佇む少女は機械仕掛け 作:ロボッピ
幼い転入生を心配して親切心から勉強の面倒を見てくれた三沢にユキは感謝していた。しかしそんな相手とデュエルアカデミアに入ってから初の実技試験でいきなり当たることになり、やや緊張した面持ちでデュエルコートに立っていた。
「ユキ、遠慮なんてしないでくれよ」
「三沢さん」
「全力をかけて向かってくるんだ。それが君のためにもなるし、俺のためにもなる」
「……はい!」
向かい合うユキの表情が程よく緩んだことを確認すると三沢は頷いてディスクを構えた。
(俺がユキの情報を持っていないのは幸運と言うべきか。課題であるデュエル内での対応力を鍛えるには理想的な相手だ)
「「デュエル!」」
「先攻は俺だ。俺のターン、ドロー! ……ハイドロゲドンを召喚する!」
水溜りが出現すると水面にいくつもの泡が浮かび上がり、やがて水溜りが地面から剥がれるように隆起すると、毛が逆立つように泡が盛り上がった両生類のような生物となって起き上がった。
ハイドロゲドン 攻撃力1600
「2枚のカードを伏せて、ターンエンドだ」
三沢 LP4000
フィールド 『ハイドロゲドン』(攻撃表示)
セット2
手札3
「ユキのターン、ドロー。……2枚の永続魔法を場に出す」
「……!」
「補給部隊、マシン・デベロッパー!」
前線にエネルギーを補給する基地が建設されると、その後方に機械を生産する工場が建てられ、金属音が混じった作業音が基地にまで響いた。
「永続魔法による戦線維持……。ユキの得意戦術ね」
「そしてUFOタートルを召喚」
円盤が低空飛行で現れると徐々に減速していき、隠されていた亀の顔と四肢が伸びて着地した。
UFOタートル 攻撃力1400
「マシン・デベロッパーがある限り、フィールド上の機械族モンスターの攻撃力は200アップする。これにより機械族のUFOタートルの攻撃力は上昇する」
UFOタートル 攻撃力1400→1600
(マシン・デベロッパーは機械族専用のサポートカードか。ならばユキのデッキは機械族に重点を置いている可能性が高いな)
「……バトル。UFOタートルでハイドロゲドンに攻撃?」
「む……」
亀がジャンプして手足と顔を引っ込めると、円盤が浮遊して回転しながらハイドロゲドンに向かっていった。
(いきなり相討ち……いや、UFOタートルは代表的なリクルーターと呼ばれるモンスター。戦闘で破壊されてもデッキより後続を呼び出すことが出来る。むしろ相討ちにより後続はダイレクトアタックを仕掛けることが出来る、か)
「悪くない戦術だが……そう簡単に狙い通りにはさせない! 速攻魔法、突進! これによりハイドロゲドンの攻撃力はターンが終わるまで700上昇する!」
「うっ……しまった」
ハイドロゲドン 攻撃力1600→2300
ハイドロゲドンが空気中の水分を取り込んでいくと身体が一回り大きくなり、口に当たる部分から勢いよく水が放たれて円盤を撃ち落とした。
「きゃ……!」
ユキ LP4000→3300
「……機械族モンスターが破壊されたことでマシン・デベロッパーにジャンクカウンターが2つ置かれる」
円盤の欠けた部品がベルトコンベアに乗せられて工場に回収されていく。
マシン・デベロッパー ジャンクカウンター0→2
「補給部隊、UFOタートルの効果を発動。UFOタートルが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを1体攻撃表示で特殊召喚出来る」
「ならばこちらもハイドロゲドンの効果を使わせてもらうよ。ハイドロゲドンがモンスターを戦闘で破壊して墓地へ送った時、デッキよりハイドロゲドンを1体特殊召喚出来る!」
「……!」
