幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第20話 高級宿屋

「グオオオオオオオオオオ!」

 

 断末魔と共に崩れ落ちていくゴブリンリーダー。

 最後は光りの粒子となって消えていった。

 

 僕と同じく秘密を持っていたプーさんの“本気”によって、ゴブリンリーダーはあっけなく倒された。

 クァグマイアで移動速度を鈍らせて、マルダックゴブリンをフロストダイバーで凍結。

 そのままゴブリンリーダーをプーさんが引っ張っていき、その間に僕がマルダックさんのゴブリン族の仮面を剥がす。

 マルダックさんを引きずるように安全な場所まで引っ張っていく僕の目に、高速詠唱で様々な魔法を唱え、しかも僕のゲーム知識の中に無い魔法まで唱えているプーさんの姿が映った。

 最後、自分にセイフティウォールを唱えると、「グラビなんちゃら」という知らない魔法を唱えていた。

 その魔法によってゴブリンリーダーは断末魔と共に消えていったのだ。

 

 アイリスさんとマルダックさんをワープポイントに入れて、安全な隣のマップに移動した。

 2人はまだ目覚めていない。

 

「さてと~、私は2人が目覚める前に戻るわね~」

 

 プーさんの姿は普通のウィザードの姿に戻っている。

 

「グラちゃん、今夜時間ある?」

 

「はい、あります」

 

「それじゃ~フレンド登録して、後で手紙送るね」

 

 プーさんとフレンド登録すると、妖艶な笑顔を残してプーさんは去っていった。

 お互い秘密を共有した仲になったわけだけど、僕の秘密は全部知られたわけではない。

 あくまでも本気の動きを見られただけだ。

 もちろんノービスである僕があんな動きを出来るなんて異常なわけで、その理由は何かという答えを夜に聞かれることになるのだろう。

 ドロップ率や、僕がオーディンによって異世界から連れてこられたことに関しては、何も気づかれていないのだ。

 

 いや、プーさんも同じか。

 僕が知ったプーさんの秘密は「普通のウィザードではない」ということだけ。

 今夜、僕がプーさんに質問できるのは、あれはいったい何なのかという漠然とした質問だ。

 プーさんも他に秘密を持っているかもしれない。

 そもそもプーさんは何者なのか。

 史上最速でウィザードの天職を得た天才魔術師。

 その正体は……。

 

 しばらくすると、アイリスさんとマルダックさんが目覚めた。

 事態を把握できない2人。どうやらゴブリン化していた間の記憶はないようだ。

 それでも僕のHPバーが0で、身体のあちこちが傷だらけになっていることに気付くと、アイリスさんは慌てふためき、マルダックさんから一体どんな無茶をしたんだ! と怒鳴られた。

 

 ゴブリンリーダーの特殊スキルなのか、ゴブリン族の仮面をつけた2人がゴブリン化してしまった。

 2人を誘導してワープポイントに逃げようとしたところで、ボット帝国の戦士達が現れた。

 通りすがりのウィズさんが助けてくれた。その人は名乗らず去ってしまった。

 僕はボット帝国の戦士の攻撃でHP0になってしまったけど、なぜか動くことが出来た。

 傷は大したことないので大丈夫。

 

 アイリスさんのDSでHP0になったことは伏せた。

 自分のDSで僕のHPを0にしたことを知れば、僕への罪悪感から傷ついてしまうだろうから。

 でも後からどこかで本当のことを知ったら、その方がもっと傷つくかな?

 プーさんが言わない限り、ばれることはないだろうから大丈夫だろう。

 

 プーさんのことも伏せた。

 今夜の話し合いをする前に、プーさんの存在を言うことは出来ない。

 

 狩りは終わりにして蝶の羽で戻った。

 ドロップ品はマルダックさんに全部預けて、後で清算することにした。

 僕の鉄はあげますよ、と伝えると迷惑かけたのに受け取れないと拒否されてしまった。

 

 僕は事の顛末を報告するために冒険者ギルドに向かった。

 ついでにプリーストの人がいればリザレクションかけてもらおう。

 

 

「お~生きて帰ってきたんだ!」

 

 エーラさんが芝居掛かった驚きをみせる。

 冗談のつもりなんだろうけど、本当に命懸けだったんだよね。

 

「ゴブリン討伐の報告と、あとボット帝国と遭遇したのでそのことを報告したいのですが」

 

「え!?」

 

 一瞬で真剣な表情に変わったエーラさんにゴブリン村での事を報告した。

 報告を聞くエーラさんはさっきの言葉のことを思ってか、ちょっと申し訳ない表情だった。

 報告が終わると、ギルドにいたプリーストさんにリザレクションをかけてもらい、冒険者ギルドを出ていった。

 翌日、ギルドの掲示板には「ゴブリン村でゴブリン族の仮面装備禁止」という張り紙が出されたとか。

 

