佇む少女は機械仕掛け 作:ロボッピ
ユキとカイバーマンが出会って少し経った頃、レイもまた精霊界に辿り着いていた。
「ふぅ……ついた。レイちゃん大丈夫?」
「ととっ……! だ、大丈夫……ちょっとフラフラするけど」
移動の反動でたたらを踏むレイだったが、身体に問題は起こっていない様子だった。
「来てくれたか。精霊に導かれしデュエリストよ」
「……! あなたが助けを求めていた精霊?」
レイ達が辿り着いたのは反射する太陽の光すら眩しくなるほど白い柱によって建てられた神殿。入り口辺りにいる彼女達のもとに奥から三角形を重ね合わせたような紋様が刻まれたローブに身を包み、黒い仮面を被った人型の賢者の精霊が近づいてきた。
「その通りじゃ。まず助けに来てくれたことに心から礼を申し上げる。……じゃが、まだお主を向かわせるわけにはいかぬ」
「な、なんで!? 時間ないんでしょ?」
「ああ……じゃが、今暴走している精霊は並大抵の強さではない。お主の強さ、それを私に見せてくれ」
「……なるほどね。分かったよ!」
(カイバーマンのもとを訪れたデュエリストは力の試練を受けている。私が与えるのはそれと対をなす……心の試練!)
「一つ問おう。答はデュエルにより示すが良い。お主はカードのことを信じられるか、否か……?」
(信じられるかって……? 勿論信じてるよ! 恋する乙女もブラック・マジシャン・ガールも……みんなのことを!)
レイにとっては当然のことのようにすら聞こえる問いに彼女は些か呆気に取られたが、すぐにデッキを見つめて力強く頷いた。
「「デュエル!」」
神殿の柱の影から覗くようにしてか弱い精霊たちが見守る中、二人のデュエルが開始された。
「僕のターン、ドロー! 来て、チョコ・マジシャン・ガール!」
なびく水色の髪を青色のとんがり帽子で抑えながら若い女性の魔術師がフィールドに降り立つと、懐からステッキを取り出した。
チョコ・マジシャン・ガール 攻撃力1600
「チョコ・マジシャン・ガールの効果発動! 手札の魔法使い族モンスターを墓地に送り、カードを1枚ドローする!」
レイが墓地に送った魔法使いから魔力を受け取ったチョコ・マジシャン・ガールがステッキを振るうと1枚のカードがレイにもたらされた。
「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」
「……」
ターンを終えたレイは並び立つブラック・マジシャン・ガールが対峙する精霊を怪訝な表情で見つめていることに気がついた。
「ん? どうしたの? ブラック・マジシャン・ガール」
「あ……ううん。なんでもないの」
(なんでだろう? 彼を見ているとなんだか懐かしい気持ちに……)
レイ LP4000
フィールド 『チョコ・マジシャン・ガール』(攻撃表示)
セット1
手札4
「ならば私のターン、ドロー。私は熟練の黒魔術師を攻撃表示で呼び出す」
紫色の光を放つ魔法陣がフィールドに描かれるとその中心から黒いローブに身を包んだ魔術師が現れた。
熟練の黒魔術師 攻撃力1900
「さらに手札のカードを1枚墓地へ捨てることで、幻想の見習い魔導師は手札から特殊召喚することが出来る!」
さらに出現した紫色の魔法陣から杖先に月を模したオブジェクトが取り付けられたステッキを持った女性の魔術師が現れると、そのステッキを天に掲げた。
幻想の見習い魔導師 攻撃力2000
「幻想の見習い魔導師が特殊召喚に成功したことでデッキからこのカードを手札に加える」
「……! そのカードは……!?」
「えっ、そんな……!」
ステッキから光が放たれデッキにある1枚のカードを輝かせると、そのカードが彼の手に加えられた。
「ブラック・マジシャン……!?」
(……! まさか、あなたは幼い頃私に一から修行をつけてくれた……)
「あ、あのっ! あなたは……」
「……ブラック・マジシャン・ガールよ。今は真剣勝負の最中。質問は後にしてもらう」
「えっ……」
仮面から覗かせる目がブラック・マジシャン・ガールを鋭く射抜くと彼女は少しの間固まってしまう。懐かしさからあふれ出した感情が収まっていくと、冷静さも同時に取り戻されていった。
(……そっか。このデュエルに危険はなくても、暴走した精霊のデュエルじゃ油断は禁物。レイちゃんの力を見極めるこの試練、彼が私の知り合いだと分かってしまったら多少なりとも安心してしまう)
ブラック・マジシャン・ガールは目を閉じて頷くと、次の瞬間には真剣な眼差しで相手を見つめていた。
「……バトルだ! 幻想の見習い魔導師でチョコ・マジシャン・ガールへと攻撃を行う!」
再びステッキが掲げられると紫色の魔導弾が生成されていく。
(……かかった!)
