佇む少女は機械仕掛け   作:ロボッピ

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明けましておめでとうございます!


訪れる変化

 試験の翌日、ユキとレイはオベリスクブルーの男子寮を訪れていた。

 

「……来た」

 

「あっ、亮様!」

 

「ユキ、それにレイ。どうしてここに?」

 

 亮は彼女達がセブンスターズとの戦いに巻き込まれた時のように何かトラブルがあったのかと二人を心配したが……

 

「遊びに来ました!」

 

 元気に返事をするレイと同意するように頷くユキを見て心配は杞憂に終わったことを知り、胸をなでおろした。

 

「本当は入学してからすぐにでも遊びに来たかったんですけど……」

 

「入学していきなり学園祭。その後にセブンスターズの騒動。落ち着いたと思ったら試験が迫っていて、中々遊びに行くタイミングが無かった……」

 

「……なるほど。大変だったな、二人とも」

 

 なんでもない事のように努めて明るく振る舞う二人だったが、不慣れな環境、年齢差による逆境に加え、非日常的な騒動に巻き込まれた彼女達が背負った苦労や乗り越えるためにしてきた努力を察した亮は二人に近づくとそれぞれの頭にそっと手を乗せ、そのまま優しく頭を撫でた。

 

「あ……」

 

「亮様。へへへ……」

 

 ユキは目を丸くした後に赤くなっていく顔を俯かせ、レイは手を乗せられた時こそ驚いて身体を震わせたが、撫でられると安堵と照れが混じったような声が漏れた。だが三人がいた場所はブルー男子寮のエントランスホール。男子生徒達がいる中で起こす行動としては注目を集めることは避けられなかった。

 

「あれってカイザーと……あの二人は誰だ?」

 

「確かあの二人は最近転入してきた……」

 

「もしかしてカイザーの妹なのか?」

 

 亮が持つ硬派な印象か、あるいは亮と彼の腰あたりまでの身長しかない二人との目に見えて分かる年齢差の影響もあるだろうか。恋愛関係より兄妹のように見えたようで大きな騒ぎにこそ繋がらなかったが、興味を持った男子生徒達の注目は集まるばかりだった。

 

「……やけに人が集まってきたな。とりあえず俺の部屋にでも来るか? 大したもてなしは出来ないが……」

 

「亮さんの部屋行ったことない……行ってみたいです」

 

 亮の案内で階段を登った先にある亮の部屋に招待された二人はその部屋に足を一歩踏み入れた。

 

「お邪魔します。……おお……」

 

 同じブルー寮の部屋とはいえ、多少物が散らばってしまっている彼女達の部屋と比べて隅々まで整頓された内装に思わずユキは息を飲んだ。

 

「失礼しまーす! ……この部屋に入った日が懐かしく感じるなあ」

 

「ふ……そういえばレイは俺の部屋に忍び込んだことがあったな」

 

「あ、あはは……ごめんなさい」

 

「もう気にしてないさ。二人ともどこか適当な所に腰掛けてくれ」

 

 ユキとレイが興味津々といった様子で部屋を見渡していると、亮は何か出そうと棚と簡易的な冷蔵庫を覗き込む。しかし普段人があまり訪ねてこないことや食事は食堂で取ることから出せるものは限りなく少なかった。とりあえず飲み物を……と探してみると棚にはインスタントコーヒーの粉が入った瓶が、冷蔵庫には麦茶が入っていた。

 

「……二人ともコーヒーは飲めるか?」

 

「コーヒー……ごめんなさい。僕ちょっとコーヒーは飲めないです」

 

「ユキも……お砂糖沢山入れないと飲めない」

 

「そうか。なら麦茶を入れよう」

 

 そう言うと亮はコップを3個取り出し、麦茶を注いでいく。

 

「……ねえ、ユキ」

 

「どうしたの?」

 

 クッションなども見当たらなかったので適当な所に腰を下ろした二人は少し離れた位置にいる亮に聞こえないよう小声で話し始めた。

 

「僕達子供っぽく見られてるのかな……?」

 

「ううん……そうかもしれない? さっきエントランスホールで周りの人から妹に見えてたみたいだし……」

 

「そうだったよね! 亮様は気づいてなかったみたいだけど……」

 

「コーヒー……飲めるようになれば、ちょっとは大人っぽく見えるかな」

 

