Undertale 落とされた人間   作:変わり種

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第21話 騎士団の夢

外に出た僕を真っ先に迎えてくれたのは、体の芯まで凍えるような寒さだった。考えてみれば何日もサンズの家の中にいたのだから、すっかり体がそれに慣れていて、雪舞うSnowdinの街の寒さは恐ろしいほど体に凍みる。ましてやマフラーを巻いているとはいっても着ているのは半袖シャツ。普通に考えれば寒いのは当たり前だ。

 

「か、帰りたいよぉ…」

 

「なにを言っているんだ相棒。ついこの間までこの中を歩いていたじゃないか」

 

「そ、そうだけど…さ…」

 

思わず弱音が出る僕に、キャラは冷たくそう返す。確かにRuinsからサンズと戦ったあの洞窟まではSnowdinの森の中をずっと歩いていたけど、あれだって正直に言えばかなり辛かった。それをまた味わうなんて、これはいったい何の試練だろうか。

 

「ほら、文句を言う暇があったら足を動かせ。まずは店でアイテムでも買ってくるんだな」

 

そうだった。サンズとの戦いで、手ごろな回復アイテムはほとんど使い果たしてしまっていた。ナップザックの中身を見ると、雪だるまの欠片とナイスクリーム、それにドーナツとバタースコッチパイが入っている。ナイスクリーム以外は使いづらいアイテムばかりだ。

 

「使う気がないアイテムくらいボックスにしまったらどうだ?きみは物を整理することもできないのか?」

 

「はい、ごめんなさい…」

 

案の定、キャラに怒られた。

 

とりあえず、アイテムをボックスに預けてから買い物に向かうとするか。そう考えた僕は、ナップザックを背負い直すと街の方へと歩き出す。ゲーム画面でしか見たことがなかった街並みがこうして目の前に広がっていることに、心の中では興奮を抑え切れなかったけれど、あまりの寒さにはしゃぐだけの元気はなかった。

 

メインストリートとはいえこの世界では比較的小さな街ということもあってか、モンスターの姿はまばらだった。小雪の舞う薄暗い通りを、僕は建物の窓からこぼれる温かみのある橙色の光を頼りに進んでいく。図書館の前を過ぎて北の方に向かうT字路を抜けると、見覚えのあるレンガ造りの建物が見えてきた。

 

「あれは、もしかして!」

 

思わず速足で近づいてみると、見事に予想は的中した。『GRILLBY’S』の文字が大きく書かれた看板に、長い取っ手のついた落ち着いた風合いのドア。ゲームとしてプレイしていたときから、一度は入ってみたかったお店の一つだ。

 

(少しくらい寄り道してもいいよね)

 

でも、いざ店の真ん前まで来たとき、すぐ隣にいた2人組のモンスターと目が合った。縞々の長い緑のマフラーを巻いた、丸い耳が特徴的なネズミのモンスターと、何を考えているのか分からないニコッとした笑顔が印象的な鹿のようなモンスターだ。どうも見慣れない僕の姿が気になるのか、じっと見つめてくる。

 

よくよく考えれば自分は人間で、この世界ではお尋ね者の身だ。ゲームでの経験からして大丈夫だろうと思ってはいても、どこか気持ちが落ち着かない。もし、自分が人間だってことがバレたらどうしよう…。それを考えると、とても店に入れるような気分ではなくなってしまった。

 

僕はとにかく怪しまれないように彼らから顔を背けると、泣く泣く店の前を通り過ぎた。

 

「そんな気にすることないのに。この世界で人間がどんな姿か知っているモンスターなんて、数えるほどしかいないよ」

 

「それは分かっているんだけど、いざ目の前にモンスターがいるとどうしてもね…」

 

当たり前だけど、キャラを除いて周りにいるのは全員がモンスター。しかも、小さいとはいえ街の中なのだから、もしひとたび自分が人間であることが知れ渡ったらあっという間に襲い掛かられても不思議ではない。1対1ならまだしも、大人数で襲われたら一溜りもないのは明らかだった。

 

「そんな風にビクビクして落ち着いていない方が、よほど挙動不審で怪しいけどね。まるで犯罪者みたいだ」

 

