Undertale 落とされた人間   作:変わり種

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第22話 檻

頭が酷く痛む。

 

呻きながら目を開けると、煤けた茶色の壁が目に入った。かなりボロボロで、所々が大きくひび割れて剥がれているところもある。窓も同じくひびが入り、今にも割れそうな有様だった。当然ながらあちこちから隙間風が音を立てて入り込み、部屋の中は外と変わらないくらいに寒い。思わず身震いしながら、起き上がった僕は辺りをゆっくりと見回す。

 

四方には壁、そして木でできた格子。

 

気を失っていたせいか、ここがどこなのか最初は全く分からなかった。確か、僕はSnowdinの外れでパピルスに戦いを挑んだはず。その後は、そうだ…。パピルスの使った必殺技を躱し切れず、吹き飛ばされたんだ。

 

多分、頭はその時に地面に打ち付けたのだろう。まだズキズキと痛んで圧し掛かるように重い。でも、パピルスが手当てしてくれたのか、体にはほとんど傷はなかった。頭にも包帯が巻かれていて、出血はすっかり止まっている。おそらくは傷も塞がっているだろう。

 

そして、この薄暗く狭い独特な部屋つくり。間違いない、ここはパピルスたちの家の隣にある牢屋だ。サンズが言うところのガレージで、またの名をイヌ小屋という、彼らの家の隣にある粗末な掘っ立て小屋。戦いに負けて気を失った僕は、彼に運ばれてこの小屋に閉じ込められたのだろう。

 

「まったく、いつまで寝てるんだか。相変わらずきみはだらしないな…」

 

振り向くと、キャラが腕を組んで壁に寄りかかっていた。口を尖らせ、どこか不満げな様子だ。あれ…、さっき見回したときにはいなかったのに、いつの間に現れたんだろう。

 

「もう半日近く気絶しているんだもん。その間、暇で暇で仕方がなかったよ」

 

「ごめん。まさか、ガスターブラスターが来るなんて思わなくて。しかも、あそこまで早撃ちしてくるとは…」

 

そう。僕にとっては、完全に不意を打たれた形だった。

 

今まで、パピルスの必殺技は“犬”に邪魔されて一度も発動されたことはなかった。だから、それがどんなものかは、このゲームをやり込んだ僕ですら完全には知らなかったのだ。それで突然現れた骸骨頭に動揺してしまい、早撃ちされたブラスターに対応が間に合わなかったというわけだ。

 

でも、今考えるとパピルスがブラスターを使うという話はどこかで聞いたことがあった。あれは確か、ゲームの中のとあるルートでパピルスの部屋に積まれた骨攻撃を調べた時に出てきたはず。よくよく考えれば簡単に予想できたはずなのに、こればかりは悔しい限りだった。

 

「まあ、済んだことは言っても仕方がない。それより、まずはここから脱出することを考えよう」

 

「…脱出?」

 

それを聞いた僕は一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。脱出も何も、この牢屋は格子が大きすぎて余程の巨漢でもない限り、簡単にすり抜けられてしまう造りだったはずだ。なのに、脱出って一体どういうことなんだろう。

 

まさか…。

 

ある予感が頭を過る。僕は慌てて格子の方を振り向いた。

 

「嘘…」

 

案の定、格子は腕を通すのがやっとなくらいの狭い間隔で、到底体は抜けられそうにない。ゲームの世界では、絶対にこんな風にはなっていなかったはずだ。だとすると、イレギュラーなこの世界であるが故の出来事なのだろう。やはり、パピルスは自分の知っているパピルスと違うのかもしれない。

 

「私は別にこんな格子なんてすり抜けられるけど、君はそうもいかないだろ。だから、早いところ抜け出す方法を見つけないと…」

 

「見つけないと?」

 

そこで僕ははっとする。パピルスが人間を閉じ込めるのは、アンダインに引き渡すために他ならない。

 

