最弱無敗の神装機竜 ~閃紅の彷徨者~ 作:The Susano
長くなったので分けました。
サブタイトル『少女の思いとガレンの力』
ユミルに来て4日目の朝。その日は珍しく吹雪は無く、僅かでも日差しが入って来た。普通なら神の恵みか祝福と思うが、ガレンにとっては嵐の前の静けさに感じた。巡礼祭は昨日から開催されており、1日目はあっさりと終わったらしい。今日は遺跡の近くを通るために、神殿前に待機している傭兵や騎士の空気はかなり緊張している。
その空気のまま、神殿騎士団の機竜使いの精鋭と傭兵を乗せた馬車が、旧神殿跡地に向かって動き出す。
ただ、まだ模擬戦の一件を引きずっているのか、ガレンに話しかける者はいない。やり過ぎたかとガレンが寂しさを抱えていると、
「やはり1人になったな」
馬車の御者台で手綱を握っていたウェインが苦笑して声をかける。貴族が御者をして問題ないのかと聞いたが、ウェイン自身も機竜使いらしく他家も何も言わないのだから大丈夫とのこと。かなり活動的な一家である。
「一応やり過ぎた自覚はありましたけどね」
「確かにやり過ぎたのもあるが、その後にこちらが呼び出したことも影響してるな。傭兵にとって貴族と繋がりができるのはかなりのメリットがある。邪推や憶測が飛び交って、それが嫉妬になっているんだろう」
「……ギザルト家ってどれくらいの規模の貴族なんですか?」
「ユミル教国では有数の棟梁だね。エインフォルク家とは同等位だな」
その言葉でガレンは頭を抱えたくなった。無知とはいえ知らず知らずのうちに嫉妬を買っていたのは完全に誤算である。というか、睨まれるだけならまだしも、
「まあ、苦労するだろうけど、こればかりは慣れるしかないな。気にしていても仕方ない」
「……それでやられたら笑えませんよ」
そんな会話をしていると、何処からか爆発音が響いてくる。小規模な幻神獣の群れと遭遇したのだろう。
普通の機竜使いの数倍の力を持つのだが、今回は数と連携で防いでいるようである。
「そろそろ役目に戻りますね。とは言っても、そこまで多くは出ないでしょうけど」
「ああ。まぁ小規模でも大事になるから頼んだ」
そうウェインに告げてガレンは戻っていった。この時、すでに厄災の予兆があったと知らずに。
明らかに異変が起こっていると分かったのは、旧神殿跡地に辿り着いた後である。その前から小刻みに襲撃があったのだが、ここに着いた時には幻神獣が絶え間なく襲って来るようになったのだ。
「ったく、なんだこの数は!」
飛んできたガーゴイルの翼を打ち落とし、襲い掛かるハイートを袈裟切りにして倒し、味方が苦戦しているキマイラを機竜綱線で転倒させて隙をつくる。遊撃を任された以上は全力で取り組む気でいたガレンだが、あまりの数に愚痴をこぼす。
完全に混戦状態となっている中、ガレンは戦場を縦横無尽に駆け巡って援護と迎撃を続けた。
そして、次の幻神獣を探すために動きだそうとすると、突然カブトゼクターが現れて飛び回る。
「ちぃっ、このタイミングかよ!変身!」
『HEN-SIN』
『Change・Beetle』
乗っていたワイバーンを解除して飛び回るカブトゼクターを掴んでベルトにはめると、そのままゼクターホーンを倒す。仮面ライダーカブト・ライダーフォームに変身するやいなや
『Clock・Up』
凄まじい速度でその場から走り去っていった。
旧神殿跡地と遺跡の中間ほどにある洞窟。そこには2人の貴族と1人の少女がいた。しかし、出入り口には装甲機竜の残骸と死体、少女は奥で縛られている状態である。誰がどう見てもおかしいと言える状態である。
「貴公のせいだぞ!何が精鋭だ、こんな所で死ぬなどただの役立たずではないか!」
「何を言うか!貴公が油断して遺跡に近づいたからであろう!」
出入り口近くで2人の貴族の醜い言い合いを聞きながら、縛られた少女―――クルルシファーは諦めたような表情で横たわっていた。まるで自分を責めているというより、とうとうこの日が来たと分かっていたような顔である。
(誰も助けになんて来てくれない。よそ者な私なんかを……)
クルルシファー・エインフォルクはエインフォルク家の人間ではない。今まで本人は知らなかったが、ユミル教国の遺跡『坑道』にあったボックスの中に入っていた彼女を引き取り、育てたのがエインフォルク家現当主のステイル・エインフォルクなのだ。
幼いながらも自分が養子であることに気づいていたクルルシファーは、周囲との関わりを最小限に留め、常に警戒しながら努力を続けていた。いつか自分を家族として認めてもらえると信じて。
だが、今回の誘拐はクルルシファーの心にダメージを与えていた。誘拐されて眠らされるまでに、自分が遺跡の生き残りだとを知ってしまったが故に。最初は否定していたクルルシファーだったが、遺跡から大量の幻神獣が現れるのを見て確信してしまった。
そして、逃亡する際に貴族の私兵の機竜使いに投げ込まれ、機竜使いが幻神獣と相打ちになるのを見て、自分はここで死ぬのだと諦めていた。
その予想は現実になりかけていた。貴族の言い合いが大きかったのか、その声に反応してハイートが3匹寄って来たのだ。そしてあっさりと、2人の貴族を殴り殺してしまった。その光景を見ていたクルルシファーには恐怖はなく、感情のない虚ろな目を向けていた。
(……運命が違えば、私も普通の女の子のように過ごせたのかしら)
