佇む少女は機械仕掛け   作:ロボッピ

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希望の灯火

「……死霊王 ドーハスーラ……!?」

 

「知ってるのか。そうだぜ。ドーハスーラのアニキは墓場エリアの主……。いつもはオイラみたいな弱い精霊の面倒を見てくれてるんだ」

 

「……! そう、なんだ……。優しい精霊さんなんだね」

 

(ユキにとっては、強い衝撃を受けた……苦手なモンスター。正直、怖い……。でも向き合おう。このモンスターさんは前も、今も……巻き込まれているだけなんだ)

 

 蝋燭の炎が照らした先には大蛇の身体と骸骨の顔を持つ精霊の姿があった。黒く染まった霊魂のようなエネルギーが身体から溢れんばかりに出ていたが、彼の下に浮かび上がる術式が動きを抑え込んでいる。

 

「……ふふふ。誰かと思えば。遊城十代は来なかったか。しかも身体が震えておるではないか……」

 

「……!」

 

 どこからか聞こえた声にユキは左右を見渡したのちに、顔を上げた。彼女が顔と思っていた二つの大きな骸骨は首から生えており、さらにその上にある悪魔を彷彿とさせるような二本の角を生やした小さな骸骨こそが顔だった。

 

「貴様の精霊を我に献上せよ。そうすれば貴様は見逃してやろう」

 

「あ、アニキ……本当にどうしちまったんだよ」

 

「……嫌だと言ったら?」

 

「デュエルで貴様の全てを奪い去るまでよ。我はどちらでも構わんぞ」

 

(……おかしい……)

 

「……あなたは……誰?」

 

「どういう意味だ?」

 

「今回の件は正気を失った暴走だったはず。交渉をする余裕があるとはとても思えない」

 

「……! た、確かに。でも悪意を取り込んでおかしくなったのは確かだぜ……」

 

「……ほう。良いだろう。問いに答えてやろう。我は幻魔を総べる(みかど)

 

「……!? けれど、三幻魔は封印されたはず」

 

「忌々しいことにな。それもあの影丸とかいう男のせいよ……。あと一歩で我の計画に必要な精霊の生気が集まったというのに」

 

「……! 精霊の力は……影丸理事長が不老不死の肉体を得るために集められていたはず」

 

「それこそが我が手足、三幻魔の役割。果たされた暁には……巣食う悪意から我がそやつを支配する」

 

「なっ……!? 意識を乗っ取るということ?」

 

「貴様は知らないか? 三幻魔を手にする者には不老不死と、世界を支配する力が与えられる……。世界を支配する力こそが、我そのものなのだ」

 

「……つまり、影丸理事長のことは最初から利用するつもりだった……」

 

「ふふ……望み通りの身体は与えてやったのだ。意識など無くても構わんだろう」

 

「酷い……」

 

「……じゃ、じゃあ。もしかして! お前は今、アニキの身体を乗っ取ってやがるのか!」

 

「その通り。あの敗北で再び三幻魔が封印される直前。力を返すついでに、強力な精霊にあやつの悪意を埋め込んでやったのよ……」

 

「だから四人の強い精霊が暴走を……」

 

「その後三幻魔は封印されてしまったが、我は違う。他の三人の精霊と違って、こやつだけは我自身が入り込んだ!」

 

「てめえ……!」

 

「さて、わざわざ話してやったのは理由がある。再び問おう。貴様の精霊を我に寄越すのだ」

 

「……他の精霊と違って、ユキの前にいるのはあの三幻魔のさらに上の存在。敵う道理が無いと言いたいの?」

 

「その通りだ。貴様も三幻魔の力は見ただろう」

 

「うん。恐ろしい力だった。十代さんもあの奇跡のカードが無ければ……そう思ったくらい」

 

「ならば貴様の精霊と……ついでにそこの精霊も渡すが良い。この邪魔な術式を取り払わせてもらう」

 

「ひっ……!」

 

(……そっか。知らないんだ。動きを制御する時間に猶予がないことを。だから……デュエルが、成立する)

 

「……なんのつもりだ?」

 

 狐の精霊をかばうように立ったユキはデュエルディスクを構えた。

 

「勿論デュエルする」

 

「ふん……。正気とは思えぬ選択だな」

 

「むしろ今の話で落ち着いた? あなたは話しすぎた。今のあなたは、あの恐ろしい力は使えない」

 

