佇む少女は機械仕掛け   作:ロボッピ

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カードは拾った。


精霊の導き

「明日香様ー!」

 

「待ってくださいまし!」

 

「ジュンコ……それにももえ」

 

 三沢に相談して新たなデッキの形の模索を始めた翌日。今日もイエロー寮に出かけようとしていた明日香を呼び止めたのは彼女の友人であるジュンコとももえだった。

 

「やっと捕まえましたわ!」

 

「昨日はどこに行ってたんですか? 折角の試験休みなのに……」

 

「それはその……特訓よ」

 

「特訓……ですか?」

 

「ええ! 明日香様は特訓なんてしなくても強いじゃないですかー」

 

「……そんなことないわ。私はまだまだよ。この試験休みは特訓に当てるからあなた達に付き合うことは出来ないわ……ごめんなさいね」

 

「そ、そうなんですか……頑張ってくださいまし」

 

「ありがとう。行ってくるわ」

 

 そういうと明日香は新しいデッキの模索に気持ちがはやるのか、足早にブルー寮から去っていった。

 

「……最近の明日香様、構ってくれなくて寂しいですわ」

 

「そうねぇ。転入してきたユキとレイの世話を焼いてたみたいだし、自分の時間もあるからしょうがないとは思うけどさ」

 

 明日香は自身の性格と、亮に頼まれたということもあり年齢的に後輩である彼女達の世話に費やす時間が増えていた。そのため結果としてジュンコとももえに付き合う時間は確かに減ってきていた。

 

「ユキちゃんとレイちゃん……。そういえばあの二人も昨日今日と出かけてますわよね」

 

「そうね。案外あの子達と特訓してたりして」

 

「……!」

 

 ジュンコが思いつきで発した一言。しかしその一言はももえの中の嫉妬の炎に注がれる油となってしまった。

 

「ジュンコさん! 私達も特訓しますわよ!」

 

「ええ!? なんでよ……って引っ張らないで!? あんたこんなに力強かったっけ!?」

 

 その華奢な腕にどれほどの力を隠していたのか、やはり彼女もデュエリストとして最低限の筋力は備えていたようでジュンコの腕を掴んで引っ張っていく。

 

「明日香様を振り向かせるにはやはりデュエルしかありませんわ!」

 

「あー……明日香様、デュエルに一途だもんね?」

 

「そうですわ。ユキちゃんとレイちゃんにデュエルで挑んで勝てれば、きっと明日香様も振り向いてくれるはずですわ!」

 

「……分かったわよ。もう、あんたは一度言い出したら止まらないんだから」

 

 幼馴染であるももえの暴走に呆れながらもジュンコ自身どこか寂しい気持ちはあったようで、その提案に乗るように腕を振りほどきながらもユキとレイとのデュエルに向けての特訓のために自分の意思で一歩を踏み出した。

 

 そんなユキとレイはというと入学時にお世話になったお礼も兼ねてレッド寮を訪れていた。

 

「えっ、昨日十代さんと万丈目さんが帰ってこなかった……!?」

 

「そうなんすよ。アニキも万丈目君もどこ行っちゃったんだか……」

 

 翔と隼人が十代と共に住む部屋にも万丈目が住む部屋にも二人の姿は見当たらなかった。

 

「昨日の昼頃までは見かけたんだけど、そこから見てないんすよね……」

 

「十代様と万丈目さんなら昨日、暗くなるちょっと前に見かけたよ」

 

「えっ、そうなんすか? なんで帰ってこなかったんすかね……」

 

「暗くなる少し前……」

 

 レイの言葉を聞いて隼人が記憶を辿ると何か心当たりがある様子だった。

 

「そういえば、昨日そのくらいの時間におぼろげだったけど妙な予感がしたんだな。声が聞こえたわけじゃないし、よく分からなかったから気のせいだと思ったんだけど……何となくあっちの森の方から予感が伝わってきた気がするんだな」

 

 隼人も精霊を見ることが出来る人物であったため、昨日十代や万丈目が感じていた予感のようなものをはっきりではないが感じ取っていた。

 

「……! あそこの森は……」

 

「十代様達がいた井戸があるところ!? ……ユキ、行こう!」

 

「えっ、ちょっと待って……行っちゃった。……ユキも失礼します」

 

「う、うん。アニキたちを見かけたら帰ってくるように伝えといてくれっすー!」

 

 翔の言葉にユキは頷くと、慌てて森に走っていったレイの背中を追いかける。森へ向かう道の途中でレイに追いついたが走るスピードが緩められることはなかった。

 

(昨日、確かに別れる時万丈目さんの様子が不自然だった。ユキ達には分からない、何かが起きているのかも)

 

 そう考えると十代と万丈目のことがより心配になり足がせわしなく動く。井戸にたどり着くころには二人とも体力を激しく消耗していたが、呼吸を整える間も無く二人は井戸の中へと突入した。

 

「……誰もいない。ロープも昨日と同じように張られていたし、戻れなくなって井戸で夜を過ごしたわけではなさそう」

 

「そうだね……。隼人さんの予感っていうのは気のせいだったのかな?」

 

「一応、近づいて奥の方も確認する……ここからだと暗くて見えづらいし」

 

(……あの渦。あれって何かの術式だったと思うんだけど……うーん、もうちょっと頑張って修行しておくんだったな)

 

 精霊が見える者と精霊にのみ見える水色の渦。その正体を頑張って思い出そうとするブラック・マジシャン・ガールだったが、あと一歩というところで思い出せないでいた。そんな中ユキがその渦がある方に近づき、ブラック・マジシャン・ガールの目にはユキがその渦に触れたのが見えていた。しかし何も起こらない。だが彼女が昨日仲間にした精霊がその渦に触れると……その精霊とユキに変化が訪れた。

 

(……あっ! 思い出した……あれはパートナーとなる人間がいる精霊が触れることで、その精霊とパートナーを精霊界に誘う術式……!?)

