薄っすらと雪の積もる道を歩きながら、僕は冷静にさっきの出来事を振り返っていた。実の所を言えば、そのまま忘れ去ってしまいたいのが本音だった。けれども、そうやって現実から目を背けては、得られるべき手掛かりも見失ってしまう。いくら怖くても、正面からそれと向き合うことも時には必要なのだ。
自分の記憶が正しければ、本来あの場所でサンズはそのまま立ち去るはずだった。でも、目の前の現実は異なり、不意に立ち止まったサンズは自分を振り返ると、あの眼差しを向けてきたのだった。闇に塗り潰されたかのような、言いようのないほどに恐ろしい眼差しを。
そして、こう警告した。
『兄弟には手を出すなよ…。さもなければ、最悪な目に合うことになる』、と。
一瞬、自分の正体が見破られたかと思った。でも、セーブ画面から分かるように自分のLVは1で、ゲームの初めと同じ状態だった。なら、いくらサンズでも自分の正体に気づけるはずはない。
あの出来事から察するに、サンズはよほど弟であるパピルスを失いたくないのかもしれない。僕はそう思った。これまでゲームをプレイしていた中でも、彼の弟に対する思いは並々ならぬほどに深いことが感じ取れていたからだ。けれども、彼はたとえパピルスが戦う時も助太刀することはなく、あくまでも弟の意思を尊重していたのだった。たとえそれがGルートの中であっても。
でも、いまは違う。
彼は明らかに自分に殺意を向けていた。他でもない、弟を守るために。
これはあくまでも自分の推測に過ぎないけれど、彼も度重なるリセットの中で弟を失った記憶が色濃く残るようになったのではないか。それによって、もはや本来あるべき展開を無視してまで、弟に執着するようになったのかもしれない。弟を守りたい、その一心で。
さらにもう一つ、ある可能性も考えられる。
フラウィやキャラ、それにフリスクと同じように、真のリセット以前の記憶すらほぼ完全に持っている可能性だ。最後の審判やGルートでのサンズ戦から分かる通り、元々サンズはタイムラインの巻き戻しやリセットを知っていたり、この世界の理に気づいているような節もあった。彼の並外れた洞察力は、そうそう侮れるものではないのだ。それを考えると、サンズも重要なキーパーソンと見做した方がいいかもしれない。全てのタイムラインの記憶を留め、この世界の正体を知っている可能性は十分にあるのだ。
どのみち、この先もなかなか険しい道になるだろう。下手をすればパピルスと戦う前に、彼と一戦を交えることになるかもしれない。でもそれは、間違いなく自分の死を意味していた。それどころか、死してもなお殺され続ける無間地獄への扉という可能性さえある。彼の強さはゲームの中でも、もう嫌になるほど分かっていたからだ。
そうなる前に、何とか彼に接触しないといけない。そして、自分はパピルスに危害を加えるつもりは一切ないことを理解してもらわなければならないだろう。当然、彼からもこの世界に関する有用な情報が得られる可能性もあるけれど、それはあくまでも説得してからのことだった。
「どうだい。何かいい考えでも思いついた?」
「いや何も…」
キャラにそう答える僕。
そう、説得しなければいけないのは分かるけれど、あそこまでの殺意を向けてきたサンズがそうそう自分の話に耳を傾けてくれるかは疑問だった。今までの様子を見る限り問答無用とまではいかないものの、自分をパピルスを殺す危険な存在だと一方的に決めつけているようにも見える。少しでも怪しい素振りを見せたら首が飛びそうだった。
取り敢えず、本来の流れにしたがって進んでいくしかないだろう。パピルスがいる前では、流石に彼もいきなり自分を殺すような真似はしないはずだ。僕はそう結論した。
気づくと、道の左側に粗末な小屋が建っているのが見えた。いや、建っていると言うよりは置かれていると言ったほうが正しいのかもしれない。近づくと分かったものの、小屋はなんと巨大な一つの段ボールでできていたのだった。蓋の部分に当たる屋根はしっかりと閉じておらず、半分ほど開かれていて、薄く雪が積もっている。一応、カッターか何かで開けたであろう窓もついていたけれど、断面が荒れているあたり多少乱雑な作業だったのだろう。案外長い期間野ざらしになっていたのか、小屋は少し水を吸ってへたっていた。
