佇む少女は機械仕掛け   作:ロボッピ

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決意の証明

 ユキ達がレッド寮についたのはもう日が暮れようかという時間で、ちょうど夕食を食べようと寮生が食堂に集まっていた。

 

「あれ? 寮長がいない……?」

 

「そんなことあるのかな……」

 

 寮長の部屋をノックしても返事はなく、食堂に集まっているのかと思い覗いてみたところ寮長の姿は見受けられなかった。

 

「ん? お前らが噂に聞いてた編入生か!」

 

 すると食堂を覗いた二人に十代が気が付いた。編入先が最下層であるオシリスレッドであるため落ち込んでいると思った十代が二人を励まそうと席を立つ。

 

「なーに。成績悪くたって気にすんな! 俺たちと一緒に楽しくやっていこうぜ」

 

 十代は近づくと二人の背中をバシバシと叩いた。彼なりの気遣いだったのだが彼女達にとっては叩く力が強く、二人とも逃れるように食堂の扉の後ろに隠れてしまった。

 

「違うんだなぁ、十代。確か編入生はまずオシリスレッドに入る決まりなんだな。二人とも成績が良いって聞いてるからきっとすぐにイエローに行けるんだなあ」

 

 十代が早とちりしたことに気がついた隼人はとっさにフォローを入れた。

 

「うっ、僕達のこと噂になってるのかな」

 

「この時期に二人の編入生は珍しい……仕方ない?」

 

 二人は気づかれないように小声で会話する。噂になると彼女達の正体もばれやすくなってしまうため、あまり芳しい状況ではなかった。

 

「えっ、そうなのか!? あはは……とにかくオシリスレッドの仲間が増えるのは大歓迎だぜ! なっ、翔! 隼人!」

 

「勿論っす!」

 

「歓迎するんだなー」

 

「あっ! でも確か部屋が余ってないんだよな……ちょうどいいや! 俺達の部屋に来いよ!」

 

 こうしてユキ達は十代達の部屋で寝泊まりすることになったのだが、三人ベッドの隣に新たにベッドが二つ置かれたため部屋が窮屈なものとなっていた。

 

「うう……これは狭いっすね」

 

「……ごめん」

 

「ごめんなさい」

 

「気にすんなって! 狭くたって飯と食える場所があればそれでいいのさ。それより風呂入りに行こうぜ! 男同士背中を流し合えばもう仲間だぜ!」

 

 そう言うと気の早い十代はもう制服を脱ぎ捨て、シャツもそのまま脱ごうとしていた。レッド寮の近くに露天風呂があるのだがブルー寮にしか女子生徒がいないため、横着して先に上を脱いでしまう生徒はそれなりにいたのだ。

 

「……ひゃ!?」

 

「わお……」

 

 十代が脱ぎかけなことに気付いたレイは慌てて自分とユキの目を塞いだ。

 

「えっと……ごめんなさい? 長時間船に乗って疲れたみたいで今日はもう休みたい……」

 

「……あっ、僕も!」

 

 このまま一緒に風呂に入るわけにはいかないのでとっさにユキが誤魔化すとレイも意図に気が付いたようだ。

 

「あー、分かるっす。船に乗った後って酔う感覚が残って妙に疲れるんすよね」

 

「そっか。じゃあゆっくり休めよ!」

 

 そう言うと十代達は部屋を出ていき、風呂に入りにいった。

 

「ふー、びっくりしたぁ。いきなり脱ぐなんて……。よくとっさに誤魔化せたね」

 

「うん。でも、疲れたのは本当。明日からのこととか色々話したいけど……限界」

 

 そう言い終わるや否やユキはベッドに倒れこむと、次の瞬間には静かに寝息を立て始めた。

 

「……もう寝ちゃった」

 

 船旅以外にも慣れない男装の疲れなどもあるだろうか。レイはユキに布団をかけてあげると自分も疲れが溜まっていたことに気がついた。

 

「変な男にも絡まれて大変だったしね。ふわぁ……」

 

 レイも布団に潜るとすぐに睡魔に負け、ベッドに沈むように寝てしまった。

 

 次の日、アカデミアの生徒全員が収まることが出来る講堂で簡単な朝礼を受けるとすぐに解散され、生徒が校舎の外に出て行く。授業が始まると思っていた二人はこの事態に困惑していた。

 

「ああ……そっか、お前らは知らないよな。実はそろそろ学園祭があってさ。今はその準備期間ってことで授業はないのさ」

 

「そうなんだ。じゃあ僕達も手伝うよ」

 

「私もレイ……と一緒に手伝う」

 

「おう。助かるぜ! 後でレッド寮で合流なー」

 

 そう言うと十代は人混みに溶けていく。ユキ達も混雑を掻き分けるように抜け出すと歩きながら今後のことを相談していた。

 

「うう……早く亮様に会いたいよ」

 

「とりあえずイエローに昇格してちゃんと部屋を貰うまでは我慢。まだ様子を見ないと……正体がバレてしまったら元も子もない?」

 

「そうだよね……」

 

 校舎を出ようと歩く中途中で購買部を通り過ぎようとした。その際、ユキはアカデミアに入った暁には果たしたかった一つの目的を思い出した。

 

「あっ……」

 

「ん? どうしたのユキ?」

 

「用事を思い出した。ここで少し待ってて?」

 

「……? うん、分かったよ」

 

 ユキが小走りで購買部に戻るとトメさんという女性の購買員に何かを注文していた。それを眺めるように見ていたレイは奥の方からこちらの方に向かってくるある人物に気が付いた。

 

「……! 亮様……!?」

 

 とっさにレイは物陰に隠れる。すると三人の取り巻きの男子生徒と亮の会話が聞こえてきた。

 

「え? 亮さん今日デッキは持って来てないんですか?」

 

「ああ。みんなも忙しい時期だから挑んでくるデュエリストもそういないだろうし、俺も準備を手伝いたいから寮に置いてきた。もし挑んでくる人がいれば時間がある夜に回してもらうつもりだ」

 

「なるほど……理にかなっていますね」

 

「カイザーと呼ばれながらも精力的に準備を手伝うなんて殊勝な心掛けですねえ。私達も見習わねば」

 

「……あまりカイザーと呼ぶのは勘弁して欲しい」

 

 物陰に隠れていたレイに気付くことはなく亮達はそのまま去っていった。

 

(亮様のデッキ今は寮にあるんだ。今なら亮様のデッキを一目見ることも……って、僕何考えてるの!?)

 

 自然に思いついた考えに理性が急ブレーキをかけた。しかし彼女自身、亮としばらく話せないならせめてデッキだけでも一目見たいという気持ちを抑えきれずにいた。そして……気がついたらブルー寮に向けてレイは走り出していた。

 その数分後、用事を終えたユキが戻ってきたがレイの姿が見当たらず困っていた。

 

「……? お手洗い……かな?」

 

 ユキはその階の案内図を見ると複数のトイレがあることが分かったため、その場で待つことに決めた。するとそこに翔と隼人がやってきた。

 

「今のうちにドローパンを確保……ってあれ、ユキ。こんなところで何してるっすか?」

 

「翔さん。今レイ……を待ってるところ」

 

「ん? さっきレイなら走って出ていくのを見かけたよ」

 

「え……!?」

 

「なんか急いでたんだなぁ。十代も気になったのか追っていっちゃったし……」

 

(……まさか、亮さんに会いにブルー寮に?)

