幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第2章
第17話 ゴブリン村


 新人大会の翌日。

 運び屋の仕事は、お休みを頂いているので1日かけて狩りが出来る。

 アイリスさんとペアでゴブリン村に行く予定だった。

 が、いま僕のPT人数は3名である。

 

「まったく、お前達2人でゴブリン村なんて危険すぎるだろうが」

 

 なんて優しい言葉を言ってくれているのはマルダックさんだ。

 マーチャントの天職を得たマルダックさんは、商人組合に所属していてホルグレンさんに毎日しごかれている。

 短く整った真っ白な髪に、褐色肌の筋肉ムキムキのマルダックさん。

 初めて見た時は25歳ぐらいと思っていたのだが、まだ20歳だった。

 こんなごついのに20歳。しかもマーチャントの衣装を着ているので、さらにおかしなことになっている。

 なんだろう、大人が小学生の服を着ているような感じだ。

 

「別にグライアと私の2人で大丈夫よ?」

 

 マルダックさんの言葉に反論するアイリスさん。

 クリーム色の髪を弄りながらマルダックさんを睨んでいる。

 見た目小学生だけど、僕より年上なアイリスさん。

 何歳なのかは知らない。聞いたら怒られそうだから。

 

「まぁいいじゃないですか。マルダックさんも大変なんですよ」

 

「べ、別に俺は……」

 

「ふんだ!」

 

 アイリスさんは初対面のマルダックさんがいることで、僕の肩に乗れないことが不満らしい。さすがに恥ずかしいのだろう。

 そしてマルダックさんが僕達のPTに入っている本当の理由は、ホルグレンさんから鉄を集めてこいと命令されているからである。

 しかも1人で。

 困り果てていたところに、僕達が今日ゴブリン村に狩りにいくことをエーラさんから聞いたらしく飛びついてきたわけだ。

 お前達2人だけでは危険だからと言ってね。ゴブリンは鉄鉱石や鉄を落とすのである。

 

 

 確かに普通で考えるとちょっと危険だ。

 もちろん神力範囲内なのだから、死ぬことなんてない。ボット帝国が襲ってこない限り。

 それでもベースレベル24のノービスと、ベースレベル32のアーチャーがペアでゴブリン狩りなんて危険だと思われてしまうだろう。

 トード狩りで僕のレベルは4上がっている。

 そしてアイリスさんのレベルを教えてもらえた。

 僕のことを信用してくれたと思うと嬉しくなるな。

 

 アイリスさんとご飯食べている時に、アイリスさんは普通にゴブリン村での狩りをOKしてきたので僕もすっかり勘違いしていたのだが、ゴブリンって意外に強いのだ。

 ただのオークウォリアーなんかと比べものにならないほど強い。

 ゲーム感覚で僕も「じゃ~ゴブリン村で」なんて答えちゃったんだよね。

 アイリスさんがあんなにあっさりゴブリン村での狩りと言ったのは、僕の俊敏性を知っているからだ。

 中ボスのトードのように取り巻きなんていないのだから、1匹ずつ確実に仕留めていけばいい。

 数が増えれば密集している可能性も高いけど、全部が全部密集しているわけでもなければ、常に密集しているわけでもないしね。

 逆にボスがいたり、ハァハァ群がってきたりするオーク村の方が厄介だと判断したみたいだ。

 単にハァハァ息が荒い兄貴(オークのこと)が嫌いなだけかもしれないけど。

 

 僕もアイリスさんを肩車しながら一緒に戦う作戦を実行してみたかったな。

 僕のうなじでバランスを取りながら弓を撃つアイリスさんを堪能しながら、自分がどれだけ動くことができるのか試してみたかった。

 今日は仕方ない。また別の機会にしよう。

 

 ゴブリン村に行くルートでゴブリン森を通ることにした。

 ここはゲームでも思い出のある場所だ。

 なぜなら、このマップの中央には青い草が生えているのだ。

 しかも4本も。

 この世界でもゲームと同じく中央に青い草が生えている。

 青い草からは青ハーブが取れるので、ゲーム初期の頃で資金に困ると青い草狩りによくここに来たものだ。

 当然、他にも同じような目的でくるプレイヤーもいて、時には仲良く分け合い、時には反応速度を競い合う戦争になったりと思いで深い場所だ。

 

