佇む少女は機械仕掛け 作:ロボッピ
「頑張れー! 明日香様ー!」
「ファイトですわー!」
(オベリスク・ブルーの女王とすら呼ばれ、周りにちやほやされてきた……。それだけの実力があると思っていたし、私自身それが当たり前だと思っていたわ。思えば十代に負けてからかしらね。自分が井の中の蛙であることを知ったのは)
「私のターン、ドロー! センジュ・ゴッドを召喚するわ。召喚に成功したことでデッキから儀式モンスター……サイバー・エンジェル—弁天—を手札に!」
「……!」
(この前のデュエルでは序盤は融合で攻めてきたけど……今回は儀式中心で来るのかな)
「さらにマジックカード、トランスターン! センジュ・ゴッドを墓地に送り、種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスターをデッキから呼び出すわ! 来なさい! 光神テテュス!」
無数の手を背にした仏のモンスターが明日香に新たな仲間を与えてから光の粒子となると、分散した粒子が再び集まっていき、大きな翼を備えた女性の天使へと姿を変えた。
光神テテュス 攻撃力2400
「さらにマジックカードを使うわ。慈悲深き機械天使! 手札の弁天をリリースして2枚のカードをドロー! そして手札を1枚デッキの下に戻すわ」
「折角の儀式モンスターを……?」
「弁天にはリリースされた場合に発動できる効果があるのよ! デッキから光属性・天使族のモンスター1体を手札に加えるわ」
「なるほど……」
「私が加えるのは……アーティファクト—ベガルタ!」
「え……!? サイバー・エンジェルじゃ……ない?」
機械天使の祈りが天に届き、天使が明日香の手に舞い降りた。
「カードを3枚伏せてターンエンドよ!」
(特訓で君が見出した新しい形……。実戦でも、見せてもらうよ)
明日香 LP4000
フィールド 『光神テテュス』(攻撃表示)
セット3
手札2
「ユキもファイトだよ!」
「ありがとう。ユキのターン……ドロー!」
(前にデュエルした時には影も形も無かったモンスター……。次のターンでの攻めに使ってくるかもしれない。ここは今のうちに態勢を整えておこう)
「2枚の永続魔法を発動します。マシン・デベロッパー、一点着地!」
「……! 得意の戦線維持戦術ね……!」
「さらに相手フィールドのモンスターが自分より多い場合、巨大戦艦 ブラスターキャノン・コアは特殊召喚できる?」
天を切り裂き、要塞のごとき戦艦が地球へと突入してきた。天が途切れるほどでも未だに見えない全容がその大きさを予感させる。
巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500→2700
カウンター0→3
「マシン・デベロッパーの効果で機械族モンスターの攻撃力は200ポイントアップします。さらに一点着地の効果発動! 手札からユキの場にモンスター1体が特殊召喚された場合、ユキは1ターンに1枚だけドローできる」
フィールドの一点にだけスポットライトが当てられると、ようやく降りてきた戦艦は見事な操縦でピンポイントに着地してみせた。
「マシンナーズ・ギアフレームを召喚! このモンスターはユニオン効果以外にも、召喚に成功した時マシンナーズモンスター1体を手札に加えられる効果があります。マシンナーズ・ピースキーパーを手札に!」
オレンジ色の装甲を纏った中型ロボットが場に降り立つと、電波を飛ばして仲間を招集した。
マシンナーズ・ギアフレーム 攻撃力1800→2000
(……! ユニオンモンスターを装備されたら、身代わりにされてしまう。テテュスは場に残しておきたいわ)
「……この瞬間速攻魔法、アーティファクト・ムーブメントを発動するわ! フィールドのマジック・トラップカード1枚を破壊する!」
「えっ……! ここで……?」
(一点着地に使えばドローを防げたのに……?)
「私は伏せていたアーティファクト—ベガルタを破壊して、さらにムーブメントの効果でデッキからアーティファクトモンスター……アーティファクト—モラルタを魔法カード扱いでセットする!」
「……!? モンスターを魔法&罠カードゾーンにセット……!?」
「アーティファクトモンスターはそのモンスター効果で手札から魔法カード扱いでセットできる効果があるのよ。そしてもう一つの共通効果がこれよ! 魔法&罠カードゾーンにセットされたアーティファクトが、相手ターンに破壊され墓地に送られた時、そのカードは特殊召喚される!」
「……ということは、さっき破壊されたベガルタは……」
「モンスターとして場に現れるわ!」
古代に作られた人工物が遺跡から発掘されると、その中にあった片手剣が、使い手の記憶から形成された精神体により持ち出された。構えられた途端、剣には赤い紋様が浮かび上がる。
アーティファクト—ベガルタ 守備力2100
「ベガルタが相手ターンに特殊召喚に成功したことで、私のセットカードを2枚とも破壊するわ!」
「まさか……」
「そう。破壊されたのはどちらもアーティファクト! モラルタ、そしてカドケウスの効果を発動! 永き眠りより目覚めなさい!」
同様にして遺跡から持ち出された杖は黄色の紋様が浮かび上がり、続いて持ち出された片手剣は先程の剣とは異なり水色の紋様が浮かび上がった。
アーティファクト—カドケウス 守備力2400
アーティファクト—モラルタ 攻撃力2100
「ね、ねえ。今ユキのターンだったよね……?」
「ええ……。そのはずですが……」
「とんでもない展開力ね……」
「……いや、本領はこれからだ」
「カドケウス、モラルタの効果を発動よ! 相手ターンにモラルタが特殊召喚されたことで、相手フィールドの表側表示のカードを1枚破壊できる! 消えなさい、ブラスターキャノン・コア!」
「ユキのターンで……展開だけじゃなく、攻撃まで……!?」
上に向かって構えられた片手剣がそのまま突き上げられると、規格外の切れ味により、戦艦の下から上に向かって亀裂が走った。攻撃を行った精神体が戦艦を背に着地すると、その背後で戦艦は大爆発を巻き起こした。
「……機械族モンスターが破壊される度に、マシン・デベロッパーにジャンクカウンターが2つ置かれます」
マシン・デベロッパー ジャンクカウンター0→2
「そしてカドケウスが場にいる限り、相手ターン中にアーティファクトが呼び出された時、私は1枚ドローするわ。ドロー!」
(よし!)
