佇む少女は機械仕掛け   作:ロボッピ

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船上のトラブル

 編入試験から数日後。ユキとレイはデュエルアカデミアに向かう定期船に揺られ、束の間の航海を楽しんでいた。

 

「風が気持ちいいね、ユキ」

 

「うん……!」

 

 二人は甲板の上に立ち、潮風を浴びていた。ユキの照りつける日差しを反射するように輝く白銀色の髪も、レイの晴れ渡った青空のような紺碧色の髪も潮風によって大きくなびいていた。

 

「入学とか大きな行事がある時以外は乗る人があまりいないとは聞いてたけど、本当に少ないんだね……。こんなに風が気持ちいいのに僕たちだけで独占しちゃってるよ」

 

「おかげで髪も解放出来て……すっきり?」

 

「髪をまとめて帽子の中に長い時間隠すのは思ったよりストレスになるもんね。うーん、風が気持ちいいー!」

 

 髪が波打つかのように潮風が吹くと、彼女達は正体を隠すための男装のストレスも一緒にどこかに吹き飛んでしまうような気がしていた。

 しかしそんな時間も長くは続かず、少ない客数とはいえやはり甲板に上がってくる者は少なからずいるのか、そこへ向かう階段からカンカンと小気味良い音が聞こえてきた。

 

「レイちゃん。アカデミアの関係者かは分からないけど念のため男装しておいた方が無難?」

 

「わ、分かった!」

 

 彼女達はゴムで髪をまとめると帽子の中に髪を隠そうとする。しかしレイは突然のことで慌てていたのか、風に帽子をさらわれてしまい、運の悪いことに帽子が階段の下まで飛ばされてしまった。

 

「あっ……!」

 

 急いでレイは帽子を拾いにいこうとしたがユキはそれを手で制した。

 

「待って。レイちゃんはあそこの死角に隠れてて……ユキが拾ってくる」

 

「ごめん……お願いするよ」

 

 レイは隠れるのを見届けるとユキは帽子を拾いに行こうとする。しかしそれより先に階段を上がってきた者が帽子を拾い持ち主を探していた。周りを見渡したが彼の視界にはユキ以外の人影は入らなかったようだ。

 

「やあ、そこの少年。この帽子は君のかい? 既に帽子を被ってるみたいだけど……」

 

 白いスーツに黒い蝶ネクタイをした茶髪の青年が眼鏡のブリッジを抑えながら、穏やかな声で聞いてきた。

 

「そう。その帽子は……えっと、スペア? ……拾ってくれてありがとう」

 

(どうやら……アカデミアの関係者ではなさそう?)

 

 ユキは一歩詰め寄って両手を差し出し、帽子を受け取ろうとする。しかし一向に返される気配はなかった。

 

「ねえ、君にとって帽子は大事なものなのかい?」

 

「……うん。だから出来れば早急に返して欲しい」

 

 ユキはさらに一歩詰め寄り、帽子に手を伸ばそうとした。しかし青年が腕を伸ばし帽子を彼女の身長では届かない高さまで上げてしまった。

 

「……何のつもり?」

 

「くく……いや、僕は他人の大事な物を自分の物にするのが趣味でね。ディスクを見るに君はアカデミアの学生か……ならこれを賭けて僕とデュエルをしてくれないかい?」

 

 先ほどまで穏やかだった声は何処(どこ)へやら。下卑た笑みを浮かべた青年は帽子をチラつかせながらユキに問うた。

 

「嫌。私がそれを受けなきゃいけない理由はない。……返して」

 

「……失礼。それもそうか。大事なのはスペアの方じゃなくこっちの方だ……!」

 

「あっ……!」

 

 帽子を取ろうと近づいていたユキは不意をつかれ、自身が被っていた帽子を勢いよく取られてしまう。すると簡易的に止めていたゴムもその勢いで外れ、白百合が花開くように彼女の髪が解放されてしまった。

 

「う……」

 

 慌ててユキは手で髪が広がるのを止めようとしたが、時既に遅し。先ほどまでいた少年は可憐な少女へと変身していた。

 

「な……!? お前、女だったのか……」

 

(いけない!)

