佇む少女は機械仕掛け   作:ロボッピ

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恋のおまじない

「ふっふっふ……ついにこの時が来た」

 

 黒い制服を纏った生徒、万丈目準は上機嫌に鼻歌を歌いながら学園祭用に設置されたモンスターのコスプレ衣装が揃っている着替え部屋にたどり着いた。

 

「万丈目のアニキー。もしかしてオイラのコスプレを——」

 

「するかっ!」

 

 万丈目は精霊であるおジャマ・イエローの言葉を遮った上に一蹴するとドアを勢いよく開き、目的のモンスターの衣装がある場所へと向かっていった。そのモンスターの名は……XYZ—ドラゴン・キャノン。彼の持つ切り札の1枚だった。

 

「このダイナミックなコスプレ……きっと天上院君も褒めてくれるに違いない」

 

 万丈目の顔がこれ以上なくにやけた瞬間、突然前触れもなくXYZ—ドラゴン・キャノンが揺れた。

 

「うわっ……な、なんだ!?」

 

 部屋に入った時に誰の姿も見えないことを確認していた万丈目は不可解な現象に驚いた。

 

「あ、アニキ。もしかして幽霊ってやつなんじゃ……」

 

「馬鹿を言え! こんな日が昇ってる時間から出る幽霊がどこにいる! きっと地震か何か……」

 

「……タス……ケテ……」

 

「うわあああ!? なんだこの声は!」

 

 万丈目は慌てて辺りを見回す。しかし目に入るのはコスプレの道具ばかりで人の姿はやはり見当たらなかった。

 

「助けてー……」

 

「……ん? もしかしてこの声、こいつの中から……」

 

 声の主の所在に気がついた万丈目はXYZ—ドラゴン・キャノンをゆっくりと真上に持ち上げた。するとそこから姿を現したのは汗だくになったユキだった。

 

「助かった……ありがとうございます」

 

 万丈目が呆気にとられる中、ユキは肌にくっつくように汗でびしょ濡れになった髪をゴムで後ろにまとめていた。

 

「だ、誰だ貴様! こんなところで何をしていた!?」

 

「この前編入してきたユキ……。XYZ—ドラゴン・キャノンのコスプレをしようとしていた?」

 

「ああ……そういえば十代達がそんな奴が編入してきたと言っていたな。だがこれは被り物だぞ!? いくらXYZが大型とはいえ身体ごとすっぽりハマってたら移動もままならないだろうが!」

 

 XYZ—ドラゴン・キャノンの被り物は高校生に合わせたサイズとなっており、ユキにはとても着用できるものではなかった。

 

「まさかこのタイヤ電動式で動かないとは……なんという罠」

 

「学園祭のコスプレで電動式を期待するな!」

 

 ユキの息が整ってきたのに対して、何故か万丈目の息の方が切れてきていた。

 

「はあ……とにかくその身体じゃこれは被れん。諦めろ」

 

「うん……」

 

 ユキは残念そうにしながら別のものを探し始める。しかし彼女の求める機械族のコスプレは被り物がほとんどでサイズは合いそうになかった。

 

「なんだ貴様。まだ探していたのか」

 

 XYZ—ドラゴン・キャノンを被り終えた万丈目はまだコスプレを探しているユキのもとに近づいていった。

 

「貴様じゃなくてユキ……」

 

「どっちでもいい。それよりこれなら着られるだろう」

 

「それは……VW—タイガー・カタパルト?」

 

 前方に顔をのぞかせるように取り付けられたメカメカしい虎に合わせて胴体も黄色く、左右の翼は緑色に染められたV—タイガー・ジェット。左右に一つ、上部に二つ翼が取り付けられ機動力のある青色の機体、W—ウイング・カタパルト。万丈目が手にしていたのはその二機が合体した姿だった。

 

「ここにあるのはほとんど頭に被るやつだが、これは胴にゴム製の輪で調整してつけるタイプだ。これなら身長に関係なくつけられるだろう」

 

「もしかして……ユキのために探していてくれた?」

 

「ば、馬鹿を言え! たまたま見かけたから持ってきてやっただけだ! これでいいならさっさと着ろ!」

 

 ユキはVW—タイガー・カタパルトのコスプレを身につけると緑と青の翼の間に腕を目一杯伸ばして、小走りで感触を確かめた。

 

「いい感じ。えっと……お名前は?」

 

「俺の名は万丈目だ」

 

「ありがとう……万丈目さん?」

 

「ほう、礼儀がなってるな。ユキだったか……コスプレをしているということはレッドの奴らが出しているコスプレデュエルに向かうところなんだろう?」

 

「うん。でも閉じ込められて思ったより時間がかかった……急がないと」

 

 ドアを開いて急いで会場に向かうユキに万丈目は歩幅を合わせながら共に向かった。

 

「あら、ユキ。遅かったわね」

 

「明日香さん」

 

「天上院君!」

 

 二人がレッド寮近くに設置されたデュエルスペースにたどり着くと、そこにはサイバー・バンテージを身につけハーピィ・レディのコスプレをした明日香がいた。

 

「二人とも大胆なコスプレね。……でも結構似合ってるかも」

 

「ほ、本当か!」

 

「ユキも……気に入った」

 

 明日香の賛辞に万丈目が喜んでいるとデュエルスペースから歓声が湧いた。

 

「そうそう、ちょうど今からレイがデュエルするのよ。多分今の歓声は対戦相手が決まったのね」

 

「ん……そうなんだ」

 

「レイ? ……ああ。そういえば編入生は二人だったな」

 

 黄色いドレスに身を包み恋する乙女のコスプレをして出番を待っていたレイ。彼女の対戦相手として名乗りを上げた人物には特に男性陣の歓声が浴びせられていた。

 

「あれは……ブラック・マジシャン・ガール? 凄い……本物みたい」

 

「と、トメさんのコスプレじゃないブラック・マジシャン・ガール……! 感激っすー!」

 

「うわっ!? 翔、貴様いつの間に!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの大ファンである翔は完成度の高いコスプレを生で見ることが出来て感動のあまり涙すら浮かんでいた。

 