「さらにテテュスの効果を発動するわ! ドローカードが天使族だった場合、相手に見せることでドローすることができる! 私が引いたのはサイバー・エンジェル—韋駄天—よ!」
「サイバー・エンジェルは天使族……!」
「よってドロー! 引いたのは……アーティファクト—フェイルノート!」
「……! アーティファクトも……天使族」
「ドロー!
(あの儀式モンスターは確か……)
「ドロー! ……ここまでね」
(……見た感じ、前に入ってた戦士族モンスターは全部抜いちゃったのかな)
連続したドローを見せられたユキは以前のデュエルで苦労させられた戦士族モンスターのことが頭をよぎっていた。
(そうだとしたら……テテュスだけは絶対残さないようにしなきゃ)
「……フィールド魔法、転回操車を発動!」
フィールド全体が車両の入れ替えや編成を行う停車場へと変貌を遂げる。
「手札を1枚……ピースキーパーを墓地に送って効果発動! デッキから機械族・地属性・レベル10のモンスター……弾丸特急バレット・ライナーを手札に!」
「よし! バレット・ライナーはユキの場が機械族・地属性モンスターのみなら、手札から特殊召喚できるんだ!」
「マシンナーズ・ギアフレームは機械族・地属性……!」
「よってバレット・ライナーを発進させます……!」
中央にあるターンテーブルが回転し前後が入れ替えられると、運転席が行き先に向いた特急列車は出発進行し、目的地のユキのもとへと辿り着いた。
弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000→3200
「アイアンドローを発動して2枚ドローします。……バトル! バレット・ライナーは攻撃のためにユキの場から2枚のカードを墓地に送る必要があります。転回操車とギアフレームを送って、テテュスに攻撃!」
(ブラスターキャノン・コアを破壊すれば、このターンでテテュスを超えるのは難しいと思っていたのに……)
新たな目的地が設定されると、ユキの横を弾丸のごとき勢いで通過した特急列車は地球を一周し、明日香の場の天使を弾き飛ばした。そのあまりの勢いに、停車場とロボットが巻き込まれる。
明日香 LP4000→3200
「くっ! やったわね!」
「それはお互い様? メインフェイズ2に入って新たなフィールド魔法、ユニオン格納庫を発動します!」
「……! 2枚目のフィールド魔法……!?」
新たなフィールドも停車場として展開されていったが、先程と違って機体を格納する倉庫となっていた。
「このカードは発動時に機械族・光属性のユニオンモンスターを手札に加えられます。来て、Y—ドラゴン・ヘッド!」
出動命令に応じ、側面にYと書かれた格納庫が移動を始めた。そして格納庫が止まり、開かれる。すると海に建てられていた格納庫から上に向かって道が伸びていた。カウントダウンが0を告げ、瞬く間に機体がスピードに乗っていくと、道から飛び出して飛行形態へと変形した。そしてスピードを保ったまま、要請のあった場所へと辿り着く。
「ふふっ……。カードを1枚伏せてターンを終了します」
ユキ LP4000
フィールド 『弾丸特急バレットライナー』(攻撃表示)
セット1 『マシン・デベロッパー』 『一点着地』 『ユニオン格納庫』
手札2
「私のターン、ドローよ!」
「どうしてユキちゃんはギアフレームをバレット・ライナーに装備せずに、コストにしてしまったのでしょう……?」
「……もしかすると、さっき明日香様が見せた儀式モンスターの効果を考えての選択かもしれないわね」
(私もジュンコに同感ね。ただ、それにしても装備しないで残しても良さそうだけれど……)
「スカルプターを召喚よ!」
新たな作品の完成を夢見て、髭を生やしたガタイの良いクリエイターが遺跡へと赴いた。
魂の造形家 攻撃力1600
「ベガルタをリリースしてスカルプターの効果発動よ! リリースしたベガルタの攻守の合計3500と同じく攻守の合計が3500となるモラルタをデッキから手札に加えるわ!」
「……! ユキのターンで攻撃をしてくる厄介なモンスター……」
(次のターンの攻撃にも余念がないね。君らしい攻めのデュエルだ)
赤く輝く片手剣を見つけたクリエイターは心の赴くままに弄り倒すと、性質が変わり青く輝き出した。
「行くわよ、ユキ! 儀式魔法、機械天使の絶対儀式! レベルが同じになるよう自分のモンスターをリリース、あるいは自分の墓地の天使族・戦士族モンスターをデッキに戻すことで、手札のサイバー・エンジェルを儀式召喚するわ! 私はレベル4のスカルプターをリリースし……墓地に眠るレベル4のセンジュ・ゴッドをデッキに戻すことで儀式召喚を行う!」
