佇む少女は機械仕掛け 作:ロボッピ
亮達がトンネルの奥へとたどり着くと十代と最後のセブンスターズらしき人物とのデュエルが決着を迎えていた。三人の中で亮だけはアムナエルと呼ばれた人物に見覚えがあった。
(……あれは、大徳寺先生!?)
アムナエルの正体はレッド寮の寮長であり、アカデミアでは錬金術の講義を行っていた大徳寺先生だった。ミラクル・フュージョンにより呼び出されたエリクシーラーの一撃を見届けた彼は捉えていた吹雪、万丈目、明日香の魂を解放し十代にエメラルド・タブレットを手渡すと、魂を宿していたホムンクルスの肉体が崩れ去った。
「十代……今のは。大徳寺先生は俺達の敵だったのか?」
今までアムナエルとのデュエルに全身全霊を注いでいた十代はようやく亮達が来ていたことに気がついた。
「カイザー!? ……それは違うぜ。アムナエル……いや、大徳寺先生はいずれこの島に降りかかる災いに対抗する力を育てるために俺と戦い、錬金術の真実へと導いてくれたんだ」
「……そうだったのか。セブンスターズとの戦いが終わっても、まだやらねばならぬことが残っているんだな」
十代と亮はアムナエルが残したエメラルド・タブレットに目を向けると、この先に待っている戦いに思いを馳せる。その二人を遠くから眺めるようにユキとレイはこの部屋の入り口近くで佇んでいた。
「ねえユキ。……僕は悔しいよ。亮様や十代様が島を守るために戦っていたのに、僕は何の力にもなれなかったんだ」
「……ユキも悔しい。さっきのデュエルも亮さんに全てを背負わせてしまった。力だけじゃない、戦うための……勇気も持つことが出来なかった」
「ユキ。僕達もっと……強くなろう」
(僕は強くなって好きな人を……ずっと支えられるようになりたい)
「……うん」
二人の少女が静かに、されど力強く決意した。
時は流れ、数日後。アムナエルが言い残した災いという言葉に不安を残しながらも、セブンスターズとの七星門の鍵を巡る戦いに勝利したことでアカデミアに平和がもたらされていた。
「このカードはどうかな?」
「なるほど……入れてみる」
ユキはブラック・マジシャン・ガールに貰ったカードを投入したレイのデッキ調整に付き合いながら、レイのアドバイスを受けて新しい戦術を模索していた。
「ありがとう、ユキ。おかげで僕のデッキもいい感じになってきたよ」
「良かった」
(レイちゃんのデッキさらにパワーアップしてる。迷いが全然感じられない。ユキは……)
「でも、ごめんね。僕あんまりユキのデッキにアドバイスしてあげられなかった……」
「ううん……それは仕方ない? だってユキ達は長い間一緒にデッキを調整してるから、もう出来るアドバイスはお互いにほとんどしてる」
「確かにそうかも……」
「強くなるためには……これからは二人でデュエルしているだけじゃダメかもしれない」
「……そうだね。亮様も入学を認めてくれた時に言ってたもの。ここにいる色んなデュエリストと切磋琢磨して進化した僕達のデュエルを見せてくれって」
二人は亮の言葉を噛みしめるように思い出すと、対戦相手を探しに歩き出した。
「あれ? あそこにいるのは……」
開けた場所に出ると崖の上から、浜辺に二人の男性が座り込み真剣に話をする様子が伺えた。
「万丈目さん。それにあの人は確か……学園祭の時、明日香さんのコスプレを撮っているのを見かけたような」
「そうだったんだ。デュエルに夢中で気づかなかったよ」
ユキ達も浜辺に降りるとちょうどウエットスーツを纏った男性が万丈目のデッキを見ていた。
「いいデッキだ。だが押してばかりじゃ上手くいかない。恋は押し引きが大事だからね」
「は、はい……」
「えっ、恋!?」
「……! 誰だ!? ……ってなんだお前らか」
万丈目は焦った様子で立ち上がり後ろを振り返ったが、話を聞いていたのがユキ達であることが分かると肩の力を抜いた。
「お前らみたいなガキに恋など100年早い。さっさと寮にでも帰るんだな」
