最弱無敗の神装機竜 ~閃紅の彷徨者~ 作:The Susano
サブタイトル『紅蓮の戦士』
プロローグ(ユミル教国編)
アーカディア帝国とユミル教国を繋ぐ街道。北寄りのために秋でも外気は冷え込み、少量の雪が降った後がそこかしこに残っている。あいにくの曇り空だが、街道から外れた道にしては中々風情のある光景である。しかし、この場に風景を楽しむ余裕がある者はいなかった。
「お父様……!」
「さぁ、金目の物を全て出しな。そうすりゃ離してやるさ」
「くっ……!」
ここしばらく国境周辺の治安が悪いという噂は聞いており、特に周辺を警戒して帰還していた貴族の男だったが、護衛の1人が盗賊と繋がっており、さらに装甲機竜を使っているとは思わなかったのだ。
(しかし、遺跡へ干渉するには国からの許可がいるはず……。どこの者だ?)
娘を人質に取られたユミル教国の貴族の男は、葛藤で時間を稼ぎながら思考する。遺跡からは
故に、装甲機竜を得ることができるのは国だけになるのだが、実際問題として、目の前の盗賊は機竜を使って自分達に牙を剥いている。
と、ここで思考を変えて現状の打破に入る。これ以上は盗賊が痺れを切らす可能性があるからだ。馬車にいる使用人やに財貨や宝石の類いを集めさせ、盗賊が投げ渡した袋に入れる。その間に、娘を救出する策を練る。
(渡したところで素直に解放するとは思えん。ならば……)
そう考えると、袋を持って盗賊の元に歩く。相対する盗賊の頭も手下の9人を下がらせ、汎用機竜ワイバーンを纏ったまま貴族の娘を連れていく。そして、盗賊が袋を掴もうとした刹那―――、
「ふっ……!」
「何……!?」
盗賊が袋を掴もうとしたワイバーンの手は空を切り、貴族の男は袋を頭の左に向かって投げつける。突然の行動に驚いた頭は、すぐさまワイバーンを後ろに反らして袋を避ける。しかし、驚いた拍子に貴族の娘を拘束していた右腕が緩む。その気を逃さず貴族の男が娘を引き剥がし、抱きつきながら地面を転がる。そして―――
「今だ!!」
頭に向かって護衛2人と執事が纏った汎用機竜ワイバーン、ワイアームの持つ
これが貴族の男が考えた策である。人間誰しも、宝物を手に入れる瞬間は警戒心が薄れる。その隙を突いて娘を救出し、事前に打ち合わせた通りに護衛達が残った頭を銃撃する算段である。仮に頭が警戒して左右に避けたとしても、その際はワイバーンの腕部や脚部を銃撃して行動不能にする手筈だった。
娘を救出し、ほっとするもつかの間。転がり込んだ場所は、すでに汎用機竜ドレイクを纏った1人を含む残りの盗賊が集まっていた。さらに、
「クソが。無駄な足掻きしやがって」
銃撃を受けるギリギリでワイバーンの障壁が間に合い、ほぼ無傷の頭が威圧しながら悪態をつく。その目は生きて返さんという意思が見え、獰猛な雰囲気を纏っていた。
周囲を囲まれて絶体絶命の中、それでも貴族の男は諦めずに見渡す。最悪命を捨ててでも娘を逃すと覚悟し、
「やっちまえーー!!」
盗賊が襲いかかってきた刹那。
『!?!?!?』
突然の爆発に盗賊達が一斉に困惑する中、目を逸らした僅かな間に何かが通り過ぎ、貴族の親子が揃って消える。そして、貴族が乗っていた馬車の近くで
『Clock Over』
という音声と共に、貴族の親子が現れる。紅の鎧を纏った戦士に担がれながら。
その戦士はかなり異質だった。全体的にはスマートな体格をしており、頭部、胴体の大半、肩を紅の装甲が、水色の顔に、顎から装甲と同色の角が伸びている。腕部と脚部は、肘や膝などの大事な箇所に銀の装甲がついているが、大半が黒い衣類となっている。腰には銀色のベルトをつけ、その中心には奇妙な機器があった。
突然現れた紅の戦士に、護衛達は固まっていた。その場にいる全員が瞬きすらしていないにもかかわらず、突然現れた戦士が自分達の依頼主を救出したのだ。何が起こったのか、思考が追いつかないのも無理はない。
