ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~ 作:誤字脱字
そして話が進まない……
〈エターナルアイスの古宮廷〉
古アルヴ族が造った宮廷で、主人の存在しない巨大な建築物と言う名の城
現実世界の浜離宮周辺にあたり、〈自由都市同盟イースタル〉の領主達が年に1~2度、様々な政治上の会議等を行うために集まる。貴族として息子や娘のお披露目をしたり、馬上試合を行なったりしている
外壁の所々に古の魔法で造形された氷が見え、夜には淡く光り輝き神秘性を露わし、地下には夥しい量の魔導書で囲まれた書斎が存在している
アルヴ族の作った宮廷である為、謎に包まれている所が多くあり、現実世界のネズミ―ランドと違い、一般的な〈冒険者〉や〈大地人〉 はは入れなくなっている
滅ぼされた古アルヴ族は、自身の宮廷を裏切り者の種族に無断で使われて如何様に思うのであろうか?
そもそも、なぜアルヴ族は、この宮廷を永久に続く魔法を持って形と残し、後世に残したのか?
儚く途切れたアルヴ族の繁栄の為?自身の存在を残す為?………もしくは途轍もない災害を引き起こすトリガーとして残したのか?
……………その意思は解明されていない
「カマンベールチーズ・ゴーダチーズ・セカイチーズ」著作者:くずのは
より抜粋……
「もっちとはよぉ、書きんしたらよいざんすに……わっちとした事がシァの家を忘れていんした。しかし………」
彼女は、執筆していた手を休め上空から〈大地人〉の馬車を押している〈冒険者〉の一味に視線を落した。いや、視線を向けたのは、一味ではなく馬車の中にいるであろう人物ただ一人……
「ぬしは、いったい何者なんでしょうかね?」
「………」
彼女の呟きは、風と共に流されていったが、同行者だけの耳には届いた。しかし、彼女の問に答える事は出来ずに同じ様に馬車へと視線を落すのであった
ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~
ブラリ!途中下車の旅。inえるだ~・ている
コユルギの町は、ボクスルトの東側に位置し、二股になった河が形作る広い三角州に存在する町で、水に運ばれた肥沃な土と河の守りが形作るその洲には、パッチワークのように美しい畑に囲まれていた
現実世界では神奈川県鎌倉市にある小動岬周辺と言った所だろうか?
この辺りは現実世界と同じく観光地として有名なせいか、宿屋はサザンの町の様な酒場を兼任した宿屋などではなくコテージのように独立した宿が大半を締めていた
サザンの町では同じ宿に泊まった為、迂闊に騒ぐ事も出来なかった彼女は、これ幸いとばかりにコテージ内で旅に出て何回目になるか謎だが林檎を円状に置き、自身は円の中心で踊り騒ぐと言った奇妙な儀式をやり始めたのだ
初めの頃は、にゃん太も彼女の奇妙な儀式に新鮮味を感じ眺めて楽しんでいたが、これが宿泊する場所々で毎回行われては、見飽きてしまい、これ以上行われては彼女の女の威厳に関わると察し、荷物を置き無理やり手を引いてトウヤ達の後をつけていった
その際に「いやいやあっぷるん!いやいやあっぷるん!」とトウヤ達に気づかれぬ様に、しかし大声で発する彼女に頭を抱える事になったのは別の話だ
そんなこんなで、気付かれぬように後を付けた二匹は、助けた〈大地人〉の事も考慮し早めの夕食を取る一行に合わせ、夕食を取る為に椅子に腰を下ろした
テーブルの場所で言うと調度、彼らから死角になる場所で此方に気づかれぬ場所を選択し、彼らの様子を窺った