 

「……失礼します」

 

「あっ、ユキも行っちゃったす……」

 

「二人の分のドローパンも買っといてあげるんだなあ」

 

 ユキは不安と嫌な予感を抱きながらブルー寮に向かって走り出す。ブルー寮の前まで来たユキはその嫌な予感が的中していたことを知ることになった。亮の部屋の窓からレイが長い青髪を揺らしながら木をつたって降りてくると、同じく部屋にいた十代が出る前に一度部屋に戻ってきた亮と取り巻きに捕まってしまった。

 

「ユ、ユキ……」

 

 息を切らすように出てきたレイはユキと鉢合わせすることになる。肩が上下するたびに揺れる髪はその姿を十代に見られたことを伺わせた。

 

「……とりあえず隠れよう」

 

 事情を聞く前にユキはレイと一緒に木陰に隠れて亮の部屋の様子を伺った。

 

(彼がレイちゃんの正体を他の人に話せば……全ては水の泡)

 

「お、お前ら少しは人のことを信頼しろよぉー!」

 

 取り巻きに捕まった十代はベランダの手すりから引っぺがされ、部屋の中に戻されていく。

 

「勝手に人の部屋に窓から入り」

 

 鍵がかかっていなかったとはいえ閉じられていた窓が今は開いていた。

 

「亮さんのデッキを勝手に見て」

 

 亮の部屋の棚の中にしまわれていたデッキは棚の前に散乱されていた。

 

「そんな奴を信頼する方が無理ってものだろう!」

 

「うっ……」

 

 実際にデッキを見たのはレイだったが状況を考えると明らかに十代は怪しかった。

 

「……ん?」

 

 そんな中、亮はデッキの近くに落ちていた女性物の髪留めに気がつくと、それを拾い上げた。

 

(……これは)

 

「俺はその……えっと、窓が開いてたから閉めてあげようかなーなんて……」

 

「じゃあこのデッキが散らばっている理由はなんだ!」

 

「えーと……風?」

 

「亮さんは棚の中にデッキをしまっていたんだぞ。そんな訳あるか!」

 

「放してやれ」

 

「えっ……亮さん?」

 

 取り巻き達は戸惑いつつも素直に十代を解放した。

 

「それと十代。出るときはドアから出て行け。出口はあっちだ」

 

「カイザー……サンキューな。お騒がせしましたー!」

 

 納得がいかなそうな顔をする取り巻き達を横目に十代は部屋から出ていくと、レッド寮に戻っていった。

 

「どうして僕のことを言わなかったんだろう……」

 

「……それは分からないけど」

 

 ブルー寮から出ていった十代を横目にユキはレイが背にしていた木に手をつき、顔をじっと見つめながら話した。

 

「なぜ……こんなことを?」

 

(う……ユキ、怒ってる? そりゃそうだよね……)

 

「ごめんね。亮様と話せないならせめてデッキだけは一目見たいと思って……」

 

 申し訳なさそうに目を伏せながら話すレイ。それを見てユキは木から手を離し、代わりにユキの手を握った。

 

「……こっちも気付かなくてごめんなさい。せっかくデュエルアカデミアに来たのにすぐ亮さんと話せないのはレイちゃんにとっては酷なことだった……」

 

「えっ! そ、そんな……ユキが謝ることなんて!悪いのは僕で……」

 

 怒られると思っていたレイは意表を突かれ、驚愕の表情を浮かべながらユキの言葉を否定した。しかしユキも首を横に振ってそれをさらに否定していた。

 

「ううん……レイちゃんが今まで切ない想いを抱いていたのはユキが一番よく知っていた。苦労してやっとアカデミアに来たんだから正体がバレるリスクがあっても話す機会を作るべきだったの……」

 

「ユキ……ごめんね。あと……ありがとう」

 

 レイは手を握り返すと木陰から抜け出した。手を繋いでいたユキも日の当たる場所に出ることになった。

 

「これからどうなるかあいつ次第だけど……戻ろうか」

 

「うん……」

 

 一抹の不安を抱きながらもユキ達はレッド寮に戻っていった。

 

 二人がブルー寮から離れたあたりの頃。散らばったデッキを集め終えた亮は取り巻きを先に学園祭の準備に向かわせると、棚から1枚の手紙と同封されていた写真を取り出した。

 

「この髪飾りと……この写真に写っている女の子がつけている髪飾り。やはり似ている……」

 

 その写真に写っていたのはレイ。取り出した手紙は1年前にレイが送ったものだった。確認を終えた亮は電話を取り出すとある人の所へ電話をかけた。

 

「もしもし。鮫島です。……ああ、亮ですか。電話をかけてくるなんて珍しいですね」

 

「突然すいません、師範」

 

「はは……師範はよしてください。ここでは校長ですから」

 

「……失礼しました。今日電話をかけたのは確認したいことがあったからです」

 

「ふむ。それで確認したいこととは?」

 

「つい先日編入してきたという生徒が二人いると聞きました。その二人の名前を教えて欲しいのです」

 

「おお……彼らですか。早乙女レイ君に神凪(かんなぎ)ユキ君ですね。いやはや、編入試験を見ていましたが二人ともいいデュエルをしていましたよ」

 

 鮫島校長はあの時のデュエルを思い出しながら楽しそうに亮に話し続ける。亮はその内容を頭に入れつつも手紙の送り主の名前を確認していた。

 

(送り主の名字は書かれていないが名前はレイと書かれている。そしてこの髪飾りと写真……)

 

 亮の中で憶測は確信に変わった。そして亮自身今までファンレターだと思っていた手紙は、もっと深い意味を持っていたことも同時に感じ取ることになった。

 

 舞台は変わり、レッド寮。ユキ達が戻ると学園祭に向けての作業が着々と進んでいた。

 

「あっ、おーい! レイ、ユキ!」

 

「……!」

 

 十代からかけられた声にレイの肩がビクッと震えた。しかし十代はレイの正体に触れるばかりか、先ほどの濡れ衣の文句の一つも言うことなく学園祭の準備でやるべきことを教えると作業に戻っていった。その後作業をする間も休憩でドローパンを食べる間も、十代は先ほどのことに触れてこない。そして学園祭の準備が終わり、ついには夜を迎えた。

 

 真偽を聞くためレイは十代をレッド寮の下あたりにある沿岸に誘うと、波の音をバックに十代を問いただした。

 

「なあ、どうして僕のことをバラさなかったんだ?」

 

「昼間のことか? 女の子がわざわざ男の格好をしてこんなところまで来たんだ。なんか訳ありそうだなって思ってさ」

 

「言うな! 昼間見たことは絶対人に言うんじゃない!」

 

「……人にモノを頼むときはまず事情を説明するもんだ」

 

「出来ない!」

 

 十代はその答えは予想していたというように苦笑いするとデュエルディスクを取り出した。

 

「じゃ、デュエルだ」

 

「……!? なんだ、それは。どういう理屈なんだ」

 

「デュエルじゃ誰も嘘はつけないってことさ」

 

 こうして二人のデュエルが開始される。崖の上からレイがデュエルを見ていると十代とレイを探しにきた翔と隼人が、そして二人がここでデュエルをすることを見越していたように亮が明日香と一緒に現れた。

 

(……! 亮さん……!?)