虚ろな目の奥に宿った僅かな感情。それは年頃の少女らしい願望。特別なことなどいらず、ただ平和な日常を過ごして生きたいという願い。遺跡の生き残りであり、貴族に拾われたが故に叶うことが無くなった願い。
それだけが心残りだったのか、目から涙が零れる。そして、ハイートがクルルシファーを叩き潰そうとした瞬間。
『Rider・Kick』
不意打ちに等しいタイミングでハイートが爆散し、目の前に紅の戦士―――カブトが立っていた。クルルシファーを縛るロープをナイフのような武器―――カブトクナイガン・クナイモードで切り裂く。
「何とか間に合ったみたいだなって、前と似たような状態だな」
「……どう、して……」
ロープを切っている間に現実に戻ったのか、座り込んでクルルシファーはカブトに呟く。
「どうしてって……、この状況で助けないってのも―――」
「違う!」
感情が追い付いてきたのか、涙を流しながら叫ぶ。
「なんで私を助けたの!私なんてただのよそ者!この世界に私の居場所なんてない!絶望しかない!このまま亡くなったって誰も悲しまない!なのに、なんで……!」
クルルシファーの独白に、固まっていたカブトは抱擁という行動で返す。クルルシファーが置かれている状況についてカブトは何も知らない。養子や遺跡の生き残りということも当然ながら知らない。だが、彼女の言葉だけでどれだけ苦しい思いをしていたか想像するのは難しくない。
「……同じだから」
「……え?」
「……両親が亡くなった時と同じだったから」
今度はクルルシファーが固まる。ここからは
「何もできなかった。分かった時には手遅れだった。情報も力も足りなかった。そして、間に合っても救えなかった。だから、失いたくない。理不尽な理由で死んで欲しくない!」
抱擁を解き、カブトは彼女を正面から見据える。
「よそ者だろうが何だろうが関係ない!お前が死んだら俺が悲しむ!俺がお前の希望になってやる!お前の居場所になってやる!」
荒くなった呼吸を整えると、立ち上がって手を差し伸べる。
「それでも死にたいなら手を払って貰って構わない。ただ、まだ絶望するには早過ぎる」
彼女はゆっくり手を伸ばす。まるで遠くの光を掴むように。そして、手に触れるとカブトは冷たくなったクルルシファーの手を握って立ち上がらせる。
すると、後ろから獣の鳴き声のような音が響く。振り向くとそこには2匹のガーゴイルがいた。ちょうど今見つかったようである。
「……全く、せっかく落ち着いたってのに」
生きたいと思ったが故にさっきは何も思わなかった幻神獣に、恐怖でカブトの後ろに隠れるクルルシファー。それを見ながら呆れた声を出すカブト。
「逃げに徹してもいいが、このまま放っといても厄介だな。倒しながら行くか」
そう呟くと、カブトゼクターを外してガレンは首のペンダントを外して空中に投げる。その瞬間、青い輝きを放って大剣に姿を変え、右手で柄を掴んで地面に突き刺す。
そして、自分の機竜を転送する
「咆哮せよ。万理の螺旋を破壊せし創滅の神竜。眷属を率いて新たな道を刻め。《ゾディアック》」
そこに現れたのは1匹の竜だった。銀のラインが入った夜空を模した藍色の装甲。背には円環が描かれ、囲むように12個の記号が書かれている。手には1本の白い剣―――
機竜を召喚したエネルギーで怯んでいる幻神獣の隙をつき、ゾディアックの神装を発動する。
「
すると、ゾディアックの色が赤に変わっていく。持っていた流星剣が消えて黄金の弓―――プロミネンスが召喚され、背には♐︎の記号が現れる。その姿は正に太陽を背負っているような風格があった。
プロミネンスが召喚されると同時に逆に持つと、弓から弦が消えて本体が折りたたまれ、握っていた部分が収納されて新たな柄が現れる。
柄を握ると、襲いかかって来たガーゴイルの攻撃を受け止める。そして、がら空きの胴体を蹴り飛ばし、勢いのままに加速。後ろにいたガーゴイルも巻き込んで、2匹同時に突き刺す。その体制から剣を頭が通るように振り上げて一匹を仕留めると、傷が浅かったもう1匹が好機とばかりに襲いかかる。
「バレバレだっての……!」
しかし、ガーゴイルの伸びた右腕を掴み、相手の勢いのまま洞窟の奥に向かって投げる。その一瞬の間にプロミネンスを振るって体を両断する。
僅かな時間で幻神獣2匹の討伐。それを見ていたクルルシファーは、あまりにも現実離れした光景に夢かと疑いそうになる。
その間にガレンは縛っていたロープを使い、呆然とするクルルシファーと自分を結んで左手で抱き上げる。
「さてと、しっかり掴まってろよ……!」
そう告げると、我に返って抱き着くクルルシファー。それを確認すると、洞窟を飛び出す。幸いにも見つかったのはあの2匹だけらしく、プロミネンスを弓に戻しながら上空に向かって飛翔する。
「
「さすがに押されるよな。幻神獣の多さを見るに、誰か遺跡に手を出したか?」
その目には、正に絶体絶命となっている傭兵達の姿が映っていた。あまりにも数が多過ぎるため、少しずつ押されているようである。
間違っていない予測を愚痴りながら、自動で装填される矢に最大のエネルギーを注ぎ込んでそれを天空に撃ち放つ。そして、今度は幻神獣に向かって狙いをつける。
その矢を番えた瞬間、矢自体が先端から回転し始める。それはまるでドリルのようである。
「撃ち抜け、
次回は続きと後日談です。