「それだ! コーヒー飲めるように特訓して、あと身長も伸ばすためにジュースは出来るだけ我慢して牛乳も飲むようにしようよ!」

 

「名案……!」

 

 大人のレディを目指すべく二人の少女が小さな決意を固めた瞬間、ドアからノック音が響いた。

 

「亮、いるかい?」

 

「吹雪? ……二人とも、ちょっと待っててくれ」

 

「了解です」

 

「はーい!」

 

 注ぎ終えた麦茶を運ぼうとした亮だったが、来訪者に気づくとドアを開いて一旦外に出ていった。

 

(おっと……ユキとレイが遊びに来ていたところだったか)

 

 ドアが開いてから閉じられるわずかな瞬間で吹雪は中にいた二人に気がついた。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや……せっかくの休みだし明日香と過ごそうと探していたんだが見当たらなくてね。女子寮にいなかったから君のところにいるかと思ったんだが……」

 

「いや、俺のところには来ていないな。悪いがどこにいるかも分からない。……同じ寮に住んでいるユキかレイなら知っているかもしれない。聞いてこよう」

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

「……?」

 

 ユキとレイに明日香の居場所を訪ねるべく部屋に入ろうとドアノブを掴んだ瞬間、慌てて吹雪はその動きを止めさせた。

 

「……万丈目君と明日香のラブデュエルの前にユキとレイから聞いたよ。どうやら僕が休んでいる間に告白されたようじゃないか」

 

「う……話したのか」

 

 吹雪に知られたら面倒なことになるというある種の確信を持っていた亮はあえてそのことを隠しており、バレてしまったことで頭を抱えたくなった。

 

「どうして僕に一言も言ってくれなかったんだ! ……といきたいところだけど、一旦置いておこう。そんな彼女達が遊びに来てくれたんだろう? それなのに他の女性の名前を出すのはあまりよろしくないんじゃないかな」

 

 吹雪は調子に乗ったように大仰な仕草で切り出したが、途端落ち着いた雰囲気に変わるとそのまま話を続けた。

 

「そうか? 彼女達と明日香は十分に親しいし、問題はないと思うが……」

 

「乙女心をわかってないね、亮。頭では彼女達もそう思ってくれるかもしれないが、心の奥底ではがっかりしちゃうものさ」

 

「そういう……ものか」

 

「だね。明日香は自分の力で探してみるよ。……そうだ。僕がいない間に彼女達とどんなことがあったのか、また今度詳しく聞かせてもらうよ」

 

「うっ……」

 

 吹雪が言い終わるか否か、話をする提案を断る間も無く、左手でドアを開けた吹雪は亮の背中を右手で押してドアを閉める。しばらくするとユキとレイの楽しそうな声が部屋の外にいる吹雪にも聞こえてきた。

 

「よし。さてと……明日香はどこにいるのかな? 万丈目君が十代君の所にはいなかったって言ってたし、亮のところじゃないとすると……うーん」

 

 明日香の行きそうなところはおおよそ把握していた吹雪だったが、それでも彼女の居場所を探し当てることが出来ないでいた。そんな中、明日香はというと……

 

「……凄いわね。部屋中が数式だらけじゃない」

 

「いやあ……昨日のユキとのデュエルの後さらに増えちゃってね」

 

 イエロー寮の三沢の部屋に招かれていた。天井まで埋め尽くすように書かれた数式に目を大きく見開き、不思議そうに見渡している。

 

「さて、昨日の相談のことだが……」

 

「ええ……あなたに戦術の指導をお願いしたいわ」

 

「構わないよ。だがその前に今の君のデュエルを見せてもらおう」

 

「分かったわ。でも指導を受ける立場とはいえ、負けるつもりはないわよ」

 

「勿論、そうこなくてはね」

 

 明日香はやる気十分といった様子で青いグローブをはめるとディスクを展開していった。

 

「さて……デュエルの前に聞いておこう。君はどんなデュエルを目指しているんだい?」

 

「えっ……」

 

「大きく分けるだけでもビートダウン、バーン、デッキ破壊、あるいは特殊勝利なんてものもあるのがデュエルモンスターズの特徴だ。俺の理想はどんなタイプの相手であろうと、対応しきるデュエル。……現実は中々厳しいけどね。こうやって戦術を練り続けて、いつかは対応力Sのデッキに辿り着くつもりさ」

 

「私は……私のデュエルはあくまで攻めのデュエル。肉を切らせて骨を断つ覚悟で相手のデュエルを断ち切るわ」

 

「なるほど……ならば昨日ユキとのデュエルで使った展開力に比重を置いたデッキではなく、防御力に重点を置いたこのデッキで挑ませてもらおう!」

 

(……! 攻めのデュエルを目指すなら守りのデュエルを突破してみろということね……!)