 

  ブラック・マジシャンガールが慌てて近づく。すると彼女が思い出したことを裏付けるようにユキの精霊が渦に飲み込まれていくと渦から声が発せられる。彼女達には聞こえていないようだったがブラック・マジシャン・ガールには伝わっていた。

 

「人間界の者よ。ここ精霊界では三幻魔に奪われた力が精霊に戻りし時、三幻魔を操っていた人間の悪意や欲望をも受け取ってしまい正気を失った四人の精霊が暴走しておる。今は私ともう一人の精霊が動きを抑え込んでいるが、それも長くは持たん……。デュエルに勝つことで悪意を払って正気を取り戻すことが出来るはずじゃ。勇気を持ちし人間よ、私達と正気を失った精霊を助けてくれ……」

 

(精霊が人間界と精霊界の媒介になって声が……誰がこんな高等な術式を!? それに精霊界でそんなことが起こっていたなんて……あっ!)

 

「……!」

 

 声が途切れると同時にユキの身体も渦に飲み込まれていってしまう。

 

「ゆ、ユキっ!?」

 

 渦が見えないレイにとってはまるでユキが神隠しにでもあったかのようにその場から忽然と姿が消えていた。

 

「どこにいったの……!? だってここから消えることなんてあるはずが……」

 

(精霊界がそんなことになってるならもうレイちゃんに私の正体を隠している場合じゃない。……彼女も私が精霊であることに気づいてるみたいだしね)

 

 精霊界のために決断したブラック・マジシャン・ガールが呪文を唱える。すると井戸の中に閃光が走った。

 

「えっ! あなたは……」

 

「……久しぶりだね。レイちゃん」

 

 文化祭の時のようにブラック・マジシャン・ガールの姿はレイの目にも見えるようになり、声もしっかりと聞こえるようになっていた。

 

「やっぱりあなたは精霊……?」

 

「そうだよ。隠しててごめんね……精霊の姿は見えてないみたいだったから、伝えても寂しくなるかなと思って話さなかったんだ」

 

「そうだったんだね。……あっ、それよりユキはどこに!?」

 

「えーと……それを説明する前に私の手を握ってもらえるかな?」

 

「えっ? う、うん……」

 

 レイは戸惑いながらもブラック・マジシャン・ガールの手を握る。すると精霊の力が直接伝わり、その目には渦が映し出された。

 

「ひゃっ! なにこれ……」

 

「これは精霊界に続くゲート。精霊が触れることで精霊とその所持者を精霊界に移動させるの。今精霊界は三幻魔から力が戻った時に、操ってた人の悪意も一緒に受け取って正気を失った精霊の暴走で大変なことになっている……精霊界は助けを求めているのよ」

 

「ユキに精霊が!? ……いや、でも僕もあなたの力を借りないとこの渦は見えない。ユキも見えていないはず……そんなユキがどうして?」

 

「……多分想定外だったんじゃないかな。きっとこの渦が発現した時、精霊を感じれる者は予感を受けたはず。その予感は救援信号のようなもの。この場所に精霊に信じられたデュエリストを呼ぶためにね。こんな場所だし、仮に精霊のカードを持っていても精霊が知覚できない者は来ることはない……はずだった」

 

「あっ! そうか……万丈目さんは前に精霊の話をしていた。多分十代様も精霊が見えていたから昨日予感を受けてここに集まった。僕たちは偶然そこを見ていて、さらにたまたま精霊のカードを持っていた……」

 

「で、でも大丈夫だよ! いきなり暴走した精霊の所に呼び出したりなんかしないはず。普通なら術者の所に呼び出されるから、術者がちゃんと説明してくれるよ。無理強いしたりもしないはずだからきっと……」

 

(これほどの術式を使える人となると変わり者が多いからちょっと心配だけど……)

 

「……分かった。ブラック・マジシャン・ガール、僕も精霊界に連れて行って」

 

「えっ……?」

 

 きっと戦う意思がなければ帰してもらえる……そう言おうとしたブラック・マジシャン・ガールだったが、予想外のレイの発言に驚いた。

 

「ユキはその話を聞いたらきっと……ううん、絶対に放っておかない。三幻魔騒動のそもそもの原因は影丸理事長。責任は僕たち人間にあるし、それに精霊界が……あなたの世界が助けを求めているなら、僕もあなた達の力になりたいの」

 

「レイちゃん……でも、正気を失った精霊とのデュエルは危険を伴う。そんなところにあなたみたいな幼い子が行くことはないよ!」

 

「……あの時も、セブンスターズの騒動の時もそうだった。僕たちは子供で、守られる立場で……あの時は亮さんが、今は精霊達や万丈目さんや十代様達が……他の誰かがその分苦しんでしまう。あの騒動の後、僕たちは確認しあったの。強くなって……他の誰かを助けられるようになりたいと。お願い、ブラック・マジシャン・ガール!」

 

「……分かった。ありがとうレイちゃん。……行くよ!」

 

 手に込められる力からもレイの固い決意が十分に伝わったブラック・マジシャン・ガールはもう片方の手で渦に触れ、二人は精霊界へのゲートをくぐる。二つの世界を繋ぐゲートの中では二人は光となって移動していた。

 

(……! 道が二つに分岐している!?)

 

 先にゲートをくぐったブラック・マジシャン・ガールが先導していくと精霊界に続く道が途中で分かれていた。

 

(そうか。あの術式は二人の術者によって作られたんだ。だから道もそれぞれの術者に……。そして私もユキちゃんの精霊も先にゲートに入る仕組みになっていた。精霊が所持者を導けってことね……!)

 

 ブラック・マジシャン・ガールが一つの道を選んで移動するとレイもそれに連なるように連れていかれた。

 

 その頃、ユキは精霊界に辿り着いていた。移動の衝撃で少し目眩がしてふらふらとしていたが、特に異常はない様子だった。

 

「え……? さっきまで井戸の中にいたのになんでこんな鍾乳洞みたいなところに……」

 

 ユキはクリスタルで構成された柱が所々に出来た鍾乳洞の中にいた。不思議そうに周りを見渡すと、自分の真上あたりに浮いていた精霊の存在に気がついた。

 

「ひゃっ……あなたは昨日の。……えっ、なんでディスクを起動してないのに実体化しているの……!?」

 

「クリクリ〜」

 

 金属光沢が鈍く光る鉄で出来た球体状の身体をした小さなモンスターが赤い目をパチクリさせながらユキに向かって降りてくると細い腕で抱きかかえられる。彼女の胸元あたりに収まったその精霊はネジで出来た尻尾を嬉しそうに振っていた。

 

(かわいい……)

 

「……貴様が精霊に導かれしデュエリストか」

 

「……! あなたは誰? それにここはどこ……?」

 

 鍾乳洞の奥から白いマスクを被った人型の精霊が現れると、ユキの精霊は驚いてデッキの中に隠れてしまった。

 

「質問が多いぞ小娘。その答えは俺とデュエルしてからだ」

 

「デュエルを……?」

 

 あまりに非日常的な状況の連続からのデュエル。それは廃校舎の地下であった亮とミイラのダメージが現実のものとなるデュエルを連想させるには十分だった。

 

「……」

 

「どうした? 怖気ついたか……?」

 

(何が起こっているのかは分からない。でもあの時みたいな異常事態が起きているのなら、もう怖いからと逃げ出したくはない。誰かを守るために……強くなりたいと思ったのだから)

 

「……受けて立つ」

 

「ふっ、そう来なくてはな。今俺から一つ問おう。ただしその答えはデュエルで聞く。貴様はカードの強さと弱さを、その偽りなき姿を見ることが出来るデュエリストか?」

 

(……カードの偽りなき姿?)