「チョコ・マジシャン・ガールの効果発動! 1ターンに1度、このカードが攻撃対象に選択された場合、墓地の魔法使い族モンスターを特殊召喚する! さらに攻撃対象を呼び出したモンスターに誘導し、攻撃モンスターの攻撃力を半減させる!」
「……先ほどのターン、墓地に送ったモンスターを呼び出すつもりか」
「その通り。僕がこの効果で呼び出すのは……恋する乙女!」
チョコ・マジシャン・ガールがステッキの杖先を地面に触れさせると墓地へと通じる穴が出現し、そこから黄色いドレスに身を包んだ華麗な少女が現れると彼女の目の前に半透明の障壁が貼られた。
恋する乙女 攻撃力400
魔導弾が放たれると障壁にぶつかり、その威力を弱めてしまう。しかし勢いが半減しながらも恋する乙女に向かって突き進んでいった。
幻想の見習い魔導師 攻撃力2000→1000
「それでも幻想の見習い魔導師の攻撃力の方が上回っておるが……」
「恋する乙女は攻撃表示の時、戦闘では破壊されない!」
「……だが、ダメージは受けてもらう」
威力が弱まっていても魔力が込められた魔導弾に少女は大きく弾き飛ばされてしまい、その目には涙が浮かんでいた。
レイ LP4000→3400
「恋する乙女のさらなる効果を発動! このカードを攻撃したモンスターに乙女カウンターを乗せる!」
「ほう……?」
涙ぐむ乙女の姿を見て幻想の見習い魔導師はわずかに動揺していた。
幻想の見習い魔導師 乙女カウンター0→1
(よし、決まった! あなたのくれたマジシャン・ガールと僕の恋する乙女の攻撃誘導コンボ……。誘導だけじゃない、攻撃力半減で戦闘ダメージを受けないと効果を発揮できないキューピッド・キスで受けるダメージも減らせる……)
「さらに熟練の黒魔術師で……」
(でも相手がいきなり2体のモンスターで攻めてくるなんて。もうチョコ・マジシャン・ガールはこのターン攻撃誘導出来ない……)
「恋する乙女に攻撃を行う!」
「えっ!?」
熟練の黒魔術師がロッドを乙女に向けると帯状の魔力が放たれた。既に障壁も消えており、寸分の狂いなく乙女に向かっていく。
(確かにダメージは恋する乙女の方が多く与えられるけど……)
「ここで幻想の見習い魔導師の効果を発動! このカード以外の自分の魔法使い族・闇属性が相手モンスターとバトルを行うダメージ計算時にこのカードを墓地に送ることでダメージ計算時のみ攻守を2000上昇させる!」
「……! まさか……!?」
幻想の見習い魔導師が魔術師と並び立つとロッドに重なるようにステッキをかざし、膨大な魔力を与えると限界を迎えて消えてしまう。すると放たれている帯状の魔力がさらに太くなっていった。
熟練の黒魔術師 攻撃力1900→3900 守備力1700→3700
「レイちゃんのライフは3400。こ、これじゃあ……!?」
魔力が衝突し、爆風が恋する乙女ごとレイとブラック・マジシャン・ガールを包み込む。
「……」
爆風が収まりその姿が見えるようになるまで賢者はただ静かに待っていた。
「……!」
「あ、危なかった……。まさかこのターンでライフを一気に持っていこうとするなんて」
レイ LP3400→3400
爆風が止むと焦りの表情を浮かべるレイの場には1枚のカードが発動されていた。
「トラップカード、ブービーゲーム……! この戦闘で発生した戦闘ダメージを0にしたよ!」
「……なるほど」
包み込んだ不思議なヴェールでダメージが打ち消された乙女はホッと安堵の溜め息をついていた。
