最弱無敗の神装機竜 ~閃紅の彷徨者~   作:The Susano

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お待たせしました。
ユミル教国編ラストです。



サブタイトル『未来の願いと再会の別れ』


1-5

その頃、戦場では数多の幻神獣が機竜に向かって襲いかかっていた。どこから現れたかなど考える暇すら無く、ただただ生き残ることに皆必死になっていた。

そこには、エクス・ワイバーンを纏ったウェインの姿もあった。神殿騎士団の幹部である彼は必死に幻神獣を倒していくが、数が多過ぎるために徐々に後退していたのだ。

 

「……たとえ1人になっても、猊下には指1本触れさせるな!」

 

オオッ!という掛け声が響くが、戦力の差があり過ぎるこの状況は覆らない。そもそも、今の戦況で生き残っていることが奇跡に等しい。

そして、とうとう限界は訪れる。今まで気づかなかった疲労がウェインの剣の軌道を鈍らせ、致命的な隙を生んだのだ。

 

(これまでか……。すまない、オルフェル、ケイネス、メル……)

 

目に映る走馬燈を見て、残してきた家族に謝罪するウェイン。ハイートの拳を見ながら目を閉じようとした刹那、

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい轟音と共にやって来た何かが通過し、ハイートを吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

余りにも突然すぎる強大な一撃に、自分がその余波のギリギリ圏外にいたと悟ることに時間がかかったウェイン。その場にいる人も幻神獣も唐突の出来事に停止していると、できた通り道に1機の赤い機竜が降り立つ。

そこには少女を抱えた青年―――ガレンがいた。この戦いの前に話していた時と全く変わらずにそこに佇む様子は、この場が戦場であることを一時的に忘れさせた。

 

しかし、その次の一言が全員の意識を現実に戻した。

 

「全員衝撃に備えろ!上からでかいのが来るぞ!」

 

ガレンがそう叫ぶと、反射的に全員がショック体勢をとる。そして、天空から夥しい数の光弾が幻神獣に向かって降り注いだ。

 

龍星群(ゲイザー・ドラグーン)―――あらかじめ天空に放たれた最大出力の矢が、無数の光弾となって相手に降り注ぐ技である。天空に放たれた後は一定高度で留まり、任意のタイミングで落ちるようになっている。また、ある程度範囲をコントロールできるため、敵のみに当てるということも可能である。

 

降り注いだ光弾が止むと戦場に残る幻神獣の数は半数以下になっていた。どの個体もどこかしらに傷を負い、その中でも光弾を耐えきった幻神獣は例外なく虫の息である。

 

「だいたい一掃できたな。ウェイン卿、彼女をお願いします」

 

「……後で説明してもらうからな」

 

精神的なショックは抜け切らないが、ある程度落ち着いて説明を催促して受け取るウェイン。ガレンは苦笑しながら腰に巻き付いたロープを持っていたナイフで切ると、クルルシファーから残念そうな声が出る。

 

「心配すんな。さっさと終えてくるからな」

 

そう言ってガレンはクルルシファーの頭を撫で、戦場に向かって飛んで行った。見送ったウェインは、顔を赤くしたクルルシファーを見ながらため息を吐く。同じ武門の棟梁であるエインフォルク家の少女がなぜこの場にいるのか。これだけで十分面倒なことだからだ。

 

模擬戦で顔を合わせ、馬車上で話し、偶然とはいえ戦場で助けられる。僅か2日でウェインにとってガレンには妙な信頼関係が出来上がっていた。政治上、様々な人と対面するが故に、人を易々と信じてはいけないのは分かっている。しかし、不思議とガレンには悪い印象を抱けなかった。それは、少女を預けられた今でも変わらない。

まるで、人を引き付ける才を持っているようにも思えた。

 

「……全く。とんでもない男と縁ができてしまったな」

 

そう呟いて苦笑するウェインであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、周辺にいたすべての幻神獣の討伐、または撃退に成功し、その日の巡礼は無事に終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、その戦いのお礼のために呼び出した訳ですか」

 

「どうしても上が呼べって納得しなくてね。それに、教皇猊下が亡くなるという最悪の事態を防いだ功労者を、貴族がそのままにはしない。そのあたりは予想してただろう?」

 

「なら非公式にでも呼び出せばいいでしょうに。謁見の間に呼び出すって」

 

ウェインの言葉にある意味当然の不満をぶつけるガレン。とは言っても逆らう気がないのは、大人しく馬車に乗っていることから明らかである。

先日の大乱闘から3日が経過し、すでに巡礼祭は終了している。その間もしっかり依頼を受けて無事に巡礼を終えたのだが、翌日の朝に騎士から呼び出されたのだ。その後、指定された時間と場所にはウェインがおり、神殿に連れて行かれているところである。なお服装は自前の正装であり、待っていた2人(・・)には驚かれた。