「それ、キャラには言われたくないけど」

 

言ってから「しまった」と後悔したけど、幸いなことに睨み返されただけで済んだ。まあ、犯罪者みたいと言われたのはさすがに癪に障るけど、キャラの言う通り怪しく見えるのは確かだろう。僕は大きく息を吸って深呼吸し、心を落ち着かせる。

 

大きなクリスマスツリーの前を通り過ぎようとしたとき、声を掛けてもいないのに急に自分の背丈と同じくらいの子どもが駆け寄ってきた。黄色と黒の縞々の服に、頭に生えたトサカのような3本のトゲ。ゲームでも可愛らしかったモンスターキットだ。でも、まさか自分から話し掛けてくるとは思いもよらなかったので、胸がドキッとする。

 

「よっ!オマエも子供だろ?シマシマのシャツ着てるもんな」

 

「う、うん、そうだけど」

 

「アンダインはかっこいいんだぜ。皆のヒーローなんだ。俺もおっきくなったら、アンダインみたいになりたいぜ。そして、ニンゲンをコテンパンにしてやるんだ」

 

得意げに笑ったモンスターキッドはそう言うと、勢い良く走ってクリスマスツリーの前に戻っていった。僕はそれを苦笑いしながら見送る。決して、彼に悪気があるわけではないのだろう。ましてや、僕が人間だということを知らないのだから当然かもしれない。でも、明らかに目の敵にされたのは、少し悲しかった。

 

「相変わらず生意気な子どもだね。何もできないくせに」

 

吐き捨てるようにそう言ったキャラ。落ち着いた口調ではあったけれど、その言葉にはどこか苛立ちが混じっているようだった。そんな彼女に僕は声を掛けようと思ったけれど、無言でじっとモンスターキッドを見つめる彼女の様子に、何も言えなかった。

 

そのまま街を進んでいくと、ようやくホテルとショップが見えてくる。そして、店の間にはセーブポイントと異次元ボックス。とりあえず、僕はセーブポイントの光に手をかざした。何だかセーブをするのもとても久しぶりな気がする。

 

『Tsuna LV1 2701:37 Ruins-入口』

 

何だかプレイ時間が凄まじいことになっているけど、気にしない気にしない…。

 

「ほら、セーブが済んだらさっさとボックスに預けるものを預けろ」

 

「はいはい」

 

さっきの件のせいか、まだキャラのご機嫌はナナメのようだ。僕はボックスの蓋を開けると、中にナップザックから取り出したパイとドーナツを入れておく。雪だるまの欠片も入れようかどうか迷ったけれど、ザックにはだいぶ余裕がありそうだったのでそのままにしておいた。一応、雪だるまからは連れていってくださいと言われているわけだし。

 

そして、ショップのドアに手を掛ける。

 

「ようこそ、旅人さん。いらっしゃい」

 

中に入ると、まずその暖かさに感動した。すっかり冷え切って凍り付いた体が、まるで溶かされるように少しずつ温まっていく。やっぱり暖房は最高だ。

 

気さくに声を掛けてくれたのは、すらっとした背格好のうさぎのお姉さんだった。ひとまず、見慣れない僕のことを怪しんでいる様子はなさそうだ。店の中はログハウスのような外観を裏切らず、木がふんだんに使われた造りで、温かみのある落ち着いた雰囲気だった。仄かに木の良い香りが漂い、部屋の中の暖かさと相まってついうとうと眠くなってしまう。

 

「あの、物を買いたいんですけど」

 

「いいよ。何が欲しいのかしら」

 

カウンターに置かれたメニューには、グローブやバンダナといった装備品のほかに、バイシックルやシナモンバニーなどの回復アイテムが書かれていた。しかも、ご丁寧に日本語でだ。

 

「忘れっぽいきみのために説明してやると、グローブは敵をぶん殴る用で、バンダナは何故か筋肉が描かれたダサいやつ。バイシックルは二度おいしいけど、回復できる体力も多くはない。シナモンバニーはそれなりに回復できるし、けっこう美味いよ。まあ、チョコには劣るけどね」

 

(ありがと。うーん、迷うな)

 

メニューを横から覗き込みながら、キャラがさらっと説明してくれた。少しは機嫌がよくなったのだろうか。それは分からないけれど、キャラは僕以外には姿が見えないことをいいことに、勝手に店の奥に入っていって品物をいじろうとしている。分かっていてもハラハラするから、正直やめてほしい。

 

(何買えばいいとかある?キャラ?)