 

「「デュエル!」」

 

 鍾乳洞に二人の宣言が響き渡るとデュエルが開始された。柱の陰からか弱い精霊達が二人のデュエルを見守る。

 

「先攻は俺だ。俺のターン、ドロー! 聖刻龍—アセトドラゴンはレベル5だが、その元々の攻撃力を1000とすることでリリースなしで召喚できる」

 

「妥協召喚……!」

 

 紫色の透き通るような身体をした龍が金色(こんじき)の尻尾を揺らしながら現れた。

 

聖刻龍—アセトドラゴン 攻撃力1900→1000

 

「さらに手札の聖刻龍—シユウドラゴンは自分フィールドに存在する聖刻モンスター1体をリリースすることで特殊召喚出来る。アセトドラゴンを生贄とし、現れよ!」

 

 紫色の龍と入れ替わるようにして金色の尻尾を揺らしながら、水色の龍が姿を現した。

 

聖刻龍—シユウドラゴン 攻撃力2200

 

「ここでリリースしたアセトドラゴンの効果を発動! このカードがリリースされたことでデッキに眠るドラゴン族通常モンスターを攻守を0にして呼び出すことが出来る。目覚めよ、エメラルドドラゴン!」

 

 アセトドラゴンの咆哮によって胴体や翼までもが緑色に染まった龍が眠りより呼び覚まされた。

 

エメラルドドラゴン 守備力0

 

「だけど攻守が0では……」

 

「慌てるな。これはまだ新たなドラゴンを呼び出すためのプレリュードに過ぎない。貴様に見せてやろう……伝説をな!」

 

「……伝説って?」

 

「ああ! 見たければその目にしかと刻むがいい。俺はマジックカード、ドラゴニック・タクティクスを発動する! 自分フィールドの2体のドラゴン族を生贄に捧げ、デッキからレベル8のドラゴン族モンスターを1体特殊召喚する。見るがいい。そして(おのの)くがいい!」

 

 二体の龍が粒子となって消え去ると粒子が光となって集まっていき、やがて龍の姿を形成する。光が晴れていくと青き瞳を持つ白く気高き龍の姿が露わになった。

 

「出でよ、我が忠実なる(しもべ)青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)!」

 

青眼の白龍 攻撃力3000

 

「こ、攻撃力3000!? それにこのモンスター……聞いたことがある。広いデュエルモンスターズの中でも海馬瀬人のみが所持していると言われている、まさに伝説のドラゴン……!」

 

(あの人が海馬瀬人には見えない。どうしてそんなドラゴンを彼が……)

 

「ドラゴニック・タクティクスによりリリースされたシユウドラゴンの効果でデッキからドラゴン族通常モンスターを攻守を0にして呼び出す。来い、ラビードラゴン!」

 

「なるほど……それが聖刻モンスターの共通効果」

 

 シユウドラゴンの咆哮が響き渡ると地面を突き破るようにして、青眼の白龍ほどではないが透き通った白い胴体を持つ龍が現れた。

 

ラビードラゴン 守備力0

 

「マジックカード、アドバンスドローにより場のレベル8以上のモンスター……ラビードラゴンを生贄とし2枚のカードをドローする」

 

 龍の魂が光となって彼のデッキに宿ると引き抜かれて彼の力となった。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ。だが、ただのターンエンドではない!」

 

「え……?」

 

「速攻魔法、超再生能力を発動する。効果によりこのターンリリースしたドラゴンの数だけ俺はカードをドローする!」

 

「あなたがリリースしたドラゴンは4体……!」

 

「よって俺は4枚のカードをドローする! さあ、今度こそターンエンドだ」

 

「うっ……」

 

(攻撃力3000のモンスターと伏せカードを用意しながらも手札は6枚。なんて隙のないデュエル……)

 

カイバーマン LP4000

 

フィールド 『青眼の白龍』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札6

 

「ユキのターン、ドロー。……ジェイドナイトを召喚!」

 

 フィールドに出現したワープホールを通り、緑を基調とした小型の戦闘機が出陣した。

 

ジェイドナイト 攻撃力1000

 

「ほう……? ブルーアイズを前に攻撃表示で出したか」

 

「さらに手札の無頼特急バトレインをコストにワンフォーワンを発動! このマジックカードは手札のモンスターカードを墓地へ送ることで発動出来る。その効果でデッキからレベル1のモンスターを1体特殊召喚する……」

 

(……あなたの力、ユキに貸して)

 

 ユキはデッキを手に取り、呼び出すモンスターを決める。彼女が取り出したモンスターは昨日井戸で拾ったカードだった。

 

「お願い、ジャンクリボー!」

 

 驚いてデッキの中に隠れていた丸っこい鉄の身体をした精霊はマジックカードの導きでフィールドに現れると、ユキの方に向き直って不思議そうに赤い目を(しばたた)かせていた。

 

ジャンクリボー 守備力200

 

「ジャンクリボー。一緒に頑張ろう?」

 

「クリ? クリクリ〜!」

 

 ジャンクリボーはユキの言葉に目を大きく見開いたが、その意味を理解すると嬉しそうに小刻みにジャンプしながら相手フィールドに向き直った。しかし相手のフィールドで高くから見下ろしているブルーアイズに気づくとその身を震わせた。

 

「それが貴様の持つ精霊のカードか」

 

「……!」

 

(精霊? ……このモンスターさんが万丈目さんが言っていたデュエルモンスターズの精霊だったんだ。じゃあデュエルモンスターズのカードが実体化しているこの世界はもしかして……)

 

「どうした? 貴様のターンだぞ!」

 

「あっ……か、カードを2枚伏せてターンを終了します」

 

(……落ち着いて。取り敢えず今は目の前のデュエルに集中しよう……!)