ソファに座り、新たな旅仲間と言葉を交わし交流を深めているトウヤ達を眺めるだけでも旅立つ若者の姿が見て取れて親心が刺激されるにゃん太であったが、店員が彼らに料理を運んで来たのを境に、もう一人の同行人が騒ぎ始めたのだ
「ご隠居!トーヤン達のまんまがうま~でありんす!」
若者の成長を喜んでいたのも束の間、このまま若者達を愛でても良いが、この同行人を無視すると後々、面倒になる事は目に見えているので、彼女の疑問に答えるべくトウヤ達に給仕している男性のトレーを盗み見た
メニューは豪華な目玉焼き丼で、どんぶりからソーセージやトマトがはみ出している。最下部はおそらく白米で、一番上には二連の目玉焼きが乗っているという塩梅のモノ
「この宿の名物なのですかにゃ?…見た目的には『モコモコ』に似ていますにゃ~」
「すみんせん!あの丼をくりゃさんせ!」
辺りを見渡せば、どこのテーブルにも提供され、この店の定番メニューなのだろうと思考したと同時に料理が頼んだ運ばれてきた。定番メニューで作り置きされているのか、はたまた料理人の腕が良いのかは謎な程の提供スピードであるが、立ち上がる湯気が後者だと感じ、微笑みながらにゃん太は、腰のポーチからいくつかの調味料を取り出した
「吾輩は、おろしポン酢ですにゃ」
「猫がポン酢とは可笑しいでありんすね?」
「味覚は人ですにゃ~。くーちはどれにしますかにゃ?」
ポーチからポン酢を始め、醤油やケチャップ、マヨネーズなどの定番からマイナーな調味料まで取り出すにゃん太は料理人の鏡とも言えるだろう
しかし彼女は、にゃん太が出した調味料などには目もくれずに尻尾の中から一つの調味料を取り出し、 丼の上にこれほどまでもか!と乗せた後、丼全体が白くなる程までマヨネーズをかけ、その後にマヨネーズで白くなった丼が赤く染まるまでケチャップをかけまくったのだ
「……くーち、最初に乗せた調味料はなんですかにゃ?」
マヨネーズとケチャップは些か掛け過ぎだと思うが、人の好みがあるので、黙認しても料理人として彼女が最初に乗せた調味料が気になったのだが―――
「りんごの擦り潰しでありんす」
まったく予想を裏切らない答えであった
逆にマヨネーズとケチャップの味が強すぎて林檎の風味が消えてしまうのではないかと思う
しかし、彼女は赤く染まった丼の上に更に林檎を磨り潰したモノを乗せたのだ
「……くーち、何をしていますにゃ?」
「こりゃ~、マヨとケチャップをリンゴで挟みんした。最初はケチャップだけでありんしたが、セラララがマヨもイケると言っていんしたので挟んでみとおしたが、、とて美味でざんす……あげんせんよ?」
「……吾輩には少し重いですにゃ」
見た目通り、磨り潰した林檎にケチャップとマヨネーズが絡み付き何とも言えない、色とボリュームが出来上がってしまっているが、オーロラソースの改良版だと無理やり自身を納得させにゃん太は、丼に手を付け始めた
食材と職人に感謝しながらも、自身が同じモノを作る際にはどのように手を加えるかを吟味しながらゆっくりと箸を進めていく
肉物が多く乗っていたので、さっぱりと頂けるおろしポン酢を選択したが、下地自体に下味が付いていたので、何もかけずに食べるのも一興、また半熟の目玉焼きから垂れる黄身が白米と絡みまろやかな味となって口に残った油っ気を取り除いてくれる
シンプルそうに見えて考えられた味付けににゃん太は、自然と笑みを浮かべた
にゃん太が、このB級グルメとも言える丼を堪能している前で彼女も異妙な盛り付けとなった丼を堪能していた