 

「うーん、そうだな。とりあえずバンダナは買っとけ。あとはバイシックルとバニーを2、3個ずつかな」

 

幸い、お金はそれなりにたまっていたので、僕はキャラに言われた通りバンダナ1枚にバイシックルとバニーを3個ずつ買った。案の定、バンダナにはムキムキの力こぶが描かれていて、あまり見たことがないような残念なデザインだ。たぶん、恥ずかしいので余程のことがない限りつけることはないだろう。

 

バイシックルは買うまで忘れていたけど棒アイスだった。少なくともSnowdinを抜けるまでは、出番がないかもしれない。こんなに寒い所で食べたら回復するどころか凍死しそうだからだ。一方のシナモンバニーはメニューにも書かれていた通りこの店オリジナルの手作りパンで、サクッと焼けたうさぎ型の生地からはシナモン独特の甘い匂いがふんわりと漂う。つい、見ているだけでもよだれが出てくるほどだった。

 

うさぎのお姉さんは、買ったシナモンバニーを1つずつ丁寧に紙の袋に入れながら、何気ない調子で世間話をしてくれる。

 

「それにしても、新顔がここに来た何で何年ぶりかしらね。どこから来たのさ?首都?」

 

「えっと、まあ…そんな感じで…」

 

「観光ってわけじゃないわよね。ここには一人で来たのかい?その恰好じゃ、すごく寒かったでしょ」

 

「寒かったです。もう凍えるかと思いました」

 

その質問には流石に即答する。お姉さんはそれを聞いてふふっと笑ってくれた。

 

「隣にホテルがあるから疲れているならそこで休めるよ。あとはGrillby’sに行けば、何か食べられるし。せっかく来たなら、ゆっくりしていくといいさ」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

僕はそう感謝を告げると、買った品物をナップザックに詰めて店を出る。外は相変わらずの極寒地獄で、心が折れそうだ。これは早いところパピルスと戦って、Snowdinを出なければ。ホテルに入ろうかどうか迷ったけれど、サンズの家でたっぷり休んだから別の入らなくてもいいような気がしてきた。この寒ささえ除けば、体調はすこぶる良好だし。

 

僕はホテルの前を通り過ぎると、その隣のトンネルに覗き込んでみる。確か、サンズの家の辺りまで近道できる便利なトンネルだったはずだ。

 

かまくらみたいな入口は意外に大きく、いまの僕の体なら余裕で入れる大きさだった。中は滑り台のように勾配がついていて、奥の方は真っ暗で何も見えない。壁や床はツルツルに凍り付いていて、見るからに滑りそうだ。

 

「勇気を出していってみるか」

 

僕は覚悟を決めてトンネルの中に滑り込んだ。案の定、トンネルの中は恐ろしい程に良く滑り、みるみるスピードが上がって視界が真っ暗になった。感覚的にはウォータースライダーのそれにそっくりで、時々右へ左へ遠心力で振り回され、なかなかにスリリングだ。

 

「ひゃっほーっっ!!」

 

あまりの楽しさに調子に乗って叫びながら滑っていると、不意に目の前に眩しい白い光が見える。それが出口だと分かったときには、僕の体は空中に投げ出されていた。勢い良くトンネルから飛び出した僕は、そのまま地面を2、3回転くらい転がる。ようやく止まった頃には全身雪まみれで、あまりの冷たさに心臓が止まりそうだった。

 

「やれやれ、スピード出し過ぎだよ。そのトンネル意外にスピード出るから、出口に来る前に減速しないと」

 

「そ、それをさきに言ってよ!」

 

しょうがない奴だと言わんばかりに肩を竦めて言ってくるキャラ。まったく、知っていながら教えてくれないなんて、性格が悪いにもほどがある。絶対に確信犯だ。その証拠に、彼女はこらえきれずにクスクスと横を向いて笑い始める。ますます腹が立ったけど、彼女がイタズラ好きなのはもう十分に知っていたので仕方なく諦めた。