ハイドロゲドンが水砲を横の地面に向けて発射すると、水溜りが変形して新たなハイドロゲドンが誕生した。
ハイドロゲドン 攻撃力1600
(さて……彼女はどう出るかな。マシン・デベロッパーにより攻撃力1400以上の機械族・炎属性のモンスターを呼び出せば新たに呼んだハイドロゲドンを破壊することが出来る。もし炎属性が中心のデッキなら2体目のUFOタートルという選択肢も十分に考えられる。逆に言えばこれらの選択を取らなかったら……)
「ユキは……ミスター・ボンバーを特殊召喚する」
工場に回収されなかった円盤のパーツの下部分から不可思議な光線が降りてくると、やがてモンスターのシルエットが見えてくる。光線が途切れた時には、バネを足代わりにし、小型の爆弾を本体から伸びているアームで持つ赤い球体のロボットの姿がはっきりと見えるようになった。
ミスター・ボンバー 攻撃力800→1000
(……やはりな。ユキのデッキはそこまで炎属性が中心ではないようだ。【機械族】のデッキと見ていいだろう)
「……補給部隊は自分フィールドのモンスターが破壊された場合に発動し、その効果により1ターンに1度ユキはドローを行う」
残された円盤が基地に回収されるとそれをエネルギーとして一筋の光が放たれ、ユキのデッキに吸収される。するとデッキの1番上のカードが輝きだした。
「……ドロー!」
(俺の妨害が無ければモンスターの破壊、デッキからの特殊召喚とドローにダイレクトアタックといい流れで繋がれていたな。だがその流れは断ち切った!)
「……カードを3枚伏せてターンエンド!」
「……! 魔法・罠ゾーンを全て埋めたか……。この瞬間、突進の効果は切れてハイドロゲドンの攻撃力は元に戻る」
ハイドロゲドン 攻撃力2300→1600
ユキ LP3300
フィールド 『ミスター・ボンバー』(攻撃表示)
セット3 『補給部隊』 『マシン・デベロッパー』
手札1
「俺のターン!」
三沢はドローカードを手札に収めると最善手を探るべく思考を巡らせた。
(まだデュエルは序盤。ここで俺がすべきなのはリスクを負いすぎず、かつ出来るだけ相手にとって嫌な選択をすることだ。……よし、ここは追撃のモンスターは出さずに攻撃を仕掛ける!)
「バトルだ! ハイドロゲドンでミスター・ボンバーに攻撃!」
(さあ、どう来る!)
ハイドロゲドンが地面にくっつくようにしゃがむと溶けるように地面に沈んでいく。ミスター・ボンバーが相手を見失っていると背後の地面からハイドロゲドンが現れ、押し潰した。
ユキ LP3300→2700
「くっ……マシン・デベロッパーにジャンクカウンターが2つ乗り、補給部隊の効果でカードを1枚ドローする」
マシン・デベロッパー ジャンクカウンター2→4
(……トラップの発動は無しか)
「ならばハイドロゲドンの効果によりデッキから3体目のハイドロゲドンを特殊召喚する!」
2体のハイドロゲドンの呼び声に応えて仲間が駆けつけてきた。
ハイドロゲドン 攻撃力1600
「この2体の攻撃が通れば君のライフは尽きる。2体目のハイドロゲドンでユキにダイレクトアタック!」
ハイドロゲドンが息を思い切り吸い込み、高水圧の水砲が放たれた。
「トラップ発動、ピンポイント・ガード! 相手が攻撃してきた時、墓地のレベル4以下のモンスターを1体守備表示で特殊召喚する。この効果でレベル3のミスター・ボンバーを呼び戻す!」
ユキを水砲から守るように赤い球体のロボットが現れるとその身で攻撃を受ける。
ミスター・ボンバー 守備力900
「この効果で呼び出したモンスターはこのターン破壊されない」
一定時間の効果がある耐水性の加工が施されており、水砲は弾かれていった。
「……なるほどね」
(だが確実に俺の場とユキの場の戦力差を広げられた。ここでさらに戦力差を広げ、
