最弱無敗の神装機竜 ~閃紅の彷徨者~ 作:The Susano
サブタイトル『模擬戦と戦いの幕開け』
「よく集まってくれた、腕に自信のある戦士達よ。早速で悪いが、君たちの実力を知るために模擬戦を行ってもらう」
(ホントに早速だなぁ、おい!)
護衛依頼があったので受付で受ける旨を伝えると、受注手続きを行いながら明日の朝にもう一度来て欲しいと言われ、宿で一泊して指定された時間に間に合うように掲示板に向かった。
そして、護衛依頼の招集を受けて案内された近場の広場にて、突然の模擬戦になったのである。(ちなみに、ガレンを除いて大半が見た目で傭兵上がりと分かるような人ばかりである)
「この模擬戦は君達の役割を決めるために行うものであり、勝敗の有無は依頼の評価には関与しない。しかし、実力あるものには相応の役割を与えることを約束しよう。また、幻神獣との戦闘を考慮するため、装甲機竜での戦闘とする」
試合は申し込んだ者の番号をシャッフルして選ばれるらしく、呼ばれるまで広い部屋で待機らしい。
部屋に着くと、役割〜の辺りから一斉に雰囲気をガラリと変えた大半が談笑をする中、残り僅かの戦士は自分と相手の力量を測りながら最善を模索する。
(自由に行動するには遊撃になるのが1番。問題はどうやって遊撃に選ばれるようにするか、か……)
幸いにも機竜での模擬戦のために勝つこと自体はおそらく難しくない。ただ、クルルシファーの件を解決するためには、ある程度の実力を見せつつ自由に動ける役になる必要がある。
どうやって立ち回るかを模索していると、
「何だ何だ?ここはガキがいる場所じゃねえぞ。さっさと帰って家に閉じこもっていやがれ」
(予想しないでもなかったが、どこにでもいるんだな。こういう輩は)
部屋で待つ人の中で、おそらく最年少だろうガレンに絡む男。仄かに酒の匂いがするところから、前日まで呑んでいたのだろう。だが、当のガレンは全く取り合わずに無視している。ここにくる前の経験則から、下手に相手をせず放って置けばいいと知っているからだ。
この対応に、絡んだ男の顔が真っ赤になる。酒の影響もあるが、まだ子供のガレンに無視されたことに我慢ならなかった。
「無視してんじゃねぇぞ、クソガキィィィイ!!」
叫びながら殴りかかる男を冷静に見据え、躱しながら部屋の空いた場所を探してそこを背に男を正面から睨む。躱されてさらに激昂した男が、追撃するために向かって行った結果、
ほとんど動かずに立っているガレンと、盛大に転倒して壁に激突した男の構図が出来上がった。ガレンが拳の軌道を見切って躱すと同時に足を引っ掛けたのだが、思いのほか勢いがあったためにそのまま部屋壁まで転がって行ったのだ。
ガレンが殴られることを予想した者は唖然とし、注意深く見ていた者はガレンの立ち回りを警戒する。すると、係員が呼び出しに来た。
「13番の方と9番の方、模擬戦を始めますので闘技場に。そちらの方はどうされましたか?」
「酒の酔いでも残っていたのでしょう。ふらふらと壁に激突していきましたよ。あ、13番です」
お前が言うかという雰囲気が漂うも、ガレンが足を引っ掛けたの視認できた人は少なく、ガレンが堂々と言うために見えた人も何も言えないという状況が出来上がった。
それらを無視し、係員の案内で機竜格納庫に移動する。そこには、ワイバーン・ワイアーム・ドレイクの3機の汎用機竜が並び、ある程度の武装も揃っていた。反対側は演習場になっているようだった。
「どの機竜を使いますか?要望があれば、武装も加えられますが」
「ワイバーンでお願いします。武装は機竜息銃2丁、大型ブレード2本、
近接、遠距離、搦め手に使う武器を頼むガレン。銃と剣が2つずつなのは、双剣または双銃として使うことを考えた結果である。武器を装備し、乗り込んで違和感なく使えることを確認すると、係員に準備完了を伝える。
「それでは、開始の合図まで舞台でお待ち下さい。幸運を祈ります」
そう言って格納庫を出る係員から目を離し、ワイバーンで飛翔する。障害物のない円形のフィールドには、すでに相手は来ていたのだが……。
「今度は手加減抜きだ、さっきのまぐれが何度も続くと思うなよ……!」
なんと、先程の絡んだ男が相手である。しかし、手加減抜きというのは本当らしく、大型ブレードを構えて油断せずにしっかりと相手を見据えている。ガレンもまた、大型ブレードを正面に構えつつ左手に持つ機竜息銃を牽制するように向ける。
『それでは始めて下さい』
開始の合図がかかった瞬間、互いに相手に向かって突進する。大型ブレードの激突音が響くが、鍔迫り合いは起こらない。ブレードが激突した瞬間に、ガレンが弾く力を利用して男を飛び越えたのだ。