「……何故そう思う?」

 

「あなたはわざわざ他の精霊は、ただ暴走しているだけだと話してしまった。一人しか乗っ取れないのに、何故そんなことをしたのか……。答えは意外に簡単。あなたは十代さんを恐れて、自分のところに来ないよう他の精霊をデコイとした。今の十代さんの手にあのカードは無い……三幻魔を超える力があれば、そんなことをする必要はない」

 

「……!? き、貴様……!」

 

「だから震えてたユキに交渉なんてことをする。不安要素が無いのなら、さっさとユキを倒してしまえばいいだけのこと。……違う?」

 

「……ふはは! どうやら、小童(こわっぱ)と思って油断しすぎたようだ。冥土の土産に教えてやろう。我自身のデッキは、三幻魔の力を束ねて初めて使えるようになる……。だからこそわざわざ強い力を持つ精霊を乗っ取ったのだ。貴様など、こやつの力で十分!」

 

 彼はユキの言葉に少しの間目を見開いていたが、高笑いののちに地面に突き刺していた杖を豪快に持ち上げると、首から伸びる二体の骸骨に食わせるように挟んだ。骸骨の霊気を取り込んだ杖はデュエルディスクとして展開されていく。

 

「……アニキは精霊界でもトップクラスのデュエリストだ。だからオイラたちみたいなか弱い精霊を守れるんだ。あればかりはハッタリじゃないぜ……」

 

「ドーハスーラさんは強いかもしれない。でも、あの人はドーハスーラさんじゃない」

 

「……! ……そうだな! なぁ、嬢ちゃん。オイラもアニキと……嬢ちゃんのために、戦わせてくれ!」

 

「うん。一緒に戦おう!」

 

 自分の目の前に伸ばされた手を見つめた狐の精霊は意を決し、手を伸ばした。そして互いの手が触れ合うと、狐はカードの姿となってユキの手に収まっていた。

 

(自分のことをか弱い精霊と言っていたのに、勇気を出してくれた。ならユキもその想いに応えてみせる。デュエリストとして!)

 

「「デュエル!」」

 

 デュエルディスクを構えた両者が対峙し、戦いの幕が開けられた。

 

「ユキのターン、ドロー! マシンナーズ・メタルクランチはレベル9だけど、自分フィールドに表側表示のカードがない時には、元々の攻撃力を1800として生贄無しで呼び出せる!」

 

「ふん……妥協召喚か」

 

 静かな墓場に駆動音が響き、オレンジ色のカラーリングで彩られた人型の機体が颯爽と参上を果たした。

 

マシンナーズ・メタルクランチ 

攻撃力2800→1800

 

「召喚に成功したことで効果発動。デッキに眠る機械族・地属性モンスター……ジャンクリボー、巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア、弾丸特急バレット・ライナーの中からあなたはランダムに1枚選ぶ」

 

「左のカードだ」

 

「そのカードを手札に加えて、残りのカードはデッキに戻す。さらに永続魔法、機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)を発動。このカードがある限り、1ターンに1度機械族モンスターが戦闘で破壊されてユキの墓地に送られたら、そのモンスターと同じ属性でかつ攻撃力が低い機械族モンスターをデッキから呼び出せる」

 

「…………」

 

 ユキの場の最前線に建てられた基地。機械のパーツを送り込む投入口を悪魔憑きは笑みを湛えて見つめていた。

 

(メタルクランチの本来の攻撃力は2800。一気に最上級モンスターも狙える……)

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『マシンナーズ・メタルクランチ』(攻撃表示)

 

セット1 『機甲部隊の最前線』

 

手札4

 

「ならば我のターン! 貴様は先ほど言ったな。我はこやつではないと」

 

「言った……。そのデッキはドーハスーラさんのもの。他の人が使いこなせる訳がない」

 

「果たしてそうかな……? 我はこのスタンバイフェイズで速攻魔法、手札断殺を使う! 互いに手札を2枚墓地へ送り、その後2枚ドローする」

 

(いきなり手札交換……?)

