最弱無敗の神装機竜 ~閃紅の彷徨者~   作:The Susano

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戦闘シーンは次回以降に持ち越しで。
一応3、4話で次に行く予定です。

サブタイトル『少女の面影と危機』


1-2

「要するに、そのカブトゼクターとやらは自ら持ち主を決めるということか?」

 

「そうですね。突然現れたと思ったら周囲を飛び回って、いきなりベルトを渡してきましたから」

 

次の街に向かうまでの間、ガレンはステイル卿からの質問に答えていた。それは、ガレンが変身に使っていた機械――――カブトゼクターをなぜ持っているかである。

小さいながらも飛び回り、資格者に応じて鎧を展開し、ある程度意思を持つ。これだけで遺跡の産物と簡単に分かる。

だが、なぜガレンの元に現れたかは本人も分からないのだと言う。

 

「『坑道(ホール)』でそのような物が見つかったという報告は、少なくとも私は聞いていない。ならば、こちらでも見つかる可能性もあるのか?」

 

「おそらく。ただ、あった遺跡限定かもしれませんし、他の遺跡にないとも言えません。……ところで、何で睨まれてるんですか?」

 

視線の先にいる先程助けた少女――――名前はクルルシファーと言うらしい――――がいた。馬車の中で本を読んでいるように見えるが、時節向けてくる視線に警戒が混じっているのだ。

 

「助けられたとはいえ、君の力を警戒しているのだろうな。打ち解けにくいだろうが、慣れてくれ」

 

「まあ、助けたタイミングの悪さもありますからね」

 

盗賊に襲われる中で見知らぬ戦士に助けられるなど、どこの英雄譚だと言いたくなるようなタイミングだったのだ。命を救われたとはいえ、胡散臭いと思うのは当然である。

 

世間話をしながら夕暮れ時に村へ到着する。縛られた盗賊を警備兵に引き渡し、今晩泊まる宿屋に向かう。

 

(初めての護衛依頼だ。ある程度信頼されたことだし、頑張りますか)

 

そう考えて、ガレンはステイル卿について行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈んで月が昇る時間に、ガレンは宿屋の庭にいた。ここで訓練をする人もいるのか、庭というよりもちょっとした運動場のようである。月光と窓からの光が周囲を照らす中、ガレンは木剣で素振りをしていた。普段なら鍛錬中ということで無心で行うのだが、今回はむしろ雑念を振り払うためにやっていた。

 

(なんでっ!同じ部屋にっ!するかなっ!)

 

その訳は、夕食が終わった後のことである。パッと見るとただの旅人であるガレンが、貴族レベルの丁寧なマナーで食事をしたことに驚かれた点以外は和やかに食事は終わり、泊まる宿屋の部屋に通された。おそらくもう1人の護衛と一緒なのだろうと思い、2つあるベッドの片方で横になっていると、入って来たステイル卿からとんでもないことを言われた。

 

「悪いがクルルシファー。今日はこちらで休んで欲しい」

 

「えっ?」「へっ?」

 

クルルシファーとガレンが思わず同時に声を出す。それは、自分達の聞き間違いかと考えたが故の声である。

 

「えっと……。聞き間違いでなければ、クルルシファー嬢と私が同室するように聞こえましたが……」

 

「確かにそう言ったな」

 

「……何故か理由を聞いても?」

 

頭を抱えたくなるのを堪え、理由を問うガレン。護衛のためとはいえ、年頃の男女(しかも男の方は身元不明)を一つの部屋にするのはどうかと思うだろう。

 

「大半は護衛のためだ。時期の影響か、客が多くて2部屋しかない。しかし、護衛を切り離すと緊急時に対応が難しくなる。だからこそ行動を示し、年の近い君に護衛を頼みたいのだ」

 

それに、と言いながらクルルシファーに視線を向ける。

 

「普段は無関心なこの子が、警戒とはいえ人に感情を向けるのは珍しいからな。少しは打ち解けてほしいというだけだ」

 

(おいおい……)

 

利点があるとはいえ後者が大部分であろう決定に、なんとも言えない表情のガレン。クルルシファーは納得できないのか、ステイル卿を説得しについて行ったがおそらく決定事項についていく。ふと、美少女と同室になるという邪な方に思考が寄っていったので、雑念を振り払おうと木剣を片手に宿の庭で鍛錬を始めたのだ。

 

「ハァ……ハァ……、とりあえず、こんなもんか」

 

素振りと幻闘法(仮想敵を想定し、自分の行動を対処された時にどう動くかの鍛錬。先読みの訓練になる)を終え、ある程度回復すると部屋に戻る。これ以上やると依頼に支障が出そうだからだ。

部屋の鍵が開いていたので、クルルシファーが先に戻っている(鍵を渡しておいた)と分かり、ゆっくり扉を開ける。

 

何気に旅の疲れが大きかったのか、若干ウトつきながら本を読んでいた。それでも緊張を解かずにいるあたり、まだ警戒しているようだ。

 

「じゃあ、先に寝てるから。明日も長旅だろうから、ほどほどにして寝ろよ」

 

警戒を解かせることも兼ねて、軽い口調で注意しておく。すると、

 

「……あなたは、何で私を助けたの?何の関わりもないはずなのに」

 

