Undertale 落とされた人間   作:変わり種

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第18話 罪

岩々から漏れ出す仄かな光が照らす洞窟の中。血溜まりの中に倒れる少年をじっと見つめていた青いパーカーのモンスターは、深く長い溜め息をつくと彼に背を向け、気だるげに洞窟の出口へと歩みを進める。

 

その場に残された彼は、倒れたまま全く動かない。胸に薄く光っている赤いソウルには無数のひびが入り、今にも砕けてしまいそうだった。

 

「あーあ、こんなにボロボロにされちゃって。可哀想に」

 

そこに、無邪気な少女の声が響く。

 

「だからあの骨野郎には気を付けろって言ったのに。ほんと、君は甘いヤツだな」

 

薄緑にベージュのボーダーの入ったセーターを着た、ティーンエイジャーの子どもがそこにいた。凍り付いたような満面の笑みに、血色の良い赤い頬。彼女はその笑みをさらに深めると、倒れている彼にそっと近づき、囁くように言った。

 

「仕方ないな。これ、貸しだからね」

 

その瞬間、彼女の瞳が赤く光った。鮮血のような真っ赤な赤に。そんな彼女の手の中には、一粒のマモノのアメが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし彼のことを信じていたら、どうなっていただろうか。

 

俺は出口への道を進みながら、そんなことを考えていた。憎たらしい話す花が言った通り、あの人間はPlayerで間違いはないのだろう。Lv1でExpも0。誰も殺していないし誰も傷つけていないのは本当だったが、背負うKARMAの呪縛からは逃れることができなかったようだ。あの感じなら、ヤツのKARMAは想像するだけでも恐ろしいレベルだろう。その報いを受けさせるならば、勿論こんな程度ではまだまだ生ぬるい。

 

でも、そんなKARMAを犯しておきながらあいつは自分のことを信じて欲しいと、何度も何度も懇願してきた。この世界を弄んだヤツがそんなことを言うなんて、心底笑える話だ。だが、ヤツはフリスクのことを話していた。自分があいつの決意を粉々に打ち砕いたと。そして自分だけが、彼女を救うことができると。

 

「全く、笑わせてくれるぜ…。」

 

なぜなら、彼女の決意を砕いたのは…。

 

「他でもない()()()()()()

 

「っ!!?」

 

突如聞こえた子どもの声。振り返りざまに骨の雨を浴びせるも、気配はもうそこにはない。

 

「いきなり撃ってくるなんて相変わらずだな。クソ骨」

 

逆さに生えた鍾乳洞の影から出てきたのは、あろうことか、さっき自分が殺したばかりのあの少年だった。傷だらけでボロボロの服に、血まみれの体。間違いはない。

 

「へへ、止めくらい刺すべきだったか」

 

俺は即座に背後にガスターブラスターを呼び出し、臨戦態勢に入る。だが、人間はどこか様子が違うようだった。さっきはフリスクのような細目だったのに、今は恐ろしい程に目を見開き、血のような赤い瞳でこちらを見つめてくる。何より、ヤツが背負っているのは先ほどとは桁違いの悍ましい量のKARMA。LvやExpなんてものはとうに振り切れていた。

 

これはもはや別の人間と言った方が正しいのかもしれない。だが、俺はどうしてもそいつに見覚えがあった。

 

あの化け物のように悍ましく、張り付けたような笑み。

 

「お前は、まさか…」

 

そう。あいつは、これまで俺が最後の回廊で戦ってきた狂ったフリスクと瓜二つだった。モンスターというモンスター全てを殺し、殺戮の限りを尽くした悪魔。パピルスの善意を踏みにじり、首を裂いて惨たらしく殺した張本人だ。

 

「もしかして、驚いているのか。まあ、無理もないだろうね。こんなイレギュラーな所で、しかもこんなタイミングで出会うことになるなんて、私だって予想してなかったんだから。お前が相棒をこんなにボロボロにしてなきゃ、私も出てくる気はなかったよ」

 

人間は相変わらずの不気味な笑みを浮かべたまま、何気ない調子でそう答えた。そうして、語尾に力を込めて続ける。

 