「2人を頼みます」
戦士はそんな状況を無視し、近くにいたワイアームを纏った執事に声をかける。声変わり途中のような声だが、女性の方は我に返って担がれた2人を受け取る。
戦士は盗賊の方に向き直り、悠然と歩いていく。盗賊の方は人質を奪い返されたためにいらだっていたが、戦士が1人で来たことで笑みに変わっていく。
「テメェバカか?もう不意打ちは通じねぇのに、1人で戦う気か?」
「その不意打ちにやられるお前らが言うか。そもそも、雑魚を相手にこれを使うことすらもったいないんだがな」
自然な口調で戦士が挑発した瞬間、盗賊達から怒りが沸々と湧いて来る。そんな中、挑発と分かっていて頭が声を怒らせて返答する。
「……俺達が雑魚だと?」
「ここで盗賊行為してる段階で否定できるのか?中途半端に力があるから、自分の強さに酔って見せびらかしてる―――」
「―――死ねぇっ!」
戦士の挑発にキレたのか、ドレイクを纏った盗賊がもう一丁の機竜息銃を乱射する。だが戦士は地面を転がって回避し、むしろドレイクに向かって機竜息銃に似たものを撃つ。それによって、ドレイクの左腕部と機竜息銃が破壊される。
破壊した瞬間に戦士はドレイクに迫る。盗賊はとっさに中型ブレードを出そうとするが、それよりも先に機竜息銃を片手斧のように持ち替えた戦士が右腕部を破壊。そのまま相手の背に回り込み、機竜の弱点である
その一撃によってドレイクは強制解除され、突然の解除に盗賊は投げ出される。それを戦士がキャッチすると、そのまま前に投げ飛ばす。盗賊は地面を転がりながら木に激突。死にはしなかったが、あまりの衝撃に気絶する。
それを見届けると、戦士はいつの間にかナイフのような武器を手に持ち、そのまま後ろを薙ぐ。
「がっ、あっ……!?」
それは後ろから襲いかかった盗賊の首を落とし、死体から血が流れる。気づいていたかのような流れる行動に盗賊達の腰が引け、ゆっくりと迫る戦士を見てとうとう逃げ始める。
「ああ、言い忘れていたが―――」
しかし、逃げ出し始めると同時に戦士が走り始め、あっさりと先頭に追いつく。そして走って止まれない盗賊3人を袈裟斬りにし、腹を捌き、心臓を突いて仕留める。
「誰一人、逃す気はないからな?」
1人一撃で仕留める戦士に、残りの盗賊達は恐怖に飲まれながら向かって行く。だが、狂乱状態で冷静な戦士に当てられる訳がない。1人だけ運良く生き残った者もいたが、後ろに飛んだにもかかわらず、戦士の強すぎる蹴りに気絶する。それ以外の者は、戦士の反撃にそのまま命を落として行く。
残りの盗賊を始末して残りは頭のみと振り向くと、ワイバーンに乗った頭が貴族の娘に襲いかかろうとしていた。
実は、戦士がドレイクと戦い始めたタイミングで、頭はワイバーンでワイアームの執事に突撃したのだ。当然護衛達も動くが、まだ乱入した戦士への驚愕が抜け切らず、出遅れてしまう。
そして、ワイアームの防御が間に合わずに幻創機核を切りつけられ、ワイアームが強制解除されたために貴族の親子が投げ出される。遅れて護衛が頭に斬りかかるが、頭は攻撃を躱して逆に護衛のワイバーン達を蹴り飛ばしたのだ。
自分に抵抗する相手がいなくなり、貴族の娘を誘拐するためにワイバーンの右腕部を伸ばすと、またも高速で何かが動いて右腕部を破壊していく。
『Clock Over』
音声が聞こえ、ワイバーンを正面に見据えた戦士が立っていた。嫌な予感がした頭が慌てて戻ろうとするが、動いた勢いは急に殺せない。そして、
「ライダー、キック」
『Rider Kick』
断罪の一撃が繰り出される。ベルトから流れるエネルギーが、戦士の角を経由して右足に溜まっていく。そして、突然現れたために防御も出来ず、エネルギーを纏った回し蹴りがワイバーンに直撃する。