 

 ふてぶてしく言い放ちながら手札を入れ替える悪魔憑きをユキは怪訝な表情で見つめる。

 

「墓地へと送った屍界のバンシーの効果を自身を除外して発動! デッキから発動せよ! アンデットワールド!」

 

「そのカードは……!? フィールドと墓地のモンスターを全てアンデット化させてしまうフィールド魔法……!」

 

 フィールドに立ち込めた闇色の霧がロボットを包み込むと、輝かしいオレンジ色のボディがくすんでしまう。

 

「……! フィールド魔法、スタンバイフェイズ……ま、まさか。さっき墓地に送ったもう1枚のカードは……!」

 

 悪魔憑きを霊気が包み込んでいくと、彼を中心に渦巻いていく。やがて霊気が彼から離れると、取り憑いているドーハスーラを模した姿となって場に現れた。

 

「蘇れ! 死霊王 ドーハスーラ!」

 

死霊王 ドーハスーラ 守備力2000

 

「ドーハスーラはフィールド魔法が表で存在する場合、スタンバイフェイズに墓地から守備表示で特殊召喚できる……。それをまさか、最初の自分のターンでやってくるなんて……」

 

「我こそは世界を支配する力。故にデュエルも我に支配される! 永続魔法、フィールドバリア。互いにフィールド魔法を破壊できず、また発動も出来なくなる!」

 

「……! 不死のコンボを……!」

 

 かつて遠くから見ていた光景にユキは想像以上の絶望感を覚えながら、前を見据える。

 

「ゾンビ・マスターを召喚!」

 

 マントと形容するにはあまりにもボロボロな布切れを羽織ったゾンビが墓石の前に降り立った。

 

ゾンビ・マスター 攻撃力1800

 

「手札を1枚墓地に送り、効果を使う! 墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を我の場に呼び出す!」

 

「あなたの墓地にモンスターはいない。けれどアンデットワールドでユキの墓地のモンスターはアンデット化している……!」

 

「そう。よって貴様のモンスターを呼び出す……が、その前にこやつの能力を使わせてもらおうか」

 

「ドーハスーラは自身を除くアンデット族モンスターの効果が発動した時、効果を無効にする効果と、フィールド・墓地のモンスターを1体取り除く効果を1ターンに1度ずつ使える……」

 

「我は後者の効果を使い、メタルクランチをゲームより取り除く!」

 

「くっ……」

 

 亡者の怨念が杖より放たれ、身動きを封じられたロボットはまるで初めからそこにいなかったかのように消えてしまった。

 

「さらにゾンビ・マスターにより貴様のX—ヘッド・キャノンを我の場に!」

 

 ゾンビが墓石の前で両手を上げると土が盛り上がり、そこから朽ちてエンジンが止まった機体が飛び出すと、フィールドに浮遊し出した。

 

X—ヘッド・キャノン 攻撃力1800

 

「やれ! X—ヘッド・キャノンよ。主を撃ち抜け!」

 

 砲塔が不可思議な力でユキに向けられると、レーザーの代わりに霊魂が放たれた。

 

「やらせはしない? トラップカード、カウンター・ゲート! ダイレクトアタックを無効にする!」

 

「ちっ……」

 

 霊魂はユキの目の前に出現したゲートの中に飛び込んでいった。

 

「さらに1枚ドローして、それが通常召喚可能なモンスターなら攻撃表示で召喚できる。……ドロー!」

 

 ユキがカードを引き抜くと、ゲートから閃光が放たれた。すると次の瞬間ゲートは消えており、代わりに円盤を背負った亀が現れていた。

 

UFOタートル 攻撃表示1400

 

「ならばゾンビ・マスターで攻撃!」

 

「…………墓地の超電磁タートルの効果を自身を除外して発動! バトルフェイズを強制的に終了させる!」

 

「無駄なことを! アンデット化した超電磁タートルの効果をドーハスーラにより無効とする!」

 

 ゾンビと亀に同極の磁性が帯びさせられ、反発し合う反応を見せたが、ドーハスーラが人魂を放つと、その高温により磁性は消滅してしまった。障害が無くなったゾンビの噛みつきにより、亀は倒されてしまう。

 

(アンデットワールドのせいで機甲部隊の最前線が使えない……。種族に干渉されるのって、こんなに戦いづらいんだ。……!?)