 

「ここで墓地に送ったバトレインの効果を発動します。このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズにデッキから機械族・地属性・レベル10のモンスターを1体手札に加えることが出来る……弾丸特急バレット・ライナーを手札に!」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『ジェイドナイト』(攻撃表示) 『ジャンクリボー』(守備表示)

 

セット2

 

手札2

 

「俺のターン! 手札のスピリット・ドラゴンをコストとしてマジックカード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動! このカードの効力でデッキより攻撃力3000以上で守備力が2500以下のドラゴン族モンスターを2体手札に加える!」

 

「その条件は……まさか、ブルーアイズ!」

 

「当然だ。俺が加えるのは青眼の白龍と……青眼の(ブルーアイズ・)亜白龍(オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン)!」

 

 彼の手に二体の龍が収まると、力を誇示するように手札に加えた龍をユキに見せつけた。

 

「そして亜白龍は自身の効果により、手札の青眼の白龍を相手へと公開することで特殊召喚することが出来る!」

 

「なっ……」

 

 青眼の白龍とよく似ていながらも身体の節々に千草色のラインが刻まれたドラゴンが咆哮と共に出現した。

 

青眼の亜白龍 攻撃力3000

 

「亜白龍はこのターンの自身の攻撃を放棄することで相手モンスター1体を破壊することが出来る効果を持つ」

 

「……!」

 

(守備表示のジャンクリボーを攻撃してもダメージは与えられん。ここは攻撃を介さないこのモンスター効果で確実にあのモンスターを葬っておくか)

 

(……あの効果を使わせるわけにはいかない!)

 

「トラップ発動、はさみ撃ち! このカードはユキの場のモンスター2体と相手フィールドのモンスター1体を破壊する。ユキの場からはジェイドナイトとジャンクリボー、あなたの場からは青眼の亜白龍を選択!」

 

 フィールド上に飛翔する白き龍に戦闘機に乗ったジャンクリボーが向かっていく。

 

「馬鹿な! モンスター1体の破壊を防ぐために2体の犠牲を払おうというのか!?」

 

 白き龍に接近した瞬間、戦闘機と搭乗しているジャンクリボーの幻影が戦闘機の先端から射出されると本体はぶつかる寸前で逸れていった。

 

「この瞬間、ジェイドナイトの特殊効果を適用。このカードが攻撃表示で存在する限り、自分フィールドの攻撃力1200以下の機械族モンスターはトラップの効果では破壊されない。ジェイドナイトの攻撃力は1000、ジャンクリボーは300。よってはさみ撃ちの効果で破壊されるのは……」

 

 幻影がそのまま龍の翼の付け根の部分に突撃すると龍は墜落していき、その身体を地に伏すと粒子となって消え去った。

 

「くっ、やってくれたな。最初から狙いは俺のモンスターのみを破壊することだったというわけか。面白い……どうやら貴様は俺の全力をぶつけるに値するデュエリストのようだ」

 

「……! 今までは手を抜いていたということ?」

 

「勘違いするな。俺は相手が強ければ強いほど、呼応して力を引き出せるということだ。トラップカード、魂の綱! 自分フィールドのモンスターが効果で破壊され、墓地へ送られた時にライフを1000払うことで発動することが出来る! その効果でデッキからレベル4のモンスターを特殊召喚する!」

 

カイバーマン LP4000→3000

 

「効果破壊を読まれていた……!?」

 

「俺はこの効果でロード・オブ・ドラゴン—ドラゴンの支配者—を特殊召喚!」

 

 龍の魂が綱となってデッキに伸びていく。すると動物の骨により作られた鎧を身に纏った人型のモンスターが綱を掴み、綱がフィールドに引っ張られることでフィールドに出現した。

 

ロード・オブ・ドラゴン—ドラゴンの支配者— 守備力1100

 

「ロード・オブ・ドラゴンが表側表示である限り、互いにドラゴン族を効果の対象とすることは出来なくなる!」

 

「うっ、これで青眼の白龍を効果の対象に出来なくなった……!」

 

「だがこれで終わりではない! マジックカード、ドラゴンを呼ぶ笛! ロード・オブ・ドラゴンが場に存在することで、手札より2体のドラゴン族モンスターを呼び出す!」

 

「……!? 今あの人の手札には……!」

 

「出でよ、クリスタル・ドラゴン! そして顕現せよ、青眼の白龍!」

 

 ロード・オブ・ドラゴンが笛を吹き鳴らすと天より胴体だけでなく翼や尻尾までもがクリスタルの輝きを放つ龍と上空から全てを見渡すようにして青く澄んだ瞳を持つ龍が現れた。

 

クリスタル・ドラゴン 攻撃力2500

青眼の白龍 攻撃力3000

 

「そんな……。モンスターを破壊したのに、そこからこれほどのモンスターを呼び出すなんて……」

 

「バトルだ! ブルーアイズでジェイドナイトに攻撃する。滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)!」

 

「……!」

 

 ブルーアイズの口の周りに白いエネルギーが溜められていき、その青き目が一寸の狂いもなく戦闘機を捉える。それに気づいたユキがとっさに腕を前でクロスして衝撃に備えると、エネルギー弾が放たれ、戦闘機を粉砕した。

 

ユキ LP4000→2000

 

「くっ! ……ん? ダメージが実体化していない……?」

 

 亮とミイラのデュエルの時のようにダメージが現実のものとなることを想定していたユキだったが、痛みが発しなかったことに安堵を覚えた。

 

(でも実際のダメージが発生していないのにも関わらず、なんて圧力のある攻撃なの……)

 

「ジェイドナイトのさらなる効果を発動。このモンスターが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから機械族・光属性・レベル4のモンスター1体を手札に加えることが出来る。超電磁タートルを手札に!」

 

「だがこれで貴様のライフは2000。クリスタル・ドラゴンとブルーアイズの攻撃が決まれば貴様は終わりだ。クリスタル・ドラゴンでジャンクリボーに攻撃!」

 

 クリスタルの輝きが増していくと内に秘めていたエネルギーが解き放たれ、波のようにジャンクリボーに襲いかかった。

 

「クリッ!?」

 

