佇む少女は機械仕掛け   作:ロボッピ

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戦いを経て

 時は少し遡り、吹雪とユキのデュエルが始まった頃。灯台では亮と明日香が話をしていた。

 

「兄さんが戻ってきて本当に良かった。あなたには随分助けられたわ……亮。兄さんがいない間、私にとってあなたは兄のような存在だった」

 

「ふっ、今度からは本当の兄さんに助けてもらえ」

 

「……」

 

 セブンスターズとの戦いが終わり、行方不明だった吹雪も戻ってきたのにも関わらず、明日香の表情はどこか暗かった。

 

「……あ、ああ。むしろトラブルを起こす吹雪のことを助けなくてはならなくなるかもしれないな……」

 

「……ええ、そうね」

 

(それも……あるけれど。……でもこれ以上、亮に迷惑はかけられないわ)

 

 灯台からの帰り道、ブルー寮に戻る道すがらに浜辺にいる吹雪を見かけた明日香はトラブルの種が蒔かれようとするのを察知して兄を追いかけ、今に至る。

 

「……本当にレイやユキに何も変なことを吹き込んでないのね? あと万丈目君に話があるとか言っていた気がするけど……」

 

「やだなあ、明日香。僕がどうして変なことを吹き込むと思うんだい?」

 

「……過去に色々やってきたじゃない」

 

 吹雪が起こしたトラブルの数々とその度に頭を悩ませたことを思い出すと、ため息がこぼれた。

 

「何度もため息をすると幸運がどんどん逃げていくよ」

 

「え、何度も……?」

 

「……さっき崖の下から見た時も暗い表情でため息をついたように見えたよ。何かあったのかい?」

 

「……! 気づいていたのね……」

 

 明日香が吹雪に勢いよく詰め寄ったのは確かに兄がトラブルを起こそうとしている気がしたというのもあったが、落ち込んでいる所を誰にも見せたくないという感情の裏返しでもあった。

 

「長い間、僕は明日香を心配させてばかりだった。戻ってきた今だからこそ明日香の役に立ちたい。……話してくれないか?」

 

「……敵わないわね」

 

 明日香は隠し通すことを諦め、包み隠さず悩みを打ち明けた。

 

「……なるほど」

 

(万丈目君、それにユキ。そして……明日香か。どうやらセブンスターズとの戦いを通してみんなの中に芽生えてきたものがあるようだ。しかし同じ日に同じような相談を三回も受けることになるとはね)

 

「セブンスターズとの戦いは私と万丈目君が一勝ずつ、残りの五人は全て彼……遊城十代が倒した。あるいは七星門の鍵を最後まで守れたならこんな気持ちは抱かなかったかもしれない。でも……人質を取られた亮とは違って私は実力で負けて鍵を奪われてしまった。だから私は強くなりたいのよ」

 

「そっか。悔しさをバネにして強くなろうというのはいいことさ。……だけど戦術面で僕がアドバイス出来ることはほとんどないかもしれないね」

 

 明日香からデッキを預かって内容を確認してみた吹雪だったが、特別にアイディアが出るでもなく、そのままデッキを返した。

 

「それはそうよ。だって私のデュエルの基盤になってるのは幼い頃の兄さんとのデュエルだもの。だから相談するつもりはなかったのよ……」

 

「待った! 戦術面でのアドバイスは出来ないけど、兄としてアドバイス出来ることはあるよ」

 

「えっ……な、何?」

 

「明日香……君はオベリスクブルーであることに誇りを持っている。しかしそのプライドが少しばかり高すぎるのさ。高すぎるプライドは時に成長の邪魔にもなる」

 

「そんなこと言われても……どうすれば」

 

「……僕がアドバイス出来るのはここまでかな。そこから先は自分で考えないと意味がない。……大丈夫。明日香なら焦らず一歩ずつ進んでいけば自ずとどうすべきか分かるさ」

 

「兄さん……」

 

 吹雪はそろそろ沈もうかという日の方に歩みを進めていき、再び万丈目の待つ浜辺の方に降りていった。

 

「……ありがとう」

 

(戻ってきてから兄さんも少し変わったのかしら。今の兄さんがトラブルを起こすなんて……心配した自分がバカらしくなってきたわ)

 