「むっ……! なによ偉そうに!」
「まあまあ。そう女の子を邪険に扱うものじゃないよ」
ウェットスーツ姿の男性が二人に近づくと人差し指をゆっくりと上に向けた。それにつられて二人も指の先を見上げる形となる。
「君たちの瞳に何が見える?」
「空?」
「……雲?」
「……」
「「天?」」
「ん〜〜〜
天の言葉を合図に身体をくねらせると勢いよく二人に向けてサムズアップをした。
「……えっ」
「……えっと」
「やっぱりね」
「何か分かったんですか、師匠!?」
万丈目が師匠と呼んだ男性は戸惑う二人の様子を見て確信したような表情を見せていた。
「ズバリ! 君たちは誰かに恋をしている!」
「「……!」」
図星を突かれた二人は驚きのあまり言葉が出てこなかった。
(そうか! 昼間ジュンコとももえが同じことをされて、感激のあまり気を失ってしまった。俺があの人を師匠と慕うことになったきっかけだが……あれは恋をする女性には通用しないということなのか!?)
「万丈目君。恋に年齢は関係ないのさ。デュエルに年齢が関係ないようにね」
「なるほど……悪かったなお前ら」
「……そんなに気にしてないからいいよ。それより——」
どうして恋をしていることが分かったのか、理由を聞こうとしたレイだったが先にユキが話しかけた。
「あのっ……師匠!」
「ユキ!?」
「恋のために……強くなりたいんです。ご指導をお願い出来ませんか?」
「……へえ。強く、ね。なら一つ聞かせて貰おうかな。君はなんで強くなりたいんだい?」
「えっ。それは……恋している人のために」
「質問が悪かったね。君は強くなることでどうなりたいか……その目的は君の中で明確になっているかな?」
「えっと……」
(この前の騒動で力になれなかったから力になりたいと思った……いや、それはきっかけ。その時心が確かに強くなりたいと感じた。でも……ユキはどうなりたいんだろう)
「迷いがあるね。目的に迷いがあると前に進めないものさ。……だから」
彼はバッグからディスクを取り出すとユキと向かい合うように構えた。
「ここはデュエルで君の悩みを解決するしかないね」
「デュエルで……?」
「ああ。デュエルは人となりやその人のあり方を示してくれる。それは相手だけじゃなくて自分自身のことも。迷いがあるならデュエルの中で答えを見つけるのが一番さ」
「……!」
(この人……性格は全然違うけど、なんだか亮さんと似ている……)
「……お願いします」
ユキもディスクを展開していくとデュエルの準備が整った。
(確かにちょっと元気無かったけど……悩んでたなんて。気づいてあげたかったな)
「ユキー! 頑張れ!」
レイが精一杯の声援を送るとユキは静かに頷いた。
「そういえばあいつのデュエル見たことがないな……」
デュエルの邪魔にならないよう離れたレイの側に万丈目も呟きながら移動してきた。
「なあ、ユキは少しは戦えるんだろうな」
万丈目はユキの第一印象から抜けた性格というイメージを持っており、不安が拭えなかった。
「どういう意味? 勿論戦えるに決まってるよ」
「いや……あいつ自身戦えるのかというのもあるが、師匠はデュエルアカデミアでも有数のデュエリストだ。下手したら速攻で決着がついてもおかしくない」
「えっ……あの人そんなに凄い人だったんだ。そうは見えないけど……」
レイが再び前方に視線を戻すとちょうどデュエルが開始された。
「「デュエル!」」
(レアメタル・レディと融合が手札に。もしレアメタル・ソルジャーが引ければ、融合召喚が可能になる)
「ユキの先攻、ドロー。……!」
(このマジックはレイちゃんのアドバイスで新しく入れたカード……)
ユキは一瞬視線をレイに移しながらそのカードを手札に収めると、別のカードを取り出した。
「
レールが敷かれると赤色の特急列車が猛スピードで駆けつけた。
無頼特急バトレイン 攻撃力1800
「バトレインの効果発動。トレイン・レイン!」
