ゴブリンリーダー。
身体は普通のゴブリンの2倍近いな。
僕の身長が175㎝。
マルダックさんは190㎝近くあるだろう。
小さいアイリスさんは130㎝ぐらい。
そして普通のゴブリンはアイリスさんより少し大きいぐらいだ。
ゴブリンリーダーはマルダックさんより大きい。
身長は2mを軽く超えている。
胸や腕の筋肉もすごい。
マントを羽織って、頭には王冠みたいなものがある。
リーダーというより、キングだな。
そして両手で持っている巨大な槍。
あれで攻撃されたら僕のHPはたぶん一撃で0だな。
一撃でHPが0になる場合、回復ポーションは意味がない。
オーディンの神力範囲内でHPが0になると、身体が強制的に地面に伏す形となる。
そうなるとなぜかモンスターは攻撃してこなくなるし、あらゆる攻撃も効かなくなる。
その時にセーブポイントに戻ると念じれば、経験値1%を代償にセーブポイントに戻れるわけだ。
プリーストにリザレクションをかけてもらうのをその場で待ってもいいし。
新人大会が行われたコロシアムのような特殊な場所では、セーブポイントに戻れないこともある。
ゴブリンリーダーは僕達には気付かず、ゴブリン村のさらに奥へと向かっていった。
どうやら戦わずに済んだようだ。
「あれがいるなら、ゴブリン森で狩りする?」
「む~それが妥当な判断だと思うが、こっちの方が鉄の集まる効率がな……」
「とりあえず村の入り口に戻りましょうか。その間にまたゴブリンがいるかもしれませんし」
ここまで順調に狩りが進んできたことで、入り口付近にはゴブリンがほとんどいなくなってしまった。
探せばまだいるだろうけど、時間がかかる。
村の奥に進んだ方がずっと探しやすいのだが、ゴブリンリーダーの登場でそれは出来なくなってしまった。
ゴブリンリーダーか~。
どれだけ強いのかな……。
ここはオーディンの神力範囲内だし、倒されても問題ない場所だ。
僕の“本気”でどれだけ戦えるか試してみたい気もする。
ま~僕の攻撃が届くことはないかもしれないけどね。
この世界に来て2ヶ月で、短剣を扱う技術はそれなりに向上している。
まだまだ初心者に毛が生えた程度だけど。
それでもモンスターに対して短剣を振るという行為そのものに臆することはなくなった。
でも短剣でモンスターを斬ったとしても、僕にはその先に問題が残っている。
器用の加護の低さだ。
僕がモンスターの攻撃を受けても、かなりの確率で回避となりHPが減らないで済んでいるのと同じく、僕の攻撃が当たっても、かなりの確率でモンスターに回避されてしまう。
相手がポリンとかならいいけど、今日のようにゴブリンが相手となれば半分も届いていない。
ここまでの狩りでゴブリンを実際に倒しているのはアイリスさんだ。
アイリスさんの弓の攻撃力が高いってことは、それは器用の加護が高いってこと。
モンスターに攻撃を回避されることなんてほとんどないってことだ。
ゲームでもそうだった。
アーチャーやハンターの最大の利点はDexを上げることで、攻撃と命中を同時に上げることが出来ることだ。
そのためDex極でステータスを上げていけば、レベル差のあるモンスターでも攻撃を当てることができる。
攻撃を当てることが出来れば倒すことができる。
非公平PTでレベル上げするに当たって、かなり高レベルのモンスターを狩れることになる。
一部のマップで回避が異常に高いモンスター(コボルト、ミミック、ジョーカー)と遭遇するとアーチャーやハンターのDSで瞬殺してもらえるので頼もしかった。
逆にそういった回避の高い相手に攻撃を当てられないと、冷たい視線を向けられることになる。
鷹師や罠師といった種族の人達のことです。彼らはハンターになってからが本番なのです!