「こうしちゃいられないっす! 実況席に早く戻らないと! 万丈目君、ユキ! 二人には解説を頼むっす!」

 

「お、おい。ちょっと待て——」

 

「ブラック・マジシャン・ガールが僕を呼んでるっすー!」

 

 万丈目の制止も耳に入らなかったようで翔は全速力で実況席に戻ってしまった。

 

「はあ……全く。話を聞かん奴だ」

 

「あはは……。でもみんな待ってるみたいだし、行ってあげたら?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの登場にギャラリーは最高潮の盛り上がりを見せ、デュエルの開始を今か今かと待ち望んでいた。

 

「……そうだな。行くぞユキ」

 

「うん」

 

 二人が解説席につくとレイ達の準備も整った。開始の宣言がかけられる前にブラック・マジシャン・ガールは観客席に向かって手を振りながら声をかけた。

 

「みんなー! 応援よろしくねー! 一緒に盛り上がっていこう!」

 

「おおー!」

 

「うう……凄いプレッシャー」

 

 歓声の多くはブラック・マジシャン・ガールに向けられており、レイはこの異様な熱気に圧されていた。

 

「頑張れ……レイちゃん」

 

「ユキ……うん!」

 

 レイがユキからのエールを受け取った時、観客席からもレイにエールを送った者がいた。

 

「おおーい! レイ! 応援に来たぞー!」

 

「……! 十代。それに亮様!」

 

 十代と亮がレイの応援に駆けつけ、明日香と合流しようとしていた。レイは亮達の方を見ると十代は拳を握って親指を上に向けて立て、亮は静かに頷いた。

 

「よーし! やってやるんだから!」

 

「「デュエル!」」

 

 レイのやる気に満ちた声とブラック・マジシャン・ガールの元気な声が響くと先ほどまで歓声をあげていたギャラリーも一旦静まり、デュエルを見守る態勢に入った。

 

「いきまーす! 私のターン、ドロー! 私はチョコ・マジシャン・ガールを召喚しまーす!」

 

 若い女性の魔術師が現れると、風でなびく水色の髪を魔法で出した青色のとんがり帽子で抑えた。

 

チョコ・マジシャン・ガール 攻撃力1600

 

「チョコ・マジシャン・ガールの効果を発動! 1ターンに1度、手札の魔法使い族モンスターを1体墓地に捨てることでデッキから1枚ドロー出来まーす! 私はアップル・マジシャン・ガールを墓地に捨てて1枚ドロー! ……これでターンエンド! さあ、あなたのターンだよ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4000

 

フィールド 『チョコ・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

セット0

 

手札5

 

「僕のターン、ドロー! いくよ!」

 

 レイはディスクを掲げるとディスクの右側に収納されていたゾーンを展開し、1枚のカードを勢いよく置いた。

 

「フィールド魔法、サベージ・コロシアムを発動!」

 

「きゃっ……!?」

 

 地響きが発生するとレイとブラック・マジシャン・ガールを囲むように円形の闘技場が地面を突き抜けて出現した。

 

「このフィールド魔法がある限り、攻撃可能なモンスターは攻撃しなきゃいけなくなるよ。さらに僕はモンスターをセット!」

 

(セット……守備力の高いモンスターに攻撃させて反射ダメージを与えるのが狙いなのかな?)

 

「さらにカードを2枚伏せて……永続魔法、魔法族の結界を発動! これで僕はターンを終了する!」

 

 左手にロッドを持った老魔術師の石像がレイの背後に現れると、石像の周囲に4つの光のリングが浮かんだ。

 

レイ LP4000

 

フィールド 裏側守備表示1

 

セット2 『サベージ・コロシアム』 『魔法族の結界』

 

手札1

 

「私のターン、ドロー! うーん……チョコ・マジシャン・ガールの効果を発動します。手札のマジシャン・オブ・ブラックカオスを墓地に捨ててカードを1枚ドロー! ……行くよ!」

 

「……!」

 

「チョコ・マジシャン・ガールを生贄に……私は私自身、ブラック・マジシャン・ガールを召喚しまーす!」

 

 水色のローブに身を包んだ女性の魔術師が空飛ぶステッキに跨りながら現れる。その姿とブラック・マジシャン・ガールを操る彼女は瓜二つだった。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

 

「こ、これは本物のブラック・マジシャン・ガールのカード!? 生で見ることが出来るなんて……感激っすー!」

 

 観客席の男性陣の多くも翔と同じような反応を示し、女性陣も希少性の高いブラック・マジシャン・ガールを実際に見てどよめいていた。

 

「ブラック・マジシャン・ガールだと?」

 

(あれは世界でただ1枚、武藤遊戯のデッキにのみ入っているカードのはずだが……あの女、何者だ?)

 

「ブラック・マジシャン・ガールの効果により、攻撃力は墓地に眠るマジシャン・ブラック・カオスの数×300分攻撃力が上昇します!」

 

ブラック・マジシャン・ガール

攻撃力2000→2300

 

「さあ、バトルに——」

 

「ちょーっと待ったあ! トラップカード、不運なリポートを発動!」

 

「えっ、ここでトラップカード!?」

 

 フィールド中央に古ぼけた机が置かれるとその上にぼろぼろになったレポートが積まれていた。ブラック・マジシャン・ガールはステッキから降りて恐る恐る近づくと、その内容を目にした。

 

「このカードによってあなたは次のバトルフェイズを2回行う!」

 

「ええっ!? ……い、いいの?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールがレポートを読み終えると途端に力が湧き出した。

 

「あの編入生、何のつもりだ?」

 

「サベージ・コロシアムによってバトルフェイズは避けられない。これは……」

 

「ううーん……考えていてもしょうがない! 今度こそバトル! ブラック・マジシャン・ガールで伏せモンスターに攻撃! 黒・魔・導・爆・裂・波(ブラック・バーニング)!」

 

 ステッキを両手で持ち天に掲げて魔力を集中させると、ステッキの先に紫色の魔導弾が生成されて放たれた。

 

「僕が伏せていたのは……見習い魔術師!」

 

見習い魔術師 守備力800

 

 赤いハチマキを頭に結んだ少年が姿を見せるとロッドに力を込めて紅色の魔導弾を放ち、迎撃を試みた。しかし魔導弾の大きさはブラック・マジシャン・ガールのものより遥かに小さく、衝突してもほとんど勢いが衰えないままその身で受けることとなった。

 

(守備力800……反射ダメージ狙いじゃない!?)