 

「ちょっと! ユキに何するのよ!」

 

 堪らずレイは飛び出すと青年とユキの間に割り込むように入り、指一本触れさせまいと手を広げた。

 

「うわっ!? な、なんだ! どこから出てきたんだ!」

 

「レイちゃん……」

 

「……まあ、いい。それよりデュエルを受ける理由が出来たな?」

 

「……何故?」

 

「わざわざそんな長い髪を隠してまで男の格好をしてデュエルアカデミアに入ろうとしてるんだ。何かしら……知られてはまずい事情があるんだろう?」

 

「…………」

 

 ユキは返答の代わりにもの言いたげな目線を向けた。

 

「おいおい、そんな悪人を見るような目で見てくれるなよ。これでもフリーのギャンブラー。勝負に負けたら素直にこの帽子は両方返すし、その秘密も黙っててやるよ」

 

(……やるしかない?)

 

「分か——」

 

「——僕がやる! ユキは下がってて」

 

 先ほどとは対照的にレイがユキを手で制すとディスクを展開し、まるで青年を睨み潰そうとしているかのように忌ま忌ましげな表情を浮かべた。

 

「レイちゃん……?」

 

「大丈夫だよユキ。僕を信じて」

 

「……うん。任せた」

 

 ユキはレイの言葉を信じて、素直に下がった。

 

「君がやるのかい?」

 

「最初にあなたが拾った帽子……それ僕のなんだよね」

 

「ふうん……まあ、俺はどちらと戦ってもいいけどね。俺の名前はボーイ。お手柔らかに頼むよ」

 

 余裕綽々(しゃくしゃく)といった様子で青年もディスクを展開していった。

 

「あなたもよくデュエルディスクを持っていたわね……」

 

「俺はデュエルアカデミアが世界中から選んだ7人のデュエリストの代わりになるためにここに来たからね。……さあ、おしゃべりはここまでだ!」

 

「……!」

 

「 「 デュエル! 」 」

 

 津波が船体にぶつかり海水が大きく跳ね上がるとそれを合図にするかのようにデュエルが開始された。

 

「先攻は俺だ。ドロー! 俺は暴れ牛鬼(うしおに)を召喚する!」

 

 身体中に白い紋様が描かれた赤い牛が現れると落ち着かなさそうに走り出した。

 

暴れ牛鬼 攻撃力1200

 

「さらに永続魔法、セカンド・チャンスを発動する。こいつの効果は……すぐに分かるさ。暴れ牛鬼の効果を発動するぜ! 1ターンに1度、俺はコイントスをして裏表を当てる。当てた場合にはお前に、外れた場合は俺に1000のダメージが与えられる!」

 

「いきなりそんなギャンブルを……!?」

 

「俺のデュエルは伸るか反るかの勝負の連続さ……それっ、俺の宣言は表だ!」

 

 フィールドに現れたソリッドヴィジョンのコインが舞うのと同時に興奮しだした牛がフィールド中央で回転するように加速していった。そしてコインの結果が示される。

 

「残念……裏だね。あなたは1000ポイントのダメージを受ける!」

 

 牛が突進しだすとその方向にいたのはボーイ。このまま突き飛ばされるかと思いきや、ポケットに入っていた赤色のスカーフを取り出すと牛の進行方向を誘導して再びフィールド中央に戻した。

 

「どうして!?」

 

「それは俺がセカンド・チャンスの効果を発動していたからさ。こいつは1ターンに1度、コイントスをやり直すことが出来る!」

 

「それじゃあ……!」

 

「もう一度だ! 今度は裏を宣言する!」

 

 ボーイはスカーフに軽くキスをすると再びコインを宙に舞わせた。結果は……裏。

 

「当たりだ! よって君には1000ポイントのダメージを受けてもらう」

 

 興奮した牛が今度はレイの方に向かっていき、勢いを殺すことなくそのまま突き飛ばした。

 

「きゃあ!?」

 

レイ LP4000→3000

 

「これでレイちゃんはいきなり1000ポイントのビハインドを負った……」

 

「くうっ、まだまだぁ!」

 

「いつまで持つかな……? 俺は場に2枚のカードを伏せてターンエンドだ」

 

ボーイ LP4000

 

フィールド 『暴れ牛鬼』(攻撃表示)

 

セット2 『セカンド・チャンス』

 

手札2

 

「僕のターン、ドロー! 来て、恋する乙女!」

 

 黄色のドレスに身を包んだ華奢な女の子がフィールドに舞い降りた。

 

恋する乙女 攻撃力400

 

「そんなモンスターでどうするつもりだ?」

 

「乙女の力を甘く見ると痛い目見るよ! 僕は場に2枚のカードを伏せてターンエンドだ!」

 

(ちっ……攻撃はしてこないか。だが!)