「それにしても、性懲りもなく()()無実の人間を殺しかけるとは。お前も随分堕ちたものだな」

 

()()、だと?」

 

「ああ、そうとも…。忘れたとは言わせないよサンズ。フリスクを殺したのは、あんただろ。彼女の心を、決意を、粉々に打ち砕いてね」

 

その瞬間、脳裏に鮮明な記憶が蘇る。

 

真っ赤な鮮血に染まった雪。その中で息絶える青い服の少女。そして、その胸に深々と突き刺さる鋭い骨の刃。あれは俺の…。

 

ソウルが酷く脈打つ。

 

…やめろ。思い出させるな。

 

気づいた時には、ガスターブラスターを解き放っていた。薄暗い洞窟を閃光が瞬き、辺りの空気を文字通り引き裂きながら凄絶なエネルギーの流れが人間に殺到する。そのまま、ヤツの体はブラスターに呑まれ、蒸発したかのように見えた。

 

「残念。都合が悪くなるとすぐ物騒な物使って…。お前も私と大して変わらないんじゃないのか?」

 

薄笑いの混じった無邪気な声が響く。人間は猿の如く、天井の鍾乳洞にぶら下がっていた。ブラスターが直撃するまでの一瞬の隙に、あそこまで跳躍したのだろう。恐ろしいほどの運動神経だった。

 

「黙れ。お前なんかと一緒すんな。この殺人狂が」

 

舌打ちをしながら、俺は重力攻撃を発動してヤツを骨の刃が埋め尽くした地面に叩き落とす。でも、そんな程度では通用しないらしい。人間は鍾乳洞から落とされる寸前に大きくそれを蹴り飛ばし、横方向に跳躍すると岩壁に張り付く。間髪開けずに俺はそこに向かってガスターブラスターを撃ち込むも、骨攻撃を解いた隙を突かれて地面に逃げられる。

 

「まあ落ち着きな。私は別にお前と戦いに来たんじゃない。お前に話があるんだ」

 

「話だと?悪いが俺に殺人鬼と話す趣味はないんだ。黙って殺されろ」

 

俺はそう言い放つと背後から骨の雨をお見舞いする。だがヤツは驚くような身のこなしで軽々と弾幕を躱し、クスクスと無邪気な笑い声を響かせた。洞窟に反響したその声は、まるで地獄の底から聞こえるような不気味なものだった。

 

「聞く気がないんだったら、無理やりでも聞かせるしかないか」

 

そう言うと、人間はその赤い瞳を一際光らせる。背筋をゾクっとさせる悍ましいほどの殺気。みるみるヤツの右手の中に光が集まったかと思うと、瞬く間に変形してナイフが形作られる。赤黒いそれはまるで血の色のようで、鋭いその刃からはヤツの底知れない殺意を感じさせる。

 

人間はそれを構えると、凍り付いた笑みのまま一直線に突っ込んでくる。まるで恐怖なんて感じていないかのようだった。

 

俺は発動した重力攻撃でそれを背後の壁に跳ね退けようとするも、ヤツは地面にナイフを突き立ててその場に留まった。でも、そんなことくらいは俺にだって読める。天井にはフルパワーチャージした大型のブラスターが口を開け、今にもエネルギー弾を解き放とうとしていた。勿論、その照準はヤツに向けられている。

 

「消えろ」

 

次の瞬間、撃ち下ろされた強烈なエネルギーの束は、重力に抗う人間を捉えて一気に襲い掛かる。炸裂したブラスターは地面を深々と抉り、粉々に砕いた岩の破片を辺り一面にぶちまけた。普通の人間なら即死だろう。でもヤツなら…。

 

「おっと!」

 

真横を掠める風切り音。ショートカットで躱していなければもろに食らっていたかもしれない。振り向くと、そこには相変わらずの笑みを浮かべたヤツの姿があった。右手に握られた赤黒いナイフは、蒼白い炎を燻ぶらせる砲撃痕の光を受けて鈍い光沢を放つ。

 

「流石だねサンズ。今の攻撃、結構自信あったんだけどな。で、私の話を聞いてくれる気にはなったかい?」

 

