あいどる依田芳乃さんとそのぷろでゅーさーさんが雨に降られるお話です。

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雨の日の楽しみ方。

しとりしとりと空が泣く。

先刻までの晴れ間をじんわり覆い隠すように、少女は降り注ぐ雨粒を手の平に掬いあげ、また足元へと落とす。

「ひゃー、急に降ってきたな。」

エントランス前で空を見上げる少女の隣へと、スーツ姿の男性が歩いてくる。

「おっ、なんだ、芳乃も傘を忘れたのか?」

男は雨粒で濡れた手を払う少女へと声をかける。

「そなたー」

名を呼ばれた少女は、柔らかく微笑みながら男を見上げた。

「待ってろ、置き傘があったかもしれない。ちひろさんに訊いてくるよ」

男は、小走りで元来た道の先にあるエレベーターの中へ消えていった。

 

 

「お待たせ!」

同じように小走りで戻ってきた男は、1本のビニール傘を携えて芳乃のもとへとやってくる。

「とりあえず、この傘を使ってくれ」

そう言って、男は芳乃に持ってきた傘を渡す。

「そなたはー、いかがなさるのですかー」

芳乃が握らされた傘に落とした視線を上げながら尋ねる。

「俺は、あー……タクシーでも捕まえるよ」

明後日の方向を見ながら、男は人差し指で頬を搔いた。

芳乃は、「ふむー」と、再度傘に視線を落とした後、

「それならばー、良い方法があるかとー」

と、にっこり微笑んだ。

 

 

「あのー、芳乃さん?これはちょっと……」

さらさらと降る雨の下、開かれた1本の傘の下で、芳乃と男が身を寄せ合って歩く。時折触れる小さな肩を受けながら、男は堪らず声を掛けた。

「止まぬ雨にー、一本限りの傘ー、それならばー、こうするしかないかとー」

芳乃は弾む雨粒のようにご機嫌の様子。

「いや!この傘は芳乃が使ってくれって言ったよね?!俺はタクシー使うって言ったよね?!」

思わずツッコミのようなテンションで男は言う。

「わたくしは使っていますよー?ほらー、こうしてそなたと二人でー。ふふー。」

屁理屈同然の返しにあんぐりと口を開けている男に、芳乃はくるりと向き直って続ける。

「それにー、わたくしのことを守るのはー、ぷろでゅーさーとしての務めかとー」

そう言って悪戯に笑う芳乃の表情を直視出来ずに、男は

「……わかったよ」

と小さく呟いて、そっぽを向いた。

「大体ー、そなたは自己管理というものにもう少し気を使うべきですー。毎日こんびに弁当や外食ばかりでー。たくしーに使うお金があるならー、少しは己が身体を労うべきかとー」

芳乃の口調も相まって、まさに説法のような耳の痛い話にはい、すみません、はいと返事をしながら、Pと芳乃は帰路を辿った。

 

 

「そう言えば、芳乃って雨を降らせたり止ませたり出来そうなもんだよな」

そう言ってPが冗談っぽく笑う。

芳乃の持つ独特の雰囲気というか、言うなればどこか神様のような立ち居振る舞いを見ていると、何か不思議な力を使えてもおかしくないような気がすると言う人は少なくない。

「……いえいえ、できませぬよー」

一呼吸置いて、微笑みを携えた芳乃から返事が帰ってくる。

(否定はするんだけど、返し方がやっぱり何となくできそうだ……)

彼女の1つの魅力でもある、その神秘性のようなものを改めて見せつけられ、Pが息を飲んでいると、その様子を見た芳乃は、ふふー。と微笑み、

「物は試しにー、祈りを捧げてみるのも良いかもしれませんねー」

と、突然傘から飛び出し、Pの目の前でひらひらと舞い始めた。

「おい、芳乃!おまっ、濡れっ、風邪ひくだろ!」

慌ててPは持っていた傘を芳乃の頭上へと持っていこうとする。

「そなたがわたくしを守って下さいませー、ふふー」

ひらりひらりと、芳乃は舞いながらPの脇をすり抜けて、柔らかく降り注ぐ雨粒の中で踊る。芳乃の舞に合わせて、足下の水溜まりがぴしゃり、ぱしゃりと音を刻む。

「あぁ……もう!捕まえた!」

Pは芳乃の肩を抱き抱えるようにして、ようやく彼女を捕まえた。持っていた傘が中を舞い、アスファルトへと落ちる。

Pと芳乃の視線が絡む。意図した訳では無い、無我夢中で抱えこんだ芳乃が腕の中でPの顔を見上げ、Pは捕まえた芳乃の事を見た、ただそれだけの事だったが、水気を帯びて髪が頬に張り付き、ほんのり赤く染まっている彼女の姿が、この世の何よりも美しく感じた。

「そなたー?」

静止画のように切り取られた一瞬から、芳乃の声で呼び戻される。Pは慌ててその手を離し、傘を拾い上げた。

「お、おふざけがすぎる……ぞ……」

叱っているつもりでも、全く別の感情が邪魔をして、台詞を読みあげるだけになってしまう。拾い上げた傘を芳乃の頭上へと持っていくと、芳乃は濡れた髪をゆっくりとかきあげて

「ふふー、お許しをー」

と笑った。

 

 

「さて、ようやく女子寮に着いた訳だが」

いろんな意味でどっと疲れたPが、芳乃が住む女子寮の門の前で一息つく。

「わざわざありがとうございますー」

芳乃は、傘の下でぺこりと小さくお辞儀した。

「門から建物まで少し距離があるけど、一応決まりだからな、俺はここから入れないんだ。だから、この傘持って言っていいぞ」

Pが芳乃に傘を渡そうとすると、

「大丈夫ですよー」

と、芳乃は鞄をごそごそと漁り始め、中から何かを取り出す。

「おまっ……それっ……!」

Pは、芳乃が取り出した『それ』を指差し、わなわなと震える。

「はいー、折りたたみ傘でしてー」

芳乃は満面の笑みで答えた。

「おい、それじゃ相合傘なんてする必要なかったじゃないか!なぁ!あっ!ちょっ!待て!待って!よしのーーーん!!!」

Pの制止も聞かず、芳乃はサッと傘を開いてぱたぱたと門の向こうへ掛けていく。

「そなたー、風邪を引かぬようー、暖かくして寝るのですよー」

そう言いながら手を振る芳乃に、はぁ、と小さくため息をつきつつも、Pはひらひらと手を振り返した。

 

 

ーーー翌日、事務所には、一連の出来事を目撃していた女子寮利用者からのタレコミで、Pが数人の女の子に囲まれて尋問を受ける姿が目撃されたとさ。


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