遥か彼方の地平線の先に燃える太陽は、すべてのものを黄金色に染めている。山も森も、雲も空も。遠方に聳える摩天楼でさえも、それは例外ではなかった。そして、その場に佇むモンスターたちの顔をも、眩いばかりの太陽の光が黄金色に染め上げる。皆がその美しい光景に目を奪われ、呆然と立ち尽くしていた。
「美しいだろう、みんな?」
立派な角にふさふさの顎ひげをたくわえた巨体のモンスターが、落ち着いた貫禄のある声で言った。目の前の光景を瞳に焼き付けながら、ほかのモンスターたちもその美しさに感動し、自らの感性で感じ取ったその喜びを口々に表現する。生まれて初めて見る、地上の美しさを。
1体のモンスターは思い描いていたのよりもずっと綺麗だ、とその瞳を涙に潤ませながら言った。もう1体のモンスターは満面の笑みを浮かべて、本当に生きている心地がする、と言った。さらにもう1体はイヤッハー!と大声を上げ、太陽をこの目で見れた喜びを爆発させる。
そんな皆の姿に、頬を緩ませ笑顔を浮かべる少女。モンスターの一団の中で、ただ一人のニンゲン。そんな彼女の長く厳しい冒険の果てに、彼らはこうして地上に出て、皆で光に満ちた夢と希望のある未来を手にすることができたのだ。
彼女の着る青地のボーダーの服は所々が破れ、汚れている。はいている青いズボンも同じく擦り切れ、彼女の歩んできた道のりの過酷さが痛いほどに見て取れた。そんな中でも彼女は諦めずにこの未来を勝ち取ったのだから、その決意は並々ならぬものだろう。
その特徴的な細い瞳には一筋の涙が浮かんでいた。やがてそれは、彼女の柔らかいふっくらとした頬を伝って流れ落ち、地面に黒いしみをつくる。
大切なみんな、愛するみんなと一緒に、ようやく地上に出ることができた。地上に出て、この世界の美しさをみんなで共有することができた。やっと、みんな揃ってこの喜びを味わうことができた。
この上のない、最高の幸せだった。
いつまでもこの幸せが続いてほしい、と彼女は願った。
「みんな…。今ここから輝かしい未来が幕を開ける。人間とモンスターとの平和の時代が」
やさしく穏やかに、けれども強い意志のこもった声で、巨体のモンスターが言った。その言葉に、その場の皆が静かに頷く。少女も彼の方を見つめながら、こくりと頷いた。
ここから始まる輝かしい未来。
そんな未来への溢れんばかりの希望が、夢が、彼女の心の中に広がっていく。
プツリ…。
それは、まるでテレビのスイッチを落としたかのように一瞬だった。目の前に広がっていた美しい黄金色の風景に、それを見つめるかけがえのないみんなの姿。すべてが跡形もなく消え去ったのだ。残されたのは、その場に呆然と立ち尽くす彼女の姿だけ。辺りは完全なる暗闇が支配している。
力が抜け、その場に座り込んでしまう彼女。彼女の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる。そして、声の限りに泣き叫んだ。
いったい何度、この未来に希望を抱いたことか。
いったい何度、この未来に夢を抱いたことか。
いったい何度、この待ち焦がれた未来を失ったことか。
彼女の目の前にもう彼らの姿はない。あれだけ親しくなり、友達になり、楽しい時を過ごし、ともに助け合ったはずの彼ら。かけがえのない大切な彼ら。
それが、一瞬にして奪われてしまう。
この理不尽な世界には何も救いはなかった。苦労の末ようやく掴み取ったと思えた幸せな未来もすぐに巻き戻され、何もなかったことにされる。一度は戦いながらも和解し、デートまでしてせっかく仲良くなれたと思ったのに、次に会うときはまた初対面に逆戻りだ。かつての自分のことなんて、誰も覚えてはいない。自分ですらも。
止め処なく涙を流し、むせび泣く彼女。無情なことにそんな彼女の記憶からも、ともに過ごしてきた彼らとのかけがえのない思い出が一つ、また一つと消えていく。
「やめて!みんなを奪わないで!もうやめて!お願いっ…!」
絞り出すように口に出した声も、だれにも届かない。この真っ暗な世界の中では。
