〝金色の戦士〟を撃退せよ! 作:仙豆
明晩、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは円卓の間で反省会を開いていた。雰囲気は重苦しいというより、むしろ明るい。手応えのあるクエスト登場の歓喜の方が優っていた。皆、和気あいあいと昨夜の一戦を検討している。
「いやあ、強かったのなんの!!」
「そんなに強かったのー?」
「あれはヤバイ、マジヤバイ」
「ほとんどチートですよあんなの!!」
昨晩の戦闘には未参加だったぶくぶく茶釜ややまいこといった女性陣に、如何に相手が難敵だったかペロロンチーノやヘロヘロが力説する。
「ムービーはないの?」
「私も録画したかったんですがねえ」
餡ころもっちもちの言葉にぷにっと萌えが力なく首を振る。彼は戦闘時、仲間たちが次々に屠られていく中、何とか戦闘データを記録しようと外部ツールを起動した。しかし――
「謎のエラーが起きてしまってね」
ぷにっと萌えは肩をすくめる。孫悟空が「サンキュー、ピッコロ!」と発言していたからその辺りも運営はしっかり対策を施していたようだ。
「モモンガさん、今日ももちろん行くだろ?」
「そうです、昨晩の雪辱を晴らしませんと」
ほとんど良いところなしでやられた弍式炎雷やウルベルトが息巻く。同意しかけたモモンガに、待ったをかけたのはたっち・みーだった。
「待ってください、このまま無策で行っても結果は変わらないでしょう」
「それは聞き捨てなりませんね」
ウルベルトがたっち・みーに食ってかかる。また始まったと他のギルメンから溜め息が溢れた。
「昨日よりもこちらの人数は多いんですよ? 試してみるべきでは?」
「相手の能力を分析してからでも遅くはないはずですが?」
見えない火花がバチバチと散る。そんな二人を微笑ましく思いながらモモンガはある程度のところで仲裁に入る。
「ギルド長!」
「モモンガさんはどう思われますか!」
「はい、では皆さんいつものように。多数決取りますよー」
揉めた際のルールに従い、皆ユグドラシル硬貨を取り出した。
「たっちさんが旧金貨、ウルベルトさんが新金貨でお願いします」
結果として一行は再び金色の戦士に挑むこととなったのだが準備不足も甚だしい。勝敗は語るまでもないだろう。
◇◆◇
それから一週間が経過した。いよいよ明日がイベント最終日。これまでの戦績は全戦全敗だ。非常に不名誉ではあるが、他のギルドも同じ結果なので運営は絶賛炎上中である。何故こんなクリア不可能なクエストを敢行したのかと。だが上位ギルドは如何にしてこの難業に挑むか日々戦略を練っていた。アインズ・ウール・ゴウンもまた例に漏れず最後の作戦会議中である。
「では、これまで得た情報を整理していきましょうか。ぷにっと萌えさん、お願いします」
「はい」
ギルド長モモンガが、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明ことぷにっと萌えに説明を一任する。いい加減負けが込み、笑っていられなくなったギルメンたちの表情は真剣そのもの。それはモモンガとて同じだった。いくらレイドボス級といえど、連戦連敗で悔しくないわけがない。
「まずは相手の情報から。孫悟空――言わずと知れたドラゴンボールの主人公ですね」
一同が頷く。彼を知り、己を知らば百戦危うからず――智者の言葉通り、彼らは過去を学んだ。電子書籍化された原作の数冊をホワイトブリムが所持していたのは幸運だった。そこからお金を出し合い、DVDやBlu-rayといったもはや過去の遺物と言っても差し支えない記録媒体を漁った。原作、ドラゴンボールZ、ドラゴンボールGT、ドラゴンボール超、映画版などなど。どこかに孫悟空の弱点はないかと隅から隅まで読み込んだ。
たっち・みーなぞすっかり初心を忘れハマってしまい、原作を揃えるのはもちろん、スーパーサイヤ人的な気のエフェクトを購入したほどだ。過去の名作を世に広めるという観点からみれば、このコラボは大成功といえるだろう。難易度が破滅的に狂っているという最大の欠点を除けば、だが。