 

 三沢がディスクにセットされていたデッキを上着の内ポケットに収納していたデッキと入れ替えると、準備は整ったと言わんばかりにディスクを構えて向かい合った。

 

「「デュエル!」」

 

「こちらからいかせてもらうよ。俺のターン、ドロー! ……終末の騎士を召喚する!」

 

 年季の入った鎧を纏った歴戦の騎士が古びた赤いマントをはためかせながら見参した。

 

終末の騎士 攻撃力1400

 

「終末の騎士を召喚したことでデッキから闇属性モンスターを1体墓地に送ることが出来る。儀式魔人プレサイダーを墓地に送らせてもらう!」

 

 騎士の右手で鈍く輝く大剣が地面に突き立てられると三沢のデッキから闇を纏った魔人の魂が墓地へと埋葬された。

 

「儀式魔人……?」

 

「さすが儀式デッキの使い手……察しがいいね。俺は儀式魔法、リトマスの死儀式を発動! このカードによりレベルの合計が8以上になるようモンスターを生贄に捧げ、儀式召喚を行う。俺はフィールドのレベル4モンスター、終末の騎士と……墓地に眠るレベル4の儀式魔人プレサイダーを儀式召喚の素材とする!」

 

「なっ……墓地のモンスターを儀式召喚に使用するですって!?」

 

「儀式魔人は墓地から除外することで儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として扱えるのさ。よって手札のこのモンスターの儀式召喚が行われる!」

 

 騎士と魔人が供物として捧げられると8つの闇色に染まった炎が円を描くように並ぶ。

 

「出でよ、リトマスの死の剣士!」

 

 炎の円の中心から2本の刀の刀身を抜いた剣士が地面を切り裂くようにして現れた。

 

リトマスの死の剣士 攻撃力0

 

「くっ……やるわね。レベル8のその儀式モンスターを呼び出すには儀式魔法、儀式モンスター自身に加えて、レベルの合計が8以上になるように生贄に捧げる必要があった。とはいえレベル8以上のモンスターを大量にデッキに入れるのは難しい……だから普通なら消費も激しくなるところを儀式魔人によって補ったのね」

 

「その通り! 俺は2枚のカードを伏せてターンエンドだ」

 

三沢 LP4000

 

フィールド 『リトマスの死の剣士』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札1

 

(確かあのモンスター……十代とのデュエルで使っていたわ。トラップカードが表側表示である限り、攻守を3000上昇させる効果があったはず……)

 

「私のターン、ドロー!」

 

(……儀式モンスターには儀式モンスターで対抗してみせる!)

 

「サイバー・プチ・エンジェルを召喚!」

 

 頭に光の輪をつけ、背中からは羽を生やした機械の天使が地上に舞い降りた。

 

サイバー・プチ・エンジェル 守備力200

 

「サイバー・プチ・エンジェルが召喚に成功したことでデッキから機械天使の儀式を——」

 

「おっと、そうはさせない! ライフを1000払うことで永続トラップ、スキルドレインを発動させてもらうよ。このカードがある限り、フィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される!」

 

三沢 LP4000→3000

 

(……! 表側表示モンスターの効果を全て無効化するカード……!? それを通すわけにはいかない!)

 

「速攻魔法、サイクロンを発動! このカードはフィールドの魔法または罠カードを1枚破壊出来るわ。この効果でスキルドレインを狙う! あなたがそのモンスターと相性の良い永続トラップを伏せていたのは読めていたわ!」

 

「だが逆もまた然り。リトマスの死の剣士の効果を考えてもスキルドレインの制圧力を考えても、君が是が非でもこのカードの破壊を狙うのはこちらも読めていた。さらに永続トラップ、宮廷のしきたりを発動! このカードがある限り、宮廷のしきたり以外の永続トラップを破壊することは出来なくなる!」

 

「なっ……!?」

 