 

「うあっ……!?」

 

ユキ LP4000→3600

 

 身を引き裂くような痛みに、ユキは苦悶の声を漏らして片膝をつく。

 

(これがデュエルでの衝撃……! 痛い……けど! 亮さんはこの痛みを堪えて、ユキたちを守ってくれたんだ)

 

 ここで心が折れる方が胸が痛むと言わんばかりに、ユキは左胸を押さえながら立ち上がった。

 

「……破壊されたUFOタートルの効果! デッキから攻撃力1500以下の炎属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する!」

 

「ち……こやつの効果はそれぞれ1ターンに1度。これ以上は封じれぬか」

 

(力を借りるよ)

 

「来て! きつね火!」

 

 フィールドに残された円盤から光線が放たれると狐のシルエットが浮かび上がり、やがて光線が途切れると彼の尻尾の先についた火がユキの場を照らした。

 

きつね火 攻撃力300

 

「よっしゃ、任せな! って言いたいところだが、オイラじゃちょいと役者不足かな……?」

 

 相手フィールドに佇む三体のモンスターはいずれも大きな体躯を有しており、彼は小さな自分の力ではどうにもしようがないと感じていた。

 

「今はそうでも、あなたの中には強さも潜んでる。ユキに任せて?」

 

「分かった! 頼りにしてるぜ、嬢ちゃん!」

 

「カードを1枚伏せてターンを終える。再びこやつの効果も使用可能になる……。貴様らが策を弄しようが、無駄な足掻きよ」

 

(確かにこのターンはカードを費やして使い切らせたけど、この先もという訳にはいかない。亮さんは不死のコンボにプレイヤーにはライフという限界があることを突いて対抗した。けどユキのデッキじゃとてもじゃないけど、1ターンで削り切るのは難しい。でも同じやり方で突破する必要はない……。ユキには、ユキのデュエルがあるんだから)

 

悪魔憑き LP4000

 

フィールド 『死霊王 ドーハスーラ』(守備表示) 『ゾンビ・マスター』(攻撃表示) 『X—ヘッド・キャノン』(攻撃表示)

 

セット1 『アンデットワールド』 『フィールドバリア』

 

手札1

 

「ユキのターン……ドロー! ……!」

 

(そっか。どんなカードにも強い所と……弱い所がある)

 

「……マジックカード、森のざわめき! このカードでドーハスーラを裏側守備表示に変更する!」

 

「なんだと……!?」

 

 墓場を囲む森が風で怪しく揺れると、怒りを以て主たるドーハスーラの虚像を溶かすように崩した。

 

死霊王 ドーハスーラ 守備力2000(裏側守備表示)

 

「このターンのドーハスーラの効果を回避する算段か。だが不死のコンボがある限り、虚しき延命に過ぎぬ!」

 

「そうとも言い切れない? 森のざわめきのさらなる効果を発動! フィールド魔法を持ち主の手札に戻す!」

 

「……! アンデットワールドが……!」

 

 墓場に漂っていた闇色の霧が森から吹き上げた強烈な突風により、跡形もなく消え去っていく。

 

「小細工を……。延命に過ぎぬということが、まだ分からぬか」

 

「……。本当にそうなのか……あなたの目で確かめれば良い。きつね火を守備表示に変更。さらに自分より相手フィールドのモンスターの数が多い場合、ブラスターキャノン・コアは手札から特殊召喚できる!」

 

 ユキの場にワープトンネルが出現すると、そこを通って宇宙より未知の金属で築き上げられた要塞のごとき援軍が駆けつけてきた。

 

きつね火 守備力200

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500 カウンター0→3

 

「召喚に成功したブラスターキャノン・コアにはカウンターが3つ置かれる。バトル! ブラスターキャノン・コアでX—ヘッド・キャノンを攻撃!」

 

「足掻きで自らのモンスターを砕くか。それもまた面白い……」

 

 砲塔からの撃ち合いになったが、機体と戦艦の明確な性能の差が顕れる。戦艦から放たれたレーザー砲が機体を包み込み、爆散させた。

 

悪魔憑き LP4000→3300

 

「ブラスターキャノン・コアは戦闘で破壊されない代わりに、バトルを行うたび自身のカウンターを1つ取り除き、取り除けなくなった場合に破壊される」

 

「自ら破滅へのカウントダウンを数えるか。滑稽なものだな」

 

 機体の砲撃をある程度受けた戦艦は中心にある弱点のコアを守るための遮蔽板を1つ失った。

 

ブラスターキャノン・コア カウンター3→2

 

「さらに機械族モンスターが戦闘で破壊され、ユキの墓地に送られたことで、機甲部隊の最前線の効果を発動!」

 