「お前さんに褒めてもらっても嬉しくなんかねえよ。答えはノーだ。その物騒なもんを捨ててくれたら、考えなくもないけどな」

 

「ふふ、それをやったら私を殺すだろ」

 

不敵な笑みを浮かべた人間は、力強く地面を蹴ると一心不乱に切り掛かってくる。赤い残像を残しながら次々と空気を切り裂くナイフ。地面から突き出す鋭い骨の刃にも一切動じす、一つまた一つと攻撃を避けては俺との距離を詰めてくる。

 

(チッ、ほんとに化け物だな、こりゃ)

 

青骨とオレンジ骨の連続攻撃にも怯むことなく、俺に肉薄した人間は赤黒いナイフを突き立てようとする。だが、紙一重の所で俺はショートカットでそれを避け、四方に仕掛けていたガスターブラスターから十字砲火を浴びせる。放たれたブラスターは眩い閃光とともに人間に殺到するものの、ヤツはもろともせずにことごとく攻撃を躱しながら、再び俺に向かってくる。

 

冷汗が額を伝う。認めたくはないが、このままだといずれ俺が先に倒れることになるのは明らかだった。こうなったら、何が何でもヤツの動きを封じ込めるしかない。仕掛けるなら、まだ力の残っている今しかないのだ。

 

荒い息の中、俺は持てる力の限りに重力攻撃を発動してヤツの体を背後の壁に叩き付ける。流石の人間もここまでの力には抗いきれないらしく、勢いよく壁に打ち付けられて小さく呻いた。そこへ容赦なく骨を撃ち込み、手足を押さえこもうとする。だが、人間は通常の数倍もの重力を受けながらも左右へ転がるようにして攻撃を躱し、中々俺の思惑通りにはならない。

 

「畜生、いったいどうなってやがる」

 

俺は焦りを抑え切れなかった。どれほど濃密な弾幕を張ったとしてもヤツは針に糸を通すかの如く、わずかな隙間をくぐり抜けてその血の赤に染まった瞳を見開き、自分の方へと向かってくる。ガスターブラスターの連続攻撃も完全に見切られ、焼け石に水だった。立ち塞がる骨の壁を握ったナイフで両断したヤツは、再び俺に肉薄する。

 

(今だ!)

 

ギリギリまでヤツの攻撃を引き付けたまさにその時、俺は秘策を発動した。繰り返し続けるタイムラインの中、引き継がれる記憶を頼りに組み上げた新しい技。ヤツの肉体を中心に全方向に最大重力を掛け、その体を空中に捕らえるその技は、ターン制約すらないこの世界の俺にとって最後の切り札だった。

 

重力場に捕らえられた人間は必死にもがくものの、全方向に体を引きのばす重力に負けて手足を大の字に押さえつけられる。そこへ、俺は止めとばかりに最大出力までチャージしたガスターブラスターを差し向けた。こいつを食らえばヤツは消し炭どころか跡形もなく焼き尽くされ、一瞬で蒸発してもおかしくない。

 

「じゃあな、人間」

 

俺がそう言った時、ヤツの口元がニッと吊り上がる。あろうことか、ヤツは身を捩ると今まさに放たれようとしていたブラスターに向かって、重力に逆らいながら右手のナイフを力一杯投げつけたのだ。凄烈な重力に引かれてさらに加速したナイフは、口を大きく開いたガスターブラスターの喉の奥へ深々と突き刺さる。

 

その瞬間、俺の眼を眩い閃光が貫いた。同時に天地を揺るがす凄絶な衝撃波が襲い掛かり、俺はたまらずショートカットを効かせて退く。遅れて吹き飛ばされた岩石が周囲に飛散し、土煙が視界を塞いだ。

 

「くそ、こんな時に襲われたら…」

 

「襲われたら、何だって?」

 

背後から声が聞こえた。

 

思わず息を呑む。攻撃を浴びせようと左手を上着のポケットから手を出したところで、首筋に冷たいものが触れた。

 

「チャックメイト。惜しかったねサンズ。わざわざ新技まで使ったのにさ」

 