底無しの不安が一気に心を蝕む。格子が塞がっているこんな世界なら、本当にアンダインが着くこともあり得るかもしれない。その上、さっきのキャラの話が正しければ僕は既にここで半日くらいは気絶していたことになる。そうしている間にもアンダインが向かって来ているとしたら、いつ着いてもおかしくはない。

 

仮にアンダインが着いたらどうなるか。おそらくは、王都まで連行されてソウルを奪われることになるだろう。そうなればフリスクはおろか、誰も救うことができない。自分すら、元の世界に帰れないまま死ぬことになるのだ。それだけは、絶対に避けなければならない。

 

でも、どうすればいいだろう。

 

部屋の中には相変わらず、干からびたドッグフードにボロいベッド、それに握ると音の鳴るおもちゃが無造作に転がっている。どれも役に立ちそうなものはない。あと、パピルスの書置きも一枚置かれていた。かなり大きな特徴的な手書きの文字で、

 

『すまない、UNDYNEが着くまでこの部屋に閉じ込めねばならん。おやつと寝床も用意しているから、大人しく待っていてくれ』

 

と書いてある。所々筆が止まってインクが滲んでいるあたり、彼なりに思い悩んでしたためたのだろうということは容易に察しがついた。でも、僕も黙って捕まったままでいるわけにはいかない。何としてでもここから這い出て、彼を説得してみせるのだ。

 

取り敢えず、両手で格子を掴んで引っ張ってみる。かなり力を込めて引いたつもりだったけど、まるでびくともしなかった。木製とはいえ、格子の1本1本が太くて自分の手首くらいはある。片足で格子を押さながら一気にグッと引っ張ってもみたものの、僕の力では全く埒があかない。

 

「クソっ!こんなところにいる訳にはいかないのに…!」

 

多少の痛みは覚悟して、僕は格子に体当たりしてみる。1回、2回と繰り返すも、相当頑丈らしく格子はまるでビクともしない。勢いをつけて思い切りぶつかっても、打撲傷ばかりが増えるだけで無駄な足掻きだった。終いには反動で弾き飛ばされ、尻餅をつく。

 

「武器持ってればまだやりようはあったのに、君も頑なだからね。おもちゃのナイフは投げ捨てちゃったし、フライパンはトリエルに返しちゃったし」

 

「だって、武器なんて必要ないと思ったから…。あるのは丈夫な手袋くらい」

 

「手袋で格子が破れるならいいけど、まあ無理だろうね」

 

キャラが薄笑いを浮かべながらそう言った。ここにきて攻撃には使わないとしても、咄嗟の出来事に備えて武器くらい持っておけば良かったと少し後悔する。

 

「…そうだ、窓を破れば!」

 

ひらめくや否や、即座に駆け寄ってみた僕。確かにガラス自体にはひびが入ってすぐにでも割れそうだけども、あろうことか外側に格子がついていて脱出には使えなかった。まさか、ここも駄目だなんて。あまりの悔しさに唇を噛み締めると、仄かに鉄の味が口に広がる。冷静さを保とうとゆっくりと深呼吸しても、焦り募る一方だった。

 

なぜなら、本当に打つ手がないからだ。

 

格子は破れないし、窓も塞がっている。こうしている間にも、アンダインはこっちに向かって来ているかもしれない。もし本当にアンダインが着いてしまったら、自分は確実に終わりだ。

 

尋常ではない焦燥感が胸を炙り、居ても立ってもいられなくなる。背中は冷や汗でぐっしょり濡れ、気持ち悪い。

 

懸命に策を考えようとするものの、文字通りの八方塞がりだった。道具もなければ手段もない。時間だけが刻一刻と過ぎていってしまう。キャラがいる手前、迂闊には顔に出せないけれども、焦りに押し潰されて泣き出してしまいそうだった。僕だってこんなところで死にたくないし、諦めたくもない。でも、出来ることが限られている以上、どうしようもなかった。

 

「おいどうするんだ、相棒?」

 

「うるさいっ!今考えてるんだよ!」

 

口に出してから、はっとする僕。

 