 

「あれ、お兄さん。どうしてここに?」

 

「翔か。レイと十代のデュエルは……もう始まってるみたいだな。……俺は彼女のデュエルを見る必要がある。デュエルは人となりやその人のあり方を示す。十代もそれが分かっているからデュエルを挑んだんだろう」

 

「えっ……」

 

 そう言いながら亮はレイの髪飾りを取り出した。

 

「か、彼女って……」

 

「レイは女の子なのよ」

 

 夜を迎える前に相談を受けていた明日香が亮の代わりに答えた。

 

「ええー!?」

 

「びっくりなんだな……」

 

「あれ……ということはもしかして」

 

 翔は目線をユキに向ける。レイが男装していたのなら、ユキもそうではないかと思ったのである。

 

(亮さんは完全に確信している……ここらが潮時? レイちゃんの正体がバレてしまった今、ユキの正体を隠す意味はない……)

 

「うん……ごめんなさい。ユキ達は二人とも女の子……」

 

「それだけじゃないな」

 

「う……やっぱり気付いていた?」

 

「この手紙によればレイは今年で小学5年生のはずだ。一緒に男装していたユキも恐らくそうだろう……」

 

「……はい」

 

 規則によりデュエルアカデミアは中学1年生にならないと入学は認められない。彼女達は入学の資格を持っていないことがついにバレてしまった。

 

(レイちゃんの言っていた通り、あの手紙にレイちゃんはこれからのことを考えず色々なことを書き連ねてしまった。でもそれは仕方ない。あの時のレイちゃんは思いの丈をぶつける必要があった……)

 

「えっ、二人共小学5年生なんすか!? ……で、でもその割にアニキすごい苦戦してるっすよ!」

 

「……!」

 

 ユキの得意とする恋する乙女によるコントロール戦術の術中にはまった十代はフェザーマンとスパークマンのコントロールを奪われ、ライフも1000を切ってしまい追い込まれていた。

 

「女の子は恋をすると強くなる。不可能なんてないんだから!」

 

 レイは帽子を脱ぎ去ると青い長髪を潮風になびかせ、高揚して赤く染まった頬が冷えた風に当たるのを感じていた。

 

「うっ……」

 

 一方十代は慣れない戦術やレイの気迫に押され、たじろいでいた。

 

「十代もたじたじね。でも確かに女の子は恋をすると強くなるわ。……初恋の相手に会うために難しい編入試験まで突破してきたんだものね」

 

「……」

 

 明日香の言葉に亮はゆっくりと頷くとほんの1秒の瞬間すら見逃さないように再びデュエルに集中していた。

 十代のターンになり発動されたマジックカード、バースト・リターンによりバーストレディの一喝を受けたHEROが十代の手札に戻っていく。

 

「悪いな。HEROの絆はそんな恋愛ごっこじゃ揺らがないのさ」

 

「むっ……!」

 

 融合により呼び出されたフレイム・ウイングマンの一撃で決着がつく。勝者は十代、レイは惜しくも負けてしまった。

 

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ」

 

 十代は人差し指と中指を一度自分の方に向けたあと、相手に勢いよく向けた。十代がデュエルの後に欠かさず行う、味わったデュエルの楽しさを体現するような行為である。

 デュエルが終わるのを見届けた亮を筆頭にみんな崖下に降りていく。

 

「十代。僕……」

 

「ちょっと待った! そっから先はずっと見てた後ろのやつに言うんだな」

 

「え……!?」

 

 レイは目を見開いて振り向くと亮の姿がそこにあった。レイの中で色々な想いが錯綜したが、慌てたように口を開いた。

 

「あ、あのっ! ごめんなさい。昼間、寮に忍び込んだのは僕なんです。十代はそれを庇って……」

 

 亮はその言葉を聞くと微笑を見せ、軽く頷いた。

 

「ああ、分かっている」

 

 気にしていない素振りを見せた亮に安心しながら、レイは深呼吸すると思い切って切り出した。

 

「……亮様がデュエルアカデミアに進学なさってから会いたくて会いたくて。やっと……ここまで来たの。十代とのデュエルには負けちゃったけど、亮様への想いは誰にも負けない! ……乙女の一途な想い、受け止めて!」

 

 顔を赤らめながら告白を成し遂げたレイは両手を広げ、全身で自らの想いを表現した。周りが彼女の想いを込めた告白に圧倒される中、亮はその想いを真摯に受け止め自分が出した結論を伝えようとした。

 

「レイ。お前の想いは嬉しいが、今はデュエルのことしか考えられない。それにお前は小学5年生……デュエルアカデミアに入る資格は持っていない」

 

「亮様……」

 

「だから……」

 

「……待って」

 

 亮の言葉に待ったが入る。その言葉を発したのは……ユキ。

 

「ユキもレイちゃんも……ここで過ごすための覚悟はしてきたつもり。それをあなたにデュエルで見てもらいたい」

 

「……それは俺にデュエルを申し込むということだな?」

 

 亮が振り返ると鋭い視線がユキに注がれた。

 

「ユキ……!?」

 

「レイちゃん。私達はデュエルアカデミアを受けると決めたあの時から今日この日までその覚悟を貫いてきた。今こそそれを証明する時」

 

「……分かった! 僕の想いもユキに託すよ」

 

 レイはユキの手を両手で包み込むように握ると目をつぶる。しばらくの間祈りを込めるかのように強く握ると、やがて目を開けて亮と向かい合うようにユキの後ろに移動した。

 

「む、無謀なんだな……あのカイザーにデュエルを申し込むなんて」

 

「いや、レイも小学5年生とは思えないくらい強かった。ユキがカイザーに勝つ可能性、俺はあると思うぜ」

 

「……そうね。この勝負どうなるのか、全くわからないわ」

 

 一陣の風が対峙する二人の頬を打つように吹くとデュエルディスクが展開されていき、準備が整った。

 

「「デュエル!」」

 

「ユキのターン、ドロー!」

 

(相手はあのカイザー亮さん。隙は一瞬でも見せちゃダメ。レイちゃんほど亮さんの戦術は知らないけど1枚だけ……あのサイバー・ドラゴンの効果は知っている。上級モンスターながら自分フィールドにモンスターが存在せず相手フィールドにモンスターがいると特殊召喚が可能、攻撃力は2100。だから……)

 

「勇気機関車ブレイブポッポを召喚!」

 

 汽笛が鳴り響くと緑色に塗装された機関車が煙突から煙を出しながらユキのフィールドに走ってきた。

 

勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400

 

「下級モンスターで攻撃力2400っすか!?」

 

「……勇気機関車ブレイブポッポは自身の攻撃宣言時、攻撃力をダメージステップが終わるまで元々の攻撃力の半分にするデメリットがある」

 

「……だが相手ターンではその高いステータスに制限はないということか」

 

「その通り。さらにユキは永続魔法、補給部隊を発動」

 

 前線を維持する機関車の後方にエネルギーの補充を目的とした基地が設置された。

 

「このカードが場にある時、 1ターンに1度自分フィールドのモンスターが破壊されればカードを1枚ドローする。さらに場にカードを2枚伏せて……ターンエンド」

 

(とりあえずこれで亮さんの出方を伺う……)

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『勇気機関車ブレイブポッポ』(攻撃表示)

 

セット2 『補給部隊』

 

手札2

 

「俺のターン、ドロー」

 

(彼女はこう言った。ユキとレイ……二人の覚悟をこのデュエルで示すと。だからこそ俺は手加減などしない。ユキを一人のデュエリストとして認識し、余すことなく持てる力の全てをぶつける!)

