Undertale 落とされた人間   作:変わり種

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Snowdin
第11話 悲しき審判者


俺はすべてを諦めていた。

 

ある日突然、何の前触れもなくすべてがリセットされる。

 

たとえ地上に出られたとしても、すぐにまた戻されてしまう。きれいさっぱり記憶を消されて。

 

だから、俺は地上に戻りたいとも思わなかった。これまでは。

 

いつからだろうか。おかしなことに、全てがリセットされたとしても俺の中の記憶が残るようになった。地上に戻ったことも覚えているし、彼女___フリスクと幸せに過ごした思い出も確かに残っている。最初は何かの間違いではないかと思った。こんなことは、この世界では絶対にあり得ることではないからだ。

 

だから、どうせ次のリセットでは今度こそ記憶は消えるのだろうと、半ば高を括っていた自分もいた。

 

けれども、それは間違いだった。何度リセットを挟んでも、俺の中の記憶は鮮明に残り続けた。いつでも目を閉じれば、脳裏にあの光景が蘇ってくる。ボロボロになった赤いマフラーに、切り刻まれた白い鎧。そして、風に吹かれて散っていく塵。

 

今思うと、記憶を消されていた頃の方が余程幸せだったのかもしれない。こうして弟が殺されることを知りながら、何度も何度もタイムラインを繰り返すこともない。それに、皆で地上に出た思い出を残しながら、同じ人間に皆を虐殺される光景を見なくても済む。それを考えると、いまは地獄でしかなかった。記憶を残したままタイムラインを繰り返すことがどれだけ残虐で耐え難いものか。俺は全てを知りながら、この無間地獄の中を生きていかなければならないのだ。

 

そして、自分が退席することはこの世界が許さない。それは自分が一番知っているはずのことだった。けれど、いくら自分とはいえここまで追い詰められると、たとえ一縷の希望だとしても縋ってしまうものだ。たとえ、それがありもしないと分かっていたとしても。

 

だが、何度試しても結果は同じ。気づくと自分の部屋に戻されていて、何事もなく時間が進む。

 

正直、絶望しかなかった。あと何回俺は、この苦しみを味わい続けなければならないのだろう。天使のような彼女の優しさを知りながら、もう一方で残虐な悪魔の恐怖に怯え続けなければならないなんて。何より、何もせずただ弟が殺されるところを見続けなければならないなんて。

 

俺は何が起こったのか懸命に調べようとした。もしかすると、また以前のようにリセットを挟むと記憶が消えるようになり、この無間地獄から解放されるかもしれないからだ。根本的な解決ではないものの、その方が今の状況より遥かにマシだった。もっとも、原因を突き止めるのは非常に困難だったが。

 

しかし、調べていく中で俺は自分たちモンスターと、フリスクとも違う第三者の存在を突き止めた。フリスクを操り、リセットをも司る、この世界を意のままにすることができる存在___“Player”を。おそらくこの出来事も、Playerが一枚噛んでいるに違いない。俺はそう推理していた。

 

だが、そこまでが限界だった。Playerはフリスクを通してこの世界を観察し介入するが、それは一方通行で自分の側からPlayerを見ることもできなければ触ることもできない。いわば神のような存在だった。唯一、セリフを通して意思疎通を図れるものの、イベント外の発言は厳しく制限され、その発言がメッセージボックスに表示されることはない。

 

すなわち何をしようとも、自分の側からPlayerに働きかけることはできないのだ。

 

そうしてただひたすらにタイムラインが繰り返され、世界が無茶苦茶に弄ばれていく。いったい何十回、いや何百回、弟が殺されるところを見ただろうか。そして、いったい何千回彼女と友達になったり、惨たらしく殺してやったりしただろうか。

 

もはや数え切れるものではなかった。

 

タイムラインを回るたびに俺の心は擦り切れていき、正気すら保てなくなりつつあった。ジョークなんて到底話す気にはならなかったし、ともすればパピルスにすら当たり散らしそうになった。グリルビーズにも顔を見せず、部屋に籠りっきりになることも増えた。俺の心はもはや崩壊寸前だったのだ。

 

だから俺はある時、禁忌を犯した。審判者としての義務を放棄して。

 

それからだろうか。彼女が現れることはなくなり、セーブやロードがなされることもなくなった。タイムラインは乱れることなく一直線に流れ続け、平穏な時間が流れ続けた。弟が殺されることもなければ、何度もあの真っ赤な返り血を浴びなくても済むようになった。