「……!? 墓地のモンスターで儀式の消費を軽減した……!?」
(……参ったよ。俺の戦術をヒントに、そこまで辿り着くんだからね)
赤い炎で照らされた祭壇に2体の供物が捧げられると、炎が消えた代わりに、天からの閃光が明日香の場に突き刺さる。
「目もくらむほどの速さを持ちし光の天使よ。光速の刃で敵を切り裂け! 降臨せよ! レベル8、サイバー・エンジェル—
閃光の正体は四本の手が生えた天使だった。前にある両手で鋭い鎌を、後ろにある手はそれぞれ短剣を握っている。
サイバー・エンジェル—荼吉尼— 攻撃力2700
「ダキニが儀式召喚に成功したことで、あなたは自身のフィールドのモンスターを1体墓地に送らなくてはいけないわ。覚えているわよね? だからこそ、身代わりに出来ないユニオンモンスターの装備は諦めたのでしょう」
「はい。覚えていました。だから……対応もばっちり?」
「……!」
「相手が手札からモンスターを特殊召喚した時、手札のこのカードを特殊召喚できます。来て? サイバー・ダイナソー」
全身が鋼鉄で覆われた恐竜型のロボットが場へと降り立つと、あまりの重みで格納庫の一部が破損した。
サイバー・ダイナソー 攻撃力2500
「厄介な効果だけど、あくまで選ぶ権利はユキにある? だから……。……いきなりごめんね、サイバー・ダイナソー」
天使がかけた不幸の呪いが彼に及んでしまった。そのまま格納庫に穴が空き、海へと落ちてしまう。
「墓地に送る効果だからジャンクカウンターは乗らないけど、一点着地の効果でドローします」
「……やるわね」
(今の天上院君の強みは相手ターンで攻撃に使ったアーティファクトをそのまま自分のターンの総攻撃に加えられることだ。この除去を躱されたのは痛いな……)
(なら、次のターンも攻撃するまで!)
「カードを3枚伏せてターンエンドよ! エンドフェイズにダキニの効果で機械天使の絶対儀式を手札に戻すわ」
天使が空間を鎌で切り裂くと、そこから一枚のカードを引き寄せて明日香へと与えた。
(……今だ!)
「トラップカード、
「なんですって……!?」
「ギアフレームを装備しなかったのはこうする予定だったから? 明日香さんのセットカードを全て破壊……!」
「えっ。アーティファクトを破壊してしまったら、呼び出されてしまうんじゃあ……」
「……あ! ももえ、違うわ! だって今は……」
列車の爆発的エネルギーが全て注ぎ込まれると、目にも止まらぬ速さで弾が投射され、3枚の伏せカードを見事に爆散してみせる。
「アーティファクトは相手ターンに破壊されて初めて効果が使える……。なら明日香さんのターンに破壊すれば安全?」
「く……まさか、あなたが私のターンで攻めてくるなんてね」
「モラルタとフェイルノートに報復の隠し歯か。報復の隠し歯で2体のアーティファクトを破壊し、モラルタで攻撃。フェイルノートで墓地のモラルタをセットして次の攻めを用意しつつ、カドケウスで2枚ドロー。さらに報復の隠し歯の効果でターンを強制終了させるつもりだったんだな」
(相手ターンでも攻撃をするとなれば消費は激しくなる。天上院くんはテテュスやカドケウスを用いて攻撃すればするほど、消費を回復できる……いわば攻めのデッキ回転を目指した。しかし、こうなった場合がきついな。これ以上ユキのターンで苛烈な攻撃を仕掛けるのは難しいか……)
(明日香さんの攻撃を両方応じてたら、守りを固めるしかなくなる。だからまずは片方を押さえて……)
「バレット・ライナーは墓地に送られたターンのエンドフェイズに、バレット・ライナー以外の機械族を1体手札に戻せます。戻ってきて、ブラスターキャノン・コア」
機能停止した特急列車の代わりとして戦艦が送られてきた。
(相手を良く観察しているな……俺の時もそうだった。強みと弱みを冷静に見抜き、的確な選択をしてくる。……思えば似ているかもな。相手をリスペクトし、本当の姿を見つめ、全力を叩き込んでくる……カイザーのデュエルに)
明日香 LP3200
フィールド 『サイバー・エンジェル—荼吉尼—』(攻撃表示) 『アーティファクト—モラルタ』(攻撃表示) 『アーティファクト—カドケウス』(守備表示)
セット0
手札4
(……このターンは守るしかない……!)
「今のうちに攻めれたら大きいよ! がんがんいこう!」
「うん……! ユキのターン! ブラスターキャノン・コアを特殊召喚して、一点着地の効果でドロー。……!」
(……よし! 巡りが良い。流れが来てる……!)