 明日香も日で伸びている影を横目にブルー寮へと帰っていった。

 

 その翌日。明日香は浜辺へ呼び出され、全ての七星門の鍵とデートを賭けたデュエルを万丈目に挑まれていた。

 

(一度でも兄さんがトラブルを起こさないなんて思ってしまった自分を恨めしく思うわ……)

 

 その元凶ともいえる吹雪は小型のボートに乗り、アロハシャツを着て応援するようにウクレレを弾いている。その傍らではユキとレイがボートに腰掛けながらオカリナを吹いていた。

 

「……また、吹雪の仕業か……」

 

 七星門の鍵が盗まれたという騒ぎから十代達と共に駆けつけた亮だったが、今まで十代達が聞いたこともないような何とも言えない声を漏らしながら頭を押さえていた。

 

 二人のデュエルはおジャマトリオによる三体のトークンとおジャマ・キングによるロックコンボが成立し、万丈目のペースでデュエルが進む。しかしトークンは生贄召喚のリリースには使用できないが、儀式召喚のリリースには使用できるというロックの穴をついた明日香が一歩上回りサイバー・エンジェル—弁天—の一撃で決着がついた。

 

「デュエルに敗れ、恋にも敗れた……うっ。だが俺は、一……十……百……千……万丈目サンダー!」

 

 恋に敗れた男の叫びが浜辺に響き渡ると波が呼応するようにうねりを打った。

 

「明日香! こんなカッコいいサンダーに何故惚れない……!?」

 

 ボートから浜辺に戻ってきた吹雪が駆け寄り、万丈目に共感するようにもらい泣きをしていた。

 

「万丈目君……」

 

 今はデュエルに恋をしている、と万丈目の誘いを断った明日香だったが、友達としては彼のことを嫌いなわけではなく、少し困るように顔を綻ばせた。

 

「ユキ、レイ。何故吹雪と共に……?」

 

「亮さん。昨日師匠に相談に乗ってもらって、悩みを解決してもらったんです」

 

「そのお礼にってことで応援のお手伝いを!」

 

(確かに吹雪は昔から人の相談に乗るのが上手かったからな。……相談されてもないのに首を突っ込んでしまうこともあったが)

 

「そうか。それならいいんだ」

 

 場合によっては釘を刺しておこうと考えていた亮だったがトラブルに繋がるような類のことはされていないと判断し、安心してしまった。

 

「そうだ! 折角いい天気なんだし、良ければ一緒に海で……。……ひゃ!?」

 

「……! 地震……?」

 

「いや、これは……!?」

 

 揺れは地震によるものではなくデュエルアカデミアの地下に封印されていた三幻魔の眠りが目覚めようとしていた証だった。万丈目の持っていた七星門の鍵が不可視の力により引っ張られていき、ついに三幻魔が解放されてしまう。三幻魔の封印を解く条件はデュエリストの闘志がこの島に満ちることであり、セブンスターズはその為の駒であった。

 十代達が封印された場所に辿り着くとセブンスターズを率いた事件の黒幕であり、またデュエルアカデミアの理事長でもある影丸が三幻魔を手にしていた。すると生命維持装置を必要とするほど老いていた身体が若返っていく。彼は三幻魔の力を完全にコントロールするため十代の精霊を操る力を手に入れようと、十代は再び三幻魔を封印するためにデュエルが開始された。

 

「……! おジャマどもが力を奪われている。奴は三幻魔の能力でデュエルモンスターズの精霊の力を取り込んでいる。もし十代が負ければ多くの精霊が取り込まれることになるぞ……」

 

「デュエルモンスターズの……」

 

「精霊……」

 

 目の前で影丸が若返っていく様子を見たユキとレイは精霊の存在、そしてその力を初めて知ることになった。するとレイはデッキに違和感を覚え、1枚のカードを確認する。

 

「……! ブラック・マジシャン・ガールが苦しんでる……!?」

 

 おジャマ達を含め、精霊のカードのイラストは力を奪われ、苦しんでいる姿となっていた。

 

(もしかして……あなたの正体って)

 

「……十代様、頑張って!」

 

