ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~   作:誤字脱字

61 / 62
クーさんの年齢が判るかもよ!

話自体はさほど進んではいません
ただこの話は規定に引っ掛かる可能性がありますので書き直す確率は高いのでご了承ください

本当にすみません


『5』d of a f『0』x is me

『GO』d of a f『0』x is me

 

『痛かったら手を挙げて……あげさせねぇよ!』パート1

 

これは私が友人『酔い狐』から聞いた話だ

彼女の勤務先は某歯医者であり、美人が多く勤めているともっぱらの噂であり、私に話を語る『酔い狐』も……まぁ、美人に入る女性だ

 

そんな美人ばかりが働く歯医者ならば、美女目当てで訪れる男性利用客は多く、美人であるが為に問題も多く引き起こってしまっている

連絡先を聞いてくる、食事に誘われる、胸を見つめてくる等といった行為が少なからず発生しており、時には直接的なセクハラまで行う男性利用者も出て来たのだ

 

見るや誘われるぐらいなら彼女達も笑顔で流せたであろうが、接触してくるのは予想外だったらしく、運悪く被害に遭った新人の歯科助手は休憩室で涙を浮かべていたそうだ

 

彼女の涙を見て『酔い狐』は憤怒し、セクハラをした利用者に復讐する事に決めたのだ

この活動はセクハラ利用者に対する院長をも巻き込んだ歯科助手による復讐劇へとなったのであった

 

『痛かったら手を挙げて……あげさせねぇよ!』パート2へ続く

 

「世にも奇妙なお話し」著作者:くずのは

より抜粋……

 

「………わっちも歯医者だけは敵に回すのはよしんしょう」

 

歯医者に嫌な思い出もあるのか、頬に手を当てて顔を歪めた彼女は、懐から水晶を取り出し、鏡と同じ様に反射で自身の歯を確認し始めた

 

「永久歯は生え揃ったばかり、虫歯はないと思いんすが油断しんすよう心掛けんといけんすなぁ~?……おや?」

 

一通り虫歯のチャックを終えた彼女は、水晶から林檎へと持ち返るが、水晶から漏れる話の内容が彼女の視線を水晶に釘づけにし、瞬きも許さないとばかりに彼らの話を集中して聴き入ってしまう

 

「疫病、醜聞、度量、結婚、そして死霊占い。『昼に照らされた夜』に記されし84柱の厄災達の出現は『ノウアスフィアの開墾』が齎したモノなのか、それとも『大災害』が齎したモノなのか……知るのは神のみが知る、でありんすか?」

 

彼女の問に答えられるものはいない

なぜならば、彼女の問に答えられるのはここにはいない第三者であり、この災害を起こした張本人なのだから

 

「……もしかしたら『厄災』も『大災害』の被害者なのかも知れんせんな?」

 

被害者たちは事件の真相を追い求める事しか出来ない

だが、災害の存在は真実に近づくための道標になる事は変わることのない事実だと今の彼らは信じているのだ

 

「……信じれば報われるとは思いんせんが、一筋の希望に掛けたいと思うのは皆同じでありんすね」

 

真相へ辿り着こうと先頭でがむしゃらに走る青年に彼女は、『笑み』というエールを送ったのち、全力で芯だけになった林檎のゴミを彼らの部屋に投げ入れ、またもや全力で逃亡したのであった

 

すぐさま『西風の旅団』のホームから彼女に対する罵声が飛び交うのだが、逃亡を計った彼女は真相を知らない

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

わっちはやれば出来る子である。

    ∩∩

   (´・ω・)

   _| ⊃/(___

 / └-(____/

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 やる気はまだない

 

   ⊂⌒/ヽ-、__

 /⊂_/____ /

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

「シロエェェは山へ芝刈りにシロエェェは川で洗濯をしておりんす」

「いきなりなんですかにゃ?」

 

〈記録の地平線〉のギルドハウスの二階、キッチンには、色取り取りの野菜が並べられていた。その中でも今日のメインとも云える食材スナックエンドウはザルに山のように積まれている

そんなキッチンの中には、台所の主であるにゃん太とつまみ食い兼味見役の彼女が、待ち人が来るまでの時間つぶしにと言葉を交わしていた

 

「うにゃ~、シロエェェが尻尾を抱えもだえ苦しんでいる姿が浮かんだでありんす」

「頭、ですにゃ。……あぁ、シロエっちは今頃、円卓会議に出席している筈ですにゃ」

 