先程大爆発を起こした戦艦だったが、懸命の作業によって修復が為され、無事動き出した。
巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア 攻撃力2500→2700
カウンター0→3
「マジックカード、森のざわめき。ダキニを裏側守備に!」
悪寒を感じた天使はとっさに短剣を投擲するも手応えは無く、空いた両手で防御の構えを取った。
サイバー・エンジェル—荼吉尼—(裏側守備表示) 守備力2400
「森のざわめきのさらなる効果! フィールド魔法……ユニオン格納庫を手札に戻します! もう一度発動してW—ウィング・カタパルトを手札に!」
(いいようにやられているわね……。守りに入ることが、ここまで不安に感じられるなんて……)
「Y—ドラゴン・ヘッドを召喚します! さらにユニオン格納庫のもう一つの効果で機械族・光属性のユニオンモンスターをデッキから装備可能。Z—メタル・キャタピラーを装着!」
格納庫から発射された赤と黄色の機体が空中で変形していく。
Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500→1700→2300
「2体を除外することで、このカードを融合デッキから特殊召喚する?」
(Y—ドラゴン・ヘッド……前回同様、厄介な動きをしてくれるわね)
「合体完了! YZ—キャタピラー・ドラゴン!」
戦車としての土台の形態になったZ—メタル・キャタピラーの上に龍の口として砲撃形態になったY—ドラゴン・ヘッドが乗り、バトルフィールドにたどり着くまでに合体を完了させ、スムーズに任務へと入った。
YZ—キャタピラー・ドラゴン 攻撃力2100→2300
「キャタピラー・ドラゴンの効果発動! 手札を1枚……W—ウィング・カタパルトを捨てることで、相手の裏側守備表示モンスターを1体破壊する? ダキニを破壊!」
「……! 森のざわめきはそのためでもあったのね……!」
安定感のある土台から放たれた強烈な一撃に防御の構えは意味を為さなかった。天使は天へと帰還を余儀なくされる。
「バトル! ブラスターキャノン・コアでカドケウスに攻撃!」
宇宙とは違い稼働音を響かせ、戦艦はレーザー砲を放った。杖が振られ魔法のビームで応戦が行われると、しばらく続いていた均衡が崩れる。エネルギーが残っている戦艦に対し、精神体の魔力が尽きたためだった。杖は精神体と共にレーザーに包まれ、滅却される。
巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター3→2
「キャタピラー・ドラゴンでモラルタに攻撃!」
スムーズに合体を済ませていた甲斐あり、二発目の装填が間に合った。放たれた一撃が剣で切り裂かれていくが、途中で弾かれ、飲み込まれていった。
明日香 LP3200→3000
「くうっ……!? ……さすが、と言っておこうかしら」
伏せカードを失ったとはいえ、一度モンスターがいなくなったユキが3体いた自分のモンスターを全滅させたことに、明日香は少なからず動揺があった。
「ありがとうございます。でも、まだデュエルは終わってないから……。もう一度その言葉を聞けるように頑張ります。カードを1枚伏せてターンエンド!」
(明日香さんにはダキニで戻した絶対儀式と、テテュスで引いた韋駄天がいる……確かレベルは6だった。墓地の弁天をデッキに戻して儀式召喚ができる……油断はできない)
ユキ LP4000
フィールド 『巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア』(攻撃表示) 『YZ—ドラゴン・キャノン』(攻撃表示)
セット1 『マシン・デベロッパー』 『一点着地』 『ユニオン格納庫』
手札1
(……この手札では、ユキのターンでの攻撃ができない。目指したデュエルの形が、崩れてしまっている……)
先程のE.M.R.がもたらしたダメージは見た目以上に大きかった。オベリスクブルーの誇りより優先させたデュエリストとしてのプライド。自ら目指した形の崩壊は彼女のプライドを揺るがせていく。
「明日香様、踏ん張りどころですわ!」
「ここからガツンといっちゃってください!」
(二人とも。……そうね)
「……私のターン! ドロー……!」
先程見せつけられた二人のデュエルを思い返した明日香は弱気になった自分を恥じると、目の前のカードに向き合った。
(韋駄天を呼び出せば、使用した絶対儀式をサルベージできる。呼び出すのも手だけど、攻撃力1600の韋駄天を迂闊に場に出すべきではないかしら。もしユキの伏せカードが呼び出したモンスターを破壊するようなカードだったら…………このターンで決めきれないもの)
明日香は攻撃による防御が出来ないのであればと、もはや次のターンのことは考えていなかった。
「機械天使の絶対儀式! 墓地のレベル5のフェイルノートと同じくレベル5のモラルタをデッキに戻すわ!」
「……! レベル10の儀式モンスター……!?」
(しかも実質生け贄無しで……!)
「無窮なる力を秘めし光の天使よ。今あまねく世界にその姿現し、万物を照らせ! 降臨せよ! レベル10、サイバー・エンジェル—
捧げられた供物が天に昇り、儀式が成就した。天から舞い降りしは半透明の翼が生えた流麗な天使。翼からこぼれ落ちし光がフィールドを煌びやかに照らしていく。
サイバー・エンジェル—美朱濡— 攻撃力3000
「儀式召喚に成功したことで効果を発動よ! アセンションバースト!」
翼が柔らかく開かれると波紋が広がっていった。
「融合デッキから呼び出された相手モンスターを全て破壊し、その数×1000のダメージを与えるわ!」
「……! YZ—キャタピラー・ドラゴンが……」
全てのモンスターが波紋に触れると、YZ—キャタピラー・ドラゴンだけが消失してしまった。
「うっ……!」
ユキ LP4000→3000
マシン・デベロッパー ジャンクカウンター2→4
「さらにこの効果でダメージを与えたビシュヌはこのターン2回攻撃を行える!」
「……! ……ユキのモンスターさんが破壊されたことで、手札の異界の
(……ドラゴン族……? ユキがドラゴンを使ったところなんて、見たことがないわ……)
身体中が紫色に染まった竜が異世界より出現する。至る所から棘を生やしているが、口の中でさえ生やされた棘からは身を守るだけでなく、その攻撃性を窺わせる。
異界の棘紫竜 守備力1100
「一点着地の効果でドロー!」
(……たとえモンスターが増えたとしても!)