それでも、彼女は泣きじゃくりながら何度も懇願する。何度も何度も何度も。しかし、その願いが誰かに届くことなどなかった。なぜならここは『Undertale』というゲームの世界だ。ここでは”Player”がすべてを決め、すべてを操る。それに抗うことなど、主人公とはいえ1人のキャラクターに過ぎない彼女にできるはずがなかった。
しばらく経った頃だろうか。彼女はおもむろに泣き止んだ。そうして、すっと立ち上がる。
「あれ、なんでボク泣いているんだっけ…」
首をかしげて涙を拭う少女。そして、何事もなかったかのように歩き出す。どこまでも広がる底なしの闇に向かって。
目を覚ますと、石造りの天井が見えた。
どういうわけか、自分の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。もしかして、夢の中で泣いていたのだろうか。何かとても悲しい夢を見ていたような気がするけれど、まったく思い出せない。しばらく考え込んで思い出そうとはしてみたものの、無駄だった。
(ま、仕方ないか…。)
諦めた僕は左腕でやや乱雑に涙を拭う。何の夢だったのかとても気になったが、これだけ考えても思い出せないのなら仕方ないのかもしれない。
周りを見ると、地面には赤い落ち葉が積もっていた。手触りはカサカサするものの、押すとクッションのように柔らかい。起き上がると、目の前にはこれまた立派な石造りの階段が広がっていた。どうやらここは遺跡の入り口のあたりらしく、気を失った僕はここに運び込まれたようだ。
少し落ち込む。目覚めてもやはり元の世界に戻ることはかなわないらしい。フラウィが言ったように、僕はこの世界___Undertaleの世界の中に落とされてしまったのだろう。思わずため息をつく。なんで自分がこんな目に合わなきゃならないのか。考えれば考えるほど気分が沈んでいく。
そこで、トリエルが気づいたのか駆け寄ってきた。
「大丈夫?突然気を失ってしまったから、わたし心配で心配で…。誰がこんなことにしたの?きっと謝らせるわ」
全部フラウィの仕業です、って言おうとしたけど、やめておいた。言ったところでどうせあの花は姿を現さない。都合の良いところだけ現れては、せっかくの幸せを滅茶苦茶にするクソ花なのだ。まあ、彼なりにも悲しい事情があるのは分からないでもないけども。
「ごめんなさいね。応急手当はしておいたんだけど、痛くないかしら」
トリエルが心配そうにそう言った。怪我をした右腕を見ると、白い包帯が巻かれている。恐る恐る上から手を当ててみたものの、あれだけ出血があった割には全く痛みはなかった。まさか、魔法の力とかそういうもので治ってしまったのだろうか。だとすれば凄い話だ。
とりあえず大丈夫そうなので僕は無言で頷いた。するとトリエルはほっとした表情を浮かべる。本当に自分の子どもに対するような、心から安堵するような顔だった。その顔を見て、僕は心にチクリとするものを覚え、表情が曇る。でも、すぐにトリエルに悟られないように取り繕った。
「自己紹介が遅れたわね。私はTORIEL、このRUINSの管理をしているの。毎日こうやって、誰か落ちて来てないか確認しに来てるのよ。ここにあなたのような人間が落ちてくるのはとても久しぶりよ」
「そうなんですか...」
うん、まさにゲーム中のセリフの通りだった。フラウィとの話では気に留めなかったが、英語の部分もどういうわけか日本語っぽい発音になっている。まあ、日本語の会話中にいきなり流暢な英語が流れたらそれはそれで不自然なので、この方が良いのかもしれない。
ふと、前に落ちてきたのはいつなのか訊こうと思ったが、やめておいた。たしか彼女は今までに何人も、保護した子どもを地下世界に送り出しては失っている。そんな記憶を思い出させるというのは酷な話だからだ。それに、トリエルがどこか懐かしそうな表情を浮かべた後、わずかに口元を歪ませていたのを見逃さなかった。
微妙な間が空いて、なんとなく気まずくなる。そんな空気を察したのか、トリエルは快活な声で話し始めた。
「そうだ。とくに理由はないけれど、あなたはシナモンとバタースコッチ、どちらが好みかしら?」
「え…。えーと...、どっちでも…」
