脱いでよ銀騎士さん!   作:ななせせせ

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今日からちょっとだけ更新ペース上げられると思います。


箱入り娘、ソーヤ

 悪趣味なピンク色のベッド。

 ムーディーな色合いのランプに照らし出された広い室内はこれでもかという程にそういう(・・・・)部屋だぞ、と主張している。

 当然年頃の娘であるところのソーヤ嬢がその存在――ラァヴホテェェェェ……ル、連れ込み宿、ご休憩するところ、色々呼び名があるその場所まで来て無警戒など――

 

 

(わー! ベッドめっちゃふかふかだー!)

 

 

 麗しの阿呆であるところの彼女であればありうるのである。

 

 ……と、いうか。

 彼女はほぼ毎日を剣と共に過ごしてきた生粋の狂人なのだ。当然同年代の女子と話すということもなく、騎士団に入ってからはそのあまりにもな訓練の様子から、友人と呼べる友人は一人もいない。

 そんな環境で過ごしてきた彼女に未だ自分が女性だという自覚は無い。

 

 結果としてどうなるかというと。

 

 

(……いや待て? そもそもクリスは何故ここに()を? もしやそっちのケが……?)

 

 

 御覧の通りの超・アホの娘が出来上がる。

 無論、自身が女性であることは理解している。しているのだが――いややっぱりこいつ理解していないのでは? そう思わせるほどに無警戒だった。もしかしたら自分が女性であるということを意識しないことによって自己同一性を保っているという可能性もあるが……真相は神のみぞ知るというやつである。この阿呆がそんなことを考えて生きているはずもない。

 

 こうしてあれよあれよという間に月日は流れ、色事の駆け引きとかそういったもの全てが遠い世界の話となってしまった。両親としては頭の痛い話である。

 

 そんな親の頭痛と胃痛など知らない阿呆はどこか呆けたような表情のまま、隣に座る男へと視線を向けた。

 

 

「あの、クリス……?」

「平常心平常心平常心へいじょうしん……銀騎士団員たるもの常に紳士で優雅たれ……!」

「おーい?」

 

 

 高速でスクワットを繰り返しながらぶつぶつと呟き、目を瞑っている。

 むき出しの上半身には滝のような汗が流れている。更に発する熱でそれが蒸発し、彼の周囲は歪んで見えた。

 異様な姿である。普通の婦女子であれば引くだろう。

 

 だが幸運なことにここにいるのは普通とは口が裂けても言えないソーヤ嬢である。

 その様子を見ても、無駄に力が入りすぎてるなぁとしか考えていない。

 

 そして。おもむろに近寄ると背後から抱きしめるような体勢で密着する。

 

 

「なっ、あっ、うえあああ!?」

「ここ、力が入りすぎてる。もっと楽にしないと変に痛めるぞ」

「ふーっ、ふーっ、コレハチガウ、コレハチガウ……」

「おーいクリスー? だから力入れ過ぎだって」

 

 

 この阿呆、一度でも自分のことを鏡で見たことがあるのだろうかといいたくなるほどにまるで警戒心というものが無い。

 こんな場所でこんなことをされれば誰だって勘違いしてしまうだろう。恐るべきはクリスの善人性と忍耐力か。

 

 いや。ならなんでこんな場所に連れ込んだんだという話になるのだが、それにはまず前日の様子まで遡る必要がある。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 クリス・マーキスは悩んでいた。

 というのもあのパーティーでの出会いから以降、クリスの心を掴んで離さない女性との出会いが無いのである。

 恐らく自分の上司であるところの銀騎士団長の妹なのではないかと思うのだが、兄に向って「貴方の妹さんとデートに行きたいから誘わせていただいても?」なんていうのはあまりにもだろう。

 

 妹と部下が付き合う――というのはちょっと気分的に微妙だろう。

 いや、家柄だけでいうならクリスの方が上なので喜ばれるかもしれないが、あまり家のことを鼻にかけたような動きはしたくない。

 

 と、まあしなくてもいい心配やらなんやらで動けなくなっていたのである。

 そのせいで最近仕事も手に……ついてはいるのだが、どうにももやもやとした感情が溜まっていた。

 

 

「いい加減、聞きださないとな……あんなに美人なんだ。相手があの(・・)パブロヴァ家とはいえ、周りが放っておかないだろうし……パーティーに来てたってことは、そういう相手を探しているということだろうし……」

 

 

 ぐしぐしと頭を掻き交ぜながら考える。

 病弱という噂だったが、多分それは嘘だろう。

 あれだけの美貌だ。恐らくは当主が変な虫がつくことを恐れて隠していた……と考えるのがいいか。

 

 

「ああもう、どうすればいいんだよぉ……」

 

 

 と、そこに件の銀騎士団長――その中身こそがクリスの想い人なのだが――が現れる。

 

 

「だ、団長!? どうしてここに!?」

 

 

 無言で紙切れを差し出す。

 そこには大きく休暇届と書かれており、珍しいなと感じつつも受け取る。

 ちなみに本当はソーヤも喋ってはいたのだが、悲しいかな分厚いヘルムの壁に阻まれて聞こえていなかった。

 

 渡すだけ渡して戻ろうとするフルプレートアーマー姿に、クリスは意を決して声を掛けた。

 

 

「――だ、団長。実はお願いが一つあるんです」

「……?」

「じ、実は……ですね。団長の妹さんとこの前お会いしたんですが……その、明日! 明日僕と……で、でっでで、デートさせてはもらえないでしょうか!?」

 

 

 団長、無言。

 しばらく考えるように立ち尽くすと、やがて小さく頷いた。

 

 

「ほっ、本当ですか!?」

 

 

 まさかそんな簡単に許可が出るとは思っていなかったので思わず立ち上がりながら、喜色満面の笑みを浮かべる。

 先程までのアンニュイな気分はどこへやら。一気に幸福感で一杯の笑顔である。彼のそんな顔を見ればどんなご令嬢でもイチコロだったのだろう。

 

 ……本来なら。

 

 

 

 

(――まさか、クリスがロリコンだったとは)

 

 

 なお、ソーヤの妹であるリーナは10歳である。


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