煙が晴れると、人間は俺のすぐ背後に立っていた。首にはあの赤黒いナイフが当てられ、少しでも動こうものなら容赦なく掻き切られるだろう。どうしようもない悔しさが、心の中にこみ上げる。だが、同時に俺は魔力を込めて、ポケットにこめている右手の指をそっと動かした。

 

「うるせえ。憎まれ口叩いているだったら、さっさと止めを刺したらどうだ」

 

「うーん、何度も言っているけど、別に私はお前を殺すことに興味はない。少し話をしたかったんだ。このクソみたいに狂ったイレギュラーな世界についてね。…だから、くだらない考えはよしたらどうだ。私の後ろでブラスターを溜めている骸骨頭、これはお前のだろ」

 

(畜生、気づいてやがったか。)

 

人間はそう言うとクスっと笑った。ヤツの背後には俺の差し向けたガスターブラスターが、攻撃の瞬間を今か今かと待ち詫びていた。その照準は、俺にぴったりと合わせられている。俺が密かに操っていたのはこの攻撃だった。こいつが放たれればヤツの命は確実にないだろうが、同時に俺ともども消え去る。いわば捨て身の攻撃だった。

 

だが、気づかれていたのではどうしようもない。俺は渋々ブラスターを引き下がらせる。

 

「ありがとうサンズ。せっかく人間を殺してもお前も同時に死んだんじゃ、あの弟も悲しがるだろう」

 

「黙れ。お前なんかに言われる筋合いはねえよ。あいつは俺がいなくても、一人で強く生きていけるさ」

 

なおもナイフを首に当て続ける人間に、俺はそう答えた。ヤツはそれを聞いて再びクスリと笑う。まったく気に食わない人間だった。

 

「本題に入るけど、まあお前も知っての通りフリスクはこの狂った世界のせいで決意を折られて、消えてしまった。そう、誰かさんがSnowdinで出合い頭に彼女を殺してしまったからね」

 

穏やかに、けれども力のこもった声でヤツは続ける。俺はそれを黙って聞くことしかできなかった。

 

「せっかく、Playerの呪縛を受けずに初めて来た世界だったのにさ。今度こそ、皆と一緒に幸せなエンディングを目指そうとしていたのに。何一つ話に耳を傾けずに、そいつは彼女の命を奪ったんだ。全く酷い話だよね。フリスクは誰も殺さず、傷つけてもいなかったのに」

 

……。

 

「無実の人間を殺した感触はどうだった?癖になりそうだった?そりゃ、この世界の理に背いた初めての体験だったものね」

 

やめてくれ…。

 

「話すらろくに聞かずに彼女の小さな心臓をその骨で一突きにして、さぞかし満足だっただろうね。挙句の果てには止めまで刺して」

 

頼むからそれを思い出させないでくれ。

 

「極悪非道な殺人鬼なのは、お前の方じゃないのか?なあサンズ?」

 

「やめろ、黙れ!」

 

俺の瞳から涙が溢れ出る。

 

そう。俺はこの手でフリスクを殺したのだ。

 

Ruinsから出てくるあの橋の所で。握手しろと振り返らせた瞬間に、その心臓目掛けて骨を撃ち込んだ。その時の彼女の顔は、今でも脳裏に焼き付いて離れない。

 

心から信頼している誰かに裏切られ、酷く驚き、絶望に満ちた表情。

 

それでも、彼女は倒れながらに、俺ににこやかにほほ笑んだ。慈悲深い天使のように。

 

俺はそんな彼女に目を背けると、地面から骨を突き出させて止めを刺した。ぐちゃりという何かが潰れたような生々しい音と嫌でも鼻をつく血のにおい。純白の雪面を染める鮮やかな赤が、倒れた彼女の周りを染めていた。

 

仕方がなかったのだ。

 

全くすべてとは言わないものの、あいつは弟の命を数えきれないほど奪ってきた。情けを掛け、無防備だった彼を容赦なく引き裂いたのだ。俺はそれを黙ってみていることしかできなかった。それがこの世界の(ルール)だからだ。だが、これまでのタイムラインの記憶が残る以上、俺にはそれが耐え切れなかった。

 

だから、忌々しい掟が消えた“たった一度”のあるタイムラインで、俺はあいつを殺した。

 