レールが虹を描くように変形すると特急列車に燃料が投下され、走り出した。
「バトルフェイズを放棄することで相手に500のダメージを与える」
「おっと……!」
下りに入りさらに加速していく特急列車が青年のいる場所を通過していった。
謎の青年 LP4000→3500
「ターンエンド」
「元々バトルが出来ない先攻、それを逆手に取ってダメージを与えたか。少しはやるじゃないか」
ユキ LP4000
フィールド 『無頼特急バトレイン』(攻撃表示)
セット 無し
手札5
「僕のターン、ドロー! ……一気に行かせてもらうよ!」
「……!」
「マジックカード、竜の
(ドラゴン族専用のサポートカード……)
「僕は
「真紅眼の黒竜は通常モンスターだ……」
「よって僕はアークブレイブドラゴンも墓地に送らせてもらうよ。そして思い出のブランコを発動! このマジックカードにより墓地の通常モンスターを蘇らせることが出来る! ただしこのターンが終わると破壊されちゃうけどね。現れろ、レッドアイズ!」
地面を突き破るようにして宙を舞ったのは胴体だけではなく翼までも黒く染まったドラゴン。黒い身体の中、鋭い
真紅眼の黒竜 攻撃力2400
「マジックカード、黒炎弾をレッドアイズを対象に発動するよ! このターン、真紅眼の黒竜の攻撃が出来なくなる代わりに対象とした真紅眼の黒竜の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「真紅眼の黒竜の元々の攻撃力は2400……!?」
真紅眼の黒竜の口の付近にエネルギーが集約されていくと黒い炎となって放たれ、ユキの足元に着弾するとそこを覆うようにエネルギーが広がっていった。
「きゃ……!」
ユキ LP4000→1600
「いきなりライフを半分以上持っていくなんて……」
「……でも先攻と違って、後攻は攻撃が可能。それを放棄するのは軽いデメリットではないはず」
「それはどうかな? 確かに僕は真紅眼の黒竜の攻撃は放棄したけど、バトルフェイズを放棄したわけじゃないよ。融合呪印生物—闇を通常召喚!」
闇の空間に繋がるワームホールのようなものが生まれると大量の小石が吸収されていく。ワームホールが一度閉じられると、すぐに開かれ禍々しい闇を帯びた紫色の岩となってフィールドに現れた。
融合呪印生物—闇 攻撃力1000
「岩石族のモンスター。ドラゴン族のデッキに……?」
「君の言う通り僕のデッキはレッドアイズを中心にしたドラゴン族のデッキ。でもそのドラゴンの力を進化させるためにこのカードは必要だと思ったのさ」
「別の種族のカードかあ……。確かに僕もユキも昔から魔法使い、機械族オンリーのデッキを使ってるからあまり入れようとしたことがなかったかも」
「ふん。種族を素直に統一することだけがデッキ構築ではないということだ。別の種族同士でも思わぬ連携が取れることもある」
「そういう万丈目さんはどんなデッキなの?」
「気になるか? なら特別に見せてやろう」
レイは万丈目にデッキを手渡されると興味津々といった様子でその内容を確認した。
(何これ!? 種族がバラバラどころか、色んなカテゴリーのカードが入ってる……)
「俺も昔は
「そ、そうなんだ……」
レイが万丈目のデッキ内容に戦慄を覚えている間にもデュエルは進んでいく。
「僕は融合呪印生物—闇の効果を自身とレッドアイズをリリースすることで発動!」
「レッドアイズをリリースした?」
「融合呪印生物—闇はこのカードを含めた融合素材一組を自分フィールドからリリースすることで『融合』を使わずにその融合先となる闇属性融合モンスターを融合デッキから特殊召喚することが出来るのさ!」
「モンスターのリリースで融合……!?」
「さらに融合呪印生物—闇は融合素材モンスター一体の代わりとすることが出来る。僕はこのカードをデーモンの召喚として扱う!」
岩が変形していくと色彩こそ変わらないがその姿形はデーモンとなり、闇によってレッドアイズと共に包み込まれていく。
