ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~ 作:誤字脱字
ちょっち過激な表現あり
でも彼女ならやりそう……
声優設定してみました
浮かぶのが小清水さんか齋藤さんにかいないw
そのうち、声優ネタを書くかも
世界級魔法を語る上で知っておかなければならない350年前の動乱期に滅びたアルヴ系王国の姫君達である。
彼女らは世界に戦争を仕掛け、事をあろう事か世界級魔法を発動し、亜人間と呼ばれるゴブリンやオークと言ったモンスターを生む出した世界的に見れば悪名高い姫君である
しかし、その実態は優れた魔法技術を生み出すアルヴ種族に危機感を感じた他種族によって滅ぼされた罪も無き悲劇の姫君達である
種の『業』は他種族より上へ!他種より優越に!と繰り返されていく。そしてその手段として滅ぼされたアルヴ族は魔術の知識、続いて高性能な魔法の道具を押収され、更にはその容姿から世界の奴隷にされて、犯され、血を薄められた
その様な屈辱が、彼女達には許せず『復讐』を胸に刻み、人間やドワーフ、エルフなどに滅ぼされたアルヴ系の指導者となり、復讐戦争を企てたのであった
結果的には六人の姫君達は倒されたが、もし最初の段階で種族共々が和解と言う争いのない解決をしていたのならば悲劇の姫君達は産まれずに違った歴史を歩めたのかもしれないだろう
「秘密事項項目:世界級魔法と冒険者」著作者:くずのは
より抜粋……
「……世界を憎む六人の姫、わっちは好きでありんすぇ。しかし~」
『……以上がミナミを支配する〈Plant hwyaden〉の実態と構成だ』
彼女が見据える先にはアキバの町、〈大災害〉後初めての試みとなる天秤祭り、通称秋祭りがいままさに開催されようとしていた
「〈アキバ〉の中心たるギルド会館・円卓会議の間に姫君の像があるのは皮肉なもんでありんすな~?」
『……聞いているのか〈くずのは〉?』
賑わった町とは裏腹に今日のアキバの天気は崩れ模様、昨日と同じように静かな雨がギルド会館を濡らしていた。それはまさに―――
「大地の繁栄を恨む六傾姫の悔し涙、でありんしょうねぇ」
『俺はお前のオツムが悲しくて涙がでるぞ』
「うるさいでありんすよ?ちんどん屋」
人を呪わば穴二つ、皮肉な事に滅ばそうとしていた大地は今年一番の賑いを奏でていたのであった
ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~
はっ!?林檎飴がわっちを呼んでいる!
「「休み!?」」
「そうでありんす~、たまには尻尾を伸ばす事も大切でありんしょう」
ヤマトのハメハメハ大王こと彼女は昨日の様に雨に降られたくないと言う理由からルティ達の修行は中止になった。時間に遅れる、やる気によって修行内容が左右されるなど好き勝手やっていた彼女だが、以外にも面倒見がよく彼女の家出から今日まで休まずに修行を行っており、ルティ達にとっては久しぶりの一日休みとなったのだ
……決してその考えに裏はないと思いたい
当初、ルティ達も昨日の言葉から午後から町を周る予定をしていたが、午前中の予定が無くなった為、じっくりと町を眺めるのも一興と早々に支度をはじめ本拠地である古びたビルを足軽に出かけていったのであった
意気揚々に出かけていった二人を見送りながら彼女は果実酒を傾ける
ほんのりと頬を染めながらもボトルに入った残りの果実酒を呷った
「弟子達には悪いでありんすが……ちょっち調べてあげんしょうかね?わっち達の姫君の為に……」
飲み終わったボトルとグラスをその場に放置し彼女は足早に本拠地〈ログ・ホライズン〉を後にしたのであった
◆
この度の秋祭りは、生産者ギルド連絡会からスピンアウトしてきた企画であった。
生産者ギルド連絡会とは〈円卓会議〉の一部であり、下部組織であると云っても良い。
