幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第16話 お告げ

 僕が危ないと叫んだ瞬間、ティアさんはカリス君の斬撃を受けることなく、一瞬で間合いを取っていた。

 速い。

 見ると足鎖が外れている。

 すぐに外せるようになっていたのか?

 

 チェインを握りしめるも、あいかわらずだらりと下げている。

 しかしこの試合初めてティアさんからカリス君に向かって歩き出した。

 無造作に間合いを詰めていく。

 

 カリス君は片手剣と盾を構え、ティアさんと距離を取っていく。

 ティアさんが一歩前に出れば、カリス君が一歩下がっていく。

 アコライトに押し込まれるソードマンなんて格好つかないけど、ティアさんのこの異様な雰囲気で近づいてこられたら、そりゃ~後ずさりしたくなるだろう。

 

 カリス君は時間をかけたくないはずだ。

 時間が経てばSPが自動回復してしまう。

 そうすればヒールをまた使われてしまうのだから。

 

「ティアはもうヒールを使えないわよ」

 

 ナディアさんがいつの間にか僕の隣に来ていた。

 ティアさんの姿に驚愕していて、ナディアさんが近付いてきていたことにまったく気付けなかった。

 ナディアさんはやや不満そうな表情で話を続けた。

 

「ティアのアイテムボックスには緑ハーブと装備品の足鎖で重たくなっているの。

 だからSPもHPも自動で回復することはないわ」

 

 重量50%オーバー状態なのか!?

 で、でも何でそんなことを……。

 

「まったく、あれほど声を出さないでと言ったのに……。

 ティアは貴方のこと……む」

 

 ナディアさんが何かを感じ取ったのか、言葉が止まる。

 そして。

 

「サイト!」

 

「げ!」

 

 ハイディングで隠れていたグリームさんをあぶり出した。

 

「なんでナディっちがサイト使えるんだよ!

 あ! ホロンカードか! これだから貴族は……」

 

「このホロンカードは自分で手に入れたものよ。

 お父様の財力に頼っているだけではないわ」

 

「おっと、これは失礼。

 それでそれで、ティアっちがグラっちのことでどうしたの?」

 

 ナディアさんが嫌そうな目でグリームさんを見ていると、会場から歓声が起きた。

 闘技場を見ると、ティアさんとカリス君が一撃交わし合ったのか、中央付近で対峙していた。

 

「すげ~あの女の攻撃に耐えたぞ」

 

 観客の声が聞こえる。

 カリス君がティアさんの攻撃に耐えた?

 初撃でふき飛ばされたあの攻撃に?

 

「ふん、戦闘技術だけは本物なのよね、彼」

 

「ああ、カリっちは強いぜ。マジで強いぜ。

 いくらティアっちが馬鹿力でも、力だけに頼っているなら勝てないだろうな」

 

「純粋な力と技術。どっちが勝つのかしらね。

 それにしても、足鎖を外したティアのスピードに初見で対応するなんて……」

 

「たぶん祈りの姿勢から距離を取った時に、ティアっちの速さを測ったんだろうな。

 それ以上の速さも想定して構えていたんだろう。

 だから自分から斬りかからなかった。

 ティアっちの足鎖を外した動きを確認しようとしたんだ」

 

「でも次はどうかしら」

 

 ティアさんがカリス君に襲いかかる。

 すごい速さだ。

 力だけではなく、俊敏も大きな加護を得ているのか?

 でもおかしい。

 ティアさんのベースレベルがいくつか分からないけど、よくて40台後半だろう。

 あれだけの力を持っているなら、ティアさんの加護は力に集中していると考えるべきだ。

 アコライトなのに。

 普通は魔力の加護が伸びるはずが、何故か分からないけどティアさんは力の加護が伸びてしまったはずだ。

 いわゆる殴りプリ……まだプリーストじゃないから、殴りアコか。

 力の加護が伸びたとしたら、あの速さは加護の速さじゃない。

 あれはティアさん自身の、人としての強さに基因しているのではないだろうか。

 

 ティアさんの速い打撃をカリス君は的確にシールドで防御していく。

 ものすごい金属の衝突音が鳴り響き、防御するカリス君も重い一撃に何とか耐えて、徐々にティアさんの動きを把握していっている。

 このままティアさんが押し切れるのか?