 

雪を払った僕は、ナップザックを背負い直すと深く息を吸い込む。

 

この道の先には、おそらくパピルスが待っている。王立騎士団に入る夢を叶えるために、躊躇いながらも全力で僕を捕まえようとしてくるだろう。ゲーム通りなら手加減してくれるので殺されることもないし、捕まえられても牢屋がザルなのですぐに抜け出すことができる。でも、サンズが襲い掛かってきたように、必ずしもゲーム通りとは限らない。用心するに越したことはなかった。

 

 

 

 

 

道を進むにつれ、強くなってくる風と雪。

 

ひとたび強い風が吹くと、視界が白一色に染まる。

 

右腕で顔を隠しながら、それでもなおも進み続けると、道の先に黒い影が現れた。

 

「人間。すまない…。俺はお前と友達になりたかった。ひとりぼっちのお前と、一緒にパズルを解きたかった。でも、それはできないのだ…。」

 

いつもの活気に満ち溢れた大声とは似つかない、彼らしくない思い詰めたような声で、彼はそう言った。案の定、ゲームのセリフとは全く違う。

 

「お前は人間だ。俺様はお前を捕まえなきゃならん。そして、夢を叶えるんだ…。そう…、パワフルで、人気者で、超一流!!それがPAPRYRUS様だ!!王立騎士団の新メンバーに、俺様はなるんだ!!だから人間、俺様に捕まってくれ!!」

 

その瞬間、視界を覆っていた雪がすっと晴れ、パピルスの顔が見える。鮮やかな赤いマフラーを風になびかせ、威勢の良い勇ましい表情を浮かべるパピルス。でも、その顔にはどこか物悲しさが滲んでいた。

 

何で、こんな苦しそうな顔をしているんだろう。何が、彼を追い詰めたのか。

 

心がギュッと締め付けられる。

 

とにかく、ここは戦いながら和解していくしかない。

 

僕はナップザックを下ろすと、パピルスの前に歩み出た。赤いソウルが胸に煌めく。

 

 

 

 

 

初手を仕掛けたのはパピルスだった。何本かの骨が雪の地面を突き破ると、ゆっくりと僕の方へと向かってくる。サンズとの戦いで散々受けて、痛め付けられた骨攻撃。でも、パピルスのそれはとてもゆっくりで、躱すのはそこまで難しくはなかった。まるで、ゲームで最初に仕掛けてきた攻撃とそっくりだ。

 

「油断するな。あの様子だ、パピルスは普段通りじゃない」

 

攻撃を躱し終えた僕に、冷静にそう言ったキャラ。軽く頷いた僕は、すぐに動けるように姿勢を低くし、なおも警戒を続ける。パピルスは普段の優しい笑みを見せることもなく、厳しい面持ちのまま立ち塞がっていた。とても話せるような雰囲気ではない。それでも、僕は懸命に言葉を絞り出す。

 

「そんな顔しないで!何があったか分からないけど、戦ったって、何も良いことはないよ。僕はきみと、友達になりたいんだ」

 

「ニェ…!」

 

パピルスは一瞬、ぱっと嬉しそうな表情を見せた。友達になりたいと言われて、パピルスが喜ばないはずはない。でも、すぐに首を横に何度も振ると、固い面持ちで口を開く。

 

「…ダメだ!お前とは友達になれない!だって、お前は人間で、俺様はモンスターだ!」

 

そう言うと、パピルスは再び骨攻撃を繰り出してくる。幸い、攻撃パターンは先ほどと全く変わらず、地面から突き出した何本かの骨がこちらに向かってゆっくり向かってくるだけだ。

 

攻撃が止んだ後、僕はもう一度声を張り上げる。一瞬だけ見せてくれたあの嬉しそうな純粋な表情。きっと呼び掛け続ければ、いつか思いは伝わるはずだ。僕はそう信じていた。

 

「大丈夫だよ!人間とモンスターだって、仲良くなれば友達になれるよ!だからパピルス、頼むから攻撃をやめて!」

 