 押し寄せてくるエネルギー波にジャンクリボーは驚いたが、反応が遅れて逃げ出すことが叶わなかった。

 

「大丈夫、安心して。速攻魔法、ドロー・マッスルをジャンクリボーを対象に発動。このカードは守備力1000以下の表側守備表示モンスターを対象に発動出来る。ユキはカードを1枚ドローし、また対象としたジャンクリボーはこのターン戦闘では破壊されない」

 

 ユキがカードを引くと同時にジャンクリボーの周りが小型の半球形の障壁で覆われるとエネルギー波が直撃する。やがてエネルギーの奔流が収まるがジャンクリボーには傷一つ付いていなかった。

 

「防いだか。だがクリスタル・ドラゴンはバトルを行った自分のターンのバトルステップに特殊能力を発動出来る。たとえ破壊出来ずとも攻撃した事実に変わりはない。よってこの特殊能力によりデッキからドラゴン族・レベル8のモンスターを1体手札に加える」

 

「まさか……」

 

「俺が加えるのは青眼の白龍だ……!」

 

 クリスタル・ドラゴンの透き通った声から為される咆哮により気高き龍が彼の手へと収まった。

 

「ついに3体目の青眼の白龍があの人の手に……」

 

(この状況でもしあのドラゴンを追撃で呼ばれたら勝ち目はかなり薄くなる。次のターンで勝負に出る……!)

 

(……次のターンで仕掛けるつもりか。いいだろう、迎え撃ってくれる)

 

「カードを1枚場に伏せ、ターンを終了する!」

 

カイバーマン LP3000

 

フィールド 『青眼の白龍』(攻撃表示)×2 『クリスタル・ドラゴン』(攻撃表示) 『ロード・オブ・ドラゴン—ドラゴンの支配者—』(守備表示)

 

セット1

 

手札3

 

「ユキのターン! ……神機王ウルを召喚する」

 

 赤を基調とした人型のロボットが空中に現れると、独楽(こま)の底のように一点を指した金属の足で突き刺さるように着地した。

 

神機王ウル 攻撃力1600

 

(狙いはロード・オブ・ドラゴンか?)

 

「さらに弾丸特急バレット・ライナーは自分フィールドのモンスターが機械族・地属性モンスターのみの場合手札から特殊召喚出来る。ジャンクリボー、神機王ウルは共に機械族・地属性……条件は満たしている。発進せよ、バレット・ライナー!」

 

 ジャンクリボーと神機王ウルの間にレールが敷かれていくと豪風と共に一瞬で弾丸列車が到着していた。

 

弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000

 

「ほう? 貴様も攻撃力3000のモンスターを呼び出したか」

 

「ただしバレット・ライナーが攻撃宣言する際、このカード以外の自分フィールドのカードを2枚墓地へ送らなくてはならない……。だけどこういう手もある。バレット・ライナーを墓地に送りマジックカード、受け継がれる力を神機王ウルを対象に発動。選択したモンスターの攻撃力はこのターン限り、墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップする」

 

「……!」

 

 弾丸列車が解体されると部品が強化パーツとなって神機王ウルに引き寄せられていく。

 

「やらせはせん! 俺はそれに対して破壊輪を貴様の神機王ウルを対象に発動する!」

 

「……!?」

 

 八つの手榴弾が取り付けられた鉄の輪が高速回転しながら神機王ウルに向かっていく。

 

「このトラップカードは相手フィールドに表側表示で存在する相手ライフ以下のモンスターを対象に発動出来る。そのモンスターを破壊し、俺はその元々の攻撃力分のダメージを受け、その後貴様に俺が受けたのと同じ数値分のダメージを与える! 神機王ウルの効果はまだ受け継がれる力の効力を得ていないため、攻撃力は1600だ……!」

 

 強化パーツが届けられるより早く、今にも爆発しそうな鉄の輪が神機王ウルの首に取り付けられようとしていた。

 

「ジャンクリボー! あなたの効果を!」

 

「クリクリ〜!」

 

 ジャンクリボーが神機王ウルの前に移動し、壁になるように増殖していくとその内の一体が鉄の輪に触れる。すると機雷化の能力が発動され、自身を爆発させると手榴弾を誘爆させた。鉄の輪が跡形もなく粉砕される中、神機王ウルへの衝撃は届く前に増殖したジャンクリボーが機雷化することで相殺していた。爆発が収まった頃、ようやく届いた強化パーツによって神機王ウルは装備をグレードアップさせた。

 

神機王ウル 攻撃力1600→4600

 

「何……!」

 

「相手がユキにダメージを与えるマジック・トラップ・モンスター効果を発動した時、手札またはフィールドにいるジャンクリボーを墓地に送ることでその発動を無効にし、破壊することが出来る。この効果によって破壊輪の発動は無効となった……!」

 

「……やってくれる」

 

「さらに機械族専用装備魔法、ブレイク・ドローを神機王ウルに装備し……バトル。ここで神機王ウルの特殊能力が発揮される。このモンスターさんは相手に与える戦闘ダメージが0になる代わりに相手フィールド全てのモンスターに攻撃が出来る!」

 

「攻撃力4600の全体攻撃だと……!」

 

「神機王ウルでロード・オブ・ドラゴン、クリスタル・ドラゴン、そして……2体の青眼の白龍に攻撃!」

 

 一本足を軸にして回転を始めると強化パーツによって増した機動力により普段よりも鋭く回っていく。ロード・オブ・ドラゴンを踏み台にするようにして空中へと飛び出すと弧を描くようにして三体の龍を切れ味が格段に鋭くなった金属の爪で切り裂いた。

 

「ダメージが無いとはいえ、俺のモンスターを全滅させるとは……。貴様といい、遊城十代といい……楽しませてくれる」

 

「……! 十代さんを知っているの?」

 

「ふっ、質問は後だと言ったはずだ」

 

「……ブレイク・ドローを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊して墓地に送った時カードを1枚ドローする。このターン、神機王ウルは4体のモンスターを破壊した。よって4枚のカードをドロー!」

 

 十代の名を出したことが気になるユキだったが、今はデュエルに集中するべきだと判断して新たに4枚のカードを手札に加えた。

 

「カードを2枚伏せてターンを終了。このタイミングで受け継がれる力によって上昇していた攻撃力は失われる」

 

 強化パーツの耐久が失われ、剥がれ落ちるように無くなってしまい神機王ウルの力が元通りとなった。

 

神機王ウル 攻撃力4600→1600

 

「またバレット・ライナーが墓地に送られたターンのエンドフェイズにバレット・ライナー以外の墓地の機械族を1体手札に加えることが出来る。戻ってきて、ジャンクリボー!」

 

 手札行きの弾丸列車が墓地から発進されるとジャンクリボーをユキの元に届け、行き先が墓地に変わり戻っていった。

 

(そういえばあの人はデュエルが始まる前にカードの強さと弱さを見ることが出来るかと聞いた。あれは一見弱いとされるカードの中に眠る強さを見つけられるかということ……?)