 カリス君がティアさんの動きを完全につかんでしまったら。

 

「ぐお!」

 

 カリス君が苦悶の声を上げる。

 どうしたんだ? 完全に防御したはずなのに。

 

「ぐお! ぐ、くっ!」

 

 たまらず距離を取った。

 僕の位置からは何があったのか分からない。

 

「チェインの棒の部分を盾にぶつけて、鎖が巻くようにカリスの腕に当たったのよ。

 普段より一歩踏み込む必要があるけど、盾で防いでも鞭のような鎖が襲いかかってくるの。

 ティアの力なら腕に当たっても、かなりの衝撃よ」

 

 HPがある状態で攻撃を受けても、身体の損傷はない。

 そして痛みもほとんど感じない。

 でもHPバリアを通じて衝撃を感じるのだ。

 

 腕に当たった攻撃は、胴体に攻撃が当たった時に比べてHPに与えられるダメージは少ない。

 つまり衝撃も少ないはずだ。

 それなのに、カリス君が声を出して距離を取らなくてはいけないほどのダメージと衝撃だったのだろう。

 恐るべしティアさん。

 

 距離を取って自分の腕を見つめているカリス君。

 再び剣と盾を構えて、あっ! じ、自分から前に進んだ!?

 ティアさんに自分から攻撃を仕掛ける気なのか?

 カウンターでチェインが飛んでくるのに!

 

「お~、カリっち男だね~。

 俺だったら、怖くてとてもとても近づけないぜ」

 

 グリームさんも立ち上がって闘技場を見つめている。

 すると、ナディアさんが僕の耳に口を近づけてきた。

 

「ティアは貴方の事を神格化しているわ。

 どうしてそうなってしまったのか、私にもよく分からないわ。

 新人研修の時のことが関係しているとは思うのだけど。

 ティアは独りでいろいろ悩んでしまって、私が気付いてあげた時にはもう手遅れだったの。

 貴方を神格化して、貴方のために力を求めるんだって。

 正直、貴方と会ったらティアがどんな行動に出るか……私にも予想できないから、貴方の安全も保証できないからね?」

 

 耳元で甘く囁いてくれるなら嬉しかったけど、囁かれた内容に僕は凍りついた。

 

 僕を神格化?

 どうして?

 い、いや、あの時は確かに命を賭けてティアさんを守ったような気もする。

 でも、そもそも命を賭けることになったのは、僕が愚かだったからで、勝手にHPを0にした僕をどうして神格化?

 

 わ、分からない。

 でも、神格化してくれているなら、会ったとしてもいきなりあのチェインで殴りかかってくるはないはずだ。

 

 

 ……ないよね?

 

 

 闘技場では、じりじりと円を描きながら間合いを詰めるカリス君と、カリス君の正面を取るように方向だけ変えるティアさん。

 試合が始まった時とまったく同じ状況だ。

 コロシアムは再び静寂に包まれていた。

 

 静寂を打ち破ったのはカリス君。

 ぐん! と大きく踏み込んでいった。

 次の瞬間、ものすごい衝撃音と共にカリス君のシールドが観客席までふっ飛んだ。

 しかし、カリス君はふっ飛んでいない。チェインとぶつかる直前にシールドから手を離していたのだろう。

 地を這うような姿勢から、右手に握る片手剣で斬り上げる。

 闘技場の床の石と摩擦を起こしながら、片手剣がティアさんを斬り……。

 

 囮とされたシールドをふき飛ばしたチェインはそのまま上段から地を這うカリス君に向かって振り下ろされていた。

 自らを斬り上げる剣なんてお構いなし。

 そのまま力一杯叩きつける!