 

「なら俺はこのエンドフェイズに永続トラップ、神の恵みを発動させてもらう。これにより俺はドローをする度にライフを500回復させることが出来る!」

 

「うっ、ギャンブルだけかと思ったら堅実にライフ差を広げる気……?」

 

レイ LP3000

 

フィールド 『恋する乙女』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「さあてね……俺のターン、ドロー。神の恵みによりライフを500回復させてもらう」

 

ボーイ LP4000→4500

 

「そして俺は手札からもう1体の暴れ牛鬼を召喚する!」

 

 2匹目の赤い牛が現れるとこちらも落ち着かなさそうに走り出した。

 

暴れ牛鬼 攻撃力1200

 

「ちょっとまずい? もし2体の暴れ牛鬼の効果が成功すればライフは一気に1000になっちゃう……」

 

「さあ……一か八かの勝負と行くかい?」

 

「お断り! 暴れ牛鬼が召喚に成功したこのタイミングでトラップカード、落とし穴発動! 攻撃力1000以上のモンスターが召喚された時、そのモンスター1体を破壊する!」

 

「何だと!?」

 

 牛は力強く駆けていたが突如地面に抵抗を感じなくなる。それは一直線に走る先に落とし穴が仕掛けられていたためだった。牛に逃れる術はなく落とし穴に飲み込まれてしまった。

 

「確かにデュエルには一か八かでも勝負しなきゃいけない瞬間はあるかもしれない。でもそれだけがデュエルじゃないでしょ?」

 

「ぐうっ……。まあいいさ、ギャンブルに落とし穴はつきものだ。 暴れ牛鬼の効果発動!」

 

「……! 永続トラップ、マジシャンズ・プロテクションを発動!」

 

「それがどうした! 俺が選ぶのは裏だ!」

 

 三度(みたび)フィールドにコインが舞う。結果は表だったが、すぐにコインは跳ねるように空中に放られた。

 

「セカンド・チャンスによりもう1度だ! 今度も裏を宣言する!」

 

 コインが落ちてくると残っていた力で地面で回転しだす。やがて回転が収まりカランカランと地面にコインが叩きつけられるような音が聞こえた。結果は……裏。

 

「ビンゴ! また1000のダメージを受けてもらう!」

 

「そう簡単に同じ手は食わないよ! マジシャンズ・プロテクションにより場に魔法使い族がいる限り、僕が受ける全てのダメージは半減される。恋する乙女は魔法使い族! よって僕が受けるダメージは500になる」

 

「何……!」

 

 突進してくる暴れ牛鬼の威力を抑えるようにレイの周りに不可視の障壁が貼られると衝撃を和らげた。

 

レイ LP3000→2500

 

「ならバトルだ! 暴れ牛鬼で恋する乙女に攻撃!」

 

 暴れ牛鬼は進行方向を恋する乙女に定めると一直線に突っ込んでいった。

 

「マジシャンズ・プロテクションの効果でダメージは半分になる!」

 

レイ LP2500→2100

 

「だがこれでお前の場の魔法使い族はいなくなった!」

 

「それはどうかな?」

 

「……!」

 

 突進をまともに受けたはずの恋する乙女だったが、涙目になりながらもフィールドに残っていた。

 

「恋する乙女は攻撃表示でいる限りバトルでは破壊されない! さらに攻撃したモンスターに乙女カウンターを1つ乗せるよ」

 

 暴れ牛鬼は最初は困惑したかのようにぐるぐると回っていたが涙目になった恋する乙女を見ると目にハートマークが浮かび、今までにないくらい興奮して走り出した。

 

暴れ牛鬼 乙女カウンター0→1

 

「ちっ、面倒なカードだ……。俺はこれでターンエンド!」

 

ボーイ LP4500

 

フィールド 『暴れ牛鬼』(攻撃表示)

 

セット1 『セカンド・チャンス』 『神の恵み』

 

手札2

 

「僕のターン! 魔導騎士 ディフェンダーを召喚するよ!」

 

 青色のローブに身を包んだ騎士が参上すると乙女を守るように右手で縦長の盾を構えた。

 

魔導騎士 ディフェンダー 攻撃力1600

 

「魔導騎士 ディフェンダーは召喚に成功した時、自身に魔力カウンターを一つ置く!」

 