「友達…」

 

それを聞いたパピルスは、一度攻撃のために伸ばした右腕を下げる。思い悩むように俯く彼。頼むから、いつものパピルスに戻ってほしい。パズルを挑んでくれる、あの優しい笑顔をまた見せてほしい。僕はその一心で、パピルスを見つめる。

 

でも、その思いは届かなかった。

 

顔を上げたパピルスは、こう言い放つ。

 

「…ダメだ。俺様は、お前を捕まえるんだ!捕まえて、王立騎士団に入る。いや、()()()()()()()()()()()!!だから、お前と友達にはなれない!!」

 

再び突き出した右腕が青い光を放つ。

 

次の瞬間、数え切れないほどの青骨が地面から突き出ると、雪崩の如く一気に押し寄せてきた。もちろん、青骨なので動かない限りはダメージを食らうことはない。僕は冷静に動きを止め、骨の激流をやり過ごす。でも、問題はこの後だ。

 

「うぐぅっ…!」

 

突如襲い掛かる強い力。地面に張り付けるかの如く働く強力な重力に、体が圧せられて思うように動けない。まるで、体中に重りがつけられているようだ。そうしている間にも、背後からは別の白い骨が迫ってきていた。僕は体を捩って何とか躱す。それだけでも、息が荒くなるほどだった。

 

「青ざめたな!これが俺様の攻撃だ」

 

気づくと、胸のソウルも真っ青になっている。サンズとの戦いでもう経験しているとはいえ、やっぱりブルーアタックを食らって平然とはしていられなかった。気を抜けば地面に突き伏せられそうだし、重力で頭の血が引いて意識がぼんやりする。たぶん、ソウルどころか顔も真っ青になっているだろう。

 

「来るぞ、気をつけろ!」

 

キャラが叫ぶ。

 

やはり、ゲーム通りにはいかず、先ほどまでの攻撃が嘘のように序盤から畳みかけてきた。間髪開けずに数え切れない程の骨が壁の如く押し寄せ、僕はそれを必死に飛び越える。しかも一つ一つが高いので、この強い重力下ではかなり難しい。終いには四方八方から突き出た骨が殺到し、躱し切れなかった僕は右脚を骨に打ち付けた。

 

「痛っ!」

 

幸い打撲だけで大きな怪我こそなかったものの、打ち所がよりにもよって脛だったせいでかなり痛い。今はまだ何とか凌げるものの、このままだと本当に取り返しがつかないことが起こるかもしれない。もちろん僕だって殺されたくはない。でも、それよりもパピルスの心に傷が残ってしまうのが、もっと嫌だった。

 

「パピルス、こんなのもうやめようよ!お願い!」

 

けれど、その後は何を叫んでもパピルスは聞く耳を持ってくれなかった。押し黙った彼は、固い面持ちのまま次々と攻撃を仕掛けてくる。サンズとの戦いで骨攻撃に少しは慣れたといっても、全部が全部を完璧に躱すのは難しかった。じわじわと傷が増え、追い詰められていく僕。ブルーアタックを受けてから3度目の攻撃が終わる頃には、だいぶ苦しくなってきた。

 

「おい、そろそろ回復しないと…」

 

「うん、分かってる」

 

僕は痛みをこらえながら、血の滲む右腕でポケットからシナモンバニーを取り出すと、半分だけ頬張った。優しい甘さとともに痛みが和らぎ、力が出てくる。瞬く間に体中の傷もほとんどが治り、出血もおさまる。

 

「人間、頼むから諦めてくれ!そうしないと、俺様は“必殺技”を使うことになる!!」

 

そう叫ぶパピルスの顔は、どこか悲しそうだった。間もなく腕を突き出すと、背後から無数の骨を呼び出して一気に僕の方へ差し向ける。

 

いったい何が彼をここまで変えてしまったのだろう。

 

押し寄せる攻撃を躱しながら、僕は必死に考える。Snowdinの森の中で、何か変わったことがあっただろうか。いや、どれも普通のやり取りで、特に変なことはなかったはず…。少なくとも、彼はサンズのようにいきなりイレギュラーに話し掛けてくることもなかったし、パズルにもサンズが弄った迷路以外は変わった所はなかったのだ。