 

 チェインはカリス君の顔面に打ち込まれると、闘技場の床に亀裂が走るほどの衝撃が起きる。

 そのままピクピクとしばらく震えるとピタリと動きが止まるカリス君。

 気絶したのか?

 

 うわあああ! と歓声が鳴り響く中、情けない姿のカリス君と、恍惚の表情を浮かべるティアさん。

 目が見えないけど、あれは絶対に感じまくっている表情だ。

 

「ふん、まあいいわ。本番は砦戦よ。そこで勝てばいいのだから」

 

 ナディアさんはそれだけ言うと階段を降り始める。

 あれ? まるでティアさんが負けたような言葉だけど。

 階段を数歩降りたところで、くるりと振り向くと僕に言った。

 

「会いに来たければいつでもどうぞ。今度は歓迎するわ」

 

 ナディアさんは階段を降り、会場を去っていった。

 

 闘技場には審判が上がっていた。

 そして騒ぐ観客を静かにさせると、大きな声で叫んだ。

 

「ただいまの試合はカリスさんの勝利です!

 ティアさんの最後の攻撃が入る前に、ティアさんのHPは0になっていました!

 よってカリスさんが優勝となります!」

 

 審判の声に観客の視線は一斉に床にちょっとめり込むように気絶しているカリス君へ。

 微妙な雰囲気が漂う。

 あ、あれが優勝者? みたいな。

 

 気絶するカリス君の前ではティアさんが身体を震わせながら再び祈りの姿勢になっている。

 なにかぶつぶつと言っているけど、この距離では当然聞き取れないし、聞き取らない方がいいように思える。

 

 選手入場口からカリス君のギルドの人達だろうか、数名が入ってくるとカリス君を介抱していく。

 

「グリームさんは行かなくていいんですか?」

 

「あ? あ~いいの、いいの。

 どうせ俺はあと少しの付き合いだろうから」

 

「え?」

 

「もうすぐカリっちが、お父ちゃまの部下の人達とPT組めるレベルになるんだよね。

 俺はそこまでの繋ぎなわけで。

 ま~こき使われたけど、それはそれで俺も楽にレベルアップできたからね。

 お互い様ってわけさ」

 

「その後、グリームさんはどうするんですか?」

 

「う~ん、さすがにいらない子扱い受けながらギルドでへーこらするつもりはないからな。

 カリっちのギルドは抜けるかな。

 ま~アサシンになれば、モテモテの人生が俺を待っているじゃん!?

 もうそうなったら、後はモテモテハーレム人生を歩むだけさ!?」

 

「……」

 

 僕は何も言えなかった。

 グリームさんに「アサシン」がモテるための条件の厳しさを伝えられるほど、僕の心は強くなかった。

 

「頑張って下さい」

 

 僕に言える精一杯の言葉だった。

 

 今月の新人大会はカリス君の優勝で幕を閉じた。

 

 

♦♦♦

 

 

 僕はいま、コロシアムの選手控室に繋がる廊下に立っている。

 試合が終わった後、グリームさんはさっさと帰ってしまった。

 僕も明日のゴブリン村の狩りに備えて早く帰って休もうかと思った。

 でも、僕の足はここに向かっていた。

 

 ティアさんが出てくるのを待っている。

 

 白薔薇のギルドの人達と一緒かもしれないけど、ティアさんに会ってどうしても伝えなくてはいけないことがある。

 ナディアさんの言葉が本当なら、ティアさんは僕を神格化している。

 どうしてそうなったのか分からないけど、とにかくそうなっている。

 なら、僕が伝えなくてはいけない。

 

 警備の人達には「ティアさんの知り合いです」と伝えたら怯えて通してくれた。

 

 ここに来て1時間ほど経った。

 最後だったのだろう。

 ティアさんが控室から廊下に出てきた。

 