予想だにしないことを訊かれて完全に虚を突かれた僕は、つい焦り過ぎてそんな風に答えてしまった。なぜなら、この質問はこの先の遺跡の中で訊かれるはずの質問なのだ。イレギュラーにこんなところで訊かれるとは思ってもみなかった。これは、ちょっと認識を改めないといけないかもしれない。
一方、選択肢にない答えを返されたトリエルはというと、「うふふ…」と微笑んでいる。なんて優しいんだろう。
「あ、そうだったわ。べつに、どっちも嫌いってわけではないわよね?もし食卓に並んだら、お鼻が曲がるくらい嫌かしら?」
「いえ、ぜんぜん大丈夫です。どっちも好きです」
「それは良かったわ!」
思い出したかのようにそう訊いてきた彼女。
あ、またも失敗した。つい話の流れに合わせて適当に答えてしまったのだ。致命的なことに、自分はそもそもバタースコッチがどんなものか分かっていない。シナモンはよくお菓子に入っている香辛料で、トーストとかパイとかで食べたこともあるからどんな風味かは大体想像がつく。でも、バタースコッチってあまり聞いたことがない。たぶん、バターが入っていて甘そうな“何か”だ。
その程度の認識しかなかった僕は、内心困り果てて押し黙る。でも、自分の答えを聞いた彼女の嬉しそうな顔に、思わず表情が緩んだ。知ってはいたけど、トリエルがこんなに優しいモンスターだったなんて。また心にチクリと何かが刺さった。
「どう?少し元気になったかしら」
「おかげさまで、だいぶ良くなりました」
「そう、それは良かったわ。すごく悪いのだけど、私の家がこの先の遺跡の奥にあるの。それで、遺跡の浅いところまで案内しようと思うんだけど、立てそうかしら?痛かったら、無理はしなくていいわ」
「大丈夫です。たぶん、立てます…」
僕は地面に左手をつくと、静かに立ち上がった。右手を庇うようなぎこちない動きにはなったけれど、全く痛みはない。本当に治ってしまったらしい。
「敬語なんてつかわなくていいのよ」
「まあ、つい癖で使っちゃうんですよ…」
彼女はそれを聞いて、また「うふふ…」といった様子でほほ笑むと、遺跡を案内し始める。そういえば、トリエルって何歳なのだろうか。失礼だろうから歳は訊けないけれども、たぶん100歳とかは余裕で超えてそうな気がする。そこまでいくと、もはや普通に喋るのも怖い。
先に進んだトリエルは左右に分かれた大階段の右側を上り、踊り場で待っている。ふとあることを思い出した僕は、階段を上ろうとした足を止めて後ろを振り向いた。
(げっ…!やっぱりあるのか)
先ほど自分が寝ていた落ち葉の山の前に光る黄色い光。他でもない。あれは“セーブポイント”だった。ゲームをプレイしていたときはあそこでセーブをすることにより、体力を全回復することができる。それに、敵にやられて“ゲームオーバー”になってしまったときも、セーブさえしていればこのポイントから再びゲームを始めることができるのだ。
つまりだ。
もし、この先自分が殺されるようなことがあっても、もしかするとこのセーブポイントから復活することができるんじゃないか。確証は持てないものの、この世界がUndertaleのゲームの世界の通りであれば、その可能性は高い。ただ…
(死ぬのは、嫌だ)
フラウィに殺されかけたときに味わったあの感覚。
“恐怖”と“絶望”
あれだけは何があってももう二度と味わいたくはない。まして、さっきは辛うじて殺されずに済んだからあの程度で収まったものの、本当に殺されたら果たして自分は正気を保てるのか。それが不安でならなかった。考えたくもないけれど、抱き締められる直前、僕は恐怖のあまりトリエルに殺意すら抱いたのだから。
それに、そもそも復活できるというのはゲーム通りならという話で、プレイヤーである僕自身がこの世界に落ちているという今の状況でも、それが有効であるかは分からない。もし違ったら、自分は殺されてそれでおしまいだ。元の世界に帰れることもなく、お陀仏になる。ソウルの扱いがどうなるか少し気になるところだけれど、順当に考えるとフラウィに奪われるかアズゴアに奪われるかの二択だ。どのみち、ろくな最後にはならない。
それでも、セーブをしない理由もないのもまた事実だった。
僕は黄色い光に歩み寄る。
「……。」
あ…。肝心なことを忘れていた。どうやってセーブするんだっけ?