やってしまった。何気なく聞いてきたキャラに、つい感情的になって怒鳴ってしまった。流石の彼女も驚いたのか一瞬ビクッとしたものの、「何だよ…」と不機嫌そうにそっぽを向く。いくら焦っているとはいえ、彼女に当たるなんて最低だ。僕はすぐに謝ったけれど、彼女は横を向いたまま口を利いてくれない。

 

(もう…、いったいどうすればいいんだよ…)

 

途方に暮れた僕は、そのまま床に座り込むと膝を抱え、静かに顔を埋める。

 

もう、いっそのことここで死んでしまおうか。

 

ふと、そんな考えが浮かんだ。そうすれば、少なくともSnowdinの街のセーブポイントまで、きっと戻ることができる。アンダインにソウルを奪われるくらいなら、そうした方が良いのかもしれない。自殺なんてあまり気乗りはしなけれど、最悪な結末を避けるためには仕方がない。

 

でも、折角今まで死なずにここまで来たのに、まさか自分で命を絶つことになるとは。自分でも、流石に考えもしなかった。勿論、死なずに済むのなら僕だってそうしたい。けれど、この状況を脱するには、それくらいしか僕には思い浮かばなかった。

 

 

 

 

「なに泣いてんだ、ガキンチョ」

 

突然聞こえたその声に、すぐに顔を上げる僕。見ると、サンズが何気ない調子で目の前に立っていた。慌てて腕で顔を拭った僕は、驚きのあまり素っ頓狂な声を上げる。

 

「サ、サンズ…!?何でここに?」

 

「いつまで経ってもお前さんがガレージから出てこないからだ。このくらい、お前さんなら容易く抜け出せると思ったんだがな」

 

「この牢屋を?こんなに格子が狭いのに?」

 

僕の言葉に、ちらっと格子を見たサンズは「あー…」と気まずい表情を浮かべる。何やら怪しい。ものすごく怪しい。

 

「もしかしてサンズ、事情知ってたりする?」

 

「あー、まあな。これはお前が来る前に、俺が改造したまま放置していたやつだ。すっかり忘れてたぜ。すまんな…」

 

サンズぅ…。一度、殴り飛ばしてやらないと気が済まないくらいに、僕は怒り心頭だった。閉じ込められている間、僕がどんな気持ちでどれだけ大変な目に遭ったか。許せない、絶対にいつか仕返ししてやる。

 

うっかり顔に出ていたのか、僕のあまりにムスッとした不機嫌な様子に流石のサンズも不味いと思ったらしい。苦笑いしながらある提案をしてきた。

 

「お詫びと言っては何だが、これからグリルビーズに行くんだが、一緒に来るか?」

 

「行く!」と言いかけたところで、アンダインのことが思い浮かんだ。行きたいのは山々だったけれど、いつアンダインが来るかも分からないのに、悠長にグリルビーズで飲み食いしている場合ではない。少し間を開けた僕は、心苦しさを覚えつつ冷静にサンズに事情を説明する。

 

「ごめん…。早く行かないと、アンダインが来るかもしれない。だから、その、今日のところはグリルビーズには一緒に行けない…。ほんとにごめん」

 

俯きがちに、絞り出すように細々と出た言葉。でも、それを聞いたサンズはあろうことか「へへっ」と声に出して笑い始める。正直、全く理解できない。

 

「…え、なんで笑うの?僕、何か面白いこと言った?」

 

「いや、別に。…にしても、お前も真面目だな。少しは気を楽にしたらどうだ?」

 

相変わらずの気楽な調子で答えるサンズ。これには流石に僕も少しイラっと来てしまった。いくら自分のことではないとは言っても、無責任過ぎやしないだろうか。自分にとっては、生きるか死ぬかの凄く大切な問題なのだ。それを、気を楽にしろって言われてできるわけがない。苛立ち交じりの強い口調で、僕はサンズに返す。

 

「何言っているのさ…。早くしないとアンダインが来ちゃうんだよ!早くパピルスを説得しないと、多分僕は捕まって…」

 