あまりの衝撃にワイバーンが木にぶつかってその木をへし折り、さらに先の木に激突して強制解除される。頭もライダーキックに耐えきれずに気を失う。
「ある意味流石だな。油断も隙もない」
そう呟き、後ろにいる貴族の娘を見る。水色の髪にダークブラウンのコートを着ており、見た目の歳は10歳前後だろうか。まだ幼いながらも、将来には美人になると断言できる。その少女は戦士を見つめて呆然としている。
「えーっと、怪我とかはしてないよな?」
しゃがんでそう尋ねると、コクリと頷く少女。戦士は安心して立ち上がると、貴族の男が歩いてくる。武人なのか堂々と歩いており、近づくにつれて威圧感がましてくる。しかし、戦士はそれを正面から見返す。
「娘を助けてくれたことについては礼を言う。しかし、お前は何者で、なぜ私達を助けたのか聞いていいか?」
詰問調だが、礼と言うと同時に問いかける。確かに、盗賊に襲われている貴族を助ける物好きはそうそういないだろう。それが未知の技術を使われた戦士ならばなおさらだ。故に何らかのメリット、または下心があって行動したと考える。表情が見えない戦士は、男の顔を見ながら答える。
「通りすがりの旅人ですよ。声が聞こえたために気になって来ただけです。理由は……強いて言えば、どちらかが死んだら寝覚めが悪くなるから、ですかね?」
「……それを信じろと?」
「疑心暗鬼になるのも分かりますよ。ですが、動機は嘘偽り無く言ったつもりです。もし自分が必要無ければ介入しませんでしたし、事が済んだ以上は街道に戻るつもりでしたからね」
そう言われて少し考える貴族の男。多少なりとも威圧したにもかかわらず正面から返答するということは、本心を言っているのだろう。威圧感に慣れているのもあるが、感情論とはいえ一切声も震えさせずに言っているので可能性は低い。それに、この街道にいるということは、ユミル教国かアーカディア帝国に向かうつもりなのだろう。ユミル教国の武門の棟梁として、これほどの戦士を危険視しない訳にはいかない。また、道中をこちらは護衛の1人を失い、逆に盗賊の監視という手間が増えた状態で行く以上、警戒がどうしても甘くなる。
これらを踏まえ、貴族の男は威圧感を解いて返答する。
「お前は……いや、君は、これからどちらに向かう予定かね?」
「……ユミル教国ですが」
「そうか。……なら、君を護衛として雇いたいんだが、引き受けてくれないか?」
警戒不足や監視をまとめて解消するために、こちらの戦力として誘い入れる。ここからユミルまでは馬車で村などの休息を含めて4日、徒歩だと8日はかかる距離である。悪天候にも左右されるが、移動短縮というメリットがある以上、反応はしてくれるだろう。
「……お礼等ならいりませんし、見知らぬ者を雇ってよろしいので?」
「実は、先程ドレイクに乗っていた盗賊が護衛の1人でな。こちらとしても、欠けた分の戦力が欲しい。それに貴族として、命の恩人に礼の1つも無しでは礼節に反する」
戦力不足と礼節を含めた返答をすると戦士はその言葉に、(より正確には礼節という言葉に、)驚いた雰囲気を見せる戦士。想像すらしなかったような反応の後、俯いて考える素振りをすると、若干脱力して顔を上げる。
「私のような者で良ければ、そのご指名、受けさせていただきます。えっと……」
「ああ、まだ名乗っていなかったな。私はステイル・エインフォルクだ」
「では、ステイル卿と。私は、……って、まだ鎧つけたままだった」
そう呟いてベルトについた機器のレバーを引いて離すと、機器は宙を飛び回り、機器に吸い込まれるように鎧が消える。
そこに現れたのは、黒髪に黒いコートを着た少年である。娘と同い年程度の見た目に、ステイル卿は驚愕する。
「では改めまして。仮面ライダーカブトの資格者、ガレン・フェグラです。ユミル教国までの間、よろしくお願いします」