「
竜の咆哮が響くと闇を鋭くなったかぎ爪で切り裂くようにし、翼が鎌のようになった黒竜が一回り大きくなって出現する。その翼が一度羽ばたくたびに風が地面に叩きつけられるように吹き荒れた。
ブラック・デーモンズ・ドラゴン 攻撃力3200
「凄い……」
「バトルだ! ブラック・デーモンズ・ドラゴンで無頼特急バトレインを攻撃! メテオ・フレア!」
黒炎が連続して天に放たれると隕石となって特急列車に降り注いだ。
「うっ……」
ユキ LP1600→200
「カードを2枚伏せてターンを終了するよ」
「ユキのライフがもう残り200に!?」
「やはり厳しかったか……」
「まだ勝負はついてない? バトレインの効果を発動。このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズにデッキから機械族・地属性・レベル10のモンスターを1体手札に加えることが出来る。弾丸特急バレット・ライナーを手札に」
謎の青年 LP3500
フィールド 『ブラック・デーモンズ・ドラゴン」(攻撃表示)
セット2
手札0
「ユキのターン……ドロー!」
「ここで墓地のアークブレイブドラゴンの効果を発動させてもらうよ!」
「え……!?」
「このカードが墓地に送られた次のターンのスタンバイフェイズにアークブレイブドラゴン以外の墓地に眠るレベル7または8のドラゴン族モンスターを1体特殊召喚することが出来る。僕はレベル7のレッドアイズを復活させる!」
光の粒子を纏った竜が白銀の翼を羽ばたかせると上昇気流が発生する。その流れに乗って紅き眼の竜がフィールドに舞い戻った。
真紅眼の黒竜 攻撃力2400
(……まさか2ターン目をライフもフィールドもこれだけ差がある状況で迎えるなんて。さすがに予想外だけど……)
「勇気機関車ブレイブポッポを召喚。さらに弾丸特急バレット・ライナーは自分フィールドのモンスターが機械族・地属性モンスターのみの場合、手札から特殊召喚することが出来る!」
緑色の機関車が煙突から煙を出しながらレールを渡り終えると、レールが切り替わり逆側の路線から弾丸列車が目にも留まらぬ速さで駆け抜けてきた。
勇気機関車ブレイブポッポ 攻撃力2400
弾丸特急バレット・ライナー 攻撃力3000
「おおっと! 随分と攻撃力の高いモンスターが並んだね」
「その代わりブレイブポッポには攻撃時に攻撃力が元々の半分に、バレット・ライナーには攻撃時にこのカード以外の自分フィールドのカードを2枚墓地に送らなくてはいけないデメリットがある……」
「バレット・ライナーの攻撃で何とかレッドアイズは倒せるか。だがレッドアイズを倒してもブラック・デーモンズ・ドラゴンに対して手を打てなければ次のターンの攻撃でライフは尽きるぞ……」
ユキは手札を一瞥するとその中にある一枚の魔法カードを取り出した。
(まだユキはレイちゃんみたいに完全に相手モンスターさんのコントロールを得る戦術を使うことは出来ない。……でも)
「マジックカード、精神操作をブラック・デーモンズ・ドラゴンを対象に発動する……!」
ユキが発動した魔法カードからマジックアームが伸びていくとそれぞれの指から糸がブラック・デーモンズ・ドラゴンに垂れていく。
「よし! 精神操作は対象としたモンスターのコントロールをエンドフェイズまで得ることが出来るんだ! 奪ったモンスターは攻撃宣言もリリースすることも出来ないけどね」
「モンスターのコントロールを奪うカードか……!」
マジックアームが戻ってくると操り人形のようにブラック・デーモンズ・ドラゴンがユキのフィールドへと移った。
(しかし精神操作によってコントロールを得たモンスターは攻撃力の高いモンスターに攻撃してあえて破壊したり、生贄召喚などのリリースにも使えない。このターン僕のフィールドを手薄にするのが狙い……いや、待てよ……!?)