 またこのマップには、輝く草も1本だけ生える。

 輝く草からは青ハーブ、白ハーブ、黄ハーブと多様なハーブが取れるのだが、レアドロップでユグドラシルの種とユグドラシルの実がある。

 種はHPとSPを50%回復。実は100%回復という貴重な回復アイテムだ。

 ゲームでの名称は「イグドラシル」だったけど、この世界では「ユグドラシル」と呼ばれている。

 また激レアで「幻想の花」と「エンペリウム」もドロップすることがある。

 幻想の花は様々なアイテム作成の材料となる。

 エンペリムはゲームではギルド作成に必要なアイテムだったけど、こちらも様々なアイテム作成の材料だ。

 

 僕のLuk値がドロップ率に関係していると気付いた時、まっさきにこの場所が思い浮んだ。

 そして実際に何度もこの場所に来ては青い草狩りをしているのだ。

 この世界でもライバルは多いけどね。

 神力範囲内だからモンスターに倒されても安全だし、僕の俊敏性なら割と安全に中央まで来れるのだ。

 グラリスさんのカプラ倉庫にはたんまりと青ハーブが眠っているのである。

 ユグドラシルの種と実もそこそこね。

 

 青い草などは狩ると一定時間経過後にまた生えてくる。

 ゲームと同じ感覚だけど、生えてくるまでの時間が完全にランダムな点が異なる。

 1分で生えてくることもあれば、10時間近く生えてこないこともある。

 ボット帝国が現れる前は、各ギルドから青い草狩り要因がずっと見張っているなんてこともあったそうだけど、ボット帝国によってここで死者が出て以降はずっと見張っている人はいなくなった。

 

 既にゴブリン森に入っている。

 ここからはアクティブモンスターが登場するので気を引き締めないと。

 マルダックさんのレベルは28。

 狩りだけではなく、商売のことや鍛冶のことなど学ぶことが多く、マーチャントのレベル上げ速度はどうしても遅くなるそうだ。

 レベル28のマーチャント1人でゴブリン狩りはさすがにきついだろう。

 まあ鉄鉱石や鉄集めってゴブリン狩り以外にも出来るけど。

 2次天職のブラックスミスになれば戦闘力もかなり上がるけど、マーチャント時代はやはり戦闘力では他職に劣るからな。

 もちろんノービスよりかは全然上ですよ!

 

 回避には自信があるので、と言って僕が前に出る。

 さっそくゴブリンのお出ましだ。

 ゴブリン森にはゴブリン剣(長男)はいない。

 それ以外のゴブリンが出てくるのだ。

 

「よっと」

 

 速さを抑えてゴブリンの攻撃を交わす。

 本気の速さをマルダックさんに見せるわけにはいかないから。

 そういえば、アイリスさんにも見せたことないのか。

 もう少し信頼関係を築けたら、一度僕の本気を見てもらってもいいかもしれないな。

 

 アイリスさんを肩に乗せて本気の速度で揺れ動く。

 細かい振動がうなじに起こるように!

 ……いかん、ただの変態になっているぞ。

 

 ゴブリンを僕が引きつけている間に、アイリスさんが弓で攻撃する。

 同時に後ろに回ったマルダックさんが斧で攻撃する。

 僕からタゲを外さないように、出来る限りギリギリでゴブリンの攻撃を避けながら、細かく斬りつけていく。

 あっという間にゴブリンは光りの粒子となって消えていった。

 

「1匹相手ならまったく問題ないですね」

 

「ああ、しかしグライアの動きには驚いたぞ。

 ノービスでそれだけ動けるとは、大したものだ。

 しかも全ての攻撃をギリギリでかわしていたな。

 HP0でポイズンスポアと死闘を演じたことといい、お前はスリルを楽しむタイプなのか?」

 