「なに……そうか。……褒めてやろう。このデュエルでそのカードの効果を通したことをな」

 

「そんな余裕も今のうち? ユキはY—ドラゴン・ヘッドを呼び出す!」

 

 X—ヘッド・キャノンのパーツが基地にある投入口へと放り込まれると問題無く稼働し、部品を再利用して新たな機体が生み出された。

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500

 

「ふん。バトルもこれで終わりだというのに、世迷言を」

 

「あいにくバトルフェイズは終わっていない? 速攻魔法、無許可の再奇動(メイルファクターズ・コマンド)。ユキの場の機械族モンスターに装備可能な機械族ユニオンモンスターをデッキから装備する。ユキはY—ドラゴン・ヘッドにZ—メタル・キャタピラーを装着!」

 

 デッキから発射された機体が前線基地に到着すると、翼を広げたY—ドラゴン・ヘッドの下から伸ばされたプラグで結合され、性能がチューンナップされた。

 

「Z—メタル・キャタピラーのユニオン効果により、装備モンスターの攻守は600上昇する!」

 

Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500→2100 守備力1600→2200

 

「む……」

 

「さらにゾンビ・マスターに攻撃……!」

 

 攻撃司令に従いY—ドラゴン・ヘッドがZ—メタル・キャタピラーから電力を補給すると、口を開いて青白い電撃を放った。とっさに逃げるゾンビだったがフィールドを縦横無尽に走る稲妻からは逃れられず、身体が焼き尽くされる。

 

悪魔憑き LP3300→3000

 

「……くくく。ダメージを優先してこやつを破壊するチャンスを逃すとはな」

 

「バトルフェイズを終了する。けど、チャンスは続く? Y—ドラゴン・ヘッドとZ—メタル・キャタピラーを除外!」

 

「何をするつもりだ?」

 

「ユキの場に揃ったこれらのカードを除外することで、『融合』を使わずに、融合デッキのこのモンスターを特殊召喚出来る……!」

 

 Z—メタル・キャタピラーがアームを伸ばすと、飛んでいたY—ドラゴン・ヘッドがゆっくりと降下していく。するとZ—メタル・キャタピラーが土台となり、そこへと降りたY—ドラゴン・ヘッドが翼を畳んで砲撃に特化した竜の頭の姿へと変形していった。

 

「合体完了! YZ—キャタピラー・ドラゴン!」

 

YZ—キャタピラー・ドラゴン 守備力2200

 

「手札を1枚捨てて効果を発動! 相手フィールドの裏側表示モンスターを1体破壊する!」

 

「……! まさか……!?」

 

「森のざわめきでセットされているドーハスーラを破壊!」

 

 エネルギーを充填した竜の口から威力のある砲撃が放たれると、大きな反動が機体に生じたが、安定感のある土台が揺らぐことはなかった。これにより寸分の狂いもなく、地に伏しているドーハスーラに砲撃が命中した。

 

「全滅だと……!?」

 

「これでもまだ余裕を見せていられる?」

 

「……当然だ! 貴様はまだ不死のコンボを破ったわけではないのだからな」

 

「……YZ—キャタピラー・ドラゴンのコストで墓地に送ったシャッフル・リボーンの効果を除外して発動する。ユキの場のカード……機甲部隊の最前線をデッキに戻して、カードを1枚ドローする」

 

「い、良いのか嬢ちゃん? さっきのを見るに結構頼りになるカードみてえだけど……」

 

「うん。永続魔法での戦線維持戦術は頼りになる……それはよく分かってる。でもそればかりに頼っていては……先へ進めないことも、よく分かったから」

 

「格好をつけおって。我がアンデットワールドの前に無力となるが故に切り捨てたのであろう?」

 

「……カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

ユキ LP3600

 

フィールド 『巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア』(攻撃表示) 『YZ—キャタピラー・ドラゴン』(守備表示) 『きつね火』(守備表示)

 

セット2

 

手札0

 

「我のターン! 我は再びフィールド魔法、アンデットワールドをはつど……。なっ!?」

 

 森のざわめきにより手札に戻されたフィールド魔法。悪魔憑きがそれをフィールドに置いた瞬間だった。ディスクの拒絶反応が彼自身に襲いかかる。

 

「ぐおおっ!? ……な、何故だ……!」

 

「………フィールドバリアによって、フィールド魔法を発動することは出来ない。不死のコンボは既に崩壊しているの」

 