「カードを1枚伏せて……バトル。……!?」
ユキがバトルフェイズに入りバレット・ライナーに攻撃を命じようとした瞬間、先にレッドアイズがユキのフィールドを包み込むようなブレスを放っていた。
「これは……!?」
「トラップカード、バーストブレスを発動させてもらったよ。自分フィールドのドラゴン族モンスターを1体……レッドアイズをリリースすることで、その攻撃力以下の守備力を持つフィールドのモンスターを全て破壊する!」
「えっ……! レッドアイズの攻撃力2400に対してブレイブポッポの守備力は2100、バレット・ライナーは0……!」
「だけどブラック・デーモンズ・ドラゴンの守備力は2500! よって破壊されるモンスターは……」
ブレスが止みレッドアイズが地に沈んでいくと、場に残っていたのはその巨大な翼でブレスを弾いていたブラック・デーモンズ・ドラゴンのみだった。
「弾丸特急バレット・ライナー……その高い攻撃力と引き換えに攻撃宣言時に2枚のカードをフィールドから墓地に送る必要がある。確かに大きなデメリットだが、君の狙いはそのデメリットを利用して精神操作で奪ったモンスターを攻撃のコストにすることだった」
「う……その通りです」
レイのアドバイスを受けて完成した新しい戦術。それを見抜かれ、すぐさま対応されてしまったことにユキは動揺を隠せなかった。
「そんな!? ユキの新戦術だったのに……」
「相手モンスターを手駒としコストとして墓地に送るか……。恐ろしい戦術だが、その手が封じられた以上ブラック・デーモンズ・ドラゴンを処理する
(まさかこの戦術も通用しないなんて。攻撃を防ぐようなトラップカードもない。もう……)
「ユキ。君が迷いながらも強くなろうと努力してきたのはデュエルを通して僕にも伝わってるよ。君が今まで強くなるために学んできたこと、その積み上げは君の進むべき目的を指し示す道しるべになってくれるはずだ」
「……! ユキが積み上げてきたことが道しるべに……?」
彼の言葉を耳にした瞬間、彼女がここに至るまでの経験のピースが脳裏にフラッシュバックされていった。
「装備魔法、竜魂の力をサイバー・ブレイダーに装備! このカードは戦士族にのみ装備可能よ。装備されたモンスターの種族をドラゴン族へと変更し、攻撃力及び守備力を500上昇させる!」
「あっ……! 戦士族じゃなくなることでサイファー・スカウターの効果が発動出来なくなる……」
(今まで明日香さんが使ったモンスターは全員戦士族だった。サイファー・スカウターを超えるのは難しいと思ってたのに……でも)
「デュエルってやってみないと何が起こるか分からないものだね。光の召集は光属性の恋する乙女を手札に戻すために入れていたのに、相手のカードとコンボすることになるなんて思わなかったよ」
「……そうだね。でもそれは私にも言えることかな?」
「君の言う通り僕のデッキはレッドアイズを中心にしたドラゴン族のデッキ。でもそのドラゴンの力を進化させるためにこのカードは必要だと思ったのさ」
「ふん。種族を素直に統一することだけがデッキ構築ではないということだ。別の種族同士でも思わぬ連携が取れることもある」
彼女の中で全てのピースがはまると、今までバラバラに見えていた3枚のカードが1枚のカードへと繋がっていくのを確信した。
(そうだ……まだ道は途切れていない。ユキのデッキにはまだユキ自身も気づいてない可能性が眠っている……!)