「メインフェイズ2に入り、オキシゲドンを召喚する!」
フィールドに小さな竜巻が発生するとその竜巻に風で出来た翼と尻尾が生えてワイバーンとなり、咆哮をあげた。
オキシゲドン 攻撃力1800
「さらにトラップガード、
「え……? 自分のデッキを……破壊?」
三沢のデッキを2本の鎖が貫くとそれぞれに突き刺さったオキシゲドンのカードが墓地へと埋葬された。
「これでターンを終了するよ」
三沢 LP4000
フィールド 『ハイドロゲドン』(攻撃表示)×3 『オキシゲドン』(攻撃表示)
セット0
手札3
「ああ……三沢君のフィールドに4体のモンスターがいるのにユキの場には攻撃力が低いモンスターが1体いるだけ。圧倒的っす……」
「どうだろうな。何が起こるのか分からないのがデュエルの面白いところだぜ」
「ユキのターン……ドロー。このスタンバイフェイズで伏せカードを発動させる」
「何……?」
「トラップカード、逆さ眼鏡。このターンに限り、フィールドにいる全てのモンスターの攻撃力は半減する」
時空が歪んでいくと全てのモンスターの身体が小さくなっていった。
ミスター・ボンバー 攻撃力1000→500
ハイドロゲドン×3 攻撃力1600→800
オキシゲドン 攻撃力1800→900
「なるほどね。逆さ眼鏡を発動した後に呼び出したモンスターはその効果を受けない。そこを利用してモンスターを減らそうということか」
「半分正解。だけど半分は……不正解? ミスター・ボンバーの効果を発動! このモンスターはスタンバイフェイズに生贄に捧げることで、攻撃力1000以下のモンスターを2体破壊出来る……!」
「なっ……」
「狙いはオキシゲドンとハイドロゲドンを1体ずつ。……起爆!」
球体のロボットがオキシゲドンとハイドロゲドンの足元に小さな爆弾を投げ込むと、自身の頭に取り付けられたスイッチを起動する。するとロボット自身が起爆剤となって爆発し、投げ込まれた爆弾によって三沢のモンスターも消滅してしまった。
「逆さ眼鏡によって2体とも攻撃力が1000以下となってしまった。俺のバトルフェイズではなく、自分のスタンバイフェイズにこのコンボ攻撃を仕掛けるのが狙いだったのか……!」
「まだ終わりじゃない? 永続トラップ、リミット・リバース。攻撃力1000以下のモンスターを攻撃表示でユキの墓地から蘇らせる。戻ってきて、ミスター・ボンバー」
「……! ま、まさか……!?」
「そう、今はまだスタンバイフェイズ。2体のハイドロゲドンを対象に……起爆!」
墓地からフィールドに繋がる小さな穴からロボットが復活すると爆弾を投擲し、自身を起爆剤として全てのモンスターを爆発させた。
「参ったな。まさかスタンバイフェイズで4体のモンスターが全滅させられるとは……!」
(これで三沢さんの場はがら空き。ここを攻めない手はない……! 見ていて亮さん、師匠)
ユキは手札にある1枚のカードに目を向けた後、観客席にいる亮と吹雪の方に少しの間振り向き、意を決したように前を向いた。
「マシン・デベロッパーのさらなる効果を発動。このカードを墓地に送ることで、このカードに乗っていたジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ機械族モンスターを1体ユキの墓地から蘇らせる。あと1回だけ……お願い、ミスター・ボンバー」
工場に送られた部品から赤い球体のロボットが復元されていく。部品の状態が悪く少しボロボロな状態ではあったがその機能は正常に稼働していた。役目を終えた工場は消滅していく。
ミスター・ボンバー 攻撃力800
(ユキのデッキにいたモンスターは全て機械族。だけど今までのデュエルでそれは更なる