 

「場の魔法使い族が破壊されたことで魔法族の結界に1つ魔力カウンターが置かれるよ。このカードには最大で4つの魔力カウンターを置くことが出来る!」

 

 石像の周囲にある光のリングの1つに球体状の魔力が乗るとそのリングが動き出し、球体が石像の周りを公転するように回り出した。

 

魔法族の結界 魔力カウンター0→1

 

「ここでサベージ・コロシアムの更なる効果。モンスターが攻撃したダメージステップ終了時にそのモンスターをコントロールするプレイヤーはライフを300回復する。そして見習い魔術師の効果も発動しているよ! このカードが戦闘で破壊された場合、デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスターを1体選択してセットすることが出来る。僕がセットするのは……恋する乙女!」

 

 裏側の模様を上にしてカードが1枚場に現れると黄色いドレスに身を包んだ華奢な少女がカードの下から顔を出して様子を伺った。すぐ近くにブラック・マジシャン・ガールがいることに気がつくと慌てて引っ込んでしまう。

 

恋する乙女(裏側守備表示) 守備力300

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4000→4300

 

「あっ、確かあのモンスターはアニキとのデュエルでも使っていた……」

 

「むむ……狙いが分からないな。不運なリポートによって2回目のバトルフェイズ! ブラック・マジシャン・ガールで伏せられた恋する乙女に攻撃!」

 

 隠れ蓑にしていたカードが表になり恋する乙女の姿が露わになる。ブラック・マジシャン・ガールは遠慮がちに近づくとそっとステッキで叩いた。それでも痛かったのか乙女は倒れこみ、その目には涙を浮かべてしまう。

 

「この瞬間、恋する乙女の効果が発動されるよ!」

 

「……!」

 

 涙ぐむ乙女の姿を見てフィールドに立つブラック・マジシャン・ガールは罪悪感を覚えていた。

 

「ああ……私はなんでこんな女の子に攻撃なんて!」

 

「自分を責めないで……」

 

「えっ……?」

 

「悪いのはあなたじゃないから……自分を責めないで、ね?」

 

 風に流されるように光になって消えていく乙女に自然とブラック・マジシャン・ガールは手を伸ばしていた。

 

「……」

 

「どうした十代?」

 

「い、いや……何でもないぜ」

 

「む……」

 

「どうしたの万丈目さん?」

 

「……何でもない」

 

 十代、そして万丈目などカードの精霊が見える者にのみこの会話は聞こえていた。

 

「効果で恋する乙女に攻撃をしたブラック・マジシャン・ガールには乙女カウンターが一つ乗る!」

 

ブラック・マジシャン・ガール 乙女カウンター0→1

 

(乙女カウンター……?)

 

「さらに魔法使い族が破壊されたことで魔法族の結界に魔力カウンターが追加される!」

 

 球体状の魔力がまだ何も乗っていないリングに加わるとそのリングも一つ目のリングと同じように回り出した。

 

魔法族の結界 魔力カウンター1→2

 

「なら私はサベージ・コロシアムの効果でライフを300回復しまーす!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4300→4600

 

「あれっ、恋する乙女って戦闘で破壊されない効果がなかったすか?」

 

「恋する乙女が戦闘で破壊されないのは攻撃表示の時だけ……」

 

「あっ、そうだったすね! ……ん? でもそれじゃあアニキの時のコンボが使えないような……」

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンド! さあ、あなたのターンだよ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4600

 

フィールド 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札4

 

「いっくよー! 僕のターン! ……永続魔法、魔術師の再演を発動! このカードがフィールドに表側表示である限り1度だけ僕の墓地からレベル3以下の魔法使い族モンスターを呼び戻すことが出来る!」

 

 舞台が出現し一点にスポットライトが当てられるとその床が仕掛けで開いていき、奈落から煙と共にステージに一人舞い戻る者がいた。

 

「今レイちゃんの墓地にいるのはどちらもレベル2の魔法使い族モンスター……」

 

「そっか! これで恋する乙女を復活させるつもりっすね!」

 

(翔さんの言う通り恋する乙女を復活させたいところなんだけど……コンボを完成させるのに必要なキューピッド・キスがまだ手札にない! ここは……)

 

「戻ってきて……見習い魔術師!」

 

 煙がステージから無くなるとその舞台に立っていたのは新米の魔術師だった。

 

見習い魔術師 守備力800

 

「見習い魔術師が特殊召喚に成功したことで魔力カウンターを置くことが出来るカードに魔力カウンターを1つ置く! 僕は魔法族の結界を選択!」

 

魔法族の結界 魔力カウンター2→3

 

「永続トラップ、漆黒のパワーストーンを発動! 発動時、このカードには魔力カウンターが3つ置かれる!」

 

 黒いパワーストーンが石像の隣に置かれると3つの球体状の魔力が取り込まれていき、表面に三角形のような模様が3つ浮かび上がった。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター0→3

 

「さらに漆黒のパワーストーンの効果により自分のターンに1度、魔力カウンターを1つ他のカードに移すことが出来る! この効果を使って魔法族の結界に4つ目の魔力カウンターを点灯させる!」

 

 模様が1つ消えるとパワーストーンから放たれた魔力が最後の静止しているリングに乗せられるとそのリングも回転を始める。すると突然石像に後光が差した。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター3→2

魔法族の結界 魔力カウンター3→4

 

「魔法族の結界の効果を発動! このカードと自分フィールドの魔法使い族を1体墓地に送ることでこのカードに乗っている魔力カウンター1つにつき1枚ドロー出来る!」

 

「魔法族の結界に乗っている魔力カウンターは4つ……!」

 

「よって見習い魔術師と共に墓地に送り……カードを4枚ドロー!」

 

 後光が強くなると一瞬の閃光ののちに魔術師と石像が消え去り、代わりに4枚のカードが天からレイに授けられた。

 

(よし……これなら!)