 明日香が発動したマジックカードから台風が吹き荒れ三沢の場に現れた装置を吹き飛ばそうとしたが、軌道がそれていってしまう。台風が落ち着くと今度は装置が稼働して天使の生気を吸い取っていった。

 

「サイバー・プチ・エンジェルの効果が……」

 

(まずい。儀式魔法が無ければ荼吉尼(ダキニ)の召喚に繋げられない……! 繋げられたとしてもスキルドレインの効果で呼び出した儀式モンスターは無力化されてしまう……)

 

「デッキには色々な種類があるがモンスター効果を封じられて影響がないデッキというのはほとんどない。このカードで君の動きは制限させてもらう。さらにリトマスの死の剣士の特殊能力により、このカードの攻撃力及び守備力は3000上昇する!」

 

「くっ、スキルドレインでフィールドの表側表示モンスターの効果は無効にされているけれど……」

 

 剣士の生気を吸い取ろうと動き出す装置だったが、空気を切り裂くように不可視の力を弾き飛ばすと、逆に装置が得た力を吸収していく。

 

「そう……リトマスの死の剣士はトラップカードの効果を受けず、戦闘では破壊されないという効果を持つ。よってスキルドレインの影響下でも効果は無効化されず、本来の効果で戦うことが出来る!」

 

 剣士が纏っていた白装束が赤く染められていくと、剣に込められる力も増していった。

 

リトマスの死の剣士 攻撃力0→3000 守備力0→3000

 

(モンスター効果を封じられた上に相手の場にはトラップが効かない攻撃力3000のモンスター……この状況、かなりまずいわ)

 

「相手を自分の土俵に上がらせて相手の動きを制限しながら、自分は普段と変わらぬ動きで戦う。これがあなたの言っていたどんなデュエルにも対応するための一手ということね……」

 

「そういうことさ。さあ……どう来る?」

 

(この布陣自体は俺が目指すデュエルの理想形に近い。だが終わるまでは何が起こるか分からないのがデュエル。この布陣に穴があるのならば、きっと彼女はそこを突いてくるはず。このデュエルはなにも彼女のためだけじゃない、俺も得られるものがあるはずだ……)

 

 三沢は有利な場を形成しながらも明日香の一挙手一投足を観察し、油断を見せることはなかった。

 

「私は……マジックカード、天空の宝札を発動。このターン私は特殊召喚とバトルが封じられる代わりに、手札の光属性・天使族のモンスター……ダキニを除外することで2枚のカードをドローするわ」

 

 明日香が機械天使を天に捧げると、その対価として2枚のカードが彼女にもたらされた。

 

「……カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

明日香 LP4000

 

フィールド 『サイバー・プチ・エンジェル』(守備表示)

 

セット1

 

手札3

 

「俺のターン! 君はさっきこの場で俺は普段と変わらぬ動きが出来ると言ったが、時にそれ以上の動きも出来る」

 

「そんな……スキルドレインの効果でモンスターの効果は無効化されるのよ?」

 

「ああ……だからこそさ。このモンスターはレベル8だが元々の攻撃力を1900とすることでリリースなしでの召喚を可能とする。来い、神獣王バルバロス!」

 

「妥協召喚モンスター……!?」

 

 身体の下半身が黒い獣、上半身が人間のものとなっている獣人が現れる。4本の足には鋭い爪が光り、右手には赤く長い槍が、左手には青く硬い盾が構えられていた。しかし場に現れた直後、召喚の代償として身体が小さくなっていく。

 

「だが場にはスキルドレインが存在するためバルバロスの効果は無効化される!」

 

「あっ! 攻撃力が1900となっているのは効果によるもの。効果が無効になることで攻撃力が元に戻る……!」

 

 装置が稼働すると小さくなっていた身体が元どおりの大きさとなっていった。

 

神獣王バルバロス 攻撃力1900→3000

 

「攻撃力3000ですって!?」

 

「このデッキ、展開力においては昨日のデッキほどではないからね。代わりに一気に高攻撃力に繋げられるギミックを入れさせてもらってるのさ」

 

(何が展開力不足よ。2ターン目の自分のターンで攻撃力3000が2体並べられるなら、十分な戦力じゃない……! それにあのモンスターのレベルは8、儀式召喚の素材としても悪くない。このデッキ相当練られているわね……!)