寝起きでだから、また身も内容もない言葉を発しているのであろうと思っていたにゃん太は『シロエ』と言う言葉から彼女が何を言いたいのかすぐさま理解した

ギルドを立ち上げた頃に比べ人数が増えた

 

「確かアインスっちの提案……情報公開と再分配についてでしたかにゃあ?確かにこの案件は冒険者の格差をなくしますにゃ、でも逆に冒険者のやる気を下げかねない案件だと思いますが、今はそれを決める時期ではにゃいとシロエっちが口にしていましたにゃ?」

「……先刻、わっちが忠告しとうのに忘れておりんすね」

 

不機嫌を顔を表しながらもスナックエンドウを手に持ち口にした彼女は、なんも加工も下処理もしていないスナックエンドウに更に顔を歪めながら口を開く

 

「にがぁ……ご隠居。西に合って東にないモノって判りんすか?」

「……円卓会議に無くて十席会議にあるものですかにゃ?………にゃるほど」

 

苦いと判っていながらもスナックエンドウを次々へと口の中に運ぶ彼女の手からスナックエンドウを取り上げたにゃん太は少しばかり考えたのち答えが見つかったと顎に手を当てながら頷いた

 

「彼が居なくなって尚更、明るみに出てしまったところですにゃ?ですが、彼不在の中それを決めるにゃは些かシロエっちには荷が重いですにゃ」

「でありんしょうとて、現状維持も出来んせん。そのうち爆発するでありんす……それを判っていながらシロエに進言しないご隠居も罪なお人でありんすね?」

「………」

 

彼女の言葉に今度はにゃん太が顔を歪めてしまった

確かにこのままでは何れ大きな問題として爆発するかもしれない事だが、にゃん太はシロエに告げるのを戸惑っていた

年長者として未来ある若者を手助けする事には何も抵抗はない、むしろ進んで彼らが躓かないように手を出したい。だけど、にゃん太は戸惑っているのだ

 

「…………吾輩の一言でシロエっちにまた負担が掛ってしまいますにゃ」

 

そう言うにゃん太の顏には悲観な思いが込められていた

思い出すのは3月にあったロンダークとの一件。それ以降、にゃん太は若者が前へ進む事の難しさ、理想を求める事の困難さを痛く痛感していたのだ

だからこそ、この事をシロエに伝えてしまえば、積もり積もった『責任』で押し潰され前へ進めなくなってしまうのではないかと恐れやりきれない痛みを覚えたのだ

 

一方、彼女はにゃん太の想いも聞いてもなお、態度を変える事無く、むしろ呆れるようににゃん太を見つめていた

 

「うにゃ~…理想を抱いて溺死しろ!と云えるのは中学まで、ご隠居は少しばかり視野がせまくなりんしたか?老眼?」

「それはどういう「こんにちは―!」……この話はまた今度ですにゃ」

 

彼女が何を伝えて来ているのか問い質す前に待ち人が〈記憶の地平線〉の門を叩いた

幼くもしっかりとした声の持ち主、ここのところ足しげくギルドハウスに通いつめている〈三日月同盟〉の少女、セララが到着したのであった

 

 

 

 

「できましたー!」

「これはきれいですにゃあ」

「まるで青りんごみたいでありんす!」

 

キッチンから聞こえる声は3つ

キッチンの主であるにゃん太はもちろん、誰に頼まれたでもないが、料理の勉強と称してにゃん太の手伝いを続けているセララ。そして、彼らの作る料理のおこぼれを狙う駄狐

 

この三人は、<ススキノ>の一件を得て一緒にいる事が多く、買い物かごを持ってにゃん太の後ろをとてとてとついてくるセララの姿は、にゃん太にとっても慣れ親しんだ日常となっており、セララの持つ買い物かごから食べ物を掠め取ろうとする駄狐の姿はセララにとって慣れ親しんだ日常となっていた

 

「確かこの時期スナップエンドウは甘くて青りんごのようにおいしいですにゃあ。冷水でしめてあるから尚更ですにゃ?」

「きらきらしてます!」

「ッ!アッチ!?」

「くーさん!つまみ食いは駄目です!それに茹でたてなので熱いですよ!」

「……早く言ってほしかったなんし」

 

〈大災害〉後の変化の影響で、簡単な下ごしらえくらいであれば、サブ職業が〈料理人〉でないセララにも問題なくこなせるようになっており、それは〈新妻のエプロン〉のスキル提供と累積するらしく、セララのレシピは日々増えつつある。セララはどうやらそれをとても喜んでいるようで、にゃん太はその様子に微笑んだ。