「融合呪印生物—地を召喚……!」
地面が隆起していくと砕けた石が空中に集まっていき、脳のような形をした岩石のモンスターが宙に浮かんだ。
融合呪印生物—地 攻撃力1000
「なっ……岩石族のモンスターだと!」
(機械族以外のモンスターが入れられている可能性を想定していないわけではなかったが……少しでも読みとのズレがあると対応も遅れてしまう。対応力の向上のためにもこのデュエル、学ぶべきことは多そうだ)
ユキが召喚したモンスター、そこから予想される戦術に心当たりがあった亮は吹雪に問いかけた。
「吹雪、もしかしてあの戦術をユキに教えたのか?」
「いや……僕はデュエル中に見せただけだよ。そこから学んだのは彼女自身さ。……とはいえあれからまだ2週間。慣れない戦術をこうもすぐに取り込めるとはね。まるでスポンジが水を吸収するようだ。……だけど僕と彼女では使うカードも戦術もまるで違う。ここからどういった展開に繋げるのか……楽しみだね」
「行きます。融合呪印生物—地の効果を自身とミスター・ボンバーをリリースすることで発動! このカードを含めた融合素材一組を自分フィールドからリリースすることで『融合』を使わずにその融合先となる地属性融合モンスターを融合デッキより特殊召喚することが出来る……!」
「『融合』を使わず、モンスターのリリースで融合モンスターを呼び出すだと……!?」
「さらに融合呪印生物は融合素材モンスターの代わりとすることが出来る。ユキはこのモンスターさんを二頭を持つキング・レックスとして扱う!」
脳の形をした岩が頭の軸となり身体が岩石により作られていくと、もう一つの頭も岩石により形成され、二つの頭を持つ恐竜の姿となってミスター・ボンバーと渦により交わっていった。
「
威嚇が響き渡ると尻尾を大きく跳ねさせながら巨大な恐竜が姿を現す。右手には自身のものである鋭い爪が獲物を待つように鈍く光っていたが、左手には金属の固定具によってガトリング砲が取り付けられていた。
メカ・ザウルス 攻撃力1800
「くっ……だが融合前と総攻撃力に変化はない」
「それは……どうかな? 装備魔法、フュージョン・ウェポンをメカ・ザウルスに装備。このカードはレベル6以下の融合モンスターにのみ装備出来る。メカ・ザウルスのレベルは5……条件は満たしている。その効果で攻守を1500上昇させる……!」
「なっ……」
ユキの発動した魔法カードから放たれた光がメカ・ザウルスを包むと、光が止む頃には右手にもガトリング砲が取り付けられていた。
メカ・ザウルス 攻撃力1800→3300 守備力1400→2900
「攻撃力3300……!?」
「バトル。メカ・ザウルスで三沢さんにダイレクトアタック……!」
砲口が三沢に向けられるとけたたましい音を響かせながら無数の砲弾が放たれた。恐竜の手に取り付けられるほど大きなガトリング砲であったため反動も凄まじいものだったが、強靭な体躯によりその反動を苦にせず標準がぶれることもなかった。
「ぐうっ……!」
三沢 LP4000→700
(これだ……デュエルにはこれがある。ターン開始時に4体のモンスターを並べた状態で攻撃力3000を超えるモンスターの直接攻撃を受ける確率はそう高くはなかった。だが0でなければどんなことが起こってもおかしくない……それがデュエルの醍醐味であり、計算しきれないところでもある)
「ターンエンド」
(攻撃力3300のモンスターをそう簡単には倒せない。このまま押し切る……!)
ユキ LP2700
フィールド 『メカ・ザウルス』(攻撃表示)
セット0 『補給部隊』 『フュージョン・ウェポン』 『リミット・リバース』(使用済み)
手札1
(……状況は劣勢。だがここから修正する……!)