 精霊が見えない二人にもこの戦いの勝敗がもたらす影響の大きさは十分に感じ取れた。だが戦況は芳しくなく三幻魔を呼び出した影丸に追い詰められ、十代は窮地に立たされていた。そんな中、大徳寺から渡されたエメラルド・タブレットに挟まっていた1枚のカード、『賢者の石—サバティエル』が奇跡を起こす。十代の願いを3つ叶えるとその本当の力が解放された。

 

「サバティエルの対象となったエリクシーラーは相手フィールドのモンスターの数だけ、攻撃力を倍加させる!」

 

「何だと……!? 俺の場には5体のモンスター……!」

 

 エメラルドに輝く賢者の石が究極の剣となってエリクシーラーに装備されると、その力が飛躍的に上昇していった。

 

E・HERO エリクシーラー 攻撃力2900→14500

 

「バトルだ! エリクシーラーで幻魔王ラビエルに攻撃! 究極剣サバティエル!」

 

 究極の錬金術師にしか使えないとされるサバティエルを使いこなした十代がエリクシーラーの一撃を叩き込み、終止符を打った。

 三幻魔は再び封印され、デュエルモンスターズの精霊にも力が戻ってくると、サバティエルも役割を終えて消滅してしまう。影丸は十代から長生きしても孤独になってしまってはつまらないこと、他人の力を奪う形ではなく自分の力で歩くことの大切さを教えられ、事件は本当の意味で終結を迎えた。

 

 二人のデュエルを見届けた者、特にセブンスターズとの戦いで少なからず後悔を残した者はこのデュエルを見てより一層強くなりたいという思いがこみ上げていった。それは吹雪に相談した3人やレイだけではなくラーイエローの制服を纏ったこの少年もだった。

 

「アン・ドゥ・ドロー! アン・ドゥ・ドロー!」

 

 三幻魔の事件から半月後、三沢大地は早朝にも関わらず崖上でドロー特訓を行なっていた。

 

(俺は一勝した万丈目や天上院君とは違い、勝ち星を挙げることなく鍵を奪われてしまった。セブンスターズの刺客、タニヤっちの知恵のデッキに敗れたことで弱点も浮き彫りになった。それは情報のある相手にはデュエル前に対処法を見つけることで優位に運ぶことが出来るが、情報がない相手や戦術には修正が間に合わずに敗北してしまうこと。デュエル内での対応力不足……これを補わなければ。月末の実技試験では己の弱点を意識して、デッキ構築もタクティクスも模索していこう)

 

 三沢はその明晰な頭脳を駆使して自らの弱点とこれからするべきことを割り出していた。

 

「……む」

 

 デッキの中に無意識のうちに入れていた白魔道士ピケルのカードに気づくとすっと胸元のポケットに隠した。

 

「あれっ、デッキから抜いちゃうんですか?」

 

「うわっ! ……あ、ああ。別のデッキのカードが紛れ込んでいてね」

 

 三沢は特訓に夢中になり後ろから近づいていたレイに気づいていなかったため、隠したカードの正体を察知されないか焦りを覚えた。

 

「ふーん、そうだったんですね」

 

(……ほっ)

 

「じゃあ試験前の勉強会といこう、と言いたいところだが……ユキは大丈夫なのか?」

 

「あはは……ごめんなさい。ユキちょっと寝起きが悪くて」

 

「おはよう……ございます」

 

 おぼつかない足取りでレイに追いつくようにして現れたユキ。朝に弱い彼女はまだ眠気が覚めていない様子だった。

 

「ちょうどいい。勉強会の前に一緒にドローの特訓をしよう! 朝の澄み切った空気の中で行うドローは思考をクリアにしてくれる。きっと眠気も吹き飛ぶさ」

 

「そう……なの?」

 

「ああ。朝はドロー特訓をしながら考え事をするのが俺の日課なんだ。これを始めてから考えがよくまとまるようになったよ」

 

 ユキは半信半疑ながらも勉強道具が入ったバックを置くと早速ドローの練習を始める。彼女の指がデッキの前に伸びていくと自動でデッキトップのカードが差し出され、引き抜かれた。

 

「脳を覚ましたいなら全身を使ってドローをするといい。アン・ドゥ・ドロー!」

 

 三沢は足を開いて腰を捻ると、腕をしならせるように勢いよくカードを引き抜いた。

 

「おお……凄い気迫」

 