 

「バトル! リトマスの死の剣士でサイバー・プチ・エンジェルに攻撃!」

 

(……ここで伏せカードを使っても意味がないわ)

 

 迫る剣士から慌てて逃げる天使だったが、力が上手く入らず飛ぶことが叶わない。素早く動く剣士から逃れる術はなく、両手を使わずとも右手から振り下ろされた剣に軽く切り捨てられてしまった。

 

「くっ! 守備表示だからダメージは無いわ!」

 

「だがこの瞬間、リトマスの死の剣士の素材となった儀式魔人プレサイダーの効果を発動する! このモンスターを儀式召喚に使用したモンスターが戦闘によってモンスターを破壊したことで俺はカードを1枚ドローする! この効果は素材となったプレサイダーによるもの。よってスキルドレインの範囲外だ」

 

「……!」

 

(……そうよ! スキルドレインの効果はあくまでフィールド上のモンスターにしか適用されない。なら、私も完全にモンスター効果が使えないわけじゃない……!)

 

「ドロー! さらにバルバロスで天上院君にダイレクトアタック! トルネード・シェイパー!」

 

 4本の足をフルに使うことでバルバロスは神速を得て、フィールドを駆け出す。目にも留まらぬ速さで明日香に近づき、槍を螺旋状に回転させて突き出した。

 

明日香 LP4000→1000

 

「きゃあっ! ……やってくれたわね」

 

 バルバロスの攻撃を受けて大幅にライフを失った明日香だったが、その闘志はさらに燃え上がった様子だった。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

三沢 LP3000

 

フィールド 『リトマスの死の剣士』(攻撃表示) 『神獣王バルバロス』(攻撃表示)

 

セット1 『スキルドレイン』 『宮廷のしきたり』

 

手札1

 

「私のターン! 行くわよ! 儀式魔法、機械天使の儀式を発動!」

 

「……! スキルドレインが発動しているにも関わらずそれでも儀式召喚で向かってくるか……」

 

「このカードによりレベルの合計が呼び出すサイバー・エンジェル儀式モンスターのレベル以上になるようにモンスターを生贄に捧げることで儀式召喚を行うわ。私は手札のレベル6、サイバー・エンジェル—弁天—を生贄に捧げ、手札のレベル5のこのモンスターを呼び出す!」

 

 生贄に捧げられた機械天使の魂が天に届くと、天から一筋の光が差し、地面の一点が照らし出される。

 

「癒しの力を秘めし光の天使よ。麗しき姿で快癒をもたらせ。降臨せよ!レベル5、サイバー・エンジェル—那沙帝弥(ナーサテイヤ)—!」

 

 照らされた地面の上には馬の身体と4つの腕が生えた女性の人間の身体を持つケンタウロス型のモンスターが現れていた。

 

サイバー・エンジェル—那沙帝弥— 攻撃力1000

 

「だがスキルドレインによってナーサテイヤの効果は無効になる」

 

 装置が再び稼働していくとナーサテイヤの4つの腕に握られていた武器も脱力と共に地面に落とされてしまった。

 

「だけどリリースした弁天の効果を発動させてもらうわ! このカードがリリースされた場合、デッキから天使族・光属性のモンスター1体を手札に加えることができる!」

 

「……! 墓地のモンスター効果……スキルドレインの範囲外か!」

 

「そうよ! 私はこの効果で光神テテュスを手札に加える!」

 

 天に捧げられた弁天が祈りを込めると明日香のデッキに眠る天使が輝き出し、明日香の手に収められた。

 

「そしてナーサテイヤをリリースし……生贄召喚! 来なさい、光神テテュス!」

 

「なっ……折角呼び出した儀式モンスターをリリースだって?」

 

 ナーサテイヤが光となって消えると、その光が球形になっていく。やがて光が広がっていくと、その光の正体は中にいた女性の天使を覆うようにしていた2本の翼だった。輝かしい翼を広げて天使が宙を舞い、溢れるように光の粒子がフィールドに降り注がれる。

 

光神テテュス 攻撃力2400

 

「だが新たなモンスターを呼び出してもスキルドレインの効果からは逃れられない!」

 

 装置が動き出すと翼から光が失われていき、天使は弱々しく地上に降りた。

 

「手間をかけて呼んだ上級モンスターだがどうやら現状を突破する力はなさそうだな」

 

