幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第10話 カエルマップ

 カエルマップ。

 そこは木が生い茂り、何十もの大小の池が存在するマップ。

 生息しているモンスターはロッダフロッグにポポリンにアンバーナイト。

 そして中ボスのトードがいる。

 

 ロッダフロッグは、カードはもちろん、緑ハーブに空き瓶とエメラルドを落す。

 ポポリンはブドウとジルコンを落す。ポポリンカードも既に1枚持っている。

 アンバーナイトは鉄鉱石にエルニウム原石を落してくれるので嬉しい。

 

 このマップはトードがいる以外は、本当に美味しいマップだ。

 問題なのが中ボスのトード。

 こいつ1匹なら倒せなくもないのだが、取り巻きのロッダフロッグが厄介だ。

 どうやら回避のFleeは複数のモンスターに囲まれると低下する、というゲームと同じ仕様のようで、既に何度か痛い目にあっている相手である。

 

 トードが近づいてくれば、ゲロゲロっという鳴き声がいくつも重なって聞こえてくるので分かりやすい。

 その声が聞こえた途端、回れ右で逃げだせば問題ない。

 トード以外にアクティブモンスターはいないのだから。

 

 ハエの羽で緊急脱出してもいいのだが、せっかく加護の俊敏で素早く移動できるのだから、お金節約のためにもなるべく自力で逃げている。

 ハエの羽はゲーム価格では売っていない。

 そこそこ高価なアイテムなのだ。

 

 真っ直ぐゲフェンに向かう道を進んではあっという間に過ぎ去ってしまう。

 あちこち寄り道するようにモンスターを探していく。

 この1ヶ月で僕もモンスターとの戦闘にずいぶん慣れたもんだよな。

 

 

♦♦♦

 

 

 カエルマップで1時間ぐらい狩りをしただろうか。

 残念ながらロッダフロッグカードは出なかった。

 代わりに2枚目のポポリンカードが出た。

 

 くそっ! こんなところで運を使ってしまうとは!

 

 ブドウ、鉄鉱石、エルニウム原石はそこそこ集まった。

 戻ったらカプラ倉庫に入れておこう。

 

 さて、そろそろゲフェンに向かって……、

 ん? あれは……。

 

 木に前に幼い少女が立っている。

 こんなところに少女が? と一瞬驚いたが、手に弓を持っているのでアーチャーだろう。

 木に隠れてモンスターを探しているのか?

 

 しかし隠れる理由が分からない。

 トード以外は非アクティブなのだから、見つけてから距離を取ればいいのではないか?

 そっと近寄ってみる。

 

 やはりアーチャーだ。

 アーチャーは弓を引いて放てば矢が出てくれる。

 矢を実際に持つ必要はないのだ。装備していればいい。

 

 狙っている獲物は……! おいおい……本気か?

 

 トードだ。

 トードがいる。

 だから隠れていたのか。

 

 取り巻きが6匹。

 いつもの数だ。

 1度倒せば取り巻きは出てこない。

 

 あ、弓で逃げ撃ちして取り巻きを1匹ずつ倒すつもりか?

 確かにアーチャーならそれが可能だ。

 トードから逃げる足があるのなら。

 

 少女の邪魔をしないように、一定距離から近寄らないようにする。

 少女がいつ動き出すのか、どのような動きをするのか観察することにした。

 

 後姿しか見えないが、これだけ見たら小学生の女の子と思ってしまうな。

 クリーム色の髪がキラキラ輝いて綺麗だ。

 

 お、少女が弓を引いたぞ。

 なんかずいぶん動きが遅いな。

 遠距離からの先制攻撃だから初撃は別にゆっくりでいいのか。

 でも別にゆっくりじっくり弓を引いたから攻撃力上がるとかないよな?

 そんな疑問を持ちながら見ていると、少女が弓を放った。

 

 

 ゴォォン!

 

 

 という轟音が聞こえたような気がした。

 いや、実際に聞こえたのだ。

 少女が放った一撃は、閃光の如くトードに突き刺さった。

 

 なんちゅ~馬鹿力だよ。

 

 いや、器用さか。

 弓の攻撃力は力じゃなくて器用依存だったはずだ。

 この少女は器用の加護が高いのか。

 しかし……、

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!」

 

 トードと取り巻きから逃げる少女の足は遅い。

 すんげ~遅い。

 いや、マジで遅い。

 そして、ちょっとなにその走り方。

 短くて小さな足で、ちょこちょこ走るその姿。

 めっちゃ可愛いんですけど。

 本気でその走り方なの?