 

「このモンスターは相手フィールドにのみモンスターが存在する時、特殊召喚出来る!」

 

「……!」

 

「出でよ、サイバー・ドラゴン!」

 

 光の粒子が集まりドラゴンの形となると一瞬の閃光ののちに鋭く金属光沢を放つ機械龍となった。

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

(やっぱりカッコいい。……じゃなかった。やっぱりあのモンスターを呼び出してきた。でもブレイブポッポより攻撃力は低い……)

 

「さらに俺はサイバー・ドラゴン・コアを通常召喚!」

 

 サイバー・ドラゴンの中核をなすパーツが現れると赤いプラグを周囲に展開していった。

 

サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力400

 

「サイバー・ドラゴン・コアが召喚に成功した時、デッキからサイバーまたはサイバネティックと名のついたマジックかトラップを1枚手札に加えることが出来る。サイバー・リペア・プラントを手札に!」

 

 亮のデッキにプラグが注入されると1枚のカードが亮に差し出された。

 

「そして俺はマジックカード、機械複製術をサイバー・ドラゴン・コアを対象に発動!」

 

「……! 場の攻撃力500以下の機械族モンスター1体と同名モンスターをデッキから2体まで特殊召喚するカード。これでデッキからさらに2体のサイバー・ドラゴン・コアを……」

 

「それはどうかな?」

 

「えっ……」

 

 サイバー・ドラゴンが放つ光がサイバー・ドラゴン・コアを照らすと影が生み出される。するとその影はサイバー・ドラゴンそのものだった。

 

「サイバー・ドラゴン・コアはフィールド及び墓地に存在する限りサイバー・ドラゴンとして扱われる!」

 

「……まさか」

 

「デッキに眠る2体のサイバー・ドラゴンよ。今こそ目覚めろ!」

 

 影を光の粒子が取り囲むと複製された2体の機械龍が亮のフィールドを狭いように見せるほど身体を螺旋状にひねりながら縦横無尽に飛び交った。

 

サイバー・ドラゴン×2 攻撃力2100

 

「う……」

 

 眠りから目を覚ましたドラゴンの咆哮が響くとそれに連鎖するように咆哮を上げるサイバー・ドラゴン達にユキは威圧感を覚えた。

 

「いきなり攻撃力2100のサイバー・ドラゴンを3体も……カイザーは本気だ。本気でユキに立ち塞がるつもりなんだ……」

 

「亮……そうね。手加減なんて失礼だもの」

 

「だ、大丈夫だよ。いくら数が多くてもユキの場には攻撃力2400のブレイブポッポがいる!」

 

「いや、お兄さんもそれは十分に分かっているっす。きっとブレイブポッポを超える手は……既に持っているはずっす」

 

「俺はさらに速攻魔法、フォトン・ジェネレーター・ユニットを発動! このカードを発動するには2体のサイバー・ドラゴンを生け贄とする必要がある。サイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴンを生け贄に、デッキよりサイバー・レーザー・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 サイバー・ドラゴン・コアがサイバー・ドラゴンに取り込まれていくとサイバー・ドラゴンの姿が変形していく。しっぽがまるで金属で出来た花のように開花すると、そこからレーザーの発射口が姿を見せた。

 

サイバー・レーザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

「相打ち……狙い?」

 

「悪いがその予定はない。サイバー・レーザー・ドラゴンの効果発動! 1ターンに1度、自身の攻撃力以上の攻撃力または守備力を持つモンスター1体を破壊出来る」

 

「……しまった」

 

「俺は攻撃力2400の勇気機関車ブレイブポッポを選択。放て破壊光線、フォトン・エクスターミネーション!」

 

 サイバー・レーザー・ドラゴンは身体をひねるとしっぽに設置された発射口の標準を定め終わる。エネルギーが充填されていくと目にも留まらぬ光線が機関車を撃ち抜いた。

 

「そんな……!」

 

(完全にユキの想定の上をいかれた……! フィールドがガラ空きになったから総攻撃が来る。伏せカードで何とかダメージを抑えることは出来るけど、大ダメージを避けることが出来ない……)

 

 圧倒的な威圧感を放つ機械龍から目を離せないでいたユキの耳に基地から一筋の光が発射される音が聞こえてきた。

 

(……! そうだ、補給部隊。……今、ユキは焦っていた。正確には……亮さんの気迫に押されて焦らされていたんだ。でも焦ったって……いいことなんて一つもない)

 

 ユキは息を大きく吸い込むとゆっくりと吐き出した。そして改めて目をフィールドに向けなおした。

 

(……先ほどまで一点に集中を持っていかれていたが、今はフィールド全体を見渡すようになったな)

 

 基地から放たれた光がユキのデッキに吸収されていくとデッキの1番上のカードが輝いた。

 

「補給部隊の効果でカードを1枚ドローする。ドロー! ……!」

 

「バトルだ! サイバー・レーザー・ドラゴンでユキにダイレクトアタック! エヴォリューション・レーザーショット!」

 

 サイバー・レーザー・ドラゴンが次なる標的に標準を定めると人間が目視することは不可能なほどの速さのレーザーを放った。

 

「……何!?」

 

 だがそのレーザーをユキの前に立ち塞がった何かが受け止めていた。

 

「……手札から速攻のかかしを墓地に捨ててモンスター効果を発動していた。相手モンスターが直接攻撃を宣言した時、その攻撃を無効にしてバトルフェイズを強制的に終了させる」

 

 その正体は金属片を組み合わせて作られたかかし。レーザーを防ぎきり役目を終えたのかバラバラに崩れてしまった。

 

「防いだか……場にカードを1枚伏せてターンを終了する」

 

(……助かった。今、速攻のかかしを引かなかったらほとんどのライフは持っていかれていた……)

 

亮 LP4000

 

フィールド 『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)×2 『サイバー・レーザー・ドラゴン』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札2

 

「すげえぜユキ! あの攻撃を凌ぎ切りやがった!」

 

「……でもまだピンチに変わりはないんだな」

 

「亮のサイバー・ドラゴンモンスター達の攻撃力は全員2000を超えている。高守備力を持つモンスターもサイバー・レーザー・ドラゴンにより破壊されてしまう……」

 

「……大丈夫だよ! ユキなら……!」

 

「ユキのターン、ドロー。……ここでトラップカードを発動させる」

 

「このタイミングでトラップだと……?」

 

「発動させるのは逆さ眼鏡。フィールドに存在する全ての表側表示モンスターの攻撃力はエンドフェイズまで……半減」

 

 空間が歪んでいくとやがて機械龍のパーツがあべこべになり、能力がうまく発揮できなくなってしまった。

 

サイバー・ドラゴン×2 攻撃力2100→1050

サイバー・レーザー・ドラゴン 攻撃力2400→1200

 

「でも……ここから新たに呼び出されるモンスターはその影響を受けることはない?」

 

「……そういうことか」

 

「ユキは神機王ウルを召喚する!」

 

 赤い装甲を纏った人型のロボットがフィールドで回転しだすとやがてその回転が弱まっていく。足に当たる部分が駒の底のように一点を指し、立っていた地面には摩擦により焦げ跡が残っていた。

 

神機王ウル 攻撃力1600

 

「バトル。神機王ウルでサイバー・レーザー・ドラゴンに攻撃……!」

 

 神機王ウルは再び回転を始めたが先ほどと違い腕に当たるパーツを真横に伸ばす。金属により作られた爪が高速回転により刃物のごとき切れ味を出すようになっていた。

 

「そう簡単にやらせはしない! カウンタートラップ、攻撃の無力化! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる」

 

 機械龍を守るように発生した渦が神機王ウルが通るルートに出現した。

 

「そんな! ユキが発動した逆さ眼鏡はこのターンが終われば効果が切れちゃうのに……!」

 

「……生憎(あいにく)とトラップの警戒は……怠っていなかった? カウンタートラップ、トラップ・ジャマーを発動。バトルフェイズ中に発動されたトラップの発動を無効にして破壊する」

 

「……!」

 

 渦にヒビが入ると砕け散るようになくなり、無事に神機王ウルはその地点を通過する。サイバー・レーザー・ドラゴンはレーザーの標準を合わせようとするがパーツが噛み合わず、レーザーを発射することは叶わなかった。高速の刃がパーツを分断すると次第に消滅していく。