 

「僕は魔導騎士 ディフェンダーを召喚! このカードには召喚時、魔力カウンターが1つ置かれる!」

 

 重厚感のある盾を構えた騎士が飛び降りるようにフィールドに降り立つと、盾に刻まれた模様が輝き出した。

 

魔導騎士 ディフェンダー 攻撃力1600 魔力カウンター0→1

 

「装備魔法、キューピッド・キスを魔導騎士 ディフェンダーに装備!」

 

 天から舞い降りた子供の天使が魔導騎士の上を小さな羽を羽ばたかせて飛ぶと、光の粉が降り注がれた。

 

「バトルだ! 魔導騎士 ディフェンダーでブラック・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

「えっ……!?」

 

 短剣を手にブラック・マジシャン・ガールに斬りかかった魔導騎士だったが、リーチの短さが仇となり跳躍で躱された挙句後ろに回り込まれてしまう。反撃の魔導弾が無防備な背中に襲いかかった。

 

「魔導騎士 ディフェンダーの効果発動! 1ターンに1度、魔法使い族モンスターが破壊される時、その数分の魔力カウンターを自分フィールドから取り除くことで身代わりに出来る。僕は魔導騎士ディフェンダーの魔力カウンターを取り除く!」

 

 前に構えられていた盾の模様から光が消えると魔力として解放され、魔導騎士が魔法により新たな盾を背後に出現させると魔導弾を防ぎきった。

 

レイ LP4000→3300

魔導騎士 ディフェンダー 魔力カウンター1→0

 

 魔導弾を浴びせたことで光の粉が舞うと、光になって消えた乙女を思い出したブラック・マジシャン・ガールは罪の意識に苛まれた。

 

「あの子を傷つけたみたいにまた私は誰かを傷つけるの? ……ダメだ。こんな戦いはもう……終わらせないと!」

 

「ちょ、ちょっと……どうしちゃったの!?」

 

 十代や万丈目だけではなくブラック・マジシャン・ガールの格好をした少女も精霊が見えなければ聞こえないこの声が聞こえていた。

 

「この瞬間、キューピッド・キスの効果発動! 装備モンスターが乙女カウンターが乗ったモンスターに攻撃して、装備モンスターのコントローラーが戦闘ダメージを負った時に発動出来る! その効果で戦闘ダメージを与えたモンスターのコントロールを得るよ!」

 

「あちゃ……そう来ますか!」

 

 光の粉が身体を包み込むと同時にフィールドに佇むブラック・マジシャン・ガールは決断した。

 

「この戦いを終わらせるために……私は戦う!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールはジャンプしてレイの場に降り立つと元々の主人に向かってステッキを構えた。

 

(あらら。まさか自分自身と向かい合うことになるなんて思わなかったなあ……)

 

「そしてサベージ・コロシアムの効果でライフを300回復!」

 

レイ LP3300→3600

 

「キューピッド・キスって恋する乙女専用の装備魔法じゃなかったんすね」

 

「そう。他のモンスターでも……構わない」

 

「なるほどな。恋する乙女の攻撃力は400、キューピッド・キスの効果を使うためには戦闘ダメージを負う必要がある。他のモンスターで軽減するのも手というわけか」

 

「まだ今はバトルフェイズ! ブラック・マジシャン・ガールであなたにダイレクトアタックだ!」

 

 ステッキに力を込めると紫色の魔導弾が生成されていき標的を元々の主人に定めようとした瞬間、その視界を遮るように魔法陣が出現した。

 

「させないよ! トラップカード、マジシャンズ・サークル! 魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に発動出来る! その効果でお互いにデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを1体攻撃表示で特殊召喚するよ!」

 

「……! 僕のデッキにも勿論魔法使い族モンスターがいる! その効果利用させてもらうよ!」

 

 レイの場にも魔法陣が出現し、互いに召喚の準備が整った。

 

(この効果で呼び出せるモンスターの最大攻撃力は2000。攻撃力2300のブラック・マジシャン・ガールなら倒せる。ここは攻撃力の高いモンスターを選んで一気に追撃だ!)

 

「僕が選ぶのは聖なる解呪師(セイント・ディスエンチャンター)!」

 

「私はレモン・マジシャン・ガールを選択しまーす!」

 

 魔法陣が怪しく光りだすと召喚魔法によってそれぞれの場に同時に魔術師が降り立つ。レイの場に現れたのは淡い紫色の装束に身を包んだ熟練の魔術師、向かい合うように現れたのは黄色い衣装を纏った幼い魔術師だった。

 

聖なる解呪師 攻撃力2000

 

レモン・マジシャン・ガール 攻撃力800

 

「えっ、攻撃力800!?」

 

「サベージ・コロシアムによってブラック・マジシャン・ガールの攻撃は続行されまーす! なのでレモン・マジシャン・ガールの効果発動! 1ターンに1度このカードが攻撃対象になった場合、手札の魔法使い族モンスターを1体効果を無効にして特殊召喚出来ます! 来て……コスモクイーン!」

 

 レイの場の魔法陣がレモン・マジシャン・ガールの魔法によって自身を呼び出した魔法陣に取り込まれていき、巨大になった魔法陣から宇宙に存在する全ての星を統べていると言われている女王が降臨した。

 

コスモクイーン 攻撃力2900

 

「うそ……僕のターンに最上級モンスターを呼び出すなんて!?」

 

「まだレモン・マジシャン・ガールの効果は終わってないよ! モンスターを特殊召喚した後そのモンスターに攻撃対象を移し替えて、さらに攻撃モンスターの攻撃力を半分にします!」

 

「し、しまった……!」

 

 女王に威圧されたブラック・マジシャン・ガールの力が弱まっていく。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2300→1150

 

「目を覚まして、私! コスモクイーンの反撃!」

 

 コスモクイーンが手を軽く振るうと波状の魔力が襲いかかり、弱々しい勢いで放たれた魔導弾ごとブラック・マジシャン・ガールを飲み込んだ。

 

「うう……あれ? 私は一体何を……」

 