「あのなぁ、アンダインの奴は自分の携帯を持ってないんだ。今頃、パピルスは手紙でも書いてる頃だろ。それがアンダインの所に届いて、それからあいつがここに来るまで、何日掛かると思ってるんだ?」

 

「え…、でも…」

 

宥めすかすように、落ち着いた声でそう話したサンズ。つい先ほどまで追い詰められて色々と限界に来ていたせいか、彼の話したことを頭の中で理解するのに少し時間が掛かってしまった。でも、ようやくその言葉の意味を理解した僕は、恐る恐るサンズにもう一度尋ねてみる。

 

「…それ、本当?」

 

「ああ。今更俺がお前に嘘をついてどうするんだ?」

 

確かに、それもそうかもしれない。サンズの言葉に一気に緊張の糸が解れた僕は、深い溜息をついた。なんだ、そんなことなら初めからそこまで心配しなくても良かったじゃないか。まるで拍子抜けするように圧し掛かっていた重圧から解放され、力が抜けた僕は思わず座り込んでしまう。

 

考えてみればゲームでもフリスクはパピルスと戦った後、彼とデートしたりサンズとグリルビーズに行ったり、地味に色々なことをやっている。それも踏まえると、サンズが言うようにアンダインが来るまでには意外に時間があったのかもしれない。全く、心配して損してしまった。

 

あれ、そういえば急かしてきたのって、キャラじゃなかったっけ。そんなことを考えた矢先、ゴツンと頭を強く殴られる。思わずサンズの前なのに「い゙っ!」と変な声が漏れた。

 

《人のせいにするな相棒。だいたい、きみが勝手に勘違いしたからだろ。私は別に、アンダインが今すぐ来るなんて言ってないんだし》

 

そうだったっけ…?どうも納得がいかない。

 

それより、僕が突然出した声を聞いたサンズが怪訝そうに「どうした?」と訊いてきたので、大慌てて取り繕った。そりゃ、傍から見れば何もされていないのに、いきなり変な声を上げて頭をさすっていたらおかしい奴だと思われるだろう。実際、サンズは変な顔をしている。

 

「…で、話は戻るが、グリルビーズには来るか?人間」

 

「行く!」

 

迷わず即答した。あのグリルビーズに行けるまたとない機会なのだから、これを逃す手はない。

 

「じゃあ、俺の腕にしっかり掴まっとけ。間違っても、途中で離したりするなよ」

 

「うん、分かった」

 

僕は言われるがまま、サンズの腕を掴んだ。最後の言葉が少し怖かったので、両手でしっかりと。そんな僕の背中には、キャラがひょこりくっついてきていた。別にキャラなら一緒に飛ばなくても場所が分かると思うのに、こういうところはチャッカリしている。おっと、あまり言うと()()殴られるのでやめておこう。

 

そのまま歩き出すサンズ。慌ててそれに合わせて一歩を踏み出すと、ふと気づいた時にはいつの間にかグリルビーズの店内にいた。本当の本当に一瞬だった。瞬きもせずしっかり見ていたつもりなのに、何が起こったのかさっぱり分からない。

 

「何きょとんとしてるんだ?別に、お前さんならショートカットも初めてじゃないんだろ?」

 

「いや、まあ…。知ってはいたんだけど…、その…、実際に体験するのは初めてだったから」

 

興味津々にキョロキョロと辺りを見回しながら、僕はサンズにそう答える。ゲームでこそ、画面上で見たことなら数え切れない程ある。でも、こうして自分がショートカットで移動するなんて、感動ものだった。その間に、サンズはモンスターたちに軽く挨拶を済ませている。

 

中にいるのはグリルビーズではお馴染みの面子だった。黒いパーカーを深く被っているのはDogi夫妻で、まだあの大斧を握っていてトラウマがある僕には少し怖い。同じテーブルには最初に戦ったDoggoや結局戦わずじまいだったグレータードッグもいる。ほかにはギザギザの歯が印象的な大口のモンスターや目が回っているウサギ、そしてカウンターにいる酔っ払い2人組だった。あと、さりげなくレッサードッグが奥の隅のテーブルで一人ポーカーに興じているのが見える。