 

亮 LP4000→4000

 

「あれ? モンスターが破壊されたのに戦闘ダメージが入ってないっすよ」

 

「神機王ウルが相手に与える戦闘ダメージは0になる。……だけどその代わりに」

 

 回転はおさまらず、そのまま2体の機械龍に向かっていった。

 

「相手モンスター全てに1回ずつ攻撃出来る。2体のサイバー・ドラゴンに連続攻撃……!」

 

「何だと……!?」

 

 機械龍は空中に飛び立つことで回避を試みるがあべこべになったパーツが邪魔をしてどちらも刃をまともに受けてしまった。

 

亮 LP4000→4000

 

「くっ……ダメージがないとはいえ全滅か」

 

「ユキ凄い! その調子で頑張って!」

 

 背後からの応援にユキは頷くと手札を改めて確認した。

 

(やった……亮さんの場のモンスターを全滅させることが出来た。このまま防御カードを伏せて一気に流れを持っていきたいところ……だけど。残念ながら防御カードは不在……でもやれることはやっておこう)

 

「カードを1枚伏せてターン終了」

 

ユキ LP4000

 

フィールド 『神機王ウル』(攻撃表示)

 

セット1 『補給部隊』

 

手札1

 

(……俺は最初ユキを一人のデュエリストとして認識した。だがそれはどこか彼女が女性であったり、小学5年生であることを意識しないようにしていたのかもしれない。そうじゃないんだ……このデュエルはユキとレイの覚悟を示すデュエル。無理のある年齢でのアカデミア高等部への編入、それは彼女達に苦難や逆境をもたらすだろう。だかこの3ターン、猛攻を凌いで防御策を超えて俺の場を全滅させてみせたのはその逆境にも立ち向ってみせるという意思表示なんだ)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

(それを踏まえて、意識しないようにするのではなく俺の脳にしっかりと刻み込んだ上で……その上で全力をぶつける! それが俺の……リスペクトデュエルだ!)

 

「マジックカード、サイバー・リペア・プラント! このカードには2つの効果があり、墓地にサイバー・ドラゴンが1体以上いればその内一つを選択する。だが3体以上ある場合には両方の効果を選択することが出来る!」

 

「亮さんの墓地には全部で4体……!」

 

「よって両方の効果を発動させる。まずは第1の効果! デッキから機械族・光属性のモンスター1体を手札に加える。俺はサイバー・ドラゴン・ドライを手札に!」

 

 亮の背後に修理工場が現れるとサイバー・ドラゴンの部品を集めて小型の機械龍が作られていった。

 

「そして第2の効果により墓地の機械族・光属性モンスター1体をデッキに戻す。この効果でサイバー・ドラゴンをデッキに戻す!」

 

 修理工場が残された部品を全て使い、サイバー・ドラゴンの修理を終えると工場は消滅していった。

 

「これでサイバー・ドラゴンがデッキに戻った。でも墓地に2体、デッキに1体。デュエルモンスターズにおけるデッキ内の最大投入枚数も3枚。このターン本体のサイバー・ドラゴンは呼び出せないはず……」

 

「残念だが……そうはいかない。墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外して効果を発動する!」

 

「……! 墓地のモンスター効果……!?」

 

 墓地から伸びたプラグが亮のデッキにある1枚のカードを選び取るとフィールドに引っ張り出されていく。

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、墓地に存在するこのカードを除外することによりデッキからサイバー・ドラゴンモンスターを特殊召喚する事が出来る。再び顕現せよ、サイバー・ドラゴン!」

 

 修理されパーツも正常に組み直された機械龍が再び姿を現した。

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

「なんという立て直しの早さ……」

 

(……だが、再び全滅するようなことがあればさすがに立て直しに時間がかかる。あの伏せカードがもしミラーフォースのようなカードだとすれば……迂闊に追撃のモンスターを呼び出すわけにはいかないか。ここは……)

 

「バトルだ! サイバー・ドラゴンで神機王ウルに攻撃! エヴォリューション・バースト!」

 

「……!」

 

 サイバー・ドラゴンの口の周りにエネルギーが集まっていくとエネルギーがブレスとして放たれ、高速回転しながら逃げる神機王ウルを包むように当たる。フィールドを爆風が包むと、止むころには神機王ウルの姿は完全に消えていた。

 

ユキ LP4000→3500

 

「うっ……補給部隊の効果でカードをドローする」

 

(伏せカードの発動はなしか……攻撃に反応するカードではないのか?)

 

「俺はメインフェイズ2に入り、サイバー・ドラゴン・ドライを通常召喚する!」

 

 パーツが縦に繋がっているサイバー・ドラゴンに対し横に繋がるような機械龍が現れると、パーツの接合部が黄色に淡く光った。

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800

 

「……」

 

(……召喚に反応するものでもないか)

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

亮 LP4000

 

フィールド 『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示) 『サイバー・ドラゴン・ドライ』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札1

 

 ユキはこのデュエルが始まってから妙な高揚感が自分を包んでいることを感じ取っていた。

 

(何だろう……心臓のドキドキが全身に伝わるくらい暴れてる。亮さんのデュエルを実際に目の当たりにして緊張してるのかな? そんな感じはしないけど……でもこのまま偽りの姿でいてはいけない気がする)

 

 ユキが帽子と髪留めを外すと雪のように白く長い髪が風でなびく。夜の暗い海を背景に揺れる髪はより一層際立っていた。

 

「うわあ……まだ幼いけど美人さんなんだな」

 

「この格好で……あなたに挑む。ユキのターン、ドロー……!」

 

「……俺はこのタイミングでトラップを発動させる! 永続トラップ、ディメンション・ゲート! サイバー・ドラゴン・ドライをゲームから除外する!」

 

「え……?」

 

 異次元に繋がる穴が開かれるとサイバー・ドラゴン・ドライは飛び立ち、そこを通り抜けていく。すると異次元に通じるゲートは閉じてしまった。

 

「そして除外されたサイバー・ドラゴン・ドライの効果を場のサイバー・ドラゴンを対象に発動する!」

 

「今度は除外ゾーンからモンスター効果……!?」

 

「この効果によりこのターン、俺の場のサイバー・ドラゴンは戦闘及び効果では破壊されない!」

 

「……! 破壊耐性の付与……」

 

 サイバー・ドラゴンがサイバー・ドラゴン・ドライが残した粒子によりプロテクトされ、破壊から守られるようになった。

 

(本当に……隙がない。ユキの手を予測して先手を打ってきた)

 

「800のライフを払いマジックカード、魔の試着部屋を発動。デッキの上から4枚めくり、その中にいるレベル3以下の通常モンスターを特殊召喚する」

 

ユキ LP3500→2700

 

 ユキの部屋に赤いカーテンで仕切られた4つの試着部屋が現れると順番に開いていった。

 

「上から魔装機関車 デゴイチ、レアメタル・ソルジャー、マシン・デベロッパー、レアメタル・レディ。該当モンスターは2体!」

 

 条件に満たなかった魔装機関車デゴイチは試着部屋ごとロケットで飛ばされ、マシン・デベロッパーは試着部屋ごと落とし穴に落ちてしまった。残った二部屋から希少な金属であるレアメタルで作られた装備を全身に身につけた男女の機械戦士が参上した。

 

レアメタル・ソルジャー 攻撃力900

レアメタル・レディ 攻撃力450

 

「……よし。マジックカード、融合を発動……!」

 

「融合召喚か……!」

 