熟練の黒魔術師 攻撃力3900→1900 守備力3700→1700
「戦闘ダメージが0になったとはいえ、攻撃された事実に変わりはない! 熟練の黒魔術師に乙女カウンターが乗ったよ」
溜め息をつく可憐な乙女に黒魔術師は思わずときめいてしまう。
熟練の黒魔術師 乙女カウンター0→1
「私はこれでターンを終了する」
賢者 LP4000
フィールド 『熟練の黒魔術師』
セット0
手札4
(危うくこのターンで負けるところだったけど、結果的に相手モンスターは1体減って逆に僕は1体増やせた。状況は悪くない!)
「僕のターン、ドロー。チョコ・マジシャン・ガールの効果を発動して手札の魔法使い族モンスターを墓地に送り、カードを1枚ドローする! ……魔導騎士 ディフェンダーを召喚! このカードには召喚した時に1つ魔力カウンターが置かれる」
騎士が飛び降りるようにフィールドに降り立つと縦長の盾が叩きつけられるように構えられ、重厚感のある音が響いた。
魔導騎士 ディフェンダー 攻撃力1600 魔力カウンター0→1
「装備魔法、キューピット・キスとワンダー・ワンドを発動! 魔導騎士 ディフェンダーとチョコ・マジシャン・ガールにそれぞれ装備するよ! ワンダー・ワンドは魔法使い族にのみ装備でき、攻撃力を500アップする!」
魔導騎士の上に現れた天使から光の粉が降り注がれると同時にチョコ・マジシャン・ガールの手に持っていたステッキが消えると代わりに長い杖が授けられる。
チョコ・マジシャン・ガール 攻撃力1600→2100
熟練の黒魔術師 魔力カウンター0→2
「……! あれは……魔力カウンター?」
レイは黒魔術師に変化が起きていたことに気がつく。魔術師の左肩、右肩、首元に取り付けられた三角形を重ね合わせたような紋様が刻まれた半球体の物体の内、左肩と右肩にあるものに淡い緑色の光が点灯していた。
「熟練の黒魔術師は魔法カードが発動する度に1つ、最大3つまで魔力カウンターを自身に乗せる効果を持つのじゃ」
「なるほどね……」
「攻撃力を上げてきたが、チョコ・マジシャン・ガールの攻撃で熟練の黒魔術師を倒すつもりか……?」
「ふふっ……どうかな? バトル! 魔導騎士 ディフェンダーで熟練の黒魔術師に攻撃!」
「何……!」
騎士が狙いをつけると黒魔術師に向かって短剣が投擲される。しかしそれに反応した黒魔術師が魔力を波状に広げて放つと短剣ごと騎士を覆い込んだ。
レイ LP2900→2600
「この瞬間、魔導騎士 ディフェンダーの効果を使わせてもらうよ! 1ターンに1度、魔法使い族モンスターが破壊される場合に破壊される魔法使い族1体につき1つ、自分の場から魔力カウンターを取り除くことで身代わりとすることができる。僕は魔導騎士 ディフェンダー自身から魔力カウンターを取り除く!」
魔力の波が流れ去っていくと騎士は盾に刻まれた魔力を使用し自身を包み込むようにバリアを張ることで破壊を免れていた。
魔導騎士 ディフェンダー 魔力カウンター1→0
(一見無意味な行動だが……なにか狙いがあるに違いない)
「ここでキューピッド・キスの効果発動! 装備モンスターが乙女カウンターの乗ったモンスターに攻撃して戦闘ダメージを負った場合、そのモンスターのコントロールを得ることが出来る!」
「……! 私のモンスターを
すぐ横を流れ去った魔力の波を見て乙女が怯えたような表情で黒魔術師を見つめる。すると罪悪感に苛まれた黒魔術師は主のもとを離れ、乙女の味方となった。