 

「まぁ、大暴れした責任を果たすべきなのは分かります。ただ……」

 

ガレンが向けた視線の先には、腕に抱きついているクルルシファーの姿があった。実は巡礼祭の2日共、依頼が終わった後にクルルシファーが会いに来たのだ。しかも一人で屋敷を抜け出して。

 

さすがに放置する訳にもいかないので、エインフォルク家に向かいつつ屋台巡りをして、家の門の前で別れるという状態だった。先日誘拐された少女とは思えないほどの行動力である。ちなみに、今回は普通にウェインと待っていた。

クルルシファーを誘拐した貴族については、その1族が責任を取って貴族の称号を剥奪されている。首謀者がすでに死んでいるとはいえ、棟梁の娘を誘拐したのだから、見抜いて止められなかったことへの罰だろう。

 

「また抜け出して来たんだろうが、ステイル卿に怒られないか?」

 

「今回は隠れて護衛してる2人を振り切らないから大丈夫よ。それとも、一緒にいては迷惑かしら?」

 

笑顔で返事をするクルルシファーだが、昨日、一昨日は監視を撒いて来ていたという事実にガレンは絶句せざるを得なかった。ついでに何を言っても言い返されるだろうと悟ると、ため息を吐いて諦める。抵抗が無くなるとクルルシファーは嬉しそうにまた抱き着く。

 

道中を凄まじい数の視線に晒される中、神殿に辿り着くと1人の女性がいた。ここからは司教の彼女が案内をするようである。ウェインとクルルシファーとはここで別れ、そのまま神殿内部の謁見の間に移動する。

 

「すでに教皇猊下がお待ちになられています。くれぐれもご無礼のないように。」

 

「ありがとうございます「それと……」?」

 

「ウェイン卿をお救い下さり、心よりお礼申し上げます」

 

小声でそう言って頭を下げる司教。その段階でガレンには様々に分岐した予測が過ぎたが、妙な想像をされてでも礼を言わなければと思ったのだろう。

 

「ウェイン卿にはお世話になりましたから。黙って受け取っておきます」

 

故に、察した上で他言無用を約束する。それを理解したのか、はっと顔を上げる司教だが、すでにガレンは正面の扉に立っていた。それを見て、若干慌てながら扉に問いかける。

 

「教皇猊下様。ガレン・フェグラ様をお連れしました」

 

「入れ」

 

司教に開けられた扉から前に進み出ると、1人の老人と3人の司教、そしてステイルやウェインを含む多くの貴族がいた。ちなみに、貴族が中にいるために神殿騎士団は外での守護にまわっている。武門の出の貴族が多いために、万が一ガレンが無礼を働いた場合は即座に捉えられるだろう。

ガレンはゆっくり歩いき、ちょうど部屋の中心となる位置に止まると跪く。これは直前に司教に教えられた礼節である。

 

「此度の巡礼祭における働き、誠に見事であった。褒めて遣わす」

 

「ただの傭兵の自分に過分な評価、恐悦至極にございます」

 

「謙遜せずともよい。数多の熟練の傭兵を倒し、ゼクターなる鎧を用いてエインフォルク家の子女を救い、見慣れぬ機竜にて千を超える幻神獣を討伐したと聞いている。少々過大な噂となっているようだが、そう例えられるほどの実力を持つのだ。十分に誇るがよい」

 

かなり詳細に伝わっているようである。噂の中でもかなり信憑性の高いものを出し、ガレンがクルルシファーを救出したことも出ている。噂だけを持ち出したのはわざとだろう。

 

「しかし、それほどまでの力を持ちながら全くの無名と聞く。不満には思わぬのか?」

 

「名を売ることに興味はありません。そもそも、力とは確固たる意志の元に振るわれるもの。名など、見た者が勝手に付けていくことでしょう」

 

「……名声に興味はないか。ならば余が褒美を取らすというならば、そなたは何を望む」

 

その瞬間、周囲の空間から凄まじい感情が渦巻いた。嫉妬・羨望・好奇心・憎悪・軽蔑、その他様々な視線が向けられる。しかし、ガレンは全く怯むことなく言葉を紡ぐ。

 

「何も望まない……、と言えれば良かったのですが、それでは気が済まないのでしょう?」

 

「その通りだ。恩人に何も報いることができぬなど、この場の誰も望まんだろう」

 

「ならば―――」

 

俯いていた顔を上げ、しっかりとした口調で告げる。

 

「―――将来、自分の作る組織の後ろ盾となることを望みます」

 

余りにも斜め上の発言に、周囲の声が止む。それほどまでに、とんでもない発言だったのだ。聞き間違いかと考える者がいる中、教皇だけはその言葉を正確に捉えていた。しかし、それでも想定外のことに反応が遅れていた。