さて、入り口に向かっているとゴブリンが2匹いた。
向こうもこっちに気付いたようで襲ってきたのだ。
2匹なら問題なく避けることができる。
攻撃を避けることができれば、絶対にHPが減ることはないのだ。
攻撃が当たってしまった場合の、加護の回避は最大でも95%。
5%の確率でどんなにFleeが高くても攻撃を受けてしまうのだから。
避けれる攻撃は避けるに越したことはない。
アイリスさんの攻撃で2匹のゴブリンはすぐに倒れた。
が、ここで事件が起きた。
「お~!」「お~!」「おお~!」
レアドロップです。
しかも2匹同時に。
ゴブリン族の仮面
ゴブリンは顔に仮面をつけている。
倒したら光の粒子となって消えてしまうので、仮面を脱いだ素顔を見ることできない。
そういう意味では、もはやこの仮面が素顔と言える。
なかなか面白い顔の仮面である。
ゲームでもネタ的に装備している人とかいたな。
「う~ん、可愛いとはいえないけど、絶対に無しではないわね」
アイリスさんが自分の世界に入っている。
確かに純粋に可愛いとは言い難いが、どこか憎めない顔だ。
「ふむ、ちょっとつけてみるか!」
マルダックさんがゴブリン族の仮面を1つ取ると、装備してみる。
褐色肌の筋肉ムキムキゴブリンの出来上がりだ。
「私もつけてみようっと!」
アイリスさんもゴブリン族の仮面を装備してみる。
ラグナロクオンラインの装備で「頭」の部分は実際には3つに分かれている。
上段、中段、下段と。
アイリスさんが装備していた「大きなリボン」は上段の頭装備である。
なので中段と下段は空いている状態だ。
そしてゴブリン族の仮面は「中下段」の頭装備となっている。
頭装備の中には「上中段」(ゴーグル)、「中下段」(ゴブリン族の仮面)、「上下段」(スフィンクス帽)、「上中下段」(ムナック帽)といった、2ヶ所以上で装備するものがある。
いまアイリスさんは「大きなリボン」を装備しながら「ゴブリン族の仮面」を装備している。
場所が被っていないので、同時に装備することができるのだ。
小さな女の子が可愛い大きなリボンをしながら、ゴブリン族の仮面をつけている。
……これはちょっと怖い。
「どう? 似合ってる?」
くるりと振り向いて僕に聞いてくる。
「そ、そうですね……な、なんていうか……その……」
可愛くないですね、とは言えない。言うと怒る、絶対怒る。
こんな時はなんて答えるのが無難なんだろうか。
ゴブリン族の仮面もいいけど、やっぱりアイリスさんは素顔が一番可愛いですよ! こんな感じはどうだろうか。
うん、悪くない。素顔を褒められて怒る女性はいないはずだ。
「ご、ごほん。えっとですね、ゴブリン族の仮面もその似合ってますけど、やっぱりアイリスさんは素顔が一番可愛いかな~と思います」
僕の言葉に固まるアイリスさん。
あれ? え? ダメだった? 違った? 不正解だったのか!?
助けを求めようとマルダックさんを見ると、同じく固まっている。
え? どうして? 僕の言葉ってそんなにおかしかった? ええ!?
「……」「……」「……」
冷や汗を流しながら固まっている僕の耳に、次の瞬間、信じられない声が聞こえた。
「キーー!」
マルダックさんがいきなり叫んだのだ!
キーーってなんだ?
「キーー!!」
すると、アイリスさんも応えるように叫んだ!
え? なになに? ゴブリンごっこしてるの?
ゴブリンの叫び声を真似るように吠える2人。
いったいどうしたんだ?
「グオオオオオ!」
僕の背後から突然の咆哮。
それはアイリスさんとマルダックさんの叫びに応える雄叫び。
振り向くとそこには……奴がいた。
それは、間近で見ると3mはあるんじゃないかと思ってしまう巨体に、2mを越えるであろう大きな槍を両手で握りしめて、表情を伺うことのできない仮面をつけて僕を見下ろしているゴブリンリーダーだった。
問答無用で両手で持つ槍を振り回してきた。
僕は“本気”の速度で何とかそれを避ける。
槍が振り抜かれる時に、空気を切り裂くようなものすごい音がした。
あれはやばい、危険です。
間違いなく1発もらったらHP0になります。
一瞬で距離を取られたことに驚いているのか、ゴブリンリーダーは動きを止めて僕を睨んでいる。
仮面つけているから、本当に睨んでいるかどうか分からないんだけどね。
とりあえずこの場は逃げよう。
入口までもうすぐだ。ワープポイントに入ってしまえば追ってこれない。
「アイリスさん! マルダックさん! ワープポイントまで逃げましょう!」
僕はすぐに駆け出した。
でもすぐに止まることになった。
なぜなら、2人が動いてくれない。
目の前に恐ろしいゴブリンリーダーがいるのに、一向に動こうとしない。
「キーー!」「キーー!」
またあの叫び声。
どうなってるんだ?
ゴブリンリーダーも2人を攻撃する素振りがない。
それどころか、なんかマルダックさんの頭を撫でているんですけど!
3m近いゴブリンが、2m近いマルダックゴブリンを撫でている。
なんか怖い。
ゴブリンリーダーは小さなアイリスゴブリンを撫でようとした。
「キーー!」
が、しかし、バチンとその手を弾かれていた。
微妙な雰囲気が2人の間に漂うが、アイリスゴブリンは意に介さない。
ゴブリンリーダーがちょっとだけ悲しそうだ。
「グオオオオオオ!」
八つ当たりのように、僕を指さすゴブリンリーダー。
その号令に従って、マルダックゴブリンと、アイリスゴブリンが僕に向かってくる!
完全にゴブリンリーダーの支配下じゃん!
え? なに? ゴブリン族の仮面を装備している時にゴブリンリーダーが近くにいると、ゴブリンになってしまうのか!?