これ以上、弟が殺される光景を見ないようにするために。

 

「全く、人のことを散々殺人鬼呼ばわりしている癖に、自分だって殺しているんだから、笑っちゃうよ」

 

人間はそんな俺を嘲笑う。こんなことをしたモンスターなら当然だろうか。あの時の彼女が、Playerの縛りを受けず自らの意思で行動していた可能性に気づいたのは、彼女が現れなくなってから一か月も過ぎようとしていた時だった。その時から俺は、人知れずこの十字架を背負い続けている。

 

正直、もう疲れてしまった。この苦しみを一人でずっと抱え込むことに。何も知らない無垢なパピルスに、全く変わらずに接し続けることに。

 

「…殺してくれ」

 

「何だって?」

 

「俺を殺してくれ、人間」

 

それなら、俺の罪を知る目の前の子どもに、一思いに殺された方が楽になれる。例え次のタイムラインで記憶が残っても、俺が殺されることが少しでも償いになるのなら本望だった。それに、何もしていない無実の彼女を惨たらしく殺した俺が、パピルスに会う権利なんて端からない。むしろ、こんな薄汚いヤツがあいつの兄だということが知れ渡ったら、あいつも酷く傷つき、悲しむに違いなかった。ならば、ここで人知れず殺された方が、あいつにとっても良いのかもしれない。

 

「まったく、何を言い出すかと思えば。この臆病者。それはただ目の前の現実から目を背けて逃げているだけだろう。しかも、その罪を私に擦り付けようだなんて、随分と私も甘く見られたものじゃないか」

 

「悪いな。俺は今までそうやって生きてきたんだ。逃げて諦めて…。なぜなら、この世界は何をやってもどうせ巻き戻される。全て無駄なんだよ、結局」

 

吐き捨てるようにそう答える俺。だが人間は静かに頷くと、何を考えているのか分からない薄ら笑いを浮かべながらこう言った。

 

「ああ、そうだな。この世界は何度も何度も巻き戻され、一つの物語を繰り返し続ける。今まではね」

 

「今までは?」

 

ヤツの放った言葉に、俺は思わず顔を上げた。いったい、こいつは何を言っているんだろうか。ヤツは俺の横から覗き込むように顔を出すと、囁くように言った。

 

「そう。だがこれからは違う。サンズ、この世界を変えようとは思わないか?」

 

この世界を変える?何をどうやったとしても無理なことだ。この世界はあの人間が落ちてくる瞬間を起点に時間軸がループし、その先いくら進もうとも“リセット”が掛かった途端に綺麗さっぱり全てが巻き戻ってしまう。俺だってその現状を変えるべく努力してきたつもりだった。だが、どうやってもその呪縛を破る方法は思い浮ばない。それを変えるだなんて、土台無理な話だ。ましてやこんな子どもに…。

 

こんな子ども?待てよ。

 

「まさか、あのクソ花がPlayerがどうとか言っていたのが関係しているんじゃねえだろうな?」

 

「その通り。いま私が憑りつき、お前がさっき殺しかけたこの体。これはこの世界を荒らしまわった張本人__Playerのものだ。もっとも、時間軸どころか世界レベルで存在が違うコイツが、何でこの世界に現れたのか、私にも分からないけど」

 

確かに、ヤツの言うことには一理あった。この世界の住民である俺がいくら試したところで、この世界を変えることは難しいのかもしれない。でも、外の世界。ましてや俺らを操る立場にいたPlayerならば、運命を変えることもできるのではないか。

 

突拍子もないことに思えたヤツの提案だったが、急に現実味を帯びてくる。

 

「だから、話を聞いてあげれば良かったのにさ。一切攻撃せず、必死に説得してた彼をこんな目に遭わせちゃうんだもの。絶対死ぬほど怖かっただろうに。というか私が来なかったら確実に死んでただろうな」

 

恨めしそうな声でそう言いながら、クスクスと笑う人間。そいつに俺は、前々から気になっていた質問をぶつけてみる。

 

「そういうお前は何者なんだ?随分と俺やこの世界に詳しいようじゃないか?」

 