「今は墓地で休んでてね、私」

 

 光の粉が波によって流されると正気を失っていたブラック・マジシャン・ガールの目が覚め、混乱状態にある彼女を女王が闇で包み込むようにして眠らせた。

 

レイ LP3600→1850→2150

 

「やられた……! 折角コントロールを得たブラック・マジシャン・ガールがやられちゃうなんて……でも、まだ攻撃は残ってる! 聖なる解呪師でレモン・マジシャン・ガールに攻撃! そのモンスターの効果は1ターン1度、これは防げない!」

 

 熟練の魔術師が持つロッドが輝くと閃光が放たれ、一瞬でレモン・マジシャン・ガールを貫いた。

 

ブラック・マジシャン・ガール LP4600→3400

 

レイ LP2150→2450

 

「ありゃりゃ……でもコスモクイーンは倒せない!」

 

「ううっ……ならバトルを終了して聖なる解呪師の効果を発動! 1ターンに1度、フィールド上にある魔力カウンターを1つ取り除くことで表側表示の魔法カード1枚を手札に戻すことが出来る。僕は漆黒のパワーストーンから魔力カウンターを取り除き、魔術師の再演を手札に!」

 

 パワーストーンの模様の一つから光が消え、球状の魔力を手で受け取った魔術師は握りつぶすようにして魔力を解放し上級魔法を唱えて舞台をレイの手札に戻した。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター2→1

 

「場にカードを……3枚伏せる! これでターンエンドだ!」

 

レイ LP2450

 

フィールド 『魔導騎士 ディフェンダー』(攻撃表示)『聖なる解呪師』(攻撃表示)

 

セット3 『サベージ・コロシアム』 『キューピッド・キス』 『漆黒のパワーストーン』(魔力カウンター1)

 

手札1

 

「ああ……まずいっすよ! レイの場にいるモンスターはどっちもコスモクイーンの攻撃力を下回っているっす!」

 

「いや、優勢とは言い難いが魔導騎士 ディフェンダーの効果で戦闘破壊を1度免れることも出来る。まだどっちに転ぶかは分からんぞ」

 

「私のターン、ドロー! 行くよ! 1000のライフを払ってマジックカード、黒魔術のヴェールを発動! 私の墓地から魔法使い族・闇属性のモンスターを1体蘇らせる!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP3400→2400

 

「まさか……!」

 

「私はもう一度私自身、ブラック・マジシャン・ガールを復活させまーす!」

 

 コスモクイーンが闇を振り払うとそこにはすっかり落ち着いたブラック・マジシャン・ガールがステッキを構えていた。

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2300

 

(ここは一気に行くとしますか!)

 

「マジックカード、黒・魔・導・爆・裂・破を発動!」

 

「ブラック・マジシャン・ガールの攻撃技と同じ名前のカード!?」

 

「そう! このカードはブラック・マジシャン・ガールモンスターが場にいるときのみ発動が出来る。その効果で相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊しまーす!」

 

「僕の場のモンスターを全て……!?」

 

 薙ぎ払うようにステッキが振られると魔力が拡散していき、魔術師と魔導騎士に直撃した。

 

「魔力カウンターが2つあれば魔導騎士 ディフェンダーの効果で防ぐことも出来たが、聖なる解呪師の効果を使ったのが仇となったな」

 

「くうっ……まさか一気に破壊しにくるなんて!」

 

「さらに私はビックバンガールを守備表示で召喚!」

 

 燃えるように赤いローブを着た女性が現れると周りが炎によって囲われる。両手で握っている木の杖に火の粉が散るが、彼女の触れているものは不思議な力で守られ、燃えることは無かった。

 

ビッグバンガール 守備力1500

 

「攻撃のチャンスなのに守備表示っすか?」

 

「レイちゃんの場には伏せカードが3枚もある。サベージ・コロシアムで攻撃表示のモンスターさんは攻撃が強制されるし、迂闊に攻撃表示にするのを避けた?」

 

「いっくよー! バトル! コスモクイーンであなたにダイレクトアタック! コズミック・ノヴァ!」

 

「この攻撃が通ればあいつのライフは0だ……!」

 

(防がないと……! この攻撃だけはこの伏せカードで……ん? もしかしてあのカードと僕の伏せカードを組み合わせれば…………いける!)

 

「トラップカード、光の召集を発動! このカードは手札を全て墓地に捨てることでその枚数分だけ僕の墓地にある光属性モンスターを手札に加えることが出来る!」

 

「……? 手札を入れ替えてもコスモクイーンの攻撃は防げないよ!」

 

「確かにね。でも僕はもう1枚のトラップも発動させる! 永続トラップ、横取りボーン!」

 

「ダブルリバース……!?」

 

 レイの発動したトラップから巨大なアームが出現するとブラック・マジシャン・ガールの墓地に繋がる穴へと伸びていった。

 

「横取りボーンは相手がモンスターの特殊召喚に成功したターンに発動出来る。その効果で相手の墓地のモンスター1体を守備表示で僕のフィールドに呼び出せるよ! 僕が選ぶのは……アップル・マジシャン・ガール!」

 

「……あっ、まさか……!?」

 

 アームがフィールドに戻ってくると開いた手のひらに乗っていたのは華麗な朱色の衣装を着こなした若い女性の魔術師だった。

 

アップル・マジシャン・ガール 守備力800

 

「光の召集により手札のミスティック・パイパーを墓地に捨てて、墓地に眠る光属性モンスター、聖なる解呪師を手札に戻す! さあ、サベージ・コロシアムによって攻撃を続行してもらうよ!」

 

 コスモクイーンがアップル・マジシャン・ガールに闇色に染まった魔導弾を次々と放った。

 

「アップル・マジシャン・ガールが攻撃対象になったことで効果発動! 手札のレベル5以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚して、そのモンスターに攻撃対象を移し、攻撃モンスターの攻撃力を半減させる! 僕はこの効果でレベル5の聖なる解呪師を特殊召喚だ!」

 

「私のモンスターの効果をとっさに使いこなした……!?」

 

(聖なる解呪師の攻撃力は2000。攻撃表示ならコスモクイーンを倒せるけど、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃でやられちゃう。ここは……)