「あなたの場に伏せカードはない。この勝負、もらった! 熟練の黒魔術師でダイレクトアタック!」
乙女にお願いされた黒魔術師は躊躇しながらも意を決して主に向かってロッドを掲げようとした。
「我がモンスターに主を攻撃させる役目を負わさせはせぬ!」
仮面から覗かせる瞳が鋭くなると地面に空いた穴から伸びてきた光の剣を掴み取り、思い切り天に向かって投擲した。
「え……!?」
ロッドが掲げられた瞬間、天から無数の光の剣がフィールドの中央に降り注ぎ視界を遮った。
「一体なにが……」
「私は幻想の見習い魔導師により墓地へと送られていたトラップカード、光の護封霊剣を除外することでその効果を発動していた」
「ぼ……墓地からトラップ!?」
「光の護封霊剣は相手ターンに墓地から除外することでそのターンに限り、相手モンスターの直接攻撃を封じることが出来るのじゃよ」
「そんなカードを墓地に送っていたなんて……このターンで勝てると思ったのに」
「勝負は決着の時まで分からない。その瞬間が訪れるまでは油断をしないことじゃ」
「ううっ……その通りだね。僕はワンダー・ワンドの効果を使うよ。装備していたチョコ・マジシャン・ガールとワンダー・ワンド自身を墓地に送ることで2枚のカードをドローする。……カードを2枚セット!」
(伏せカードの1枚はマジシャンズ・プロテクション。僕の場に魔法使い族がいる限り、僕が受けるダメージを半減させられる。だけどあの精霊の言う通り油断はできない……ここは慎重にいく!)
「恋する乙女を守備表示に変更してターンエンド!」
乙女は地面に膝をつけると足を開いてその間にお尻を落として座り、前で腕をクロスして防御の体勢に入った。
恋する乙女 攻撃力400→守備力300
レイ LP3100
フィールド 『恋する乙女』(守備表示) 『魔導騎士 ディフェンダー』(攻撃表示) 『熟練の黒魔術師』(攻撃表示)
セット2『キューピッド・キス』
手札2
「私のターン、ドロー! 永続魔法、魂吸収を発動。このカードの効力によりゲームからカードが取り除かれる度、1枚につき500のライフを私は得る」
彼の背後に巨大な門が出現するとその門の後ろで亜空間に繋がるゲートが開かれた。
熟練の黒魔術師 魔力カウンター2→3
「マジックカード、古のルールを発動! このカードにより手札からレベル5以上の通常モンスターを1体特殊召喚する!」
「レベル5以上の通常モンスター……」
「まさか……!」
「いでよ! 我が手に眠りし最上級魔術師……ブラック・マジシャン!」
魔術の呪文書がフィールドに置かれるとひとりでにページがめくられていき、召喚の呪文が記されたページが開かれると文字が端から紫色の光を放ちながら浮かび上がっていく。やがて全ての文字が浮かび上がると一瞬の閃光の
ブラック・マジシャン 攻撃力2500
「ブラック・マジシャン……! キング・オブ・デュエリストと呼ばれている武藤遊戯さんのエースカード……」
(……お師匠様)
「さらに時の魔術師を召喚!」
赤い
時の魔術師 守備力400
「時の魔術師の効果発動! タイム・ルーレット!」
賢者の宣言と共に回り出した時計の針が、青色に区切られた上の面と黄色に区切られた下の面を交互に指していく。
「一体何を……!?」
「私はこのルーレットがどちらで止まるか宣言する。当たった場合お主の、外れた場合私の場のモンスターが全て破壊される!」
「なっ……!?」
(どうしてブラック・マジシャンを呼ぶ前じゃなく、今……?)