 

「……今の己の幸福よりも未来を選んだか。そなたは本当に齢14か?倍以上の歳を重ねたような老獪さよな」

 

「お褒めに与り光栄にございます」

 

「そなたを余の元に置けぬことがますます惜しいな。……なるほど、故に後ろ盾か。余も老いたものだ」

 

クハハハッ!と笑い出した教皇に、周囲は完全に置いて行かれる。

 

「相分かった。後に書面にも残すとしよう。準備を頼むぞ」

 

「ははっ!」

 

教皇が司教に告げると謁見は終わりのようで、形式的な流れになり、神殿の外に案内される。すでに巡礼祭は終わっているために賑わいは鳴りを潜め、どこか落ち着いた雰囲気を出している。

ガレンは今回のユミル教国の来訪は、正に大成功と言える代物と言えるだろう。正直に言って、ここに縁ができれば御の字。本格的な対面は次回と思っていたのだが、教国の後ろ盾を得られるまでに至れたのは奇跡や幸運の域にあった。

 

宿に戻る道すがら、これまでのことを思い返しながら、自分の戦いはこれからと再認識するガレンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、謁見から2日後の朝。ユミル教国を出発する日がやってくる。門の前には、出ることを伝えていたウェインとステイル、クルルシファーがいた。

 

「見送りは嬉しいですが、仮にも武門の二大棟梁の長が簡単に出て来ていいんですか?」

 

「私たちのどちらもが君に救われたのだ。短い関わりだったとは言え、最後の見送りには行かねばならんだろう」

 

「私の場合は、教皇の名代も兼ねているがね。これが後ろ盾の書類と、国内での通行手形だ」

 

そう言って、ウェインから一枚の羊皮紙と金属プレートが渡される。通行手形はおまけなのだろう。それを受け取ると、クルルシファーが歩み寄ってくる。寂しいのか、今にも泣きそうな顔になっている。

 

「……また、会える?」

 

「俺にはやることがある。間に合えば、次の巡礼祭に来れるかな。1年後にはまた会える……!?」

 

言葉の途中で、クルルシファーがガレンに抱き着く。嗚咽が聞こえる中、ガレンはそっと頭を撫でる。すると落ち着くと同時に恥ずかしくなったのか、目が赤くなったクルルシファーはステイル卿の後ろに回り込む。

 

「これも彼のおかげでしょうか。ずいぶんと女の子らしい反応をするようになりましたな?」

 

「ああ、全くだ。ところでガレン君。次はどこに向かうのかね?」

 

「ブラックンド王国に。雪が本格化する前に辿り着ければと思っています」

 

ウェインがニヤリと笑うのを同じように笑いながら、ステイルはガレンの行き先を聞く。確かにこれ以上滞在していては、雪に道を塞がれるのは確実だろう。ガレンにも予定があるのだから、この国に縛る訳にはいかない。

 

「ああ、そうそう。これ、渡しときますね」

 

そう言うと、ガレンは2通の手紙をウェインとステイルに渡す。一見すると片手間で作ったようにしか見えないが、透かして見えないように細工がされている。

 

「個人に宛てたものなんで、できれば人に見せないようにお願いします」

 

「この場で聞くのもおかしいが、中身の内容は?」

 

「開いてからのお楽しみということで。ただ、善にも悪にも転がる内容なので、御二人を信頼して渡したことを覚えておいてほしいとだけ」

 

「そんな手紙をこの場で渡すな……」

 

ウェインの呆れた返事にガレンは笑い返すと、ユミル教国に背を向ける。

 

「それでは、この辺で失礼します。短い間でしたが、ありがとうございました」

 

「道中気をつけろ……って言うまでもないか」

 

「また会える日を楽しみにしていよう。」

 

そう言われ、歩き出そうとすると、

 

「……ガレンさん!」

 

「なn……!?」

 

振り向こうとした瞬間にクルルシファーに抱き着かれ、頬に柔らかい感触が当たる。まさかの行動にガレンも固まり、そして走ってステイルの元に戻っていく。

一瞬幻かと思ったガレンだが、現実を認識すると少しだけ顔が赤くなる。恥ずかしさで逸る気持ちを抑えて、一切振り向かずに歩き出す。

 

 

 

 

 

 

鍵の管理者(エクスファー)』の少女と、星竜を担う彷徨者。物語の歯車は未だ回らずとも、未来への歯車は回り始める。

2人の未来の行方は、まだ誰にも分からない。




ガレンの行く国に関しては適当に決めてます。
というか、誰かこの世界の地理を教えてくれ!

輝射彗星は7巻該当部にて説明します。

さて、散りばめた伏線回収ができるのはいつになるやら……。
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