 ユキはオートドローの機能を切ると、三沢に倣って今まであまりドローの際使っていなかった腰や足も使い出した。

 

「け、結構体力使いますね!」

 

「ははっ。朝の準備運動にはもってこいだろう?」

 

 ドローの特訓を始めてから10分経とうかという頃。変わらぬ勢いでドローを続ける三沢とは対照的にレイとユキは息が切れてきていた。

 

「朝にドローの練習をするのは初めてだろうし、このくらいかな。どうだった?」

 

「はぁ……はぁ……。そんなに長い時間身体を動かしたわけじゃないのに、こんなに息が切れるなんて」

 

「はぁ……ふぅ。でもさっきまでぼおっとしてた頭が確かにスッキリしてる」

 

「思い切りドローすると全身がバランスよく動くからね。脳も動くべき時間だと認識してくれるのさ。さあ、少し休憩したら勉強会といこう」

 

 3人はイエロー寮にある三沢の部屋に移動する。するとユキとレイは異様な光景に目を見開いた。

 

「部屋中に数式が……!?」

 

「天井にまで……」

 

「ははは……これでもこの前大掃除して消したばかりなんだけどね。部屋で考え事を続けてると、追求するためについ書いちゃうんだ」

 

 そんなこんなで勉強会が始まる。理解出来ている部分を把握しようと二人のために今月の予想問題を作成していた三沢は、そのプリントを二人に渡して解いてもらった。

 

「……驚いたな。二人とも俺の予想を上回る出来だ。この調子なら今のままでもテストの及第点には届くんじゃないか」

 

「えっ、本当!?」

 

「やった……」

 

 亮の計らいで認めてもらった入学、それを勉強についていけないという理由でふいにしてはならないと授業を真面目に受けていた二人。編入試験のために学んだ知識も役に立ち、試験を受ける分には十分な学力が身につけられていた。

 

「……だけどまだ理解が甘いところはあるかな。折角だ、不安要素を無くしておくに越したことはない」

 

「そうですね。三沢先生、よろしくお願いします!」

 

「先生、よろしくお願いします」

 

「ははっ、先生と来たか。よろしく頼まれたよ」

 

 それぞれの理解出来ていない部分をしっかりと把握した三沢の指導で彼女達の知識が補われていく。三沢は十代や翔、その他の生徒にも試験前によく勉強を教えており、指導するのには慣れていた。

 

(……しかし驚いたな。確かにデュエルアカデミアは学力においては決して高いレベルではない。だが高校生レベルの学力に一般的に小学生の年齢である彼女らがついていけるとは……普通に考えれば無理だとなりそうなところだ。子供であるが故に無理という発想自体がないのか、まるでスポンジが水を吸うように知識を吸収している。……いや、そもそも無理だと考えること自体が視野を狭めてしまうのかもしれないな)

 

「……あの、先生? ここってどうすれば……」

 

「ああ、すまない。ここは……」

 

 三沢の的確な教え方の効果もあって勉強会が終わる頃には筆記試験は問題なくクリア出来ると思えるほどの自信が二人には生まれていた。

 

「ありがとうございました!」

 

「ありがとうございました」

 

「こちらこそ中々興味深いものを見せてもらったよ。これで筆記試験は大丈夫だろう。実技試験の方も楽しみにさせてもらうよ」

 

 こうした経緯を経て迎えた試験当日。静まり返った教室に張り詰めた緊張感の中、鉛筆の音だけが響いていた。響く音の数が段々と少なくなり、代わりに響く音が慌ただしいようなものが増えてきた最中(さなか)、終わりを告げるチャイムが教室中に鳴り響いた。ある者には緊張からの解放感と達成感を与え、ある者には不安と後悔を与えていく。

 

「……ね、どうだったユキ?」

 

「……絶好調だった」

 

「……良かった! 勉強した甲斐があったね。僕も問題なさそうだよ」

 

 テストのプリントが前に送られていく中、二人は小声で話し合って安堵感を共有しあった。

 

 生徒達が教室からデュエル場に移動すると実施試験が開始されようとしていた。出番を待つ生徒はデュエル場の周りにある観客席で待機しており、ユキとレイも談笑して出番を待とうとしていた所、ある人物が話しかけてきた。

 