マヨネーズのコクとケチャップの酸味、そして林檎の甘みが口いっぱいに広がり、舌から離れないヌチョヌチョとした舌触り、時たま林檎の果実が舌を刺激してくるが、それがまた口に違和感を与えてくる。
某スーパーの御曹司であり、『自来也』をもう一人の自分とする彼が食べたのなら取りあえず、『所々、ジャリジャリしてブヨブヨしている今までの食べ物にない、まったくの新食感』と言うだろう
四層になっている調味料を断層ごとに楽しむのも良し、グチャグチャに混ぜて一緒に楽しむのも良し!……結果は同じなのでどうするかは彼女の気まぐれなのだが、折角のB級グルメが舌を刺激する
………しかし、彼女は満足そうに異妙なソースを頬張り笑みを浮かべたのであった
彼女らの周辺に座る客をドン引きさせた彼女の食事は、にゃん太より速く終わった
もとより食の細い彼女は、完食することなく
テーブルに運ばれるなり、グラスいっぱいに林檎酒を注ぎズズズと音をたてながら啜る彼女の姿を見て、食事の件も含め女の威厳は既にゲシュタルト崩壊した
「くーち、お行儀が悪いですにゃ」
「知りんせんもん、どう飲もうがわっちの勝手でありんす」
そんな彼女と行動を共にするにゃん太に送られる同情に似た視線などお構い無しに、なおも辞めずに啜っていく彼女であったが、周辺で情報交換をしているであろう職人や商人達の声に動きが止まり、ピクピクと耳を盛んに動かし始めた
「どうかしましたかにゃ?」
耳を忙しなく動かす彼女の行動が気になり声をかけると彼女はゆっくりとした口調で話し始めた
「ここより西へ進むとボクスルトと呼ばれる山地に入りんす。綺麗な湖があるし、関税で栄えた貴族が治めてありんすんでありんしょうが 、そのボクスルト山地でモンスターの活動が活発になってありんすといわす話らしいでありんすぇ」
「そうですかにゃ」
自身も食事を終え、ナプキンで口を拭きながらも彼女の言葉に考えを巡らせた
「おおむね、山中で勢力争いが起き活動範囲がずれている、と言った所でしょうかにゃ?」
思い出すのは、先程見たトウヤ達の戦闘、本来なら生息していない筈のモンスターが、街道に降りて来ている現象、職人や商人達の話を考慮すれば、自身の推測が正しかった事が証明された事になった
「
先の件の原因がわかった今、トウヤ達の障害には成り得ないが、ここに住まう〈大地人〉には死活問題。少年組を助けるのではなく、この町の人々の手助けをしようと提案しようとした矢先………彼女の雰囲気が変わった
周囲を見渡せば先程まで送られていた『あぁ、残念な女だ』と言う視線は消え、『視線を送ってはいけないが、気になる女性』と言った雰囲気が辺りから溢れ出して来ていたのだ
周囲からして見れば彼女の急変に戸惑いを隠せない状況だそうが、付き合いの長いにゃん太は、彼女が出て来たのだと瞬時に察し、手を顎に寄せた
「常識的に考えれば妥協点ね。でも
「
周りからの視線が途切れない今、直接的な名称を避ける〈くずのは〉の意図を読んだにゃん太も〈くずのは〉に合わせ
「生物の生態系が崩れる要因は、外来種による生態系の破壊が多いわ。その他にも人間が地域開発を進め、彼らの住処を奪ってしまったなど、自然界において自然的に勢力争いが起きる事はほぼ無い」
「今回の件に
「そうね。でも
得体の知れない丼をテーブルの片隅に移し、自前の筆を取り出した彼女はテーブルに書き込んでいく。……間違っても食堂の備品にして良い行動ではないが、誰も咎める事が出来なかった
筆を進めるに日本地図しいてはヤマトサーバーの地図を書き現すと
「
ボルスルト山地に新たな街を作る訳でもなく、貴重な鉱石が発掘される訳でも無い。
開拓以外に理由があるとすれば何であろうか?