組織と言ってもフランクなもので、連絡会の本部はいつでも誰でもが出入りできる会議室兼、工房のような雰囲気になっている
こと〈円卓会議〉成立後、冒険者は生産系サブ職業にて、この異世界に新しいアイテムをもたらすことが出来るようになった事も今回の祭りを行う由来の一つになっているだろう
もともと〈エルダー・テイル〉には実装されていなかった様々なアイテムを、相応しい生産スキルと、手作りによって生み出せる事が判明し、そこには大きな創意工夫の余地があり、生産系ギルドのモチベーションは一気に加熱した結果、毎日のように何十というアイテムが「発明」されて、それらは街中で販売されるようにもなった。
その様な異世界にはない画期的な「発明」は各所々に生まれていき、その商品を求め他所から挙って訪れていた
そしてそのようなモノの一人者に拘るこのギルドも秋祭りに向けて着々と準備を進めていた
「こちらをカラシン様に届けてください、あぁ、それとクラスティ様には警備に人をもっと回してほしいとお伝え下さい」
〈アキバのスズラン〉ヘンリエッタ、彼女も来る秋祭りの為、工房にて木箱につめられたアイテムの積み卸しや、相談などを受けていた。自身の所属する〈三日月同盟〉での出し物があるに拘らず生産者ギルド連絡会の手伝いに借り出されるのは彼女の能力の高さを物語っていた
しかし、彼女だけで事を捌くのは難しく彼女と同じように数人の〈冒険者〉が工房の中を忙しなく動き回っていた
……多忙な工房の中、場違いな狐は突然と現れるのであった
「ヘンリ~♪」
「きゃぁ!?く、クー様!いきなり揉むのはやめてください!」
いきなり鷲掴みにされ声をあげてしまったが、こんな行為をする知人は一人しかいないと振り返る事もせずに淫行を働く狐に声をかけた
「うにゃ?どーしてわっちだとおわかりに?」
「……私はマリエと貴女の被害者です。いつもついでとばかりに揉まれていては流石にわかります。しかし、どうされたんですか? クー様が人が多くいる場所にでるなんて珍しいですわね」
そう言うヘンリエッタは、未だに揉み続けられているのに拘らず両腕に書類を一枚一枚確認しいく
「む~、反応無しはつまらないでありんす。慣れんしたか?」
「慣れません!それともう放してください」
ぷくっと頬を膨らませながら揉む手を止め、するりとヘンリエッタの顔が見えるようにと屈みながら彼女の目の前にいすわった。ヘンリエッタもいつもなら駄々を捏ねて中々、揉むのを止めない彼女が素直に止めたので少し驚きながらも彼女を見て気づいた。彼女の頬がほんのり赤みを帯びている事を……
「……酔っていらっしゃいますね?本当に珍しい、お飲みの際は決して外には出ないというのに」
「わっちかて出とうありんせん!でも林檎飴がわっちに助けを求めてありんしょう!」
何故か拳を握り締め涙からがら力説する彼女を見て察しがついたとばかりに手に持った資料から会場パンフレットを抜き取り、彼女に手渡した
「流石同じギルドに所属していますね、シロエ様もこれを貰いにきてましたよ?」
差し出された会場パンフレット目を通していた彼女は「シロエ」と言う名に反応し、ピクリと耳を動かした
「シロエェェ、もでありんすか?」
「えぇ、ギルドの仲間と出かけると言ってましたわ。そうそう!五十鈴ちゃんはどうしてますか?なんでもクー様が指示を―――」
先月〈ログ・ホライズン〉に移籍した五十鈴の事を聞きたいのか、あれよこれよと質問をするヘンリエッタの事など眼中にないとばかりに彼女はパンフレットを見つめ、そして指でパンフレットをなぞった
「……けーきばいきんぐはここでありんすか?」
「え?えぇ、クー様も参加されるのですか?」
「ふ~ん……」
ヘンリエッタの返事を聞くがいなか、彼女は出口へと足を向ける
「あら?もうお帰りに?」