「うわ、何か凄いことになってんな…」
思わず呟く僕。正面には何やら文字が書かれた段ボール板が張り付けられていた。
『お前はよく作り込まれた見張り小屋を観察する。一体誰が作ったのだろう、とお前は考え込む…』
やっぱりこれは見張り小屋だったらしい。というか、もともと自分も何度もゲームの中ではこの道を通った身だ。やっと思い出してきたが、確かこれはパピルスがつくった小屋だったはず。案の定、その先の一文には『王国騎士団の一員』という文字が見えていた。溜め息をついた僕は、再び歩き出そうと視線を前に戻す。
そのまましばらく進むと、またも左手に小屋が見えてくる。しかし今度は木でできた正真正銘の見張り小屋で、何故だが呼び鈴がカウンターに置かれているのが見えた。
その後の展開を知っている僕は、息を潜める。小屋の手前に立っていた看板には、誰が書いたか分からない文字で(動くなよ!絶対に動くなよ!)と書かれていた。背負っていたナップザックを静かに地面におろした僕は、その中からあるものを取り出しておく。
そのままゆっくりと小屋の前に進んでいくと、案の定、小屋からのっそりと一匹の犬、いやモンスターが頭を出してきた。
「何か動いたか?気のせいかな?おれは動く物しか見えないからな。もし何かが動いてたら…。もしそれが、人間だったら…。そいつを二度と動かないようにしてやる!」
物騒なセリフを放ったDoggoは、身軽にカウンターを乗り越えると目の前に立ち塞がってきた。抜き出したのは刃渡り30センチはあろうかという片刃のナイフ。それを二刀流の如く2本構えるものだから、迫力としてはかなりのものがあった。ただ、犬の顔が描かれた派手なピンクのシャツにヒョウ柄のストレッチパンツという出で立ちはどこか抜けていて、寒くないのだろうかとも思ってしまう。しきりに目を左右にキョロキョロと動かしているあたり、立ち止まっている自分を見つけることができていないらしい。
完全にゲーム通りで、助かる限りだ。
僕は先ほどナップザックから取り出した物を正面に掲げる。自分の肘から手首くらいまでの長さの、何の変哲もない黒い木の棒切れ。実はこうなることを見越してトリエルの家の前に生えている枯れ木からもぎ取り、持ってきたものだった。もちろん、彼女の許可は取っている。もっとも、何に使うのか彼女はかなり気になっていたようだったけれど。
僕は注目を引くように棒を大きく揺らすと、「ホイ!」と叫んで勢いよく遠くに投げてみた。こんなんで本当に上手くいくのだろうか、と今更ながら心配になるものの、もう後戻りはできない。
けれども、幸いなことにDoggoは棒切れを取り出した瞬間からすっかり興味津々な様子で、もはやそれしか見てはいなかった。棒切れを放り投げた瞬間、彼は瞬時に身を翻すとナイフを捨て去り、両手をも地面につけて四足歩行の俊敏な動きで追い掛ける。そして、雪の上を転がる棒切れを咥えると、すぐに持ってくる。
でも、犬のモンスターとはいえ体は人型なので、人の形をしたものがこうして自分の投げた棒を口で咥えて持ってくるという少々アレな光景に、僕は何とも言えない罪悪感を覚えてしまう。けれども、Doggoはそんなことはお構いなしに「ハッハッハッ…」と荒い息をしながらもう一度棒を投げるようにせびってくる。
ここまでされると、やらないわけにはいかないだろう。
「いくぞ…、それ!」
もう1回投げると、Doggoは凄く興奮した様子で飛び跳ね、尻尾を勢いよく振りながら飛んでいった木の棒を追いかけていった。もはや、先ほど物騒な言葉で威圧してきた面影はどこにもない。自分の目の前にいるのは棒投げ遊びに興じる一匹の可愛いワンコだった。
「フフフ!面白い棒が出てきたぜ!」
一通り遊び終え、興奮冷めやらぬ様子でそう呟くDoggo。そのまま見逃してくれるかもと一瞬だけ淡い期待を抱いたけれど、流石にそれは期待し過ぎというものだった。ナイフを掴んだ彼は、それを青く煌めかせると素早く自分に斬り掛かってくる。
「ひッ…!」
思わず声が漏れた。すぐに飛び退いて逃げたい気持ちで一杯だったけれど、気を強く持って身動ぎせずに堪える。これはブルーアタックと呼ばれる魔法攻撃で、静止している限りダメージはない。だが動いた途端、それは現実の刃となるのだ。