「俺のターン! ……マジックカード、化石調査! デッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える。俺はレベル5のデューテリオンを手札に加え、そのモンスター効果を手札から捨てることで発動する!」
調査班によって発掘された恐竜の骨が空気に触れると、途端に骨が水を纏って荒々しい足取りで歩きだした。
「デューテリオンの効果により俺はボンディングトラップ、ボンディング—DHOを手札に加える!」
「トラップを手札に……」
デューテリオンが立ち止まると尻尾を地面に叩きつける。すると地中から水が勢いよく噴き出し、押し出された1枚のカードが三沢の手に収まった。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」
「え……」
三沢 LP700
フィールド 無し
セット1
手札3
(どういうつもり? あれではトラップを伏せたと宣言しているようなもの……)
「ユキのターン、ドロー」
ユキはドローしたカードを手札に加えると手札とフィールドを見比べるように見渡す。しかし次の行動を決めかねていた。
(ダイレクトアタックのチャンスとはいえ……トラップの可能性が高いのに攻撃を仕掛けていいのかな。でもこのチャンスを逃して時間を与える訳にも……)
(悩んでいるな。伏せカード1枚のみでも案外見た目ほどの攻めやすさはないかもしれない。ここから予測される選択はこのまま攻撃、追撃のモンスターを出して攻撃、伏せカードの除去や無力化、あるいはトラップを警戒して攻撃しないといったところか。だが選択次第で俺に有利になることはあっても、俺なりにどの選択でも対応出来る策を用意したつもりだ。……さあ、どう来る!)
しばらく考え込んでいたユキだったが、状況を整理し終えると決心した。
「……バトル! メカ・ザウルスでダイレクトアタック!」
(俺に時間を与えないためにリスクを負って攻撃、ただし追撃のモンスターを呼ぶまでのリスクは負わなかったか……)
「墓地のデューテリオン、ハイドロゲドン、オキシゲドンを1体ずつデッキに戻すことでボンディング—DHOを発動する!」
「やはりトラップ……!」
「重水素と水素と酸素が結合することで重水が生成される。方程式は整った! 効果により手札のウォーター・ドラゴン—クラスターが特殊召喚される!」
三沢のフィールドが水で満たされていく。水が激しくうねると波が二つの首となって生えていき、双龍となって顕現した。
ウォーター・ドラゴン—クラスター 攻撃力2800
「ユキのターンに最上級モンスターを特殊召喚……でもその攻撃力なら倒せる!」
「そう簡単にはやらせないよ。ウォーター・ドラゴン—クラスターには2つの効果がある。1つ目の効果は特殊召喚に成功した場合にこのターン相手フィールドの効果モンスターの攻撃力を0とし、その効果の発動を封じる効果だ」
「……!」
双龍が口から水を放つと、水が通った場所が絶対零度に限りなく近い温度の氷となっていく。やがて放たれた先にいたメカ・ザウルスに直撃し、その身体を凍らせた。
「……そうはさせない」
「……!」
身動きが取れなくなった恐竜だったが、絶滅を回避すべく本能的に内部に仕込まれていた機械を動かすと稼働により発生した熱が氷を溶かしていき、身体の自由を取り戻した。
「メカ・ザウルスは一切の効果を持たない……よってその効果を受け付けない」
(そう……多くのモンスターへの対応が可能なウォーター・ドラゴン—クラスターだが万能ではないんだよな。しかし結果的に影響が無かったとはいえ追撃のモンスターが出た際の対策として悪くは無かったはずだ)
「あれっ、効果を持たないモンスターってことはメカ・ザウルスは通常モンスターってことっすか?」
「いえ、違うわ。融合や儀式モンスターはたとえ効果を持たなくとも通常モンスターとしては扱われないのよ」
「ええっ!? じゃあどういう扱いなんすか?」
「通常モンスターでも効果モンスターでもないそれ以外のモンスター……としか言いようがないわね」
「な、なんかややこしいっすね……」
「へへっ……勉強が足りないな、翔」
「アニキだって分かってなかったじゃないっすかー!?」
(兄さんは私のプライドが高すぎるって言ったけど、さすがに感覚派のこの二人に相談する気にはなれないわね……)
吹雪のアドバイスを受けてデュエルを見ながら相談の相手を探していた明日香。セブンスターズとの戦いで活躍した十代に相談することも考えていたが、彼が戦術面でのアドバイスをする姿は想像出来ず候補から外した。