「んにゃ~、わっちもウロウロ暴れるでありんす」
「暴れる?……ほどほどにしてくださいな」
「あ~い」
なんとも言い様のない不安感に煽られながらもヘンリエッタは彼女を見送ったのであった
◆
「なんてこった、全部持っていれた」
「今日はもうお終いだ……ありがたい!」
「ねぇ……私もあんな元気な子供がほしいわ」
「そうだね…でももう少し大人しい方がいいな」
突然と起きたアクシデント、初めての祭りという事で賑わっていたアキバ.の町に罵声が飛び交った
町の一角では馬車が脱輪し、ある店では食品全てが買い占められ、とある店では胸を揉まれたと苦情、しまいには祭りを楽しんでいたカップルの中に入り搔き回すだけ搔き回し逃げていった
犯人が一人であり、その人物も判明しているが彼女の突発的な行動の対処に町の警備を担当しているアイザックは頭を抱えていた
「あのアマァ……どこに行きやがった!」
「アイザックさん!町の北側、大通りで痴漢です!犯人は「言わなくていい!あの狐だろ!」…はい」
もう我慢が出来ないとばかりに愛用の武器
「……痴漢ですね。林檎関係の店の買占め4件、カップルのいちゃ…コホンッ!盛り上げ役12件、いまので痴漢が27件目ですか」
「言うんじゃねぇ!……頭が痛くなってくるぜ。ったく、クラスティと”腹ぐろ“には連絡はとれねぇのか!」
自身の副官である女性に声を張り上げて問い質すが、帰ってくる言葉は淀むばかり
「クラスティさんは宮殿の護衛で手が回せないと、シロエさんに関しては『任せた』と一言いって後は連絡が取れません」
「ヤロォ!丸投げかよ!自分の所のメンバーくらいしっかりと管理しとけよ!」
「……シロエさんから念話です。『彼女の手綱を握るのは不可能、頭が固い貴族達を相手にするより難しい』だ、そうです」
「”腹ぐろ“ぉぉぉ!」
アイザックが醸し出す雰囲気はまさに殺人鬼、フィールドで会ったのならば迷わず愛用の武器
「うにゃにゃにゃにゃ!」
「誰かあのクソ狐を捕まえろぉぉぉおぉぉお!」
アイザック達〈黒剣騎士団〉と〈ログ・ホライズン〉の問題児クーの壮絶な鬼ごっこは〈黒剣騎士団〉のメンバーを8割近くを導入しても収まらず、彼女が所々で問題を起こす為、警備が厳重になり彼女が起こした以外の問題にも早急に対処できたのは怪我の功名、悲しくも彼女の暴走が町の警備体制の強化を引き上げたのは皮肉なものであった
後日、その話を聞いたシロエは同じく朝食をアキバの町で古参にあたる和食定食屋〈一膳屋〉でとった際に、一品アイザックにおごってあげたとか……
◆
アキバの町の警備員VS問題児クーの鬼ごっこは日が暮れると共に終了した
結果は警備員の惨敗、いくら追い詰め様が突然と姿を眩ましたり、人混みの中に入ると見失う、被害は店の買占め・カップルの盛り立て役・痴漢を合わせて100件を超えた
しかし、町に被害と言う物は出ておらず店の買占めと言っても林檎関係だけで明日の祭りにか影響が出ない程度で売り上げに貢献し、カップルに関しては更に仲が良くなったとお礼を言いにくる者達まで現れたのだ。……実質、被害と言う被害は痴漢だけであるが被害者全員が口を揃えて頬を染めながら「良かった」、笑いながら「あのお狐様だからねぇ」と言って彼女の事を許していたので彼女の暴走は満足な結果に終わり、警備員達はぶつけ様のない苛立ちを夜祭にて発散させるのであった
そして、苛立ちを発散させるにはお酒は必須となり遠まわしに居酒屋の売り上げにも貢献していたのであった
――ここもそんな酒場のひとつ「リングイネ」。
天秤祭り初日の夜はこんな玄人好みの居酒屋兼食堂もかき入れ時にしていた
「うにゃ~…ご隠居、セラララこっちでありんす!」
「おやおや、待たせてしまいましたかにゃ?」
「『ら』が一つ多いですよ?……クーさんもう出来上がっていますね」
「そうですにゃ~」