西の行動が判らず、首を傾げるにゃん太を尻目に〈くずのは〉は、ボクスルト山地全体に丸く円を書き現した
「
「……まさかと思いますがにゃ」
「私もそうでなくて欲しいモノだわ。まぁ、そこら辺はシロエが考えているでしょう。私達はシロエの負担を減らす為にも子守りに専念しましょう」
彼女は、テーブルに掛れた落書きに軽く手を振り、元のテーブルに戻すとタメ息をつき林檎酒を煽った
その様子をにゃん太は、先程までのしかめっ面とはうって変わって満面の笑みを浮かべて見つめていた
去年の冬を境に〈くずのは〉は変わった。いや、戻ったと言った方が正しいだろう
以前と変わらず毒を吐き、他人に厳しく自身の安泰を第一に考えているのは変わっていないが、その思いの中に『他人に手を貸す』事を多少なりとも考慮するようになったのだ。
それはまるで……〈茶会〉にいた時、いやカナミと行動を共にしていた時の様な温かみを感じたのだ
にゃん太が彼女に変化に嬉しく笑みを浮かべていたのも束の間、〈くずのは〉が店員を呼び止め、新たにフルーツの盛り合わせを注文した事に表情を変えた
「まだ食べますかにゃ?」
「……口の中が気持ち悪いのよ。良くもあんなゲテモノを食べてくれたわね」
「ごもっともですにゃ~」
自業自得、とは違うが
◆
「ふぅ……やはり風呂は良いモノだ」
〈魔法の灯り〉が照らす岩風呂に黒髪の女性が手足をゆったりと伸ばしながら温泉を堪能していた
5人は、余裕で浸かれるほど大きな浴槽一杯に足を伸ばす彼女の行為は温泉のマナーとしてはあまり宜しくはない行動だが、今現在の状況……『貸切』の状態ならば話は変わってくる
数分前までは、妹諸君と恋の話や地球話、住んでいた街の話など彼女にとって興味深い話をしていたのだが、長時間の入浴に3人はのぼせてしまい、彼女より先に上がっていったのだ
とくべつ風呂好きと言う訳でも無かった彼女も妹諸君と一緒にあがる事を考えていたのだが、夜空に浮かぶ月があまりにも綺麗でもう少し入っていると妹諸君に伝え入浴を続ける事のしたのだ
夜の闇の中に濛々たる湯気と闇を祓うかのように光り輝く月を眺めながら、事なし気に妹弟を作った彼女は、頼られる事も案外悪くはないと今まで感じる事の無かった感情に満足していた
ふと、ガラガラと戸を開ける音と共に〈魔法の灯り〉が『貸切』状態の岩風呂に差し込んできたので『貸切』は終わりだと伸ばしていた足を適度に戻し、新たな来客者を待ち構えた
新しく入ってきた入浴者は、綺麗な九本の尻尾を揺らす一人の女性
可憐と言うより綺麗と言う言葉が当て嵌まる顔立ちに『巨』が付く程大きな乳、適度に肉が付いているが決して必要以上必要以下に留めた肉体美。
〈魔法の灯り〉から推測しても外見から見ても彼女が〈冒険者〉である事は直ぐに判断できた
彼女は、此方を一目見た後、身体を軽く洗い流し、まだスペースがあると言うのにロエ2の隣へと入浴してきたのだ
「失礼するわ」
「構わないよ」
声色からするに彼女は話し相手が欲しいようだ
此方としても、ただ湯船に浸かっているよりも話しながら浸かっていた方が、温泉と言うモノを十分に楽しめると思ったので拒む必要はないだろう
案の上、手や腕にお湯を掛けていた彼女は、此方を横目に見ながら話しかけてきた
「貴女は、目的があって町へ?」
「目的、か……『どこへ居ずれてココにいずる』と言った所かな?君は?」
「私は子守りよ」
隣に腰を下ろしたご婦人に気軽に声を掛けながらも旅の中の出会いも中々に乙なモノだと更に言葉を重ねる
「驚いた。子供がいる様に見えないね」
「なにも血の繋がりだけを言っている訳ではないわ。『情』を置くモノを家族として考える。『情在りは心の家と化す』と言った所かしら?」