 赤い装備をつけたレアメタル・レディが渦によりレアメタル・ソルジャーに取り込まれるように融合されていく。

 

「レアメタル・ソルジャーとレアメタル・レディで融合。来て……レアメタル・ナイト!」

 

 レアメタル・ソルジャーの装備がより強化される。素手であった彼が握ったのは赤い中央にある持ち手と左右を剣身とする武器だった。

 

レアメタル・ナイト 攻撃力1200

 

「えっ、折角の融合なのに攻撃力1200っすか!?」

 

「このモンスターの力……侮るなかれ? 伏せていた装備魔法、フュージョン・ウェポンをレアメタル・ナイトに装備する!」

 

「……! ブラフだったか……」

 

 レアメタル・ナイトが持つ武器がさらに強化されると剣身が4つに増えていった。

 

「フュージョン・ウェポンはレベル6以下の融合モンスターに装備可能。その効果で攻守を1500上昇させる……!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力1200→2700 守備力500→2000

 

「バトル! レアメタル・ナイトでサイバー・ドラゴンに攻撃」

 

 サイバー・ドラゴンが放つエネルギーのブレスを剣を回転させ盾のようにして防ぎながら近づいていく。

 

「だがサイバー・ドラゴンはこのターン破壊されない!」

 

「でもダメージは受けてもらう……さらにレアメタル・ナイトの特殊効果発動。モンスターとバトルを行うダメージステップの間、攻撃力が1000上昇する!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力2700→3700

 

「攻撃力3700……!」

 

 エネルギーの発射口を塞がれブレスが途切れると、レアメタル・ナイトはその隙を見逃さず自身の身体を一回転させて勢いよく斬りかかった。プロテクトされたサイバー・ドラゴンが破壊されることは無かったがその衝撃が亮を襲った。

 

亮 LP4000→2400

 

「ぐっ、やるな……!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力3700→2700

 

「カードを1枚伏せて……ターンを終了する」

 

「この瞬間、サイバー・ドラゴン・ドライの効果は切れる」

 

(ダメージを与えたのはいいけど、先手を打たれてサイバー・ドラゴンを破壊することは出来なかった。恐らく次のターン……ユキの読みが正しければレアメタル・ナイトの攻撃力を超えて亮さんは攻撃を仕掛けてくるはず……!)

 

ユキ LP2700

 

フィールド 『レアメタル・ナイト』(攻撃表示)

 

セット1 『補給部隊』 『フュージョン・ウェポン』

 

手札0

 

「俺のターン! マジックカード、マジック・プランターを発動する。場の永続トラップ、ディメンション・ゲートを墓地に送ることでカードを2枚ドローする。ドロー。……!」

 

 ディメンション・ゲートが墓地へ送られると再び異次元から繋がるゲートが出現した。

 

「ディメンション・ゲートが墓地に送られた場合、このカードにより除外されたモンスターを帰還させることが出来る! 戻ってこい! サイバー・ドラゴン・ドライ!」

 

 異次元に避難していたサイバー・ドラゴン・ドライは螺旋状に身体を回転させながらゲートを潜り抜け、帰還を果たした。

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800

 

「そしてプロト・サイバー・ドラゴンを召喚!」

 

 試験段階の仮組みで作られた小型のサイバー・ドラゴンがフィールドに現れた。

 

プロト・サイバー・ドラゴン 攻撃力1100

 

「プロト・サイバー・ドラゴン及びサイバー・ドラゴン・ドライはフィールド場で表側表示で存在する限り、サイバー・ドラゴンとして扱われる!」

 

「……! 3体のサイバー・ドラゴン……」

 

 影が亮の背後にある崖に映し出されると影のサイバー・ドラゴンの目が光り、鋭い眼光がユキを見据えて離さなかった。

 亮は3体のサイバー・ドラゴンを呼び出すと目線を少しの間だけ対戦相手であるユキから弟の翔に移した。

 

(……お兄さん?)

 

(翔、お前は昔と違いこのカードを引いても(おご)ることはなくなった。ならば次はどれだけこのカードの真価を引き出せるかだ。俺のデュエルがお前にとって何かヒントになればいい……)

 

「ゆくぞ! 俺はマジックカード、パワー・ボンドを発動する!」

 

「……!」

 

「パワー・ボンド……! 機械族融合モンスター専用の融合魔法カード。カイザーの切り札だ!」

 

「お兄さん……!」

 

「俺はこのカードで場の3体のサイバー・ドラゴンを1つに束ねる!」

 

 3体の機械龍が1つに交わると火花を散らせ、結合された3つ首の機械龍が出現した。

 

「現れよ! サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000

 

「ついに来たわね。亮のエースモンスターが……」

 

「サイバー・エンド・ドラゴン……3体のサイバー・ドラゴンの力を合わせたモンスター。凄い力……」

 

「まだだ! パワー・ボンドにより呼び出された融合モンスターの攻撃力は元々の攻撃力分上昇する! ただし俺はエンドフェイズにその数値分のダメージを負うリスクを背負うがな」

 

「えっ……!? つまり……倍?」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの胴体が天にも届くかというほど伸びていき、遥か上からユキを見下ろした。

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000→8000

 

「こ、攻撃力8000……?」

 

 そのあまりの迫力にユキは一歩後ろに下がりそうになる。だが後ろにいたレイが背中を支えた。

 

「さすが亮様。攻撃力8000のモンスターなんて……でも、諦めちゃダメだよユキ。僕は今でもユキが勝つって信じてるから……!」

 

「……ありがとう。ユキは最後まで引かない……!」

 

 眼前にそびえ立つ巨大な機械龍を前にその足を一歩踏み出した。

 

「……いい覚悟だ。だがこのバトルで決着をつける。サイバー・エンド・ドラゴンでレアメタル・ナイトに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

 それぞれの機械龍の首からエネルギーの光線が放たれると3つの光線が1つに交わり、レアメタル・ナイトを襲った。

 

(正直攻撃力8000は予想外もいいところ……でも。ただ一つ、レアメタル・ナイトに攻撃してくるという読みだけは当たっていた……!)

 

「この瞬間速攻魔法発動! 決闘融合—バトル・フュージョン! 自分の融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動可能。その効果でダメージステップ終了時まで戦闘を行う相手モンスターの攻撃力を自分のモンスターの攻撃力に加える!」

 

「……!」

 

 レアメタル・ナイトの持つ剣に光線が直撃するとそのエネルギーを吸収するかのように巨大化していく。続けて放たれる光線にレアメタル・ナイトは勢いよく飛び立つと光線を中央で分断するように切り裂き、サイバー・エンド・ドラゴンに向かっていった。

 

レアメタル・ナイト 攻撃力2700→10700

 

「ここでカウンターを仕掛けるカードですって……!?」

 

「凄いんだな……」

 

「これは……!」

 

「お兄さん!?」

 

 天高くから放たれる光線を切り裂きながら近づいていくレアメタル・ナイトの剣に更なる変化が訪れた。

 

「ダメージステップに入ったことでレアメタル・ナイトの効果が発動。さらに攻撃力は1000上がる……!」

 

レアメタル・ナイト 攻撃力10700→11700

 

 さらに巨大化し切れ味を増した剣が光線を切り開きついにサイバー・エンド・ドラゴンのすぐ近くまで来る。——本当にあと少しというところまで。

 

「……! レアメタル・ナイトの勢いが……」

 

 光線の中を勢いよく突き進んでいたレアメタル・ナイトだったがその勢いが徐々に弱まっていた。

 

「ユキ。お前のデュエルは見事だった。だが……速攻魔法、リミッター解除。自分フィールドの機械族モンスターの攻撃力をさらに倍にする……!」

 

