幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第12話 カプラ嬢

 魔法都市ゲフェン。

 街の中央には巨大な塔がある。

 この塔の上はマジシャンがウィザードに天職するための試練があるという。

 そして塔の地下は、ゲフェンダンジョン。ゲームではGDと呼ばれているダンジョンが存在する。

 

 GD1階、つまり地下1階はポイズンスポアがいるので、低レベル1次天職達の良い狩り場……となるはずが、そうはいかない。

 

 

 赤いやつは3倍速い。

 

 

 そう、赤いやつがいるのである。

 ハンターフライ。

 見た目は赤いチョンチョン。

 しかし恐ろしく強い。

 

 赤いやつは最初からいたわけではない。

 ある日突然、このGD1Fに住みついたのだ。

 

 基本的のモンスターの配置は変わらないものの、ある日突然、変化が起きることがある。

 神の悪戯か、悪魔の仕業か、運営の罠か。

 

 装備の揃っていない僕では、赤いやつを95%回避できない。

 どうしてポイズンスポアの中にこいつが紛れているのか理解に苦しむのだが、いるのだから仕方ない。

 お前は地下2Fにいけよ! とゲームをやっていた時、何度叫んだことか。

 数は少ないので、赤いやつを見かけたら狩り場を変えることで避けることもできる。

 でも固定狩りしていると、いきなり横湧きしたりするんだよね。

 

 モンスターは倒した時、光りの粒子となって消える。

 では生れる時は?

 同じく光りの粒子が集まってモンスターがいきなり生れるのだ。

 魔素が集まって生れる、とこの世界の人達は考えている。

 

 ハンターフライカードは是非とも欲しいのだが、今の僕では無理な相手なので仕方ない。

 武器に刺すカードで3%の確率で相手に与えたダメージの15%をHPとして吸収するという超お得なカードなのだ。

 特にハンターに人気のカードだったかな。

 これでHPを吸収して半永久的に狩りを続けるなんてプレイスタイルの人達がいたはずだ。

 

 GD2Fには、ウィスパーがいる。

 こちらも是非とも手に入れたいカードである。

 Flee+20。

 Agi型必須のカードだ。

 ウィスパーは数も少ないが念属性のため、無属性攻撃ではダメージを与えられない。

 弓は炎の矢で属性攻撃が可能なので倒しやすいんだよな。

 そうじゃないと、属性武器を準備する必要がある。

 

 GD2Fにはボスもいる。

 ドラキュラだ。

 他にも念属性のナイトメアや、カボチャのジャックがいたりと、高難易度ダンジョンとなっている。

 

 そもそもGD2Fからはオーディンの神力範囲外となるため、狩りをするなら命を賭けることになる。

 もちろんハエの羽や蝶の羽による離脱は可能だけど、絶対ではない。

 特にハエの羽は、飛んだ後に動きだすまで数秒の無敵時間なんてものはない。

 飛んだ先にアクティブモンスターがいれば、即攻撃してくるのだ。

 

 アイテムショートカットに登録した回復系アイテムも、絶対に回復が追いつくわけじゃない。

 複数のモンスターに囲まれて連続攻撃を受けたら、回復速度よりも早くHPが削られて0になってしまう。

 また自分のHPを超える一撃をもらえば、当然HPは0になる。

 

 

 ゲフェン塔は街のどこからでも見えるほど高くそびえ立っている。

 一定階以上はウィザードの天職試練でしか上れないため、どうなっているのか分からないのだ。

 

 そういえばプーさんはどうしているんだろう。

 ギルドに所属しないで1人で冒険者として活動しているはずだが、ウィザードの天職試練を受けることを考えると、ゲフェンを拠点にしているのだろうか?

 僕の初キスのお相手となって頂いたプーさん。

 同時に命の恩人でもある。

 

 そう、命の恩人だ。

 あの冒険者新人研修の時、プーさんがたまたま緑ハーブを持っていなかったら、僕は死んでいた。

 プーさんには恩を返さないといけない。

 ノービスの僕がウィザードを目指すプーさんにしてあげられることなんてほとんどないけど、低レベルモンスターのカードで欲しいものとかあったら渡してあげたいところだな。

 

 そう考えると、ウィローカードか、エルダーウィローカードか?

 どちらも頭装備に刺すカードだけど、ウィローは最大SP+80で、エルダーウィローは魔力+2。

 SPの多いマジシャン系だとエルダーウィローの方がいいかな?

