ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~   作:誤字脱字

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セララといいます!『5』迷惑をお掛けしてます!

〈4職業〉

〈エルダー・テイル〉において最も重要な初期設定の一つである事とは〈冒険者〉の方々は重々承知であろう

職業は大きく分けて戦士系職業、武器攻撃系職業、回復系職業、魔法攻撃系職業。がある

『系』とある様に各職業には3つのビルドが存在しており、例えば戦士系でも〈守護戦士〉〈武士〉〈武闘家〉がある

三つの職業の戦闘スタイルは大きく変わり、また、職業によっては武器の選択や、選択式特技の習得状況によりカスタマイズが可能であり、戦闘スタイルのバリエーションはかなりの幅がある

 

〈エルダー・テイル〉において、人気のある職業とそうでは無い職業はあるが、本当に〈エルダー・テイル〉を楽しみたいのであれば、人からどのように言われようが好きな職業を極める事を私はお勧めしたい・・・

 

『第12回!どき☆エルダー・テイル追加パック!~人の不幸は蜜の味~』 著作者:くずのは

より抜粋・・・

 

「今回の見出しはこれで決まりざんすな、しかし・・・」

 

ペンと本を横に置き、艶やかに光り輝く赤い果実を手に取った・・・

 

「わっちは~くーでありんす♪ぬしは~林檎でありんす♪わっちはぬしが大好きですぇ~♪」

「くーさん!寝ながら林檎を食べると床が汚れちゃいます!椅子に座ってください!」

 

彼女のニート化は進んでいた・・・

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

昔々、ある所に一匹の狐が――〈キングクリムゾン〉――でした。めでたしめでたし

 

 

 

 

 

 

(ううう~またLVがあがっちゃうよ~。このままだと引きこもり生活で技能カンストしちゃうよ~。それはいくら何でも切ないよぉ)

 

ため息をついてメニューを開く。本日になってから〈家政婦〉の経験値がまた入ってしまっていた。

〈家政婦〉レベルは昨日は42だったのに、今日はもう44である。最近では毎日のように3レベルずつ上がるペースであり、驚異的だ。このままではススキノに潜伏している間に〈家政婦〉をコンプリートしてしまいかねない

 

(でも、暇すぎてついついLVあげしちゃうのよねぇ・・・でも意識しなくてもLVがあがっちゃうんだよね・・・)

 

セララはテーブルを拭く手を止めてソファーの方に視線を向けた・・・

 

「わっちは~くーでありんす♪ぬしは~林檎でありんす♪わっちはぬしが大好きですぇ~♪」

 

セララが隠れ住む場所を提供してくれた家主が鼻歌交じりで、シャクシャクっと林檎を食べていたのであった

 

「くーさん!寝ながら林檎を食べると床が汚れちゃいます!椅子に座ってください!」

「なんと!?ぬしはわっちに林檎を食べるな!と、おっしゃる んでありんすか !?」

「違います!椅子で食べてください!床がーーー」

「しくしく、しくしく・・・愛らしいセラララがわっちをいじめんす。・・・・・・・わっち に死ねといいんす かぇ!?」

 

あから様に泣き真似をしていたであろう彼女は一転、耳と尻尾を逆立てて訴え始めた、が・・・

 

「え?ち、ち、違いますよ!・・・もう少し綺麗に食べてくださいね?あと、『ら』が一つ多いです」

「はーい♪」

 

直ぐにもとの幸せそうな顔に戻り、シャクシャクっと林檎を齧り始めた

 

(はぁ~、綺麗にしても直ぐにくーさんが汚すからドンドン経験値が溜まっていくんだよねぇ)

 

サブ職業の経験値はメイン職業とは完全に独立して存在しており経験値が10貯まるごとに1レベル上昇とシンプルな構成なっている。そしてセララが言う様にセララが掃除した所を彼女が汚くする為、経験値配分の変化が少ないのだ。要するに『スライムをずっと狩っていたら』LVが上がるに連れて経験値が10から5、5から1と変化していく。それと同じように『綺麗な机を掃除』しても経験値は少ない。しかし『汚くなった机』を掃除すれば経験値は多めに貰えるのだ