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力8000→16000

 

「……そんな」

 

 今までとは比べ物にならないほど光線の威力が増していくと至近距離まで近づいたレアメタル・ナイトを剣ごと無情にも跳ね返し、その身体を光線で包み込む。レアメタルの装備もこれほどの威力の光線の前には無力だった。

 

ユキ LP2700→0

 

 こうして……デュエルは決着を迎えた。ソリッドヴィジョンが消えていくと、夜も更けてさらに暗くなった沿岸の風景が戻ってくる。

 

「…………」

 

 ユキはディスクを閉じることも出来ず力が抜けたようにへたり込む。その目には決意を証明出来なかったという悔しさの表れか、涙が浮かんでいた。

 

「ユキ、そしてレイ。俺の話を聞いてくれ」

 

「亮様……うん」

 

「……はい」

 

 レイがユキを支えるように優しく持ち上げると、ユキは服の袖で涙を拭ってディスクをしまいレイと共に亮の目を見た。

 

「このデュエルはユキとレイ、二人の覚悟を示すものだった。しかしデュエルにユキは負けた」

 

「カイザー……」

 

 十代がカイザーの言葉を止めるように手を伸ばすと、十代の肩に明日香の手が置かれた。

 

「これは亮と二人の問題。私達が口出しは出来ないわ……」

 

 十代は参ったように頭をかくと忠告通り3人の間に入ろうとするのをやめた。

 

「互いに全力を出し尽くし決着がつけば、そこには必ず勝者と敗者が生まれる。だがそれは……敗者が抱いていた決意が否定されたということではない」

 

「え……」

 

 亮は二人の元に歩み寄ると手を差し出した。

 

「戦ったからこそ俺には伝わった。お前達がどれだけの苦難を乗り越えてきたか、そしてこれから苦境に立たされても諦めず立ち向かう覚悟だと」

 

 亮はレイと、そしてユキと握手すると表情を和らげて優しげな声色で言った。

 

「それだけの覚悟を持っているならば俺は止めることはしない。——ようこそ、デュエルアカデミアへ」

 

「亮様……ほ、本当にいいの!?」

 

 ユキは驚きでこれ以上ないほど目を見開き、レイは困惑しながらも感極まるように感情を抑えきれずにいた。

 

「ちょ、ちょっといいかしら? いくら亮でもさすがに入学を認めさせる権限は……」

 

「ああ、分かっている。だからこのデュエル……あの人にも見てもらっていた」

 

 亮が見上げると崖の上に鮫島校長の姿があった。

 

「こ、校長先生!?」

 

「いつの間にいたんだな……?」

 

「ほほ、実はずっといたんですよ。昼間に亮から相談を受けましてね」

 

 翔と隼人の疑問に答えながら鮫島校長も崖下に降りてきた。

 

「十代君と早乙女君、そして亮と神凪君。それぞれのデュエルを見せてもらいました」

 

「それならみんなと一緒に見れば良かったのに」

 

「皆さんの自然体のデュエルが見たかったんですよ。私がいると変に緊張してしまうかもしれませんからね。それに若い人達のあれこれに私が割って入るというのも無粋なものでしょう」

 

 十代の疑問に答えながら亮とユキ達の元に校長が辿り着く。

 

「亮、一段といいデュエルをするようになりましたね。そして二人もいいデュエルでした」

 

「校長。それでは……」

 

「はい。彼女達の入学を認めます」

 

「……やったよ、ユキ!」

 

「嬉しい……」

 

 ユキとレイは軽く抱き合い、ついに正式に入学を認められたことを心より喜んだ。

 

「さすがカイザー! そうこなくっちゃな! 二人ともこれからよろしくな!」

 

「よろしくなんだなあ」

 

「なんだか妹が出来たみたいっすね。何はともあれよろしくっす」

 

「二人ともこれからよろしくね」

 

 二人を祝うようにみんなが駆けつけると入学を歓迎した。

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくね!」

 

 夜も更けてきていたがしばらくはみんなの興奮も冷めやらず、校長もにこやかにその様子を眺めていた。だが隣に亮が来ると小声で相談を始めた。

 

「……いいんですか、彼女達にセブンスターズのことを伝えなくても」

 

「はい。彼女達は入学出来て、心にあった重荷をやっと下ろせたと思うんです。そんな彼女達に余計な負担をかけたくはない」

 

「……ですがあなたが電話で心配していたようにセブンスターズの脅威があるいは幼いあの子達に襲いかかる。そういう危険性は否めません」

 

「もし鍵を持っていない彼女達に危害を及ぼそうというのならば。……俺が全力で彼女達を守ります」

 

 セブンスターズ。三幻魔復活に必要な7つの鍵を集めんとする集団。その危険があったからこそ、ユキ達が入学することに亮は不安があった。だが全力で守るとはっきり言い切った頼もしい教え子の姿を見て鮫島校長は嬉しく思っていた。

 やがて興奮は冷めていき、皆も落ち着いてくる。夜も遅いためそろそろ解散しようという時、ユキの心臓はまだ体中に響くように動いていた。

 

(なんでまだこんなにドキドキするんだろう)

 

 ユキは目を閉じて冷静に今まであったことを思い返した。そして……その理由に思い立った。

 

(……ああ。なんで今まで気づかなかったんだろう。答えはすぐ目の前にあった……)

 

 校長が帰り、壁際で一人佇んで様子を見守っていた亮の元にユキは駆けていった。

 

「どうした?」

 

 急に走り出したユキに亮を含め周りのみんなが驚いていた。

 

「……あなたはこう言った。デュエルは人となりやその人のあり方を示す、と」

 

「ああ」

 

「私はあなたとデュエルして……その人となりを知ることになった。あなたはこの場にいる誰よりもユキ達の事情を知りながら、その上で全力で向かってきてくれた」

 

 ユキの透き通った肌は暗い夜でもはっきりと分かるほど赤くなっていた。

 

「そんなあなたのデュエルに触れて……あなたのことが好きになりました」

 

「……えっ」

 

 亮の右手をユキの小さな二つの手が包み込む。そして亮を見上げると幸せそうな笑顔がこぼれた。

 

「ま、待って! 亮様への想いは誰にも負けないんだから!」

 

 レイは慌てて駆け寄ると左手を包み込むように握った。

 

「あら……亮、両手に花ね」

 

「よっ! 色男!」

 

「むぅ……」

 

 亮は先ほどまでの毅然とした態度から一変して、年相応にどうすべきか頭を悩ませていた。

 

「でも二人ともちょっと気が早いんじゃないかしら。まだ亮はあなた達のことをまだ詳しくは知らないんだから」

 

 助け舟を出した明日香、しかしそれは恋する乙女達の導火線に火をつける結果となった。

 

「むっ、もしかしてあなた亮様の彼女!?」

 

「えっ!? ち、違うわよ……」

 

「怪しい……ユキ達の正体も早い段階で知っていた。きっと亮さんから相談を受けていた……」

 

「確かに相談は受けたけど、それとこれとは……」

 

 飛び火を食らった明日香は困ったように亮に目線を送り、逆に助けを求めた。

 

「落ち着いてくれ二人とも。明日香が言った通り俺はまだお前達のことを詳しくは知らない。どんな答えを出すにしてもまずお前達のことをよく知ってから……ということじゃダメだろうか」

 

「つまり……まずはお友達から?」

 

「……確かに、ちょっと焦りすぎだったかな。僕達の学園生活は始まったばかり。すぐに答えを出してっていうのは亮様の気持ちを考えてなかったかも……」

 