 

ユキ LP2000

 

フィールド 『神機王ウル』(攻撃表示)

 

セット2 『ブレイク・ドロー』

 

手札4

 

「俺のターン、ドロー! ……!」

 

(ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンか。このモンスターはレベル10だがブルーアイズが破壊された時に手札から効果を発動でき、手札から自身を特殊召喚して俺の墓地のドラゴン族の種類×600のダメージを与える効果を持つ。この効果が決まれば俺の勝ちだが……)

 

 彼はユキの手札を貫くような目線で見るとその目論見は上手くいかないことを確信していた。

 

(ジャンクリボーは手札からもモンスター効果を発動出来る。ブルーアイズが戦闘で破壊された場合、ディープアイズの効果の発動タイミングはダメージステップ終了時となるが、奴のモンスター効果は効果を無効にする効果ではなく発動を無効にする効果であるためダメージステップでの発動も可能だ。ディープアイズの効果による勝利は難しいか……ならば)

 

 一瞬の間にそこまで考え終えたカイバーマンはドローカードを素早く手札に加えると、残りの三枚の手札を全て取り出して行動に移した。

 

「俺はマジックカード、闇の量産工場を発動し墓地に眠る通常モンスターを2体……つまり青眼の白龍2体を手札へと戻す!」

 

「でも青眼の白龍のレベルは8。そう簡単に召喚は……」

 

「ふっ、笑わせるな。俺はこのターンで青眼の白龍をさらなる高みへと昇らせてみせる! マジックカード、融合を発動!」

 

「今あなたの手札には3体のブルーアイズが……まさか!」

 

「そのまさかだ! 俺は3体の青眼の白龍を手札融合する!」

 

 カイバーマンのフィールドに特殊な渦が発生すると雪のように白い身体をした海のように青い眼を持つ三体のドラゴンが混じり合っていく。

 

「今こそ現れよ! 史上最強にして華麗なる究極のドラゴンよ!」

 

 渦から出現したのは青眼の白龍が結合した三つ首のドラゴン。それぞれの首が激しく猛り、戦いの予感を募らせていた。

 

青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)!」

 

青眼の究極竜 攻撃力4500

 

「こ、攻撃力4500……!? 亮さんのサイバー・エンド・ドラゴンより攻撃力が高いなんて……」

 

 ユキはその迫力に思わず半歩下がったが、弱気になっている自分に気づくとそこから一歩踏み出した。

 

「ほう……アルティメットドラゴンを前にしても臆さないか。だがこれで終わりだ! アルティメットドラゴンで神機王ウルへと攻撃する! アルティメット・バースト!」

 

「……!」

 

 それぞれの龍の口元に白いエネルギーが集約されていき、それらのエネルギーが同時に放たれようとしていた。

 

「トラップカード、ディーラーズ・チョイス! 互いにデッキをシャッフルして1枚ドローし、その後手札から1枚選んで墓地に捨てる」

 

「このタイミングで手札交換だと……?」

 

 互いのデッキがシャッフルされると同時にカードが引き抜かれた。

 

「俺はディープアイズ・ホワイト・ドラゴンを墓地へ!」

 

「ユキは超電磁タートルを墓地へ……!」

 

「だがそんなことをしても攻撃は止まらん!」

 

 ついにエネルギーを貯め終えた青眼の究極竜がエネルギーを解き放つ。青眼の白龍のように球形のエネルギー弾ではなく、ビーム状にエネルギーが放たれていった。しかし確かに神機王ウルに向けて放たれたはずのエネルギーが意思を持っているかのように避けていく。

 

「何……!」

 

「ユキは墓地の超電磁タートルの効果を自身を除外して発動した。デュエル中に1度だけ相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外することで、バトルフェイズを強制的に終了させることが出来る……!」

 

 青眼の究極竜と神機王ウルには超電磁タートルによって同じ電極が与えられており、そこから発せられるあらゆるものが反発されるようになっていた。

 

「これも防ぐか……。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

カイバーマン LP3000

 

フィールド 『青眼の究極竜』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札0

 

「ユキのターン、ドロー!」

 

(カードの強さと弱さを、その偽りなき姿を……。まだ言葉に出来るほどはっきりとは分からないけれど、このデュエルで何となくその意味が伝わってきた気がする……)

 

「マジックカード、アイアンコール。自分の場に機械族がいる時、墓地のレベル4以下の機械族1体を効果を無効にした状態で特殊召喚する。ただしエンドフェイズには破壊される……。ユキが選ぶのは無頼特急バトレイン!」

 

 神機王ウルが円を描くように地面を削りながら移動を重ねると、やがて墓地へと繋がる穴が開いた。その穴を通り、赤色の特急列車が猛スピードで帰還した。

 

無頼特急バトレイン 攻撃力1800

 

「さらにデルタトライを通常召喚」

 

 赤で明るめの彩りが施された銀色を基調とした機体が出撃すると、コアを守るためのシールドが形成されていく。

 

デルタトライ 攻撃力1200

 

「言うまでもないがそのモンスターどもの攻撃力では俺のアルティメットドラゴンは倒せん……どうするつもりだ?」

 

「……あなたがドラゴンの力を束ねてアルティメットドラゴンを呼び出したように、ユキも機械(マシーン)モンスターの力を束ねてあなたに挑む」

 

「ほう?」

 

「永続トラップ、機動要塞 メタル・ホールド! このカードは自分フィールドの機械族・レベル4のモンスターを任意の数だけ対象として発動出来る。ユキの場のモンスターは全て機械族・レベル4。よってユキは場の3体のモンスターを対象とし、このカードをトラップモンスターとして呼び出す」

 

 ユキの背後からせり上がるように人型の機動要塞が出現した。

 

機動要塞 メタル・ホールド 攻撃力0

 