「それは常識に囚われない、素晴らしい考えだ。君は、その子供たちを大切にしているのだね」
自分の答えに似せて答えを返すご婦人に更に好感度が上昇している気がするが、彼女が再び口を開いた瞬間、それが錯覚だった事をする事を知る羽目となった
「そうよ、大切なの……だから、あの子達に害がある存在は排除する。そうでしょ、
先程までの雰囲気は何処へ行ったのか、ロエ2は表情に出さないが内心、得体の知れない寒気を生み出す彼女に恐怖の念を抱いた
「……何の事かな?」
「ロエ2はシロエのセカンドキャラ。シロエはセカンドキャラをテストサーバーに置いたと言っていた。テストサーバーは月にあるとされている。そして貴女はオオウいえ、もっと遠くへ居たと言っていたわね?」
「……」
「そこがテストサーバー……月だとしたら貴女は何者なのかしら?」
鋭く自分を睨み付ける彼女はいつでも動き出せるように、拳に異常な程の力を込め溜めている
込められた力は異常な程濃く、一撃で私の命を狩り取る事が出来る程の力が感じられた
しかし、彼女の話は過程であり、事実と言う訳ではない
………まだシラを切れるか?
「いや~、推測だけでここまで言われるとは思いもしなかったよ」
「リ=ガンが提唱していた〈魂魄理論〉、中国サーバーで現れた謎の新種、そして現象。それらが全てテストサーバーにあった実働前の〈ノウアスフィアの開墾〉の追加パッケージ……決定的なのはシロエのセカンドキャラである貴女がここにいる。それだけで仮説はいくらでも建てられるわ」
「でもそれは仮説の域を出ない、としたら私は在らぬ疑いを掛けられている事になる」
「それがどうしたというの?私は私の考えが正しいと思うのであればそれが仮説だろうが偽りだろうか関係ない。全ては私が思う通り……だからここで貴女の命を絶っても何も思わないわ」
彼女の拳が私の腹部に添えられた………もう無理
「いやはや、やはり
「肉体に記録されているシロエの記憶も読み取れるのね?」
「あー…うん、君には迂闊に話す事も出来ないな。私達は
一応、いやある程度までは信用してもらったのか拳は放されたが込められた力は未だに溜まり続けたままだ
「達、ね。貴女の様な月からの訪問者が他にもいる。でも貴方の様にテストサーバーに置かれたセカンドキャラを媒介に此方に進出してくるには数に限りがある……中国サーバーでNPCのデータを上書する現象があったわ。……貴女は、あの犯人の一員なのかしら?」
「ふふふ!それはどう、はい!すみません調子乗りました。中国サーバーの事はわからないが、多分同じく月にいた
「ジーニアス……随分と大層な名前なのね?」
「あぁ、君たちの言葉だと〈天才〉とか〈守護者〉だっけ?…生憎と彼らは採取する者だよ」
「
「うん、私は
「
「恐いな?でも私は、彼らや勿論、君の邪魔はしないよ」
「……………その言葉を胸に刻みなさい」
今度こそ、拳から力が消えていった
此方からとして見れば少ない情報で真実に近い所まで推測できる彼女を恐ろしく思うけど、まだ確信には至っていないようだ
別に隠すつもりはないけど、彼女との会話には言葉を選ばなくてはいけないな
「やっと一息つけるよ。それで、君の名前を聞いてもいいかな?」
「……〈冒険者〉の身体を媒介にしても〈冒険者〉としての力を十全には使用できないのね?」
うわぁ、藪蛇!?
「ははは……うん、出来れば名前を教えて欲しい」
「……〈クー〉よ」
偽名、と言う訳ではないようだけど本名としては何か軽い感じがする
そもそも未だに警戒が解けない彼女が素直に自分の名前を伝えるだろうか?
……もう少し情報が欲しいところだな
「〈クー〉さん、か……それで私に接触してきたのはなぜかな?」
「言ったじゃない。子守りだと……トリ頭ね」
トリ頭?
