幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第13話 お届け物

 カプラ店を出た僕は、久しく顔を出していなかった冒険者ギルドに向かうことにした。

 冒険者ギルドに行っても、受付のエーラさんと話す以外にすることがないからだ。

 最弱冒険者である僕に指名での依頼なんてあるわけない。

 民間の荷物を遠隔地に届けるのは常にご指名されているけど!

 

「あら、珍しい。グライアが顔出すなんて。あ、もしかして飲みのお誘い?」

 

「違いますよ」

 

 エーラさんの初対面の印象が「清楚」だったのが遠い昔のように思える。

 実際にはお酒大好き、秘密話大好きのキャピキャピのお姉さんだった。

 ま~その顔をここまであからさまに見せるのは、僕ぐらいなんだろうけど。

 一度飲みに行ってから、僕のことは呼び捨てになったし。

 

 ちゃんとした1次天職や2次天職を持つ冒険者達に対しては、見事なまでに清楚で仕事のできる受付嬢を演じている。

 その仮面を被るのも疲れるのだろう。

 モンスターと戦う上ではまったく期待されない僕は、冒険者として見てもらえていないせいか、その仮面を脱ぎ捨てて接してくるのだ。

 それはそれで嬉しく思うけど。

 

 グラリスさんとは違い、仕事で知り得た秘密話を僕にしたくてうずうずしている。

 話す秘密話も主に恋話が多く、あとは仕事の愚痴とか。

 本当に言ってはいけない秘密まで、僕に話すなんてことはない。

 

「また誘ってよね。グライアと飲むのストレス発散になるし」

 

「また今度誘いますよ。今日はどんな依頼があるか見にきただけです」

 

「ポリン討伐なんて依頼はないわよ?」

 

「分かってますよ」

 

 討伐系の依頼の多くは、モンスターが異常発生してしまった場合に出されるのがほとんどだ。

 ゲームでは1つのマップに存在するモンスターの数はシステムで制限されていた。

 でもこの世界はそうはいかない。

 放っておくと、ものすごい数のモンスターが密集していたりすることがある。

 非アクティブモンスターなら特に問題ないのだが、アクティブモンスターが異常発生した場合は討伐系の依頼が出されるのだ。

 

 ゴブリン村やオーク村では特に多い。

 彼らもまたこの世界に生きる住人である、例えモンスターであったとしても。

 しかし放っておくと、とんでもない数に増えてしまう。

 定期的に数を減らす必要があるのだ。

 

 ゴブリン村やオーク村となれば、一定規模のギルドが請け負うだろう。

 僕にはまったく関係ない話である。

 そしてエーラさんの言う通り、ポリンが大量発生していても、討伐依頼なんて出るわけないのだ。

 ゼロピーや空き瓶の買取りはホルグレンさんが常に依頼を出しているので狩ることに意味はあるのだが。

 

 ま~討伐対象がただのポリンでないものは、その情報が入ると直ちに討伐依頼が出される。

 そして強豪ギルドが競って討伐にいく。

 

 

 エンジェリング

 ゴーストリング

 

 

 このポリン系のボスである2匹は、ゲームでも人気のあるモンスターだ。

 

 エンジェリングは、カードはもちろん「天使のヘアバンド」の人気が高い。

 そしてこの世界では貴重な「ユグドラシルの葉」と「エンペリウム」を落す。

 ユグドラシルの葉は、HP0の状態の回復効果で、ゲームのイグ葉そのままだ。

 もちろん道具屋には売っていない。ドロップのみなので価値が高い。

 エンペリウムは主に武器製作の材料になる。

 

 そしてゴーストリングはカード狙いだ。

 念属性を得られる唯一のカードであり、装備すれば鉄壁の防御力を持てるようになる。

 エンジェリングと同じく、ユグドラシルの葉とエンペリウムも落す。

 また「亡者のヘアバンド」という装備も落すが、人気は微妙だ。

 シーフとアサシンが欲しがるシーフクロースという防具も必ずスロット付きで落すので人気が高い。

 

 どれも欲しいアイテムだけど、僕が最も欲しいのはゴーストリングが落す「古くて青い箱」である。

 これを僕が開けたらどうなるのか? その実験をしたいのだが、残念ながら市場に青箱が出回ることなんてほとんどない。

 あってもお金節約中の僕は買えないけど。

 

 幸運がドロップ率に影響を与えているとしたら、古くて青い箱も僕が開けたら良いアイテムが出るのではないか? なんて考えている。

 古いカード帖もいつの日か開けてみたいものだ。

 ボスカード出たりして!

 

 

 冒険者気取りで依頼一覧を眺める。

 ……いや、僕は正真正銘の冒険者なんだけどね。

 やっぱり冒険者ランクを中級に上げるには、貯めているオリデオコンかエルニウムを放出するか?