 僕の気配をすぐに感じたのか、両手をもじもじさせながらゆっくりと歩いてくる。

 あいかわらず目隠しはしているけど、足鎖はつけていない。

 街中を歩く時までつけていたらどうしようかと思ったけど、そこまでしていないようだ。

 ティアさんは僕の前で、両手を前に祈りを捧げるような姿勢で立ち止まった。

 

「ティアさん」

 

 僕は意を決して言葉をかけた。

 

「は、は、はい」

 

 じゃっかん顔が紅潮しているようだ。

 興奮しているのかもしれない。

 あまり長時間は僕が耐えられそうにないので、伝えるべきことを伝えた。

 

「試合お疲れ様です。仕事があって決勝だけ見れましたよ。

 ティアさんの強さにビックリしちゃいました。

 でも……自分の身体を傷つけるような戦い方はダメですよ?

 ティアさんは女の子なんだから、自分の身体は大事にしないと」

 

「はぅ!」

 

 僕の言葉にビクッと震えるティアさん。

 闘技場で見せたあの恐ろしい雰囲気はどこへやら。

 今の姿は崇拝する神の前でひれ伏す信者のようであり、小さな子猫がびくびくと震えているようでもあり、優しい女の子が泣いているようでもあった。

 

「ティアさん」

 

「は、はい!」

 

「今後は身体を大事にしてくださいね」

 

「はい!」

 

 ティアさんはコクコクと頷いてくれた。

 

「よかった。

あ、そういえば時々、中央砦に荷物を届けることがあるんですよ。

 その時にはティアさんに会いにいきますね」

 

「はぅ!」

 

 なんだか一方的な会話になってしまったけど、これでティアさんが元に戻れるならいいさ。

 しかし間近で見たティアさんのビックマウンテンは間違いなく以前より大きくなっている。

 G? いやHはあるかもしれないな……。

 

「それじゃ~僕はこれで」

 

 僕はそっと右手を出した。

 見えていないのに分かったのだろう。

 ティアさんもそっと右手を出してきた。

 そして、ぎゅっと握手をして僕はその場から立ち去った。

 さて、明日の狩りの準備でもして早く寝よう。

 

 

 

♦♦――♦♦――♦♦

 

 

 

 あの御方が私の手を握って下さいました。

 試合に負けてしまったのに、あの御方の心はいったいどこまで優しいのでしょうか!

 しかも! しかもですよ!

 

 

 身体を大事に。

 

 

 私の身体をあの御方が大事に想ってくれていたのです!

 そ、それなのに、私は己の欲望のまま、心の支えなどといって身体を痛みつけてきたのです!

 ああ、私はなんと愚かなのでしょう。

 そうです、この身体はあの御方のものなのです。

 あの御方以外に私の身体を傷つけていいわけがありません!

 

 私に逢いにきて下ることもあの御方は約束して下さいました。

 今後はその時に、私の身体をあの御方が弄ぶということなのでしょう。

 ああ、考えただけで、私の身体は火照ってしまいます。

 お忙しいあの御方に我儘をいうことなどできません!

 でも、出来るならいますぐにでも、私の身体を好きなように……はぅ!

 

 私の右手にはあの御方の手の感触がいまも残っています。

 しばらくこの右手は洗いません。

 いえ、何かに触れるのもよくないですね。

 チェインも当分は左手で持ちましょう。

 この右手にはあの御方の温もりが……。

 

 私はその時、閃いてしまったのです。

 私の右手にはあの御方の温もり。

 つまりこの右手はあの御方ともいえるのではないか? と。

 この右手が自分の身体に触れたとしたら、それはあの御方が私の身体に触れているのではないかと。

 

 私はその閃きを得た後、1分で自分の部屋に帰りました。

 私が部屋から出てきたのは、2日後のことでした。

 




次話から第2章です。
ゴブリン村です。
オーク村もあるよ!

更新頻度は変わらず。
早ければ3日程度。
遅いと1週間~10日程度となります。
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