 盾の中央についている三角形を象ったような模様の装飾に光が灯った。

 

「ふん。そいつで暴れ牛鬼に攻撃するつもりか……」

 

「不正解よ! 僕は装備魔法、キューピッド・キスを恋する乙女に装備する!」

 

 天から光が差すと幼い天使が降りてきて、乙女のほっぺにキスをしていった。

 

「バトル! 恋する乙女で暴れ牛鬼に攻撃!」

 

「何!? 攻撃力の劣るモンスターで攻撃だと……?」

 

 恋する乙女が腕を横に振りながら牛に向かって走っていく。

 

「狙いは分からんが……永続トラップ、モンスターBOXを発動だ! 相手モンスターの攻撃宣言時、俺はコイントスをして裏表を当てる。当たれば攻撃モンスターの攻撃力はバトルフェイズが終わるまで0になる!」

 

「……!」

 

「俺が選ぶのは表だ!」

 

 空中に放られたコインが落ちてくる。示された結果は裏。

 

「ちっ、セカンド・チャンスは使わねえ……」

 

「ならこのまま恋する乙女の攻撃を受けなさい! 届け、一途な想い!」

 

 恋する乙女が腕を広げ抱きつこうとすると牛は困惑しながらも避ける。すると飛びつくように抱きつこうとした乙女はそのまま転んでしまい、涙目になりながら悲しそうな表情で見つめた。牛は申し訳なさそうな顔で乙女に近づいていく。

 

「恋する乙女は自身の効果で破壊されず、マジシャンズ・プロテクションの効果で僕が受けるダメージは半分になる!」

 

レイ LP2100→1700

 

「ふん、何をするかと思えば……ただ無意味に自分のライフを減らしただけじゃないか」

 

「本当にそう思う? あなたのモンスターの様子をよく見てみなよ!」

 

「……なっ!」

 

 ボーイが一瞬目を離した隙に乙女が牛の額にキスをしていた。するとあれだけ暴れていた牛が今ではすっかりと乙女になつき、懐柔されてしまっていた。

 

「キューピッド・キスを装備したモンスターが乙女カウンターが乗っているモンスターに攻撃し、装備モンスターのコントローラーが戦闘ダメージを負った時、ダメージステップ終了時に戦闘ダメージを与えたモンスターのコントロールを得ることが出来るのよ!」

 

「俺のモンスターのコントロールを奪うだと……!?」

 

「これであなたの場にモンスターはいなくなった! 暴れ牛鬼でダイレクトアタック!」

 

 乙女がボーイのいる方向を指差すと手懐けられた牛はその通りにボーイに向かって突進していった。

 

「くっ、モンスターBOX! 宣言は裏だ!」

 

 コインが空高く舞い地面に落ちてくる。2、3回跳ねると一つの面を上に向けた。

 

「残念。表だよ! さあ、どうする?」

 

(……レイちゃんの場には暴れ牛鬼より攻撃力の高い魔導騎士 ディフェンダーがいる。ユキならここはセカンド・チャンスは使わないで大きなダメージを防ぐ確率を高める……)

 

「セカンド・チャンスを使う! 今度は表だ!」

 

 胸元にあるスカーフを取り出しキスするとコインをもう一度宙に舞わせた。結果は……表。ボーイを隠すように複数の穴の空いた箱が降りてくると、その穴の一つに牛は突っ込んでいく。しかしそこはボーイがいた場所ではなかった。

 

暴れ牛鬼 攻撃力1200→0

 

「なら魔導騎士 ディフェンダーでダイレクトアタック!」

 

 魔導騎士は盾を構えるのを一旦やめると左手に持っていた短剣を肩の高さまで上げ、標準を定めた。

 

「モンスターBOX! ……表だ!」

 

 コインが地面から押し出されるように空中に投げ出されると、重力を受けて落ちてきた。

 

「裏だと!?」

 

「セカンド・チャンスが使えるのは1ターンに1度! もうやり直すことは出来ない!」

 

 短剣が鋭く投擲されるとボーイに向かって飛んでいく、反射的にボーイは短剣を避けようとするが肩を掠めるように切れ味を受けることとなった。

 

「ぐっ!」

 

ボーイ LP4500→2900

 

(ソリッドヴィジョンだと分かっているけど……痛そう?)