あぁ…鶏は三歩、歩いたら話の内容を忘れるってやつだね!
「子守り…妹弟諸君の引率?それの割には距離を取っていたかに見えるけど?」
「気づいていたのね……猫が影ながらと口うるさく言うからよ」
「あぁ、あの猫人族か」
妹弟諸君は気付いていないようだったけど、私が合流してからずっと妹弟諸君には気づかれないように後をつけていたから気にはとめていたけど、保護者だったとは思わなかったよ
私としては、聞きたい事も聴けたし、妹弟諸君から離れろとも言われていないからある程度は、任せて貰えたと思って良いだろう
妹弟諸君の事も含め、もう少し彼女の質問に答えるのもいいだろうな
「それで他に聞きたい事はないかな?」
「ないわ」
「ッ!……へ~ほ~なるほど」
「気に喰わないわね……殺すわよ」
情報の塊と言ってもいい私を前に何も聞く事は無いと言い切る彼女は凄いけど、ちょっとした失言で殺気立つ彼女はもっと凄いな!
現に異常な力を込めた拳を、また腹部に当てられてしまっているよ!
「いやいやいや、月から来た私に色々と聞くのかと思っていたからね?
「………次はないわよ」
うん、言葉の通りだ。拳は離れたけど、魔力が散っていない
次に失言したら確実に腹パァン!されるね?
「うん、気を付けるよ。……でも君は〈冒険者〉だよね?なら〈冒険者〉全体に関わる大切な「だから私に関係ある事かしら?」……記録では知っていたけど、会って見るとそれ以上におもしろいな、君は……」
「周りの評価なんて糞くらいだわ。……私は私の周りが平和ならそれでいいの」
すなわち……
実際に対面し話して見れば何故、
自分の利に合う事にしか興味がなく、でも根源には他人を思いやる心が根付いている。とても優しい心の持ち主だと………まぁ、根源に辿り着くまでは難関なラビリンスを潜り抜けて更には強靭な怪物を倒さなければ辿り着けないけどね
妹弟諸君とは違う、彼女の人間味は実に面白く、私の好奇心や知識欲を刺激して止まないけど……もう限界―――――
「そろそろ上がらないか?流石に逆上せてきた」
妹諸君との入浴時間に一人での入浴時間、更には彼女との入浴時間。特に彼女との時間は頭をフルに回転させながらの入浴だったから流石に頭に熱が籠ってしまうよ
温泉と思考の熱にやられて、この身体は限界に近づいている為、彼女との会話を打ち切り上がる事を提案した
「あら?お風呂は心の洗濯だと言うのに……まぁいいわ、一旦休みましょう」
提案を飲んでくれた彼女と伴って脱衣所へ向かい、身体に付いた水気をタオルで引き取る
春先、それも日も落ちていると言う事もあって涼しげな風が体温を下げてくれて実に気持ち良い
彼女も涼しげな風に身をゆだね、脱衣所に備えられているベンチに腰を下ろし何処から取り出したのかグラスに赤い液体を注ぎ口にしていた
……女性同士であるから特に問題はないけど、身に何も着けずに、いや隠そうともせずに堂々と見せ付けるかのようにしている彼女の生き方には私をしても是非真似てみたいものだ
彼女の口元から一筋の赤い雫が垂れ流れていき、大きな胸の谷間をスッと流れ落ちていく………実に良い!
「……何かしら?」
些か彼女の事を観察し過ぎた様で、怪しむような視線と共に声を掛けて来た
素直に『君の淫猥な雰囲気を堪能していた!』と口にしても良いのだが、グラスを持った手の反対の手には、紫色の炎が揺らいでいる事を考察するに事実を答えると私の命が消える
だからと言って下手な嘘をついても彼女には直ぐにばれてしまうだろう
……ここは、真実を交えた嘘が一番効果的だと私は判断する!