「バトルよ! ビシュヌで攻撃! 対象は……ブラスターキャノン・コア!」
「……!」
「ブラスターキャノン・コアはバトルでは破壊されませんわ……!」
「カウンターもまだ2つ乗ってて自壊もさせられないわね……。明日香様なら、分かってると思うけど……」
(……何かある……? ……あるかもしれないけど、ここは……)
天に向かって天使の手が掲げられると、戦艦の頭上から光の柱が降り注いだ。
明日香の決死の表情に身がすくむ思いを感じたユキはとっさに手を伸ばそうとしたが、考えた末の決断は様子見だった。
「……ダメージステップに入ったこの瞬間! 速攻魔法、荘厳なる機械天使を発動! このカードは手札またはフィールドのサイバー・エンジェル儀式モンスターをリリースすることで使えるわ。私は手札の韋駄天をリリース! そしてターンが終わるまで、ビシュヌの攻守をリリースしたモンスターのレベル×200アップする!」
「……! 韋駄天のレベルは6……!」
「さらにリリースされた韋駄天は自分の場の全ての儀式モンスターの攻守を1000上昇させるわ!」
「さらなる強化……!?」
新たに捧げられた供物が天使の力を強めると、発した光の柱が光量を増していった。
サイバー・エンジェル—美朱濡— 攻撃力3000→4200→5200 守備力2000→3200→4200
「きゃっ……!?」
光の柱は巨大な戦艦すら包み込んだ。多くの損壊により、殆どのシステムがダウンしてしまう。
ユキ LP3000→500
巨大戦艦 ブラスターキャノン・コア カウンター2→1
「ブラスターキャノン・コアは戦闘では破壊されない……だからこそ狙ったのよ」
「……! 攻撃力2700のブラスターキャノン・コアをサンドバッグに……!?」
「これでフィナーレよ! ビシュヌでもう一度ブラスターキャノン・コアに攻撃!」
天使がもう一方の手を天にかざした。光が集約されていく様が地上からでも分かるほど、それは大きい力だった。
「ユキ……!」
「……させない! 速攻魔法、瞬間融合!」
「なっ……!?」
「あれはアタシ達とのデュエルでも使った……!」
「自分フィールドのモンスターで融合召喚を行うカード……!?」
「機械族のブラスターキャノン・コアと、ドラゴン族の異界の棘紫竜を融合……!」
「……! しまった……!」
(ブラスターキャノン・コアを場から逃された……!)
「堅固なる要塞を兼ね備えし戦艦よ、棘を
数多くの損傷がありながらも諦めずに戦い続けた戦艦が渦によって竜と交わっていく。
「融合召喚! 顕現せよ、重装機甲 パンツァードラゴン!」
そして渦より、戦艦の硬い金属から形成された厚い装甲を身につけた戦車が現れると、それを土台として機械竜の首が伸ばされる。その口からのぞかせる砲塔は、棘のように鋭かった。
重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600
「そっか! パンツァードラゴンがいたね!」
「く……攻撃続行よ! 荘厳なる機械天使の効果でこのターン、バトルを行う融合デッキから呼び出されたモンスターの効果は無効化されるわ!」
天使は機械竜目掛けて光の柱を降下させた。機械竜は光線を放って迎撃を試みたものの、圧倒的な光量の差に押し潰されてしまう。
マシン・デベロッパー ジャンクカウンター4→6
「……パンツァードラゴンはフィールドじゃなく、破壊され墓地に送られた場合に効果が発動する? その効果でフィールドのカードを1枚破壊できる!」
「……!」
「ユキはビシュヌを破壊する!」
「そんな……ここでモンスターを失ったら!」
「明日香様の場ががら空きになっちゃうわ……!」
ならばと機械竜は天使に向かって光線を放ち、その後すぐに光の柱へと飲み込まれて消え去った。
「させないわ! ビシュヌのもう一つの効果! 1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果の発動を、墓地の儀式モンスター1体をデッキに戻すことで無効にして破壊する! 私はダキニをデッキに戻すわ」
「なっ、防がれた……!?」
その悪足掻きに天使は柔らかく笑うと、動くこともせずに頭の後ろに浮かばせていた金色の輪を前に出し、輪を通った光線は光の粒子となって彼女の翼をさらに輝かせた。
(明日香さんの墓地にはまだ2体の儀式モンスターがいる……。次のターン効果破壊での突破は現実的じゃない、な)
(……攻撃を凌がれた。まさかドラゴンを呼び出して、融合素材にしてブラスターキャノン・コアを逃す、なんて。……もし韋駄天を呼び出していれば……)
(韋駄天の攻撃力なら守備表示の異界の棘紫竜を倒せた。場に出していた場合、ユキの手札が防御に使えるカードでもない限り、彼女の選択に関係なく天上院君が勝っていた。……が、ターン開始時の場を考えれば韋駄天を出す必要性は薄かった。プレイングミスというよりは、読み違えの範疇と捉えるべきだろう。ここは切り替えるんだ)
「……ターンエンドよ……」
サイバー・エンジェル—美朱濡— 攻撃力5200→4000 守備力4200→3000
明日香 LP3000
フィールド 『サイバー・エンジェル—美朱濡—』(攻撃表示)
セット0
手札1
「このターン大事だよ!」
「うん! ユキのターン……ドロー!」
引き抜いたカードと合わせユキは場の状況を見通す。そして自分が選ぶべきと思える道に向かい、カードを取り出した。
「マジックカード、
Wと側面に書かれた格納庫に置かれていた鏡が、Vが書かれた格納庫を照らした。呼応するように格納庫が開かれ、虎を模した機体が出撃する。
V—タイガー・ジェット 攻撃力1600→1800
「さらに対象にしたモンスターを特殊召喚したモンスターに装備し、攻撃力を装備したモンスターの攻撃力の半分アップさせる」
「……! W—ウィング・カタパルトはユニオンモンスターだったわね……!」
「その通り……なのでユニオン効果が適用され、攻守が400アップします」
鏡から青色の機体の幽霊が飛び出てくると、黄色の機体に装着されるように憑依した。
V—タイガー・ジェット 攻撃力1800→2450→2850 守備力1800→2200
「けれど、その攻撃力ではビシュヌに及ばないわ!」
「……悔しいけど、その通り。なのでユキは……このカードに懸けます。一点着地の効果発動! カードを1枚……ドロー!」
「……!」
デュエルコートが緊張感で静まり返る中、ユキは命運を託した1枚のカードを引き抜いた。身体全体を使ったドローの余韻が残る中、ユキは手首を返してドローカードを目にする。
(……来た!)