「だがメカ・ザウルスのみで攻撃してきた時の対策も十分にしている。ウォーター・ドラゴン—クラスターの2つ目の効果を発動! 自身をリリースすることでデッキから2体のウォーター・ドラゴンを召喚条件を無視して守備表示で特殊召喚する!」
「……! ドラゴンが分離していく……!?」
双龍を繋ぐ水が分裂していくと、それぞれが独立した水龍としてその胴体を激しく波打たせた。
ウォーター・ドラゴン×2 守備力2600
「なら攻撃対象をウォーター・ドラゴンへと変更……!」
恐竜が大きく口を開くとのぞかせた砲塔から火炎放射を放ち、水龍を蒸発させてしまった。
「破壊されたウォーター・ドラゴンの効果を発動! このカードが破壊された時、墓地に眠るハイドロゲドン2体とオキシゲドン1体を復活させることが出来る!」
「うっ……」
三沢のフィールドの半分から水が消え去ると水蒸気に紛れて3体の恐竜が墓地より帰還した。
ハイドロゲドン×2 守備力1000
オキシゲドン 守備力800
「モンスターがいない状態から4体のモンスターが……ターンエンド」
(ユキのターンなのにまるで三沢さんのターンのような錯覚に陥るほどの展開……。攻撃力を超えられてないとはいえ、このままだとまずいかもしれない)
ユキ LP2700
フィールド 『メカ・ザウルス』(攻撃表示)
セット0 『補給部隊』 『フュージョン・ウェポン』 『リミット・リバース』(使用済み)
手札2
「俺のターン! 墓地のボンディング—DHOを除外して効果を発動する。これにより墓地のウォーター・ドラゴンを手札に加え……マジックカード、トレード・イン。手札のレベル8モンスター……今加えたウォーター・ドラゴンを墓地に捨てることで2枚のカードをドローさせてもらうよ。……よし」
「ん……」
「このカードは通常召喚出来ない代わりに自分フィールドのレベル7以上のモンスターを1体リリースすることで手札から特殊召喚することが出来る。ウォーター・ドラゴンをリリース!」
三沢のフィールドを覆っていた全ての水が流されていくと、黒のパーツを接合部として紫色の胴体や手足を繋いだマシーンが代わりに出現した。
「出でよ、プラズマ戦士エイトム!」
プラズマ戦士エイトム 攻撃力3000
「おお……!」
「……ユキ、すまないがプラズマ戦士エイトムは機械族じゃなく雷族だ」
頭に取り付けられた4つのアンテナの間に電気が走った。
「え……そうなの?」
(いや……でも、電気と機械は切っても切れない関係。むしろアリなのかもしれない……)
「バトルだ! プラズマ戦士エイトムで攻撃を仕掛ける!」
「……えっ、攻撃力がメカ・ザウルスより低いモンスターで攻撃……!?」
一瞬、思考が飛びかけたユキだったが現実に戻ってくると三沢の宣言に違和感を覚えた。
「プラズマ戦士エイトムは相手に与えるダメージが半分になる代わりに直接攻撃をすることが出来る。よって攻撃の対象は君自身だ!」
「モンスターを超えてダイレクトアタック……!」
マシーンが電気を上空に放つと、ユキの頭上に暗雲が立ち込めて雷が落とされた。
「ううっ……」
ユキ LP2700→1200
「カードを1枚伏せてターンエンドだ」
(もう一度ダイレクトアタックを受けたら終わり。次のターンでメカ・ザウルスで攻撃してエイトムは倒さないと……ん?)
ユキは3番コートの試験官を務めているクロノスに目を向けると彼とのデュエルを思い出し、自分が焦っていることに気がついた。
(……そうだった。まずはドローしてから考えよう)
三沢 LP700
フィールド 『プラズマ戦士エイトム』(攻撃表示) 『ハイドロゲドン』(守備表示)×2 『オキシゲドン』(守備表示)
セット1
手札2
「ユキのターン……ドロー!」
ユキは新たなカードを手札に収めると改めて戦略を脳内で組み始めた。
(カードが色んな道を示してくれている……。その中で勝利に向かうルートを見つけることこそ、ユキの務め。……よし)
しばしの間考え込んでやや目線が下がっていたユキの顔が意を決したように上げられた。
(来るか……)
「……神機王ウルを召喚!」
足に当たる部分が地面の一点を指すように鋭く尖った人型のロボットが稼動音を立てながら出陣した。
神機王ウル 攻撃力1600
「新たにモンスターを出したか……」
(メカ・ザウルスでエイトムに攻撃し、神機王ウルでオキシゲドンを倒す算段か?)