 

「おや? ずいぶん手際が良くなりましたにゃ」

「にゃん太さんに教えてもらいましたからっ」

「わっちもぎょうさん食べました!」

 

にゃん太の言葉に、セララは胸を張り、駄狐は耳を立てた

3人の目の前には下処理が終わった大量の野菜。今晩のメニューは大皿の中華で行く予定だ。中華料理に必要なのは手早い加熱であり、そのためには入念な下処理が必要である。

 

にゃん太の腕を持ってしれば健啖家が多い〈記録の地平線〉においても下処理と同時進行しながら調理する事は可能であろう。しかし、それは駄狐が居ない場合であり、彼女がいるだけでキッチンは荒れる

つまみ食いは序の口、勝手に料理の中に蜂蜜やら酒を投入する。気付けば一品丸々、先に間食されていたなど好き勝手にキッチンを駆けまわるのだ

ギルドの台所を預かる身のにゃん太も流石に彼女の蛮行は了承できる事案ではない為、最深の注意を持って彼女をキッチンに入れないように心がけているのだが、そうすれば自然と調理時間が伸びてしまう

 

直継やトウヤはもちろん、ルンデルハウスやミノリも決して食が細いほうではないし、興が乗ればほかのメンバーだってよい食べっぷりを見せる。みんながみんなお腹を空かせ食事の時間を心待ちにしている中、提供時間が遅くなるのは、たっぷり作りみんなの満足している顔を見る事を何よりも楽しみにしているにゃん太にとっては耐えられないものであった

 

なので、にゃん太は事前に下拵えをやっておき対駄狐対策を試みているのだ

もちろん、セララの勉強を夕飯の下拵えのついでとは考えてはいないが、互いに互いが求めている結果を出せているので一石二鳥な関係を気付いているのだ

 

もちろん、他のギルドメンバーも彼女の蛮行を容認した訳ではないのだが、彼女の行為は全てセララと二人っきりの時間を作る為だと判っているので本気では止めようとはしていないのだった

 

そんな経緯がある中、セララとの料理教室は今日まで長く続いており、自然とセララの腕も上がっていったのであった。

セララとじゃれる駄狐を横目に湯気を立てた野菜からあら熱が取れるには、少し時間がかかりそうだと考えて、にゃん太はエプロンを外すと、戸棚からポットを取り出した。

 

「二人ともお茶にしますかにゃあ?」

「はいっ」

「くーち、お茶請けを持ってきてほしいですにゃ」

「あーい」

 

わざわざ応接室までは戻る必要はない。

広いキッチンにある大きなテーブルは野菜の皮むきをしたりパスタをこねたりする作業のためのものだが、もちろんお茶を入れて休憩するためにも使うことができる。料理や家事の途中で一息入れることも多いし、もちろん、ここで試食と称したつまみ食いをすることもある。

にゃん太は〈ダンステリア〉で買ったオレンジのジャムをひとさじ加え、紅茶に溶かした。紅茶の香りと柑橘のさわやかな香りがキッチンに広がる。

 

「おいしいですかにゃ?」

「はい。あったかいです」

「ごいんきょ~、わっち専用ジャムはどこですか?」

「戸棚の上ですにゃ」

 

とろけてしまいそうな声をあげるセララが答えとお目当てのジャムが見つかりほっこりとしている彼女はまるで、縁側の猫を思わせる無防備な表情が微笑ましい。

 

「今日は、ゆっくりした一日ですにゃあ」

「ええ。下ごしらえも早く終わったし、夕飯まではまだ時間があるし」

「こういう日はお昼寝したくなりんす」

「ふふふふっ」

 

安心しきったセララの表情に、にゃん太の心の奥がざわめくような気持ちを味わった。この台所が暖かければ暖かいほどに、先程まで彼女と言葉を交わした際に起きた痛みがよみがえる。

取り乱すほどの激情はなかったが、それは打ち寄せる波のような寂寞であった。自分はこの世界に招かれていない、と叫んだ青年がいた。勝手に連れてこられ、だから、自分はこの世界で勝手をすると彼は宣言した。多くの〈大地人〉の命が奪われる作戦に「それがなんだ」と言い捨てた。