がやがやと騒がしい店の奥まったあたり、テーブルを挟んで向かい合っているのは〈記録の地平線〉のご意見番、というか引率班長にゃん太と、〈三日月同盟〉の新人世話係兼、自分も新人のセララ、そして二人掛けの椅子を一人で座り込み昼の騒動の犯人であった
大して広くもない店は、溢れかえる程の客を詰め込んでごった返していた。もう10月になり、夜風が肌寒いほどだったが、暖房を入れていないはずの店の中は暑いほどだ。
飲食店はお祭りで各地の〈冒険者〉〈大地人〉が集まり、どこも盛況。味が自慢のこんな裏通りの店にも、多くの客で賑わっていた
味が自慢だけあり、酒が出される時間とも相まって、店内は品のない喧噪に満ちている。少女には些か刺激の強い店だったが、セララとしては大好きなにゃん太達と遅めのディナーが一緒に出来て満足だった。狭い店内だというのもあり、、隣同士で座るにゃん太とお互いの肩がぶつかる距離だと思えば、嬉しくてくすぐったい。そんなセララの様子を見て満足そうに彼女は果実酒を呷っていた。
「にゃ、にゃん太さんは、お疲れですか?」
「そんな事はないですにゃん」
彼女に悟られた事に気づいたのか些か無理がある振りになってしまったが、実際にゃん太は、今日は八面六臂の大活躍だった。〈三日月同盟〉は秋祭りにおいて幾つかの店舗を出すことになった。復活する〈軽食販売クレセントムーン〉もそうだし、そのほかに裁縫部門が実演販売を、鍛冶師達はネーム入りの武器販売を行なう。
〈三日月同盟〉は少人数ギルドで、それぞれの部門は多くても5人ほどでしかない。にゃん太は、その中でも調理部門の助っ人兼講師として協力してくれていたのだった。
「ご隠居も動かなくては廃れるだけでありんしょう、ビシビシと働かせた方がよいざんすぇ」
「ビシビシなんて!そ、そんな!」
「いえいえ、セララっち。吾が輩もビシビシと働いた方が楽しいですにゃ」
「そうですか……なら明日も頑張りましょうっ」
「そうですにゃー」
そうしてにゃん太と忙しい一日を過ごし、夜が明ければ明日は丸一日売り子をすると思えば、わくわくと気持ちが嬉しくなってしまうセララだった。
五十鈴が〈三日月同盟〉を辞めて〈記録の地平線〉に移籍を決めたとき、正直に云えば心が揺れなかったわけではない。ススキノで助けてもらったあの日から、セララはにゃん太のことが大好きだったのだ。それだけではない、掴みようのない世話の掛かる姉の様な存在である彼女にも救われた。この二人の存在がセララにとってともて大切で移籍を考える程であった
しかしセララは低中レベルのメンバーの中心的な世話役として、新人達の面倒を見る役目を〈三日月同盟〉の中で担っている。〈ハーメルン〉から引き上げてきたばかりの五十鈴とは違い、セララには、セララを頼りにしている仲間達がいるのだ。
そのことを申し訳なく思い、二人に謝ったことがある。
にゃん太は微笑んで「セララっちはとても偉い子ですにゃ」と云ってくれ、彼女は「わっちにはギルドなんてだだの家でありんす。不法侵入は任せんし」と八重歯を見せながら微笑んでくれた。大人で紳士のにゃん太はいつでも優しかった、最初はトゲトゲしかった彼女も段々と丸くなり優しく接してくれた。それ以降、もっと優しくなったような……真剣に向き合って声を掛けてくれるようになった気がする。だからセララとしては、今はこの位置で十分満足だ。
トマトで煮た魚介のスープはあっさりとしているのにコクがあり美味しかった。付け合わせの茹で野菜やオムレツも美味しい。二人と他愛もないことを話すのが楽しく、セララは幸せな気持ちで食事を進めることが出来たのだった。
そんな時、鋭い破砕音が響いて、店内のざわめきが一瞬で停止する。どうやら店員が食器を落としてしまったらしい。この店の名物であるトマトソースが飛び散って、石床の上に真っ赤な花のような幾何学模様を描いている。白磁の皿は砕けて床に散らばっているが、飲食店である以上、あり得ることだ。そんなどうと云うことのないトラブルに、ざわめきが戻りかけたとき、殴打音が再びそれを断ち切った。