 僕でも狩れるモンスターなので今度狙っておこう。

 

 最後にゲフェン塔をもう一度見上げて、ゲフェンから出る。

 そしてプロンテラに向かって走り出したのであった。

 

 

♦♦♦

 

 

 プロンテラに戻ると、ゲフェンから預かった手紙や荷物をフェイさんの運び屋の倉庫にまとめて入れる。

 それを合図に、他の人達が荷物の仕分けをしながら、次々と運び出していく。

 

 フェイさんにも帰りがいつもより遅かったな、と理由を聞かれてしまった。

 モンスターに遭遇したと答えると、お前は弱いんだから戦うんじゃないぞ、と忠告されてしまった。

 

 遠隔地担当の僕はプロンテラ内の運び作業をすることはない。

 1日1か所の遠隔地との往復をすれば、それで仕事は終了だ。

 お先です~、なんて言いながら帰りたいのだが、残念ながらこの倉庫が僕の住処。

 だからと言って、働いているみんなの前でごろごろしていられるほど神経は太くない。

 

 カプラ嬢のグラリスさんに会いにいくことにした。

 アイテムを預けるために。

 

 

 カプラ店は冒険者ギルドのすぐ近くにある。

 フェイさんの運び屋からもすぐだ。

 

 もともとはプロンテラ支部だったこの場所が、今は仮のカプラ本社である。

 ドアを開けると、カランカランという綺麗な鐘の音が響く。

 するとすぐにカプラ嬢がやってくる。

 

「いらっしゃいませ、グライア様」

 

 どのカプラ嬢も優秀で、自分の担当でない冒険者の名前も全て覚えている。

 僕の顔を見ると、すぐにグラリスを呼んで参りますので、と動いてくれる。

 

 1階の受付の横には、いくつかのテーブルと椅子が置かれている。

 椅子に座ってグラリスさんがやってくるのを待った。

 

 

 カプラ嬢は天職である。

 つまり僕達と同じだ。

 冒険者ギルドではなく、カプラ本社で天職を得ることになる。

 カプラ嬢の天職を得た者は、そのままカプラ本社に就職して働くことになる。

 

 カプラ嬢が持つスキルは補助系がほとんどであり、戦闘系はあまりない……と言われているが、実際のところは不明である。

 僕達と同じくスキルはジョブレベルが上がった時にたまたま得られるものなので、全員が同じスキルを持っているわけではない。

 

 その中でも「カプラ倉庫」というスキル持ちの人は、冒険者の担当者となれる。

 アイテムボックスなんて相手にならないほど、膨大な容量のアイテムを保管できるスキルなのだ。

 ただし、スキルを発動するためにはカプラ店内にいる必要がある。

 

「お待たせしました、グライア様」

 

 グラリスさんがいつものように、眼鏡をくいっ! と持ち上げながら登場してきた。

 

「アイテムのお預けで?」

 

「はい。それとちょっと相談も」

 

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

 再び眼鏡をくいっ! と持ち上げながら、グラリスさんが2階の部屋に案内してくれる。

 個室ではない。

 それが残念だ。個室ならこう……ちょっといい雰囲気になっちゃったりとか……ないか。

 

 ここは、カプラ倉庫スキル持ちのカプラ嬢さん達の部屋である。

 ディフォルテーさん、ビニットさん、ソリンさん、テーリングさんなどなど、カプラ倉庫スキル持ちの方々がいらっしゃる。

 

 入ってすぐにテーブルがあるので、ここでカプラ嬢といろいろ話せるようになっている。

 まずは今日の狩りでの成果アイテムをグラリスさんに渡していく。

 

「これと、これと、これ……あ~、あとこれも」

 

「あいかわらず、ふざけたドロップ率ですね」

 

 グラリスさんのカプラ倉庫に直接アイテムを入れていく。

 取引ウィンドウみたいなものが出てくるのだ。

 なので、テーブルにアイテムを1つ1つ出しているわけではない。

 他のカプラ嬢達は、僕が何のアイテムをグラリスさんに預けているのか分からない。

 

「結構貯まってきましたよね。スロットの多いスティレットが欲しいのですが、中級冒険者にならないと作ってもらえないんですよね」

 

「冒険者ギルドの依頼を優先にこなしていけば、グライア様ならすぐに中級冒険者になれると思いますが。

 私に預けているアイテムを欲している依頼も多いと思いますよ。

 それらの依頼を受けていけば、中級冒険者なんてすぐです」

 

「グラリスさんに預けているアイテム達は、将来のために僕が必要なアイテムですから。冒険者のランクを上げるために使うつもりはありません」

 

「そうですか。ところでご相談とは?」

 