自分の腹を刃がすり抜ける。傍から見れば、確実に斬られたように見えるだろう。でも、なぞられるような不思議な感覚があっただけで痛みはなかった。すぐにシャツをまくって見てみたが、体には傷一つついていない。何とか、ダメージを受けずに済んだようだ。
「ふぅ…」
一安心する僕。そのあと間もなく、僕は棒切れをしまうとDoggoを見逃した。彼にしてみれば棒しか見えていないわけだから、突然現れた棒が宙を舞い、それを拾ってくる遊びを一人でしたことになる。さぞかし摩訶不思議な体験だったに違いない。
Doggoは懐から骨型のジャーキーのようなものを取り出すと、さも慣れた様子でそれをしゃぶり始めて一服する。まるで煙草でも吸っているかのようだ。
僕らはそんな彼を横目に、そのまま道を進んでいく。
しばらくすると再び森が開けてきた。見ると、広場のような空き地のど真ん中に看板が立っている。うっすらと矢印が見えるあたり、案内標識か何かのようだ。でもその周りはスケートリンクと見紛うほどに分厚い氷が張っていて、見るからに滑りそうな有様だった。
「また滑るのが怖いんだろ?」
「そ…そんなわけないだろ!こんなの楽勝だよ」
いつものようにからかってくるキャラ。僕は恐る恐る、氷の上に足を置いてみる。あれ、意外に大丈夫じゃん。そう思ってもう片方の足を乗せようとした時、まるで漫画のように見事なまでにつるりと足が滑った。バランスを崩した僕は、地面に腰を強打する。雪ではなく氷が剥き出しになっているのもあって、かなり痛かった。
「くぅ…痛っ…!」
「ハハハッ!こいつは面白いや!」
悶絶する僕を大爆笑するキャラ。何かすっごい腹が立つ。彼女も転んでしまえばいいと思ったけれど、よく見るとふわりと足が浮いていた。お化けだからって、これは反則だ。
僕はその場で何度も立ち上がろうとするも、すぐにどちらかの足が滑って転んでしまう。これ、フリスクはどうやってあんなに手慣れたように氷の上を滑っていたのだろうか。何かコツでもあるんだろうか。気になって何度も挑戦してみたものの、終いには再び転んで尻餅をついてしまったので、諦めた僕は両手両足を使って這うように氷の上を移動することにした。言うなれば、赤ちゃんのハイハイみたいなものだ。
ますます大爆笑するキャラ。もう許せない。今度チョコ食べるときは、彼女のいない間に食べることにしよう。僕は心にそう決める。
一先ず、僕は北の道へと進んでいった。記憶が正しければその先に心優しい雪だるまがいて、体の一部を分けてくれるからだ。世界を旅してみたいというささやかな願いのためだったはずだけれど、雪だるまの欠片はそれなりの回復アイテムでもある。あまり使う気はしないが、念のためにもらっておいても損はないだろう。
そういえばゲームであればこの辺にもサンズがいて、ブルーアタックに関する説明をしてくれるはずなんだけれども、彼の姿は見えなかった。まあ、さっきの出来事からこうなることはだいたい予想できていたので、そこまでの驚きではない。ただ、改めてサンズに嫌われているのが痛感させられて、少しだけ寂しかった。
道を進むと、正面に雪だるまの姿が見えてきた。日本で見る2段のタイプではなく、絵本などで見たことのある欧米にあるような3段のタイプだ。確か、スノーマンと呼ばれるって、どこかで聞いたことのあるような気がする。
「こんにちは。雪だるまです」
近づくと、彼は律儀に挨拶してくれた。一応、自分を『雪だるま』と名乗ったので、名前としては雪だるまで良いらしい。もぞもぞと体を動かしつつ、彼はボディランゲージを織り交ぜながらあるお願いをしてきた。ちょこまかとしていて可愛らしい。
「親切な旅人さん、お願いします…。僕の欠片を持って旅をしてくれませんか?」
「う、うん…。いいよ」
別に断る理由はない。戸惑いつつも、僕はその願いを受諾した。一つ心配なのがナップザックの中で溶けてしまわないかということだけれど、おそらくは魔力か何かで溶けないようになっているんだろう、と僕は推測していた。何しろ、ゲームではHotlandに持ち込んでも溶けなかったくらいなのだ。