「"下"を宣言する!」
やがて針が減速していくと、ついに一つの面を指し示した。
「下……!」
「時の流れへと消えるが良い。タイム・マジック!」
時の魔術師がステッキを振りかざすとフィールドの時間が急速に進んでいった。
「これでお主の場のモンスターは全滅じゃ」
「……それはどうかな?」
「なんじゃと?」
時の流れに耐えられず消滅。そう確信した賢者に対し、レイはそうはさせまいと動いていた。
「忘れたわけじゃないよね。魔導騎士 ディフェンダーには魔力カウンターを盾にして魔法使い族を助けられる効果があることを」
「勿論。だが肝心の魔力カウンターが……。……!」
「気づいたみたいだね。そう! 僕は熟練の黒魔術師に乗っていた魔力カウンターを全て使って破壊を防いだんだ!」
急激な時間加速により歪む空間。その中で騎士は魔術師の助力を得て自分達と乙女を包むように不可視の障壁を作り出し、影響を免れていたのだった。
熟練の黒魔術師 魔力カウンター3→0
「……私のモンスターとの連携で凌いだか……」
「そうだよ。……ブラック・マジシャン・ガールとのデュエルで気づいたんだ。デュエルは時に相手のカードが自分の力になってくれることがある。だから自分のカードだけじゃなく、相手のカードも信じる必要があるんだってね」
「……!」
レイのその言葉に、賢者は目を大きく見開いた。
「レイちゃん……」
(嬉しいな。私とのデュエルでそう感じてくれたんだ。……私もそれを……お師匠様とのデュエルで感じたから)
(……そうか……。どうやら既に……我が弟子を通して伝わっていたようだな)
そしてその目をブラック・マジシャン・ガールの方に向けると、それに気づいた彼女は照れるように微笑みを見せていた。
(彼女ならこの試練を乗り越えられるやもしれん。だからこそ……私は全力を尽くそうじゃないか)
賢者は口角を上げると被っている仮面に手をかけた。
「タイム・マジックにより長き時を経て、ブラック・マジシャンは進化を遂げる……!」
「えっ!?」
ブラック・マジシャンが纏っていた紫色のローブが年季の入ったものになり、彼自身も歳を重ねた大賢者として姿を現した瞬間、時を同じくして同じ姿の者が仮面を外した。
黒衣の大賢者 攻撃力2800
「時の魔術師の効果を成功させることで、ブラック・マジシャンを生贄にデッキより黒衣の大賢者を呼び出せるのじゃよ。驚いたかな?」
「……そ、そっちもビックリだけど、まさかあなたの正体が……歳を重ねたブラック・マジシャンだったなんて……」
「お師匠様……良いんですか?」
「ああ。良いじゃろう。ここまでのデュエルを見て……それは余計な心配じゃと判断した。じゃが……」
「……!」
柔和な表情を見せる彼の鋭い眼光にレイは身体を強張らせた。
「まだ試練は終わっておらんぞ」
「……勿論! 決着の時まで油断はしないよ!」
「ふふ……良い心がけじゃ。……黒衣の大賢者の特殊効果を発動する! この方法によりこのカードが呼び出されたことで、ワシはデッキより任意のマジックカードを1枚手札へと加えられる!」
「えっ……!? 任意のって……好きなのを持ってこれるってこと……!?」
「その通り。私が選ぶのは……死者蘇生! そしてこのカードを発動させる!」
「死者蘇生……!? 墓地から好きなモンスターを1体復活させられる強力なカードじゃない……!」
(肌にビリビリ伝わってくる……! あの人が本気で僕に向かってきてることが……!)