クルルシファーの声と問いかけ。その問いかけに、ガレンの目にとある光景がフラッシュバックする。自分が弱かったために起こった後悔と、自らに立てた誓い。普段はこの感情を封印しているが、今なおガレンの心を蝕んでいる。

 

「……自分の力が届くなら、人に死んで欲しくない。ただそれだけだ」

 

幾分かトーンが落ちた声で返答する。できる限り普通に返答するつもりだったが、僅かに感情が漏れてしまったのだ。

クルルシファーからの複雑な視線を感じながら、ガレンはすぐに動ける状態のままベッドに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

護衛の依頼を引き受けて早3日。大した事件もなく、ユミル教国に辿り着いた。変わったことと言えば、クルルシファーが時々話しかけてくるようになったことである。心境の変化はさておき、警戒心が薄れたのはガレンにとって嬉しいことである。

 

入国手続きを終え、エインフォルク家の屋敷の前に到着する。これで依頼は完了のはずだが、そこでステイル卿に引き止められた。

 

「これで依頼の方は完了だが、これから君はどうするのかね?」

 

「しばらく町に滞在しますが、町の散策や路銀稼ぎですね。まだ余裕はありますが、多くて損があるわけでもありませんから」

 

ガレンがそう答えると、ステイル卿が一枚の手紙を手渡す。入国手続きでの対応や屋敷の規模に、エインフォルク家が貴族の中でも上位に入ると察していたガレンは丁寧に受け取った。

 

「もし軍に関わる依頼を受けたなら、それを見せるといい。『巡礼祭』の時期ゆえに、護衛依頼もあるだろうからな」

 

「ありがとうございます。なるほど、お聞きしたことはありますが、町が慌ただしく感じたのはその影響でしたか」

 

『巡礼祭』とはユミル教国での祭の一つなのだが、一般的な祭とは異なっている。この祭は教皇や司教などが神と縁のある地へと歩く巡礼を行う儀式でもあるため、祭そのものに教義的な意味があるのだ。

なお、巡礼をする聖地のひとつは遺跡の近くにあるために護衛も多く同行する。ステイル卿が手渡したのは、護衛時にガレンの実力を保証するものなのだ。

 

エインフォルク家に別れを告げて手頃の宿に荷物を預けると、ガレンは散策に出かける。祭りの屋台で買い食いをしながら、求人依頼のある掲示板に向かう。人の賑わう道を歩きながら、ふと聖都に着いてから目に付いていた建物を見る。

 

(面白そうだし……、ちょっと寄り道して行くか?)

 

そう考えると、ガレンは道を外れて一際目立つ白亜の城へと向かう。近づくにつれて、歴史を感じさせる意匠の凝らされた神殿の荘厳な雰囲気が伝わってくる。アーカディア帝国の豪華絢爛さとは真逆の雰囲気が感じられた。

 

「しかし、近くで見ると改めて凄く感じるな。いつ造られたんだ?」

 

図書館に歴史書でもないか探そうと予定を決め、掲示板に向かおうと歩き出すと、近くの路地裏にローブを着た2人が入っていくのが見えた。普段なら無視して行く所だが、信徒のローブを着ているなら話は別である。

 

(スラムの奴ならまずローブを着る余裕はない。貴族の密会なら屋敷や酒場でもいいはず。なら……)

 

そこまで考えると、ガレンは足音を殺して後をつける。師匠からお墨付きをもらった歩法は靴を履いていてもほとんど音を立てず、カブトゼクターに誘導されながら相手を探す。

そして、ローブの2人が仲間と話している通路の角に隠れて聴くと

 

「では、クルルシファー・エインフォルクを遺跡に連れ出せば、深部への扉が開くのだな?」

 

「ああ。まだ子供だが、それだけの力を持っているらしい」

 

(!?!!??!)

 

いきなりの爆弾発言に、ガレンは驚きで声が漏れかける。慌てて口を塞ぎつつ、ついでに気配も消して話を盗み聞く。

 

「しかし、ステイル卿も愚かよな。養子とはいえ赤の他人、さっさと利用してしまえばいいものを」

 

「全くだ。だがそのおかげで我々にも利が転がってくるのだ。ここは素直に喜ぶとしようではないか」

 

「はは、その通りだな。利用した後はこちらの自由にしても?あの娘を種馬に子を成せば、その力を持って生まれるやも知れん」

 

「その話は後に。今は目先の利益だ」

 

会話に苛立つ感情を殺して聞き終え、通路の反対に行く様子を確認すると、今の自分に打てる手を考える。

 

エインフォルク家に伝えるのが最良なのだが信じてもらえるか怪しい上に、仮に信じてもらえたとして下手な行動でバレたことが伝われば、混乱の真っ只中で攫うか、作戦を変更してさらに厄介なことになる。

こちらの利点は、相手の計画の一部を知ってることである。しかも、攫う対象が分かっていることが1番大きい。となると、自分に打てる手は一つである。

 

そこまで考えて、ふと何故自分が関わるこが前提なのかと思い始める。普通なら当事者達に伝えて関わらずにいるのが自分にとっての最善なのだ。しかし、今自分は疑うことなく関わろうとした。

 

「……似てるからだろうな、あの時と。さて、掲示板に依頼があるといいけど」

 

そう呟くと、今度こそ掲示板に向かって歩いて行った。




1年越しにようやく復活です!!
……とはいっても、前回と比べると投稿する頻度は大幅に低下してますけどね。
今回は完結させたいです……!

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