「アイリス、という名のドワーフ族のアーチャーを知っていますか? 今日ちょっといろいろあって、彼女と知り合いになったんですよ。

 ま~悪い人ではないと思うのですが、どんな冒険者か知っていたら聞こうと思って」

 

「ゲフェンを拠点に活動しているアーチャーですね。

 ギルドに所属しないで活動しているはずです。

 アーチャーとして素晴らしい一撃を放つという噂ですが、反面、俊敏や体力に問題があるそうです。

 また、可愛いもの好きで、とにかく可愛いものを集めるのが趣味とか。

 可愛いもののためなら、すぐに散財してしまうようです」

 

「グラリスさんもやっぱり可愛いもの好きなんですか?」

 

「いえ、特には」

 

 くっ! クールなグラリスさんにこの程度の口撃は効果なかったか。

 

「ギルドに所属していないのですから、グライア様とPTを組みやすい相手、ともいえますね」

 

 ギルドに所属している者が、ギルドメンバー以外の者と頻繁にPTを組んで狩りするのはあまりよく思われない。

 当たり前のことだけどね。

 狩りするなら、同じギルドメンバーを誘って行けばいいわけで。

 

 ここらへんはゲームでは、レベル差やログイン時間の差とかで、ギルドメンバーと狩りに行くのが難しい状況もあった。

 それに、どんなに仲の良い友達であっても、たまにはソロでまったりしたいとか。

 そんな時は別キャラを使うわけだけど、ゲームではないこの世界に別キャラなんてものはない。

 

「トードがドロップする大きなリボンが欲しいらしく、ゲフェンに荷物運ぶ日は必ず手紙を寄こすように言われましたよ。強制的にフレンド登録させられちゃったし。

 逃げ足だけは速い僕とは相性良いかもしれないのですね」

 

「逃げ足だけは……ですか」

 

 グラリスさんが、眼鏡をくいっ! と持ち上げる。

 眼鏡の中から鋭い眼光が……。

 

「あと、アイリスさんと同じくギルドに所属しないで活動していると思うんだけど、プーさんって名前のマジシャン知っています?」

 

「はい。先日、冒険者登録から最速でウィザードになった天才魔術師ですね」

 

「え!?」

 

 ウィザード? もうウィザード!?

 だってあれからまだ1ヶ月しか経っていないのに!

 

「オーディン様の神力範囲外で主に狩りをしているようです。かなり無茶な狩りをして、ものすごいペースでレベルを上げていったそうです。ウィザードの天職試練もまったく問題なく突破したとか。

 この話題を知らないのは、冒険者なのに冒険者ギルドにあまり顔を出さないグライア様ぐらいですよ」

 

 そ、そうだったのか。

 プーさんってすごい人だったんだな。

 僕の初キスの相手はすごい人だった!

 

「ウィザードになった後も、ギルドの勧誘は全て断り、魔術師団への勧誘も断ったそうです。行動目的に不明な点が多いですが、オーディン様の神力範囲外で狩りを行う方達のほとんどは似たようなものですから。

 一攫千金を狙っている命知らずな冒険者、と言われることも多いですが、私には何か他に目的があるように思えてなりません。

 オーディン様の神力範囲内でも一攫千金を狙うことは可能なのですから」

 

 確かに。

 プーさんのような神力範囲外で狩りを行う人達って何が目的なんだろう。

 強さ?

 この世界では自分よりもレベルがかなり下のモンスターからは経験値が得られなくなる。

 神力範囲内だけの狩りでは、ベースレベルを99にすることなんて絶対に不可能なのだ。

 神力範囲内ではベースレベル80台が限界だ。

 

 そのため、そこから先の強さを得るには神力範囲外に出ていかなくてはいけない。

 今はボット帝国なんて脅威があるから、強さを求めることも分かるけど、それ以前にはそこまで強さを求める理由なんてなかったはずだ。

 

 ま~僕なんかが考えたところで何か分かるわけでもないか。

 地道にスパノビ装備を整えるための計画を進めていこう。

 

「情報ありがとうございます。

 他人の情報をもらっといてなんですけど、僕の倉庫のことは……」

 

「分かっております。それにいまお話した内容は特に秘密情報ではありません。

 冒険者なら普通は知っている情報に過ぎません。

 もし仮に、私がアイリス様やプー様から直接聞いた情報であったとしたら、カプラ嬢失格でございます。

 もちろん、直接お話したことはございませんが、直接得た情報はグライア様の頼みであったとしても教えることはございませんので」

 

 グラリスさんは最後にまた眼鏡をくいっ! と持ち上げて言った。

 




ストックはありません。

早くて3日での更新。
遅いと1週間~10日での更新となりそうです。
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