「さらにマジックカード、渾身の一撃を神機王ウルを対象に発動する……!」
「……!」
「このカードの対象となったモンスターはこのターン戦闘では破壊されず、このモンスターの攻撃で発生する戦闘ダメージは互いに0になる。またこのモンスターが相手モンスターを攻撃した場合、ダメージ計算後に相手モンスターは破壊される……!」
(……そう来たか。ならばプランBに変更する!)
「やらせはしない! トラップカード、
「……! ユキの魔法カードが……!?」
ユキが発動した渾身の一撃を覆うように津波が襲いかかり、カードを流していった。すると津波に巻き込まれた基地とメカ・ザウルスの左手に取り付けられたガトリング砲も被害を受けてしまった。
メカ・ザウルス 攻撃力3300→1800 守備力2900→1400
「う……渾身の一撃が無効化されただけじゃない。補給部隊とフュージョン・ウェポンまで無効に……あっ! このターン、メカ・ザウルスでエイトムに攻撃していたら、フュージョン・ウェポンが無効化されることで1200ダメージを受けてユキのライフは尽きていた……!?」
(気づいたか。そう……それが俺のプランA)
攻撃を凌がれるどころか、三沢はこのターンでカウンターによる決着を狙っていたことに気がつくとユキの頬に冷や汗がつたった。
「だが白の咆哮が成立した以上、君はもうこのターンマジックカードの効果を使えない。そして場のモンスターではエイトムを倒せない。つまり次のターン、エイトムのダイレクトアタックが君を襲う」
(……ユキの手がここまで封じられるなんて。それにユキの使う永続魔法や装備魔法は場にずっと残るからそれだけで相手にとっては影響がある。だけど明日香さんといい、三沢さんといい、この戦術に頼ってばかりいたらすぐにやられてしまう……!)
(三沢君……彼はセブンスターズとの戦いこそタニヤに敗れたものの、戦術の広さには驚かされるばかりだわ。確かに私もユキとの戦いで永続魔法の戦術には対応したけど、あれは亮とユキが戦ったデュエルを見ていたからこそ。情報のない彼がここまでユキの手に対応出来るなんて……)
ユキと三沢のデュエルにさまざまな思いが交錯する中、ユキは手札に残された最後のカードを取り出した。
「……確かにあなたの戦術にはほとんど隙がない。だけどまだ残されたか細い道にユキのモンスター達がレールを繋いでくれている……!」
「なに……!」
「メカ・ザウルス、神機王ウルは共に機械族・地属性モンスター。この条件を満たすモンスターのみが自分フィールドに存在する時、このカードは手札から特殊召喚することが出来る……!」
「……! 特殊召喚効果を内蔵するモンスターか……!」
メカ・ザウルスが尻尾で地面を払い、耐久が落ちた地面を削るようにして神機王ウルが道を作るとレールが敷かれていき線路となった。
「悠久の彼方より轟音響かせ、誰よりも速く駆け抜けろ! 発進せよ、弾丸特急バレット・ライナー!」
フィールドに強風が吹いたかと思えば、目にも留まらぬスピードで弾丸列車が敷かれた線路に到着していた。
弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000
「バトル。神機王ウルでオキシゲドンに攻撃……!」
神機王ウルが身につけた赤い装甲で円を描くように回転を始めると、切れ味を増した金属の爪がオキシゲドンを切り裂いた。
「くっ……オキシゲドンは守備表示。ダメージはない」
「だけどここで神機王ウルの特殊能力が発揮される。このモンスターはフィールドのモンスター全てに1回ずつ攻撃が可能……2体のハイドロゲドンに連続攻撃……!」
「し、しまった……!」
切り返すように逆回転へと切り替えるとハイドロゲドンに逃げる間も与えずに、刃のごとき切れ味で襲いかかった。