 

ようやく、待ち焦がれていた元通りの生活を取り戻すことができたのだ。俺はグリルビーズに通えるようになったし、パピルスともいつも通り上手くやっている。最高に冴えたジョークも決まるようになった。だがしばらく経った頃、俺はふと考え始めた。

 

本当にこれでよかったのだろうか、と。

 

来る日も来る日も悩み続けた。あれからもう1年も経とうとしているのに、彼女は一向に現れない。本当に自分は正しいことをしたのだろうか。ベッドに横になれば、脳裏に蘇ってくるのは彼女の純粋で優しい笑顔。朝には枕が涙で濡れていることが多々あった。

 

こうしなければ、俺はずっとあの地獄の中に取り残されていた。

 

そのたびに俺は自分にそう言い聞かせてきた。でも、この感情と涙だけは止めることはできなかった。再び彼女に会いたい。そんな思いが日に日に募っていく。しかし、それが叶うことはこれまでに一度もなかった。そう、今日までは。

 

いつものように遺跡の扉の前に来ていた俺の目に映ったのは、見慣れた青いボーダーの服を着た人間の子どもだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、寒い……。」

 

遺跡の扉から足を踏み出した僕、いや僕らはSnowdinに通ずる森の中をひたすら歩いていた。地面には雪が降り積もり、白銀の道がどこまでも続いている。周りには背の高い針葉樹がびっしりと生えていて、空を見上げても大部分が樹々の枝に覆い隠されていた。濃緑色というよりは黒に近い葉のせいで、辺りは薄暗くどこか不気味だ。怖いほど静かな森の中には、自分の息の吐く音と微かな風音しか聞こえない。

 

「馬鹿だな。トリエルから上着でももらっておけば良かったのに」

 

隣を歩くキャラが鼻で笑った。正直、冬の寒さを軽く見ていたかもしれない。ふかふかのマフラーがあるとはいえ、やはり半袖でこの寒さはかなり堪えるものがあった。気づけば鼻水が垂れてくるし、体はすっかり震えている。吐く息は途端に真っ白になるけれど、それを楽しむだけの余裕はなかった。

 

キャラはというと、相変わらずの暖かそうなセーターとシャツの組み合わせのおかげか寒さなんて全く意に介していないようだった。そもそも、自分にしか見えないお化けみたいなものなのだから、寒さを感じているのかすら怪しいけれど。でも、彼女の暖かそうな恰好を見るとつい羨ましく感じてしまう。

 

「何じろじろ見てるんだい?暖かそうだって?」

 

「いや…別に……」

 

そう言って誤魔化す僕。Snowdinに着いたら、真っ先にホテルに行って暖を取ろう。そんなことを考えている時だった。

 

突然、後ろに落ちていた枝が音を立てて折れた。瞬時に振り返るものの、そこには誰の姿もない。

 

普通に考えれば、怯えて逃げ出してもおかしくない出来事かもしれない。けれども、これまで数えきれないほどこのゲームをプレイしている自分には、これが誰の仕業で、そこに誰がいるかは分かっていた。なので、敢えて僕は来た道を戻って尾行者を探ることをせず、そのまま進み続ける。キャラも分かっているのだろう。凍り付いたような笑みをさらに深めて、僕の隣を歩き続けている。考えてみれば、彼女にとっても因縁の相手なのかもしれない。

 

暫く進むと、目の前に木でできた粗末な橋が現れた。下は谷のようになっていて、薄暗いせいか底が見えない。橋の真ん中あたりには自分の背の倍はあろうかという木製の大きな柵が渡されていたものの、格子の隙間が大き過ぎるせいで柵の意味を成していなかった。ここは相変わらず、ゲームのままらしい。

 

一度立ち止まった僕は、再び進もうと橋の上に足を踏み出す。その時、不意に後ろから足音が聞こえてきた。胸がざわつき、口の中が乾いてくる。

 

締まった雪を踏む独特のザッ、ザッという足音が、徐々に近づく。相手が分かっているとはいえ、緊張せずにはいられなかった。冷や汗が頬を伝い、顎から地面に滴り落ちる。僕は振り返らず、その場にじっと立ち止まっていた。

 

やがて、足音が止まる。

 

「人間。ここでの挨拶の仕方を知ってるよな?」

 

低く落ちついた声が響く。同時に言いようのない妙な威圧感があり、僕は思わず息を呑んだ。

 