「さらに特殊召喚後、対象としたモンスターを装備カードとして装備し、このカードの攻撃力は装備モンスターの攻撃力の合計分上昇する!」

 

「……! まさか……」

 

 足部に特急列車が、身体の軸となる部分に安定感のある神機王ウルが、背中に要塞を空中に浮かせられるほどの馬力を持つ機体が取り付けられると、空陸両方に対応可能な要塞へと変形していった。

 

「それぞれの攻撃力は神機王ウルが1600、バトレインが1800、デルタトライが1200。よって……」

 

機動要塞 メタル・ホールド 攻撃力0→4600

 

「アルティメットドラゴンの攻撃力を正面から超えただと……!?」

 

「バトル。メタル・ホールドでアルティメットドラゴンに攻撃……!」

 

 フィールド上空を飛行するアルティメットドラゴンに地上からの攻撃は不利だと判断したメタル・ホールドは特急列車によって勢いをつけた状態から機体の力で飛び上がった。アルティメットドラゴンも迎撃すべく三つの首から軌道の異なるエネルギーを放つが、バランスに優れた神機王ウルが巧みに身体を動かして紙一重のところでかわしていき、ついに至近距離まで迫ったところで拳に機械(マシーン)モンスターの力を集め、重い一撃を食らわせることでアルティメットドラゴンを地に叩きつけた。深いダメージを負ったアルティメットドラゴンは姿を保ちきれず、粒子となって消え去った。

 

「ぐうっ……!? おのれ、俺のアルティメットドラゴンを……!」

 

カイバーマン LP3000→2900

 

「やっと……あなたにライフコスト以外でライフを減らさせることが出来た。これであなたの場にアルティメットドラゴンはいない。このままメタル・ホールドで押し切る」

 

「そう簡単にやらせはせん……! トラップカード、リグレット・リボーン! 俺のモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、そのモンスターを守備表示でフィールドに呼び戻す。ただしこの効果で呼び出したモンスターは俺のエンドフェイズ時に破壊されるがな……」

 

「……!」

 

 時間が逆再生していくように粒子が戻っていくと再びアルティメットドラゴンが姿を見せ、猛々しく咆哮を上げた。しかしダメージは完全に治ったわけではないようで、翼に傷を負っていたため地面に降り立った。

 

青眼の究極竜 守備力3800

 

(でも青眼の究極竜の攻撃力ではメタル・ホールドは倒せない。次のターンで自壊するなら問題はない……といいのだけれど)

 

 ユキは仮面越しでも相対するデュエリストの勝利への気迫が高まっていく気配を確かに感じ取っていた。

 

(もしユキが彼の立場だったら、正面から攻撃力を超えられて黙ってはいない。……さらにメタル・ホールドの攻撃力を超えてくる? いや、まさか……)

 

「……カードを1枚伏せてターンエンド。アイアンコールのデメリットはバトレインが装備化されているため発生しない。よってこのままターンを終了する」

 

ユキ LP2000

 

フィールド 『機動要塞 メタル・ホールド』(攻撃表示)

 

セット1 『機動要塞 メタル・ホールド』(罠カードとしても扱う) 『神機王ウル』 『無頼特急バトレイン』 『デルタトライ』

 

手札2

 

「俺のターン……」

 

 カイバーマンは目を閉じるとはやる気持ちを抑えながら心を静かにしていく。

 

「……ドロー!」

 

 集中力が最大限に高まった瞬間、カイバーマンは目を開けると鋭くカードを引き抜いた。ドローの風圧は凄まじく、距離を置いているユキにすら感じられた。

 

「貴様に見せてやろう。ブルーアイズのさらなる進化を……!」

 

「ま、まだ進化の余地が……!」

 

「我がブルーアイズに限界などない! ゆくぞ、俺は青眼の究極竜を生贄に捧げる!」

 

「なっ……」

 

「このモンスターは自分フィールドの青眼の究極竜を生贄にした場合にのみ手札より呼び出すことが可能だ。究極のモンスターから召喚できる、全てを消し去る光の龍! 現れるがいい!」

 

 青眼の究極竜の傷ついた身体を突き破るようにして中から閃光と共に白銀の翼を広げた神々しきドラゴンが降臨した。

 

青眼の光龍(ブルーアイズ・シャイニングドラゴン)!」

 

青眼の光龍 攻撃力3000

 

「綺麗……」

 

 白銀の翼が一度羽ばたくたびに粒子が鍾乳洞へと降り注がれる。その幻想的な光景に思わずユキは見とれてしまった。

 

「はっ……いけない。そのモンスターの攻撃力ではメタル・ホールドは倒せない……」

 

「ふん、貴様も薄々分かっているはずだ。究極という殻を破ったシャイニングドラゴンがこの程度で終わるはずなどないということが!」

 

「うっ……」

 

「シャイニングドラゴンの特殊効果! それは墓地に眠るドラゴンの闘志を引き継ぐ能力だ。このカードの攻撃力は俺の墓地のドラゴン族モンスターの数×300上昇する。貴様に分かるか? 墓地に眠りながらも気炎を上げるドラゴンがどれほどいるか……!」

 

 カイバーマンの問いかけにユキは墓地へ送られたドラゴンを思い出すと、頰に冷や汗がつたった。

 

「……12体」

 

「そうだ! よって攻撃力は3600上昇する……!」

 

 墓地に眠るドラゴンの闘志が光になって吸収されていくと、身体から発せられる光がより輝きを増していった。

 

青眼の光龍 攻撃力3000→6600

 

「嘘……攻撃力6600なんて。メタル・ホールドを倒すどころか、ユキのライフまで貫いてしまう……」

 

「そして青眼の光龍にはこのカードを対象とするマジック・トラップ・モンスター効果が発動した時、俺の任意によりその効果を無効にするシャイニング・フレアがある。貴様の伏せカードは恐らく俺のモンスターを対象に力を制限するトラップ……。つまり貴様に次のターンは無いということだ!」

 

「……!」

 

(……伏せカードも読まれていたなんて)

 

「バトルだ! 青眼の光龍でメタル・ホールドに攻撃! シャイニング……バーストッ!」

 

 青眼の光龍が翼を大きく広げると身体中に光のエネルギーが集まっていく。

 

「クリー……」

 

 手札に戻っていたジャンクリボーが精霊として出てくると圧倒的な力を前に呆然としていた。

 