「手札からマジックカード、融合を発動する!」
「……! ここで融合? 一体何を……」
「このカードにより条件を満たす融合素材モンスターを墓地に送ることで融合召喚を行う。ユキは手札にある機械族モンスターのレアメタル・レディと……ドラゴン族のブラック・デーモンズ・ドラゴンを融合させる!」
「なんだって!?」
赤いレアメタルの装甲を纏った女性が渦により猛々しく吠える竜と一つになっていく。
「堅牢の鎧に覆われし機械戦士よ、雄々しくも禍々しき竜よ。今ひとつとなりて我が身を守る鉄壁の守護竜となれ!」
渦から光が放たれると現れたのは土台となる戦車から首を伸ばす厚い装甲を身につけた機械竜。その口からは砲塔をのぞかせている。
「
重装機甲 パンツァードラゴン 守備力2600
「……参ったね。まさか僕のモンスターを取り込んで融合召喚されるとは思ってもみなかったよ」
今まで先手を打ち相手の戦術に対応していた青年だったが、予想外の戦術に驚嘆の表情を浮かべていた。
「やった! ブラック・デーモンズ・ドラゴンを墓地に送ってなおかつ守備力2600のモンスターを呼び出した!」
「……そんな手があったとはな。やるじゃないか。この勝負、まだまだ分からんぞ」
「これで……ターンエンド。そしてバレット・ライナーの効果を発動。このカードが墓地に送られたターンのエンドフェイズにバレット・ライナー以外の墓地の機械族モンスター1体を手札に戻すことが出来る……バトレインを手札に」
手札行きの弾丸列車が墓地から現れるとレールが手札に向かって伸びていき、ユキの元へとバトレインを届けた。
ユキ LP200
フィールド 『重装機甲 パンツァードラゴン』(守備表示)
セット1
手札2
「僕のターン! トラップカード、レッドアイズ・スピリッツを発動! その効果で墓地に眠るレッドアイズを復活させてもらうよ!」
地に沈んだレッドアイズだったが再び地面を貫いてその漆黒の身体が姿を現した。
真紅眼の黒竜 攻撃力2400
(またレッドアイズが蘇った……。あのドラゴンが師匠にとってのエースモンスターなんだ)
「ここで素早く立て直してくるあたりはさすがだ……。だがいくら師匠でもこの状況をそう簡単には覆せないはずだ」
「……そうだね。ちょっとこのターンでは厳しそうだ。カードを1枚伏せてターンを終了するよ!」
「レッドアイズではパンツァードラゴンの守備力を超えられない。これなら何ターンか凌げるかも……」
「だがパンツァードラゴンの攻撃力は1000。ユキの方からも仕掛けられない……こう着状態というやつだな」
(ユキのライフは200、火の粉ですら吹き飛ぶまさに風前の灯火。こう着状態が続いて不利になるのはこっち……ここは先に手を打つ!)
「トラップカード、ディーラーズ・チョイスを発動。互いのプレイヤーはデッキをシャッフルしてカードを1枚ドローし、その後互いに手札からカードを1枚選んで墓地に捨てる」
「今僕の手札は0、残念だけどドローしたカードをそのまま墓地に捨てなきゃいけないね」
青年は手動で、ユキは新しいディスクのオートシャッフル機能でシャッフルを済ませると同時にカードを引き抜くが、青年は手札がその1枚しかないため惜しそうにディスクの墓地に繋がるゾーンへと置いた。
「ユキはバトレインを墓地に送る。だけどエンドフェイズはまだ終わらない? バトレインが墓地に送られたことで機械族・地属性・レベル10のモンスター……深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトを手札に加える」
「手札を入れ替えながら新しいモンスターを加えたか……やるね。じゃあ今度こそターンエンドだ」
謎の青年 LP3500
フィールド 『真紅眼の黒竜』(攻撃表示)
セット1
手札0
(確かにユキは目的に迷いがあって、どこか思いきれないところはあったかもしれない。だけどこのデッキはユキが今まで積み上げてきた全て。そこは迷わないでいられる……まだ目的への道は掴めないけど、デッキを信じて戦う……!)
「ユキのターン……ドロー! ……!」
(このカードなら……!)