「ええ……その通りね。テテュス自体にこの状況を突破する力は無いわ。でもどうやら気づかなかったみたいね。私の狙いはこっちよ! 墓地のナーサテイヤの効果をリトマスの死の剣士を対象に発動するわ! この効果を発動するためには私の墓地にあるこのカード以外のサイバー・エンジェルモンスターを1体除外する必要がある……弁天を除外!」

 

「くっ……なるほどな。この布陣、墓地のモンスター効果に対応できないのは確かな弱点だ」

 

(そして穴があることに気づけばそこを的確に、かつ容赦なく突いてくる。……まさに攻めのデュエルといったところか)

 

「ナーサテイヤの効果! このカードを墓地から特殊召喚し、対象としたリトマスの死の剣士のコントロールを得るわ!」

 

「……!? コントロールを奪う効果だと……!」

 

「この布陣はあなたのモンスターが動きやすいように仕組まれたもの。ならあなたのモンスターを使って切り込ませてもらうわ!」

 

 ナーサテイヤが地面に空いた光の穴を通して4本の腕をゴムのように伸ばすと剣士を捕まえることに成功する。剣士を明日香の場に引っ張ると同時にナーサテイヤも穴を通って場に戻ってきた。

 

サイバー・エンジェル—那沙帝弥— 攻撃力1000

リトマスの死の剣士 攻撃力3000

 

「なるほど……俺がリトマスの死の剣士のためにフィールドを整えるなら、そのモンスターのコントロールを奪うことが最大の弱点と読んだわけか」

 

「そうよ! スキルドレインのコストによってあなたのライフは3000。このターンで終わらせる! バトル! リトマスの死の剣士でバルバロスに攻撃!」

 

 剣士が赤く染まった装束を風でなびかせながら、2つの剣を器用に扱いバルバロスに斬りかかった。

 

「いい判断だ。だが……俺も想定していなかったわけじゃない」

 

「……!? だけどリトマスの死の剣士はトラップの効果を受けないわ!」

 

「君は一点だけ俺のデッキを見誤った。俺のデッキは確かに最初は制限をかけて相手の手を絞り込む。だがこの制限を俺の任意のタイミングで外せたら、つまり俺に有利なタイミングで能動的に制限を解除できるように組まれていたとしたら……?」

 

「解除……。あっ!」

 

 何かに気がつきリトマスの死の剣士に手を伸ばす明日香だったが既に攻撃宣言を終えた今、止める術はなかった。

 

「少々狙いとは異なるがこういう手もある! 速攻魔法、非常食! このカード以外の俺の場のマジック・トラップカード……スキルドレインと宮廷のしきたりを墓地に送ることで、墓地に送った数×1000のライフを回復する!」

 

 装置を含む2枚のカードが光の粉へ変換されていくと、命の源となって三沢のライフを回復させていく。すると装置に取り込まれていた力も返されていき、ナーサテイヤやテテュスは封じられていた力を取り戻した。

 

三沢 LP3000→5000

 

「リトマスの死の剣士は場に表側表示のトラップカードがある限り、攻守を3000上昇させる。だがそれが無ければ本来のステータスである0に戻る!」

 

「くっ……しまった!」

 

 剣士の赤く染められた装束から色が抜けていき、トラップから吸収していた力も同時に失われてしまった。

 

リトマスの死の剣士 攻撃力3000→0 守備力3000→0

 

「リトマスの死の剣士はバトルでは破壊されないが、ダメージは受けてもらう。バルバロスの反撃!」

 

 急激に動きが鈍くなった剣士の隙を見逃さず、バルバロスは二刀流による斬撃を一撃目は盾で受け、二撃目をその類稀なるスピードで躱すと死角へと潜り込み、鋭い爪で装束ごと剣士を切り裂いた。

 

「くうっ……!」

 

明日香 LP1000→0

 

 決着がつき、それに伴ってソリッドヴィジョンも消えていく。明日香は今まで積み上げてきた自分の攻めが三沢の守りを突破出来ない結果になったことに(ほぞ)を噛んだ。

 

「そう落ち込むことはないんじゃないかな。このデッキにモンスター効果に重点を置いたデッキで挑んだ相手はほとんど何も出来ずに終えてしまうこともあった。デュエルは俺の勝ちだったが、儀式モンスター中心の君のデッキでここまで攻略したのはさすがだったよ」