「ちょっといいデスーノ?」

 

「く、クロノス先生?」

 

「ようやく話しかけられたノーネ。あなた達が入学してから一ヶ月ほどたったのーに、話そうとしても逃げるように退散するのはなんでナノーネ?」

 

「その……ユキ達が試験を受けた時、男装して先生を騙していたから気まずくて話すことが出来なかった」

 

「……そんなことでしたーノ。別に気にしなくてもいいノーネ」

 

「えっ……?」

 

「確かにあなた達は性別を偽ったノーネ。しかーし、編入試験そのものに偽りは無かった。胸を張って学園生活を送るといいノーネ」

 

 それだけ言うと試験官として試験を進めるべくデュエル場に戻っていく。

 

「あ……ありがとうございます」

 

「あ、ありがとう!」

 

 かくして実技試験が始まり、沢山のデュエルコートでデュエルが行われる。するとしばらく経って十代、翔、隼人、万丈目、明日香、三沢と合流した。既にレッドとイエローの試験は終わっており、ブルーである明日香も既に勝利を収めて試験を終えていた。

 

「まだ三沢先生はデュエルしていない?」

 

「俺はブルーの生徒とのデュエルになるからな。デュエルはまだみたいだ」

 

「おっ、先生って何のことだ?」

 

「ああ……この前ちょっと勉強を教えてな。教師がいるところだとこの呼び方は紛らわしいかもしれないな」

 

「そうだね。普段は三沢さんって呼ぶことにします!」

 

 楽しく談笑しているとレイを呼ぶアナウンスが聞こえてきた。

 

「……ファイト」

 

「うん! 行ってくるよ!」

 

 筆記試験が問題なかった安心感からか、レイは緊張した様子もなくデュエル場に向かっていった。

 

「よろしくお願いします!」

 

「……ああ、よろしく」

 

 互いに準備が整い、レイのデュエルが始まろうとしていた。

 

「……間に合ったか」

 

「随分早かったね、亮」

 

 少し前までデュエルをしていた亮だったが、何とかレイのデュエルが始まる前に自身のデュエルが終わり、吹雪のいる観客席まで戻ってこられた。

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は僕だ! 僕のターン、ドロー。恋する乙女を召喚する!」

 

 黄色いドレスに身を包んだ華奢な少女がドレスの裾を持って一回転しながらフィールドに現れた。

 

恋する乙女 攻撃力400

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

レイ LP4000

 

フィールド 『恋する乙女』(攻撃表示)

 

セット2

 

手札3

 

「俺のターン、ドロー。……お前のデュエル、学園祭の時に見せてもらった」

 

「……!」

 

「恋する乙女によって乙女カウンターを乗せ、キューピッド・キスによってコントロールを奪う戦術。しかし、それさえ分かっていれば打つ手はいくらでもある。手札を1枚捨てマジックカード、コストダウンを発動。これにより俺の手札のモンスターはこのターンレベルが2つ下がる」

 

「手札のモンスターのレベルを……? まさか、いきなり上級モンスター!?」

 

「そうだ。レベル4となったヘルカイザー・ドラゴンは生贄を必要とせず召喚することが出来る! いでよ!」

 

 血の池地獄のように真っ赤に染まったマグマを突き抜けて、黒き翼が熱で赤くなった竜が姿を現した。

 

ヘルカイザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

「攻撃力2400……!」

 

「キューピッド・キスを使用するためには戦闘ダメージを受ける必要がある。この攻撃で2000のダメージを与えれば、少なくとも恋する乙女にキューピッド・キスを装備しても意味はない」

 

「くっ……確かにね」

 

「だが俺はさらなる一手を打つ! 装備魔法、スーペルヴィスをヘルカイザー・ドラゴンに装備。これによりヘルカイザー・ドラゴンはもう1度召喚した扱いとなる」

 

「えっ……フィールドにいるモンスターをもう1度召喚?」

 

 熱が冷えて赤みが引いた翼が装備魔法がつけられた瞬間、緑色の線によって模様が描かれていき、真の姿を見せた。

 

「ヘルカイザー・ドラゴンはフィールド及び墓地にある限り通常モンスターとして扱われ、再度召喚することで効果モンスターとなるデュアルモンスターだ。そしてヘルカイザー・ドラゴンが得た効果は……1度のバトルフェイズで2回の攻撃をすることが出来る効果だ!」