 狩りから戻った後、アイリスさんの元気がない。

 ゴブリンに操られてしまったことに落ち込んでいる。

 何度も、自分の矢が僕に当たっていないか聞いてきたけど、なんとか避けることが出来ましたよ、とだけ言っておいた。

 そして冒険者ギルドへの報告が終わった後も、僕から離れようとしないので困っている。

 夜にはプーさんと会う約束があるので、アイリスさんがお詫びに今夜奢るとか言う前に、傷を癒すために今日は戻って寝ますねと告げて、運び屋の前で別れた。

 別れ際に目を潤ませながらアイリスさんが謝ってきたので、頭をポンポンと撫でてあげたら、子供扱いしないでよね! と嬉しそうに笑ってくれた。

 

 運び屋に入ると、フェイさんにも心配された。

 夜まで倉庫で寝ようかと思ったけど、さすがに傷ついた身体を倉庫で休ますのもどうかと思い、今日ぐらいはちゃんとした宿屋で寝ようかと考えたいた時だ。

 プーさんから手紙がきた。

 夜に会う場所として指定されていたのは、1階が食堂になっている宿屋だった。

 どうせならこの宿屋に泊って休もうと考え、フェイさんにその旨を伝えると運び屋を出ていった。

 

 プーさんに指定された食堂付き宿屋は、フェイさんの運び屋から歩いて15分ほどの場所にあった。

 その外観を見てちょっと焦った。

 めっちゃ高級宿屋じゃないですか! 佇まいからして高級感がこれでもかと漂っている。

 別の宿屋を探そうかと思ったけど、とりあえず聞いてみるだけ聞いてみようと受付の人に1泊で空いている部屋の中で一番安い部屋をと聞くと、それなりの値段で泊まれる部屋もあった。

 今日は頑張ったし、自分へのご褒美と思ってその部屋を取って中に入ると、シングルのベッドに簡素なテーブルと椅子だけの部屋だった。

 しかし! なんとシャワーがついていたのだ!

 清掃スキルのおかげでお風呂に入らなくても身体は清潔だ。

 でもたまにはお風呂に入りたい。

 公衆浴場にたまに行っているんだけど、まさか部屋にシャワーがついていたとは。

 ちなみに日本にあるようなシャワーではなく、水と温水が出る魔道具の玉が壁についているだけである。

 

 さっそくシャワーで身体を清めてさっぱりすると、ベッドにごろんと寝転がった。

 プーさんとの約束の時間まであと1時間ある。

 ちょっと疲れたし、このままベッドの中で休もうと……ちょっとだけ、そうちょっとだけ休もう……。

 

 

♦♦♦

 

 

 意識が戻る。

 何か夢を見ていたような気がするけど、どんな夢だったか思い出せない。

 窓を見るとすっかり夜になっていた。

 あれ? いま何時だ?

 

「あっ!」

 

 プーさんとの約束の時間を思い出してベッドから起き上がる。

 

「えっ!?」

 

 続いて出た情けない声は、僕のベッドの中に僕以外の誰かがいたからだ。

 その人は真紅の髪をしていた。

 プーさんだ。

 

「ふにゃ~……ん……あ、おはようグラちゃん」

 

「お、おはようございます。ど、どうしてプーさんが?」

 

「ふにゃ~……あ~宿の人に聞いたんだ。

 プーちゃんもこの宿に泊まっていて、食堂に降りた時にもう1人グライアって人が来るからって言ったら、その人ならうちの宿にお泊りですよってね~。

 約束の時間になってもグラちゃん来ないし、部屋ノックしても返事ないし、ドア開けてみたら開いちゃうし。

 可愛い寝顔のグラちゃん見てたら、なんだかプーちゃんも眠たくなってきちゃって、ベッドに潜りこんだわけなのよ~」

 

「そ、そうでしたか」

 

 可愛い欠伸をしながらプーさんが淡々と告げてくる。

 いやいや、そんな眠たくなったら自分の部屋で寝ればいいじゃん。

 っていうか僕のこと起こして下さいよ。

 

「グラちゃんって抱き心地いいんだね~。

 今日からプーちゃんの抱き枕として一緒に寝ない?」

 

「え!? そ、それは素敵な提案ですね~」

 

 冗談と思い軽く返すと、

 

「このベッドだとちょっと狭いからプーちゃんの部屋で寝ようか?

 あ、でもこの狭いベッドで抱き合いながら寝るのも、それはそれでありよね」

 

「え!? じょ、冗談ですよね!?」

 

 慌てる僕に妖艶な笑みで「むふふ」なんて言ってくるプーさん。

 い、いかん。興奮してしまう。

 

「お腹も空いてきたし、食堂に行ってご飯食べようよ。

 お話は、ご飯の後にプーちゃんの部屋でね」

 

 また僕の唇に人差し指を当てる。

 ベッドから起き上がり1階の食堂で一緒にご飯を食べた。

 

 食堂でご飯を食べている間は、他愛もない話ばかりした。

 運び屋の仕事のことや、アイリスさんとの出会い、そして新人大会のこと。

 ティアさんの変貌っぷりを聞いて面白そうにプーさんは笑っていた。

 

「グラちゃんも罪な男だね~」

 

 僕の頬を指で突きながら楽しそうに話を聞いていた。

 

 ご飯を食べ終えると、プーさんの部屋に行くことになった。

 女性の部屋に入るのは緊張するけど、話す内容は誰かに聞かれてはいけないので、壁の薄そうな僕の部屋よりプーさんの部屋がいいだろう。

 

 プーさんの部屋は最上階のスイートルームみたいな部屋だった。

 広い。めっちゃ広いんですけど!