「永続魔法、X・Y・Zコンバインを発動! さらに、フィールドのV—タイガー・ジェットとW—ウィング・カタパルトを除外して融合デッキからモンスターを特殊召喚……!」
憑依していた霊体が実体を取り戻すと、青い機体は土台となる飛行形態へと、そしてその上に砲撃形態となった黄色い機体が結合される。
「合体完了! VW—タイガー・カタパルト!」
VW—タイガー・カタパルト 攻撃力2000→2200
(さっきと同じで『融合』を使わず素材の除外で呼び出される融合モンスターね。けれど、あのモンスターを呼び出したところで……)
「機械族・光属性ユニオンモンスターのW—ウィング・カタパルトが除外されたことでX・Y・Zコンバインの効果発動! デッキからX—ヘッド・キャノンを特殊召喚する……!」
「……! ここでX—ヘッド・キャノンですって……?」
機体の鼓動に反応し、Xと書かれた格納庫が開かれる。するとそこから青と黄色をベースとし、二つの砲塔を取り付けた機体が参上した。
X—ヘッド・キャノン 攻撃力1800→2000
「マシン・デベロッパーの効果を自身を墓地に送って発動します! 乗っていたジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ機械族モンスターを1体墓地から復活させます……!」
「ジャンクカウンターは6つ……! 墓地のキャタピラー・ドラゴンを呼び戻すつもりかしら?」
「残念ながらキャタピラー・ドラゴンは墓地から特殊召喚できない制約があります……。だからユキはレベル5のパンツァードラゴンを選択……!」
今まで破壊されてきた機械のパーツが修復に充てられ、機械竜が復元された。
重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600
VW—タイガー・ジェット 攻撃力2200→2000
X—ヘッド・キャノン 攻撃力2000→1800
「パンツァードラゴンの効果はビシュヌには通用しないわ」
「パンツァードラゴンに限らず、ユキのデッキのほとんどのモンスターが敵いません……。だから……その少ない突破口を目指して、カードを紡ぎます。X・Y・Zコンバインのもう一つの効果を発動……! ユキの場の融合モンスター、パンツァードラゴンを融合デッキに戻すことで、除外されているY—ドラゴン・ヘッドと、Z—メタル・キャタピラーを帰還させる!」
「……!」
機械竜の砲撃が異次元へと通じる道をこじ開けると、僅かな時間だけ保たれた道を通り、赤と黄色の機体が帰還した。全ての力を使い果たした機械竜は粒子となって融合デッキへと戻っていく。
Y—ドラゴン・ヘッド 攻撃力1500
Z—メタル・キャタピラー 攻撃力1500
「さらにX—ヘッド・キャノン、Y—ドラゴン・ヘッド、Z—メタル・キャタピラーを除外……! お願い、XYZ—ドラゴン・キャノン!」
(これは……!?)
YZ—キャタピラー・ドラゴンの形態から、さらにX—ヘッド・キャノンの球形の足がY—ドラゴン・ヘッドの背中のくぼみに接続される。
XYZ—ドラゴン・キャノン 攻撃力2800
「……そして! VW—タイガー・カタパルトとXYZ—ドラゴン・キャノンを……除外!」
「……5重合体……!」
大掛かりな合体指示に応じ、一度合体が解除される。そしてV—タイガー・ジェットは頭部に、X—ヘッド・キャノンは胸部の砲塔に、Z—メタル・キャタピラーはX—ヘッド・キャノンの腕と接続して全体の腕部に、Y—ドラゴン・ヘッドは閉じていた翼を広げながらバランスを取るコアに、W—ウィング・カタパルトは分離してそれぞれY—ドラゴン・ヘッドに接続されて足部となった。
「究極合体完了! 出陣せよ。
VWXYZ—ドラゴン・カタパルトキャノン 攻撃力3000
「……さすがね。まさかモンスターのいない状況から、ここまで繋げてくるなんて……」
(それもこれまでの選択を的確に判断してきた成果……ということかしら。だとしたら私は……)
「ドラゴン・カタパルトキャノンの効果を発動! 1ターンに1度、相手フィールドのカードを選択して除外できる……! ビシュヌを除外します!」
「……! ビシュヌが防げるのは破壊効果だけですわ!」
「そのためにこれだけの合体を重ねたのね……!」
機体の電力を一点に集め、ドラゴン・カタパルトキャノンは強烈なプラズマ砲を放った。天使は焦りの顔を浮かべながら金色の輪で吸収を試みるが、膨大なる力を変換しきれず。音を立てて崩壊した輪を信じられないように見ながら、プラズマ砲をその身で受けた。
「やった! ビシュヌを倒した!」
「道は開けた……! バトル! ドラゴン・カタパルトキャノンで明日香さんにダイレクトアタック……!」
「明日香さんのライフは3000! これで決まりだ!」
(私と違って、美しく繋いでみせた。この状況……どう見ても、私の負け……ね)
飛行のために使っていたパワーを脚の力として使った機体は高らかに跳ぶと、背にある翼の羽ばたきを推進力とし、ユキの場から明日香の頭上まで一気に移動する大ジャンプを見せた。そして伸ばしたアームを打撃武器とし、勢いそのままに振り下ろした。