 

認めたくないが堕落した彼女の生活がセララのLV上げの助けになっているのだ!・・・・まさに負の連鎖である

 

「セララさん、くーち、かえりましたにゃ」

 

ドアを開けて一人の奇妙な男が帰ってくる

ここゾーンは独自に改良を加えてはいるが、フリーのゾーンな為に誰でも出入りが出来るが、家主の彼女曰く「ここを知っているものは作った人だけ」らしく、他の(冒険者には知らされては居ないとのこと・・・そうすると必然的に訪問者が誰かわかる

 

「おかえりなさい、にゃん太さん」

 

セララは、ぴょこんと頭を下げた

〈エルダー・テイル〉での種族の一つ〈猫人族〉、セララを助けてくれたもう一人の恩人にして同居人・・・にゃん太である

 

「町は、どうですか?」

「相変わらずですにゃ。良くもなく、悪くもなく」

 

・・・要するに特には変化はしていないと言う事だ。現在〈ススキノ〉は弱肉強食の国へとなってしまい、PK集団が徘徊するだけではなく〈大地人〉を商品として扱う〈奴隷商〉たるものまで始めてしまったのだ

治安は悪くなる一方で、セララもにゃん太に助けられていなければどうなっていたのか?っと思うと、はっきりと体温が下っていくのが感じられた

 

「まぁ、まぁ。セララさん。そう考え込まずに。そんにゃに思い詰めていたらあっという間に老け込んでしまいますにゃ」

 

 にゃん太はそういうと、セララの目の前で手のひらをひらひらと振る。

 

「そう言うときは深く考えずに、果物でも食べると良いのですにゃー。……はいどうぞ」

 

小さく頷いたセララに林檎を渡してくれる。 赤いその果実からは甘やかな香りが漂ってきて、セララはほっとする・・・が

 

「それはわっちの林檎でありんす!」

 

ソファーからの襲撃者!もといニートに林檎を掠め取られてしまった

 

「・・・くーち、一つぐらいあげてもかまわにゃいのでないですかにゃ?」

「なにを不安になる必要があるんでありんすか ?いざとなりんした らわっち がセラララをたすけんす よ?」

「おや!珍しいにゃ!くーちが人の為に動くとにゃ!あの頃を思い出すにゃ~・・・」

「・・・昔の話でありんす。・・・それにわっちもそこまで人でなしではありんせん」

「そうですね、貴方は『あの頃とは違い』お優しくなられたにゃ」

 

不機嫌そうに林檎を齧る彼女。・・・だが彼女も自分らしからぬ行動だとは感じているようであった

事実、彼女はセララを助ける為に先日、侵入者を撃退していた。昔の彼女なら相手が自分に気づいていないのであれば傍観していたであろうが、何故か行動を起こし自ら襲撃者の相手をしていたのだ

 

・・・『至福』とか『便利』『メイド』と言う前に彼女は〈セララ〉と言う少女を気に入っているのかもしれない

 

「・・・興醒めでありんす。湯浴みしてきんす」

 

食べかけの林檎をセララに渡し、タオルを片手に風呂場へと向かっていったのであった

 

「あ、あの~?いくらなんでも言い過ぎだと思いますよ?にゃん太さん」

「にゃ~・・・私もまだ彼女をわかっていないようですにゃ」

 

手をアゴに添えて反省するにゃん太・・・。セララも気まずそうにお風呂場を見ていたが、暫くして『ある言葉』が気になり、にゃん太に質問をしていた・・・

 

「にゃん太さんって、くーさんとは長い付き合いなんですか?くーさんが人の為に行動するのが珍しいと言ってましたけど・・・」

 

セララが思った疑問。『いま』の彼女からは想像できない事であった。だから知りたいと思ったのだ、昔の彼女を・・・

 

「くーさんは・・・最初は嫌がっていましたけど、私を匿ってくれるだけじゃなく助けてくれるとも言ってくれました!・・・そんなくーさんの事をもっと知りたいんです!お願いします!」

 

さっきとは違い、勢いよく頭を下げた・・・

 

「セララさん、頭を上げてください、私の知っている彼女でよければお伝えしますにゃ」

「っ!ありがとうございます」

 