場に張り詰める緊張感が弛緩することはなく、むしろより強まったようにすらレイには感じられていた。
「再び現世へと姿を見せよ! ブラック・マジシャン!」
黒衣の大賢者が呪文を唱えると空いた穴から青白い閃光が走り、次の瞬間には青年時代のブラック・マジシャンとの時を超えた邂逅を果たしていた。
ブラック・マジシャン 攻撃力2500
(凄い……。けど、このターンはマジシャンズ・プロテクションでなんとか凌げる!)
「……さらに速攻魔法、
「……!?」
(……なんて覚悟で仕掛けてくるの……!)
黒衣の大賢者とブラック・マジシャンがロッドを重ね合わせると、多くのモンスターの力が集約されていった。そんな光景を前にしたレイは背中に冷や汗が伝う感覚を覚えながら、彼らと向き合っていた。
「そしてその効果により、お主の場のモンスターを全てゲームより取り除く!」
「嘘でしょ……!? せっかく時の魔術師から守ったのに……!」
そして全ての力が集まった瞬間、2人の黒魔導師が顔を見合わせて頷き、相手の場に異次元へ通じる穴を出現させた。レイの場のモンスターが抗いようのない絶対的な力で吸い込まれ、異次元へと飛ばされてしまう。
(さあ……乗り越えてみせよ)
「この瞬間、魂吸収の効果が発動される……! ゲームから取り除かれたのは全部で20枚。よって私は1万のライフを得る……!」
「レイちゃん……!」
次々と魔法使いの魂が彼の背後にある門へと飛び込んでいき、魔力から命の源が生み出されていった。
「……させない! 速攻魔法、ダブル・サイクロン! 僕の場に伏せてあるカードと、あなたの魂吸収を破壊する!」
「ほう……!?」
彼を癒す光が今にも放たれようとしていた。そこにやってきた嵐がレイの伏せているカードを巻き込んで巨大な門を崩壊させ、亜空間へと続く道は閉じてしまった。
「じゃが、伏せカードを失ってはダイレクトアタックは防げぬ」
「それはどうかな! 破壊されたマジシャンズ・プロテクションの効果を発動! このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、僕の墓地から魔法使い族モンスターを1体特殊召喚できる!」
「しかしお主のモンスターは神々の黄昏で除外されて……。……! そうか……」
「そう……僕の墓地には1体だけ、チョコ・マジシャン・ガールの効果で送られたモンスターが眠ってる! 戻ってきて、ミュータント・ハイブレイン!」
がら空きになったレイの場に突如として、細身ながら3メートルを超える身長の突然変異体が現れた。場に降り立つことはなく、自身の超能力を駆使して浮遊している。
ミュータント・ハイブレイン 守備力2500
「……ならば、バトル! 黒衣の大賢者でミュータント・ハイブレインへと攻撃を行う!」
黒衣の大賢者は紫色の魔力の弾を放った。テレキネシスにより軌道を変えようと試みたミュータント・ハイブレインだったが、その威力に力及ばず。魔導弾が的中し、倒れてしまった。
「さらにブラック・マジシャンでダイレクトアタック!
続けて放たれた魔導弾は先に放たれたものより僅かに威力で劣るものの、それでも空気を切り裂いていき、的確にレイを捉えた。
「くうっ……!」
レイ LP3100→600
(僕なりに守備は固めていたのに、ここまで追い詰められるなんて……!)