「……それでも、アイツだったら諦めない……?」
「えっ?」
逆境に立たされ、己の選択を悔いていた明日香は負けを認めようとしていた。しかしその瞬間、デュエルが終わるまでは絶対に諦めなかった彼の姿が脳裏によぎった。
「……手札のアーティファクト—ヴァジュラの効果発動! 相手の直接攻撃宣言時にこのカードは手札から特殊召喚できる!」
「なっ……!」
アーティファクト—ヴァジュラ 守備力1900
振り下ろされたアームが捉えたのは銅によって作られた両端が三つ又となっている杵の形をした武器だった。精神体が必死に押し返そうとするものの、歴然とした力の差に敵わず。しかしアームの軌道は明日香から逸らしてみせた。
(防いだか! だがヴァジュラは相手ターンに呼んだ場合、自分の魔法&罠ゾーンのカードを全て破壊できる。その本領は発揮出来ないな……)
(……この、気迫。以前デュエルした時にも……感じた)
彼女の目を見たユキは既視感を覚える。伝わってくる気迫で首筋に冷や汗が伝うユキだったが、このターンこれ以上出来ることは無かった。
「ううっ。防がれちゃったか! でも次のターン、もう一度除外してダイレクトアタックすればいけるよ!」
(……ユキもそう思う。除外ならアーティファクトのトリガーも踏まないし……)
「……ターンエンド、です」
ユキ LP500
フィールド 『VWXYZ—ドラゴン・カタパルトキャノン』(攻撃表示)
セット0 『一点着地』 『X・Y・Zコンバイン』 『ユニオン格納庫』
手札0
「……き、厳しいですわね」
「手札も場も……全部失っちゃったからね。さすがの明日香様でもこれは……」
(……どうして、なのかしら。私も二人の言う通りだと思っている、のに。その一方でこのドローを楽しみにしている……そんな私も、確かにいる)
うるさいくらいに響く心臓の鼓動。その意味するところを受け入れた明日香はカードを引き抜いた。
「……サイバー・チュチュを召喚!」
薄くて張りのある生地を重ねて作られた短いスカートを履いた女の子が現れると、右手をお腹のあたりに持っていき、深々とお辞儀をした。
サイバー・チュチュ 攻撃力1000
(バレリーナを彷彿とさせるサイバー・ガール。前にも同じようなモンスターを見た……)
「戦士族……?」
「ええ、そうよ。私のデッキに唯一残っている戦士族。……バトル! 相手フィールドの全モンスターの攻撃力がサイバー・チュチュの攻撃力より高い場合、このモンスターは相手プレイヤーにダイレクトアタックを行える!」
「うそ……!? 土壇場で、そんなカードを……」
「頼んだわよ、サイバー・チュチュ! ヌーベル・ポアント!」
砲塔からのプラズマ砲も、アームを振り下ろしたハンマーも、華麗でダイナミックな踊りで躱したサイバー・チュチュは機体を通り抜けてユキのもとへと辿り着いた。そしてつま先立ちを保ったままジャンプして身体を180度切り返し、ハイキックを食らわせた。
(まさか、あそこから再逆転されるなんて……)
ユキ LP500→0
この一撃が決まり、決着がついた。ソリッドヴィジョンが消えていく中、明日香はサイバー・チュチュに子供のようなあどけない笑みを向けていた。
「どうしてその戦士族だけデッキに……?」
(……あのモンスターのレベルは3。レベル5のアーティファクトと合わせてレベル8のサイバー・エンジェルを呼び出すことはできる。……が、同様の役割は天使族も可能。俺は今のデッキに変えるなら天使族で統一した方が絶対良いと助言したんだがな……)
「このカードはずっと私を支えてくれたサイバー・ガールだったから……よ」
「そう……だったんですね」
(デュエルに絶対、というのはないんだな……。また一つ、君から教えられたよ)
しばらく悄然としていたユキだったが、顔を上げると彼女の方から歩み寄った。それに気付いた明日香はグローブを外すと、差し出された手を握った。
「正直ビシュヌを倒して……勝った、と思いました。でもそうではなかった。あなたに次のターンを渡してはいけなかった……」
「今のデュエルは本当に紙一重だった……良いデュエルだったわ」
「また、やりたい」
「ええ。喜んで」
二人が握手を交わすと、ギャラリーからも自然に拍手が送られていった。
「明日香様! 見せてもらいました!」
「お見事でしたわ!」
「先程のタッグも含めて、今日は良いものを見させてもらったよ」
「ユキがやられちゃったのは悔しいけど……ワクワクするデュエルだったよ! まるで十代様のデュエルみたいだった!」
「……! そ、そうかしら?」
(明日香さん? ……もしかして)
明日香が浮かべた笑みに照れが混じった。思わず同性である自分もドキッとしてしまった乙女の笑みから、ユキはその意味を感じ取っていた。
「……さて、勝ちはしたけど。課題が多く残ってしまったわ。またトライアンドエラーの繰り返し……ね。……三沢くん。これまで特訓に付き合ってくれて、ありがとう」
「ああ。こちらこそ良いデータが取れたよ。また相談があったら遠慮なく言ってくれ」