「違いますよ。僕はスリルを楽しむような人間じゃないです。

 ギリギリでかわしているのは、それだけ余裕がないってことですよ」

 

「え? HP0でポイズンスポアと死闘? なにそれ? なになに?」

 

 新人研修の時の話にアイリスさんが食いついてきた。

 あの時の話をしながら、マップ中央に向かっていった。

 

 

 マップ中央には青い草が生えていた。

 輝く草も。

 嬉々として草を狩る。

 刈るではなく、狩るなのである。

 輝く草はアイリスさんが狩った。

 すぐに草が生えてくるかもしれないので、ここで少し休憩することにした。

 

「そういえば、グライアはどうしてゴブリン狩りなんて依頼を受けたんだ?

 冒険者として生きていくのか?

 確かプロンテラの運び屋で働いているんだろ」

 

「はい。フェイさんの運び屋で働いています。

 でも冒険者も続けていきたいと思いまして。

 それで将来、スロットの多いスティレットを作りたいのですが、中級冒険者以上でないとスティレットの製作をお願い出来ないじゃないですか。

 それでアイリスさんの協力を得て、ゴブリン狩りの依頼を受けたんです」

 

「なるほど。

 アイリスも子供とは思えない一撃だったな」

 

「はぁ!? 私は子供じゃないわよ! あんたより年上なんだからね!」

 

「え!?」

 

 そういえば伝えてなかった。

 いきなりやってきて、お前達が心配だから俺もゴブリン村に行くぞ! で始まったので、アイリスさんのことをちゃんと説明していなかったな。

 

「アイリスさんはドワーフ族なんですよ。

 それで子供みたいな見た目なんですけど、ちゃんとした大人だそうです」

 

「ほ~! ドワーフ族か!

 ドワーフ族には優秀な鍛冶師が多くいると聞く。

 アイリス殿の知り合いで優秀な鍛冶師はいないのか?」

 

 そういえばドワーフと言えば鍛冶か。

 あれ? アイリスさんの知り合いにブラックスミスがいれば、こっそりスティレット製作を頼めるとか?

 

「いないわ。

 ドワーフ族の知り合いも少ないし」

 

「ドワーフ族の街ってどこにあるんですか?」

 

「……ないわよ。遠い遠い昔、貴方達人族に滅ぼされてね。今では散り散りになって生きているわ」

 

「あ……」

 

 まずい。

 この世界の歴史を知らない僕は地雷を踏んでしまった。

 まさか過去、人族がドワーフ族の街を滅ぼしていたとは。

 

「気にしなくていいわよ。グライアは馬鹿だから知らなかったんでしょ?

 それにドワーフ族の街での生活を聞いたことあるけど、私にはとても耐えられない生活みたいだったし。

 こうしてゲフェンやプロンテラみたいな街で暮らしている今の方がずっと幸せよ」

 

 アイリスさんは何でもないかのように言ってくれた。

 きっと僕のことを気遣ってくれたんだと思う。

 

「そろそろ出発しましょう。草も生えてこないみたいだし」

 

 アイリスさんの言葉に頷いて僕達はゴブリン村に向かって出発した。

 

 

 ゴブリン森を南に抜けて、プロンテラフィールドを通りながらゴブリン村に向かった。

 ゴブリン森を南西に抜けてオークがいるマップを通った方が近道なのに、アイリスさんは南から向かうと言った。

 やっぱり単にハァハァしてくる兄貴が嫌いな可能性があるな。

 

 ゴブリン村に到着した僕達は、一匹ずつ確実に仕留めていく作戦で戦った。

 僕が前に出てゴブリンを探す。

 アクティブモンスターなので、向こうもこっちを見つければ襲ってくる。

 僕がゴブリンの攻撃を避け続けて、アイリスさんが後ろから弓で倒す。

 マルダックさんはアイリスさんの護衛だ。

 ゴブリン森とは違い、ここゴブリン村は数も多い。

 いつどこから襲ってくるか分からないので、アイリスさんの護衛という形で警戒してもらっている。

 