「私の名前はキャラ。お前がおそらく考えたであろう、最後の回廊で戦ったあのフリスクに乗り移っていた存在だ。正確には表に出ないだけで、ずっと乗り移っているんだけどね」

 

フリスクに乗り移った存在?まったく意味が分からない。だが、キャラという名前はどこかで聞き覚えがあった。確か、この世界に最初に落ちてきて、王家に迎え入れられた人間の名前だったはずだ。

 

俺の思考を読んだのか、人間はニッコリとした笑顔を浮かべながら続ける。

 

「ご名答。流石、王立研究所の“元”研究員は違うね」

 

「そこは強調しなくてもいい。つまり、お前さんはファーストヒューマンの残留思念のような何かってわけか。前々から化け物だと思ってはいたが、まさか本当にお化けだとはな」

 

「その呼ばれ方嫌いだからやめてくれない?首切るよ」

 

喉骨に触れていたナイフが食い込む。話には聞いていたが、中々冗談のキツイ子どもだ。これだと、そもそも冗談かどうかすら疑わしい。

 

「待て、落ち着けって。それで、Playerのヤツはどうするつもりなんだ。コイツが本当にフリスクを救って、俺たちをこのループ地獄から解放してくれるのか?」

 

「ああ、そうさ。いきなりフリスクを殺したあんたも考えものだけど、そもそもこんな状況に追い込んだ元凶は彼だからね。まあ、根は優しいヤツだよ。きっとね。自分が何をしたのかは分かっているようだから、その決意で最後まで皆を導いてくれるはずさ」

 

「だが、フリスクはもういないんだぞ。なのに、どうやって彼女を呼び戻すんだ?」

 

「粉々になったままのフリスクのソウルがどこに行ったのかは、私も知らない。その肉体もね。でも、この世界に落ちてきた人間のソウルが最後にどこに行くか、君なら知っているはずだ」

 

この世界に落ちた人間の末路。それは、モンスターに殺されてソウルを奪われること。俺がフリスクを殺した後、少なくとも一回は時間軸が巻き戻り、ロードが発生していた。ということは、彼女は俺でもない誰かに殺されて、ロードせずにいることになる。だとすれば、そのソウルが行く先は…。

 

「アズゴア王の所か。確かに、あそこなら人知れずにフリスクのソウルを隠していてもおかしくはねえな。実際、あの王様はしばらく表に顔を出していない」

 

「そう。だから、一つお願いがあるんだ。アズゴア王のところまで、この人間を()()()()やってほしい。別にぴったり守ってくれとは言わない。こうなったのも、ある意味この人間が招いたことだしね。王のところまで行きさえすれば、あとはこの相棒と私が何とかするよ」

 

張り付けた笑みを止め、神妙な面持ちでヤツは言った。まさか、また人に子守りを頼まれるとは。全く面倒臭い話だった。しかも、見守る相手は俺たちをこんな状況に追いやった張本人のPlayerだ。守るどころか殺してしまいかねない相手なのに、随分と無茶を言ってくるものだ。

 

でも、このイレギュラーな世界の呪縛を解くためにはもう彼にかけるしかないのかもしれない。何より、フリスクに二度と会えず、謝ることすらできずにこの十字架を背負い続けるのは、もうたくさんだった。

 

「…ああ、分かった。その願い、聞いてやるよ。約束だ」

 

言ってしまってから、俺は“約束”という言葉を口に出してしまったことに気づいた。

 

約束なんてするのは、いつ以来だろう。今度こそ、破らずに成し遂げられるだろうか。それは分からないものの、強いて言えばこのPlayerという人間次第だろう。

 

「ありがとう、サンズ」

 

そう言うと、人間はまるでスイッチを切られたロボットのように、その場に崩れ落ちた。俺はそいつを抱きかかえると、ショートカットを使ってその場を後にする。視界が移り変わる間際、洞窟の隅にあのクソ花が見えたような気がした。

 




またも一話だけでえらい文量になってしまった…。
ご感想等ございましたら遠慮なくお寄せください。
亀更新ですが今後とも宜しくお願いします。
(P.S.スマブラのサンズMiiコス登場は熱いニュースでしたね!)
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