テーブルの上に視線を戻しかけたセララがそちらを振り返ったとき見えたのは、倒れてゆく女性店員と、仁王立ちの男性だった。
「ふざけるなっ。このような染みをつけ、どうしてくれるっ」
男は居丈高に怒鳴り散らす。
セララはが素早くステータスを確認する。おそらくどちらも〈大地人〉だろう。メイン職業が〈冒険者〉のそれではない。まだ若い男の方は金のかかった衣服を身につけている。貴族らしいその男はいらついた口調で給仕の娘の不手際を責め立てると、給仕娘風情に弁償しきれる金額ではないのだと云い放った。
息をのまれたように静まりかえった店内の雰囲気に、男は気を良くしたらしい。さらに高圧的になって店を貶め始めた。いわく、狭い。汚い。騒がしく、品位の欠片もない。名店だと聞いてきてみれば期待はずれだ。やっと騒がしさだけはなくなったようだな、と。
セララはいやな気分になる。自分は楽しく食事をしていたのだ。料理だって美味しいし、確かにちょっと騒がしいけれど、そう云う雰囲気は嫌いな訳じゃない。そう云う店が好きな人が来ればいいのだ。他人の食事を邪魔するなんて、格好悪い。素直にそう思った。そして思うだけでは留まらない者もいる
「一夫多妻除去脚ッ!」
「~~~ッ!」
店内にぐにゃと何かが潰れる音だけが聞こえた
崩れ落ちる男、茫然とするセララを含めた女性店員、唾を飲み込みながら股間を押さえる男性〈冒険者〉と〈大地人〉、そして犯人である崩れ倒れた男を踏みつける彼女
――カオスだった
「だ、だ、誰だっ!? わたしを踏みつけるのはっ!!」
男のなんとか言葉にした激高により、時は動き始めた。それを合図に男とは別のテーブルで食事を取っていた護衛風の〈大地人〉戦士も腰を上げた。一触即発の空気に、店内にはぴりぴりした雰囲気が立ちこめ始めたが、彼女にとっては関係なかった
「わっちでありんす!」
さも当然とばかりに親指を自分に向ける彼女……いまだなお、男を踏み続けたままである
彼女は横目にで客に「ヒーラーはいんすか?」と尋ね、他の〈冒険者〉に女性店員を任せると踏み付ける足に更に力を込めた
「わっちの奥義を受けてまだ話せるぬしは立派でありんしょうな?でもぬしはわっちを怒らせた!」
「な、なにをグフッ!」
何かを話そうとした男に一蹴り、口を塞ぐと徐に胸ぐらを掴み持ち上げた。ピンと伸びた腕は男との身長差を失くし、足が宙に浮く。見守る人々はその光景に唖然とした。
華奢な身体をした女性が大の男を片手で持ち上げたのだから……〈冒険者〉と言う理由で片付けられないほどに……そして原因である彼女は更に男を追い詰める
「本来ならわっちも〈大地人〉同士の揉め事でありんすからお留守にしんす。」
「き、貴様〈冒険者〉か!?な、ならばなおさら関係ないではないか!」
彼女の言葉から〈冒険者〉とわかり、男は一瞬返答に詰まり、その表情に狼狽が走る。そう、ここはアキバの街なのだ。いくら〈大地人〉が増えてきたとは云え、街を行き交う人間の半数以上が、未だに〈冒険者〉である。
その事実を失念していたのか、男は恥ずかしさに表情を歪める。
「これは我ら〈大地人〉の身内のことだ。〈大地人〉は〈大地人〉同士の身分の差というものがある。口出ししないでもらおうっ。我らは〈冒険者〉と事を構え「だまりんしゃい!」ッ!」
男の言葉を遮り、さらに胸ぐらを掴む手に力を込めた
「どこぞのお人好しなら〈大地人〉の秩序、アキバの街の守るべき秩序といいんすが、そな事わっちには関係ありゃせん!今この場はわっちがルール!秩序でありんす!」