取り敢えず適当に両手を出したり、手を振ったりしてみる。しかし、何も起こらなかった。トリエルの方を見やると、やや怪訝そうな表情を浮かべている。それはそうだろう。きっと彼女にはこの光は見えていないのだ。何もないところでこの子どもは手を振ったりして、いったい何をやっているのかと思うだろう。何だか急に恥ずかしくなってきた。
焦りが募る中、僕は必死になって考え込む。セーブする時って、何が起こっていただろうか…。
そうだ、『○○によって、あなたは決意で満たされた』みたいな感じで、主人公の行動に誘発されるような形でセーブできるんだった。
(ここでは確か…)
曖昧な記憶を頼りに、僕は遺跡の方をじっと見つめる。すると、みるみる体が何か力強いもの満たされるのを感じた。これが“決意”というものなのか。ちなみに、ここでのメッセージは『遺跡の影がぼんやりと現れ、あなたは決意で満たされた』的な感じだったはずだ。ここに立つと、ぼんやりどころかはっきりと遺跡の入り口が見えてしまっているが、まあ気にしないことにする。
ふと見上げると、見覚えのある黒い画面が見えた。
『空っぽ LV0 0:00』
という文字が見える。間もなく、効果音とともに表示が更新された。
『Tsuna LV1 182:35 Ruins-入口』
いや、僕の名前「Tsuna」じゃないんだけど。ちゃんと本名でゲームやっておけばよかった、と少し後悔した。同時に、LVまでセーブされているという事は、やはりこの世界にもPルートやGルートなどの概念がある可能性が高いと考えられる。Nルート以上なら、晴れて地上に戻れるだろう。でも、Gルートになると正直、救いがあるのか疑問だ。それだけは避けなければならない。
プレイ時間は3時間と少しといったところだ。おそらく、この世界に落とされてからの積算時間だろう。ゲームであればいったい何をしていたんだ、と思うくらいの低速プレイだけれど、現実だとそうもいっていられない。だいたい、トリエルに抱きついて気絶してから何時間経ったのか分からないし。
セーブが完了した僕は、急いで階段を駆け上ると、トリエルについていった。
入り口を抜けると、そこには同じく石造りの小部屋が広がっていた。右側には石でできた何やら怪しい出っ張りが6個。正面にはデルタルーンの描かれた扉があるのだが、完全に閉まっている。見ただけでも相当頑丈そうで、手で開けられるのか疑問なほどだ。左の壁には何か文字の彫られた石碑が見えるが、この距離からでは何が書かれているかは分からない。
「新しい家へようこそ。わが子よ。RUINSの歩き方を教えてあげるわね」
ついさっき会ったばかりなのに、わが子と呼ばれるとは思ってもみなかった。いや、ゲームのセリフの通りではあるけど。でも改めて考えると、トリエルの優しさは尋常ではない。言い方は悪いかもしれないけど、病的なレベルといった方がしっくりくる。裏を返せばそれだけ、彼女も心に相当抱えているものがあるということかもしれなかった。
彼女は先ほどの出っ張りの方へ歩いていくと、慣れた様子ででっぱりのうちの4つを踏み、押し込んだ。そのあと、正面の壁についていたレバーを下げる。
ぱしゅ
重厚な扉だった割に、意外に軽い音で開いた。あっという間に目の前には次の部屋への入り口が開けている。横から見ていても、いったいどういう仕掛けなのかまったくわからない。からくりというよりは、魔法的な要素も入っているのだろうか。
「RUINSにはパズルが沢山あるの。昔ながらの気晴らしと鍵の合わせ技ね。部屋を進むにはパズルを解かないといけないの。よく見て慣れていってね」
あっけに取られていた僕は、こくこくと頷くことしかできなかった。これがゲーム中に頻繁に出てくるパズルってやつか。やはり画面越しに見るのと、実際に目の前にこうして広がっているのでは、感じが全く違う。そもそも全体像を見通すことができないから、どんなパズルだったか思い出すのにも苦労しそうだ。本当に自分の力で解けるのか、不安になってくる。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫よ。私が教えながら進んでいくわ。そうだ、試しに、ここのスイッチを押してみて。練習よ練習!」
顔に出てしまったのか、トリエルに優しく声をかけられた。ちょっと恥ずかしい。促された僕は、出っ張ったまま残っている2つのスイッチのうち手前の方を、恐る恐る手で押そうとする。さすがにそれにはびっくりしたのか、慌てたトリエルに「足でいいのよ」と付け足された。ますます恥ずかしい。
右足でスイッチを押してみる。ぱしゅ、と小気味良い音が響いて石がちょうど地面にはめ込まれた。トリエルはわが子の成長を見るかのように、満面の笑みでほほ笑んでいる。自分も思わず照れて顔が赤くなってしまった。