「こっちを向いて俺と握手しろ」

 

極度の緊張の中、促されるがままに僕はゆっくりと後ろを振り返る。

 

差し伸ばされる青い袖。その中から覗ける指先は、恐ろしいほどに蒼白だった。意を決した僕は、慎重に手を伸ばす。そして、相手の手を掴んだ瞬間

 

 

 

 

 

プゥゥーーーー…

 

 

 

気の抜けた音が響いた。

 

「へっへっへ…ちょっと古い手だが、ブーブークッションさ。いつやっても、面白いもんだ」

 

そこにいたのは紛れもない。あのスケルトン兄弟の兄、SANS(サンズ)だった。ドット絵通りに青いパーカーに黒のハーフパンツを履き、独特のニヤついたような表情を浮かべている。何より全身が骨でできていて、服の隙間から覗けるのもすべて真っ白な骨。頭も首も手も足も、見える部分すべてだ。彼のことを最初から知っていなければ、きっと自分でも卒倒したかもしれない。

 

「ふう…」

 

思わず深いため息をつく僕。あらかじめ展開が分かっているとはいっても、相手はあのサンズだ。タイムラインがイレギュラーなこの世界では、彼もどうなっているかは分からない。いきなり自分のことを殺しにかかってくる可能性すらあるのだ。しかし、こうしてゲームと変わらずに接してくれたことに、僕は内心安堵する。

 

「そんなに驚くな人間。俺はSANS。スケルトンのSANSだ。ここで人間が来ないか見張るってのが仕事なんだが、まあ…、捕まえようとまでは本気で思っちゃいないさ」

 

サンズは表情一つ変えず、あのニヤついた独特の笑みのまま話し続ける。ぽっかりと開いた眼窩から覗ける白い瞳は、まっすぐに自分を見つめていた。でも、相変わらずこのポーカーフェイスは何を考えているのか全く読めず、気は抜けなかった。それに、いくつか気がかりなところもある。

 

「だが、俺にはPapyrus(パピルス)って兄弟がいてな…。あいつは熱狂的な人間ハンターなのさ。多分今も向こうに居ると思うんだが、()()()()どうする?」

 

思った通りだった。所々がゲームの台詞と違っている。ゲーム通りなら、サンズはこんな風に訊いてきたりはしないのだ。でも、こうなるということは、何かしら彼もこの繰り返され続けたタイムラインの影響を受けているのかもしれない。正直、厄介だ。

 

「え、えーと…。逃げるか、隠れる…かな……。」

 

僕は今まさに思いついたかのように、戸惑ったような様子を装いつつそう答えた。即答してしまえば間違いなく怪しまれるだろうし、正解だけを口にしても警戒される可能性が高い。こう答えたのは、それらを考慮してのことだった。

 

「ほう。いい考えだな。俺も手伝ってやるぜ。ついてきな」

 

サンズはそう答えると、先に格子の間をくぐっていった。自分もそのあとに続いていく。どうやら答えとしては正解だったようだ。今のところサンズも、台詞が違うということ以外は大きな問題はなさそうだった。自分の正体にも気づいている様子はない。

 

《そうとも限らないよ。何たってあのクソ骨のことだ。絶対、何か企んでる》

 

僕の思考を読んでいたのか、サンズに聞こえないようキャラが直接頭の中に話しかけてきた。地味にサンズのことをクソ骨と呼んでいて、剥き出しの敵意が実に恐ろしい。僕もサンズに悟られることのないよう、頭の中で彼女に訊く。

 

(何かって、何さ?)

 

《それは分からないな。けど一つ言えるのは、警戒を怠らないことだね。奴に隙を見せたら最後、最悪な時間(bad time)を過ごすことになるから》

 

(言われなくても、それは分かってるよ)

 

確かに彼女の言うことにも一理ある。サンズが油断ならない相手だということは、彼女はもちろん自分もゲームを進める中で痛いほど分かっていることだった。なにせフラウィの話にすら、彼は要注意人物として出る程なのだ。この世界について恐ろしいほどの知識を持つ彼のことなら、自分の正体を見破られてもおかしくはない。もしそうなれば、彼女の言う通り最悪な時間を過ごすハメになるのは明らかだった。考えるだけでも恐ろしい。

 

橋を渡ると、森が少し開けてきた。奥には三角屋根の簡単な小屋が建っているほか、その手前には奇妙な形をしたランプが無造作に置かれている。その形といいカラーリングといい、お世辞にもセンスが良いとは言えない。でも、大きさは確かに自分が隠れるのにはぴったりだった。いくらなんでも、都合が良過ぎる気がする。