(あいつが言った通り押し付けるだけじゃ恋愛ごっこなのかもしれない……)

 

 レイの脳裏に十代とのデュエルがよぎる。実際の恋愛は恋する乙女が効果でモンスターを虜にするようにはいかないのだと教えられたような気がしていた。

 

「そうだね……ごめんなさい。亮さんはユキ達の気持ちをデュエルで汲み取ってくれたのに……」

 

「いや、二人が納得してくれるのならばそれでいいさ」

 

 反省して落ち込むユキ達に亮は苦笑いを浮かべると自分の腰あたりまでの身長しかない二人の頭に手を置き、励ました。

 

「ここには色んなデュエリストがいる。これから皆と切磋琢磨し腕を磨いて、俺にまたお前達の進化したデュエルを見せてくれ」

 

「はい!」

 

「うん……!」

 

 俯いていた顔を上げると亮の期待に応えるように二人は元気よく返事をした。

 

 夜もかなり更けてきたため今日は解散することになったが、そのままレッド寮に戻ろうとする二人を明日香が慌てて呼び止める。

 

「ちょ、ちょっとあなた達どこに行くつもり?」

 

「……? 昨日みたいにレッド寮の十代さん達の部屋で寝泊まり?」

 

「だ、ダメに決まってるでしょ!? あなた達は女の子なんだから……」

 

「……確かに昨日は危うく着替えのシーンを目撃するところだった」

 

「あはは……あれはびっくりしたね」

 

(もっと大きな問題があるんだけどね……。この辺はまだまだ小学生か)

 

 明日香は少し呆れたように笑うと十代達と別れ、二人をオベリスクブルーの女子寮に連れてきた。

 

「アカデミアに入る女の子はみんなブルーの女子寮に泊まることになっているのよ」

 

「ん……いいところ」

 

 女子寮の近くには湖もあり、周辺に植えられた木々も相まって空気も澄んでいた。

 寮に入ると皆が寝静まり足音だけが響く廊下を歩きながら、明日香は記憶をたどって空き部屋に二人を連れて来た。

 

「ここが空いてるわね。編入生が二人も来るのは珍しいから一部屋しか空いてないけど、十分に広いから明日もう一つベッドを持ってくれば二人で問題なく過ごせるはずよ。ただ今日はもう遅いから勘弁してね?」

 

「それは……大丈夫。ありがとうございます」

 

「ありがとうございます。僕達のために色々と……」

 

「いいのよ。同級生ってことになるけど、私にとっては可愛い後輩だもの。じゃあ、また明日ね」

 

 そう言うと明日香は自分の部屋に戻っていく。それを見届けた二人は部屋の中に入った。

 

「……本当だ。レッド寮に比べて部屋が広いね」

 

「施設も……整っているみたい? こっちにはシャワールームもあるし……」

 

「この部屋に来る時にちらっと見かけたんだけど銭湯みたいなのもあったし、ブルー寮って凄いんだね」

 

 疲れや男装からの解放感からか二人とも急に眠気が押し寄せてくる。シャワーを浴び、寝支度をすませると同じベッドに潜った。

 

「広いベッド……二人で寝てもスペースが余ってるよ」

 

「凄い豪華でホテルに泊まってるみたい。……でもレッド寮と違いすぎて罪悪感がある」

 

「うん……あっちも露天風呂とかはあるみたいだけど。ここと同じくらい部屋を広くすればいいのにね」

 

 次第に眠気が深まりうつらうつらとしてくる二人。そんな中、レイは今日あったことを思い出していた。

 

(今日は色んなことがあったなあ。あいつに男の子のフリしてるのバレた時はどうなることかと思ったよ)

 

 帽子掛けに掛けられた帽子を見ながら亮の部屋に入った自分を止めにきた十代のことを思い返していた。

 

(でもあいつ誰にも正体言わなかったな。それに今よく考えてみたらレッド寮で作業してる時、何も言わなかっただけじゃなく力仕事をさせないように動いてた気がするな。そして……)

 

 机の上に置かれたデュエルディスクに目を向けると十代とのデュエルが鮮明に浮かび上がった。

 

(あいつとのデュエル楽しかったな。……えっ!)

 

 自身が思い返していた内容に気がつくと、一気に眠気が吹き飛んでいった。

 

(な、なんで僕あいつのことばっかり!? 僕が好きなのは亮様で……)

 

 レイは赤くなっていく頰を抑えるようにしながら、思い出した内容を消すように顔を必死に横に振っていた。

 

「レイちゃん?」

 

 一緒にベッドに入っていたユキはレイの妙な行動に当然気が付いた。

 

「……あっ、ごめんねユキ。起こしちゃった?」

 

「大丈夫。まだ寝てない。そろそろ限界だけど……」

 

 レイはユキの方に振り返り、眠るのを邪魔してしまったことに申し訳なさそうな顔をする。するとレイはユキも亮のことが好きだということを思い出し、ある一つの案が頭をよぎった。

 

「……ねえ、ユキ。ユキも亮様のことが好きなんだよね」

 

「……うん」

 

「そう……だよね。あのね、僕さ……十代のことが気になってきちゃったみたいなんだ」

 

「…………うん」

 

「だから……さ。もし僕が亮様のこと諦めたらユキと取り合いしなくて済むのかな……なんて」

 

 声を無理やり押し出すようにレイは告白する。ユキは眠気を抑えながらその意味をしっかりと考えると……レイを優しく包み込むように抱きしめた。

 

「……ダメだよ」

 

「えっ」

 

「ユキは確かに亮さんのことが好き……でもね。レイちゃんのことも好きなの。だからレイちゃんにユキのせいで自分に嘘をついてほしくない……」

 

「……!」

 

 ユキの抱きしめる手から震えが伝わってくる。それは色々なことがあって疲れ、混乱していたレイの頭を落ち着かせるには十分だった。

 

「……ごめん、ごめんね。もう僕考えなしにこんなことは言わないから……! ちゃんと自分に向き合って偽りのない気持ちを探してみるよ」

 

「……うん」

 

 その言葉を聞くとユキの震えが収まる。限界が来たのか、あるいは安心したのか。そのまま静かな寝息を立てて寝てしまった。

 

「……ありがとう。ユキ」

 

 胸のつかえが取れたように安心するとレイにも吹き飛んだ眠気が戻って来たのでそのまま寝ようとした。したのだが……

 

(……あれ?)

 

 ユキを起こさないように離れようとしたレイだったが抱きしめられた腕が緩んでないことに気がついた。ユキは華奢な腕をしていたがデュエリストとして最低限の筋力はつけていた。起こさないように力を入れる程度では離れられなかったのである。

 

「……ユ、ユキー?」

 

「すー……すー……」

 

「…………」

 

(……ね、寝れない……!)

 

 ユキの腕による拘束が緩み、レイが寝れるようになるまでもう少し時間がかかるのだった。




前回の後書きで言った時系列の補足ですが、本来レイがデュエルアカデミアに来るのは20話でありノース校から万丈目サンダーも戻ってきておらず、セブンスターズとの戦いも始まっていません。
今回ユキ達が来たのはストーリーでいうと学園祭(42話)の前あたりで、セブンスターズ戦も佳境に入ろうかというところです。なのでクロノス先生はイヤミな部分が抜けており、またボーイ(本来登場するのは43話、今回のストーリーではギャンブルに負けていたのでアカデミアにいく経緯が少し変わった)と船でばったり会うなどが起きました。
理由としては本ストーリーの1話でユキがレイと比べて勉強を始めるのが遅れたことや、一人より二人の方が試験を受ける決断をするタイミングは遅れるだろうなということが挙げられます。
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