この世界には、確かにそんな叫びが存在する。

こうしてセララが微笑み、にゃん太がオレンジフレーバーの紅茶を入れるその湯気の向こうに、この世界を受け入れることができない若者たちが、確かに苦しんでいるのだ。

にゃん太は、そこでは何もできなかった。

料理も、剣の腕も、そして積み重ねた経験も、何もかもが彼らには届かなかった。様々な経験を経てきたにゃん太にはわかる。自分とロンダークの間にある差など些細なものだ。

ロンダークはにゃん太になりえたし、にゃん太はロンダークになりえた。

ふたりの間にある差はわずかだ。〈大災害〉のあの日、あの瞬間、どこにいたのか? だれといたのか? いままで誰と過ごしてきたのか? 胸に残る大事な言葉があったのか? その程度の差だろう。

それらの差異は努力や才能に由来するものではない。縁、出会い。いってしまえばただの偶然でしかないのだろう。それがにゃん太にははっきりとわかる。

人は、この異世界に落ちてしまったにゃん太たちは、だれもがロンダークになりえるのだ。そして救うことはできない。

 

「セララちは楽しそうですにゃあ」

「楽しいですもん」

 

 弾むような声。跳ね返るように帰ってきた返事に、だからにゃん太の方が一瞬遅れて言葉を返すことになった。

 

「そうですか」

「……にゃん太さんは、最近元気ですか?」

 

その間を敏感に察したのだろう。セララは両手でカップを包み込みながら、にゃん太を見上げてくる。わずかにひそめられた眉は心配の表情だ。にゃん太は自嘲めいた気持を味わった。セララのような少女に、理不尽な痛苦を伝えるべきではないのだ。

 

「元気ですにゃあ」

「嘘だ!」

 

今度の返事は、滑らかに口にできた。当然のことのように。普段と変わらないように。それなりの時間積み重ねてきた人生と、経験した多くの感情の揺らぎが、にゃん太の演技を支えていたのだが、そんなモノは関係なしとばかりに某鉈を持った少女の如く駄狐は叫んだ

 

「……」

「……」

 

いくら彼女の奇行に慣れた二人でさえ、いきなり目のハイライトを消し、手に持ったカップを机に叩き突け吼える狐は予想外だったらしく完全なる沈黙がこの場を支配した

 

「わっちがご隠居に変わって質問しんす!セラララはこの世界に来てよかったと思いんすか?」

「え? あ。はい。それと『ラ』が一つ多いですよ?」

 

この流れで、まさか自分に質問が投げかけられると思っていなかったセララであったが、そんな問いをセララは即答した。

 

「そうなのですか?」

 

それに驚きを現したのはにゃん太であった

彼女の質問は、にゃん太の悩みの種たる根源に深くかかわっているモノであり、まだ大人として未熟であるセララが即答できる、それも普段通りに答えられるものではないと思っていたので尚更だった

 

「ええ、そうです。そりゃ、お父さんやお母さんと会えないし、困ったことも、大変なことも、たくさん起きたけれど、いいこともたくさんあったし、その」

「?」

「なななな、なりたい夢とか、その将来とか」

「あるのですか?」

 

にゃん太の問いかけに、セララは震えるようにこくこくと小刻みに頷いた。

なりたい姿。将来の望み。生きる道標。それが、確かにあるのだと、セララはつぶやいた。

にゃん太は、紅茶で温まった呼気を、大きく吐き出す。

ロンダークを前にしたときとは別の、ほのかに暖かな熱が、己の内側に灯った。ススキノ。チョウシ。そして、サフィール。彼女とて、この世界で多くの残酷な面を目の当たりにしているはずだ。それでも、彼女は、かくありたいという姿があるのだと口にしてくれたのだ。

 

「セララちならどんな夢でもかなえられるはずですにゃあ」

 

かくあれかしと。願いをこめて、にゃん太は呟いた。

 

「は、はわわわわ……あ……」

 

と、見る間にセララの挙動が怪しくなる。手が意味もなく空中をさまよい、表情は笑ったような、泣いたような様子をいったりきたり、唇も言葉にならずにくるくると形を変えた。

そんなセララの様子を不思議に思い声を掛けようとしたが、彼女の手によって止められた

 

「どうしました?」

「ご隠居ぎるてぃ~。……セラララの言葉を待つなんし」

 

腐っても同性、女性同士で思う所があるのか彼女は優しくセララに続きを即した

 

「――わたしの夢は、遠くて。いえ、その、諦めるとか! そういうんじゃないんですよ? でも、五十鈴ちゃんとかミノリちゃんとか見てると、ちょっと足りてないっていうか、わたしがダメダメっていうか」

「……」

 