 

「……慰めなんていらないわ」

 

「はは……勝つために戦ったんだ。少し無神経だったか。だがこのデュエルで君の課題は浮き彫りになったよ」

 

「……! それは一体……!?」

 

 明日香が落ち込んでいる間に三沢は机の上に置かれたノートにこのデュエルの経過を書き記し、そこから克服するべき点を割り出していた。

 

「細かいところを言えば色々あるだろうが……俺が気になったのは俺のターン、つまり君にとって相手のターンで受け身になっていたことだ。確かに俺の場にはトラップの効果を受けないリトマスの死の剣士がいたが、攻めのデュエルを目指すならば相手のターンでも受け身に回らず攻められるくらいの戦術を目指した方がいいんじゃないかと思ってね」

 

「あ、相手ターンでの攻めですって!? ……いえ、確かに……そうかもしれないわ。私のデッキに入っているトラップの多くは一度相手のターンをしのいで、自分のターンで攻めようというもの。でも攻めのデュエルを目指すなら、相手ターンでも自分のターンのように動けるのを目標にした方がいいのかもしれない。……その発想はなかったわ」

 

「いや、君は恐らく本能的にはそれを目指していたと思うよ。俺の読みが正しければその伏せカード……ドゥーブルパッセだ」

 

「読まれていたのね……」

 

 明日香が伏せていたカードを取り出して三沢に見せると、彼の読み通りドゥーブルパッセだった。

 

「モンスターへの攻撃を直接攻撃にする代わりに攻撃対象モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、さらに次の自分のターンに攻撃対象となった自分のモンスターにダイレクトアタックを可能にするトラップカード。まさに肉を切らせて骨を断つようなカードだ。相手ターンでも攻められるような君のデッキの新しい形……探してみる気はあるかい?」

 

「やるわ! ……とは言ってもどうしたらいいのかしら?」

 

「いきなり俺も正解をポンと教えられたりはしないさ。昨日も言ったが、トライアンドエラーの繰り返しで模索していくしかないのさ。大丈夫、試験後だからしばらくは試験休み……時間はあるさ。色々試していこう」

 

(こうやってデッキの形を模索していくのは俺の勉強にもなるし、素直に友人としても手伝ってあげたいからね)

 

 明日香がやる気になっているのを確認した三沢は先ほどのページに一戦目と記し、ページをめくって二戦目と題目をつけた。

 

(連戦で……意外と鬼ね。でも強くなるためにこれは必要……やってみせるわ!)

 

 明日香は自分の目指すデュエルにたどり着くために、試行錯誤を重ねるのだった。

 

 夕日が差し、もうしばらく経てば夜を迎えるであろう時間。ユキとレイはエントランスで亮と話していた。

 

「今日は楽しかったです。また……来てもいいですか?」

 

 普段あまり表情に変化がないユキだったが、楽しい時間を長く過ごせたことでその顔には誰が見ても分かるほど穏やかな微笑みが浮かべられていた。

 

「ああ、構わない。またいつでも来てくれ」

 

「本当!? 亮様、ありがとう!」

 

 レイも満面の笑顔を浮かべ、今日の時間が本当に楽しいものだったことを伺わせた。しかしここで話し込むと暗闇が帰路を照らしてしまうため二人は亮に見送られてブルー寮への帰り道を歩き出した。幸せを共有するように、亮のことや今日話したことなどを二人は話しながら歩みを進めていく。そんな彼女達の視界にある一人の男が森の奥に入っていくのが映った。

 

「……ん? あれって……万丈目さん?」

 

「あ、本当だ。こんな時間にどうしたんだろ? そろそろ暗くなるのに……」

 

 彼女達は顔を見合わせるとこの前の騒動で森から万丈目の叫び声を聞いたことを思い出し、不安になる。二人は相談して念のために追いかけてみることにした。小走りで万丈目が歩いていった方向に向かうと、案外すぐに追いつくことが出来た。

 

「万丈目さん。こんなところで何をしているの?」

 

「ユキ。それにレイか」

 

(こいつらも……いや、違うな……)

 

 追いついた場所は井戸があるところで、上り下りが出来るようにロープが垂らされていた。

 

「この井戸には使えないと思ったカードを捨てる不届き者がいてな。今こそ俺が拾った状態だが、ちょっと前までは酷かったもんだ」

 