「私もある方だけど君もけっこうあるね?」
「……雄は、雌を作る時、自分の理想を形にすると聞いたわ。シロエは……巨乳が好きなのかしらね?」
自分の胸を持ち上げながら自然に女子特有の会話に口にした私は、正解を選択したようだ!
「巨乳好き?でもミノリやアカツキは……」と口にしている彼女に見えないようにガッツポーズをしながら籠に入れた衣類に手を伸ばそうとして……手を引いた
空をきる手でストレージから私には必要なく出宝の持ち腐れとなったモノを取り出し、彼女の元へと差し出す
「………何のつもりかしら?」
まだ短時間だが、彼女と接してみてわかった事だが、彼女は『施し』や『情け』を嫌う傾向がある
案の上、鋭い視線と共に手に宿った紫炎が私へと向けられた
……でも『施し』や『情け』ではなく、純粋な好意としてだと彼女は受け取るだろう……たぶん
「君にコレを譲ろうと思ってね?友好の意を込めて!」
「友好、ね…貰えるモノは貰っておくわ。ッ!これは……」
私の気持ちが伝わったのか定かではないが、差し出された衣服を紫炎を消した手で受け取った彼女は、驚きの言葉と共に眼を細め私を睨み付けて来た
「月にあったモノさ。」
「新たな力は、新たな争いの火種になるわ」
「でも事を成すには力は必要だ。それに……君なら上手く使える。そうだろ?」
私の云い様にタメ息を付きながら受け取った衣服をストレージに仕舞い、空いた手で尻尾を弄り紫色の水晶を取り出して私に投げ渡してきた
「これは?」
「私と連絡を取りたいのであれば使いなさい。貴女の対価と私と友好を結ぼうとする対価……調度折り合いがつくわ」
「はは、ありがたく貰っておくよ」
未導入の装備と彼女との友好……自意識過剰とも云えるレートだと笑うモノはいるだろうが、私として見れば今後何を仕出かすか理解が及ばない彼女と友好を結べるのであれば安い対価だと思うね
さも当然とばかりにグラスに残った液体を煽った彼女は、背負丸めながら再び岩風呂へと足を向けて歩きはじ……あれ?
「ちょ、ちょっと待ってくれないかな?尻尾が私の腕を掴んでいるんだが?」
ふさふさとして肌触りが良いのは、重々わかったが彼女らしからぬ行動に驚きを露わにし――――
「湯冷めしんした……ぬしも付き合ってぇなぁ?」
「ッ!はは…お手柔らかに」
「わっち、林檎風呂を作りんす!わっちの
雰囲気だけでなく存在そのものが入れ替わった彼女に、好奇心を刺激されるのであった
「ロエ2さん、随分長湯でしたね?」
「あぁ、弟妹諸君の後に入ってきた御仁と意気投合してついつい話し込んでしまったよ!時に妹諸君!」
「はい」
「君のパンツをくれないか?」
「ふぁ!?」
「御仁曰く『真の姉とは妹のパンツを被るモノだ!』らしい。私も妹たちの真の姉となるべくパンツを被りたいのだ」
「流石にパンツはねぇぜ、ロエ2姉ちゃん…」
ロエ2から3歩ほど身を引いた女性陣を彼女達の間で見ていたトウヤであったが、ぐるりっとズレた眼鏡を治しながら此方に顔を向けたロエ2の顔を見てトウヤに戦慄が走った
「ふっ、御仁曰く『姉妹萌えだけだと思ったか?残念!弟萌えもここにはいる!』と言っていた!……とういう事だ、弟諸君!パンツを姉である私に渡すのだ!」
「ふぁ!?」
この後、めっちゃ妹弟諸君に怒られた
「ご機嫌ですにゃ、くーち?」
「あい、パンツ信者を増やしてきんした。」
この後、にゃん太にめっちゃ怒られた
「理不尽でありんす!」
NEXT 狐を使う猫
キリが悪くて10000文字オーバー
最後はいらなかったかなぁ?