 

暴れ牛鬼 攻撃力0→1200

 

「さらに僕はメインフェイズ2に入り、暴れ牛鬼の効果を使わせてもらうよ!」

 

「……! そっちからギャンブルを仕掛けてきたか……!」

 

 モンスターBOXから抜け出し興奮状態にあった暴れ牛鬼が再びフィールド中央で回るように走り出すと同時にフィールドにコインが舞った。

 

「僕が宣言するのは……表!」

 

(レイちゃんの場にはマジシャンズ・プロテクションがあるから外れてもダメージは500で抑えられる。分は……悪くない?)

 

 コインが降下していき地面に跳ねると、やがて静止して裏の面が地面に触れ、表の面が大気に触れた。

 

「当たりよ!」

 

「馬鹿な……!?」

 

 牛が走り出した方向にはボーイがいた。避ける術はなくそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ、俺にギャンブルカードでダメージを負わせるとは……!」

 

ボーイ LP2900→1900

 

「よし……! 僕はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

レイ LP1700

 

フィールド 『恋する乙女』(攻撃表示) 『魔導騎士 ディフェンダー』(攻撃表示) 『暴れ牛鬼』(攻撃表示)

 

セット1 『キューピッド・キス』 『マジシャンズ・プロテクション』

 

手札1

 

「俺のターン! 神の恵みによりライフを500回復する! そしてスタンバイフェイズにモンスターBOXの維持コストとしてライフを500払う」

 

ボーイ LP1900→2400→1900

 

「なるほど……神の恵みはモンスターBOXを維持するためのカードってことね」

 

「そういうことさ。俺は場にこのモンスターを守備表示で召喚する。来い! 俺の切り札……サンド・ギャンブラー!」

 

 どこからともなく砂塵が舞い上がると中央の無風地帯にカジノにいるボーイのような格好をした男性が現れていた。

 

サンド・ギャンブラー 守備力1600

 

「サンド・ギャンブラーの効果発動! こいつは今までのとは一味違うぜ……! 1ターンに1度俺はコイントスを3回行い、3回とも表ならお前の、3回とも裏なら俺の場のモンスターを全て破壊する!」

 

「……! 僕はこのタイミングで永続トラップ、漆黒のパワーストーンを発動するよ! このカードは発動時、自身に魔力カウンターを3つ置く!」

 

 黒いパワーストーンが出現すると魔導騎士の盾に描かれた紋章と同じ模様が浮き上がるように出現した。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター0→3

 

「ふん、カウンターが好きなやつだ。行くぜ……コイントスだ!」

 

 サンド・ギャンブラーが懐から取り出した金色、水色、赤色の3枚のコインが同時に空中へ舞うとその結果を同時に示した。

 

「裏、表、裏……このままなら何も起きないけど」

 

「俺はセカンド・チャンスの効果を使い、もう一度やり直させてもらう!」

 

「……! 自分のモンスターを失うリスクもあるのに……!」

 

 今度は金色のコインから順番に1枚ずつコインが跳ねていく。金色の面は表を上にし、水色のコインも表を示した。そしてボーイがスカーフに軽くキスをすると赤色のコインも舞い、結果が示される。

 

「はっはっは! これだからギャンブルはやめられねーぜ!」

 

「全部表……!」

 

 3枚のコインの表面に描かれていた戦士が実体化していくと、レイの場にいる3体のモンスターにそれぞれが斬りかかっていった。

 

「これでお前の場は全滅だ!」

 

「いや……そうはさせない!」

 

「なっ……!?」

 

 暴れ牛鬼はコインナイトにあっさり討ち取られてしまったのに対して、魔導騎士は短剣を地面に突き刺すと魔力を用いてもう一つの盾を出現させていた。右手の盾で自身を守りながら、左手の盾で恋する乙女に降りかかる攻撃を全て防ぎきっていた。

 

「僕は魔導騎士 ディフェンダーのモンスター効果を適用していたのさ! このカードは 1ターンに1度魔法使い族モンスターが破壊される場合、破壊される魔法使い族と同じ数の魔力カウンターを自分フィールドから取り除くことで破壊を免れることが出来る!」

 

魔導騎士 ディフェンダー 魔力カウンター1→0

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター3→2

 

「漆黒のパワーストーンを発動したのはこのためだったのか……!」

 

「そうよ! 獣戦士族の暴れ牛鬼は破壊されちゃったけど僕のモンスターはこれで守られた!」

 

「くっ……俺はこれでターンエンドだ。だが、勝ったと思うな! 俺はお前の戦術の弱点に気付いているのさ……!」

 