 

「さ、こっちだ」

 

僕はサンズに案内されるがまま、恐る恐る店内を進む。バーなんて入るのは現実世界でも初めてなので、正直かなり緊張していた。壁際に灯る間接照明は落ち着いた雰囲気を醸し出し、どこからともなく漂う煙草の甘い香りが鼻をくすぐる。何だかとても大人になったような気分だ。バーカウンターには全身が炎のモンスター__グリルビーが、黙々とグラスを拭いている。

 

サンズは一足早く、丸椅子に腰を掛けた。それに続いて僕もゆっくりと腰を下ろすと、途端に「ブゥー…」と気の抜けた音が店内に響き渡る。

 

あ…、またやられた。くそ、こんなことなんて分かり切ってたはずなのに凄く悔しい。しかもこれ、鳴らした瞬間に全員の視線が集まったせいで途轍もなく恥ずかしいんだけど。苦々しい顔をしながら、僕は今度は鳴らさないようゆっくりと座り直す。

 

「へへ、お前さんも分かりやすい奴だな。耳が真っ赤だぜ。いつだれがブーブークッションを仕掛けているか分からないんだから、座る場所には気を付けることだな」

 

サンズぅ…。

 

口を尖らせて精一杯の不満を表現するものの、してやったりといった顔のサンズはニヤニヤと笑っている。許せない。今度、ケチャップの中身をタバスコにすり替えてやる。

 

「よし、何か注文するとしよう。ポテトとバーガーがあるが、どっちを食いたい?」

 

「えーと、どっちも」

 

「おいおい、そんなに食えるのか?残したらお代はお前持ちだぜ?」

 

「いいよ、食べれるもん」

 

サンズは渋々、グリルビーにバーガーとポテトを2個ずつ頼んだ。注文を受けた彼は、扉を開けて店の奥へと消える。暫しの間の沈黙。本当は自分も色々と聞きたいことがあったはずなのに、いざ二人きりになった途端どう切り出せば良いか分からなくなってしまう。サンズも同じらしく、互いに正面のボトル棚を眺めたりしながら気まずい時間が流れる。

 

それでも、先に口を開いたのはサンズだった。

 

「…そういえば、あのガレージにいたってことは俺の兄弟と戦ったんだろ。どうだった、最高にクールで強いと思わないか?」

 

「ああ、うん。強いしクールだったよ、でも…」

 

「そいつは良かった。俺の兄弟は本物のスターなんだぜ。まあ、お前さんにとっちゃこの話も毎回聞いてるだろうがな。ケツを叩いてくれる奴がいるってのも、中々オツなものだぜ」

 

続けようとしたところで、サンズは僕の話を強引に遮った。平然と話してはいるものの、何だか少し妙だ。都合の悪い事から目を逸らすような、そんな雰囲気が感じられる。もしかして、サンズも薄々気づいているのだろうか。パピルスの様子が少しおかしいことに。

 

僕と戦ったパピルスは、明らかに思い悩んでいるようだった。人間を捕まえることに固執し、まるでそれしか道がないかのように、彼は説得も聞かず攻撃を続けてきた。そして、最後には必殺技__ゲームでは出番すらなかったガスターブラスターを発動して、僕をあの牢屋に閉じ込めたのだった。

 

考えてみれば、普段一緒にいるサンズがあそこまで思い悩む兄弟の様子に気づかないはずはない。ここは、敢えて無理にでも兄弟の話を聞いてみた方が良いんじゃないか。そう考えた矢先、サンズが本題に入る。僕は口に出かけた言葉を渋々飲み込んだ。

 

「お前さんに一つ、聞きたいことがあってな。なに、大したことじゃない。あの喋る金色の花のことだ」

 

「喋る金色の花?フラウィのこと?」

 

やっぱり、フラウィの事を聞いてきた。正直なところ、あの洞窟で僕に襲い掛かってきた時もサンズはフラウィの事を話していたから、自分の中でもいつか訊かれると思ってはいた。軽く頷いた彼は、話を続ける。