 スティレット製作にオリデオコンは残しておきたい。

 ゲームでは鋼鉄だけで作るスティレットだけど、スロット12のスティレットを作るにはオリデオコンが必要になるのだ。

 エルニウムは10個集めることで「濃縮エルニウム」にすることができる。

 これは防具の精錬が100%成功するエルニウムだ。

 オリデオコンも同じく10個で「濃縮オリデオコン」にすることができる。

 スロット4の防具を拾ったら、濃縮エルニウムで+10にしたいから、こちらもあまり放出したくないのだが……。

 

「そういえば、新人大会の組み合わせ決まったわよ」

 

「新人大会?」

 

「冒険者に登録して2ヶ月後に新人が競う大会よ。

 トーナメント形式で戦うの。

 今回の参加者は8人。ま~強制じゃないし、腕に自信のある人じゃないと出てこないから、これでも参加者は多い方なのよね」

 

「へぇ~」

 

 僕は当然のように、その新人大会から除外されていたわけだけど、エーラさんから組み合わせ表を見せてもらった。

 そこに書かれてある名前には見覚えのある人が2人いた。

 

 カリス君。

 そしてティアさんだ。

 

 カリス君は大会とか好きそうだから分かるけど、ティアさんが参加しているのは意外だ。

 争い事は嫌いなタイプに見えたから。

 

 ナディアさんとグリームさんは参加していないのか。

 マルダックさんはホルグレンさんにしごかれて、大会どころじゃないだろうし。

 プーさんは参加したら圧勝だろうな。

 

 ナディアさんが出ていないのも意外だ。

 てっきりカリス君と戦いたいと思っていたのに。

 

「ナディアさんは5ヶ月後にある砦戦のために、指揮の勉強とレベルアップに忙しいから出てこないのよ。それに1対1でカリス君に勝てるとは思っていないでしょうね。

 彼、女癖は悪いけど、剣の腕は本物だから」

 

 5ヶ月後、カリス君とナディアさんのお父さんが持っている砦を使って模擬試合の砦戦を行うことになっている。

 表面的には模擬試合だけど、実質はカリス君が勝ったらナディアさんは結婚を認める。

 ナディアさんが勝ったら、許嫁の件は無かったことになる。

 2人の両親も納得しているらしく、むしろ楽しんでいるとか。

 

「1ヶ月後にコロシアムで新人大会は行われるから、時間があったら見に行ってみたら?」

 

「そうですね。ティアさんの応援に行こうかな。新人研修以来会っていないですし」

 

「……そ、そうね。……そっか、グライアは知らないのね」

 

「え?」

 

「ううん、なんでもないわ。新人大会楽しみにしておくといいわよ……ぷっ!」

 

 何やら邪悪な笑みを浮かべているエーラさんが気になるけど、そのまま冒険者ギルドを後にすることにした。

 中級冒険者になるために、討伐系の依頼を受けたいけど1人では厳しい。

 ノービスの僕を受け入れてくれるPTもない。

 はぁ……誰かいれば……ん? 誰か……そ、そうだ!

 

 

♦♦♦

 

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……」

 

「ちょっと! 息が荒いわよ!」

 

「そんなこと言ったって……はぁはぁ!」

 

「ぁん! も、もう! 喋らないでよ!」

 

 アイリスさんを首車してトード狩り中です。

 中級冒険者になるために、アイリスさんに協力を願い出たのだ。

 そこで契約を交わすことになった。

 

1.グライアはアイリスがトードから大きなリボンを得るまで首車での狩りを協力する。

2.アイリスはグライアが中級冒険者になれるまで依頼達成を協力する。

 

 首車での狩りを納得してしまうアイリスさん。

 可愛いものゲットのためには、乙女のパンツぐらい見放題で問題ないのか。

 いや、見放題どころか、めちゃめちゃ押し付けてくるんだけどね。

 僕も進化していて、パンツを押し付けられた状態でも、このカエルマップなら逃げ回れるようになってきた。

 地形をほぼ頭の中に記憶してしまったのだ。

 

 最近では、トード狩り以外の時も僕の肩車で移動することが当たり前になってきた。

 なんだかアイリスさんが僕の頭装備みたいになってきた気分だ。

 弓で攻撃してパンツの三角地帯を押し付けてくる頭装備アイリス。

 うん、とっても素敵な頭装備だと思います。

 

「フンギャアアアアアア!」

 

 どうやら倒したようだ。

 さて、今日は何かドロップしたかな?

 

「……」

「……え? まさか?」

 

 またドロップ無し?

 アイリスさんは本当に運がないな。

 

「きた」

「え?」

「大きなリボンきたあああああああ!」

 

 アイリスさんは僕の肩を思いっきり蹴って飛んでいった。

 短い脚でちょこちょこ走りながら、大きなリボンに抱きついている。

 

「ああ……ついにこの時が」

 

「おめでとうございます」

 

 大きなリボンに頬擦りするアイリスさんの目からは滴が。

 物欲に塗れた滴だけど。

 しかし、これで首車の幸せは終わりか。

 ちょっと残念な気もするな。

 太ももとかも触りたい放題だったし。

 

「えへへ、どう? 似合う?」

 

 大きなリボンを早速装備するアイリスさん。

 クリーム色の髪の上に真っ赤なリボンが現れる。

 うん、可愛い。

 

「はい、とっても可愛いですよ」

 

「そ、そう? えへへ、でへへへへへへ」

 