 

聖なる解呪師 守備力2300

 

コスモクイーン 攻撃力2900→1450

 

 アップル・マジシャン・ガールを守るように熟練の魔術師が現れるとロッドから放たれた閃光が魔導弾を打ち消していき、そのままコスモクイーンを掠めて過ぎ去った。

 

ブラック・マジシャン・ガール LP2400→1550

 

「きゃっ!」

 

「デュエルってやってみないと何が起こるか分からないものだね。光の召集は光属性の恋する乙女を手札に戻すために入れていたのに、相手のカードとコンボすることになるなんて思わなかったよ」

 

「……そうだね。でもそれは私にも言えることかな?」

 

「えっ……?」

 

「あなたのフィールド魔法、サベージ・コロシアムの効果でライフを300回復する! そしてビッグバンガールの効果を発動! 私がライフを回復する度に、あなたに500のダメージを与えるよ!」

 

「僕のフィールド魔法の効果を利用して……!」

 

 ビッグバンガールが杖に力を込めると風が勢い良く放たれ燃え盛る炎を通過すると、炎を纏ったかまいたちとなってレイを襲った。

 

「ううっ……!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP1550→1850

 

レイ LP2450→1950

 

「続けてブラック・マジシャン・ガールでアップル・マジシャン・ガールに攻撃!」

 

 二人のマジシャン・ガールが魔導弾を放つとブラック・マジシャン・ガールの方が魔導弾のスピードが速く、アップル・マジシャン・ガールの近くでぶつかり合い爆風を巻き起こした。爆風が晴れるのを待っていたアップル・マジシャン・ガールだったが、ステッキに乗って爆風の上を飛んだブラック・マジシャン・ガールに気づくことが出来ず、死角から放たれた魔導弾をまともに食らってしまった。

 

「アップル・マジシャン・ガールが破壊されたことで横取りボーンも破壊されるよ」

 

「アップル・マジシャン・ガールが破壊された場合、このカード以外の墓地のマジシャン・ガールモンスターを3体まで手札に戻せる! この効果でレモン・マジシャン・ガールを手札に戻して……サベージ・コロシアムとビッグバンガールのコンボを受けてもらうよ!」

 

 ビッグバンガールが放ったかまいたちが爆風を切り裂くようにしながらレイに向かい、直撃した。

 

「ひゃっ! まさか戦闘ダメージを受けないままライフを逆転されちゃうなんて……」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP1850→2150

 

レイ LP1950→1450

 

「あの女、見ない顔だが中々のデュエリストだぞ……」

 

「サベージ・コロシアムとビッグバンガールのコンボが成立する度に二人のライフ差は800ずつ開いてしまう……長期戦は不利。次のターンが……勝負?」

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドだよ!」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP2150

 

フィールド 『コスモクイーン』(攻撃表示) 『ブラック・マジシャン・ガール』(攻撃表示) 『ビッグバンガール』(守備表示)

 

セット1

 

手札1(レモン・マジシャン・ガール)

 

「僕のターン……ドロー!」

 

「レイの手札はあの1枚だけっす。ここは聖なる解呪師を守備にしたまま次のターンを防ぐしか……」

 

「あの編入生のライフは1450。ビッグバンガールの効果で与えられる効果ダメージは500だ。つまり守備にして凌ごうにも次のターン3体で攻撃すればサベージ・コロシアムとのコンボでライフは尽きる」

 

「あっ! 確かにそうっすね……」

 

「それに手札は1枚だけど、使えるカードが1枚だけとは限らない? レイちゃんの場にはさっきのターン回収され、伏せられているあのカードがあるはず……」

 

「僕は場に伏せていた永続魔法、魔術師の再演を発動するよ! このカードが表側表示である限り1度だけ、墓地のレベル3以下の魔法使い族モンスターを呼び戻せる! もう1度戻ってきて……見習い魔術師!」

 

 再びせり上がってきた舞台から青年が姿を見せた。

 

見習い魔術師 守備力800

 

「見習い魔術師の特殊召喚に成功したことで漆黒のパワーストーンに魔力カウンターを1つ置く!」

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター1→2

 

「聖なる解呪師の効果だ! 1ターンに1度、魔力カウンターを1つ使って表側表示の魔法カードを手札に戻せる……漆黒のパワーストーンから魔力カウンターを取り除いて魔術師の再演を手札に! そしてもう1度発動させる!」

 

 聖なる解呪師の魔法で1度舞台が光に包まれると、別の場所に光の柱が突き刺さり、光が収まると舞台が移動して現れた。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター2→1

 

「魔術師の再演の効果発動!」

 

「え!? さっき効果を使ったはずっすよね……?」

 

「魔術師の再演は表側表示である限り一度しか効果を使えない。だけど今手札に戻してから発動し直したから……発動可能」

 

「僕はレベル1の魔法使い族モンスター、ミスティック・パイパーを特殊召喚!」

 

 紅色のマントを羽織った青年が参上すると、空中から落ちてくる笛を受け止めた。

 

ミスティック・パイパー 守備力0

 

(場に3体の守備モンスター……。あくまで守りにいくのかな?)

 

「行くよ……僕はこのカードにかける! ミスティック・パイパーの効果を発動! 自身を生贄することで僕はカードを1枚ドローする! このカードでドローしたモンスターがレベル1のモンスターならさらにもう1枚ドロー出来るよ!」

 

「……!」

 

(いや、逆だ……あくまであの子はこのターンで逆転しにくるつもりなんだ!)

 

 ミスティック・パイパーが笛を鳴らすと光の粒子となって消えていき、レイのデッキに降り注がれると一番上のカードが輝き出した。

 

(レイちゃんのデッキを考えると最右翼は相手モンスターの元々のステータスをコピー出来るレベル1モンスター、ものマネ幻想師。でもこの場面で本当に必要なこと、きっとレイちゃんなら分かっているはず)

 

 レイは深呼吸して胸の高鳴りを抑えると、デッキトップのカードを勢い良く引き抜いた。

 

(信じてるよ……僕のデッキ!)

