KaNcOle   作:礼賛燦々

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第1話

「今から話すことは大したことじゃあない。」

「聞いても聞かなくても君のすることに変わりはない。」

「だからこそ、君には選択の自由がある。」

「君の望むままを為すといい。」

 

「今、人類は海の底から来る者たち、俗に言う深海棲艦によって窮地に立たされている。」

「海は黒く染め上げられ、海路は封鎖された。」

「空に暁が訪れることはなく、衛星さえ撃墜された。」

「人々は陸に閉じ込められ、ただ滅びを待つのみとなった。」

 

「彼女たちは何者なのだろう?」

「人類を終わらせる為にこの世界に現れたのだろうか?」

 

「そしてこの状況を打破できるのは、海の底より舞い戻った者たち、所謂艦娘と呼ばれる存在だけだ。」

「彼女たちならば深海棲艦を打倒し、平穏な海を取り戻せる。」

「彼女たちこそが暁の水平線に勝利を刻むことができる。」

「彼女たちだけが人類の持つ剣であり、最後の希望だ。」

 

「ならば、彼女たちは何者なのだろう?」

「人類を救う為にこの世界に現れたのだろうか?」

 

「人類に対する脅威と、そのカウンターとしての存在。」

「出来すぎているとは思わないかい?」

 

「・・・そうだね。まるでフィクションのようだ。」

 

「かつて護国の為に沈んだ鉄の乙女たち。」

「その名を冠し、再びこの世界を守らんがために戦う艦娘たちと。」

「水底より現れ、正にこの世界を害するために攻め入る深海棲艦。」

「これが映画ならば、なんとも感動的で、刺激的で、情緒的だ。」

 

「不思議に思ったことはないだろうか?」

「深海棲艦が現れ、すぐに対となる艦娘が確認された。」

「深海棲艦が沈んだ後、近くで新たな艦娘が発見される"ドロップ"なる現象が起こった。」

「姫や鬼と呼称される上位の深海棲艦になるほど人の似姿に近づき、艦娘に酷似した存在が確認されている。」

「これらは全て偶然か?」

 

「そんな訳はないのだ。」

「現実はもっと残酷で、また気まぐれだ。」

「都合良く物事が進むのは、それこそフィクションの世界だけだ。」

「であるならば、これらはなんらかの意図が絡んでいると、そう考えてもおかしくないだろう。」

 

「勝利と敗北を繰り返す戦乱。拡大と縮小を反芻する戦線。そうして続く次第に疲弊していくだけの戦争。」

「倒しても倒しても次々に現れる深海棲艦と、建造とドロップにより増加していく艦娘。」

「大きく天秤が傾くことはなく、やがて・・・。」

 

 

「・・・何が言いたいって?」

「結論から言おう。この世界は、もう終わっているんだ。神に見放されたと言い換えてもいい。」

「剪定された世界線。根幹から逸れ先細りしていくだけの異聞帯。」

「それがこの世界なんだ。」

「本筋の世界を生かすための薪となる定めなんだ。」

 

「意味がわからない?それでいい。ただ聞いてほしいことがある。」

 

「君がやるべき事は変わらない。提督として艦娘を指揮し、深海棲艦を駆逐することが、これからの君の仕事だ。」

「だから、これはアドバイスだ。」

 

「深海棲艦を認めてあげてほしい。」

「彼女たちは味方ではないが、本当の敵ではない。」

「対話を求めることは不可能だろう。だが憎しみを持ったまま戦うのでは元の木阿弥だ。」

 

「艦娘を絶対の存在とは思わないほうがいいだろう。」

「彼女たちは味方ではあるが仲間ではない。」

「友好を深めることは肝要だ。艦娘はこの戦場において絶対的な力を持っているからね。だが、彼女たちには意思がある。かつての大戦の時のように人類に使われる道具ではない。」

 

 

「そして、妖精を信じてはいけない。」

「彼女たちは嘘つきだからだ。」

「妖精は気まぐれだからね。今は味方のように見えるが、今後もそうだとは限らない。

 

 

「彼女たちは、いわば木こりみたいなものだ。」

「木を切ることが仕事で、森を枯らしたいわけではない。」

「結果的にそうなってしまうだけのことなのだ。」

「だからこそ、君は問い続けなければいけない。」

 

「正義とは何か、悪とは何か。」

「何が正しいのか、何が間違っているのか。」

「そして、辿り着かなけばいけない。この世界の真実に。」

「君なりの答えに。」

 

「君は、秩序と混沌渦巻く戦場で本質を追い続けなければいけない。」

「それは嵐の海を進むような、先の見えない戦いだ。」

「心折れる事もあるだろう。道半ばで力尽きるかもしれない。」

 

「だから最後に言わせてほしい。」

 

 

「諦めてはいけない。」

「君が人間であるために、ね。」

 

 

「どんなに足掻こうと滅びの結果は変えられない。」

「この世界に風穴を開けることは不可能だろう。」

「それでも戦争という虐待に耐え、人としての尊厳を守るのならば」

「終わり方くらいは変えられるかもしれない。」

「絶望の中で燃え尽きるのではなく」

「ゆっくりと、眠るように終わりを迎えられるかもしれない。」

 

「そうであったなら良いと、私は願っているよ。」

 

 

「・・・なぜこんな話をしたのかって?」

「そうだな・・・。」

 

「伝えていなかったが、私はもう消えてしまうんだ。」

「だから、何かを残したくなったのかもしれない。」

「君一人を置いていってしまうことについては申し訳ないと思っているよ。」

「だけど、大丈夫さ。」

「君なら一人でも進んで行ける。」

「必要なのは優しさと、ほんのちょっとの勇気だけさ。」

 

 

「さあ、もうすぐ始まるよ。」

「願わくば、君の進む道に安らぎがありますように。」

「僕は先に行っているから。」

「ゆっくりでいいから、君なりに頑張ってくれ。」

 

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