促されるがままに手を差し出すと、雪だるまの胸のあたりがボロっと崩れて大きな塊が乗っかる。ひんやりしていて冷たいのに、奇妙なことに手の上に乗せていても溶け出す様子はなかった。僕はそれをトリエルから余分にもらっていたビニール袋に詰めると、ナップザックの奥にしまい込む。
そうして、雪だるまに感謝を告げると手を振りながら元来た道を戻ったのだった。
再び交差点に行き当たった僕は、滑って転ばないように注意しつつ、左に曲がった。先ほどので少しだけ慣れたのか、小股で歩いたおかげで僕は転ばずに氷の地面を通過できる。その様子を、キャラは面白くなさそうに見ていた。残念ながら、同じ失敗は二度も踏まないのだ。
暫く歩くと、道の先から言い争うような賑やかな声が聞こえてくる。
「お前は本当に怠け者だな!!一晩中昼寝してただろ!!」
「それは普通さ。睡眠って言わないか?」
「言い訳、無用だ!」
自分が来たことに気づいたのか、2人はやり取りをやめてこちらを振り向く。
「オーホー!人間が来たぞ!お前を止めるべく、俺様はパズルをいくつか作ったのだ。このパズルを見ればお前は…。ショックを受けることだろう!!」
相変わらずの大声でそう話すパピルス。一方のサンズは、凍りついたかのような笑みを浮かべたままだった。何を考えているのか全くわからない。
パピルスはハイテンションのまま、パズルについて説明し始める。内容はゲームのものと、まったく変わってはいなかった。目に見えない透明な迷路のようなものがこの先に仕掛けられていて、道から外れるとボリューム満点の電撃がお見舞いしてくるという。つまり、自分はその見えない迷路の中を進まなければいけないのだ。そして、彼の手にはその電撃の発生源であるオーブが握られていた。透き通るような青で、水晶のようにも見えて美しい。
「よし、進んでもいいぞ!」
説明を終えたパピルスがそう言った。あれ、これはもしかしてゲームの展開と同じやつ?
何だか申し訳ないような気にもなる。たぶんこのまま進めば、パピルスがオーブを持ったままなので、電撃を受けるのは他でもない彼になる。それを知っていながら教えないというのは、さすがに罪悪感を覚えるというものだ。けれども進行上そうしなければ、自分が後で困ることになる。難しいジレンマだ。
「ちょっと待て。オーブを人間に持たせなきゃいけないんじゃないか?」
そんな悩みを吹き飛ばしたのはサンズの言葉だった。思わずパピルスでもないのに「へっ…?」と変な声を漏らしてしまう。だってサンズはゲームの中では、パピリスが電撃を受けるのを黙って見ているだけだったからだ。なのに、あろうことか目の前にいる彼は親切にもパピルスにオーブのことを教えたのだった。
これで罪悪感に苛まれずに済むとはいえ、迷路の道が分からなくなってしまう。余計なことをしやがって。ムッとした目でサンズを睨むと、彼はあの気味の悪い笑みを更に深めた。完全にしてやったりというような顔だ。
「これ持ってちょうだい!」
サンズから肝心なことを教えてもらったパピルスは、はっとしてオーブを自分に投げ渡してきた。よく見れば中には黄色い稲妻のようなものがしばしば走り、ほのかに温かい。見ている分には宝石のようで綺麗だけれど、これがボリューム満点の電撃を放ってくるとなるとすぐにでも崖の下に放り投げたい気分だった。でも、自分を見つめるサンズの目が厳し過ぎて、とてもじゃないけどそんなことはできそうもない。
(うーん…。確かこんなだったような…)
おぼろげな記憶を頼りに、ゆっくりと進み出す僕。ゲームならパピルスの足跡で答えが分かるので道を覚える必要がない分、流石の僕もまったく自信がなかった。パピルスは道の向こうでハラハラしながら、自分の様子を見守っている。
(たしか、このあとは左かな)
5歩ほど進んだところで恐る恐るその場で左にターンし、北の方に向かって進む。その後、再び5歩くらいで右に曲がると、ようやく道の半分くらいまで差し掛かった。ここまで電撃もなく無事に来れたことは、自分でも少し驚きだった。パピルスも目を丸くして驚いている。
(この辺で右だったはず…)
5歩進んだところでもう一度、右に曲がる僕。記憶が正しければ、この後はひたすら真っ直ぐ南側に向かって進めば、ゴールに出られるはずだ。少し歩みを早めて、雪の上をズンズン進む。その時だった。
「ぎゃひッッ!!」