 

 レイは引き抜いたカードを確認する。そのカードを彩っていたのは緑、すなわちマジックカードだった。

 

「……僕が引いたのはマジックカード、儀式の下準備。レベル1のモンスターじゃないから追加のドローはないよ」

 

「あちゃー。レベル1のモンスターは引けなかったか」

 

「いや、待って……儀式の下準備ですって! あの子まさか……」

 

 レイの引いたカードがレベル1のモンスターではなかった事を残念そうにする十代とは裏腹に、明日香はそのカードを知っているようで動揺していた。

 

「マジックカード、儀式の下準備を発動! デッキから儀式魔法とその儀式魔法にカード名が記された儀式モンスターを1枚ずつ手札に加えることが出来る!」

 

「儀式魔法と儀式モンスターが手札に……!?」

 

「僕は今加えた儀式魔法、灼熱の試練を発動! このカードにより儀式召喚が可能となる!」

 

「レイも儀式使いだったのね……!」

 

「俺とデュエルした時には使わなかった戦術だ! どんなモンスターを呼び出すのかワクワクするぜ……!」

 

「フィールドからレベル2の見習い魔術師とレベル5の聖なる解呪師を生贄に捧げるよ!」

 

 魔術師達の魂が捧げられると魂は真っ赤な鬼火となって一点に集まっていき、やがてマグマとなった。

 

「……」

 

 レイは亮達がいる方をちらりと見てから手札の儀式モンスターを取り出す。

 

「乙女の熱き想い、真紅の炎に乗せて相手に届けて! 儀式召喚! 現出せよ! レベル7、伝説の爆炎使い(フレイム・ロード)!」

 

 マグマから炎の塊が飛び出すと、その正体は灼熱の試練を乗り越え炎の鎧を纏った屈強な魔法使いだった。

 

伝説の爆炎使い 攻撃力2400

 

「ほう……ここで儀式召喚か。あの編入生も中々やるじゃないか」

 

「レイちゃんは相手のモンスターのコントロールを奪うことが多い。だから儀式召喚に必要な生贄を揃えやすい……」

 

(そして船の上であの変な人に指摘されたこと……。モンスターを奪えなければ戦力不足になりやすいという課題。あのモンスターはその課題に対するレイちゃんの一つの答え……)

 

「手札から速攻魔法、ダブル・サイクロンを発動! お互いのフィールドにある魔法・罠カードを1枚ずつ破壊するよ! 僕は魔術師の再演とあなたの伏せカードを選択!」

 

「……!」

 

 フィールド中央に二つの竜巻が発生するとぶつかり合い、弾かれるようにしてそれぞれの場に向かっていく。

 

「させないよ! 選択されたトラップを発動しまーす!」

 

 竜巻がレイの場にある舞台を吹き飛ばすと同時にブラック・マジシャン・ガールの場にある伏せカードを吹き飛ばそうとする。しかし竜巻が触れた瞬間、伏せカードは無数の白いハトに変身するとどこかへ消えてしまう。

 

「躱された!?」

 

「トラップトリックはデッキからトラップトリック以外の通常トラップを除外することで、除外したカードと同名のカードを場に伏せられるんだ。私は魔法の筒(マジック・シリンダー)を除外して同じく魔法の筒を伏せていました! しかもこの効果で伏せたカードはこのターン発動出来る! これが手品のタネだよ!」

 

 竜巻が過ぎ去るとハト達が戻ってきて新たなカードへと生まれ変わって伏せられた。

 

(魔法の筒……)

 

「ここで伝説の爆炎使いの効果! 魔法カードが発動される度に魔力カウンターを自身に1つ乗せる!」

 

 魔力を受け取ると火種となり、鎧となっている炎がさらに激しく燃え上がっていく。

 

伝説の爆炎使い 魔力カウンター0→1

 

「さらに魔術師の再演の効果を発動するよ! このカードが墓地へ送られた場合、デッキから魔術師の再演以外の魔術師永続魔法カード1枚を手札に加えられる! 僕は魔術師の左手を加えて……発動! 魔法カードの発動に成功したことで伝説の爆炎使いに2つ目の魔力カウンターが乗る!」

 

 炎が猛るように燃え盛っていくがその鎧を纏う爆炎使いはなおも平静を保っていた。

 

伝説の爆炎使い 魔力カウンター1→2

 

「そして漆黒のパワーストーンの効果で最後の魔力カウンターを伝説の爆炎使いに移す! 乗っている魔力カウンターが全てなくなったことで漆黒のパワーストーンは破壊されちゃうけどね……」

 

 魔力が爆炎使いに受け渡されると輝きを失ったパワーストーンにヒビが入り、やがて消滅してしまった。

 

漆黒のパワーストーン 魔力カウンター1→0

伝説の爆炎使い 魔力カウンター2→3

 

(魔力カウンターを一気に乗せてきた。何を仕掛けてくるのかな……?)

 

「行くよ! 伝説の爆炎使いの効果を発動! このカードに乗っている魔力カウンターを3つ取り除くことで、このモンスター以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「ええっ!? ……ということは」

 

 炎が生きているかのように唸りを上げて襲いかかるとそれぞれ身を守るべく反撃を試みる。しかし反撃を物ともせずに、三人の魔術師は灼熱の炎に飲み込まれてしまった。

 

「ありゃりゃ。さっきのターンのお返しをされちゃったね」

 

「これであなたの場はガラ空き! バトルだ! 伝説の爆炎使いでダイレクトアタック!」

 

 爆炎使いが右手を振り下ろすと炎が龍の化身となって身体を螺旋状に捻らせながらブラック・マジシャン・ガールへと放たれた。

 

「これでレイの勝ちっす! ……ああっ、でもブラマジガールが負けちゃうっすー!」

 

「いや……」

 

「最後の最後まで勝負は分からないよ! トラップ発動、魔法の筒! 相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

「……!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの場に現れた二つの筒の一つに炎が吸い込まれていく。

 

「トラップトリックによって魔法の筒が伏せられた時、既にレイの場には攻撃表示の伝説の爆炎使いがいてサベージ・コロシアムによって攻撃しなくてはならない状況だった」

 