「……! し、しまった……!」

 

「その効果は張り替えによるアンデットワールドの破壊を防ぐ強力な効果でもあった。けど……あなたは自分のカードの弱い部分に目を向けず、偽りの姿を見ていた。それはあなた自身が偽りだから」

 

「そうだそうだ! 本物のアニキならそんなミスは絶対しないぜ!」

 

「小童がっ……! 我を愚弄するか!」

 

 肉体的にも精神的にも彼の受けたダメージは大きかった。先ほどまでの余裕は既に消え去り、骸骨の顔が邪悪な悪魔のように歪んでいく。

 

「生者の書—禁断の呪術—を使い、墓地からドーハスーラを蘇らせ、貴様のX—ヘッド・キャノンをゲームより取り除く!」

 

「……!」

 

(……気迫が伝わってくる。死に物狂いで、ユキを仕留めるつもりなんだ。負けない……!)

 

死霊王 ドーハスーラ 攻撃力2800

 

「マジックカード、龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)! 我の墓地のモンスターを除外し、それらを素材としてドラゴン族融合モンスターを呼び出す!」

 

「ドラゴン族専用の融合カード……?」

 

「2体のアンデット族……ゾンビ・マスターと闇より出でし絶望を融合させる。悪意より生まれし闇よ、絶望となりて、冥界より姿を現せ!」

 

 フィールドに発生した渦に悪魔憑きの身体から溢れ出した闇が全て取り込まれていくと、そこから出現した龍の翼は禍々しく漆黒に染まっていた。

 

「冥界龍 ドラゴネクロ!」

 

冥界龍 ドラゴネクロ 攻撃力3000

 

「さっきアニキから感じてたいやーな雰囲気が、あのドラゴンに全て移った……。気を付けた方がいいぜ。デュエルを介して直接嬢ちゃんの力を奪いに来るつもりだ」

 

「それなら……デュエルで迎え撃つよ。トラップカード、E.M.R.(エレクトロ・マグネティック・レールガン)を機械族のYZ—キャタピラー・ドラゴンをリリースして発動!」

 

「……!」

 

 YZ—キャタピラー・ドラゴンに新たな兵器が搭載されると、備えられた全ての電力が注ぎ込まれた。

 

「リリースしたモンスターの元々の攻撃力1000につき1枚までフィールドのカードを破壊できる!」

 

「YZ—キャタピラー・ドラゴンの攻撃力は2100……!」

 

「よってドーハスーラとドラゴネクロを破壊する……!」

 

 YZ—キャタピラー・ドラゴン自体は機能を停止したものの、電力によって磁場が発生し、その力を利用して2発の弾が放たれた。

 

「良いぞ! あいつらさえ破壊しちまえば……!」

 

「させぬ! カウンタートラップ、大革命返し! フィールドのカードを2枚以上破壊する効果の発動を無効にして除外する……!」

 

 猛スピードで投射された弾だったが、ドラゴネクロが翼をはためかせると、吹き荒れた暴風によって空の彼方へと弾き飛ばされてしまった。

 

「うっ……防がれた!?」

 

「あ、アニキめ……フィールドバリアを引けなかった時用に他に守るカードも入れてたんだな!」

 

「焦らせおって。終わりにしてくれる!」

 

(終わり……? 残された手札は発動できないアンデットワールド。ドラゴネクロはドラゴン族、効果を使ってもドーハスーラの効果は発動しない。……それほど、ドラゴネクロが強力な効果を持っている……?)

 

「……トラップカード、挑発! このカードは相手のメインフェイズ1に発動可能。相手が攻撃を行う場合、ユキが指定したモンスターがフィールドに存在する限り、攻撃対象に選択しなくちゃいけない。ユキは選ぶのは……きつね火!」

 

「こ、来い! お前なんか怖くないぞ!」

 

「……ちっ。ならばバトルだ! こやつできつね火を攻撃する!」

 

「げえっ! アニキ!? ……ええい、来い!」

 

 抜け殻のように動かなかったドーハスーラが操り人形のように動き出すと、杖を振り下ろした。勇敢に応戦したものの、力強い打撃にきつね火は倒れてしまう。

 

「邪魔をしおって……。さらに我はブラスターキャノン・コアへと攻撃を行う!」

 

(来る……!)