 

「急げ、あのちょうど良さそうな形のランプに隠れるんだ」

 

「う、うん…」

 

言われるがままに、僕はランプの後ろに身を隠した。正直、こんな隠れ方じゃすぐにでもバレてしまう気がしたけれど、そこは彼を信じることにする。キャラはというと、他人からは見えないことをいいことに全く隠れもせず、不気味な笑みを浮かべたままサンズを睨みつけていた。はっきり言って、怖い。

 

隠れてすぐに、走ってくるような足音が聞こえてきた。たぶんパピルスのものだろう。一度は姿を見ておきたかったけれど、下手にランプから身を乗り出すわけにもいかないので、僕はその場にじっとしていた。

 

「よぉ、兄弟」

 

「なーにが『よぉ、兄弟』だって?あれからもう八日も経ってるというのに…。お前のパズルは未完成じゃないか。様子を見に来れば持ち場も離れてほっつき歩いてて!一体何をしてたんだ!?!」

 

「ランプを眺めてたんだ。最高にクールだぜ。お前も見たいか?」

 

一瞬で身の毛がよだつ。わざわざ自分が隠れているところに関心を向けさせるなんて、いったいどんな神経をしてるんだよ。あのクソ骨め。

 

いつの間にか、自分までキャラみたいに恨みが溜まっていることに気づいた。

 

「なわけあるか!!そんな事に時間を使う暇はない!!」

 

幸い、パピルスはゲーム通りの対応をしてくれた。ここで見つかってしまったらシャレにならない。まあ、どのみち後で見つかることは避けられないけれど、イレギュラーな出来事は避けたいのが本音だった。上手く対応できる自信が全くないからだ。

 

パピルスはそのあと、自らの希望を熱く語り始めていた。人間を捕まえて、全てを手に入れること。尊敬の眼差し、賞賛の嵐、そして王国騎士団の一員となること。そして、皆から友達になりたいと頼まれ、毎朝の目覚めにはキスのシャワーを浴びること。

 

傍から聞いていると、正直ニヤニヤしてしまうのを止められなかった。別に彼のことを馬鹿にしているわけではない。本当にパピルスなんだな、と実感していたのだった。あまりに純粋で無邪気な考えが眩しい限りで、自分には到底思いつきそうもない。

 

なのに、僕は数えきれないほどそんな彼の善意を踏みにじってきた。差し伸べられた手を掴まず、彼の気持ちをことごとく裏切ってきたのだ。次第に心が締め付けられ、彼の話を聞くのが辛くなってくる。僕は耳を塞いで彼が去るのを待った。

 

《やれやれ。そんなことをするくらいなら、最初からやらなきゃよかったのに。まあ、そそのかしたのは私なんだけどね》

 

そんな僕の様子を、キャラはクスクスと嘲笑った。こればかりは、いくら嘲笑されても仕方ないことだった。

 

しばらく経つと、再び忙しない足音が聞こえる。どうやら、パピルスが立ち去ったらしい。

 

「よし、もう出てきてもいいぞ」

 

サンズに言われ、僕はゆっくりとランプの陰から出る。パピルスの事でこれまでの自分の罪を思い出し、すっかり気分は沈み込んでいた。

 

「どうしたんだ?そんな浮かないカオをして。まさか、ランプを指されたことを根に持ってるのか?」

 

顔に出てしまっていたのか、サンズにそう心配された。確かにランプを指された件は腹が立たなかったかと言われれば嘘になるけれど、怒り心頭というほどではない。気分が沈み込んでいるのはそんなことが理由ではないのだ。答えに困っていると、サンズは「ふっ…」と軽く笑って口を開く。

 

「そんな顔すんなって。怖がるものなんて何もないぜ。暗い地下にスケルトンと恐ろしいモンスターが沢山いるだけじゃないか」

 

「う、うん…」

 

彼なりのジョークなんだろうけど、全然シャレになっていない。むしろ逆効果だと思う。僕は思わず苦笑いを浮かべた。

 

「ほら、笑顔になったじゃないか。その調子だ、坊や」

 

サンズはそう言うと、頭をぽんと撫でてくれた。固くて冷たいスケルトンの骨。どこか不思議な感じがする。

 