「相手の強さはこちらの人数に依存するようです」
初日に十二人。次は二十五人、その次は十八人、そして三十四人と。毎回異なる人数で挑むことである程度の法則性が掴めてきた。おそらくギルドメンバー数による不公平を極力排除したいのだろう。そして何度挑んでも相手は孫悟空で固定だ。他のギルドも〝ベジータ〟や〝孫悟飯〟等、同様に固定されているようだ。〝ブロリー〟を引き当てたトリニティなどは見るも無残な姿である。新しい物語が出る度に強くなっていく〝孫悟空〟とどちらがより脅威であるかは意見が分かれるところだ。
「基本的には黒髪のノーマル状態ですね」
「〈かめはめ波〉や〈界王拳〉、〈瞬間移動〉など厄介な技が多いですがまだ対処できます。問題は――」
「スーパーサイヤ人ですね」
ホワイトブリムが発言する。HPが半減すると使用してくるスーパーサイヤ人。この状態を許したら最後、ワールドチャンピオンであるたっち・みー以外ほとんど満足にダメージを与えられない。防御特化であるばりあぶる・たりすまんやぶくぶく茶釜ですら数撃と耐えきれず蒸発してしまう。ノーマル状態とは桁違いの攻撃力、防御力、俊敏性。この高い壁を突き崩そうと様々な策を講じた。遠距離からの波状攻撃、超位魔法を主軸とした高火力、超位魔法からの不動明王コンボ、etc。いずれも惜しいところまでいくのだが、あと一歩が足りない。頭を悩ませる一同を見渡し、ぷにっと萌えは不敵な笑みを浮かべる。
「私にいい考えがあります」
◇◆◇
「お、きたな!」
もう何度目かも分からない会合。来訪者たちに気づいた孫悟空は両手を組み大きく伸びをする。その後ろには和洋中問わず、たくさんの料理の空の器が積まれていた。アインズ・ウール・ゴウンの面々を待つ間に食事をとっていた――という設定のようだ。特に能力上昇がついた様子もない。このコラボイベントへの運営の力の入りようが窺える。モモンガにはまるで孫悟空が本当に生きてそこにいるかのように感じられた。悟空がモモンガに気さくに話しかけてくる。
「おっすモモンガ! 今日はみんなできたんか。ええっと、なんつったっけ……あい、あいすーうるごん?」
「アインズ・ウール・ゴウンですよ」
「そうそう、そのアインズなんちゃら! おめえら毎回面白え闘い見せてくれっからよ! オラもう待ちきれねえよ」
「ははは……期待に添えるかわかりませんが」
これがイベント〝金色の戦士を撃退せよ〟の難しいところだ。孫悟空は非常に高度なAIが備わっている様子で、何と一度見た戦法やコンボは次に闘うときにはもう通用しない。経験値が蓄積していくのだ。
「私たちもいつまでも負けっぱなしじゃないですからね? 今夜は――アインズ・ウール・ゴウン全員でお相手します」
四十一人全員が各々の武器を構える。呼応するように孫悟空も両手を広げ構えを取る。
「いくぞ、孫悟空!!」
「へへっ、こい!!」
「はぁああああ!!」
「でやああああ!!」
前衛たちが一斉に孫悟空へ飛びかかり、支援職や魔法職のギルメンたちは能力上昇系の魔法を詠唱しながら後方へ跳びのく。瞬間、辺りに霧が立ち込めた。正確には悟空を含めアインズ・ウール・ゴウンが隔離空間へ囚われる。
「へっ――!?」
孫悟空は初めてみる世界級アイテムの効果に驚愕した。その隙をつき、建御雷やベルリバーが斬りかかる。返す拳は両手に盾を構えたぶくぶく茶釜が受け止める。どんなに強くてもユグドラシルというゲーム内システムは適応される。ヘイト管理を間違わなければノーマル状態の攻撃を受け止めるのは容易い。巧みに霧に紛れながらヒットアンドアウェイで悟空にダメージを与えていく。
「でりゃあ!」
無論、悟空もやられっぱなしではない。世界級アイテムと課金アイテムを駆使し最大限気配を遮断したはずの前衛たちに的確に拳や蹴りを当てていく。ドラゴンボール原作にもあった〝気〟を探っているのだろう。