 ボーイはサンド・ギャンブラーの効果が完全に決まらなかったことに焦りつつも、まだ確かな余裕を残している様子だった。

 

「僕の……弱点?」

 

「お前の場にある装備魔法、キューピッド・キスは俺の場のモンスターを奪ってしまう厄介なカードだ。だが乙女カウンターが乗ったモンスターにしか使えない! そして乙女カウンターは恋する乙女にさえ攻撃しなければ乗せられることはない……!」

 

「む……」

 

「そしてお前の場にはサンド・ギャンブラーの守備力を超えるモンスターはいない。一体呼び出せたとしてもモンスターBOXとセカンド・チャンスで無力化出来る。結局のところ相手モンスターを奪えなければお前のデッキは火力不足なのさ!」

 

 少し見下しているかのようにも聞こえる言い振る舞いだったが、この指摘に対してレイは怒りを感じることはなかった。

 

(……今の考察は(あなが)ち間違いではない? 何故ならそれはレイちゃん自身、恋する乙女をデッキに投入してからずっと向き合っている“課題”だから……)

 

ボーイ LP1900

 

フィールド 『サンド・ギャンブラー』(守備表示)

 

セット0 『セカンド・チャンス』 『神の恵み』 『モンスターBOX』

 

手札2

 

「……ご忠告どうも。確かに今の僕のデッキはまだまだ弱点があるのかもしれない」

 

 敗北を認めたとも捉えられる発言にボーイは思わずにやける。

 

「でもね。それでもこのデュエル、僕は負けないよ。だって……あなたのデュエルにはもっと大きな弱点があるんだもの」

 

「何!? それは何だ……!」

 

「それはね……デュエルで教えてあげる! 僕のターン、ドロー!」

 

 勢いよく潮風がレイに向かって吹いたが、それを切り裂くように鋭くカードが引き抜かれた。

 

「僕は魔導戦士 ブレイカーを召喚! このモンスターは召喚に成功した時、自身に魔力カウンターを一つ置く。そして魔導戦士 ブレイカーは自分に乗っている魔力カウンター一つにつき、攻撃力が300上がる!」

 

 魔導騎士とは対をなすような赤いローブに身を包んだ魔導戦士が見参する。守備に長けた魔導騎士とは違い、盾は最低限の大きさである代わりに手に持った魔法剣は扱いやすいながらも相手に斬りかかるには十分なリーチの長さを備えていた。すると魔法剣は一瞬輝き、魔力を取り込んでいく。

 

魔導戦士 ブレイカー 魔力カウンター0→1 攻撃力1600→1900

 

「ふん! 何とか攻撃力がサンド・ギャンブラーの守備力を超えているモンスターを呼び出したか。だが俺の場にモンスターBOXがある限り、攻撃は通さん! 今度こそコイントスを当てて防いでみせる!」

 

「……ねえ、あなた気付いてる? 今のあなたはまるでデュエルをギャンブルの延長のように考えていることを」

 

「それのどこが悪い! お前には分からないのか!? 一瞬一瞬の瀬戸際を切り抜ける俺のギャンブル魂が!」

 

「あなたがギャンブルに拘りたいと言うのならそれは別に否定しないよ。……でもね、デュエルはそのあなたからギャンブルを取り上げることも出来るの。魔導戦士 ブレイカーの効果発動! 自身に乗っている魔力カウンターを一つ取り除くことでフィールドに存在するマジック・トラップカードを1枚破壊出来る! 僕が狙うのは……モンスターBOXだ!」

 

「なっ……!」

 

「放て! マナ・ブレイク!」

 

 魔導戦士が天に捧げるように剣を掲げると、やがて剣の先から吸収した魔力が解き放たれ天に向かっていく。やがてそれは雷となってボーイの場にあったモンスターBOXを貫いた。

 

魔導戦士 ブレイカー 魔力カウンター1→0 攻撃力1900→1600

 

「ギャンブルが出来なくなった時……あなたのデュエルには何が残る?」

 

「う……」

 

 ボーイはとっさにセカンド・チャンスを見る。しかし今のボーイがそのカードを使うことは叶わなかった。

 

「さあ、決着をつけるよ!」

 

「決着だと……? 魔導戦士 ブレイカーの攻撃力も効果を使ったことで1600に戻った! お前の場にサンド・ギャンブラーの守備力を超えられるモンスターはいない!」

 