 

なのに、どうして…。

 

僕はふと、ある可能性に気づく。

 

もしかすると、彼はずっと一人で抱え込んでいたのではないだろうか。いつも皆を元気付ける純粋で明るいパピルスだけど、もしかすると彼のこの性格のために、誰にも悩みを打ち明けられなかったんじゃないか。常に皆の幸せだけを考える彼なら、人の悩みを聞くことはあっても、自分の悩みを人に積極的に相談するとは考えられない。それができるとするなら、兄弟であるサンズだけだ。

 

待てよ…。

 

僕はたった一度だけ、彼が変わったことを言っていたのを思い出した。そう、あれは確か、まさにサンズの事だったはず。

 

「危ない、後ろだっ!」

 

その時、鋭い叫び声が耳に飛び込む。振り向いた時には、骨の壁はすぐ目前まで迫っていた。

 

(しまった…っ!)

 

考えに夢中になっていたせいで、背後から迫っていた攻撃に気づくのが遅れてしまったのだ。一か八か咄嗟にジャンプして躱そうとするも、その先にはあろうことかもう一段高い別の骨壁が迫っている。僕は体を守るために両腕を組むので精一杯だった。

 

「あぐぅ…ッ!」

 

全身を骨に強く打ち付け、鈍い音が響く。タックルか何かを食らったように、体が2、3メートルくらい弾き飛ばされて雪の上を何度も転がった。辛うじて意識は保ったものの、どこかの骨が折れたんじゃないかと思うくらいに体中に激痛が走る。その場でうずくまった僕は、思わず呻き声を上げた。

 

「人間、悪いことは言わないから、そこまでにしておけ。俺様はこの後、“必殺技”を使う。それを使えば、お前もただでは済まない。頼むから、おとなしく俺様に捕まってくれ」

 

聞いたことのないほど、必死で辛そうなパピルスの声。このタイミングでもう必殺技を使ってくること自体、普通に考えればイレギュラーだった。パピルスの決意は、余程強いのかもしれない。荒い息の中、僕は残したシナモンバニーの半分を一気に頬張ると、力を振り絞って立ち上がる。

 

決意なら僕も負けてはいない。この必殺技さえ乗り切れば、パピルスと和解できるかもしれないのだ。いまは、それに掛けるしかない。僕は真剣な面持ちでパピルスに向き合うと、声の限りに答えた。

 

「嫌だ!僕は、きみを説得するまであきらめない!」

 

それを聞いた彼は、一瞬だけ悲しげに目を細めた後、強い口調で叫ぶ。

 

「ならば仕方ない。これが俺様の必殺技だ!」

 

その瞬間、彼の背後に現れたのは見覚えのある“骸骨頭”。

 

(ブラスターッ!?)

 

それがガスターブラスターだと認識するのと、骸骨頭の口から眩い閃光が発せられるのは同時だった。

 

おかしい、出現から発射までがあまりにも早過ぎる。

 

咄嗟に飛び退こうとするものの、避ける間もなく放たれた光線は至近距離で炸裂する。途端に生じた凄絶な爆風に、僕は為す術なく吹き飛ばされ、体が空中に投げ出される。

 

一瞬で視界が目まぐるしく移り変わり、蒼白い爆炎とともに地面に穿たれた大穴と、そこから弾け飛ぶ雪や土が驚くほどスローで見えた。永遠のように感じる浮遊感。自分の吐く息と心臓の鼓動しか聞こえない静寂の世界。

 

だが、それは体に襲う強烈な衝撃とともに打ち破られた。

 

地面に叩き付けられた僕は、頭を強く打ち付ける。視界に見えたのは真っ白な雪と、血の鮮やかな赤だけ。

 

そこから先は、あまり覚えていない。

 

甲高い耳鳴りと朦朧とする意識の中、キャラが必死に呼び掛ける声が聞こえた気がする。でも、体に力が入らない。そんな中、視界の隅にゆっくりと黒い影が近づいてくるのが見えた。

 

「これで、兄ちゃんはきっと…」

 

微かに聞こえる、パピルスの声。そこで僕の意識は途切れた。

 

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