「ええ、分かったわ。……ジュンコ、ももえ! 早速特訓に付き合ってもらうわよ!」
「えっ! 今から……ですの?」
「そうよ。付き合ってくれるわよね?」
「勿論です!」
「タフですわね……。わたくしも負けていられませんわ!」
こうしてもう一つの幕も下り、明日香は休息も挟まずにジュンコ達が借りたデュエルコートで特訓を始めた。その様子を見たユキは頭の中で何かが弾けた感覚が起こる。
「——ということがあったんですよ!」
そしてデュエルコートを後にしたユキとレイは亮の部屋を訪れていた。
「そんなことがあったのか……。明日香は吹雪が見つかってからも、どこか元気が無かったからな。気になっていたんだ。吹っ切れたようで安心したよ」
「……そ、そうですね」
「うん……。良かったと、思います」
「……? それにしても、二人はタッグデュエルの心得もあるんだな」
「はい! お互いのデッキのことはよく分かってますし」
「名タッグの自負あり?」
「ほう。かなりの自信だな」
「亮様はタッグの方はどうなんですか?」
「昔は吹雪とよく組んだものだが……。……そうだな。吹雪も戻ってきたことだし、また組んでみるのも面白いかもしれないな」
「亮さんと師匠のタッグ……難敵の予感が、ひしひしと」
(そういえば師匠と呼ばれているのだったな……)
話し始めてそれなりに経った頃だった。話が落ち着いてきたところで、ユキは珍しく自分から語りかけた。
「……あの。今日デュエルして、思ったんです。切磋琢磨してユキ達の進化したデュエルを見せて欲しい……あの時の亮さんの言葉。あれはもしかしたら、ユキ達だけに向けたものじゃなかったのかな……って」
「え! そ、そうなんですか!?」
「……そうだな。まずお前達にそれを望んだことは本当だ。安心してくれ」
「ほっ……」
「その上で……お前達が皆とデュエルすることで、他の皆にとっても良い刺激になればいいと思ったんだ」
「……今日の明日香さん。さらに強くなってた。それでも満足せずにもっと高みを目指して……それにジュンコさんもももえさんも引っ張られるように……。切磋琢磨していく姿が、映ったんです。その姿を亮さんは……皆に望んでいたんですね」
(……ユキ……)
「ああ。その通りだ。しは……校長からも、学園全体が今の実力に満足して向上心が低下しつつあると相談を受けていたし、それに俺が卒業するまでに……」
「……!」
「卒業……」
(……これ以上続けるべきではないか)
刻一刻と迫るその時を今は意識させまいと亮は一度飲み物を取りにいった。麦茶を注ごうとしたところ、コーヒーで大丈夫と言われて目を丸くする。
「……それはそうと、ここは本当に色んなタイプのデュエリストがいるだろう」
「はい! どのデュエルも新鮮で楽しいです!」
「ユキも楽しいです。でも同じくらい悔しい……。強くなったと思っても、その先を行かれて……だから負けじと追い越すために、追いかけて。それが……切磋琢磨するってこと、なんですね。……にがい……」
(あ、でもお砂糖入れてくれてる……)
「ああ。その悔しさを次も味わいたくなければ勝つしかない……。だからこそ……強さに終わりはないんだ。競い合う仲間がいれば、俺達はどこまでも強くなれる」
「そうですね……! 僕ももっともっと上を目指します!」
「ユキも……! ……そうだ。ユキ、デュエルしてみたい人がいるんです」
「へえー。珍しいね」
「誰とやりたいんだ?」
(亮さんに一途だったレイちゃんと、万丈目さんのラブデュエルにも今はデュエルに恋していると断った明日香さんに、恋心を芽生えさせた……)
「十代さん。どんなデュエルをするのか、ユキも実際に戦って確かめてみたい」
「そう、なんだ。ちょっと意外かも」
(うう〜! どうしよう。もしユキも十代様のことが好きになったりしちゃったら……。ああ〜! でも二人のデュエルも見てみたい……!)
「十代か。アイツは面白い奴だ……。ユキは十代のこと、どう思っているんだ?」
(えっ! 亮様、そんなズバリと……!?)
「これまで見た状況が特殊すぎて曖昧だけど……奇跡のようなデュエルをする人、だと思ってます」
「そうか……」
(……な、なるほど。そうだよね。デュエルの話、してたもんね)
「……だが、それだけではない。アイツがそれだけの男ならば、俺も今ほどは興味を抱かなかっただろう」
「何か……あるんですね。亮さんをそこまで言わせるほどの、何かが。……ふふっ。ユキも見てみたいな」
亮の含みのある言い方にユキはますます興味を抱いたのだった。
そうして三人は夕日が部屋に差し込むまで話し込んだ。亮は帰路に就く彼女達を見送り、自分の部屋へと戻ってくる。
(卒業……。時間の猶予はあまりない、か)
「翔。お前に話がある」
「……あっ。お兄さん!? め、珍しいっすね……」
そして戻ってくるなり、すぐに電話をかけた。電話の相手は弟の翔。受話器越しでも動揺していることを亮は分かっていた。
「……え……。どういう、ことっすか……?」
「ユキはお前に見えていないものが、見えている……」
しかし彼が掛けた言葉はその比ではないほど、翔の心を揺れ動かしたのだった……。