 

「俺はあいつに唆されて、お前を殺そうとした。そのことは、本当に悪いと思っている。だが、分からないのはあいつの目的だ。あの花は、俺にお前を殺させてどうするつもりだったのか。いったい何が目的なのか。それが、どうもすっきりしないんだ」

 

「フラウィの目的…?」

 

そういえば、確かにあまり考えたことはなかった。Ruinsで最初に襲ってきたとき、フラウィはなんて言っていただろう。

 

そうだ。あいつは僕のソウルを欲しがっていた。なら、目的は僕のソウルを奪うことだろうか。サンズに僕を数え切れない程殺させて、決意が折れてソウルを差し出すのを待っていたのだとすれば納得はいく。とりあえず、僕は今の考えをサンズに伝えてみた。

 

「お前さんのソウルを?でも、それなら自分で襲い掛かったほうが手っ取り早くないか。わざわざ俺なんかに殺させるより、あの花ならお前くらい絞め殺すのは簡単だろ」

 

「……。」

 

デリカシーに欠けているのは百歩譲って置いとくとして、サンズの言っていることは確かに一理ある。フラウィにとっては僕を殺すのは容易い事だろうし、殺そうと思えば殺せる機会はいくらでもあった。勿論、僕が決意で復活できるとしても、永遠と殺され続けて正気を保てるなんて思えない。

 

しかし、フラウィはそうはせず、わざわざサンズに殺させようとした。そのことに、何の目的があるんだろう。頬杖を付きながら深々と考え込む僕に、サンズが覗き込むように話し掛ける。その眼は真っすぐに僕の瞳を捉え、真剣そのものだった。

 

「俺はな、ガキンチョ。あのクソ花がまた何かろくでもないことを企んでいる気がしてならないんだ。お前さんなら、俺の言っていることは分かるだろ?」

 

脳裏に蘇ったのは、機械と植物が融合したかのような悍ましい化け物の姿。画面越しに見ただけでも恐怖に慄き嫌悪を覚える、悪夢の敵。フラウィが僕を泳がせているということは、また()()を起こすつもりなのだろうか。いや、多分違うだろう。リセット前の記憶を持つフラウィが、後々ソウルに反逆されることを知らないはずはない。

 

にも拘わらず、フラウィが何かを狙っているのだとしたら、もしかするとあいつはPlayerだった自分ですら知らない恐ろしい事を企んでいるのかもしれない。そのために僕を泳がせ、利用しているのだ。最後の最後で、自らの目的を達成するための手段として。

 

「多分、お前…、いや俺も今はまんまと奴の掌の上で踊らされているってとこだろうな。俺とお前がこうして和解して、この場で話し合っていることすら、奴にとっては想定の範囲内かもしれない」

 

「どういうこと?」

 

「お前も気づいていたかもしれないが、あの洞窟での出来事をあの花はこっそり覗いていたんだ。勿論、単にお前が殺されるのを見たかっただけなのかもしれない。でも、用心するには越したことはないだろうな…」

 

冷静な声でそう言ったサンズの言葉に、僕は静かに頷いた。フラウィの手の内は分からないものの、サンズの言う通り警戒は必要だろう。でも、あの洞窟の中の戦いをフラウィが覗いていたということには少し引っ掛かった。あれを見て、フラウィは何を確かめたかったのか。あの時、僕はただただ一方的にサンズに襲われ、殺されかけただけじゃないか。他に、何か見るものがあっただろうか。

 

ふと、ある可能性が頭を過った。

 

あの場でサンズと戦ったのは、自分一人だけではない。正確にはもう一人いたのだ。

 

 

 

 

 

“キャラ”が。

 




更新遅くなりすみません。
年内にはsnowdin編を書き上げるつもりだったのですが、忙しさから解放されず気づけば年末に…。
亀更新ではありますが、来年もどうぞよろしくお願いします。
皆様、良いお年を。

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