(……このターン魂吸収による回復、または全滅からの連続攻撃。いずれかを防げなければ……そう思っていたのだが、凌いでみせたか。後は……)
「ターンエンドじゃ」
賢者 LP4000
フィールド 『黒衣の大賢者』(攻撃表示) 『ブラック・マジシャン』(攻撃表示) 『時の魔術師』(守備表示)
セット0
手札0
(追い詰められた! 不安が押し寄せてくるよ……それでも、僕は……)
猛攻により場のカードを失い、ライフも大きく失ったレイ。焦りや緊張は確かにあった。
(信じてるよ)
「……ドロー! ……!」
勢いよく引き抜いたカードを目にした彼女はその目を見張った。
(儀式の下準備。デッキから儀式魔法と対応する儀式モンスターを持ってこれる。僕の残りライフを考えれば……)
(……力になるよ、レイちゃん!)
そしてブラック・マジシャン・ガールの方へと少しの間振り向くと、前へと向き直った。
(目の色が変わった……!)
瞳に決意が宿ったことに賢者が気づく中、レイはドローしたカードをそのまま発動させた。
「儀式の下準備発動! デッキからカオス—黒魔術の儀式とマジシャン・オブ・ブラックカオスを手札に加えるよ。さらにミスティック・パイパーを召喚!」
紅色のマントを羽織った青年が降り立つと、横笛を唇に当てて構えた。
ミスティック・パイパー 攻撃力0
「ミスティック・パイパーの効果発動! 自身を生贄にすることで、僕はカードを1枚ドローするよ。引いたカードがレベル1のモンスターならもう1枚ドロー出来る!」
(先に該当しない儀式魔法とレベル8のモンスターを加えたのはそのためか……)
心地よい音の旋律につられ、レイのデッキトップのカードが光り出した。レイはそのカードを迷わず引き抜く。
「ドローしたのはマジシャンズ・ソウルズ! レベル1だよ。よってもう1枚……ドロー!」
旋律がリズム良く重なるようにもう1枚のカードも引き抜かれた。
「よしっ! 儀式魔法、高等儀式術! 呼び出す儀式モンスターとレベルが同じになるようにデッキから通常モンスターを墓地に送って儀式召喚するよ! デッキからレベル8のコスモクイーンを送って……いでよ、マジシャン・オブ・ブラックカオス!」
青白い8つの炎が出現すると浮かび上がった光が複雑な術式を描き出した。そして完成した術式が輝きを増すと、紫を基調とした装束に身を包んだ魔術師が姿を現した。
マジシャン・オブ・ブラックカオス 攻撃力2800
「さらにデッキからレベル6以上の魔法使い族モンスターを墓地に送ることで手札のマジシャンズ・ソウルズの効果発動! このモンスターを特殊召喚するか、このモンスターを墓地に送ることで僕の墓地からブラック・マジシャンかブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚出来る! 2つ目の効果を選ぶよ! お願い、ブラック・マジシャン・ガール!」
「任せてっ!」
効果発動に必要なコストとしてブラック・マジシャン・ガールを墓地に送ったレイは彼女に声をかけると、威勢の良い返事と共に彼女自身が場へと参上した。
ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000
「……だが、それだけでは我が布陣は崩せぬ!」
「そうだね。だから僕は……あなたのカードを使わせてもらうよ」
「……なに?」
「
「……!」
(死者蘇生でコスモクイーンを復活させ、ライフは削りきれないまでも全滅させる算段か。……!? そ、そのカードは……)
「僕はこのカードを発動させる! 神々の黄昏!」
レイが選んだのは神々の黄昏。発動のコストとしてレイのデッキ・墓地から全てのモンスターの魂が取り除かれていく。それを見た賢者は、そのうち半分近くがブラック・マジシャン・ガールが所持していたカードであることに気がついた。
(神々の黄昏を発動可能な黒魔導師のうち2体は私が、残り2体は我が弟子が持っていた……。それにこれは……なるほどな。彼女は彼女自身のカードだけでなく、我が弟子のカードも同様に信じていた。さらに私のカードまで信じ、自らのデッキを最大限に活かした……)