アイリスさんの弓から容赦ない攻撃の矢が飛んでくる!
「うおっ!」
本気だ。本気で当てにきているぞ。
マルダックさんも斧を振り回してくる。
まったくなんて状態だよ!
2人の攻撃を避け続けながら、どうしたものかと考える。
ゴブリンリーダーの支配下にいる2人が、いまどんな状態なのか分からないが、攻撃を避けるためにちょっと本気を出している。
ゴブリンになっている間の2人の記憶がなければいいのだけど。
ゴブリンリーダーは2人が攻撃するのを満足そうに見ながら動かない。
こいつが攻撃に参加しないのはありがたいな。
マルダックさんの攻撃は当たっても多分問題ないと思う。
加護の回避で95%は回避できるはずだ。
問題はアイリスさんだ。
「キキー!!」
DSまで撃ってきた!
器用の加護が高いアイリスさんの攻撃は当たると回避できない可能性が高い。
そしてDSなんてもらってしまったら、一撃HP0になりかねない。
幸いにも他にゴブリンがいないため、リンク数が増えることはない。
綺麗に掃除しておいて良かった。
2人の攻撃を避け続けても事態は変わらない。
問題はあのゴブリン族の仮面だ。
あれを外すことが出来れば、2人は元に戻るだろう。
加護の装備品の中で、頭装備、武器、盾は実際に具現化する。
新人大会の決勝で、ティアさんが観客席までふっ飛ばしたシールドは、カリス君が手から離していたからだ。
あの一瞬で装備ウィンドウから外したわけじゃない。外したらそもそもシールドは消えるし。
つまり、具現化する頭装備、武器、盾は実体として触れることができるわけだ。
なら、ゴブリン族の仮面を顔から外すことだって出来る。
装備ウィンドウから外れるわけじゃないけど、仮面を顔から外せばゴブリンリーダーの支配が及ばなくなる可能性もある!
「キキー!」「キー!」
なんてことを考えていたけど、だんだん面倒になってきた。
仮面だけ外すなんて難易度高いことしないで、2人を倒してしまえばいいじゃん。
ここで倒してもセーブポイントに戻るだけだし。
あれ? 戻るよね? 自分でセーブポイントに戻るって念じないといけないのか。
ま~戻らなかったとしても、地面に伏した2人から仮面取る方が簡単だし。
マルダックさんの動きを見る限り俊敏の加護がそれほど高いとは思えない。
アイリスさんは言うまでもなく。
2人に僕の攻撃は届くだろう。倒してしまった方が早い。
その後に、僕はワープポイントに逃げるか、蝶の羽で戻ればいいじゃないか。
うん、そうしよう。
それがいい。
右手の短剣を握りしめると、僕も戦闘態勢に入る。
マルダックさんの斧を避けると、短剣で斬りつけた。
うん、届いている。いけるぞ!
それなりの“本気”の速度で短剣を斬りつけていく。
マルダックさんをすぐに倒してアイリスさんに……。
あっ!
マルダックさんのHPが一定量減った時だ。
全身を包む様な淡い光りと共にマルダックさんのHPが回復していく。
PTを組んでいるメンバーのHPは、頭の上にバーが表示されて見えるのだ。
くそ~~! 回復ポーションか!
ゴブリン化しているからモンスター扱いしていて忘れてしまっていた!
あ~どうしよう、マルダックさんの回復ポーションを全部使い切らせるか?
でもマーチャントだし「所持限界量増加」のスキルを得ていたら、かなりの量のポーションを持っているかもしれない。
ゴブリンから戻った時に、持っていた回復ポーションが全部無くなっていたら悲しむかな……。
これは困ったぞ、さてどうしたものか……。
と再び思考を巡らせていると、あいつの咆哮が響いた。
「グオオオオオオオオオオ!」
ゴブリンリーダーも向かってくるのか!? と思って視線を向けた時、僕はマルダックさんの斧を避けるのも忘れて一瞬棒立ちになってしまった。
どうして? なぜ? いまこいつらがここに……。
ゴブリンリーダーの後ろに突然現れていた。
身体からは半透明な煙が立ち昇り、仮面をつけているゴブリンの方がまだ表情があると思えるほどの無表情でそいつらは立っていた。
ボット帝国の戦士達が。
まずい、これはまずい。
全部で6人いる! しかも……しかも! 一番後ろにいるやつの衣装は……。
ナイトだ!
2次天職のボット帝国の戦士がいる。
それはつまり……。
僕は自分のステータス画面を見た。
それはあの新人研修の日に見た色と同じ色。
真っ赤な血の色で表示される僕の名前だった。
いまここはオーディンの神力範囲外と化した。
ちょっと時間が取れたので連日更新となりました。
本来の更新速度は変わりません。
早いと3日。
遅いと1週間から10日ほどです。