男を持ち上げながら、戸口の方へと歩き出す。大声を出して暴れようとした貴族風の男は、細身のしかも女性である彼女に、片腕一本で自分を悠々と引きずり回しているのを見ると酸素が無くなったかのように口をぱくぱくさせた。かかとを引きずられてゆく青年は、戸口まで来ると、何をされるのかわからないとばかりにうろたえ始めた
「だ、代金は払う!いや、倍払おう!あの平民にも謝る!だからここは穏便に収めようじゃないか!」
男の謝罪とも言えない言い訳に彼女は一瞬笑みを浮かべた。男も許して貰えたのかと引きつった笑みを浮かべたが、反転―――
「わっちとセラララの楽しい一時を壊したぬしは許さまじ!星になりんしゃい!」
槍投げの要用で加速をつけ、一気にフィールドに向かい男を投げ飛ばしたのであった
最初は茫然としていた男の護衛達も遠のいていく主の声が聞こえなくなると我に返り急ぎ足で消えていった方へ駆けていくのであった
「くーち」
「なんでありんすか、ご隠居?」
穏やかに云うにゃん太の言葉に、不機嫌そうに返す彼女
「にゃぁ」と指差す先には彼女の奇行に驚き飲む手が止まった客達、流石の彼女もこのまま食事に戻る事ができないと気づいたのか、気まずそうに尻尾が垂れた
そんな中、治療が終わったのか女性店員が此方に向かってきたのだ。咄嗟ににゃん太の後に隠れる彼女、怒られると思っているのだろう。しかし、店員から出た言葉は罵声ではなく感謝の言葉であった
顔を真っ赤にして感謝の言葉を言う店員に下っていた尻尾が徐々に逆立っていく
そして9本の尻尾が全て逆立った時―――
「うにゃにゃにゃ!今日はわっちの奢りでありんす!みな、飲んで騒ぐよろし!」
「「「う、うおぉぉぉぉぉお!!!」」」
彼女のテンションはMAXになった。
人見知りや人嫌いなど関係無しに。彼女も純粋な好意には弱いのであった
彼女の一言で居酒屋の中は、再び喧噪に満ちた温かい雰囲気が戻ってきていた。先ほどのちょっとしたトラブルは、みんなの心の中にも、疑念や不安感を残したかもしれないが、そんな事でへこたれる〈冒険者〉は居ない!
あの程度の騒ぎで不安がっていたら、異世界で暮らしていくことなど出来やしない。
アキバの〈冒険者〉はこの5ヶ月でずっと鍛えられているのだった。
NEXT きゅぴ~ん!見える!わっちにもみえるでありんすよ!
酒場にて1
「くーさん」
「うにゃ?なんでありんしょうか、セラララ」
「『ら』が一つ多いですよ?……ありがとうございます、私との時間を大切にしてくれて」
「……なんのことでありんしょうか?」
「くーさん、あの時『わっちとセラララの楽しい一時』と言っていましたよね?私嬉しかったです!」
「………」
「私、改めて思いました!くーさんもにゃん太さんも私にとって大切な人だって!だからありがとうございます!」
「~~~!!!林檎酒を持ってくるなんし!」
「おやおや、くーち照れてますにゃ?」
「うるさい!酌するなんし!」
酒場「リングイネ」売り上げ急上昇中
酒場にて2
「セラララ?セラララ!」
「……どうやら寝てしまったようですにゃ」
「うにゅ~、お久さの食事の席だと言んすのに」
「折角ですにゃ、大人の話でもしますかにゃ?」
「……」
「今日のくーちの行動、吾が輩には裏があるように思えましたにゃ」
「……」
「まるで何かの予行練習のような」
「……」
「くーちの事ですからセララっちを裏切らないとは思いますが、貴女の事を心配する人がいる事を忘れないでほしいですにゃ」
「……わかりんした」
静かに彼女は頷くのであった
彼女の成果
林檎専門店買い占める……12件
カップル盛り立て役 ……32組
痴漢行為 …74件
合計 …118件
アイザック …頭痛と胃痛がパネェ
彼女の財布
林檎の買占め …金貨6万(クレセントバーガーは革命前は金貨15枚)
酒場の支払い …金貨320枚(平均一人辺りの一食代は5枚)
酒場「リングイネ」…うはうは