 

 戦艦の砲撃を振り払いながら接近した龍は骨が剥き出しとなった爪で遮蔽板を切り裂いた。

 

「ぐ……!」

 

ユキ LP3600→3100

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター2→1

 

「我と戦った相手はバトルでは破壊されない。そやつには関係ないがな。それでもそやつの生気は吸い取らせてもらおう」

 

「どういう意味……!」

 

「我と戦ったモンスターの攻撃力は0となり、さらにそやつの元々のレベル・攻撃力を吸い取ったダークソウルトークンを我の場に呼び出す!」

 

「……! ユキのモンスターの力を……!?」

 

 戦艦が機能停止したのも束の間、さらに翼を黒く染め上げた龍が吸い取った魂を彼の場で具現化させた。闇で形成された戦艦の砲塔がユキたちに向けられる。

 

巨大戦艦ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500→0

 

ダークソウルトークン 攻撃力2500

 

「そんな……!」

 

「やれ!」

 

 無防備を曝け出す戦艦を闇の戦艦から放たれた怨念が貫いた。

 

「ぐうっ……!?」

 

ユキ LP3100→600

巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター1→0

 

 怨念を込めた弾はそのままユキの胸を貫き、そのあまりの衝撃にユキは身体を地面に預けた。

 

「ふはは! 力が漲ってくる! あと少しだ。あと少しで我は自由の身になる!」

 

(……頭がぼーっとする……。……身体中が痛い……)

 

 力を吸収しつつある悪魔憑きの姿をユキは倒れたまま、ぼやけた視界で捉える。

 

「ターンを終える! さぁ、貴様の最後のターンだ!」

 

「最後……」

 

「貴様はどうやら馬鹿ではないらしい。なら分かるだろう。今、この場が! どれほど絶望に満ち溢れているのか!」

 

「……確かに、状況は厳しい……」

 

「厳しい、すら生温い! 貴様の場にはあと一度戦えば崩れ去る木偶の坊のみ。次のターン我の力で奪い取るだけ奪い取って、消え去る存在だ。我に更なる力を与えてな」

 

「……絶望に溢れている、その表現も大袈裟とは言えない。けど、希望は……ある」

 

「ほう? そんなものが、どこにあるというのだ!」

 

「このモンスターさんは戦闘で破壊されたターンのエンドフェイズに特殊召喚できる……戻ってきて」

 

「おうっ!」

 

 ユキの視界を小さな火が照らした。

 

きつね火 守備力200

 

「………何かと思えば。そんなものが希望だと? 吹けば消し飛ぶような灯火ではないか!」

 

「時に風は火をより大きくする。後はユキがそんな風を吹かしてみせる……!」

 

「嬢ちゃん……。オイラは信じるぜ!」

 

悪魔憑き LP3000

 

フィールド 『死霊王 ドーハスーラ』(攻撃表示) 『冥界龍 ドラゴネクロ』(攻撃表示) 『ダークソウルトークン』(攻撃表示)

 

セット0 『フィールドバリア』

 

手札1

 

 明かりがデュエルディスクを照らす。力を振り絞り、ユキは懸命にそこに向かって手を伸ばした。そして飛び込んできたカードを掴み取り、発動させた。

 

「融合を発動……!」

 

「融合だと? 絶望を束ねた我に融合で挑むというのか!」

 

「ならユキは希望を束ねる。あなたが一笑に付したモンスターさんの力を借りて……! 機械族のブラスターキャノン・コア、炎族のきつね火を融合!」

 

 フィールドに発生した渦に2体のモンスターが取り込まれると、灯火が起爆剤となって力を失った戦艦が新たな姿へと変化していった。

 

「融合召喚! 爆撃せよ、起爆獣ヴァルカノン!」

 

 鋼鉄の身体を持ちし大型ロボットが出現すると、尻尾を大きく揺らして咆哮を響かせた。

 

起爆獣ヴァルカノン 攻撃力2300

 

「その攻撃力では我のどのモンスターも倒せぬ。貴様の希望とやらは吹き飛ばされたようだな!」

 

「そうではない? 今、希望は光焔(こうえん)となって輝いている! ヴァルカノンが融合召喚に成功した時、相手フィールドのモンスター1体を選択し、そのモンスターとこのカードを破壊して墓地に送る!」

 

「なんだとっ!?」

 

「ユキが選ぶのは……ドラゴネクロ!」

 