「そんな……ひどい! 使えないと思ったから捨てるなんて自分勝手じゃないですか!」

 

「まぁ……そうだな。それでも確認すると捨てられていることがあるから、たまに見ているんだ」

 

「へぇー! 万丈目さんって思ったより優しいんですね!」

 

「思ったよりは余計だ!」

 

「ふふ……」

 

「ん? ユキ、やけに上機嫌じゃないか」

 

「……そう?」

 

 万丈目は今まで何回か彼女と会う機会があったが、ここまで柔らかく笑っているのを見たのは初めてといっていいくらいだった。そんな風に話しながら三人は井戸の中に入っていく。

 

(……あれは……)

 

(……あれ。どこかで見たことがあるような……)

 

 万丈目とレイが持つブラック・マジシャン・ガールの精霊がある一点を見つめる中、ユキは彼らが見ている方向とは別の場所にあった1枚のカードを拾い上げる。そのカードはモンスターカードで、決してステータスが高いモンスターではなかった。

 

「本当にカードが捨てられてる。最近、捨てた人がいるってことだよね……」

 

「……ちょっと悲しいな。確かにカードに強弱はあるのかもしれない。でもきっとどんなカードにも役割はある。ね……あなたもきっとデュエルで活躍出来る時を待ってるよね」

 

 海水が入り込んでいるようで少し水に触れていたそのカードを撫でるようにすると水が弾かれる。そしてユキはデッキの中にそのカードを入れた。

 

「もうこれで一人じゃないよ」

 

「ユキ……」

 

(……あのカード)

 

 万丈目がユキが拾ったカードに宿るものに気づいたと同時に、井戸の中にもう一人降りてきた。

 

「万丈目!」

 

「十代様!? なんでここに……」

 

(やはりお前も来たか……)

 

 十代は慌てたようにロープを勢いよく降りると、水を少し跳ねさせた。

 

「あれ、ユキにレイ? もしかしてお前らも……」

 

「違う、たまたまだ。……それよりお前らは早く帰った方がいい。そろそろ日が暮れるからな」

 

「あっ……本当だ!」

 

「……万丈目さんと十代さんは?」

 

「え? 万丈目、どういう……」

 

「まだ暗がりに落ちてるカードがあるかもしれないからな。俺と十代はそれを探してから帰る」

 

「……そう。分かった」

 

「十代様、また今度時間がある時に!」

 

「あ、ああ……」

 

(何がどうなって……ん?)

 

 万丈目の忠告を受けてユキとレイはロープを伝って上に戻っていく。すると十代は自身の持つ精霊のハネクリボーがユキの近くで別の精霊と話をしているのが見えていた。

 

(おっ! あれは……)

 

 ユキとレイは上がり終えると二人に挨拶した後、沈みかけた夕日に焦りながらブルー寮に帰っていった。

 

「さて……行ったか」

 

「万丈目! お前も予感がしてここに来たんだろ?」

 

「ああ、そうだ。だが二人にはあの渦は見えてなかったようだった。あれは精霊が見えない者の目には映らないらしい」

 

「そうなのか……。だから二人に帰るように言ったんだな」

 

「そういうことだ」

 

 万丈目と十代の目には宙に浮かぶ水色の渦が映っており、意を決して万丈目はその渦に手を近づけた。

 

「……? 触れん……」

 

「あっ、ハネクリボー!」

 

 ハネクリボーがゆっくり近づいていき、渦に触れる。するとハネクリボーが渦に飲み込まれていき、十代の身体にも変化が訪れた。

 

「……!」

 

「何!?」

 

 助けを求める声が十代に聞こえてくると、側にいた万丈目にも伝わった。すると十代もその渦の中へと飲み込まれてしまった。

 

「くっ……そういうことか。おい、起きろ!」

 

「んん……? どうしたのよ、万丈目のアニキー」

 

「いいから、こいつに触れろ!」

 

「もう。起きて早々精霊使いが荒いんだからー」

 

 眠っていたおジャマ・イエローが目を覚ますと渦に触れる。するとおジャマ・イエローが渦に飲み込まれ、万丈目も助けを求める声が届いた後、渦に飲み込まれていく。こうして井戸の中には静けさだけが留まった。

 




7話『遠い背中』のデュエル構成にミスがあったので12月31日に修正させて頂いたことを報告させていただきます。
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