 

「なっ!」

 

「恋する乙女を攻撃表示で出したのが仇となったな。このターンで終わりだ! バトル! ヘルカイザー・ドラゴンで恋する乙女に攻撃!」

 

 ヘルカイザー・ドラゴンは翼を折りたたむようにすると弾丸のように回転しながら、恋する乙女に向かって突き進んでいった。

 

「……確かに僕のデッキはキューピッド・キスで相手モンスターのコントロールを奪うのが基本戦術。だけどそれだけだと思われてるなら、ちょっと……乙女のことを甘く見過ぎかな!」

 

「何だと!?」

 

「トラップ発動、聖なる鎧—ミラーメール—! 僕の場のモンスターが相手モンスターの攻撃対象になった時に発動出来る! その効果で攻撃対象になったモンスターの攻撃力は……攻撃モンスターの攻撃力と同じになる! 乙女は相手のことを想えば想うほど強くなるんだから!」

 

「な……乙女カウンターを乗せるのが狙いじゃなかったのか!?」

 

 乙女のドレスが白銀に輝くものへと変わっていくと鏡の装飾が施される。勢いよく向かってくるヘルカイザー・ドラゴンが鏡に映されると乙女にドレスを通して力が与えられた。

 

恋する乙女 攻撃力400→2400

 

「そして恋する乙女は攻撃表示の時、戦闘では破壊されない!」

 

「……! まさか……!?」

 

 乙女と竜が衝突すると竜の突撃は壁にでもぶつかったかのように自分へと跳ね返ってしまい、その衝撃で消滅してしまった。

 

「レイのデッキは相手の力をうまく利用し、自分の力として相手に向けることがコンセプト。だがコントロールを奪うばかりが相手の力を利用するというわけではないということか」

 

「攻撃力を奪っただけじゃなく、同時に相手のモンスターも迎撃とは……やるね、レイちゃん」

 

「くっ、墓地へ送られたスーペルヴィスにより墓地の通常モンスター……ヘルカイザー・ドラゴンを復活させる!」

 

 消滅したはずの竜が翼の緑の模様を失った状態でフィールドに帰還した。

 

ヘルカイザー・ドラゴン 攻撃力2400

 

「でも恋する乙女の攻撃力はミラーメールの効果が続くから2400のままだよ!」

 

「……バトルを終了する」

 

(やられた……だが、今に見ていろ。そちらが聖なる鎧ならこちらは……)

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

ブルー生徒 LP4000

 

フィールド 『ヘルカイザー・ドラゴン』(攻撃表示)

 

セット1

 

手札1

 

「僕のターン! ……行くよ! 僕はこのモンスターを召喚!」

 

 恋する乙女より幼いおしゃぶりをつけた赤ん坊の魔術師が羽を羽ばたかせて乙女の上を飛び出した。

 

「ベリー・マジシャン・ガール!」

 

ベリー・マジシャン・ガール 攻撃力400

 

「え……ええっ! なんでレイがマジシャン・ガールを持っているっすか!?」

 

「ああ……この前の学園祭の時にブラック・マジシャン・ガールがレイに託したんだよ」

 

「な……ということはブラック・マジシャン・ガールのカードも!?」

 

「勿論あるぜ」

 

「な、ななっ……なんすとー!?」

 

 ブラック・マジシャン・ガールの大ファンである翔にとってその事実は他の何よりも衝撃的だった。

 

「翔……今にも譲ってくれとか言い出しそうなんだな」

 

「なんで分かったすか!?」

 

「いやぁ、無理だと思うぜ。だってブラック・マジシャン・ガールから託されたものだからさ。むしろ何があっても手放さないんじゃないか?」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 そんな会話がされているうちにもデュエルは進んでいく。

 

「ベリー・マジシャン・ガールが召喚に成功したことでデッキからマジシャン・ガールモンスター……キウイ・マジシャン・ガールを手札に加えるよ! バトル、恋する乙女でヘルカイザー・ドラゴンに攻撃!」

 

 乙女が地に降り立ったヘルカイザー・ドラゴンに向かって走り出した。

 