 可愛い顔が台無しな笑顔だ。

 こうして見るとお人形さんみたいに可愛いのに、行動がちょっとあれなのが残念だ。

 ま~その行動も全て可愛い物を集めるためだけが目的だから、それほど他人に害があるわけじゃないのでいっか。

 

「それじゃ~ゲフェンまで送りますね」

 

「あ~今日はプロンテラに行きたいのよね。このままプロンテラに戻っていいわよ」

 

 俊敏の加護が低いアイリスさんのために、まずゲフェンまで行って荷物運びを終わらせた後にカエルマップまで肩車しながら来ている。

 つまり運び屋の仕事はこのままプロンテラに帰ることになる。

 いつもなら、アイリスさんをゲフェン近くまで送ってからプロンテラに帰るのだが、今日はこのままプロンテラに向かうことになった。

 もちろん肩車しながら。

 

 プロンテラ近くでアイリスさんを降ろして別れた。

 フェイさんの運び屋の倉庫で寝ていると言ったらビックリしていた。

 時間があるなら夜一緒にご飯でも食べようということになった。

 手紙を送るからと。

 

 上機嫌でプロンテラの街に入っていくアイリスさん。

 どうやら大きなリボンを自慢したい相手がいるらしい。

 

 僕はフェイさんの店に戻って、荷物をアイテムボックスから倉庫に出していく。

 僕はこれで仕事終わりなのだが、倉庫に置いたアイテムの中に気になる届け先があった。

 

ギルド「白薔薇」

 

 ナディアさんのギルドで、ティアさんが所属している。

 また女性だけで構成されたギルドでもある。

 

 そういえばあと5日後に新人大会か。

 ティアさんへの激励も兼ねてちょっと行ってみようかな。

 

「あ、この荷物は僕が届けてきますね」

 

「いいのか? ゲフェンまで往復して疲れているだろ?」

 

「大丈夫です! いってきま……す!」

 

 箱を持ち上げようとしたらメチャメチャ重かった。

 え? なにこの重さ?

 アイテムボックスに収納する時は、手で触れればいいので重さに気付かなかった。

 普通に持っていこうとしたら、信じられない重さだったのだ。

 こんな重いもの持っていきたくないので、アイテムボックスの中に収納することにした。

 

 

 ギルドの本拠地なんて本来あってないようなものだ。

 でも砦を所有しているギルドとなれば、当然その砦が本拠地となる。

 白薔薇は砦を持っていないけど、ナディアさんのお父さんが砦を持っているので、その砦を本拠地に使っている。

 届け先はプロンテラの中央砦となる。

 

 

 砦の門前です。

 強そうな門番の人達がいます。

 

「ギルド白薔薇のナディア様宛てのお届け物です」

 

「ご苦労。私が預かろう」

 

「ではこちらにサインを」

 

 門番の人にサインをもらい、取引ウィンドウでアイテムを渡す。

 これで仕事は終わりなのだが。

 

「あの~実は新人研修の時にナディアさんと、あとティアさんという人にお世話になった者なのですが、今度の新人大会にティアさんが参加されると聞いたので激励の挨拶が出来ればと思いまして」

 

「……そ、そうか。もの好きだなお前。ちょ、ちょっと待っていろ」

 

「は? あ、いえ、はい」

 

 もの好き?

 どういう意味だ?

 

 門番の人が砦の中に入っていく。

 そして5分もしないで、ある人を連れてきた。

 それは意外な人だった。

 

「こ、こんにちはナディアさん」

 

「貴方だったのね……」

 

 まさかのギルマス登場。

 てっきり適当な案内人が来ると思っていたのに。

 しかもなぜか僕を見るナディアさんは困ったような表情を浮かべているのだ。

 あれ? ナディアさんに何かしたっけ?

 いや、何もしていないはずだ。

 新人研修の時に情けない姿を見せたこと以外は……。

 

「ティアの激励に来てくれてありがとう。でもティアには会わせられないわ」

 

「え!? ど、どうしてですか?」

 

「それは……う、噂は聞いているでしょ?」

 

「噂?」

 

「え? 知らないの? 冒険者ギルドで……あ、そっか。貴方、確か運び屋で働いているのよね。それでさっきの荷物を運んできたのが貴方だったわけね」

 

 ティアさんの噂?

 そういえばエーラさんが邪悪な笑みをしていたな。

 あれと関係があるのか。

 

「ま~隠す必要はないんだけど。そもそも新人大会に出るわけだし。

 でも貴方なのがまずいのよ。貴方にだけは会わせられないわ」

 

 ほえ? 僕だからまずい?

 

「あの……僕何かティアさんにまずいことしましたっけ?」

 

「してないわ。むしろ逆ね。ま~とりあえず今日のところは帰って頂戴。

 新人大会を見て、それでもティアと話したいと思えたらまた来てね。

 あ、新人大会を見る時、出来るだけ遠くから見て頂戴。

 それと声出さないでね。

 ま~出せないと思うけど」

 

 それだけ言うとナディアさんは砦の中に入っていってしまった。

 その背中を見送った僕は、門番の人に目で帰れといわれたので、砦を後にしたのであった。

 

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