最上級魔法によりなす術なく賢者のフィールドの魔術師たちが異次元へと飛ばされていった。その光景に彼は思わず感嘆の吐息を漏らす。
「バトルだ! マジシャン・オブ・ブラックカオスとブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック! ダブル・ブラック・バーニング!」
ステッキとロッドが重ね合わされるとその先に巨大な魔導弾が生成されていき、そして放たれた。
賢者 LP4000→0
これにより、デュエルの幕が閉じられた。ブラック・マジシャン・ガールが信じられないような表情で立ち尽くしているとレイが隣にやってきた。そして満面の笑みを二人とも浮かべるとハイタッチを交わしたのだった。
「……見事じゃ。最後は思わず見惚れてしまったよ」
「お師匠様」
「えっと、二人はやっぱり……?」
「うん。昔、お師匠様に色々教えてもらっていたんだ」
「まさかまた会えるとは思わなかった。しかも今のデュエルから、お主は勿論……お前のデュエルも感じられて嬉しかったよ」
「あ、ありがとうございます!」
「……さて再会を懐かしみたいところだが」
「精霊の暴走をなんとかしなきゃ……だよね」
「ああ。デュエルでの衝撃も発生する上、相手も強い精霊じゃ。それでも……お願い出来るだろうか」
「勿論! 僕が勇気を出せば、助かるんだ! 引き受けるよ! それで、どうやったら助けられるの?」
「今は悪意に意識を乗っ取られている。デュエルに勝利することでそれを払えば問題ないのだが……」
「……? だが……?」
「……いや、先にも言った通り乗っ取られた精霊はデュエルがかなり強くてな。それも被害にあった4人ともなんじゃ。今回の事件、偶然にしては出来すぎているような……」
「……確かに。奪われた力と一緒に受け取ったのに、よりによって強い人ばかりになんて。か弱い精霊の方が乗っ取られやすいのに……」
(この世界のことを知ってる二人が言うなら……そうなのかな)
「……それでもデュエルに勝てば意識を取り戻せるのは間違いないんだよね?」
「ああ……纏ってる悪意が原因なのは確認してある。間違いない」
「なら、やることは変わらないよ。もし裏に何があったとしても、助けにいく!」
「……頼む」
漂う不穏な気配を断ち切るような強い意思を見せたレイに彼は絞り出すように声を出し、彼女を拘束している精霊の場所へと移動させたのだった。
そうしてレイが精霊の前にたどり着く、少し前。ユキは墓場エリアへと到着していた。
(暗い……。暴走している精霊はどこに?)
その場には灯りが見当たらず、また墓場エリアには日が差さないため辺りは真っ暗だった。すると不意に一灯の火が彼女の前に出現した。
「ひっ……!?」
「……嬢ちゃんか。迷子……じゃねえよな」
死者の魂を連想させるような火の玉にユキが怯えた声を出すと、火の主はその頼りなげな姿に不安そうな声色で話しかけてくる。
「う、うん。急だったからビックリしただけ。あなたは……?」
「オイラはここに住んでいる妖怪さ。カイバーマン様から現地での案内を頼まれてるんだけど……そんな調子で平気か?」
正体は尻尾の先に火を灯せる狐の精霊だった。墓場エリアの長とも言える精霊を助けるためにも、ユキにその覚悟の程を問う。
「……大丈夫。あの人の分もユキが精霊さんを助ける……!」
「……!」
しっかりと目を見据えて返事をしたユキにその見た目とは裏腹に強い意思があると感じた狐は彼女に託すことを決めると、奥で動きを拘束されている精霊の元へと案内した。そして近くに置かれていた蝋燭に狐が火を灯し、姿がはっきりと彼女の瞳に映った。
「……!? まさか、そんな……」
彼女の身体が途端に震え出す。
「死霊王 ドーハスーラ……!?」
かつて感じた恐怖が、再び彼女を襲ったのだった。
色々あって期間空いてしまいましたが、リアルの方が落ち着いてきたので、またゆるゆると書いていきます。