「な、何っ!?」
慌ててガレンを追う男だが、がら空きの背後に機竜綱線を相手のワイバーンに気付かれないよう巻きつけたガレンは、相手の動きに合わせて後ろに回り込む。
男がガレンを見失った瞬間、試合開始直後から充填していた機竜息銃で強襲する。男が後ろに打つために機竜息銃を出そうとすると、ガレンは機竜綱線を巻き戻して後ろに引っ張りあげる。巻き戻しながら大型ブレードを構え、接近するワイバーンの幻創機核を斬りつける。
開始から僅か30秒。そこにはワイバーンが解除される光景と、あっという間に終わったために呆然としている男が残された。正に開幕からの速攻である。
「おそらく、あんたは腕っ節もあって戦術も考えることができたんだろう。あんたは油断したから負けたんじゃない。会った時に俺をガキと侮ったから負けたんだ。今度は人を見る目を鍛えるといい」
ガレンはそう言って演習場から去って行った。説教くさい言葉になったが、一方的に叩き伏せられた相手からの忠告を聞けないならば、そこまでということである。
この1戦が広まったのか、この後の相手の一部は搦め手も使って勝ちに来ようとしたが、斬り伏せ、銃撃し、罠を掛け返し、結局1度も負けることなく、ガレンは全ての模擬戦を終えた。
「それでは、こちらでお待ち下さい」
模擬戦を終えて当日の配置が発表される中、ガレンだけは別の部屋に通された。普通の人なら不安そうに何かやらかしたかを思い返すが、ガレンは心当たりがあり過ぎるために返って開き直っていた。なにせ、その場にいた傭兵達に1対1とはいえ全勝したのだ。むしろこうならない方がおかしい。
待つこと数分。出てきたのは、模擬戦を行う宣言をした貴族である。
「個人で呼び出してすまない。私はウェイン・ギザルト、ユミル教国の軍事を司る者の一人だ」
「ガレン・フェグラです。前置きはいいので本題をお願いします」
模擬戦に全勝した以上は失格になることはないはずなので、たとえ遠回しであっても言われることはすぐに想像がついた。
「そうか、ならすぐに済ませよう。君は何をしにこの国へ?」
「観光と資金集め、後は修行ですね」
「先ほどの装甲機竜による戦闘は?あれほどの腕ならば、噂になっても不思議ではないが」
「父親と師匠に仕込まれました。噂については知りませんが、護身術として学んだことをある程度機竜に反映しています」
その後、いくつか質問をされたところでガレンがウェインの真意を言い当てる。
「いい加減、腹の探り合いは辞めません?聞きたいのは、私がこの国に対して害があるか否かでしょう」
「……分かっていたか。しかし、こちらとしても判断材料が少な過ぎる。君が嘘を付いてこの国に仇なさない確証がない以上、素直に信じる訳にもいかなくてね」
その辺りで、ガレンはため息をついて一通の手紙を取り出した。自分の実力を図るために出すつもりは無かったのだが、こうなれば仕方がない。
「ならば、この手紙は判断材料になりませんか?」
そう言って渡された手紙を開くと、驚いてガレンの方を見る。エインフォルク家が実力を保障した手紙なのだから、信じられないのも仕方ない。
「……確かにこれなら信じられる。一応確認をとっても?」
「返してもらえるなら構いませんよ。元より模擬戦を回避するために出すものでしたから。実力を示すために出しませんでしたが」
下手に誰かを融通すると少なからず軋轢が生まれて厄介なことになるため、実力で試験に合格して手紙は起こった問題を対処するために保存する予定だったのだが、まさかこれほど早くなるのは想定外である。
「さて、これで要件は終わりですね。配置と日付はどうなってますか?」
「ああ、君の役割は遊撃だ。戦いぶりからどこに配置しても戦果を挙げられると判断されたからね。集合は2日後の朝だ」
よろしく頼むよという言葉に会釈をして通された部屋から退出する。
図書館に向かう道中、ガレンは内心でガッツポーズをしていた。現状で最も不確定だった遊撃に決まったため、ある程度の自由行動が可能になったからだ。これで勝手な行動をしたとしても理由をつけて誤魔化せると、ガレンは顔がにやけそうになっていた。
ここだけ聞くと悪巧みをしているようだが、これでも真っ当に考えているのだ。
その後、図書館での調べ物と空いた1日を使った準備を終えて2日目の朝、運命の日を迎えた。
自分が強者か弱者かを即座に判断し、最初から警戒して、観察して、勝ちの意志を捨てずに、相手を倒す算段を考える。これが真の強者である。
作者による強者の定義でした。
ガレンの強さにはちゃんと下地があります。内容を出すのはかなり後ですけどね。