「圧倒的な攻撃力に、対象を取る効果を任意で無効にする能力、これじゃあ打つ手が……。……!」

 

 光のエネルギーが溜まっていきクリスタルに反射した光がフィールドを満たす中、それを眺めるようにするジャンクリボーを見たユキは電撃が走ったような感覚を覚えた。

 

「あ……!」

 

 エネルギーが完全に溜められると一点に集約され、充填されたエネルギーが絶えることなく放たれていった。

 

「……トラップカード、共闘! このカードは手札からモンスターを1体捨て、フィールドの表側表示モンスターを対象に発動出来る。ジャンクリボー、力を貸して?」

 

「クリクリー!」

 

「共闘の効果で捨てるのはジャンクリボー。そして対象は……青眼の光龍!」

 

「…………」

 

 エネルギーがメタル・ホールドに衝突する寸前、増殖したジャンクリボーが壁となり、続けて機雷化していくことで何とか持ちこたえていた。

 

「共闘の対象となったモンスターの攻撃力及び守備力はエンドフェイズまでこのカードを発動するために墓地へ捨てたモンスターのそれぞれの数値と同じとなる。ジャンクリボーの攻撃力は300」

 

「……忘れたのか? 青眼の光龍には対象になった時、効果を無効に出来るシャイニング・フレアがある」

 

 変わらず勢いよく放たれるエネルギーがジャンクリボーを次々と爆発させていく。

 

「カードの強さと弱さ、その偽りなき姿を見ることが出来るか……」

 

「……!」

 

「ユキは途中までこれは一見弱いとされるカードにある強さを見れているかを問われていると思った。だけどそれだけではなかった。一見強いとされるカードにも弱い所がある。……つまりどんなカードにも強い所と弱い所がある。大事なのはその両方を偽りなく見れているかということ。……ユキは共闘をダメージ計算前のタイミングで発動した! 発動を無効にするジャンクリボーと違い、効果を無効にする青眼の光龍の効果はダメージステップでの発動は出来ない。たとえ効果を無効にする効果があってもあなたに発動の権利がなければ対象に取る効果は有効となる……!」

 

「……ふっ、見事だ」

 

 青眼の光龍のエネルギーが枯渇し、発射するエネルギーが無くなる。すると耐えきったジャンクリボーが光を吸収するそれぞれの穴に嵌まっていくと、光が吸収出来なくなり力が衰えていく。

 

青眼の光龍 攻撃力6600→300 守備力2500→200

 

 地面へとへたりこむように力を失った隙を見逃さず、無防備な体勢の青眼の光龍にメタル・ホールドの拳が容赦なく叩き込まれた。

 

カイバーマン LP2900→0

 

 ソリッドヴィジョンが粒子となってクリスタルに溶け込むように消えていく。するとジャンクリボーがふわふわと浮きながらユキの元へと戻ってきた。

 

「ありがとう、ジャンクリボー。あなたのお陰で勝てたよ」

 

「クリクリ? クリ〜!」

 

 ジャンクリボーの頭をユキが前かがみになって撫でると気持ちよさそうに喜んでいた。

 

「デュエルは終わったのだ。質問に答えてやろう。俺の名はカイバーマン。そしてここは精霊界だ」

 

「えっと、ユキの名前は神凪ユキ……です。やっぱり……ここは精霊さんが住む所なんだ。もしかしてあなたも精霊?」

 

「そうだ。そして今精霊界では四人の精霊が正気を失って暴走している。三幻魔を操っていた人間の悪意を取り込んでな……」

 

「そんな……じゃあ早く助けてあげないと」

 

「そのためにはデュエルで勝利し、悪意を払う他ない。今は悪意に意識を乗っ取られているような状態だからな……。俺がデュエルで戻してやりたい所だが、正気を失っているためデュエル外でも暴走してしまっている。俺ともう一人の精霊が二人ずつその暴走を特殊な術式で今も何とか抑えているが、デュエルでの衝撃はデュエルでしか防げない。しかし今のデュエルのような衝撃がないものではなく、暴走した精霊のデュエルの衝撃を受けながらではその術式は保てん……。俺も皆も奴らが正気に戻った時に、取り返しがつかない過ちを犯させたくはない。そのため特殊な術式を使える数少ない精霊である俺はデュエルするわけにはいかんのだ」

 

「……もしかして今のデュエルでユキを試すようなことをしたのは?」

 

「貴様がどれほどのデュエリストか見定めさせてもらった。精霊とのデュエルは危険を伴う上に、今回暴走している精霊は皆デュエルが強い……。凡骨デュエリストに挑ませるわけにはいかなかったのだ」

 

「……なるほど」

 

「だが先ほども言ったが、デュエルでの衝撃は抑えられん。危険なことを頼んでいるのは承知の上だ。断ろうと俺は貴様を恨みはせん」

 

「……断らないよ。ユキが勇気を出すことで守れるものがあるのなら、助けたい」

 

 セブンスターズの騒動の後、レイと確認しあったこと。その時抱いた決意は揺るがず、迷うことはなかった。

 

「……感謝する。今、遊城十代はエルフの里エリアにいる。俺がもう一人力を抑えている精霊は墓場エリアにいる……ユキにはそちらに向かってもらう」

 

「あ……十代さんもこっちに来ていたんだ。了解……墓場エリアにはどうやって行けばいい?」

 

「このカードを使い、直接そのエリアに移動してもらう」

 

 そう言ってカイバーマンはデッキから亜空間物質転送装置のカードを取り出した。

 

「じゃあすぐにでも……あっ。そういえば暴走している精霊は全部で四人。残りの二人は……?」

 

「もう一人の精霊の所にも人間界から二人助けに来たらしい」

 

(二人……一人は十代さんと一緒にいなくなった万丈目さんのはず。もう一人は……もしかしてレイちゃん、なのかな)

 

「はっきり言って俺たちが精霊の動きを制限出来る時間にあまり猶予はない……。お前たちの勝利を信じているぞ……!」

 

(……歯がゆいだろうな。あの人ほど強ければ本当は自分の力で助けに行きたいはず)

 

「……うん! 任された……!」

 

 ユキの言葉にカイバーマンは頷くと亜空間物質転送装置を発動させ、彼女の身体を墓場エリアへとワープさせた。

 




分割も考えましたが、このデュエルは分けずに見てもらいたかったのでいつもより長めとなりました。

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