

懸命に記憶を手繰り寄せて思い出そうとするものの、もう1年近くも前のことだ。そうそう思い出せそうもない。Pルートの最後だったら、たしかフラウィがフリスクたちの幸せを奪われないために、リセットを思いとどまるように説得してくるはずだ。でも、考えてみればこのセリフはそれにも当てはまらない。全く見たことのないセリフだった。

 

『Tsuna、きみはいままでぼくらの世界を好き勝手にしてきた。Friskを操ってね』

 

なんか説教じみたこと言い始めたなー、と思いつつ、エンターキーを押す。だってゲームなんだから、主人公を操って好き勝手するのはプレイヤーの自由だ。内心でフラウィにそう言い返していた僕だったが、間もなく彼が言い放った言葉に固まる。

 

『さすがのぼくでも、正直おどろきだったよ。Charaにまで呆れられたんだろ?』

 

(こいつ、なんでそれを知っているんだ?)

 

疑問が噴き出す。設定上、フラウィはその後の展開を知っているはずはない。そのルートではフラウィは殺されて、そんなセリフを聞くことはないはずなのだ。それに、キャラという彼女の本当の名を口にすることも。

 

おそらくキャラに呆れられたというのは、Gルート2回目に言われるあのセリフのことを指す。自分がGルートを2回も行っていることを何でこいつが知っているのか疑問だが、それよりもっと気になるのは、物理的にこれは絶対にあり得ないはずの出来事だということだった。

 

なぜなら僕はGルートを回った後に、一度セーブデータを丸ごと消しているのだ。下調べをした上で、完全に。なので、いまそのフラグが残っているはずはない。その後のプレイでも、それは確認していたことだった。

 

背筋にゾッとする寒気を覚える。知っているはずのない情報。それをなぜ、このフラウィは知っているのか。疑問がさらに深まってくる。

 

(きっとこのゲームのことだから、どうせドライブのどこかにまだ隠しファイルがあって、それに記録されてるんだろ。じゃないと、絶対おかしいし…)

 

心のどこかに恐怖心を抱きつつも、僕は自分にそう言い聞かせて無理やり納得させた。そして、ゆっくりとエンターキーに手を伸ばす。

 

『いいよ。これはゲームだからね。きみは何をやってもそのツケを払わずに好きなことができるんだ。プレイヤーというその立場を使ってね。この話の結末を貪るだけ貪っては、また初めからやり直す。それをきみはずっと繰り返してきた』

 

まるで“Gルート”のサンズのように、このゲーム中で起こっている出来事を知っているかのような口調で続けるフラウィ。

 

『きみはぼくと同じ、いやぼく以上だよ。でも、ここまでやられちゃうと、さすがにうんざりさ。せめて、ぼくの記憶だけでもきれいさっぱり消してくれればよかったのに』

 

「え?」

 

驚きのあまり、声が漏れてしまった。思考が混乱してくる中、もう一度セリフを読み直そうとしたものの、エンターキーを押していないのにもかかわらずフラウィが独りでに話し続ける。まるで何かに取り憑かれたかのように。

 

『そう、ある時からぼくの記憶はリセットをされても消えなくなった。本当にすべてをリセットしてもね。だから、きみが何度もこの世界をリセットしては、くだらない理由のためにみんなと仲良くなったり殺したりして楽しんでいるのも知っていたってわけさ』

 

『まあ、たしかにぼくの言っている通りこの世界は殺るか殺られるかだ。”Player”という絶対的な力をもっているきみが、すべてを意のままに操るのは当然のことだよね』

 

『でも、もしいまぼくが、それを()()()()を持っていたとしたら、きみはどうする?』

 

そこでパッと画面に選択肢が現れた。”FIGHT”か”MERCY”だった。

 

怒涛の展開に半ば頭がついていかなくなっていた。フラウィの記憶が消えない?これは、いままでの情報にはなかった新発見だ。こんな情報はネットのどこを探しても見つからない。もしかすると、最初に見つけたのは自分だけなのかもしれない。誰も知らなかった事実を、いま、自分一人だけで独占しているのだ。

 