 あ、あれ!? お風呂ある! 部屋にお風呂ついてるよ!

 

 これ一泊いくらですか? と聞いたところ、とても僕には手が出る値段ではなかった。

 プーさんはお金持ちなのか?

 

 僕をふかふかソファーに座らせて、プーさんはグラスにワインを入れる。

 プーさんの髪のような真紅のワインが入ったグラスを持ってくると、なぜか対面ではなく僕の隣に密着するように座ってきた。

 一応二人掛けソファーみたいだけど、そんなにくっつくといろいろ危険なんですけど!

 

 改めて乾杯してワインを飲む。

 実はワインなんて飲んだことなかった。場の雰囲気で飲んでみたけど、思いのほか飲みやすく美味しかった。

 ワインを飲みながら食堂の話の続きのような他愛も無い話から入る。

 あいかわらず身体は密着してくるし、僕の手とか太ももとかペタペタ触ってくるのでさらに危険なことになっている。

 

「さてと」

 

 プーさんが話題を変えて本題に入った。

 

「グラちゃんのあの動きの秘密を聞いちゃってもいいのかな?

 正直言って、プーちゃんが見てきたどんな人達よりもグラちゃんの動きは凄かったよ。

 グラちゃんはただのノービスじゃない。

 グラちゃんは何者?」

 

 何者と問われるとちょっと困る。

 異世界からやってきました、と言ったところで、誤魔化すための嘘だと思われてしまうかもしれない。

 

「僕はただのノービスですよ。

 ただ、ちょっと人よりも大きな加護を初めから受けているんです」

 

「出身がアルデバランってことは嘘だよね?」

 

「え? ……はい、嘘です。本当の出身がどこかはちょっと言えないです」

 

「ルーンミッドガッツ王国ではあるの? それとも違う国?」

 

 ゲームではルーンミッドガッツ王国以外の国なんてなかった。

 でもこの世界には、ルーンミッドガッツ王国の北に「シュバルツバルド共和国」という国が存在し、さらにその西には「アルナベルツ教国」という国があるらしい。

 この3国の中ではルーンミッドガッツ王国が最も繁栄しているらしい。

 ルーンミッドガッツ王国はシュバルツ共和国とは同盟関係にあったのだが、突然現れたボット帝国によってアルデバランを押さえられてしまい、その北にあるシュバルツ共和国やアルナベルツ教国が現在どのような状況なのか知る術はない。

 

「ルーンミッドガッツ王国でもないです。でもシュバルツバルド共和国でもないですし、アルナベルツ教国でもないです」

 

「知られていない辺境の村ってこと?」

 

「そんなところです」

 

 適当に誤魔化してしまった。

 

「それじゃ~どうして初めから大きな加護を受けているの?」

 

 僕はゆっくりとその神の名を口にした。

 

「それは、オーディン様に会ったことがあるからです」

 

 オーディンの名が出た瞬間、プーさんは今まで見たことのない表情となった。

 それは喜んでいるように見えたけど、悲しんでいるようにも見えた。

 すぐに元のプーさんに戻ってしまったけど。

 

「オーディン様に会ったことがあるなんて~。

 グラちゃんって本当は凄い人だったんだね~」

 

「全然すごくないです。プーさんがいなければ、僕はもう2回も死んでいるんですから」

 

「あはは。確かに~。

 グラちゃんのピンチを2回も救ってしまったプーちゃんは命の恩人だもんね~」

 

「はい。大恩人です」

 

「それではその大恩人プーちゃんからの質問です。

 答えたくない質問は答えなくてもいいからね~。

 1.オーディン様とはどこで会ったのか。

 2.オーディン様から何か指示を受けているのか。

 3.ユミルの書は見たのか。

 4.ゴブリンリーダーを倒した時のプーちゃんの姿を見て何か分かっているのか?」

 

「オーディン様と会ったのは夢の中です。直接会ったわけではなく、精神の世界で会ったというかそんな感じです。

 特に加護を与えて下さることに対して、何かしろとは指示されていません。

 あ~でも会える日を楽しみにしているとか言われたっけな?

 でもどうやったら会えるとか分からないですし。

 ユミルの書というものが何なのか分かりませんが、見たことも当然ありません。

 ウィザードの姿から変わったプーさんを見ても、何か分かっていることなんてありません。ただウィザードとは違う、もっと強くて高位な天職なのかな~と推測しているぐらいです」

 

 僕の答えにしばらく沈黙のプーさん。

 う~~ん、と考え込んで僕の肩に頭を乗せてくると、

 

「じゃ~最後の質問。

 プーちゃんが質問していないことを含めて、秘密にしていることがある?」

 

 頭を肩に乗せて話せば、その囁きの吐息が耳にかかる。

 ぞくっと一瞬震えてしまう。

 僕は一息ついて答えた。

 

「はい。あります」

 

 僕に答えにプーさんは「そっか」と優しく明るい声で応えてくれた。

 

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