そうして僕はもう1つのスイッチも同じように押すと、レバーのもとに歩み寄る。もっとも、レバーはすでに操作されているのでこれ以上動かないが。
「ごめんなさいわが子よ。次の部屋ではあなたにやらせてあげるわ」
申し訳なさそうに謝るトリエル。そんな顔をされると、何だかこっちの方がすごく申し訳ない気持ちになってしまう。「そんなことはないです!」と、僕は強く首を振った。
「さ、次の部屋にいきましょ」
トリエルに連れられ、僕は隣の部屋へと足を踏み入れる。通り過ぎざまに、僕はさっきの部屋の左壁にあった石碑に目を通していた。『恐れを知らない者だけが進める…』あとの部分は通り過ぎてしまったので読めなかったけれど、見る限りなぜか日本語で書かれていた。ゲーム中にあったメッセージと同じだ。おそらく、ほかのメッセージもそうだろう。この雰囲気の中で日本語が書かれているのは微妙に違和感があるけど、これは助かった。正直、英語を読める自信はまったくない。この間の試験も赤点スレスレだったし…。
「ここを進んでいくには、いくつかスイッチを押すのよ。心配しないで、私がスイッチに印を付けておいたわ」
先ほどとは打って変わって、次の部屋は随分と広かった。水路みたいなものが流れていて、その上には木でできた粗末な橋が架けられている。トリエルはそう言うと、橋を越えて向こう側へと歩いていった。壁には何本か蔦のような植物が生えていて、天井まで伸びている。ごく普通の蔦のようで、現実の世界で見てきたものと大きな違いはない。
思い出したように、ふと遺跡の中なのに何で暗くないのかという疑問が浮かんできた。周りをきょろきょろ見回してみても、松明のようなものは見られない。この空間全体がほのかに明るくなっているらしかった。魔法の力と考えるほかないが、万能過ぎやしないだろうか。もしこの力を元の世界に持って帰ることができたら、エネルギー問題なんて余裕で解決しそうな気がする。
『「Z」を押して看板を読もう!』
正面に杭で打ち込まれた看板にはそんなことが書いてあった。うお、これは凄いメタ要素だ。ゲームをプレイする側だったときは何も違和感のない操作方法の説明なのに、いざ自分がこの世界に来てみると全くをもって意味不明だった。改めて自分がゲームの世界にいるのだということを実感させられる。
一通りのメッセージを見終えた僕は、トリエルに続いて目の前の橋を渡った。すると、左側の壁に埋め込まれた一本のレバーに気づく。彼女が書いたのだろう、意外に達筆な文字で「このスイッチを押してね -TORIEL」とある。押すというよりは引くといった方が正しいような気がするけど、そんなことは気にしても仕方がない。
ぱしゅ
とりあえず、レバーを下げてみた。
「よくできたわね。こっちにもあるわよ」
トリエルはそう言うと、もう一つの橋を渡って向こう側へと歩いていく。僕もそのあとに続き、橋を渡った。2人同時に橋に乗ったときは何やら下の方から軋む音がして一瞬ハラハラしたものの、無事に渡り切ることができた。
奥の方にはこの先に通じる道が見えたけれど、自分の腰くらいまでの高さのある鋭い針山が突き出していてとても通れそうにない。左の壁を見るとレバーが2つ。片方にはトリエルが書いたであろう黄色い矢印と文字がびっしり周りに書いてあったので、遠くから見てもどれが正解かは一目瞭然だった。
逆の方のレバーを下げてみたい気にもなったが、ゲームでは確かトリエルに怒られて結局下げられなかった気がする。それに、記憶が確かならそもそもレバーも固くて動かなかったはずだ。今の状況なら力任せに無理やり下げてしまうといったこともできるかもしれないけど、絶対ろくなことにならないので大人しくすることにした。
ガコン
今度はかなりの重低音が響いて、先に通じる道を塞いでいた針山が引っ込んだ。
「さあ、次の部屋へ行きましょうか」
トリエルが優しい声でそう言った。何だかこの冒険感は子供心が刺激されてとても楽しい。こんな大がかりな仕掛けでリアル脱出ゲームをつくれば大盛況間違いなし、…かもしれない。
一足早く部屋の奥へ歩いていくトリエルに続いて、僕も次の部屋へと足を踏み入れる。この先の部屋って、何があったっけ。さすがに1年もやっていないと、所々記憶が抜けている。うーん、これはまずい。
(げ…。ここダミー部屋だ)
部屋に入った僕の目に飛び込んできたのは、部屋の中央に佇む1体のダミー人形だった。
本編にある通り、主人公は少年ですが本物のFrisk(?)は女の子設定です。ご了承ください。
今後についてですが、基本的には週一ペースでの更新を目指していく予定です。