それを考えると、自分でも怖いほどの優越感が広がっていくのが分かった。胸が弾けそうなほどに高鳴っていくのを感じる。ここまでの気持ちになるのはゲーム初めて買って以来かもしれない。

 

早く進んでこの先の展開を見たい。そう思った僕は、適当に選択肢を選ぶとエンターキーに指を掛ける。でも、キーを押す寸前で、先ほどのフラウィのセリフが脳裏によみがえった。

 

プレイヤーを()()()()

 

にわかには信じられない。あくまで、ゲームの中での話だろう。僕はそう思った。この先の展開は読めないけれど、ここでの選択肢が今後のストーリーに何かしらの影響を与える可能性は高い。

 

でも、万が一フラウィたちが本当に自分を上回る力を持っていたらどうしようか。自分は殺されたりするんだろうか。いや、バカなことを考えるのはやめよう。これはゲームだ。そんなことは絶対にあり得ない。ファンタジー小説の読み過ぎだ。

 

ふと浮かんだ考えを振り払った僕は、選択肢を選ぶとエンターキーを押す。

 

選んだのは”MERCY”だった。

 

『ほう。きみはぼくが強い力を持っていると分かっているのに、”MERCY”を選ぶんだ?随分と余裕なんだね。それとも、きみなりにいままでの行いを少しは反省して選んだのかな?』

 

ちょっと核心を突かれたような気分だった。いくらゲームのキャラクター相手とはいえ、今までの自分の行いをあんなに咎められた後だと、”FIGHT”を選ぶのは少し後ろめたさがあったのだ。それに、後でいくらでも確かめることができるというのもある。

 

『だとしたら、きみは何も学んじゃいないね。何度も言っているだろ、Tsuna。このせかいはな…』

 

聞き覚えのあるこの流れに、僕は嫌な予感を覚えた。

 

 

 

 

 

『殺るか殺られるかなんだよ。』

 

その瞬間、狂気に満ちたフラウィの顔が画面いっぱいに映し出された。鋭く尖った凶悪な歯を見せ、醜怪な目をギロリと光らせて笑うフラウィ。独特の底気味悪い笑い声がヘッドホンを通じて僕の耳に響き渡る。これにはさすがの僕も嫌悪感を隠せず、眉を顰める。

 

そして笑い声がやむのと同時に、ゲームのウィンドウが勝手に閉じてしまった。

 

(何だったんだろう?)

 

僕は首をかしげながら、デスクトップのアイコンをダブルクリックしてもう一度ゲームを起動しようとする。でも、何度やっても反応はなく、ゲームが起動することはなかった。今までに勝手にゲームが落ちることはあっても、起動しなくなることまではなかった気がする。Gルートの後でさえ、真っ黒ではあるもののウィンドウは表示されていたのだ。

 

でも、今回は起動すらしない。こんなことは初めてだった。

 

バグか何かでゲームの内部データが壊れてしまったのだろうか。だとすれば、少し面倒くさい。

 

僕は時計を見た。もうすぐ0時を回ろうとしている。今からゲームを入れ直したりするくらいなら、明日も早いことだしもう寝た方が良いのかもしれない。はかっていたかのようにちょうど、酷い眠気が襲ってくる。

 

ため息をついた僕はパソコンをシャットダウンすると、椅子から立ち上がる。スマホを充電ケーブルに差して、明日の荷物を整えて…。色々と支度を進めるうちに、本格的に眠気が強くなってきた。これはいけない、と頭の中で思うものの、強烈な眠気の誘惑には勝てそうにない。

 

(ちょっとだけ寝よ…)

 

部屋の明かりを消すと、僕はベッドに向かう。ふと、枕元の横の棚に掛けてあったハートのペンダントが落ちそうなのに気付いて、静かにそれを掛け直した。これは自分が小学生の頃に母がくれたものだった。海外出張で立ち寄った先の露店で見つけて、つい買ってしまったんだそうだ。その母は3年前、突然の事故で帰らぬ人となってしまったが。

 

僕は倒れるようにベッドに横になると、タオルケットだけを掛けて目を閉じる。あっという間に、深い眠りの中に意識が溶けていった。

 

枕元のハートのペンダントが淡い光を放っていることには、気づく由もなかった。

 

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