「ということは……あの時からこの展開が読めていたってことっすか!?」

 

「あなたのライフは1450。これでフィニッシュだ!」

 

 彼女が合図を送るともう一つの筒から跳ね返すように龍の化身がレイに向かって放たれた。

 

「……そうだね。最後の最後まで勝負は分からない!」

 

「えっ!」

 

 龍の化身が再び放たれた瞬間、爆炎使いが左手を振り下ろすと炎が虎の化身となって唸りを上げながら迎え撃った。

 

「魔術師の左手の効果だよ! 自分フィールドに魔法使い族がいる場合、 1ターンに1度だけ相手が発動したトラップの効果を無効にして破壊する!」

 

 龍虎相摶(りゅうこあいう)つ激突を制したのは虎の化身。勢いを衰えさせることなくそのままブラック・マジシャン・ガールに襲いかかった。

 

「あちゃあ……どうやらあなたの方が一手先を読んでたみたいだね」

 

ブラック・マジシャン・ガール LP2150→0

 

 決着がつき、ソリッドヴィジョンも消えていく。負けたことを残念そうにしていたブラック・マジシャン・ガールだったが、すぐに切り替えてギャラリーに声をかけた。

 

「ごめんみんな! 応援してくれたのに負けちゃった。でもすっごく楽しいデュエルだったよー! 応援ありがとうね!」

 

「こちらこそありがとう! いいデュエルだったっすー!」

 

「うわっ! あいついつの間に応援席の方に……」

 

 各々違った反応を見せるギャラリーの声にブラック・マジシャン・ガールは笑みを見せると、レイの方に向き直る。

 

「あなたもありがとう! 楽しかったよー!」

 

 ブラック・マジシャン・ガールに声をかけられたレイは人差し指と中指を一度自分の方に向けると、勢いよく相手に向けた。

 

「ガッチャ! 僕も楽しかったよ!」

 

 こうしてコスプレデュエルは大盛況の末に終わりを告げた。

 

 夕日が差し、そろそろ学園祭も終わりかという頃。ギャラリーが大勢いる慣れないデュエルをして少し疲れたレイは木陰で休んでいた。すると彼女に声をかける者がいた。

 

「ブラック・マジシャン・ガール……」

 

「さっきはありがとうね。……ねえ、もしかしてあなたって」

 

 周りに誰もいないことを確認してブラック・マジシャン・ガールはレイに近づくと小声で聞いた。

 

「好きな人がいるのかな?」

 

「なっ……なんでそれを!?」

 

 レイはブラック・マジシャン・ガールからとっさに離れると、恥ずかしさからか耳のあたりが真っ赤になっていた。

 

「デュエルをしていたら何となく……ね?」

 

「うう……そ、そうだけど」

 

「やっぱり! いいなあ……恋って素敵だよね。張り切るあなたを見て私も元気を貰った気がするよ」

 

(……よし、決めた!)

 

「ねえ。その恋、叶えたい?」

 

「それは……もちろん」

 

「じゃあおまじないをしてあげる! 目をつぶって?」

 

「えっ? う、うん……」

 

 戸惑うレイだったが恐る恐る目を閉じると、額に何かが触れる。すると声が直接体に伝わるように響いた。

 

「これからよろしくね」

 

「えっ?」

 

 レイは驚きのあまり目を開けるとすぐ側にいたはずのブラック・マジシャン・ガールは忽然と姿を消していた。慌てて周りを見渡すが彼女の姿はどこにも見当たらない。

 

「どこに行っちゃったんだろ。……えっ、これは?」

 

 レイの頭上から何枚かのカードが舞うように落ちてくる。とっさに手を出すと自然に吸い込まれるように手のひらに全てのカードが収まった。その中の1枚を確認すると、それはブラック・マジシャン・ガールのカードだった。

 

「まさかカードに……そんなわけないか。急用が出来ちゃったのかな。このカードどうしよう……」

 

 突然の事態に困惑するレイ。そこに亮と十代がやってきた。

 

「レイ。相手のことをよく観察したいいデュエルだったな」

 

「おっ、レイ! それにブラック・マジシャン・ガール! こんなところにいたのか」

 

「えっ! ブラック・マジシャン・ガール……?」

 

「……十代、何を言っている?」

 

「あれっ!? ……あー、いや何でもない。それよりそのカードは?」

 

 十代にはレイの後ろで少し慌てた様子のブラック・マジシャン・ガールが見えていたが、彼女の正体はデュエルモンスターズの精霊だった故に二人には見えていなかった。

 

「えっとね。ブラック・マジシャン・ガールがその……おまじないをかけてくれたんだけど、気づいたらカードを残してどこかに行っちゃったんだ」

 

「なるほどな」

 

「……?」

 

 精霊であるブラック・マジシャン・ガールがレイにカードを託した。その意味を十代は十分に理解していた。

 

「それは——」

 

「それはレイ。お前にそのカードを使って欲しいということだろう」

 

「そう……なのかな」

 

「恐らくな。デュエリストにとってカードは魂にも等しいものだ。それを人に託した……渡した相手の助けになりたいと思ったということだ」

 

「……俺もそう思うぜ」

 

「そっか。ありがとう……ブラック・マジシャン・ガール。このカード達、大切に使わせてもらうよ」

 

 レイは木を見上げるようにしながらレイを言うとたまたまブラック・マジシャン・ガールと目が合っていた。驚きながらもブラック・マジシャン・ガールは嬉しそうな笑みを見せた。

 

「教えてくれてありがとう、亮様。それに十代様も!」

 

「えっ!?」

 

 初めて様をつけて呼ばれたことで空いた口が塞がらない様子の十代と相変わらず敬称で呼ばれていることに慣れていない様子の亮。ブラック・マジシャン・ガールは夕日のせいか横顔がほんのり赤く染まっているレイを見ながら複雑な乙女心を察した。

 

(……恋は前途多難、だね)

 

 そこにユキや翔、明日香や万丈目が合流する。賑やかになっていく彼らを夕日を浴びながら見つめるブラック・マジシャン・ガールはこの先、もっと楽しいことが待っている予感がしていた。

 




名称ターン1制限は大事。
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