髭を弄りながら微笑むにゃん太、まさに紳士の鏡である

 

「さて、セララさんは〈九尾のくずのは〉と言うプレイヤーを知っていますかにゃ?」

「・・・すみません、知らないです」

「いえいえ、謝る事ではありませんにゃ。・・・今から6年前にいたプレイヤーなんですが、彼女は優秀な妖術師として有名でしたにゃ」

「凄い方なんですか?」

「えぇ、大規模戦闘でも先陣をきるほどの凄腕ですにゃ」

「・・・先陣?・・・前衛だったんですか!?」

 

セララの疑問当然なモノであった。本来、妖術師はセララの職業と同じく後方支援、よくて中距離で活躍する職業なのににゃん太は先陣と言ったのだ。つまり・・・

 

「そうですにゃ、彼女の戦闘スタイルは至近距離での魔法がメインでしたにゃ。。・・・、今で言う〈コンバットメイジ〉の属していましたにゃ。・・・しかし、6年前の〈エルダー・テイル〉にその様なビルドは無く。周囲から浮いた存在になってしまいましたにゃ」

「・・・・」

「彼女は孤立していき、誰も信じなくなっていきましたにゃ」

 

当然の結果であった。自分の好きな様に〈エルダー・テイル〉をプレイしているのに、周囲から異色の目で見られ続けたのだから・・・・

 

「・・・その人がくーさん、ですか?」

「はいにゃ、名前は四年前に〈改名イベント〉で変更したので〈九尾のくずのは〉と言う〈冒険者〉はいませんにゃ・・・私が彼女と出会ったのはその時ですにゃ。」

「・・・くーさんは誰にも認められなかったんですか!?今は、前線にでる妖術師や施療神官は少なからずはいるってギルドのみんなが教えてくれました!」

「時代の流れですかにゃ・・・今思えば〈コンバットメイジ〉の第一人者は彼女だったのかもしれないにゃ。ですが、時代が悪かったにゃ」

「そ、そんな・・・」

 

セララの目には涙が浮かび、彼女の受けた悲しみに強く心を打たれていた・・・

 

「誰にも認めて貰えないなんて・・・悲しいです」

「そうですね・・・・でも、彼女を認めてくれた方がいましたにゃ」

「え!?」

「私もお世話になった『集団』ですが・・・そこのマスターは彼女のスタイルを面白いと言って友好を深めましたにゃ。今は解散してしまいましたが『あの集団』の活躍もあり、彼女のスタイルは認められる様になりましたにゃ」

「そうですか・・・よかったです!」

「はいにゃ、私も〈ススキノ〉で再会した時、〈くずのは〉に戻っているのではにゃいか?と思いましたが一緒に生活していく中で彼女は『あの集団』に居た事と変わっていない事を嬉しく思い、口が滑ってしまいましたにゃ」

「に、にゃん太さん!?そんなに思いつめないでください!・・・くーさんの事、ありがとうございます!教えて頂いて!」

「いえいえ、老いぼれの昔話ですにゃ。・・・彼女のご機嫌をなおす為に『アップルパイ』を焼きましょう。セララさん?手伝ってくれますかにゃ?」

「はい!」

 

部屋を漂っていた重い雰囲気は既に晴れ、暖かい雰囲気が醸し出されていた・・・

2人は、彼女の好物を作る為にキッチンに向かうのであった。

 

NEXT 脱出

 

 




「くーち、もうしわけありませんにゃ。老人、昔話が好きな物で御詫びにアップルパイを焼き「アップルパイ!?」えぇ、よろしかったら食べて下さいにゃ」
「アップルパーイ!アップルパーイ!」
「セララさんも一緒に作った「アップルパーイ!アップルパーイ!」そうですにゃ、上手くやけていますにゃ」
「アップルパーイ!アップルパーイ!」
「そうですにゃ、でわ私はお茶を淹れますにゃ。」
「アップルパーイ!」
「おや、紅茶ですかにゃ?わかりました。セララさんは何にします?」
「わ、私も紅茶でお願いします・・・・『アップルパイ』だけで会話できるのはどうして?

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