「弾丸特急バレット・ライナーは攻撃時に自分フィールドのカードを2枚墓地に送らなくてはならない。リミット・リバースと補給部隊を墓地に送ることでプラズマ戦士エイトムに攻撃……!」
(くっ……想定が足りなかったか)
レールの行き先にいたロボットは目視こそ出来なかったがレールの方向に拳を力一杯突き出すと向かってきた弾丸列車に直撃させる。互角の力でぶつかり合った2つの機体は衝撃により木っ端微塵となってしまった。
「道は開けた……! メカ・ザウルスで三沢さんにダイレクトアタック!」
津波の影響で脆くなったガトリング砲を振り払うと、恐竜は自身の持つ凶暴な爪を振りかざして、三沢に向けて振り下ろした。
(俺もまだまだだな。……だがそれはまだ強くなれる余地があるということでもある)
三沢 LP700→0
メカ・ザウルスの一撃が決まり、デュエルの幕は閉じられた。二人は一礼すると、次の試験者の邪魔にならないようレイ達の待つ観客席へと戻った。
「ユキ、お疲れ様!」
「うん……ありがとう」
観客席に戻ると三沢はバッグからノートを取り出し、一心不乱に何かを書き出した。
「み、三沢さん?」
「ん? ああ……ユキか」
三沢は書き始めで既に集中力が高まっていたのか、一瞬話しかけてきたユキに戸惑いを示したが、ユキであることに気づくとノートを書く手は緩めずに話を始めた。
「えっと……何をしているの?」
「今はまずこのデュエルの情報をメモしているんだ。これが終わったら俺のタクティクスを客観的に評価し、またデッキに改善点がないかなど……色々やることはあるかな」
「そ、そんなに書くことが……? 確かに今の勝負はユキが勝ったけど、相手をしたユキからしても三沢さんのデッキには改善点があるとは思えないほど隙は無かった……」
「いや……そうでもないさ。例えば今回のデュエル、4ターン目と8ターン目の開始時に俺は4体のモンスターを並べているがどちらも直接攻撃を受けてしまっている。俺は今回のデッキ、展開力に比重を置くことで攻撃はもちろん防御面での効果が期待できると踏んでいた。しかしそれは安易な判断だった……展開力は必ずしも防御力に直結するとは限らないということが分かったよ。他にもあるかもしれないが、まずはこれが一番改善すべき点だ」
「な……なるほど」
「これもユキが全力で向かってきてくれたおかげさ。弱点を知らずに強くなることは出来ない。こうして自分の弱い所を知り、改善してまた試す。このトライアンドエラーこそ大事なんだ」
「……確かに。ユキも勝利に驕らずに、また色々試してみます」
「ああ。それがいい」
三沢がユキに解説するように今回のデュエルのことを話していく。それはユキだけではなく近くに座っていたレイや明日香達にも聞こえていた。
生徒達全員の試験が終了すると張り詰めていた緊張の糸が切れて、対照的な騒がしさが会場を包み込む。ユキとレイは不安視していた筆記試験、実技試験が良い出来であった確信があったため、上機嫌で共にブルー寮に帰っていった。
(……あとは寮に帰ってからにするかな)
近くにいた十代達を含めて多くの生徒が会場から出ていた中、情報をまとめていた三沢は区切りのいいところまで書いたところで会場を出ようとした。
「待って」
「……!」
そんな彼をある人物が呼び止めた。
「あなたに……相談したいことがあるのだけれど」
「……驚いたな。オベリスクブルーに誇りを持つ君がラーイエローの俺に相談するとは思わなかったよ」
三沢は後ろから呼び止めた人物の方に振り返るとその名を口にした。
「天上院君」
明日香もまた自分を変えようと一歩踏み出した——。
ミスター・ボンバーの効果説明が出る前に効果を思い出せたあなたはデュエリストレベルが1アップ!