 

 少女は漫画に出てくるような小走りで必死にトードから逃げる。

 が、すぐに追いつかれてしまいそうだ。

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!」

 

 ハエの羽は持っていないのか。

 このままだとセーブポイントにお帰りだな。

 

 見なかったことにしてもよかった。

 ソロで狩りをする者が失敗すればセーブポイント送りになるのは当たり前だ。

 でもこの少女の走り方があまりにも可愛かったので、放っておけなかった。

 

 加速された世界へと入っていく。

 トードよりも先に少女へと追いつく。

 

「助太刀参上!」

 

 少女を抱きかかえる。

 突然現れた僕に驚くも、抵抗する間もなく僕の胸の中に納まる。

 本当に小さい。

 身長いくつだよ。

 

「え? ええ!?」

 

「騒がないで! 君を連れて逃げるから!」

 

「え? あ、ちょ、ちょっと! トードが!?」

 

「分かっている! 追跡範囲から出るだけだ!」

 

 どこまでも追ってくるわけじゃない。

 一定距離離せば、追ってくるのをやめるのだ。

 少女を抱えたまま、トードの追跡範囲外にまで逃げた。

 

 

♦♦♦

 

 

「あ~突然ごめんね。僕はグライア。プロンテラで冒険者兼運び屋をやっています。トードに追いつかれそうだったので、危ないと思って君を助けようとしただけなんだ。

 だから怪しい者ではありません」

 

 少女は僕のことを思いっきり不審者扱いしてきた。

 そりゃ~そうだろう。

 いきなり抱きかかえられたんだから。

 

「私はアイリスよ。

 とりあえず礼を言っておきます。

 助けてくれてありがとう。

 でもいきなり女性を抱きかかえるなんて破廉恥ですよ! まったく……」

 

 アイリスと名乗った少女は顔を赤くしている。

 恥ずかしかったのだろう。

 

「ごめんね。でも君みたいな女の子がどうして1人で狩りしているの? ギルドの人達は?」

 

「む!? 貴方何歳?」

 

「え? 18歳だけど」

 

「18歳の人族に女の子扱いされるほど、私は幼くないわ!

 こう見えて貴方より年上なんだからね!」

 

「ええ!?」

 

「な、何よ。分からないの? 私はドワーフよ」

 

 ドワーフ!?

 そうか! それで小さいのか!?

 

「ご、ごめんなさい。気付いていませんでした」

 

「ふん! 分かればいいのよ。それにしても貴方すごい速いのね」

 

「え、ええ。取り柄がそれしかありませんから」

 

「それに冒険者兼運び屋って……プロンテラの運び屋なの? どのお店?」

 

「フェイさんという方の運び屋でお世話になっています」

 

「え!? もしかして……貴方が韋駄天?」

 

「あ、そうです。韋駄天って呼ばれていますね」

 

 お~韋駄天の名もけっこう有名になってきたんだな。

 グライアは知らなくても、韋駄天は分かるとは。

 最初は恥ずかしかったけど、こうして韋駄天で通じるとなんだか誇らしい気分だ。

 

 じろじろと僕のことを見てくるアイリスさん。

 身長130cmぐらいかな? 顔も童顔だ。胸もない。

 まさにお人形さんみたいな人だ。

 それなのに、あの弓の一撃。

 本当に閃光というか、まるでエネルギー砲みたいな感じだったな。

 動きが遅かったから、Agiはかなり低そうだけど。

 器用極の可能性大だな。

 

「い、今は仕事中なの?」

 

「はい。これからゲフェンに荷物を運びにいくところです」

 

「ゲフェンに? どうしてここを通っているの?」

 

「あ~荷物を運ぶついでに、狩りもしているんですよ。それで今日はここでロッダフロッグ狩りでもしていこうかと思いまして。運良くカードでないかな~なんて思いながら」

 

「カードなんてそうそう出ないでしょ。ま、まあ私も貴方と同じようなもんだけど」

 

「アイリスさんもカードを?」

 

「違うわ。私は……」

 

 急にまた顔を赤くしてもじもじするアイリスさん。

 だからそんな仕草されると可愛すぎるですけど!

 

「そ、その……トードを! トードを狩るのが私の目的なの!」

 

 訳わからん。

 トードを狩ることに意味はないでしょ。

 経験値だけなら他のモンスター倒した方がいいだろうし。

 

 トードカードか?

 ボスカード狙いなのか?

 他にトードがドロップするものといえば……。

 

 

 ぴこ~ん!

 

 

 分かった。分かったぞ!

 アイリスさんが何を欲しがっているか!

 たぶんだけど、大きなリボンだな。

 

 あの見た目の可愛さから、ゲームでも人気の高かった大きなリボン。

 このお人形さんみたいなアイリスさんが装備すれば、可愛さ爆発なのは間違いない!

 

 本人は幼い女の子と間違えると怒ったけど、きっと可愛いもの好きなんだな。

 まあ何歳になっても、可愛いものは可愛いいのだろう。

 僕にとってはアイリスさんそのものが可愛いけどね。

 

 着させてみたいな。

 アイリスさんに大きなリボンを着させてみたい!

 すっげ~可愛いと思う!

 

 しかし問題はどうやってトードを倒すかだ。

 正直僕も囲まれると終わりだ。

 僕が逃げ回っている間に取り巻きを1匹ずつ倒してもらうか?

 でもアイリスさん動き遅いから、僕が逃げ回るのに追いつけないだろうな。

 狭い範囲で逃げ切るには無理がある。

 

 貯め込んだ初心者用ポーションで耐えるか?