 2匹同時に襲いかかってこられた時があったけど、特に問題なかった。

 ゴブリン2匹の攻撃を避け続ける僕を見て、マルダックさんが改めて驚嘆していた。

 1度だけ3匹同時にきた時は、まずい! ちょっと本気出さないと! と思ったけど、アイリスさんがDS連打で1匹を瞬殺してくれたので助かった。

 

 アイリスさんのDSは本当の高威力だ。

 いやDSというより、弓の攻撃力がめちゃめちゃ高い。

 ベースレベル32でこんなに高い弓の攻撃力とかあり得るのだろうか?

 しかもこの世界では、自分でステータスを振れない。

 勝手に神様が上げるステータスを決めてしまうのだ。

 ま~ゲームと違って上がる幅とかも違うだろうし、アイリスさんはレベルが上がる度に器用(Dex)が大きく上がっているのだろう。

 

 僕はチートステータスである。

 確信はないけど、レベル1の時点でAgi97のLuk99の加護だ。

 最初は1次天職ノービスで自分の能力にがっかりしたけど、今となってみれば自分がいかに優遇されてこの世界に来たのか分かる。

 スーパーノービスにはなれなかったけど、あの老人オーディンには感謝だな。

 

 多く密集している地帯もなく、順調にゴブリン狩りは続いていった。

 経験値的にも美味しく、アイリスさんもマルダックさんも笑顔だ。

 マルダックさんは鉄も集まっていくのでさらに笑顔である。

 一応鉄って3人で均等分けだから、集まっている鉄全部がマルダックさんの物じゃないけど、それに気付いているかは不明である。

 ま~僕の分はマルダックさんに上げてもいいけどね。

 

 ドロップ率は通常のドロップ率だと思う。

 つまり僕の幸運は作用していない。

 僕が最大ダメージを与えるか、止めを刺すか、どちらかが条件だと思っていたのは間違っていなかったようだ。

 PTメンバーにまで幸運のドロップ率は及ばないという認識でいいだろう。

 

 ゴブリン村→の安全なプロンテラフィールドでお昼休憩を挟んで、午後もひたすらゴブリン村で狩りをした。

 ゴブリンを探して、徐々にゴブリン村の奥深くまで入っていく。

 3人の連携にも慣れてきて少し余裕も出てきた時だ。

 そいつは突然現れた。

 ゲームで見たことのない巨大なゴブリンが、テントの横から出てきたのだ。

 

「グライア! 早くこっちへ!」

 

 アイリスさんが小さな声で叫ぶ。

 僕達は近くにあったテントの影に隠れた。

 

「驚いたわ。まさかあいつがいるなんて。滅多にいないんだけどね」

 

「うむ。俺もそう聞いているぞ」

 

「え? 2人ともあの巨大なゴブリン知っているんですか? ボス?」

 

「ボスではないわ。取り巻きはいないの。でもトードなんかと比べものにならないぐらい強いわよ。

 あいつは「ゴブリンリーダー」で、このゴブリン村の長ってところね」

 

 この世界はゲームではない。

 僕の知らないこと、ゲームとは違うことなんていくらでもある。

 今までだってそうだった。

 

 そしていま目の前にいるこいつもそうなのだろう。

 ゴブリンリーダーか。

 




記憶を呼び起こしながら書いているのですが、当然情報サイトも使っています。

ただ、情報サイトは最新の情報が載っていて昔とは全然違います。

今回の話で書いたゴブリン森は、今ではゴブリンはいなくてオークのようです。
私の記憶の中では確かゴブリンだったはずなのですが……。

また、情報サイトのモンスター情報を見ていたらゴブリンのレベルが予想以上に高いことに気づきました。
あれ? こんなに強かったっけ? とゴブリンの強さが変わったのか、私の記憶が単に間違えていたのか、もう分かりません。

あまり深く考えすぎても、話が書けなくなってしまうので、そこらへんは適当にやっていこうかと思います。

オークヒーローとかオークロードの湧く場所も全然変わっていたしね!
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