「深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイトを攻撃表示で召喚」
急行列車がレールを走り抜けてユキのフィールドにたどり着くと開くようにして変形し、白い甲冑を身につけ剣や盾を直接身体に接続させた機械騎士となって現れた。
「レベル10のモンスターをリリースなしで召喚だと!?」
「ナイト・エクスプレス・ナイトは元々の攻撃力を0にすることでリリースなしで召喚することが出来る」
「妥協召喚モンスターか……!」
列車から変形したことでその機体は並外れた大きさだったが、腕に取り付けられた剣が見る見るうちに小さくなってしまった。
深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト 攻撃力3000→0
「だけど攻撃力0のままじゃレッドアイズを倒すことは出来ない。どうするつもりだい?」
「このカードで全てを逆転させる? パンツァードラゴンを攻撃表示に変更し……マジックカード発動。右手に盾を左手に剣を!」
空間が歪んでいくとそれぞれのモンスターに影響を及ぼしていく。
「このカードによりエンドフェイズまでフィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの元々の攻撃力と元々の守備力は入れ替わる」
「攻守逆転だって……!?」
レッドアイズはその力を僅かに失い、ナイト・エクスプレス・ナイトは盾と剣が入れ替わることで盾が小さくなる代わりに剣が元の大きさを取り戻し、パンツァードラゴンは纏っていた装甲が砲塔に吸収されてその威力を増していき、装甲が外れたことで機動力を増し機械竜の首が伸びてレッドアイズを見下ろすような形となった。
重装機甲 パンツァードラゴン
攻撃力1000→2600 守備力2600→1000
深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト
攻撃力0→3000 守備力3000→0
真紅眼の黒竜 攻撃力2400→2000 守備力2000→2400
「そうか……妥協召喚によって攻撃力が0となったとしても、守備力に変化はない。そこを上手く利用したってわけだね……!」
「やるな……師匠のレッドアイズは弱体化し、パンツァードラゴンはその高い守備力を攻撃力として使用することが出来る。……それにしても」
「……?」
「パンツァー・ドラゴン……どこかで似たモンスターを見たことがあると思ったが、こうして見るとカイザーのサイバー・ドラゴンに似ているな」
「……あっ」
(ユキがあの機械竜を融合デッキに入れてた理由……何となく分かった気がする)
「バトル! ナイト・エクスプレス・ナイトで真紅眼の黒竜に攻撃……!」
ナイト・エクスプレス・ナイトの足から車輪が降りてくるとスピードに乗って近づいていく。レッドアイズは飛ぶことで攻撃を逃れようとしたが、ナイト・エクスプレス・ナイトが斬りかかるスピードの方が速く、紅き眼の竜は討伐されてしまった。
「くっ……」
謎の青年 LP3500→2500
「レッドアイズを倒した……! パンツァードラゴンのダイレクトアタックでユキの勝ちだ!」
「……!」
討伐されたレッドアイズが消滅しようとしていたが、身体の内部から無差別に赤い光線が放たれていた。
「荒削りだけど、いいデュエルだ。自分のデッキを信じて向かってくる君の闘志もデュエルを通してひしひしと伝わってくるよ。その気持ちを忘れなければ前に進めるさ。……トラップカード、レッドアイズ・バーン! このカードはレッドアイズが破壊された場合に発動出来る。互いのプレイヤーは破壊されたレッドアイズの元々の攻撃力分のダメージを受ける!」
「……! レッドアイズの攻撃力は2400……!」
四方八方に放たれた光線が地面にあたり爆発による砂煙が舞う中、ついに光線が二人を貫いた。
「うっ……」
謎の青年 LP2500→100
「ううっ……!」
ユキ LP200→0
砂煙が消えた時、その場に立っていたのは青年のみ。決着がつき、攻撃態勢をとっていたパンツァードラゴンを含めて全てのソリッドヴィジョンは消えていた。