 でも痛い出費だな。

 それにポーションの回復速度が追いつくかも微妙だ。

 まさか白は使えない。

 アイリスさんが大きなリボンを装備した姿は見てみたいけど、それとこれは別問題だ。

 そもそも大きなリボン落すかも分からないし。

 確かゲームではドロップ率1%もなかったはずだ。

 僕が倒せれば、幸運補正でかなりのドロップ率になるだろうけど……。

 

 僕がう~~~んと悩んでいると、アイリスさんが顔を真っ赤にしながら言ってきた。

 

「あ、あの、貴方の足の速さを見込んで頼みたいことがあるの! トード狩りを手伝ってくれないかしら?」

 

 おっと、僕1人が盛り上がっていて、そもそも協力するなんて話になっていなかった。

 危ない、勝手に話を進めるところだったよ。

 

「ええ、いいですよ。ただ僕は囲まれるとすぐに倒されてしまいます。

 ご存知かもしれませんが、僕の1次天職がノービスという最弱冒険者なんです。

 逃げ足だけは自信あるのですが、ただそれなりの広範囲を使って逃げないと……」

 

「それだと私が貴方の逃げる速度に追いつけないわ。

 私は俊敏の加護がまったくなくて、動きがとても遅いの

 そこで相談なんだけど……」

 

 アイリスさんの作戦は僕の予想の範囲外であった。

 

 

♦♦♦

 

 

「いいわね!」

 

 アイリスさんは上機嫌である。

 なぜか。

 それはアイリスさんの作戦に従って、僕がアイリスさんを……肩車しているからである。

 

 そう肩車。

 小さなアイリスさんを肩車して、僕が逃げる

 そしてアイリスさんはカエルを撃ち続ける。

 倒す。

 これがアイリスさんの作戦であった。

 

 上機嫌なアイリスさんとは対照的に、僕はかなり困っている。

 何を困っているのかというと……その、いろいろ首に当たる感触がね。

 アーチャーの衣装ってそれでなくても、ミニスカのような感じでいろいろ危険なのに!

 

 木の向こう側にトードがいる。

 ちゃんと見つけてから肩車したよ。

 肩車しながら探したわけじゃない。

 

「いくわよ?」

 

「は、はい」

 

 弓を引こうとアイリスさんがぐっと脚に力を入れる。

 すると、首に押しつけられる感触が強まる。

 ちょ、ちょっと、それやばいです。

 もういろいろやばいですよ?

 

 柔らかい太ももが首を締め付ける。

 ちょっと苦しいのに何故か幸せな気持ちになってしまう。

 これはいかん。

 絶対にいかん。

 また1つ変態の道を上ってしまう。

 

「はぁ!」

 

 アイリスさんの閃光矢(勝手に命名)が放たれる。

 取り巻きの1匹が、フギャ! という声と共に倒れる。

 ロッダフロッグは1発か。

 

「逃げますよ!」

 

 こちらを認識して追いかけて来るトード達から逃げ始める。

 全速力では距離が離れてしまうので、着かず離れずの速度を探り出す。

 走って逃げると、これまた首に素晴らしい……違う、危険な感触が押しつけられてくる。

 くっ! 我慢するんだぞマイジュニア!

 

 アイリスさんがもうちょっと遅くとか、もうちょっと速くとか、トード達との距離感を教えてくれる。

 そして最適な速度が分かったところで、再びアイリスさんが弓を構えようとしたのだが……。

 

「ちょ、ちょっと、これだと撃ち難い」

 

 などと、今さらなことを言ってきやがった!

 ええ!? 肩車で後ろ向きになりながら弓を引くって分かっていたでしょ!

 撃ち難いとかじゃなくて、どうにかして撃ってよ!

 

「くっ、え、えい!」

 

 さきほどまでの轟音の勢いある矢ではない。

 明後日の方角に力なく放たれる矢が悲しそうにどこかへ落ちる。

 

「ど、どうしよう! ちゃんと弓が引けないよ!」

 

 前を向かないと無理! とか言っちゃってますよこの子。

 いやこの子と言っても、僕より年上なんだけどね。

 この状態で前を向くって、どういう体勢になるか分かって言ってるのか?

 

「はぁはぁ……前を向くって、その……こっち側に来るってことですか?」

 

「え? そ、そっか! そっち側にいけば……え? そ、そっち側?」

 

「はい。そっち側というか、こっち側というか」

 

「え、えっと。それってつまり」

 

「はい。それってつまりそういうことになるというか」

 

「だ、だめよ! そんなのだめよ! だってパンツが丸見えに……」

 

「だったらその体勢で何とか弓を引いて矢を当てて下さいよ!」

 

「そんな無理言わないでよ! 難しんだからね!」

 

 まずい息切れしてきた。

 あいかわらず体力そんなにないんだよ。

 いくら小さいとはいえ、1人肩車しながら走っているんだから、疲れるさ!

 

「はぁはぁ……アイリスさんまずいです。疲れてきました」

 

「そんな! 男でしょ! 根性見せなさいよ!」

 

「そんなこと言ったって……はぁはぁ……はぁはぁ……」

 

「わ、分かったわ! そっち側に行くから!」

 

 

 え? くるの?

 

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