突然オーブから電撃が走り、体を突き抜けた。針か何かでザクッと突き刺されたような鋭い刺激だった。まさか電撃を食らうとは思っていなかったので、痛みでというよりビックリして跳び上がってしまう。オーブを握っていた右手はすっかり痺れて、腕が上がらなかった。
「人間!大丈夫か…!?おかしいな、そんなところに壁はないはずなのに…」
敵でありながらも心配してくれるパピルスに、僕は痺れたのと反対の手を振った。その後の言葉から察するに、この迷路にも何らかのイレギュラーな変更があったらしい。まあ、状況から察するにサンズが一枚噛んでいるような気がするけれど。サンズの方を振り向くと、彼は素知らぬ顔で近くの針葉樹に積もる雪を見ていた。絶対に何かを知っているような様子だ。
(ほらね。あのクソ骨、余計なことしかしないでしょ)
こればっかりはキャラにも同感だった。
さて、どうするか。その場で悩む僕だったが、もう結論は決まっていた。というより、それしか選べる道がなかった。
覚悟を決めた僕は、オーブをギュッと握りしめると取り敢えず左に曲がった。電撃はない。しかしその後、3歩くらいで右に曲がろうとすると、再びの電撃が襲い掛かった。体の半分をバットで殴られたかのような衝撃で、流石にこれは堪える。顔をしかめながら立ち止まった僕は、同じ所を今度は左に曲がった。今度は正しい道だったのか、電撃は来ない。
そう、残された道というのは、試行錯誤しながらがむしゃらに進むというものだった。実際、道が分からないのだから、それしか打つ手がないのだ。
その後も何度か電撃を食らったものの、最終的にはどうにか迷路を脱出することができた。オーブを握っていた手は痺れてビリビリするし、繰り返し電撃に襲われた体はすっかりだるくなっている。
「その…何だか申し訳ない。これは、あまり楽しいパズルではなかったな…。次のは、もっと楽しくするから、期待してくれ!」
そう話すパピルスの顔は本当に申し訳なさそうにしていた。本来は敵である人間をここまで思いやってくれるパピルスの優しさに、僕は改めて驚かされる。せめて感謝を伝えようと思ったけれども、その時にはパピルスは次のパズルの方へ走っていってしまっていた。
その場には自分とサンズ、それにキャラが残される。
「へへ…、感謝するぜ。まさかパズルを真面目に解いてくれるとはな。俺のつくったおまけも楽しんでくれたようで、何よりだ」
「…何のこと?」
サンズの言葉に、僕は敢えて何も知らないふりをする。おそらくはパズルのコースが変更されたことを言っているのだろうけど、下手に答えれば確実に自分は疑われることになりかねない。サンズはカマを掛けているのだ。
「とぼけんな。俺が本来のタイムラインのコースに手を加えたことは、お前も気づいているんだろ。なぜなら、お前は元々のコースの部分は一度も間違えずに通ったからな。パピルスの足跡がないにもかかわらずだ。偶然にしちゃ、出来すぎてるって思わないか」
あ、まずい…。
思わず動揺してしまう僕。懸命に記憶を思い出してパズルを解いたのが、逆に裏目に出てしまったらしい。あれだけサンズに正体を掴まれないように注意してきたのに、まさかこれだけで勘付かれてしまうとは。手痛い失敗だった。
「いや、何も知らないってば。最初の方は、道から外れそうになった瞬間にオーブからバチッて弱い電撃が来るからそれで分かったけど、最後の方だけ油断したからああなったんだ。ホントだって」
それでも、僕はそれらしい理由をつけて誤魔化そうとする。いま下手に自分の正体がバレてしまうことだけは、何としてでも避けなければならないのだ。
「どうだか…。まあ、お前も元々、リセットを挟んでも記憶を留めているような節もあったしな。別に、コースを覚えていたからといって、責める気はねえよ。ただ…」
サンズがそう言い掛けたところで、僕は息を呑む。
「お前が悪魔になるような素振りを少しでも見せたら、俺は何度でもお前を殺すからな。覚悟することだ」
真っ黒な瞳でサンズはそう言うと、意味ありげに鼻で軽く笑い、パピルスに続いて道の先へと進んでいった。ようやく緊張から開放された僕は、「はぁ…」と大きくため息をついた。
亀更新すみません。申し訳ないのですが、色々立て込んでいるので1月末まではこんな感じのペースが続く見込みです。なにとぞご了承を...