僕は彼に軽くお礼をすると、再び森の中へと進もうとした。でもその時、不意にサンズが引き留めてくる。すぐに振り返る僕。その一方で、キャラはあからさまに大きな舌打ちをしてヒヤッとした。サンズには聞こえていないのが幸いだ。

 

「なぁ、ちょっと頼みを聞いてくれないか?」

 

「うん、いいよ」

 

「最近…どうも兄弟の元気がないようでな。あいつは人間を見たことがなくてな、お前さんをみればはしゃぐかもしれない。心配するな。あいつは危険な奴じゃない。本人はそう思ってないだろうけどよ」

 

顔は変わらず凍り付いたようなニッとした笑みを浮かべているが、声は真剣そのものだった。僕は神妙な面持ちで答える。

 

「はぁ…。じゃあ、パピルスに会ってあげればいいの?」

 

「まあ、そんなところだ。会って、兄弟に少し付き合ってやってくれ。頼んだぜ」

 

サンズはそう言うと、Snowdinとは逆方向の道を歩き出していく。その場に残された僕とキャラは首をかしげて互いに顔を見合わせると、静かにSnowdinへ続く道を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子供を見送った俺は、小雪の舞う森の中を歩きながら考え込んでいた。

 

また、イレギュラーな出来事が起こった。再び現れた子どもはあろうことかフリスクではなかったのだ。今までどのタイムラインでも見たことのなかった、フリスク似の少年。服装こそ半袖という違いはあるものの、彼女似のボーダーに半ズボンで、独特の細目までそっくりだった。これは似ているというレベルではなく、瓜二つに近いかもしれない。

 

何故、こんなことが起こったのか。

 

俺は思考を巡らせる。最初に思いついたのは、あの少年が彼女の()()()ということだった。やはり“あの出来事”が原因で彼女の存在そのものが失われてしまい、その代わりとして彼が現れたのだろう。本当のリセットを挟んでも記憶が消えない異常な世界であるここでは、そんなことが起こったとしてもおかしくはない。時空を含め、この世界の万物は矛盾を解消する方向に流れていくものなのだ。彼女の存在が消えたのなら、それに代わる存在を生み出してしまえば良いというわけだ。いわば、第2のフリスクといったところだろう。

 

もう一つ考えられるのは、彼がフリスクとは全く違う出自を持った存在である可能性だ。この世界のルールに縛られず、自由に物語を書き換えてしまうことのできる存在。フリスクとは全く違う人間だと考えれば、これまでの流れの制約を一切受けずにこの世界を操ることができるのは当然といえるだろう。なぜなら、それはもはや別の物語になるからだ。

 

前者のように彼があくまでフリスクの代わりであるなら、進む道は3つしかない。誰も殺さない平和な世界を目指すか、多少の犠牲の上で地上に戻るか、皆殺しにするか。少なくとも先ほど見た限りでは、彼のLVは1になっていた。

 

ということは、皆殺しという最悪の結末は避けられる可能性が高い。でも、後者の場合はどうだろう。彼はこの世界の基本概念にない予想外の行動を起こすかもしれない。その結果、これまでに見てきたようなエンディングではなく、また違った結末を招くかもしれない。そしてその中には、今までより過酷で最悪な結末が含まれる恐れもある。

 

可能性としては前者の方が高いだろう。だが、今までの出来事を考えるとそうも言ってはいられない。あの時俺は、本来話すべき内容から逸脱した話を彼にしていたのだ。普通であれば制約に抵触し、俺の発言は声になることはない。けれども、予想に反して俺は問題なく発言でき、あの少年もそれを理解して答えてくれた。

 

ということは、あの少年は後者のようにフリスクとは全く別の存在と考えた方が正しいということになる。自分たちを破滅に導く悪魔であるという可能性も、あながち否定はできないのだ。

 

だとすれば、黙ってみているわけにはいかない。

 

せっかく、この世界を手に入れたのに、みすみすこの幸せを奪われるわけにはいかないのだ。

 

そして…

 

左目から、一筋の涙が零れ落ちる。脳裏に蘇るのは、彼女の天使のような純粋な笑顔。また、あの幸せな日々を送ることができたら、どれだけ幸せなことか。

 

彼女のためにも、あの少年には好き勝手なことをさせるわけにはいかない。

 

決意を秘めた左眼が、青く燃え上がった。

 




変わり種です。
お待たせしました、Snowdin編スタートです。
相変わらず更新ペースはゆっくりですが、お楽しみ頂けると幸いです。
今後とも宜しくお願いします。
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