にゃん太は、彼女の言う通りにセララの言葉を待った。

口にすることで、相手に伝えることで、混乱した思考がまとまることもある。それは、他の人間が助言をしたのでは得られない、自分だけの答えだ。

深呼吸を一つ。紅茶を飲み干して、ひとさじオレンジジャムをなめて、もう一度深呼吸。

そして、セララは改めてにゃん太の目をおずおずと見あげる。

 

「――その、たぶん。わたし、ちゃんとしたセララにならなきゃ、いけないんだと思うんです。その、夢とかを、かなえる前に。ちゃんとした、一人前のセララにならなきゃ。それに、なりたいんです」

 

にゃん太は、セララが急かされたような表情で、年少組の仲間を見ていたことを知っている。ミノリ、トウヤ、五十鈴、ルンデルハウス。セララが行動を共にしている子供たちは皆、目覚しいほどの成長を遂げてきた。

シロエの背を追い、戦術や事務能力において、大人をも超える働きをみせるミノリ。

自分より力量、年齢、共に上回る〈オデュッセイア騎士団〉相手に、この世界で生きることを呼びかけ続けたトウヤ。

そして、戦場の中、自らの歌を見出し、声を嗄らして旋律を奏で続けた、五十鈴。

〈大地人〉でありながら人々を守る在り方に焦がれ、〈冒険者〉に至ったルンデルハウス。

階段を二段飛ばしで駆け上るように花開く仲間たちの姿に、彼女は、自分を半人前だと感じていたのかもしれない。そんな焦慮や胸の軋みをにゃん太はセララから感じていた。

 

大人であるにゃんたから見れば、それは幼い悩みだ。彼女の未来は無限に広がっている。気にするほどもないちょっとした足踏みにすぎない。

 

しかしそんなセララが掲げた目標は「ちゃんとした自分になること」だった。その言葉が、いま、にゃん太の魂に確かに触れたのだ。

若者たちは産まれなおす。

理不尽な強制としてこの世に生を受けた幼子は、若者となり、己の意志でもう一度生誕を決意する。それは、今生きる世界との契約であり、過去と未来を繋ぐ絆だ。

かつて、にゃん太はロンダークにそう言った。それは、願いであり祈りとしてだ。そうであればとは思っていたが、なかなか難しいとも思っていた生きるものの理想だ。

しかし、セララは誰に何も言われずとも、光に向かって歩き始めた。いいや、すでに歩いているのだ。この感受性豊かで優しい少女は、毎日少しずつ「本当の自分」に近づいていっている。

若者は自分自身に生まれ変わるのだ。

願えばその通りに。

今にゃん太が感じている感動と救済を、セララは到底わかるまい。それを彼女が理解するためにはまだ二十年以上の時間がかかるだろう。だがしかし、彼女は今にゃん太を救った。にゃん太は彼女に救われたのだ。

にゃん太は言葉にならない思いで、唇の端を釣り上げた。微笑みの形になっていれば幸いだと思う。にゃん太の感謝はきっとセララには伝わらないだろうが、だとしてもかまうまい。この小さな淑女は最大級の敬意に値する。

 

「セララさん」

「はひっ」

 

だからこそにゃん太は決意を込めて言葉を選んだ。

彼女の、そして彼女たちの、二度目の産声を祝福するために。

 

「吾輩は、セララさんを応援してますにゃ。みんなを、ずっと応援してますにゃ。ずっとずっと、応援していますにゃ」

「わ、わ、わ、私!外の空気を吸ってきますね!」

 

にゃん太のいつもと違った雰囲気、いつも以上の暖かさを持った言葉を貰いセララはは自身の頬に血が上って行くのがわかるとその場を逃げ出す様にキッチンから出て行くのであった

 

そんな彼女の後姿を見送りながらオレンジジャムを掬おうとスプーンを持とうとしたが、湯気が立つ入れたての紅茶が目の前に差し出された

 

「これは……アップルティー、ですかにゃ?」

「うにゃ……答えは出んしたか、ご隠居?」

 

悪戯が成功した笑みと似た此方を小馬鹿にするようにしたドヤ顔を浮かべた駄狐は、にゃん太の悩みをセララが解決してくれる事が判っていたようであった

 

「はいですにゃ、ありがとうございますにゃ」

 

もしかすると彼女は、コレを狙っていたのかもしれないとにゃん太は、思いながらも感謝の言葉を口にしてアップルティーを受け取り、口にしたのであった

 

 

 

NEXT 死神?アップル同盟の仲間でありんす


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。