「たりすまんさん、茶釜さんのカバーに入ってください! やまいこさん、前に出過ぎないで! 回復を優先してください」
ぷにっと萌えは前衛たちにチャットを飛ばす。〈生命精髄〉を唱えつつ、モモンガは自身の腕につけた銀の腕輪を見やる。同じものをぷにっと萌えやウルベルト・アレイン・オードル、タブラ・スマラグディナなど信仰系を除く魔法詠唱者たちが装備している。今回の作戦の鍵となるアイテムだ。
「上手くいくでしょうか……?」
「大丈夫ですよ、俺たちならいけますって」
「ペロロンチーノさん」
思わずモモンガの口をつく不安を爆撃の翼王が払拭する。彼は縦横無尽に空を飛び回り、悟空へと矢の雨を降らせていた。続いてモモンガの視線は白銀の聖騎士へと向けられる。彼は前衛の攻撃に加わらず、ちょうど前衛と後衛の中間あたりで剣と盾とを構えていた。小声でぶつぶつと「大丈夫……お小遣いの範囲内なら怒られない……はず」などと呟いている。
「そろそろか……るし★ふぁーさん! お願いします!」
「はいはーい」
ぷにっと萌えの指示に従い、ゴーレムクラフターのるし★ふぁーが悟空へと迫る。そしておもむろに大声で、
「あっ、魔人ブウ!?」
「いっ――!?」
驚いた悟空が思わず指さされた後方を振り返る。もちろんそこには何もなく、
「ポチッとな!」
「ぐあっ……!」
るし★ふぁーが指を鳴らすと虚空から駆動音を響かせゴーレムが現れた。岩を思わせる巨大な腕が悟空を締め付ける。
「ふっふっふ、ちょろまかした超希少金属を使った特別製ゴーレム! 全てはこの日のために!!」
「おい、るし★ふぁー!? 今なんて言った!?」
「るし★ふぁーさん、後でお話しがあります」
仲間たちの非難轟々など物ともせず、るし★ふぁーが高らかに叫ぶ。
「今です!!」
釈然としないものを感じながらも魔法詠唱者たちは〈集団・転移〉、孫悟空の直上へ飛ぶ。
「はぁああああ!!」
悟空の黒髪が点滅し、今にもスーパーサイヤ人に変化しそうだ。だがこちらの方が一手早い。山羊頭の悪魔が外套を翻し、叫ぶ。
「唸れ! 我が秘儀! 降りよ、究極の災厄! 絶望と憎悪の涙を溢せ!――〈
「ウルベルトさんほどではないが私も――〈
「〈
蛸の錬金術師や死の支配者が後に続く。魔法詠唱者たちは己が持つ最大火力を眼下へ叩き込んだ。
「〈次元断切〉」
魔法職に負けじとたっち・みーが口火を切った。ワールドチャンピオンの超弩級特殊技術が火を吹く。
「へっ、俺らも負けてられねえな! いくぞ――〈不動明王撃〉!!」
ぷにっと萌えの立てた作戦は至極単純なものだった。孫悟空のHPを彼がスーパーサイヤ人になるギリギリまで削り、そこから超位魔法や高位階魔法など最大火力でコンボを決めて一気に削り切る。そう、スーパーサイヤ人が難敵というのなら、変化する前に倒せばいいのだ。アニメのとある一場面。悟空が光線銃でいとも容易くやられたシーンを参考にした。万一倒しきれずとも、こちらが圧倒的に優位を保てるはずだ。
「やったか!?」
「弟黙れ! それフラグ!?」
そのはずだった。現に〈生命精髄〉でみる孫悟空のHPは三割を切っている。〈瞬間移動〉を警戒し、既に〈転移遅延〉も詠唱済みだ。万全を期すために一度魔法職を退がらせるべきか。
「皆さん、最大限警戒しつつ一旦後退しま――」
「っ!!?」
指揮を取るため最後尾へと陣取っていたはずのぷにっと萌え。彼の腹を一条の閃光が貫いた。否、それは閃光と見紛う速度で繰り出された拳だった。バチバチと帯電する気の奔流は今までのスーパーサイヤ人の比ではない。
「おめえら本当に強え! オラ嬉しいぞ!」
悟空は逆立った金髪を揺らしながら心底楽しそうに笑った。
「続けようぜ! まだまだこんなもんじゃねえんだろ?」
「……これからが本当の地獄だ」
スーパーサイヤ人2となった孫悟空が構えをとる。対するアインズ・ウール・ゴウンの面々はるし★ふぁーの軽口に同意せざるを得なかった。
気長に待ってくださると嬉しい。