「それはどうかな! 漆黒のパワーストーンのもう一つの効果を発動! 自分のターンにつき1度、このカードに乗っている魔力カウンター1つを別のカードに置くことが出来る。この効果で魔導戦士 ブレイカーに魔力カウンターを移すよ!」

 

「魔力カウンターを……ああっ!」

 

 三角形の頂点のうち二つに点灯していた光が一つ消え去ると、魔導戦士の剣に宿り力を与えた。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター2→1

 

魔導戦士 ブレイカー 魔力カウンター0→1 攻撃力1600→1900

 

「バトル! 魔導戦士 ブレイカーでサンド・ギャンブラーに攻撃!」

 

 魔導戦士はサンド・ギャンブラーの懐に入り込むと剣に魔力を集中させ、一閃して紫電を走らせた。

 

「そして魔導騎士 ディフェンダーでダイレクトアタック!」

 

 地面に突き刺さっていた短剣を引き抜くと先ほどのように投擲するのではなく盾を構えながら近づき、隙を見つけると確実に斬りかかった。

 

「ぐっ!?」

 

ボーイ LP1900→300

 

「これでラストよ! 恋する乙女でダイレクトアタック!」

 

 華奢な乙女が腕を横に振りながら必死にボーイに向かって駆けていく。客観的に見れば可愛らしい様子だったが、ボーイにとっては目の前の女の子が放つ怒気も相まってまるで少女の格好をした鬼が近づいてくるような感覚に陥っていた。

 

「一途な想い!」

 

ボーイ LP300→0

 

「負け……た。また……」

 

 デュエルが終了してソリッドヴィジョンが消えていくと同時にボーイは膝をがっくりと落とした。

 

「また?」

 

 レイがディスクを収納して近づいていくと青年の言葉に疑問を持った。

 

「前の晩、ギャンブルで大負けしたんだ……。デュエルアカデミアの戦士に選ばれたくて来たのにこんなんじゃいけないとむしゃくしゃして……誰でもいいから賭けをして勝ちたかったんだ」

 

「だから……ユキにあんなに強引に当たったのね?」

 

「あ、ああ……」

 

「はあ……。イライラしたからって年下の女の子に当たるなんて、なんて情けない男なの……」

 

「うっ! い、いや……あの時は女の子だとは知らなくて……」

 

「言い訳しない!」

 

「はっ、はいぃぃ! すいませんでしたぁ!」

 

 詰め寄るレイのあまりの迫力にびびった青年はとっさにそのまま土下座してしまった。

 

「まあまあ……そこまでさせなくても」

 

「ユキ。……でも」

 

「ほら。帽子を返して?」

 

「ああ……悪かった」

 

 青年はユキに大人しく帽子を両方返した。容赦なく詰め寄るレイに対して手を差し伸べてくれたユキは青年にとっては天使といっても相違ないくらいの存在に感じられた。

 

「まったく……ユキは甘すぎるよ」

 

「でも……男の人が年下の女の子にプライドを捨てて土下座までしてるのを見るのはこっちまで惨めな気持ちになってくる?」

 

「うっ、うわあああん!」

 

 青年は天使だと思っていた娘が放った追撃の一言で耐えきれず、大粒の涙を流しながら走り去っていった。

 

「……容赦ないね、ユキ」

 

「……?」

 

 走り去っていった青年を見て、ユキはただ首を傾げるのであった。

 

 トラブルもあったが無事に定期船はデュエルアカデミアに到着した。ユキは船から伸ばされた階段を歩きそこに降り立つと、見渡す限り広がる大地に息を飲んだ。

 

「ここが……デュエルアカデミア」

 

 景色から一度目を離すとユキはレイがまだ降りていないことに気がつく。レイは船から降りる前にデュエルアカデミアを……特にカイザーがいるブルー寮を見つめていた。

 

「来たんだ……ついにここまで」

 

 レイは少し放心していると船員に降りるように促されて顔を少し赤くしながら降りてくる。その先では親友が手を差し出して待っていた。

 

「行こう?」

 

「うん!」

 

 レイは親友の手を掴むように最後の一段を飛び降りると勢いで少し寄りかかる。二人は照れるように笑うとデュエルアカデミアに向けて歩き出した——。




今回の話までを読んで本来の時系列と比べてどこか違和感を覚えた方もいるかもしれませんが、次話の後書きで時系列については補足を入れたいと考えています。
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