「ああっ……あとちょっとだったのに」
「……師匠はあのカイザーのただ一人のライバルと呼ばれている。そんな人をあそこまで追い詰めたんだ……健闘したと言っていいだろう」
「えっ!?」
「はは……よしてくれよ万丈目君。そう言われていたのはもう大分前の話さ」
(……この一歩届かない感じ。そう、この感覚は……前に亮さんに負けた時にも味わった。全力を出し切ったけど……それでも届かない。……あ)
ユキは万丈目のいる方を振りむいた青年に目を向けるとその背中が遠く離れているような感覚を覚えた。
(ああ……分かった。ユキはまだ弱い。ここから一歩踏み出してもあの人たちが一歩踏み出すたびにその距離は遠く、離れていってしまう。だってあの人たちとユキでは今まで積み上げてきたものが違う……だけど)
ユキは砂利を払って立ち上がるとその口から自然に——言葉がこぼれた。
「ここで沢山のものを積み上げて、いつか……亮さんの背中に追いついて、胸を張ってその隣を歩けるようになりたい……」
こぼれた言葉にその場にいた全員が驚いたが、一番驚いていたのはユキ自身だった。その言葉と共に胸につかえていたものがこぼれ落ちていき、自分自身でも驚くほどその言葉にスッキリしていた。
(なるほど……恋の相手は亮か。それは悩むわけだ)
「うん。いいじゃないか。僕も応援するよ」
青年は何度かうなずくと爽やかに笑い、レイもユキの悩みが解決したことを心から喜んでいた。
(凄い……本当にデュエルでユキの悩みを解決しちゃった。これが……師匠のデュエル)
「そうだ! 亮に……」
青年が何かを思いつくとちょうどブルー寮に帰ろうとした明日香が崖の上を通る。すると浜辺にいる四人に気がついた。
「あら? レイにユキ、万丈目君と……兄さん!?」
「えっ……?」
「兄さん……!?」
「おや。明日香じゃないか。今帰りかい?」
兄がユキ達と話しているのを見て何となく嫌な予感がした明日香は慌てて浜辺に降りてくる。
「師匠って明日香さんのお兄さんだったんだ……」
「そういえば自己紹介がまだだったね。ブリザードプリンスこと天上院吹雪。妹ともどもよろしく頼むよ」
吹雪が優雅にお辞儀している間に明日香が浜辺に到着するとものすごい勢いで兄に詰め寄った。
「兄さん! まさかレイやユキに変なことを吹き込んでないわよね!?」
亮から二人のことを頼まれている明日香はトラブルメーカーである兄が余計なことを言っていないかこれ以上ない不安に襲われていた。
「明日香さん……師匠は変なことなんて吹き込んでないよ」
「そうそう! 師匠のデュエル凄かったんだよ!」
「……師匠……?」
初対面であるはずの吹雪を呼ぶのにはとてつもない違和感のある呼び方に明日香はさらに不安を抱いた。
「ちょ、ちょっと待った! 兄を信用するんだ明日香! まだ僕は疑われるようなことはしてないよ!」
「……まだ……?」
「あっ」
自らの失言に気がついた吹雪はいち早く逃げ出した。
「万丈目君! さっきの話はまた後にしよう。二人もまた今度!」
「兄さん!? 待ちなさい!」
吹雪と明日香は嵐のようにその場から走り去ってしまった。
「さっきの話って?」
「ん? ああ……ちょうどいい。明日お前らもここに来て見るがいい。俺の天上院君への……ラブデュエルをな!」
「ラブ……!?」
「デュエル……!?」
あの騒動から強くなる決意を固めたユキ達。それぞれの目的を見つけた彼女達を待っていたのは騒がしい日常だった。
吹雪の使った思い出のブランコは幼少期の明日香が一度も攻略できなかったという設定があるんですが、思い出のブランコ自身は通常モンスターの蘇生とエンドフェイズの自壊とその性質上そのまま攻略と言葉通りに受け取ると意味が通じづらいところはあると思われます。その意味を掘り下げてみると自壊するモンスターを強制転移などで押しつけるか、または今回のデュエルのように自壊を回避しながらの運用がスムーズに出来ることで死者蘇生が複数枚投入されているのとほぼ変わらないようになり、倒しても何度もエースモンスターを復活させられてしまう戦術が攻略出来なかったのではと考察してみました。