「……そう。キューピッド・キスを使うにしろ、攻撃力を奪うにしろ、どちらにせよ攻撃は仕掛けられる。トラップ発動、聖なるバリア —ミラーフォース—! 相手が攻撃を宣言した時、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

 

「……!」

 

 ヘルカイザー・ドラゴンへの進路にバリアが貼られると歩みを進めた恋する乙女と後ろから追いかけていたベリー・マジシャン・ガールに襲いかかった。

 

「これでお前の場は全滅だ!」

 

「……させない! リバースカードオープン。速攻魔法、ディメンション・マジック! 自分フィールドに魔法使い族がいる場合、自分フィールドのモンスターを1体リリースすることで手札の魔法使い族モンスターを1体特殊召喚する!」

 

(……! 守備表示でモンスターを呼ぶことで被害を最小限に抑える気か)

 

「ベリー・マジシャン・ガールをリリースし……来て、キウイ・マジシャン・ガール!」

 

 赤ん坊の魔術師が消えていくと、代わりに頭にハートマークの装飾をつけた大人の女性の魔術師が姿を現した。

 

キウイ・マジシャン・ガール 攻撃力1800

 

「攻撃表示だと!?」

 

 バリアが乙女と魔術師を包み込んでいく。しかし魔術師が呪文を唱えるとハートマークの装飾から光線が放たれ、その光線に触れた乙女にもハートマークの装飾が施されていく。するとその装飾がバリアを弾いてしまった。

 

「なにぃ!?」

 

「キウイ・マジシャン・ガールのモンスター効果だ! このモンスターが表側表示でいる限り、僕のフィールドの魔法使い族モンスターは相手の効果の対象にはならず、また効果では破壊されない!」

 

「その効果で魔法使い族の恋する乙女とキウイ・マジシャン・ガールはミラーフォースの影響を受けなかったということか……。くっ、このターンのダメージは免れないか」

 

「ダメージだけで済むかな? あなたのフィールドをよく見てみなよ!」

 

「なっ……」

 

 バリアが晴れて視界が良くなるとヘルカイザー・ドラゴンの姿がどこにも見当たらず、消え去っていた。

 

「ディメンション・マジックには特殊召喚に成功した後、フィールドのモンスター1体を破壊出来る効果がある。その効果でヘルカイザー・ドラゴンは破壊されていたんだよ」

 

「なん……だと……」

 

「そしてまだ恋する乙女の攻撃は続いてる! 届け、一途な想い!」

 

 ヘルカイザー・ドラゴンを見失った乙女は今度は生徒の方に向けて駆けていった。

 

「うあっ……!」

 

ブルー生徒 LP4000→1600

 

「フィニッシュよ! キウイ・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!」

 

 両手で包むようにして円状の形を指で作り呪文を唱えると、その円から緑色の魔導弾が放たれた。

 

「……乙女のことを甘く見た時点で勝負は決まっていたということか」

 

ブルー生徒 LP1600→0

 

(やった……勝った!)

 

 デュエルが終わり、互いに礼をするとレイは意気揚々とユキ達の元に帰っていく。

 

(あのコンボは使わなかったけど、他のコンビネーションもいい感じ! えっと……ここら辺にいるのかな)

 

「ありがとう、ブラック・マジシャン・ガール。僕もっともっと強くなるよ」

 

「……! 頑張れ、レイちゃん」

 

 精霊が見えずその声も聞こえていないレイだったが、ブラック・マジシャン・ガールが応援してくれている気持ちだけはカードを通して伝わっていた。

 

「ただいま!」

 

「レイちゃん、おかえり」

 

「すっげえデュエルだったな! 俺と戦った時には無かったコンボもあったし、またデュエルしたくなってきたぜ!」

 

「そ、そうかな。へへ……またやろうね」

 

「おう!」

 

 レイが頬を少し赤らめる中、ユキを3番コートに呼ぶアナウンスが聞こえてきた。

 

「行ってきま——」

 

「続いて3番コートにシニョール三沢も来るノーネ!」

 

「え……」

 

「……まさか、いきなり当たることになるなんてな」

 

 ユキの初めての実技試験の相手は三沢大地に決まった。二人のデュエルはどうなるのだろうか——

 




出来れば次話は年内に投稿したいと考えてます。
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