 ロボットの足が傾けられると、足からジェット噴射された炎の勢いで瞬時に龍に近づき、翼を両腕で押さえ込んだ。

 

「くっ、だが我が破壊されようとも。貴様の場はガラ空きになる!」

 

「さらにこの効果で墓地へ送った相手モンスターの攻撃力分のダメージをあなたに与える!」

 

「なっ……!? ば、馬鹿な。そんなことが……! くそっ、離せ……!」

 

「融爆!」

 

 ロボットが背負った爆薬庫に小さな火が投入されると、爆発が彼らを包み込んだ。

 

悪魔憑き LP3000→0

 

(……ありがとう。あなたの勇気に力を分けてもらったよ)

 

 これにより、デュエルの決着がついた。ドラゴネクロに込められていた彼の意思が器を失い、闇となって宙に漂う。

 

「あり得ぬ! 一度ならず二度までも! 世界を支配する我が、このような子供に……!」

 

「あなたには強さを引き出す力はあった。けど弱さを認められる心が無かった……だからあなたは、負けた」

 

「……くっ……!」

 

「……よく言った。人の子よ」

 

「……! ドーハスーラ……さん?」

 

 先ほどまで操られていたドーハスーラが動き出すと、厳粛たる声色で話しかけていた。

 

「悪意が払われて、取り憑けぬ……!」

 

「邪なる意思よ。もはや汝に抵抗する力はあるまい」

 

「……覚えておけっ……我が再びこの世を支配する時まで……!」

 

 ドーハスーラの杖の先が闇に向けられると、断末魔のごとき叫び声と共に闇は消え去った。

 

「もう……大丈夫?」

 

「ああ。三幻魔と共に奴も彼の地に封印された……。もう安心だ。……ありがとう。人の子よ」

 

「オイラからも礼を言っておくぜ。本当にサンキューな!」

 

「どういたしまし……て……」

 

「嬢ちゃん!?」

 

「……無理もない」

 

 緊張の糸が途切れ、辛うじて保っていた意識がシャットダウンされた。倒れたまま最後まで戦い抜いた彼女をドーハスーラが抱え上げる。

 

「やはりダメージが蓄積されている……が、幸い安静にしていれば回復するだろう」

 

「そ、そっか。それなら良かった」

 

「……どうやら同胞も全員正気を取り戻したようだ。感謝してもしきれぬな」

 

 森が穏やかに揺れ、風の便りが知らせを運んできた。訪れた平穏にきつね火は安堵と、寂しさが混じった表情を浮かべる。

 

「……ずっと、こっちにいてもらうって訳にはいかねえかな」

 

「彼女にもあちらでの生活がある。それは得手勝手な言い分であろう」

 

「だよな……」

 

「だが……彼女の迷惑にならない我儘であれば、許されるのではないか」

 

「……!」

 

 翌日。部屋に朝の日差しが入り込み、レイは目を覚ました。腕を伸ばし、身体を起こすと、隣のベッドで熟睡しているユキを見てぽかんとした顔つきになる。

 

(……そっか。暴走を止めた後、気を失っちゃったんだ。僕が止めた人が一番最後だって言ってたから……。全部解決して、戻ってこれたんだ。良かった……)

 

 いつもの日常に戻って来たことが実感として現れ、レイはようやく肩の荷が降りたようだった。

 

「おはよう! レイちゃん!」

 

「……!? お、おはよう。ブラック・マジシャン・ガール。実体化して大丈夫なの? 凄く魔力使うから、滅多なことがないと出来ないって言ってたのに」

 

「ふふふっ。大丈夫だよ。魔力は使ってないから」

 

「そうなの……?」

 

「それより嬢ちゃんが全然起きねえんだが、大丈夫なのかこれ?」

 

「ああ。それはいつものことだから…………。……!? えっ! 狐!?」

 

「クリリ?」

 

 思わず驚きを声に出したレイ。青紫色の帽子を被ったクリボーと戯れていたジャンクリボーがそれに反応し、首を傾げる様子が彼女の目に映った。

 

「暴走してた精霊から、二人へのささやかなお礼……だって」

 

「え……ええーっ!?」

 

 これからの日常はどうやらいつもより少しだけ、騒がしくなるようだった。




本当は切りの良いここまで昨日のうちに投稿したかったけど、細かい確認してたらタイミングを逃してしまいました。
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